老人介護についての個人的HP-1介護 How to -(11) いざり

床上でのいざり動作

 今度は和式生活に特有の移動方法、「いざり」についてまとめておきます。これも簡単なことのようでなかなか複雑、かつ面倒な動作です。

※ADL(日常生活動作)における「いざり」の意義

 歩行や車椅子移動ではなく、あえていざって家屋内を移動することにはどのような意義があるのでしょうか?まずは「安全」ということですね。それから、特別な道具の準備がいらない、ということ。もう一つ、家庭全体の生活様式によっては家族の中に溶け込みやすい、ということができます。(家族はこたつにあたっているのに、本人さんだけ車椅子、というのではなく、ですね)

※いざりの前段階〜いざり移動ができる条件

さて、いざり動作を実用的に行なえるための条件を挙げておきましょう。まずは自力で起座できること、ですね。(how to(6)長座位への起座)それからもう一つ、足を投げ出した姿勢で身体を大きく前に屈ませることができること〜柔軟性が必要です。つまり左の絵の状態で余裕があればあるほどいざりが容易になります。

 

いざりに有利な柔軟性

※いざりの種類

 まずは片麻痺者と非片麻痺者に分けます。その中にいくつかのいざりの方法があります。

・片麻痺者
  手つき前進〜手つき健側横行き〜手つき後方行き/肘つきいざり

・非片麻痺者
  両手つき正座いざり/両手つきあぐらいざり前方行き/肘つきいざり

可能性としてはまだ別の形も考えられますが、実用的に行なわれる可能性があるのはこれくらいでしょう。以下に写真とともにコツの説明をします。なお、以上のいざり動作の「ネーミング」は私の独断による全くのオリジナルなので、他の成書には見当たらないと思います。(^_^;

*片麻痺者:手つき前進〜手つき健側横行き〜手つき後方行き

 これは基本のスタートは同じ姿勢です。柔軟性が十二分にある方は、両足を完全に伸ばしきり揃えても良いのですが、大抵は軽く膝を曲げないといけないでしょう。その場合、健側下肢を患側下肢の足くびの下か、もしくはよりお尻に近い方へ置きます。(写真1)

 写真1 片麻痺者のいざり

 ここから、手を床につく力と健側下肢の足くびで床を押す力でお尻をずらします。その方向により前方・後方・健側横行きの種類に分かれます。一般的にいって一番難しいのは、「手つき前進」です。これは実際にやってみれば分かりますが、スタート姿勢からさらに深くお辞儀をするようにしないとお尻が前にずってくれません。それだけ柔軟性が要求されます。その点、「健側横行き」もしくは「後方行き」の場合は、反対に多少のけぞるような力の入れ方でもお尻はずってくれます。一番容易なのは「健側後方」へ向かってずることでしょう。(ただし、人により結構差があります)

*片麻痺者:肘つきいざり

 手つきでは、健側後方へもいざりが難しい場合は、可能性としては「肘つきいざり」が残ります。これは写真2のように行なういざりで匍匐前進を側臥位で行なうようなものです。身体の柔軟性も必要ではありませんが、効率は悪くなります。

 写真2 肘つきいざり

*非片麻痺者:両手つき正座いざり

 これも身体の柔軟性は必要ではありません。また、下肢に屈曲拘縮があっても行ないうるいざり方法です。方法は簡単、正座姿勢から両手を脇について前にずって進みます。本当言うと膝の負担も大きくてあまりお勧めできる方法ではありませんが、これでしか動けない、となれば致し方ありません。

写真3 正座いざり

*非片麻痺者:両手つきあぐらいざり

 「いざり」という言葉にイメージとして一番近いのはこの動作でしょう。足を前に投げ出した長座位で軽く足を曲げ、両手で脇をついて前に進みます。この場合は最低限の身体の柔軟性は必要になります。

 写真4 両手つきいざり

*非片麻痺者:肘つきいざり

 片麻痺者の場合と同じく「手つきいざり」が難しければ、「側臥位での匍匐前進」が残された方法となります。

※いざり移動者のADL様式は?

 さて、上記いずれかのいざり方法が実用的な移動方法となる場合、ADL洋式全体はどのようなものとなるでしょうか?まずは寝具はベッドではなくて布団の方が自由に動ける、ということになります。排泄の方法としては、オムツの場合はさておいて自力で行なおうという場合、@いざりで移動の上で次に説明する「床からの起立動作」を行なってポータブルトイレなりを使う、Aいざり者用ポータブルトイレを使う、B床に穴をあけてトイレを仕込む などの方法が考えられます。畳の家では実際に畳を一枚外してBの方法を実行している方もいらっしゃると聞いたことがありますが、自身の経験ではまだ見たことがありません。Aも、今は実物を写真でお見せすることはできませんが、大体図2のようなもので、後ろ向きのいざりで「坂」を昇って使います。「手作り品」ということになり、十分な幅と緩やかな長い坂が必要となります。巨大な差しこみ式便器、というイメージでしょうか?

図2 いざり者用ポータブルトイレ

※いざり移動者は強い?!

 これには2つの意味があります。まず、健常な私たちが自ら試してみれば分かりますが、上記いずれの方法でも「いざりで移動する」というのはなかなか大変なことです。「安全」ではあっても「安楽」な移動方法ではないのです。(歩くのに一番効率よく私たちの身体はできているのです)だから、歩けなくなってから、じゃぁいざろう、ではうまくいかないことが多いです。ある程度歩く力を持っている時からいざる習慣を持っていた方、もしくは意識して練習していた方でないと、実用にしていくのは困難かもしれません。(ですから歩ける方達の体操としても、「いざりレース」などは大変に有意義なプログラムと言えます。)そういう意味で「いざり」を実用にしている方は、(実用歩行はできないかもしれないけれど)大変身体能力の高い方である、と言えます。

 次に、「いざる」というのはある意味「格好の悪い」ことです。何より(少なくとも実用的には)「歩けない」ということを気持ちの上で受け入れた上でなければ行なえないことです。その上でいざっている方がいたとしたら、大変に精神が柔軟、もしくは強い方である、と言えると思います。家庭内ではまだしも、洋式建築の施設内での「いざり」は衛生上の問題があることも事実ですが、むしろそのように頑張る本人さんに合わせられない、私たちの側の問題ということができるでしょう。(このことは思索のコーナーの(5)で、これまでの“医療の常識の一つ”として触れています)

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