老人介護についての個人的HP-2 介護福祉機器-(45) 腰曲がりさんの杖
皆さんの回りではどうですか?表題の「腰曲がりの方の杖の持ち方」。私にとってはずっと前から「う〜ん…」と思っていることの一つです。
つまり、腰の曲がっている方が一本杖をついている場合、それがT字杖であっても「黄門さまのように“横持ち”をしたがる」という現象です。このHPでは『機器の(8)一本杖の種類・長さの決め方・使い方とメンテナンス』で、腰の曲がった人の杖の長さの決め方については触れていますが、この件については取り上げていません。ようやく私なりの見解をまとめましたので、以下に収めておきます。
図1をご覧ください。これは「普通に」杖をついている様子を横から見たところです。この時、ある程度「杖に体重をかける」として、身体の働き方・筋肉の働き方を考えてみるために、関節の運動方向が矢印で示してあります。
図1 普通の杖姿勢
こうして図を見ながら考えてみると、「杖をついて身体を支える」ためには、大まかに言って次の3つの力が働くようです。@肘関節の伸展筋力(肘を伸ばす力)A肩の伸展筋力(腕を後ろに振り下げる力)B肩甲骨の下制(肩甲骨を下へ引き下げる力、俗に言う“肩をすくめる”の反対の動きで、プッシュアップする時に働く力)です。なお、問題となっている手首の部分は、杖と上肢を固定しています。それから、解剖の基礎確認ですが、上腕骨は肩甲骨にくっついていて肩関節を作っていますね。
この、普通に杖をついている姿勢の時に杖を地面に押し付けている力は、@の肘を伸ばす力とAの肩を伸展する力はそれほど大きいとは思えません。むしろ、肘を伸ばしたまま・肩は屈曲〜伸展中間位置で「固定」している、という方が適切なようです。従って、杖をついてある程度体重を支えてバランスを取るには、Bの肩甲骨を引き下げる力がポイントとなってくるように思われます。
次に、腰曲がりの場合を同じように考えてみます。まず最初は図2の様子。つまり、腰・膝が曲がりつつ、上肢を真っ直ぐに近い形で下垂させた場合です。これは、せっかく杖をつくのに、効き目が低そうです。腰曲がりの場合には重心が前後方向に崩れやすいのに、真っ直ぐ下垂させたのでは、支持面積を広げることができません。
図2 支持面積が狭く前後方向のバランスがとりにくい
そこで、今度は図3のように腕を前の方へ伸ばして、杖を前方にやや遠くつくような姿勢にしてみます。この場合、杖で体重を支える力は、Bの肩甲骨の下制の力だけでは不十分です。上半身が前方に傾いて腕が前方に屈曲しているために、杖をつく力の方向と肩甲骨の下制の方向が一致しません。したがって、Aの肩を伸展する力が大きく働くようになるようです。これは、いささか大変です。肘は伸びた状態で肘の伸展筋力は肘を固定するだけの働きしかしていません。

図3 支持面積は広いが、肘を伸ばしたままだとAの力しか効かない
そこで、よりダイナミックに肘を伸ばす力を杖が地面を支える力に活かそうとすると、肘を曲げないといけなくなります。曲がった肘を伸ばそうとする力を、杖が地面を支える力に利用しようということです。つまり、図4の姿勢です。杖を前方に身体から離してつきつつ、肘を曲げます。これでバランスもとりやすく、肩を伸展する力と肘を伸展する力も効かせて、効率良く杖をつく力にできそうです。日頃の「腰曲がりばあさん姿勢」に近づいてきたでしょう?(^_^;

図4 肘を曲げることで伸ばす力@を、杖が地面を支える力に利用できる
この姿勢で、普通のT字杖を正直に持つと、写真1のようになります。上肢と杖を固定する手首が、とても無理な形を強いられているのが分かります。これならば、写真2の「黄門さま待ち」の方が、図4の姿勢をとるのに、はるかに自然で楽です。

写真1 写真2
つまりここまでの全部で、「黄門さま持ち:横もち」したがる理由、というわけです。改めてポイントをあげると、
a:身体真っ直ぐの場合と腰曲がりの場合では、杖をつく時の身体の使い方・筋肉の使い方が異なる(らしい)。
b:その結果、上肢全体の姿勢も異なってくる。
c:腰曲がり姿勢に効率的な腕の格好の際には、手首と杖の関係は「T字杖持ち」よりも「黄門さま持ち=横もち」の方が、自然で楽。
ということになります。なお、以上の文章で、やたらと「思われます。」とか「…のようです。」という言い回しが多いのは、例えば筋電図形を積分して、それぞれの姿勢における筋作用の按配を、客観的数値的に把握したとかいうわけではないからです。(したくてもできない、というか、自分ではあんまりしたいとも思わないけど…(^_^; )その意味で、以上の説明はあくまで『仮説』です。学術的な環境をお持ちの方で興味のある方がいらっしゃたら、ぜひご確認願えないでしょうか?m(..)m あるいはすでに、このようなテーマで学会発表や論文化までされている方もいらっしゃるかもしれません。そのような資料をご存知の方がいらっしゃたら、ぜひご教示ください。(←↑「科学的とは?」みたいなページをまとめた直後なので、ちと神経質になっている。(^_^; )
でもまぁ、以上のように考えてみれば、じゃあどうしたらいい?という話につなげることができます。つまりは、「現状で“黄門さま持ち”しやすい杖となっているか?」ということですね。答えは簡単、まったく準備されていません。介護用・医療用として準備されている一本杖は、ほとんど全てがT字型・もしくは機能型という握りであって、杖を横から持つことを想定したものは無いと思います。
そうすると、T字杖を横持ちする状態となります。『せっかく買ってあげた杖をあんなふうに持って…年寄りって頑固でやだねぇ…わけ分からん!まぁ好きにさせとけや…』なんて思われたり、握った指がズズーッと下にずり落ちそうになったり、腰曲がり婆ちゃんも大変です。
でも、最近はあるんですね。『横持ちするための機能的な杖』が。それは、スポーツ用品点に売っている『トレッキング用杖』ですね。これは、上からT杖のようにも持てるし、横から持っても手がずり落ちたりしないように、ちゃんと形ができています。全体の見た目もスマートでかっこいい!ただ、これって精一杯短くしても、腰曲がり婆ちゃんにとってはまだ長すぎてしまう人もいると思います。それに、お値段はどうかな?
それから、日頃のケア場面で杖を横持ちしている方がいらっしゃたら、ぜひ横持ちしている手掌部の下の方に、「ひっかかり」の段差をつけてあげてほしいんです。今回、私の方では、ヒモと手ぬぐいで写真3のようにしてみました。必要時間15分。(^_^; 本人さん、結構喜んでくれて写真4のように歩いていかれました。

写真1 写真2
高齢者生活用・介護用品としての杖も、こんなふうにバリエーションが広がってくれたらいいのに…、なんて思います。なお、このテーマについてはすでにあるメーカーさんが「製品化の検討作業」に入っています。そのお話が実現するかどうか?は別として、私自身がイメージする形は図5のようなものです。横持ち部分が杖に対して真っ直ぐではなくて、少し前方にお辞儀しているのがミソですね。PT・OTさんにはすぐお分かりの通り、手関節の機能形態からの要求です。

図5 こんなのが欲しいな…
私としてはこのページに限らず、アイディアなりに「権利と報酬」を主張しようとは思いませんが、もしも製品化してみようか?という業者さんがいらっしゃったら、ぜひ一言お声をかけていただきたいと思います。甘いと言われるかもしれませんが、最低限の仁義は通していただきたいなぁ、と思います。と、あえて書くのは、この5年のうちには…まぁ、止めときますか…(^_^;