老人介護についての個人的HP-2 介護福祉機器- (1) 男性用小便器
写真1の男性用小便器は、「障害者用小便器」としてごく一般的な形だと思います。これは私の職場のトイレで、つまり使用者は高齢の男性、つまり「おじいさん」方です。ところが、この便器が高齢男性の運動機能と姿勢に適合しているとはとても思えません。
写真2は、おじいさん方と似た体格である部下の女性PTにモデルとなってもらった「若い男性の排尿姿勢」(可哀想な嫁入り前PT・・・(^_^; )ですが、元気な男性の場合はこのように、無意識のうちにも腰を前に突き出すものです。少なくとも後ろには引きませんね。ところが、高齢者の場合はえてして、体幹下肢とも屈曲姿勢となりがちです。排尿時だけ体幹を伸展させ腰を突き出すことはできません。かくして写真3のような状況となってしまいます。
写真3の黄色の補助線をみれば分かるとおり、腰の位置は便器の前端よりも後ろに引けています。加えて高齢者の場合は膀胱の収縮能力が落ちていますから、尿は勢いよくは前に飛んでくれません。また陰縮も進んでいることも多いものです。かくして尿は便器に収まらず、床の上を流れることになります。また、「若い障害者」がこの便器を使う際の「胸当て用」と想定されている便器の上の「横バー」が、ちょうど顔の前にきてしまって、なおさら便器に近づきにくくなっていることが分かります。つまり、便器の規格とサイズが、使用者に合っていないのです。
そこで、写真4のように手を加えてみました。近づくのに邪魔になっている横バーは取り外した上で、大きなプラスチック板をグニャッと曲げながら鳥の下くちばしのような形にして、便器に挟み込み固定してみました。(ガムテープで・・・(^_^; )やや広がりすぎるので、細い糸でくちばしの先を細く絞ってあります。くちばしの先端は、トイレ本体の先端よりもかなり前まで突き出させています。
これで、だいぶ床の尿汚染が少なくなりました。(皆無ではありませんが・・・)もっともプラ板の内側には水洗の水が流れませんから、ニオイの原因とはなっています。が、“床におしっこの川”よりは良いですよね。
昔とおりの「朝顔型小便器」(若い人は知らないかなぁ・・・)を、壁から少し前に出しつつ作り付けてあげるのが一番良いような気がします。それにしてもメーカーさんも、もっと高齢者の特性をよく研究して製品を作ってもらいたいものです。「若い身体障害者」と「高齢者」をごちゃにするのはやめてほしいですね。
これから施設建築にあたる方はご注意あれ!

写真1 写真2 写真3 写真4
さて、HP開設時最初期に作ったこのページについて、広島県にある特養「誠和園」園長の村上先生からお手紙をいただきました。そして理想的な便器形状について意見交換させていただき、さらに既成品の新製品情報などもいただきました。以下にその内容を追加してご紹介します。
写真5は身長172cmの私が、いささかオーバー気味にではありますが「腰曲がりの男性高齢者」の立位姿勢を真似たところです。この姿勢で頭の先(前額面)から腰の陰部の位置まで赤い線が4つ並んでいます。赤い線一つは私が手に持っている10cmメジャーとあわせてありますから、つまり40cmということになります。私のこの姿勢で、トイレの作りつけてある壁から便器先端まで40cmはないと、尿は便器に収まらない、ということになります。高齢者としては大柄になる私がやや極端な姿勢をとった上での「40cm」ではありますが、それでギリギリということであれば実際には余裕も必要ですから、やはりそれくらいの値はあっても良いように思います。
では、私のこの姿勢に「小便器」をフィットさせてみましょう。写真6がそれです。写真6のbの値、つまり便器全体が高すぎると、頭や胸が便器にぶつかるようでそばに近寄りにくくなります。また、便器上端部の厚みも薄い方が近づきやすいですね。写真6の書き込んだ便器の上端の高さを図から計ると床から1mばかりになります。実際にはもっと小柄な方がいることを思えばもう少し低く抑えるべきでしょう。80から90cmくらいが適当?と思えます。
また図は載せませんが、上から見た便器の形も、先端はむしろ鋭角にして「先細り」の形であるべきと考えます。写真1の便器では反対に、尿受け部分の三角がむしろ鈍角なのが分かります。これじゃぁ(尿の)収まりが悪い!

写真5 写真6
ここで、写真1の「一般的に使いにくい(^_^;」小便器について上記諸点を実測してみました。高さは1mちょうどですが便器全体の厚みが20cmあります。そして床の尿受け△部前端は壁から40cmほど出ていますが、便器全体の厚み20cmを引いて三角の部分だけでは20cmしかせり出していません。写真4の私が強引につけたプラ板が、本体20cmの厚み+さらに40cm飛び出ています。(後から計ってみて、上記数字とピッタリ一緒なので自分でビックリ!)つまり、プラ板の先端は壁から60cmも飛び出ています。これは便器全体が高すぎる上に便器上端部まで厚みがあるために、前かがみ姿勢では近づきにくいためにこんなに必要になっているのです。
ところでi社から写真7のような小便器が発売されているそうです。これはもともと東京都庁に採用された「床に尿の垂れにくいシステムトイレ」の一部だったのだそうですが、最近、単体でも売るようになったということです。見たところ、写真1などよりはずっと写真6に近いことが分かり、「高齢者用」としても大いに期待が持てそうです。この便器について、i社さんの方へ問い合わせてみました結果、分かったことや見解を以下に報告します。
便器の上端までが1m7cm〜1mの間で設定、全幅は40cm弱ですが上から見た便器の形は図1のように直線的な三角形となっています。肝心の尿受け先端部までが35cmですが、上記上端の厚みは4cmほどです。
高齢者用として、上記検討からはもう少〜し上端が低くてもう少〜し張りだしていた方が良いか?とも思えますが、案外これで「いける」かもしれません。
ただしこのトイレは、配管などを壁の中に仕込むため、「便器だけ交換」というわけにはいきません。便器だけ交換できるもので尿垂れしにくいタイプの便器として、写真8の便器も発売されたとのことです。従来品(写真1)などよりもずっと良いですが、諸数値からすると都庁タイプには及ばないようです。
誠和園さんでは施設の拡充新築工事に伴い、実際に「都庁便器」を「シュミレーション使用」してみるそうです。結果が楽しみですね。

写真7 都庁のトイレ 図1上から見た形 写真8
とうとう誠和園さんでディサービスセンターの新築がなって、写真7の都庁トイレがいよいよ高齢者施設に作りつけられました。その様子を写真でご紹介します。

写真9 写真10 写真11
提供いただいた写真は、もっとサイズが大きく範囲も広く写っていて、PC画面上で広げてみても息を呑むような素晴らしさです。写真10で分かるとおり、便器の上端が薄くなっているだけではなくて便器の上の壁が奥に引っ込んでいます。(床から何センチの高さで奥に何センチ引っ込んでいるのか?その具体的な数値もそのうち分かるはずです。)写真11の尿受け部の形も、「これなら・・」と思える形ですね。写真4のプラ板も形は似ていますが、そりゃ水も流れるこちらが良いに決まっている!この便器に写真5・6のような姿勢の方が向う様子を想像してみて下さい。ピッタリですね。(^o^)/ やっと高齢男性者に理想の小便器が実現した!という感じです。そしてそのきっかけの一つが、もはや1年以上前に作ったこのページの前半分だったと言っていただけることに、私は涙が出るほど嬉しいです、いや、ほんとです。(^_^;
それでもね、↑こんな素晴らしい便器がつくのも施設だからってのも本当ですね。在宅で過ごすおじいさん方は、便所のたびに床を汚して、ばあさまやお嫁さんに小言をもらい怒られて…(^_^; 、いや、本当にそれ(床掃除)が、妻やお嫁さんの(精神的な)「介護負担」になっていることも多いんですよ、在宅者の場合。
なんて思ってたら、村中にこんなおじいさんがいました。(写真12)
写真12 「じいちゃん、頑張ってね♪」
この方も見事に腰曲がり、全然小便器にフィットしなくなっています。ところがこの方、写真のようにトイレ室の隅・便器の横に斜めに入り込み、頭から上半身を便器の反対側に投げ出して排尿されています。この写真は終わってしまいこむところなので、ちょっと身が戻っていますが、排尿中はもっと隅によっています。「せめて少しでも汚さないように…」っていう、本人さんなりの努力・生活習慣の結果なんですね。それでもやっぱり時には床をビチャにしてしまうそうです。それに対して奥様は、「そげのオラが掃除してやるすけ、いっこ、かまわねぇ。」とおっしゃいます。いいご夫婦だねぇ…。
それで、ご本人もそれなりに頑張り、ご家族も心に余裕があれば、↑のように何とかなっていくんでしょうけれど、これが本人さんは開き直り、ご家族も我慢ならねぇ!状態に陥ると、事態は大変なことになり得ますね。
次の写真のケース、ご本人さまは「うまくできない」ことを十分に自覚されていて、腰かけトイレに立ったままで排泄されています。ところが理解力の低下と身体機能の低下(屈むようにして手を下に伸ばしてふたを開けるのは、結構大変なんだろうと思います。)もあって、何と「便器のふたをしたままで」おしっこしてしまうんだそうで、これには奥さまもお嫁さんも「キーッ!!」となっておられます。当然だよね?
とりあえず、例のごとく写真13のように手を加えてあげました。(写真4と違って上から撮っているので形が分かりやすいと思います。)でもこのケースでより注目したいのは、写真14です。これは、トイレのドアなのですが、よく見ると黄色の矢印のところが凹んでいます。

写真13 写真14
これは、奥さま・お嫁さんに「何でこっちでするんだ!」「なんでふた上げないんだ!」と攻め立てられたご本人さんが、腹いせまぎれにドアを殴りつけたあとです。(^_^;
これがね、ドアだからまだ良いようなものの、その“パンチングパワー”が奥さまやお嫁さんに向かったら…、おそらくご家族は在宅同居生活を拒否されてしまうのではないでしょうか?『男性用小便器の不適合が、暴力行為につながり、在宅生活継続を困難にしてしまう。』こんな恐れのあるケースが、一体全国にどれほどいらっしゃるのでしょう?このケースでは、400円のプラ板が「救い」になってくれるでしょうか?