老人介護についての個人的HP-2 介護福祉機器- (3) ベッド一般
シルバー新報さんの平成16年5月21日号の特集テーマが、『福祉用具、適正化でどうかわる〜今だから知っておきたい選び方〜』というものでした。ちょうど厚生労働省から介護保険レンタルサービスの「適応基準」というようなものが示されたことをうけての特集ですね。その特集の中で、「介護ベッドの選び方」という趣旨で、わざわざ東京からいらっしゃった記者さんにインタビュー取材を受け、その内容を記者さんが要約したものが記事として掲載されました。
まず、以下に残してある従来からの「ベッドについて」のページ内容が、あまりに整理がついていなくてどうにかしたい、と思っていたこと。さらに、せっかく記者さんが要約してくれた文章が、紙面スペースの関係で大幅にカットになり、ボツになったものがあまりに惜しい、ということ。この2点から、最初に記者さんが仕上げてくれた文章を、以下に収録しておきます。
シルバー新報
平成16年5月21日号
特集テーマ『福祉用具、適正化でどうかわる〜今だから知っておきたい選び方〜』から、
プロが選ぶ介護ベッド
理学療法士・大渕 哲也 氏(取材文章:シルバー新報 吉田乃美 記者)
介護ベッドは車いすと並ぶ福祉用具の代表格。しかし、その割に違いはモーター数や全長・幅くらいしかなく選択肢は意外に乏しいもの。自立支援というなら、たとえ介助が必要であっても最大限本人の力を生かしながら寝返りや起き上がりがしやすいものが望ましいはずだが、その決め手となるのは「ギャッヂアップや昇降機能といったベッド本体の機能ではなく、ベッド柵やマットの幅にある」と言うのは、新潟県で理学療法士として活躍する大渕哲也さんだ。在宅介護の現場で福祉用具のフィッティングに携わること二○年余り。現場を知り尽くしたプロの選ぶ視点は、意外にも付属品の方に向けられている。
ベッドは在宅介護を始める際、まずほとんどのケースで導入する代表的な福祉用具です。それだけ障害を持つ人を介護していく上で欠かせない道具といえるわけですが、いざ選ぼうと思っても車いすほど選択の幅はありません。背上げ・足上げのギャッヂアップと昇降機能は当たり前。違いはせいぜい全長・全幅くらいです。だったら、もうどんぐりの背比べで機能面ではどれを選んでも変わりはないのかというと、実はそうではない。むしろ現時点での介護ベッドには多くの問題点があると思います。
ベッドに限らずどんな福祉用具でも選ぶにあたって大前提となるのは使用目的をはっきりさせること。何のためにその用具を使うのかということです。使用目的を満たす機能を持った用具を選べばいいわけですが、介護ベッドでいえば大きく次の五つが上げられます。
まず、@安静臥床(睡眠)のため、Aおむつ交換や清拭など介護をしやすくする、B起き上がる動作をしやすくする、C腰掛けて起立する「いす」として使う、D呼吸と嚥下を助けるため――です。
@はいわゆる健常な人が寝るために使うベッドと何ら変わりなく、すべての人にとって共通していえるもので、その要素は「マットの性能」ということになります。介護ベッドとしての使用目的はむしろAからが重要なのですが、同じように見ていくと、Aはベッド幅と高さ、Bはベッド幅と柵、Cはベッド幅とマット、Dはギャッヂアップ機能が大切ということになります。
Aはともかく、Bからについては「おや?」と思われた人も少なくないかもしれません。起き上がりや座位を取りやすくするための機能といえば、ギャッヂアップと昇降機能というのが一般的な認識です。でも、実やこれがそもそもの間違い。本来のギャッヂアップ機能とは、寝たままの姿勢だと呼吸ができなくなってしまうような難病患者さんのために開発されたものなのです。映画「エレファントマン」の主人公が使っていたベッドといえば分かりやすいでしょうか? 決して自力での起き上がりを助ける機能ではありません。 しかし、今回厚労省が示したガイドラインでも「分割された床版が可動することにより、起き上がり等の動作を補助するのが特殊寝台である」と説明されている。つまり、介護ベッドの定義イコールギャッヂアップと昇降機能ということになっており、これがないと介護ベッドとは認めないよ、ということになっているのです。レンタルの対象にもならない。ですから、出回っている介護ベッドはどれもギャッヂアップ+昇降が標準装備になっている。
でも、実はこれが在宅介護の現場ではさまざまな問題を引き起こしています。まず、起き上がる時というのは、大抵の場合、始めに寝返りをして側臥位になり、肘から先をマットに付けた形で上体を起こします。これが障害を持った高齢者の場合では、手でつかむ場所が必要となる。つまり「サイドレールやベッド柵」になります。ところが、サイドレールはそもそも体重を支えるためのものではないし、ベッド柵も本人がつかみやすい場所や高さに調整できるものは非常に少ないのです。ですから私はよく、ホームセンターで五○○円くらいのパイプを買ってきて手作りのベッド柵を付けてしまうこともあります。
また、マットの幅はそれ単独で使うことが前提でサイズが決められていますが、在宅では多くのご家庭で敷布団を合わせて使っています。すると、大抵はマットの幅より大きくて側面にずり落ちた格好になりますが、これを起き上がる側に垂らしてしまうと端座位で座った時に座位が安定しません。マットの上に敷布団を載せて使う場合は、余ってしまった部分を起き上がる側と反対側に寄せることも重要なポイントなのです。
たったこれだけのことでも自力で起き上がれるようになる人はたくさんいます。逆に、孫が使っていた普通の九五cm幅のシングルベッドを使っていたおばあちゃんが、八三cm幅の電動のギャッヂアップベッドに変えたら自力では起き上がれなくなってしまった、という例も経験しています。その方に必要なのは、ギャッヂアップ機能ではなくて動きやすい幅なのです。また、ギャッヂアップしてベッド上で食事を取らざるを得ない場合でも、オーバーテーブルの高さをきちんと本人が食べやすい高さに合わせてあげたいのですが、ベッド柵の高さは選べません。
では、食べやすい高さはどう測ればいいのか、というと座高の三分の一から二、三cm引いたくらいの高さです。これは家具テーブルの面と椅子の座面の高さの差が二八cmになっていることと関係しています。一般に座高九○cmの成人男性を基本にしているため、二八cm。これは一○年前にインテリアデザインの書籍で見つけた数式です。
実際にこれを用いて在宅のお年寄りの座高を測ってみたのですが、平均すると六○cmくらい。つまり、日本のお年寄りが座って食べやすいテーブルの高さというのは、座面から二○cm弱の高さでいいということになります。かなり低く設定するわけです。ギャッヂアップで完全に姿勢を起こせない人も同じです。お尻がついているところから頭のてっぺんまでの長さを垂直に測ってその三分の一です。
こうしたことが分かっていると、カタログを見る目も違ってきます。ベッド柵で高さを調整できないなら、ベッドサイドテーブルで対応しますが、これも低くなるものとならないものがある。つまり、メーカーや設計者の意図と、選ぶ側・使う側が選択する基準とが必ずしも合致せず、せっかくの機能が使いこなせないということにもなるのです。
メーカーはできるだけ大量生産できる商品をつくりたい。選択肢が乏しいのは、現場の声が高まらない証拠でもあります。病院規格の八三cm幅が主流だった介護ベッド業界に、九○cm以上の幅広ベッドが登場し、値段的にも安価になったのはつい最近のことです。現場のニーズの高まりが、メーカーを動かしていく。柵やマットについても同じように注目し声を上げていく人が増えていけば、自立支援のための介護ベッドの種類はもっと選択肢が広がると思います。(談)
えー、文章が長いとかえってボケる面もありますので、要約を以下にまとめておきます。
とまぁ、こんなところです。
さて、このシルバー新報に掲載された文章、読む人によっては注目されたようで、いくつかこの件に関連してご連絡をいただきました。あるベッド関連メーカーさんと直接お会いさせていただき、お互いベッドについて色々とお話できたことは、とても有意義で楽しい経験でした。その際、メーカーさんに私の方から『こんなベッドが欲しいなぁ』とお示ししたのが、下の図です。

こんなベッドがあったらいいな。自力で寝返り起座しやすいよ、きっと。
広い方は幅100cmくらい、足元側の狭い方は80cmくらいでよいのではないでしょうか?頭側の柵は、位置と高さを変えられるようにして、足元側には布団ずり落ち防止のための小さな柵だけでOK。高さ調節も、下駄の付け外しでいいや。ギャッヂアップは必須ではないけど、ないと通用しないなら手回し式でもいいんじゃない?で、これは一番簡単なイメージ図でしかないから、見た目も在宅場面に違和感の無いようなデザインに仕上げてさ。もちろん、これに起立介助用のバーも付けられないと困りますけどね。どうですか?
以下は、平成9年のHP開設最初期に書いた文章です。
ベッドは障害のある方を介護していく上で欠かせない「道具」の一つです。「ベッド」と一口に言っても様々な「語り口」がありますが、今回は大分類とそれぞれの適応、ということについて考えてみます。
まず、あまりに当たり前のことですが「ベッドの機能」とは何でしょうか?思いつくままでも以下のように考えることができます。そして、それぞれの機能を果たすために求められる条件が決まってくると思います。
@安静臥床するのにふさわしい機能
A介護しやすいポジショニング機器としての機能
B起居動作する“場”としての機能 → 椅子としての機能まで
これは健常な方がベッドや寝具を使う時と何らかわりはありません。つまり、全ての使用者に共通して言える事柄となります。臥床していてリラックスでき、寝返りなど体動もしやすく、健康維持や褥瘡予防、清潔保持のためにも通気が良く湿気にくい、などなどがあげられます。一般的には、寝具はフカフカ柔らかすぎない方が良い、などのことが言えると思いますが、ここではこれ以上詳しくは取り上げません。ある程度、常識的な事柄だとも思えるからです。まさか、ハリや石のベッドを準備する方はいませんよね。(^_^;
さて、「介護」ということでは、このあたりからが重要になってきます。この項目は、「介護」という場面の中でも、主として「介護する側にとっての機能・条件」ということになってきます。つまり、どのようなベッドがお世話しやすいか?ということです。
これも答えが一つではありませんが、まず本人さんが完全な寝たきり状態でご自身では全く身動きもできないような方の場合と、ある程度は本人さんに起居動作を行なってもらおう、という場合で、大きく二つに分けて考えることができると思います。
A−1 完全な寝たきり者の場合
この場合はADLは全て全介助となりますから、おむつ交換や衣服の着せ替え、体位交換などの援助ができる限り行ないやすくしてあげればよい訳です。これには救急病院の治療ベッドの規格が参考になります。つまり、ベッドはやや高めで介助者の腰あたりの高さがあり、幅はむしろ狭目の方がお世話しやすい、ということになります。目安として高さは70cm程度、幅は80cmもあれば十分で70cmでも大丈夫かもしれません。この規格では、おむつ交換する際にも、介助者が腰を屈めたりベッドの上に覆い被さるような無理な姿勢をせずにすみます。
A−2 ある程度の能動的な起居動作を行なってもらう場合
これは、「B起居動作する“場”としての機能」であげる条件に準じることになります。というか、上記の「介護しやすい規格」と、次に説明する「本人さんが動きやすい規格」には、正反対と言っても良いほどの規格の違いがでてきます。本人さんが行なおうとする動作については動きやすい規格とし、介助する動作には介助しやすい規格とする、ということになり、これはその人それぞれ、ということになってきます。
私自身は一応「リハビリ専門家」の立場ですから、一番強調したいのはこの項目となります。つまり、「本人さんの能力を最大限に発揮してもらうための条件」ということです。ベッドで休んでいても、その上で寝返ったり起きあがったり、時にはベッドから離れることもあります。それらのために必要な条件はどのようなものでしょうか?
B-1 自力で寝返りするために
寝返りを自力で行なう(あるいは部分介助で行なう)ためのベッドの条件は、まずは「ベッド幅」が問題となってきます。障害のある方が寝返りを行なう場合には、大抵ベッド端やベッドさくを「腕で引っ張る」動作が必要となります。腕で引っ張るためには、ある程度肘が伸びていないと「引く」ことはできません。つまりベッド幅が狭すぎると、初めから腕が縮こまって、「引くに引けない」状態となってしまいます。小柄な方ならば83cm幅でもよいかもしれませんが、大柄な方では狭すぎるかもしれません。それから、上にも少し触れていますが、手でつかむ場所/ものが大切となってきます。一般的には「ベッドさく」でしょうが、こうなるとベッドさくが取り付けられるベッドかどうか、あるいはベッドさくの取りつけ位置が問題になってきます。つかむ場所がなくて、敷布団をめくりあげながら寝返りする方を見ることがありますが、ぜひ環境を整えてあげたいものです。(ベッドさくについては改めてまとめてみます)
B-2 自力で起座するために
大抵の場合、起座のためには初めに寝返りをして「側臥位」となることが必要ですから、ベッド幅については上記事項と同じです。(83cm幅のベッドではどうしても起きあがれなかった方が、90cm幅のベッドに変えたらすっと起きあがれるようになった、という経験したことがあります。)自力起座のために、なぜ広めのベッド幅が必要になるのかは、「how to-起座」のページで詳しく説明します。
次に、足投げ出しの長座位姿勢に起きるにしろ、足を横に垂らす端座位に起きあがるにしろ、敷き布団/マットはやや硬めの方が動作しやすくなります。
また、端座位に起きる(起こす)場合には、ベッドの高さも条件の一つになってきます。高すぎるベッドでは、端座位になった際に足が床に届かずにブラブラして、座位が安定しません。例えマヒしている足でも床に届く高さの方が好ましいです。
端座位に起座する場合にもう一つ満たしたい条件が、敷き布団/マットの端の形状です。特にベッド枠に対して敷き布団の幅が広すぎる場合に、敷き布団が山の斜面のようになだれをうっているのをよく見かけます。これでは端座位に起座した時に、お尻が床へ滑り落ちていってしまいます。そのような際には、幅の余っている敷き布団を左右どちらか、起きあがる側と反対側(片麻痺者の場合はマヒ側)に寄せてしまって、起きあがる側の端はすっきりベッド枠にあわせてあげてください。端座位がずっと安定します。
B-3 自力で起立するために
さて、最後は「ベッドから立つ」ためのベッドの条件です。基本的には上記の「端座位に起きるための条件」とほぼ同様です。しかし、ベッド高さにしても、敷き布団の横の端の形状にしても、起座の際よりも神経を使ってあげなければいけません。例えば「高さ」について言えば、5cmどころか3cm、ベッドの高さが高いか低いか、で、自力起立できるかどうか、運命の分かれ目となることすらありえます。普通は40cm前後が起立しやすい高さとなるでしょう。
それから、起立するためにはベッドの「側板」の形状が大変重要になってきます。例えば木調の家具ベッドの場合、それも「高級品」の場合こそ、マットに比べてベッド枠〜側板が大きく外側に張り出し、床までベッド下の空間をふさいでいるような形状になっています。これでは「立ちにくい」のです。いずれ「how to-起立」のページで詳しく説明しますが、立ちあがる際には足を後ろに引いて起立するのが一番合理的です。つまり、ベッドに対して横向きに端座位となった際、ベッド下に足を引けるような構造であることが大切となってきます。
おおまかに、機能ごとにベッドに求められる条件をまとめてみました。施設ではともかく、在宅の方々の様子を拝見すると、本人さんの身体機能や介護状況とベッドの形状とが、不適合としか思えないような場面をよく見かけます。(極端に低いベッドから無理に立たそうとしたり、など)まずは、必要な道具を必要な状態で準備すること、それが本人さんの機能を活かし介護者の負担を減らすための第一歩となります。