夕美小説(ED3のルート・ネタバレあり・シリアス)
☆藤堂隆道君
小学校五年生の時、私のクラスに「四天王」という四人組がいた。
長瀬智樹君、船津育郎君、下田雅俊君、そして、藤堂隆道君。
クラスでもわりと目立つ存在だった。……「先生によく叱られる」という点で。
四人とも個性的な男子だったけど、
私の目はいつの間にか藤堂君に向いていた。
でも、実は、私は藤堂君とあまり会話したことがなかった。
明らかに「好き」という感情ではなかったけど、
藤堂君に対して「好意」みたいなものを持ちはじめていた。
それで、藤堂君と近づく、何かきっかけを作ろうと考えた。
そして、私はあることをした。
☆きっかけ
夕美:「藤堂君と私って結構相性いいかも知んない!」
私はにっこり笑って言った。……照れ隠しだった。
男子と女子が噂になることはよくあることだけど、
(明らかに根拠の無い場合も含めて)自分から言い出すことはめったにない。
私は、「藤堂君と私の星座がたまたま相性の良かった」雑誌を
学校に持ってきていた。
藤堂君の反応は、私の予想範囲内だった。
明らかに「こういうことに慣れていない男子」の反応だった。
その後、「図書室に行く」というので、私も一緒についていった。
藤堂君は私を拒絶しなかった。
「成功した」と思っていた。……この時は、まだ。
「シャーペンの芯」も「学校帰り」も、藤堂君の反応はぎこちなかった。
「私たち、まだ『親しく』なったばかりなんだから……」そう思っていた。
☆ラブレター事件(注1)
その日の朝、教室に入ると……何か騒がしかった。
夕美:「おはよー!ねー、どーしたの?」
男子A:「お、鹿島。お前と藤堂、本当にラブラブなのかよ?」
夕美:「え?」
……意味がわからなかった。その男子は、手紙を持っていた。
男子B:「お前の机の中に、藤堂からのラブレターが入ってたんだよ。
……ほら。」
私は手紙を受け取り、……読んだ。
夕美:「あ……。」
もし……、もし、私が最初にこの手紙を見つけていたら、
こんなにうれしいことはなかった。
でも、現実は……。
男子A:「スキャンダル発生、スキャンダル発生」
男子B:「ケッコン、ケッコン、ケッコン!」
……私への冷やかしが始まった。
私は……逆らえなかった。笑っているしかなかった。
本当は、その男子を張り倒してでもやめさせたかった。
……でも、できなかった。
私は、人に厳しく言うことができなかったから。
「私の父は医師だから、あまり人を傷付けるようなことは……」
小学生ながら、そんなことを考えていたのかもしれない。
そうこうしているうちに……。
隆道:「おーっす。」
男子A:「藤堂が来たーっ!」
男子B:「ラブラブ・ファイターだーっ!」
……始まってしまった。藤堂君にも。
予想通り、藤堂君は困っていたようだった。
夕美:「ごめんねー、藤堂くーん。見つかっちゃったー、手紙。」
「男子と女子が噂になれば、こんなことよくあることだ。
あとでちゃんと謝ればいい。」そう思っていた。
でも……、藤堂君の様子が変だ。藤堂君、泣いてる……?
夕美:「藤堂君、ごめん!」
私は「こういう状況になってしまったことに対して」謝った
……つもりだった。
しかし……。
男子A:「鹿島さん残酷ーっ!」
男子B:「ごめんなさいコールだーっ!」
夕美:「え、違くて……。」
藤堂君は教室を飛び出した。
私は当然のように追いかけた。
だって、『被害者』は、私たち二人……。
隆道:「俺に触わるな。吐き気がする。」
夕美:「あ……え……。」
……言葉が返せなかった。
私はその場に立っているしかなかった。
夕美:「たぶん、藤堂君、誤解しているんだ。
だったら、今度こそ、『二人きり』で話をすればいい。」
しかし、その翌日から藤堂君は学校に来なくなった。
それから一週間ほど経って、藤堂君は学校に来た。
藤堂君の入院がこんなに長引くとは知らなかった。
今思えば、この入院期間中が最後の仲直りのチャンスだった。
藤堂君は、退院した。
夕美:「……この前のことなんだけどね。」
隆道:「やめろ!」
男子A:「ひゅーひゅー、藤堂、夫婦喧嘩か?」
小馬鹿ソングが聞こえてきた。
私は、……もう慣れていた。
でも、藤堂君は私を避けようとする。
夕美:「あ、藤堂くーん……。」
隆道:「うっせーよ!ついてくんな!」
夕美:「あ……。」
藤堂君と私が『二人きり』になるための植物園の無料チケットが二枚、
私の手から舞い落ちた。藤堂君はそのまま行ってしまった。
自分の考えが間違っていたことに気付いたのは……この瞬間だった。
☆消しゴムと人形
その日以来、私は藤堂君と仲直りする機会を模索していた。
ある日、藤堂君は消しゴムがなくて困っているようだったので、
誰にも気づかれずに藤堂君の机の上に私の消しゴムを置いておいた。
……誰か気づいていたかもしれないけれど、
普通、そんな「昔の噂」にいつまでも構っている子はいない。
☆面と向かって渡した場合、考えられる結末
隆道:『お前の消しゴムなんか使えるかよ!』
ペシッ!
夕美:『あ……。』
隆道:『吐き気がする!』
……直接手渡せるはずがなかった。もちろん、人に頼むことも、
私からだと紙に書いておくこともできなかった。
その日の帰り、私は自分の人形を藤堂君の下駄箱に入れた。
「私自身が近寄れないのなら、せめて、私の人形だけでも……」
少女マンガのヒロインみたいな発想だったけど、
……結局、これしか方法がなかった。
「ラブレター」も一緒に入れようかと思ったけど、できなかった。
藤堂君が私と会ってくれる自信がなかったから。
私は物陰に隠れて藤堂君を待った。
藤堂君は、ちゃんと持って帰ってくれた。
☆中学時代
中学に入ってからも、私は結構人気があった。
「父が医師だから」という理由で近づいてくる男子も少なくなかった。
でも、私はそんな男子はことごとく無視してやった。
……藤堂君が私にそうするように。
私の目は未だに藤堂君に向いていた。
……こうして、私の中学時代は終わった。
☆夏祭り
夏祭りの日、私は一人で神社に来ていた。
「女子高生が一人で浴衣を着てくる夏祭り」なんて、
……「空しい」の一言に尽きる。
どーん。……ぱらぱら……。
花火が始まった。……楽しいはずがなかった。
「『あの事件』が無ければ一人で来ることはなかったかもしれない」
そう考えていると、藤堂君と偶然ぶつかった。
「神様の思し召し?」私はそう思った。
……でも、私は藤堂君に怒鳴られてしまった。
「仕方が無い。悪いのは私の方だったんだ……」
藤堂君から離れて、そのまま藤堂君を見ていると、
一人の女の子が藤堂君の方に行った。
あの女の子、誰だろう……?
その女の子の存在は、これからの私の人生に
大きなウェイトを占めることになった。
☆高校卒業
藤堂君から第二ボタンをもらった。
……もう、思い残すことはなくなった。
☆偶然の出会い
本当のことを言えば、藤堂君の自宅の場所は知っていたから
(少なくとも学校の卒業アルバムを見ればわかる)会おうと思えば
いつでも会えた。
でも、「第二ボタン」で想いを振り切った……はずだった。
そんな中、大学のサークルのコンパで……藤堂君と再会した。
偶然以外の何物でもなかった。
藤堂君は、私を見ても睨んだり怒鳴ったりしなかった。
私は、藤堂君のお酌をした。
藤堂君は、少し……というより、だいぶ酔っていたようだ。
私は藤堂君を連れて外に出た。
そのうち、藤堂君は酔いつぶれてしまった。
……私は藤堂君を連れてホテルに入った。
「酔いつぶれた男を引っ張ってホテルにチェックイン」なんて、
たぶん、私の生涯で最も恥ずかしい場面だったかもしれない。
そして、私は藤堂君と結ばれた。……私の初恋は成就した。
私を「好きだ」と言ってくれた。何をされても許せた。
「藤堂君のためなら何でもしてあげよう」と思った。
☆『蜜月』
藤堂君と私の蜜月が始まった。
遊園地に遊びに行ったある日、私は藤堂君に人形を渡した。
いつもよりかわいく作ったつもりだった。
その日の夜、藤堂君から電話がかかってきた。
「今日の人形」のことで電話が来たと思った。
でも、藤堂君は、私でさえ忘れていた「あのときの人形」や
「消しゴム」のお礼もしてくれた。
私は……一瞬声が出なかった。
そしてある日、私は「初めて」藤堂君の自宅に行った。
夕美:「藤堂君の家、チェック済みだもん。」
私の恋人の家なんだから、……知ってて当然だと思う。
藤堂君が正常な男である以上、女を抱くことが嫌いなはずがない。
ましてや藤堂君と私は恋人同士なんだ。
それに、藤堂君は途中で萎えることはあっても、
……最初から拒絶することはない。
私は、藤堂君の部屋に(初めて)入ると……写真を見つけた。
以前夏祭りで見かけた女の子と一緒に写っていた。
夕美:「あー、この子誰?」
隆道:「い、妹だよ。」
このとき、藤堂君に妹がいることを初めて知った。
夕美:「まるで、恋人同士だね。」
「当時」からの、私の偽らざる気持ちだった。
隆道:「まさか。」
「恋人同士」は「私たち」のはずなのに、
藤堂君はそう答えただけだった。
まるで、私の疑問に弁解しているようだった。
でも、とにかく安心した。この子は藤堂君の妹さんなのだから……。
夕美:「ま、いっかあ。」
そして、藤堂君と私の行為の最中、……誰か部屋に入ってきた。
それが、藤堂君の妹さんだった。
「何故鍵をかけておかなかったのか」という疑問は結果論だけど、
とにかく、妹さんとも、最悪の出会いをしてしまった。
妹さんへのフォローは藤堂君にお願いした。
変な表現だけど……、藤堂君は妹さんの兄なのだから。
その数日後の夜、突然藤堂君は私の家に来た。
突然「好きだ」と言って、突然私を抱いた。
……明らかに様子が変だった。
それから数日間、藤堂君から連絡が途絶えた。
……私は藤堂君のあとをつけていた。
ちょうど、藤堂君が一人になった。
夕美:「とーどーくーん!」
隆道:「夕美!」
夕美:「一人でも遊びまわる女だもん、私。」
いい歳した女子大生が一人で、しかも平日に、
こんな所にいるわけないじゃない……。
しばらく会話した。「恋人との『偶然の』出会い」にも関わらず、
藤堂君はあまり嬉しそうじゃなかった。
隆道:「ごめん、今日、友達と来てて……。」
藤堂君……嘘をついた……。
ちゅ。
夕美:「……ん、満足。じゃあね!」
隆道:「……ああ。」
私は藤堂君と別れて、……物陰から様子を見ていた。
……妹さんが来た。藤堂君、何か慌てているようだ。
いまだに藤堂君は私を妹さんに紹介してくれていない。
夕美:「……私、何やってるんだろ。
これじゃ、まるで、藤堂君のストーカーじゃない。
でも、藤堂君と私は恋人同士のはずなのに、
私が一人でこんな所にいて、藤堂君は妹さんと一緒。
藤堂君、何か変だとは思わないのかな……。」
「妹さんに会って、ちゃんと話をしておいたほうがいい」
……そう考えていた。
☆『初めて』のお見舞い
外を歩いていると、偶然、藤堂君に会った。
ご両親も一緒だった。
私は、練習どおり自己紹介した。
父:「これで我が家も安泰かな。」
よかった、悪い印象は持たれていないようだ。
妹さんの見舞いに行くと言うので、当然、私もついていった。
藤堂君と私は、恋人同士なのだから。
隆道:「予行演習してたな?」
夕美:「ばれたか。」
藤堂君は、私の両親に自己紹介するときは
ぶっつけ本番でするつもりなのだろうか?
そんな度胸、あるのだろうか。
いえ、それより、いつ、藤堂君は私の両親に
会ってくれるのだろう……。
妹さんの病室に入る直前、藤堂君は奇妙なことを言い出した。
隆道:「加奈はブラコンの気があるんだ。だから、
『大学関係の友人』ということにしておいてくれ。」
夕美:「え?」
私は……引き受けた。他の誰でもない、
私の恋人の藤堂君の頼みだから……。
それから、私は『初めて』妹さんと対面した。
藤堂君も妹さんの加奈ちゃんも、言葉少なげだった。
でも、私一人でも、しゃべり続けた。
藤堂君も加奈ちゃんも、私の大切な人だから……。
それと、一つ印象に残っていたのは、女の子の病室にも関わらず
花が枯れかかっていた、ということだった。
夕美:「こんなことに気が付かないなんて、やっぱり藤堂君は男の子なんだ。
これから加奈ちゃんのお見舞いに行く時は、花を持って行こう。」
☆真実
その日は加奈ちゃんの退院祝いだった。
私はちょっと遅れることになってしまったけど、私の用事をキャンセルする
訳にもいかない。私にも外せない用事があるのだ。
私の恋人の妹さんの退院祝いなのだから、どうしても出たかった。
一応、藤堂君に電話した。ちょっと嫌みっぽくなってしまった。
……私でも甘えたいときがあるのだ。
用事は、早く終わった……というより、終わらせた。
ピンポーン。
夕美:「こんばんは、鹿島です。」
母:「鹿島さん、いらっしゃい。」
夕美:「あの……、隆道君は……?」
母:「隆道なら、部屋に……。」
夕美:「はい、わかりました。」
母:「……え?」
「勝手知ったる他人の家」だった。
いつも使っている「奇襲戦法」のつもりで、ノックもせず、黙って入った。
……人間が二人、ベッドの上で抱き合っていた。
……男と女だった。
……藤堂君と加奈ちゃん以外に、まだ家族がいるの?
……いえ……違う……。
……藤堂君と……加奈ちゃん……。
夕美:「何の冗談なの……これって……?」
……全ての謎が解けてしまった。
何故、藤堂君は私に冷たく接し続けてこれたのか。
何故、私を妹さんに紹介してくれなかったのか。
何故、藤堂君は私の両親に会おうとしなかったのか。
何故、私に嘘をつき、私に嘘をつかせたのか。
藤堂君は、妹さんを愛していたんだ……。
藤堂君は私を見つけると、何か言い訳じみたことを言ったようだった。
そのときの私にとって、全く無意味な言葉の羅列だった。
……その日、私はペンダントを捨てた。大好きな人を忘れるために。(注2)
☆腎移植手術
それから数日後、父さんから聞かされた。
加奈ちゃんが『不治の病』で、もう危険な状態であること。
そして……、藤堂君と加奈ちゃんは『義兄妹』だということ。
(注3)
……手術から八週間後、連絡が入った。
三時四十五分、加奈ちゃんが、亡くなった。
私は探し回って、病院で藤堂君を見つけた。
隆道:「夕美……、加奈がいないんだ。」
夕美:「……え?」
隆道:「おーい!加奈ー。」
……あのとき父さんが言っていたことが、起こってしまった……。
☆迷路から
……それから私は、毎日というほど藤堂君……いえ、
隆道君の家に通い続けた。
もしものときは「一生」隆道君の世話をするつもりだった。
「好き・嫌い」というレベルの問題ではなく、隆道君が
こうなってしまった原因の一端は、私にあるはずだから。
半年後、隆道君を入院させるという話が出た。
私は、最後の手段に出た。
本当はこんなことしたくなかった。……でも、やらなければ……。
結局隆道君を迷路から抜け出させることができるのは、
加奈ちゃんだけなんだ。
でも、それを実行するのは、『私』なんだ……。
その日、私は隆道君の家に入り、そのまま『KANA』という
プレートのある部屋に入った。隆道君はいうも自室で
寝ているから、音さえ立てなければ見つかるはずがない。
しばらくすると、隣の部屋から扉が開く音がして、
階段を踏む音がした。隆道君が降りていったのだ。
私は意を決し、……音を立てた。
……そして、隆道君は私を見つけた……。
…………。
……いつの間にか、私は隆道君を抱きしめていた。
隆道君は泣きながら何かしゃべっていたようだったけど、
実は私には聞こえていなかった。
「隆道君が元に戻ってくれる……嬉しい……」
……その想いで、私の頭はいっぱいだった。
以下、ED3続編「『あのとき』はもう一度」に続きます。
注1−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「またか」と思われるかもしれませんが、
このとき「三人組」が何をしていたのかが、
「加奈〜いもうと〜」に対する僕の最大の疑問なんです。
普通なら「夕美が三人組に仲直りの仲介を頼む」
ということをしそうですけど。
「隆道同様、三人組からも無視され続けた」と考えるのも……。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注2−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
夕美が主人公のゲームだったら、間違いなくここで
「バッドエンド」でしょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注3−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「夕美に頼む」を選択した場合ここに「夕美の説得」が挿入
されますが、「自分で考える」を選択しても、隆道が知らない
だけで恐らく同じ様なことがあると考えています。
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