ED4続編「ある大学助教授の肖像」

コンコン。

助教授:「どうぞ。」
学生:「失礼します。」

一人の学生が入室した。
この大学助教授の下で研究を続けている学生だった。
大学入学以来熱心に学問に打ち込んでいて、
彼の所属する研究室に配属になって以来、
彼がずっと目をかけていた学生だった。

助教授:「君か。何だね?」
学生:「お忙しいところすみません。
少し質問したいところがあるのですか、今、よろしいでしょうか?」

学生の目は、大学助教授の手にある傷痕に止まった。

学生:「あの、その手、どうなさったんですか?」
助教授:「……あ、ああ、これか?幼い頃、蜂にやられたものだ。」
学生:「あの、皮膚の移植をお受けなさったらいかがですか?
今の医療技術なら、跡形もなく治せます。」

一瞬、その大学助教授の顔が曇った。
「何か、大切なものを失いそうな不安」
そんな表情だった。
しかし、次の瞬間、いつもの温和な顔に戻った。

助教授:「……そうか、それは気が付かなかったな。
何しろ、俺は『馬鹿』だから。」
学生:「は……、はあ。」

その大学助教授の口癖は、「俺は馬鹿だから」という、
大学助教授に最もふさわしくない言葉だった。
それでだろうか。彼は未だに「助教授」止まりだった。
しかし、彼の下についた学生は、学力はともかく、
「人間」としては皆優秀な成績で卒業・修了している。

助教授:「それで、質問とは何だね?」
学生:「あ、はい。実は、ここのところなんですけど……。」

……その学生は、その大学助教授の経歴に思いを馳せていた。

大学在学時、肉親の死をきっかけに転学部する。
それ以降、人が変ったように学問に打ち込み、
最終的にウメバチソウの研究で博士号を取得する。
以後、ウメバチソウから得られる
天然有機化合物の性質についての研究に着手する。
以来、数々の研究結果を残すが、
未だに彼の満足する研究結果は得られていない。

大学助教授にしては珍しく独身。
「研究に没頭し過ぎたたために婚期を逸した」
と、彼は冗談交じりに話す。
一方で、彼が過去一度だけ酒の席で酔いつぶれた際、
「加奈、やっと見つかったよ……」
とうわ言を漏らしたと証言する者が複数おり、
「もしかしたら……」とする噂もあるが、真相は定かではない。

藤堂隆道……大学助教授。
ウメバチソウから慢性腎不全の特効薬を作るという彼の夢は、
未だに達成されていない。(注1)

注1−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この物語はフィクションであり、
ウメバチソウから得られる天然有機化合物の性質について、
実際どうなのかは僕は全然知りません(^^;
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る