老人介護についての個人的HP-2 介護福祉機器-(18) ギャッヂアップベッド

ギャッヂアップベッドの多用はちょっと待った?!

 最近は、福祉施策のそれなり?の充実により、電動のギャッヂアップベッドを家庭内で見かけることも増えてきました。ボタン一つでベッドごと起きあがってくれるのですから、ご家族の介護負担を減らすのに、大変有効であると考えられています。ただ、それも確かなのですが、弊害もあります。そしてその弊害は、広く一般的に認識されているとは思えません。そこでこのページでは、ギャッヂアップベッドを使う上で気をつけるべき点と適応ということについて、考えてみたいと思います。

 まず最初にきちんと踏まえておきたいことは、ギャッヂアップで上半身を起こした姿勢はあくまで「臥位」であって「座位」ではない、ということです。ベッドを一杯に起こしても同じことです。理由は、単に頭が起きているかどうか?ではなくて「体重の支え方」にあります。

 寝ている状態では、体重は頭・肩周囲(肩甲部)・仙骨部殿部などに分散して支えられています。それに対して「座る(端座位)」では、体重はお尻の中の骨盤のグリグリ(坐骨結節)にしっかりと乗り、多少は大腿部などでも支える、ということになります。(坐骨結節は、自ら椅子に腰かけて片方のお尻を持ち上げ、座面との隙間に手のひらを入れてお尻を下ろしてみれば、すぐにグリグリが分かります。)臥位では坐骨結節で体重を支えるということはありません。

 では、ギャッヂアップ姿勢はどうなのかというと、まず大抵の場合は坐骨結節部で体重を支えていることはなくて、仙骨部が圧迫され体重がかかってしまっています。目一杯沢山起こしても、状況は変りません。それは次に述べる理由によります。つまり、ギャッヂアップ姿勢は頭は起きてはいますが、身体全体では「寝ている」に近い状態なのです。しかも、ギャッヂアップ姿勢ではあくまで仙骨部に体重がかかってしまっていますから、完全に臥床しているのと同じく仙骨部の褥瘡発生の危険や悪化の恐れがあり、できてしまっている褥瘡の改善は難しい、ということにもなります。坐骨結節にしっかりと体重を乗せる座位では、仙骨部に体重はかかりませんから褥瘡発生予防や改善につながるわけです。

 ではどうして単にギャッヂアップしただけでは坐骨結節に体重の乗った座位にはならないのでしょうか?それは、「膝の後ろのスジの突っ張り」が大きく影響しています。図1は「長座位への起座」についての説明ページで使った図ですが、「足を伸ばしたまま身体を前に屈めると膝の裏が突っ張る」様子を表しています。お若い方ならば俗に言う「前屈運動」まで屈めなければ突っ張りはきませんが、高齢者、それも虚弱な高齢者さんの場合には、上半身を起こそうというだけでこの突っ張りが起きてきてしまったりします。それでも強引に上半身を起こしていったらどうなるか?まず膝関節が曲がり、同時に骨盤が後ろに倒れる形に引っ張られることになります。そして骨盤が後ろに引き倒されるのですから、脊柱は円背を強めてしまいます。そしてそれは、起こす度合いを強めれば強めるだけひどくなります。骨盤が後ろに倒れてしまえば、体重は坐骨結節にはのらずに仙骨部に押しつけられることになるわけです。

図1

 「膝が曲がり骨盤が後ろに倒れて、円背になっている」実はこれは、「ギャッヂアップ時の特徴的姿勢」と言っても良いものです。上半身だけは起こされており、しかも坐骨に体重が乗っていませんから、ズリズリとずり下がっていきます。ズリ下がれば下がるだけ、ますます仙骨部は圧迫され膝は曲がっていきます。「膝が曲がる」といっても、まっすぐに富士山形に膝が立つわけではありません。曲がり立った両膝は左右どちらかに倒れます。両膝揃えて左右どちらかに倒れれば、体幹下部(腰回り)も左右のどちらか膝の倒れた方向に捻られてしまします。(写真1)介護職員さんならば、これらの具体的な様子をすぐに思い浮かべることができるのではないでしょうか?

写真1

 カチカチの寝たきり老人の姿=両膝が曲がり左右どちらかに捻じれ、背中が丸まっている、という写真1のような姿。これは「ギャッヂアップを多用した結果」と言えなくはないでしょうか?原因の全て、ではないでしょうが、少なくとも要因の一つにはなっているのではないか?そんな気がしてなりません。

 これらの弊害を発生させないためには?簡単に言えば「上半身を起こすと同時に膝から先の下腿を下に垂らすこと」です。そうすることで膝の後ろのスジの突っ張りは起こらずに骨盤も起こせて坐骨に体重が乗せられます。これはつまり「椅子に座った姿勢、車椅子に座った姿勢」です。

 ですから、やはり可能ならばギャッヂアップを使うよりは、車椅子で起きるということを実践していただきたいのです。車椅子に移ることが困難ならば、例えばせめて食事はベッドの横に足を垂らした端座位姿勢でとること、必要ならばその端座位に合わせた背もたれを使うこと、です。ギャッヂアップを使うにも、大きく起こした状態で長時間そのままにしているべきではありません。上記のような不良姿勢から好ましくない身体の変形拘縮を作り出そうとしているようなものです。これらのことは在宅生活場面ではもちろんのこと、施設内介護場面でも同じことです。

 少なくとも、「ギャッヂアップしているから車椅子で起きているのと同じ」そんな勘違いだけはしないでいただきたい、と思います。


 この文章を書いてから、もう6年以上経ちます。早いなぁ・・なんてことはさておいて、↑以上の見解について個人的には未だに全然変わりありませんし、現場でも、少しずつ理解されている方が増えてきているようにも思います。

 そんな最近ですが、とうとう「ギャッヂアップ」絡みで裁判事例が発生してしまいました。

 平成13年、在宅で使っていたギャッヂアップベッドが壊れたので新しいギャッヂアップベッドに交換し、ギャッヂアップしつつ使っていたら、呼吸状態がドンドン悪くなり(血中酸素飽和度が低下して)、最後には亡くなってしまった。(最初は原因が分からず、途中でギャッヂアップベッドのせいと気づいたが)以前使っていたベッドに比べても、このベッド(現在も市場で広く使われているベッド)は、「欠陥品であるから、補償せよ」という裁判です。

 実は、原告者さん(ご遺族さん)と弁護士さんが、私のこのページを見つけて「話を聞かせてほしい」とわざわざ新潟までいらっしゃいました。私としてはあくまで第三者の立場から、ギャッヂアップ機能そのものへのコメントと変更使用したベッドについての個人的な感想コメントを、丁寧に説明させていただきました。

 「ギャッヂアップ機能を使い出したら・・」ではなく、「ギャッヂアップベッド種類を変えたら・・」ということで、原告者さんにとって裁判の勝ち負けという点で言えば、やや苦しい面があるかと思います。(ただ、変更した新しい機種ではその宣伝文句とは異なり、かえって苦しいだろうなぁ・・とは、個人的には思いますが・・) 

 ただ、裁判の結果はどうであれ、「ギャッヂアップ機能の問題点」が重要なポイントであることには間違いありません。裁判事例については、使用者さんの身体状況面ではっきりしない面もありますし軽々しくコメントはできませんが、少なくとも一般論として、『膝伸展位股関節屈曲(SLR)に制限の強い方は、あまりギャッヂアップしてはいけない!』(図1)ということが、メーカーさんや販売レンタル店さんから、介護スタッフさんやご家族さんにきちんと説明されることが当たり前のことにならなければおかしい、と思います。というか、「介護の現場の常識」にならないとおかしい!と思います。

 もちろん、こんな中途半端な言い方ではなく、きちんと数値をもって説明できるようでないといけない、と思います。自分の身体を使って、説明を試みてみようかな?(私は、すごい身体が硬いので・・(^^ゞ)

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