せんめんきくんのかつやく
その日、久しぶりに"あの女の子"が藤堂家のお風呂に入りました。その風呂場の中では……
かな:「♪〜」
せんめんき:「かなちゃん、こんばんは。今日もきれいだね。」
かな:「♪〜」
せんめんき:「……って、聞こえやしねーか。」
母:「かな、着替えここに置いておくわよ。」
かな:「うん。」
せんめんき:「あーあ、俺も今度生まれ変わったら人間になりたい。」
せんめんき……藤堂家の洗面器です。物心ついたときから藤堂家のお風呂場で働いています。そして……
かな……藤堂家の一人です。せんめんきのあこがれの女の子で、家族の人たち、特に"お兄ちゃん"のたかみちという男の子に大切に扱われています。
ゆぶね:「やれやれ、せんめんきのいつもの口癖が始まった。せんめんき、言っとくけど、人間になったらこう簡単にかなちゃんの裸を見るなんて事は出来ないんだぞ?」
せんめんき:「へっ、そう出来るように努力するさ。」
ゆぶね:「努力して"のぞき"でもするのか?」
せんめんき:「あ、あのなあ……。」
シャワー:「それにしても、最近かなちゃん本当にきれいになったよなあ。以前から可愛かったことに違いは無かったけど、何か、こう……。」
かな:「あち!」
シャワー:「やや?……しまった!ごめんごめん、ちょっと熱くなってしまった。」
かな:「?」
せんめんき:「馬鹿野郎!俺のかなちゃんに何するんだ!気をつけろ!」
ゆぶね:「ばーか、お前のかなちゃんじゃねーよ。"お兄ちゃん"のかなちゃんだ、そろそろ観念しろ。」
せんめんき:「くそ!もしやつがかなちゃんと一緒にお風呂に入るようなことにでもなったら、俺は反乱を起こすぞ……。」
……とか会話をしておりました。
そんなある日……
せんめんき:「…………。」
かな:「…………。」
せんめんきはいつものようにかなちゃんの顔をまじまじと見つめていました。しかし、かなちゃんに生気が感じられません。
ゆぶね:「おい、お前気づいてたか?さっき、かなちゃんのお兄ちゃん泣いてたぞ?」
せんめんき:「え?」
シャワー:「うわ!か、かなちゃん!!」
シャーッ!
かな:「!」
せんめんき:「つ、冷てえ!!」
ばた
せんめんき:「ば、ばかやろう!冷たい水流すやつがあるか!」
シャワー:「で、でもよお、かなちゃんが急に……。」
ゆぶね:「おい!言い争ってる場合じゃないぞ!かなちゃんが……!」
せんめんき:「そ、そうだった!」
かなはゆぶねにもたれかかって気を失っていました。しかし、せんめんきたちにはどうすることもできません。
せんめんき:「……そうだ、この家の人に知らせよう。」
ゆぶね:「いいのか?この家には今、たぶんあのお兄ちゃんしか……。」
せんめんき:「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
その時、せんめんきは全力を振り絞って……
せんめんき:「ううーん!」
ジャンプ一番!
カコーン!
…………。
バタバタバタ……
がちゃっ!
たかみち:「かな!」
突然の出来事に、たかみちは動揺していました。
せんめんき:「おらおら!かなちゃんの裸じろじろ見てんじゃねーよ!緊急事態だ!とっとと連れてけ!」
せんめんきの言葉が通じたのかどうかわかりませんが、たかみちは手早くかなにバスタオルを巻いて抱えていきました。
せんめんき:「そうそう、その調子だ。かなちゃんのこと、よろしく頼むぜ、たかみち……。」
それから数ヶ月経って……
たかみち:「…………。」
せんめんき:「ちぇ!何だよ何だよ!こいつ、今日も暗い顔しやがって!風呂入るときくらい楽しそうな顔しやがれってんだ!」
ゆぶね:「でも、こいつの暗い顔は今に始まったことじゃないぜ?」
せんめんき:「そりゃそうだけどよお……。」
シャワー:「いやいや、せんめんきの言い分ももっともだ。そいつだけじゃなく、最近かなちゃん以外の家族全員がこんな顔してるからな。ここは、やっぱりこう、かなちゃんみたいな……。」
たかみち:「…………。」
がちゃ
せんめんき:「あーあー、とっとと出てけ!」
そして、しばらくして……
がちゃ
女の子:「♪〜」
せんめんき:「そうそう、こういう顔!……って、この子誰だよ?」
ゆぶね:「あん?"可愛い女の子"って言ったら、この家には一人しかいないだろう?」
シャワー:「え?……か、かなちゃん?それにしては、何か急にちっさくなったというか……。」
母:「かなちゃん、着替えここに置いておくわよ。」
女の子:「はーい!」
ゆぶね:「"かなちゃん"……、ほら、やっぱりかなちゃんじゃないか。」
せんめんき:「そ、そうかあ?」
"かなちゃん"はせんめんきにお湯を張り、それを見つめました。せんめんきもまじまじとその女の子の顔を見つめました。すると……
女の子:「お姉ちゃん……、私と同じ名前のお姉ちゃん……、さようなら……。」
せんめんき:「あっ……!」
……そう、毎日藤堂家の人々の顔を観察していたせんめんきは、事態を把握できたのです。
せんめんき:「そ、そっかあ……。これからも、よろしく頼むぜ、"かなちゃん"……。」
シャワー:「…………。」
そして、それを察したシャワーも……
ぽた、ぽた……
女の子:「……あれ?このシャワー、どこか漏れてるのかなあ……?」
終わり