にわか雨

☆予想外の出来事

俺が高校二年生だった時の夏、ちょうど加奈は退院していた。
だから……

隆道:「加奈、今日、夏祭り行かないか?」
加奈:「え?」
隆道:「夏祭りだよ。花火とか……去年行っただろ?あれ。」
加奈:「あ……、うん。」

……俺は加奈を当然のように夏祭りに誘い、加奈は喜んでうなづいた。
そしてその日の夕方、去年同様浴衣を着た加奈を連れて神社に行く。

どーん!……ぱらぱら……。

加奈:「きれい……。」

夜店をまわって花火を見て、加奈は満足したようだった。

隆道:「それじゃ、帰ろうか。」
加奈:「うん。」

花火が終わると、俺は急ぐように家路につく。
去年みたいに「あの女」と鉢合わせしないように、……逃げるように。
しかし、帰りの途中、加奈が俺を呼び止める。

加奈:「……お兄ちゃん、あれ何?」
隆道:「え?」

加奈は「池」を指差していた。

隆道:「池のことか?」
加奈:「いけ?」
隆道:「小魚とかザリガニとか泳いでる……小さな海みたいなもんかな?」
加奈:「海?」
隆道:「まあ、しょっぱくはないけど。」

自分で言うのも何だが、正直言って妙な例えだと思った。

加奈:「いけ……ちょっと見てっていい?」
隆道:「あ?ああ。」

そして、辺りが薄暗くなった池に加奈と俺は近づく。

ぐえ、ぐえ、……。

加奈:「な、何?」
隆道:「蛙が鳴いてるんだよ。」
加奈:「かえる?ふうん……。」

その時!

加奈:「あ……!」
隆道:「え!?」

加奈は足を滑らせたのか、体を傾けて倒れそうになっているのだ!

隆道:「加奈……!」

当然俺は咄嗟に加奈に手を伸ばす!しかし……

隆道:「あ……。」

バシャン!

……間に合わなかった。加奈は見事に池にはまってしまった。

☆帰り道

結局、俺が伸ばした手は加奈を池から引きあげるために使用された。

隆道:「あーあ、ずぶ濡れだな。」
加奈:「……(こく)」
隆道:「しょうがない、俺のシャツ着な。」
加奈:「……え?」
隆道:「そのままじゃ、風邪ひくだろ?」

加奈はちょっと考えて……

加奈:「……(こく)」

……と、うなづいた。

早速俺は着ていたシャツを脱ぎ、それを加奈に渡し……

隆道:「そ、それじゃ、俺後ろ向いてるから。」
加奈:「……うん。」

……加奈のずぶ濡れの浴衣を代わりに受け取った。
発育が遅いせいか、中学三年生の加奈は未だブラジャーをしていなかった。

それはともかく、加奈が下着にシャツ一枚の格好をしているから
なるべく人気(ひとけ)の無さそうな道を遠回りして歩いた。
しかし、池が家からわりと近くにあったのがせめてもの救いだった。

俺は歩きながら祈った。

隆道:(どうか他のやつに見られませんように。特に家が近所の雅俊……!)

☆にわか雨

ところで、改めて言うことでもないが、加奈は早く歩けない。
加奈のペースでのろのろ歩いていると……

ゴロゴロ……

隆道:「……え!?」

ザアーッ!!

……ついてない時は、とことんついてないものだ。

隆道:「あーあ、こういうのを『泣きっ面に蜂』って言うんだよなー、加奈?」
加奈:「……(こく)」
隆道:「あ……。」

俺は加奈の方を振り向き、……思わず絶句してしまった。
少なからず雨に打たれたせいで、俺のシャツが透けて
加奈の白い肌が見えていたのだ……。

隆道:(……ちっ!加奈は俺の妹じゃないか。)

俺は、本当に仕方なく……

隆道:「加奈、……急ぐぞ!」
加奈:「え?」

……驚くほど軽い加奈を抱きかかえた。

隆道:(どうか、どうか他の人に見られませんように……!)

俺は神様に祈りながら家に急いだ……。

…………。

……とにかく散々な夏祭りになってしまったけど、帰宅後加奈の体調に
異常が起こらなかったことだけでも良しとしなければなとだけ思ったんだ。
その時は……。

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