シーズン・イン・ザ・サン

夕美と和解してから十ヶ月以上が経とうとしていた。そして……

♪ミーン、ミーン、……

……今年も暑い夏が来た。

夕美:「ねえ、隆道君。……暑いねえ……。」
隆道:「あ?……これで『暑い』のか?」
夕美:「ぶう、……朴念仁。」

俺はクールに応え、夕美は俺のそんな「素っ気無い」返事に膨れた。
俺としては、「冷房の効いている図書館にいるから暑くない」と思っただけなのだが。

夕美:「ねえ隆道君、明日海に行こうよ。」
隆道:「え?明日?」

突然の提案に、俺は難色を示す。

隆道:「俺は教職課程と図書館司書の勉強があるし、お前は司法試験の勉強があるんだろ?」
夕美:「もう、そんなこといつでもできるよ。やっぱり夏には夏にしかできないことしなきゃ。」

そう言いつつ、夕美は既に自分の司法試験の参考書をバッグに片づけはじめている。

夕美:「それに、隆道君は『私』とは未だ一緒に海に行ったことないもんね。」
隆道:「え?」
夕美:「私達、あのときは未だ『恋人同士』だったのに。」

片づけの終わった夕美は、猫科の瞳でじっと俺を見つめている。

……そうか。夕美もあの『命をみつめて』の読者の一人なんだから、
あの日俺が加奈と海に行ったことは知っているんだ……。

隆道:「そっか。それじゃ行こうか、海に。」
夕美:「やったあ!」
隆道:「お、おい……!」

夕美は図書館の「静寂な」自習室の中で嬉しさを爆発させた……。

……。
…………。
………………。
……………………。

翌日、俺は夕美の運転する自動車で海に向かっていた。

夕美:「♪ラン、ラン、ランランランララーン……。」

そして、カーステレオからは「あるグループの夏向けの歌」が流れている。

夕美:「隆道君、ここは関東なのに『ちゅうぶ』とはこれ如何に?」
隆道:「あ?」
夕美:「へへへ……。」

いつに無く夕美は浮かれている。……いや、もともと夕美はそういう性格か。
だから、夕美は朴訥な俺と釣り合いが上手く取れているんだろうか……。

……。
…………。
………………。
……………………。

海に着くと、俺と夕美はそれぞれ着替え室に向かった。
ちなみに、俺は極普通のトランクスなのだが……。

隆道:(……夕美は何を着て出てくるんだ?)

先に着替えを終えて、そう考えていると……

夕美:「隆道くーん!お待たせ!」
隆道:「え?」

……夕美は、ワンピースの水着を着て出てきた。

隆道:「…………。」
夕美:「あれ?隆道君、これ変?大学の友達とも一緒に選んできたんだけど。」
隆道:「い、いや、『夕美にしては大人しめだな』と思って。」
夕美:「はあ?」

俺の言葉を聞いて、夕美は呆れたような顔をしている。
だから、俺は……

隆道:「……いや、……似合ってるよ。」
夕美:「そう、ありがと。」

……夕美のために、「俺の正直な感想」に言い直してやった……。

……。
…………。
………………。
……………………。

そして、その日は夕美と海を楽しんだ。
今でもたまに考えてしまうが、もし加奈がもう少し強い女の子だったら、
俺と夕美と、そして加奈の三人で……

夕美:「……そういうの、『両手に花』って言うんだよ、クールメン。」
隆道:「え?」
夕美:「ささ、『海水欲』も満たされたし、勉強勉強。」
隆道:「は?」

……と、俺は再び夕美と一緒にそれぞれの勉強を始めた。

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