ED6続編「二人の先生、二組の夫婦」
……その日の紅葉狩りの途中、俺は夕美に呼び止められた。
夕美:「隆道君、ちょっと話、いいかな?」
隆道:「あ、ああ。」
俺達は皆から離れ、木陰に入った。
夕美:「隆道君、改めて聞くけど、……私たち、やり直せない?」
隆道:「え?」
俺は……即答できなかった。確かにもう加奈はこの世にいない。
だからと言って次は夕美の番だと……。
「しかし、俺は『夕美』を愛することができるのか?」
優柔不断な態度は、昔からの俺の悪い性格だ。
隆道:「ゆ、夕美、俺は……。」
夕美:「何か迷うことでもあるの?
隆道君は『昔から』私にぞっこんだったじゃない。」
え?『昔から』……?
隆道:「夕美、……な、何言ってるんだよ?
そ、それに、どこに証拠が……?」
夕美:「何言ってるの。『文書』は立派な証拠よ?……藤堂被告。」
隆道:「は?」
な、何だ?裁判ごっこでも始める気か……?
あっけに取られている俺をよそに、
夕美は少し色褪せた紙を取り出し、朗読しはじめた。
夕美:「……『鹿島夕美さんへ。えっと、藤堂です。
この間の相性のことで、ちょっと話したいと思います。
クラスのみんなには聞かれたくない話なので、
できたら放課後、体育用具室の裏に来て下さい。
真剣に……待ってます。藤堂隆道』……。」
ま、まさか……あのときの……!
そのとき、夕美の猫の目がすうっと細くなった。
夕美:「私の切り札よ。物的証拠は充分。
何なら筆跡鑑定にまわしましょうか?
これで不十分なら『私たちが常用していたホテル』の従業員から
証言を取っても……。」
……意外な展開に、俺は返す言葉が見つからなかった……。
「司法試験の勉強をして(余計な)知恵を付けたな」と思う一方、
「そんなもの、よく後生大事に持ち続けてくれたもんだ」と……。
……あれ?……こんなこと……どこかで……。
加奈:『ウメバチソウの花をしおりにしたの。』
隆道:『よくもまあそんなもの後生大事に……。』
……俺は苦笑した。俺はどうしても『加奈』から離れられないらしい。
結局、俺が返した言葉は……。
隆道:「……次は俺の番だな?」
夕美:「え?」
隆道:「五年三組鹿島夕美君。……百点満点やるよ。
優柔不断な俺にはもったいない彼女だよ、お前は。」
夕美:「…………。」
隆道:「これからも……よろしく、夕美。」
夕美:「う……うん。」
夕美の目は潤んだ……が、すぐに夕美は目をこすって微笑んだ。
やっぱり夕美に涙は似合わない。
夕美:「さ、行こう!」
隆道:「ああ!」
……それから数年後、俺は夕美と結婚した。(注1)
俺は高校教師、夕美は弁護士。二人とも『先生』と呼ばれる立場。
当然、両親に気兼ねなく(アパートで)二人暮らしだ。
ある日の夜、二人で夕食をとっていると……。
プルルル……。
夕美:「はい、藤堂です。……あ、織笠さん。……え?」
隆道:「夕美、どうかしたか?」
夕美:「ごめん、隆道君。ちょっと黙ってて。
……いえ、すみません、織笠さん。続けてください。」
最近織笠さんから電話がよくかかってくる。夕美と織笠さんとは何か気が合うようだ。
……いや。本来なら、あの臓器移植コーディネーターの女性を『霧原さん』と呼ぶべきか。
そう。実は、織笠さんと叔父さんが結婚したのだ!!(注2)
俺も最初は信じられなかった。
……しかし、考えられないこともない結果なのかもしれない。
一つに、
あのとき織笠さんが子供のように駄々をこねる俺を説得したからこそ今の香奈がいる。
少なくとも、叔父さんと香奈が織笠さんを悪く思う理由はない。
二つに、
須摩子さんと織笠さんに共通する『何か』を叔父さん、
あるいは香奈が感じ取った。
最後に、
やはり一人娘を男手一つで育てるのに叔父さんが限界を感じたのか……。
……それにしても、叔父さんはああ見えて
『須摩子さんのような女性』の相手をするのが上手らしい。
そして俺は……、『夕美のような女性』の相手をするのが上手なのだろうか?
俺は夕美の顔を見て、……夕美の言葉を思い出した。
夕美:『人を愛するって、理屈じゃないみたい。』
……そうだな、夕美。理由をあれこれ詮索するのは無意味だな。
ところで、織笠さんは結婚しても『織笠』という姓を名乗っている。
すでに国会で可決された『男女別姓』という制度は
まさに織笠さんのような人のためにあるのだろうと、改めて実感している。
ちなみに、夕美は『藤堂夕美』と名乗っている。
理由は……恐らく俺の想像どおりだから、あえて夕美には聞かない。
……ちなみに、この間数秒……。
夕美:「え!?す、すぐ行きます!」
ガチャン!
隆道:「どうしたんだよ?慌てて。」
夕美:「織笠さんの担当した臓器移植が失敗したのよ!」
隆道:「何!?」
夕美:「それで、遺族の方が病院を起訴するって……。
すぐ出かけるわ。あとよろしく。」
隆道:「行くって……今から?どこに?」
夕美:「もちろん病院の弁護に行くのよ!朴念仁!!」
バタン!
……夕美は弁護士になって人が変わったのだろうか?
いや、夕美の人が変わるのは『医療』が絡む時だけだ。
やはり、『命をみつめて』の影響があるのだろうか……。
……それから数日間、『我が家』に重苦しい空気が流れた。
仕方が無い、いつものことだ。
しかし、家庭がどうであろうと、俺は双葉学園高校に行かなければならない。
双葉学園高校にて……。
隆道:「ふう。」
教師:「よお、クールマン藤堂!」
隆道:「あ、智樹……。」
智樹……そう、「あの」長瀬智樹だ。
あの『努力型天才』が大学に行って、どこでどう道を踏み外したか、
今では俺と同じ職場、双葉学園高校で化学を教えている。
ちなみに、智樹と俺が同じ学校にいるのは偶然ではない。
冗談ではなく、我が母校にも『学級崩壊』の波が押し寄せてきている。
それで、学校側が双葉学園高校の『古き良き時代』を知っているOBを集めた
……というわけだ。
智樹:「……元気無いな。また夫婦喧嘩か?」
隆道:「違うよ。」
智樹:「ああ、わかってる。また奥さんが忙しくなったんだな?
……それにしても、本当に結婚するとはな……。」
隆道:「…………。」
智樹:「隆道、今日俺に付き合えよ。」
隆道:「え?」
智樹:「どうせ奥さん今日も帰りが遅いんだろ?一杯付き合えよ。」
隆道:「……ありがとう。」
智樹:「よせよ、昔からの親友じゃないか。」
言い古された言葉だけど、持つべきものはやっぱり親友か……。
……その数日後、遺族と病院は賠償金を支払うことで和解した。
その日の夜、俺と夕美は久しぶりに夜の生活を共にする。
久しぶりだということで夕美はまた燃え……
いや、夕美ももう大人だ。『新テク』などという下品なことは言わない。
……『言わない』だけだ。
露骨な表現で申し訳ないが、
実は「あのとき」以来、未だに夕美は俺にコンドームを付けさせている。
職業柄、もし子供ができたら正直言って困るのだそうだ。
しかし、俺は俺で今の状況で困っている。
男子A:『藤堂先生。先生って、子供嫌いなんですか?』
隆道:『は?』
男子B:『だって、結婚してから結構経つのに、子供を作らないから……。』
隆道:『いや、そういう訳じゃ……。』
男子C:『先生インポなんだろ?昔蜂に急所刺されたから。
俺の言ったとおりだ。』
隆道:『こ……、こらあ!』
三人:『ごめんなさ〜い!』
俺は、子供は嫌いではない。好きな方だ。
加奈や香奈、それに学校の生徒の相手をしてきたから
子供の扱いには慣れている。
……この際だ。夕美に言ってみようか。
隆道:「夕美。俺、最近思うんだけど……。」
夕美は心配そうに俺の顔を見る。
夕美:「え?……何か、不満なことでもある?
やっぱり私が仕事に夢中になっちゃうから……。」
隆道:「……いや、……このままじゃ、俺達の子供ができないなって……。」
夕美:「……え!?」
隆道:「無しでやってもいいか?……初めての時みたいに。」
夕美:「……あ、あの、……ど、どうしちゃったの?急に……。」
このとき俺は生まれて初めて『夕美の恥じらう姿』を見た。
……こんな幸福がいつまでも続けばいいと願う、今日このごろだ。
注1−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
隆道と香奈が結婚するパターンは他の方考えてください……と言うか、
「ED5続編」(製作発表未定)では香奈と結婚させますので……(^^;
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注2−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「仕事に夢中になりすぎて婚期を逃したキャリアウーマン」
というのが僕の織笠に対する印象です(^^;
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