雨に歌えば

☆本日は晴天なり

その日の朝は晴だった。

隆道:「それじゃ、行ってきます。」
母:「行ってらっしゃい。気を付けて行くのよ。」
加奈:「うん。」
母:「隆道、傘は?天気予報じゃ……。」
隆道:「要らないよ、そんなもの。」

中学三年生・藤堂隆道……つまり俺。そして、中学一年生・藤堂加奈……俺の妹。
三郷中の卒業式も間近になったある日、俺と加奈は珍しく一緒に登校した。
……そう、この日は加奈が中学一年の時に一時退院した数少ない日で、
明日からまた入院生活に戻ることになっていた。

登校中、加奈は黙りがちになっていた。まあ、加奈が「大人しい」のはいつものことだが。

加奈:「お兄ちゃんと一緒に学校に行けるの、今日で最後になりそう……。」
隆道:「え?……そっか。」

…………。

隆道:「今日は直接病院に帰るんだろ?帰りタクシー使っていいからな、
先生にでもタクシー呼んでもらえ。」
加奈:「うん。」

何も事情を知らなければ「妹を甘やかす兄」と思うかもしれないが、
加奈は外見は普通に見えても週三回「透析」しているんだ……。

…………。

そうこうして、俺達は三郷中に着く。

隆道:「それでは、今日も元気にやるように、藤堂軍曹。」
加奈:「うん。」

敬礼して、加奈は一年生の教室に向かう。

隆道:(……来年は加奈も『曹長』に昇格か、それにしても、加奈のやつ、
来年から一人でやっていけるだろうか……。)

加奈の背を見送りながら空を見上げていると……

ポツッ、ポツッ、……

隆道:「……え?」

ザアー……!

隆道:「あーあ……。」

……ある意味「お約束の展開」だった。

☆放課後のカノジョ

結局、放課後になっても雨は降り続いていた。
傘を持ってきてないのは俺を含めた「四天王」四人に共通したことだったが……

育郎:「それじゃ俺、これから部活があるから。」
智樹:「やれやれ、委員会が終わるまでに止んでくれれば……。」
雅俊:「ちぇっ、じたばたしたってしょうがねーや。」

……それぞれ散って行った。

「ふう、俺も覚悟を決めるか」そう考えていると……

男子:「藤堂、『カノジョ』が呼んでるぜ?」
隆道:「……え?」

やけににやにやしたクラスメートが俺を呼び止めた。
しかし、「例の事件」以来恋愛とは縁の無い生活をしていた俺に
当然『カノジョ』なんてものが存在するはずもなく……

隆道:「……『あの女』か。『お前なんか大っ嫌いだ!』って言っといてくれよ。」
男子:「あ?ああ。」
隆道:「そんなことより、この雨……。」

暫くして、男子が戻ってくる。

隆道:「あ、サンキュ。」
男子:「藤堂、あの子、涙ぐんでるぞ。」
隆道:「自業自得だ。」

俺はクールに答える。……しかし、次の一言は、正直俺を驚かせた。

男子:「……それにしても変わったカノジョだな。
お前のこと『お兄ちゃん』とか言って……。」
隆道:「へ!?」

その瞬間!俺は真っ青になって……

隆道:「ば、馬鹿野郎!それを早く言え!!」
男子:「な、何だよ!?いきなり!!」
隆道:「加奈ーっ!」

……俺は「加奈」の待つ廊下に飛び出した。

…………。

果たして、加奈は廊下の隅にちんまり立っていた、そして……

加奈:「お兄ちゃん……。」

……男子の報告通り涙ぐんでいた。

加奈:「お兄ちゃん、私のこと、嫌いにならないで……。」
隆道:「ば、馬鹿だなー。」

本当に馬鹿なのは、ほとんど中学に来ていない加奈でもなく、
加奈が俺の妹だなんて知らないクラスメートでもなく、
『カノジョ』という言葉を聞いてかっとなった俺なのだが。

隆道:「俺が加奈のこと嫌いになるわけないじゃないか。」
加奈:「だって……。」
隆道:「ああ、ごめん!」

気の弱い加奈にとっては三年生の教室の前に来ることだけでも
勇気の要った行動だったに違いない。ましてや見知らぬ三年生男子に
話し掛けることなんて……。

隆道:「でも、何の用だ?」
加奈:「お兄ちゃんと一緒に帰ろうと思って……。」
隆道:「俺と?ああ、タクシーに同乗するってことか。」
加奈:「ううん、そうじゃなくて……。」

……見ると、加奈は折り畳みの傘を持っていた。

☆雨に歌えば

隆道:「本当に、タクシー呼ばなくていいのか?」
加奈:「うん。」
隆道:「そっか……?」

三郷中から病院までの帰り道、俺と加奈は雨の中傘一つで一緒に帰った。
加奈の歩くペースは遅いので、それに合せるために俺の歩くペースも遅くなる。
下駄箱から出て三郷中の生徒がまばらになる場所まで行くのに
通常の倍以上の時間を必要とした。果たして、「俺と加奈は兄妹だ」ということを
知っているやつがあの中に何人いたか……。

加奈:「……ふふふ。」
隆道:「え?」

さっきまで泣いていた加奈が笑った。

「加奈のやつ、俺と相合傘して何が楽しいんだか」と思いながらも、
正直言って、俺も悪い気はしなかったんだ。

隆道:「♪ラランララーン……。」
加奈:「……お兄ちゃん、それ、何?」
隆道:「ああ、この曲か?これは外国の曲で……。」

 

布教用ショートストーリー「雨に歌えば」・FIN

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