兄妹ホットライン
☆いつもの夜の出来事
コンコン。
加奈:「……お兄ちゃん、入っていい?」
隆道:「あ……、ああ。」
加奈:「…………。」
ある夜、俺の部屋に入ってきた加奈は、何か言いづらそうな仕草をした。
そんな加奈の心情を、俺は察知してやる。
隆道:「『自分の部屋の暗闇が恐くて一人で眠れない』、……そうなんだな?」
加奈:「……(こく)」
隆道:「わかったよ、一緒に寝よう。」
加奈:「……うん。」
会話だけ聞けば「仲睦まじい幼い兄妹」と思うに違いないが、この時俺は中学三年生。
そして……
藤堂加奈……俺と二つ違いの妹。
怖がりで、臆病で、病弱で、恐らく俺が知っている人間の中では
精神的にも、そして肉体的にも一番脆い人間。
……そう、この時既に加奈は『中学生』になっていた。
しかも、見た目にはあまり普通の女の子と変わりの無い……。
正直言って、加奈が中学生になれたことさえ、ある意味『奇跡』と呼んでよかった。
何しろ、加奈は数年前まで……。
……いや、それより今問題にすべきは、中学三年生の兄と中学一年生の妹が一緒に寝ている
という事実だ。
今のままでは「いけない」と、俺も何となく思っていた。
しかし、以前加奈に辛く当っていた反動のせいか、なるべく加奈を悲しませたくない
という気持ちもあるのも事実だ。
兄として、いったいどうしたものか……。
☆ある授業風景
ここ、人里離れた建物の一室に、大勢の男どもが監禁されている。
そして、晧晧(こうこう)と明かりの照らされた部屋一帯には異様な臭気が漂っている。
ここにいる男どもは、いったい、何をやっているのか……?
隆道:「……お前、何言ってんだよ?」
雅俊:「いや、暇だから、ちょっと愛読書(エロマンガ)の一節を……。」
隆道:「あ、あのなあ……。」
言い直そう。
今、俺達は、中学三年の技術科で「電子工作」の実習をやっている。
だから女子は当然「技術実習室」にはいなくて、今は別の場所で体育をしている。
……ちなみに、『異様な臭気』とはハンダの臭いのことで、
手元が良く見えるように部屋には明かりがついてるし、
三郷中が民家から離れていると言えばそうなんだけど……。
閑話休題。
智樹:「うーん、『オームの法則』なら得意なんだが……。」
育郎:「俺も、こういう細かいことはどうもね……。」
努力型秀才の智樹もバスケ部キャプテンの育郎も悪戦苦闘している。
その中で……
雅俊:「へへへ……。」
……雅俊は余裕しゃくしゃくであちこちうろうろしている。
しかし、授業中であるにも関わらず、先生は特に注意しない。
下田雅俊……俺の親友(悪友)。
バカでスケベで下品で普段は本当にどうしようもないやつだけど、
『手先の器用さ』という項目に限れば、「四天王」の中で、
いや、恐らくクラスの中でも雅俊に勝てるやつはいない。
そう、電子工作の予定期間半ばにして、そんな雅俊は既に工程をほとんど終わらせていた。
だから、他の生徒の邪魔でもしない限り、とりあえず雅俊は何をしていてもいいのだ。
雅俊:「よーよー、隆道ー。調子はどうだー?」
隆道:「……まあまあだよ。」
俺は真剣に取り組んでいた。どうしても上手に作りたかったから。
雅俊:「隆道、そんなに真剣にならなくてもいいじゃんか。
……どうせ失敗しても今さら『内申』にはそれほど響かないんだし。」
俺は、この時初めて雅俊に俺の「考え」を言ってやった。
隆道:「俺、お前と同じ、双葉に行くことにした。」
俺の言葉を聞いた育郎と智樹は……
育郎:「あ、その話?俺も双葉に行くよ。」
智樹:「俺も双葉に行くつもりだ。……無事合格すれば、の話だけどな。」
隆道:「俺達『親友』だからな。」
雅俊:「え?……へ、へへへ……。」
……そして、雅俊は何故か照れ笑いをしていた。
以上、中学三年生二学期の技術科の実習の一コマ。
……ま、だいたいどこの中学でも同じようなものだと思う。
そうこうして、それはついに完成した。……一組のインターホン。
☆兄妹ホットライン
「インターホン」が完成すると、さっそく家に持ち帰った。
雅俊の言うとおり、インターホンの出来そのものが今さら内申に響くことはなかった。
ちなみに、この時期、俺は当然のように加奈と一緒に登下校している。
家に着いてから、予定通りインターホンを設置する。
加奈:「……何、してるの?」
隆道:「まあ見てな。」
インターホンの片方を俺のベッドの横に置き、直結のコードを伸ばして部屋から出て……
がちゃ。
……インターホンのもう片方を加奈のベッドの横に置いた。
隆道:「今日から、加奈は一人で寝ろよ?」
加奈:「え?」
加奈の表情が曇る。「世界が終焉を迎えた」みたいな顔。
隆道:「その代わり、恐くなったらこれで俺を呼べ。
お前が眠るまで、俺が話しててやるから。」
加奈:「うん……。」
隆道:「まあ、加奈ももう中学生なんだし……。」
加奈:「あ……、……(こく)」
加奈も、俺の「意図」が理解できたらしい。
その夜。
ぷるるる……。
インターホンの呼び出しベルが鳴った。
加奈:『……お兄ちゃん……。』
隆道:「わかってる、心配しなくていいぞ。兄ちゃんがいるんだからな。」
加奈:『……うん。』
隆道:「それじゃな……。」
それから俺はしゃべり続けた。加奈の反応がなくなるまでずっと……。
……。
…………。
………………。
……………………。
その後、たびたびインターホンは使われたが、
だんだん使用頻度は減っていき……。
……そして、そのインターホンも、恐らく何かが悪かったのだろう、
数ヶ月後には壊れてしまった。
しかし、その頃には、加奈はインターホン無しでも
何とか一人で眠れるようになっていた。