老人介護についての個人的HP-1介護 How to - (5) 起座1
さて、次はいよいよ起座です。この項目はこのコーナーの中でも、かなり重要なポイントになります。何故なら、「寝たきりか寝たきりではないか」の分かれ道となるからです。そして端座位からポータブルトイレや車椅子への移乗動作や起立歩行動作へとつながっていく、出発点の姿勢動作と言えます。
一口で起座といっても、大きく分けて「端座位への起座」と「長座位への起座」の2種類になります。それぞれについて、ADL上の意義・望ましい機器環境・自力で行うコツ・介助のポイントなどを説明していきます。
端座位への起座の基本的な動作の流れは写真1のようなものです。健常な方であればどのような起きあがり方でもできますが、障害のある方や力に余裕のない方は一般的にはこの起きあがり方がもっとも容易なはずです。(両下肢マヒの腰髄損傷の方などは除いて)
写真1
端座位への起座自力動作の流れ
動作時のポイントを以下にまとめます。
以下、順番に詳しく説明していきます。
@起座の準備〜側臥位
まっすぐ上向きで起きあがることは普通困難ですから、まずは横向きになります。片麻痺者ならば健康な側を下にします。ただ、ベッド上で横を向いただけでは写真2のように、顔の目の前にベッドの端がきてしまいます。これでは起きあがることはできません。なぜなら、次の「肘立て位」になる時に腕の力が使えず、またAの図1で説明する頭の動きができないからです。ですから、横を向いたまま腕で突っ張ってニジニジ背中のほうへズレなければいけません。この点「広め」のベッドならば、楽です。起きあがり動作に余裕がなければないほどに、腕がしっかり伸びきるほどにベッド端から距離をとってかまいません。そして手は、肩の高さでしっかり物につかまります。ついでに、肩が後ろに引けた状態(写真3:リトラクション)よりも、肩をも前に突き出すような形(写真4:プロトラクション)になっている方が楽に肘立てになれます。そして足を膝あたりまで、ベッドの外へ投げ出してしまいます。これで次の「肘立て位」になる準備ができました。
写真2 腕が詰まって起きれない 写真3 肩がひっこんでいるよりも、 写真4突き出しているほうが起きるのに楽
A側臥位から肘立て位へ
肘立て位まで起きるには、はじめから肘がしっかりと布団に押し付けられていないといけません。ところががんばって起きようとするあまり(?)、写真5のように肘が浮いてしまっているのをよく見かけます。これでは起きあがれません。
そして、肘立て位まで起きあがると同時に、足をベッド脇に下垂させます。というか、足が下に垂れるのを利用しながら体を起こす、と言ったほうがよいでしょうか?
肘立て位になる際はその前の側臥位の時と違って、頭を思い切りベッド端の方へかぶせるようなつもりで起きます。側臥位の頭の位置から端座位の頭の位置まで、まっすぐ直線的に動くわけではなく、上から見ると図1のように曲線を描きます。そうしないと、背中のほうへ体が開いて倒れてしまいます。
写真5 肘が浮いてちゃ起きれない
図1
起座の時の頭の動き方
B肘立て位から端座位へ
肘立て位から端座位へは、側臥位時に下にしていた手でしっかり布団を押す力を利用します。(写真6)肘立て位になった時点で、サクなどにつかまっていた手を離してしまうことが必要です。余裕がないとつかまった手を離すのを怖がりますが、図1の頭の位置が適切であれば手を離しても後ろに倒れてしまうことはありません。起きあがろうとしている方向の手が利く場合には、さらにサクをつかんだり、さらには足元の方向から引っ張りつかまるものを準備してもかまいません。そして最終的に端座位保持が安定するように、ベッドの高さは足がしっかりと床につく高さとしてあげるべきです。
写真6 手のひらでしっかり布団を押しながら端座位へ
大体以上が「端座位への自力起座」の「重要ポイント」です。もちろん全てのケースにおいてこれら全てを守らなければいけないということではなくて、力に余裕のなければないほどに、これらの事柄をきちんと踏まえなければいけないということです。そうすれば、これまでは起きあがれなかった方々の中から自分でおきれるようになりました、という方がたくさんいらっしゃることを確信します。
さて、介助の場合にも上記のポイントはしっかり踏まえておくべきです。なぜなら上記の方法が、人の身体がもっとも合理的に動く方法であるからで、介助の場合もその合理性を無視してはかえって難儀な介助となってしまうからです。
最小の介助:近位監視と声かけ誘導 上記起座のためのポイントをそばから教えてあげましょう。「もっと腕を伸ばして!」「そこで肘をついて!」「手で布団を押して!」など、短く的確な声かけで起きあがれることにつながります。
部分介助:例えば側臥位になっている際、きちんと腕を伸ばしてサクなどにつかめるように身体を背中の方へニジニジずるのは意外と難しいものです。また、肘立て位まではなれるけれどそこから端座位へはどうしてもなれないからそこだけ手伝うなど、一連の動作の流れの中でできない部分だけを手伝う、という「部分介助」で済む方々も多くいらっしゃいます。また、肘立て位から端座位へ起きる際に足元から引っ張れるひもを準備してあげたり、あるいはベッド脇に垂らした足が上がってしまわないように、足だけを押さえていてあげる(写真7)など、わずかでも的確な介助で起き上がれるようになる方は多いはずです。
全介助:写真8のように、一旦寝返りしてもらった上で肩と膝に介助者の手を入れて、お尻でくるりと回るように、頭を起こすのと同時に足を下ろしながら起座させるのが全介助の方法となります。これも基本的な動作方法にのっとった形式、と言えます。

写真7 足をおさえてあげれば起きやすい 写真8 全介助も基本的な動き方で
写真9のAの棒は、この方が自力起座するためには必要な「棒」となっています。また、人によってはBのようにひもを足元から伸ばしている方もいます。そのままではひもが丸まってかたまってしまいますから天井から「ゴムひも」で吊るとよいようです。タランと垂れ下がったひもをたぐり引っ張ると、ゴムひもが伸びてCのようにピンと張ります。
写真9 起座のための道具の工夫
このような様々な「つかまり所」の準備のためには、「端座位への起座介助〜A部分介助」で説明した部分的な動作介助の際に、「空中のあるポイントで手を引いてあげれば肘立て〜端座位になりやすい。」ということさえが分かれば、「その場所につかまる物を準備」することで自力起座へ持っていけます。
それから「@起座の準備〜側臥位」のところで「起座のためにはベッド端からなるべく遠く、腕が伸びるように背中方向へニジニジ下がる」と書きましたが、これが意外と難しい動作です。その動作だけを介助してあげればあとは自力で起きられる、という人の場合には写真10のように台をセットしてみましょう。「起座のために必要な部分だけベッド幅を広げる」ということです。これで側臥位になった際に、ベッド端から落ちるような感じはしなくなりますし、腕も自然と伸ばせて起座が楽にできるようになります。
写真10
必要な部分だけベッドを広げる
また、紹介したいずれの場合も「足をベッド脇に出す」ために、ベッドの下方にはサクがつけてありません。これでは布団が落ちて仕方ない、という場合には、写真9のDのように、足を出すのに邪魔にならない位置で棒を一本立てましょう。これで布団のずり落ちはだいぶ防げます。
もう一つの起きあがり方
さて、以上のような基本に則った起きあがり方(側臥位になりつつ肘をつき起きる)とは別に、まっすぐ腹筋運動のように起きあがる方法もあり、例えばベッドが狭目であって臥位移動が難しい、などの場合に行なう場合があります。それを以下に紹介します。

写真11 起きあがり時用足引っかけ棒

写真12 起きあがりの様子
写真11のように適当な位置でベッドマットの下から横棒を伸ばしつけます。これに写真12のように足くびを引っかけて腹筋運動の要領で起きあがるわけです。私たちでも腹筋運動の時は、足を押さえてもらっていた方がずっと楽に起きあがれますね。それと同じことです。この場合は、むしろベッドの端に寝ていた方が楽に足くびを引っかけられます。写真では模式的に杖の棒を差込んでいますが、実際には平べったい板状の棒に包帯でも巻きつけて当たりが痛くないようにしてあげればよいでしょう。
ただし、これは最後の手段としたいものです。なぜなら特に片麻痺者の場合は患側の屈曲傾向を強めてしまい、ますます腕や足が曲がって拘縮を作ってしまう原因にもなりかねないからです。だけど、確かにこの方法でないと起きあがれない、という方もいらっしゃいました。