美樹の『幸福』

「美樹の『幸福』」後日談「美樹の幸福」
より、ウェディング美樹
……と言うか、「美樹の幸福」の結末は
こうするつもりでした……。
一応自白しておきますと、
「キミステ」の某エンドパクりました。
☆藤堂加奈……私の……
がちゃ。
私はいつものように「512号室」のドアを開けた。
そこにはいつものように「患者さん」と「お見舞いの人」が一人ずついた。
一人は……
美樹:「加奈ちゃん、気分はいい?」
加奈:「あ……。……(こくこく)」
美樹:「そう、よかったわあ。」
藤堂加奈……私が新人のとき以来面倒を見ている少女。
「ある病気」で入退院を繰り返している患者で、
情が移ってしまったのか、私は既にこの子を妹のように思っている。
そして、もう一人は……
美樹:「お母さん、今日はパートは休みですか?」
母:「ええ。」
……加奈ちゃんのお母さんだ。
美樹:「それにしても、いつもご苦労様です。」
母:「は?……何のことでしょう?」
意味が伝わらなかったのだろうか?
美樹:「あの、加奈ちゃんのお見舞い……。」
母:「え?……ふふふ……。」
お母さんは笑い出した。
母:「私の娘なんですから、当たり前ではないですか。」
美樹:「あ……。」
私は恥ずかしくなってしまった。「当たり前」のことがわからなかったのだ。
美樹:「す、すみません。」
母:「あ、気にしないで下さい。……『当たり前』のことができない子だって
いるんですから。」
美樹:「え?」
母:「あの子にも、少しは加奈の『お兄さん』としての自覚が欲しいわね……。」
美樹:「…………。」
しばらく後、加奈ちゃんの「お兄さん」とは「ある出来事」がきっかけで知り合うことになる。
そして、私はその少年のことを「隆道君」と呼び、
その少年には私のことを「美樹さん」と呼ばせ、
私は「隆道君」を弟のように扱うようになった。
それは、ある意味「当たり前」のことだった。
☆幸せなひととき
「その男性」との出会いは、ごく普通のものだった。
……「看護婦」と「患者」という関係に限って言えば。
その人が「たまたま」この病院に入院し、
私が「たまたま」その人の病室(大部屋)に入っただけだった。
初めて見た時、外見は……まあまあいけてる……とは思った。
ちなみに当然その人の「フルネーム」を知っているが、あえて伏せておく。
理由は……。
……それはともかく、そういうことが数日間続いたある日……
男性:「あの、看護婦さん、……電話番号教えて下さいませんか?」
美樹:「え!?」
……突然聞かれた。
美樹:(何考えてるの?この人。……もしかして冗談?)
目は真剣なように……見える。それならかえってたちが悪い。
小さい男の子が相手ならツイストでもしながら「駄目よお」とか言ってしまうのだが、
相手が大人なら、こういう場合はっきり言ってやらなければならない。
美樹:「勤務中ですし、そもそも看護婦が患者に電話番号を教える義務はありません。」
……とだけ答えた。
内心「もしかしてストーカー!?」……とも思って心配したが、
以来私に話かけるようなことはせず、……そのまま退院していった。
ところが数日後、その人は再び病院に現れた。そして、小さな花束を持っていた。
私は私で「例のこと」があったので自然にその人の動向を気にしていたが……、
しかし、その人は花束を持って休憩所の長椅子に座っているだけだった。
そして、毎日とはいかないまでもそういうことが何度もあって、
ついに私は被害が起こる前にその「ストーカー」を詰問することにした。
美樹:「あの、……あなた、そこで何しているんですか!?」
男性:「ああ、よかった。」
美樹:「え!?」
詰問するつもりが、機先を制されてしまった。
男性:「実は、看護婦さんが声をかけて下さるのを待っていました。」
美樹:「…………。」
男性:「勤務中は、看護婦さんに何か話し掛けてはいけないようなので……。」
美樹:「…………。」
男性:「しかし、電話番号を知らないから、他に連絡の取りようが無くて……。」
美樹:「…………。」
男性:「あのとき看護婦さんが教えて下さらなかったから、ずっと待っていました。」
美樹:「……あ……。」
男性:「看護婦さん、電話番号を教えて下さいませんか?」
男性は私に花束を差し出し……
男性:「……僕とお付き合いしていただきたいのです。」
美樹:「は……、はい!」
……私は「元気良く」返答してしまい……
美樹:「……ところで、私が声を掛けなかった間、花束は……まさか……?」
男性:「花束ですか?……いえ、『別の病院』に母が入院していますので、
『無駄』にはなりませんが……。」
美樹:「え!?」
男性:「……ご心配お掛けして、申し訳ありません!」
美樹:「ふ……、ふふふ……。」
男性:「ははは……。」
……それから、私の幸せなひとときが始まった。
ついでに言うと、私はよく加奈ちゃんに小説を貸していた。
加奈ちゃんは喜んで読んでいたが、しかしこの時期
「恋愛物」に偏ってしまったことは、深く反省するところだ。
☆二者択一
それからしばらく後……。
その日のデートで、何故かその人は無口だった。
何かを考えているようだった。
そして時間だけが過ぎていき、いつもの別れる時間になって、
ようやくしゃべりはじめた。
男性:「近藤さん……いえ、美樹さん。」
美樹:「え?……あ、は、はい!」
普段は私を名字で呼ぶのに、急にファーストネームで呼ばれて、私の声は裏返った。
数瞬の後しばらくして、この人は再び話し掛けた。
男性:「美樹さんに『このこと』を言う前に、一つ聞きたいことがあるのです。」
美樹:「な、何でしょう?」
男性:「……美樹さんは病院を辞める予定はありませんか?」
美樹:「え?」
いきなり、それも看護婦に対して妙な質問だった、
しかし、私はこの人の言おうとしていることを理解した。
小さな『医院』ならともかく、『総合病院』の看護婦の職務は多忙を極める。
だから、同僚の多くは『結婚』と同時に病院を辞めていた。
もちろん結婚後も看護婦を続けている人もいるが、
それは「夫に余程の理解力がある」という希なケースで……、
だからと言って「この人に理解力が無い」というわけではなく、
……これが普通なのだ。それにこの人にも何か事情があるのかもしれないのだ。
このことは私もわかっていたはずだった。しかし……
美樹:「少し……時間を頂けますか?」
……何故か、即答できなかった。
☆美樹の『幸福』
私は迷っていた。
あの人は申し分の無い、私にはもったいない人だ。
あの人を選べば、私はきっと幸福になるに違いない。
しかし……
そんな頃、私は、いつものように加奈ちゃんを見舞いに来た隆道君に会った。
隆道:「あの、美樹さん。」
美樹:「なあに?」
隆道:「美樹さん、加奈は本当に治るんですか?」
美樹:「え?」
隆道君の目は真剣だった。加奈ちゃんの入院期間は長くなり、
以前から隆道君は加奈ちゃんのことになると目が変わるようになっていた。
美樹:「そんなに弱気になったら駄目よお。加奈ちゃんに移っちゃうでしょ?」
隆道:「そ、そうですね……。」
私は理解した。加奈ちゃんも、そして、隆道君も、私を頼っている。
……私は二人の『姉』なのだ。
だから、私は……
美樹:「あれからいろいろ考えたのですが、
……私、病院を辞めることはできません。」
男性:『そう、ですか……。』
あの人の声は、明らかに落胆したときのものだった。
しかし、詳しい理由は聞こうとしなかった。
私と同じ理由で、無理に聞こうとはしないのか……。
そして、数分の沈黙の後……。
男性:『……わかりました、近藤さん。それでは、……さよなら。』
プツッ。
……ツーッ、ツーッ、ツーッ、……。
美樹:「…………。」
チン。
美樹:「……ふう。」
……だから私は、二人の『姉』として、加奈ちゃんと隆道君を選んだ。
私が「魔法を使ってでも加奈ちゃんを治したい」と考えたのは、
ある意味「当たり前」のことだ……と思う。
「加奈ちゃんの幸福」が、私の『幸福』なのだから。
布教用ショートストーリー「美樹の『幸福』」・FIN