老人介護についての個人的HP-ギャッヂアップの多用はちょっと待った:2
珍しいことに「次回更新予告」までしているのに、遅くなって申し訳ないです。自分の中ではもう3・4ヶ月前にはまとまっており、最近の研修会では盛んに以下の内容をお示しして訴えているのですが、HPページにはなかなかまとめきれないです。何せ、誰が見ているか分からないしね〜。(←当たり前のことなんだけど、今頃になって怖いなぁとも、最近はつくずく思います。(^^ゞ )
では、単刀直入に行きましょう。(ゴチャゴチャは後に回して・・)ギャッヂアップはどこまであげてよいか?利用者さんごとに判断する方法です。例えば女の子の体操選手みたいな人は、どこまでギャッヂアップしても苦しくはないでしょうし、綺麗に長座位で座っていられると思います。私なんかは、健常の割には非常に身体が硬いので、おそらく45度以上もアップするとすぐに苦しくなると思います。(どこがどう苦しくなるのか?は、あとで詳述します。)つまり、『ギャッヂアップ許容範囲は、利用者様ごとに違う。』ということです。
では、看護職の皆さん、介護職の皆さん、その判断方法を学校で習いましたか?きっと、そんな人はいないですよねー。PT・OTの皆さんはどうですか?授業にはなかったと思いますし、でもまぁ、解剖学・運動学的に考えてみれば何となく、理屈はつけられそうな気がしますよね?
以下はまぁ、そんな私のへ理屈です。ではでは・・。
@フラットなベッドの上に臥床してもらい、できる限り膝を伸展してもらう。(他動的に最大伸展させる)
写真の方は、膝の伸展はこれで精一杯です。

写真1
Aできるだけ伸展した膝をそのままに、下肢全体を持ち上げ股関節を屈曲させる。(他動的にSLR、目一杯する)

写真2
この時、膝を曲げこんでいけば股関節はもっと屈曲できますが、それではギャッヂアップした際に全下肢屈曲不良姿勢を作るだけです。また、膝を曲げないように下肢全体をもっと持ち上げていくと、股関節が屈曲するのではなくて骨盤が持ち上がってきます。もちろん、それもダメです。できるだけ膝を伸ばしつつ骨盤も持ち上がらない程度に、どこまで下肢全体をあげられるか?を確認します。
Bその時にできる、背中〜お尻(坐骨)〜踵の作る角度(写真3)が、その方のギャッヂアップ精一杯の角度です。

写真3
これ以上、足を持ち上げては下肢や骨盤の姿勢が崩れてしまうのでしたね。この写真を・・

写真4
このように角度を変えても同じことですし、理解しやすいかもしれません。つまり、これ以上には足を持ち上げてはいけない=背中を起こしてはいけないんですね。写真を見ると、写真1に比べて写真2・3・4では、本人さんの左手が『これ以上は、も・もうやめてぇ〜』の手つきになっていることが分かるでしょう?(^^ゞ つまり、本当にこの角度が膝も曲げこまず骨盤も後傾させないギリギリの角度、この角度で長い時間は無理でしょう。一定時間、ギャッヂアップ姿勢を続けるならばもう少し下げないといけないし、その上で頭に枕や肩甲帯にも支持クッションなどが必要でしょう。それらが上半身に入ることで、上半身は軽い屈曲姿勢に動きますから、なおさらギャッヂアップ角度には余裕がないといけません。(上の写真の状態では、枕で頭を起こしてあげる余裕もありません。)
この角度は、整形外科で言うところのSLRと似てはいますが、微妙に違います。Straight Leg Rising は、体幹〜股関節〜大腿骨の作る角度を指しますが、この黄色線が示しているのは、体幹〜坐骨〜踵です。SLRよりもシビア(少ない)角度になってしまいます。
人の身体が全身で屈曲するとき、確かに体幹と下肢の境界としては股関節で屈曲します。しかし、ベッド上でギャッヂアップされた際に体重を支える(べきな)のは、「坐骨」です。

写真5
写真5をご覧下さい。これは、横から見た骨盤が、少し後方に倒れているところです。SLRで計るのは、赤い線の角度で、その中心は股関節です。(膝に屈曲拘縮があることを想定して、大腿骨が少し上方に向かっているところをイメージして作図しています。)
しかし、実際のギャッヂアップされたベッドの床面は、黄色の線です。つまり、体幹(背中)と大腿骨ではなくてあくまで踵を結んだ線ですし、その折れ曲がりの中心は、明らかに股関節というよりも体重を支える坐骨付近にきます。(写真5では、お尻の肉の厚みをイメージしてあります。)
つまりだから、ギャッヂアップする軸に合せる身体の部位は、臥位状態において股関節=大転子ではなくて、坐骨結節部であるべきです。
実は言うと、上の「だから・・」と「ギャッヂアップする軸・・」の間には、かなり細かい議論が可能ですし必要でもあるのでしょう。股関節にしろ坐骨結節にしろ、その上には生体軟部組織がかぶさっていますし、ベッドの床面にはベッドマットの厚みがあります。だた、その細かい検討は私の取り扱える範疇からははみ出てしまうように思いますし、メーカーさんの研究部門とか研究職の方々に期待したいと思います。ただ、私個人は、上の写真5一枚から「直感的」にでも、赤文字のように思っています。もう少し納得していただける説明を、下のほうで行ないます。
以上の議論が、基本というか、必要最小限です。
しかし、こんな単純な考察からも、現状の介護場面について色々なことが思い浮かんできます。
おまけ1:現状でのギャッヂアップ姿勢
以上の議論・結果は、あくまでベッドの上でちょうど良い位置に身体が臥床しているところをスタート地点として、想定しています。では「ちょうど良い位置」とはどこか?というと、上にも書いた通り『ギャッヂアップしてくるベッドの軸位置が、臥床している本人さまの坐骨付近にあること』だと思います。股関節部、ではなさそうです。それで、体表解剖をパッとイメージできる医療職さん方は想像していただきたいのですが、では現状でギャッヂアップされている方々は、身体のどこで折れ曲げられているか?という問題があります。ギャッヂアップの軸は坐骨どころか、おそらく股関節にも届いていないことが大半で、骨盤の途中や腰椎部で折り曲げられている方がほとんどではないでしょうか?
これには、それなりの理由があるようにも思えます。つまり、写真2・3のように足の上がらない方でも、骨盤は寝かせたままで腰椎部で起こせば、何とか上半身は起こされる、ということです。ただし、その際には骨盤は寝たままですし、腰椎から胸椎が強引に屈曲させられますから、胸腔・腹腔が押しつぶされます。呼吸は早くなり痰が絡みやすくなり、嘔吐しやすく、間違いなく、恐ろしく苦しい姿勢です。
つまり、必要以上・許容範囲以上のギャッヂアップが行なわれると、(例えギャッヂ軸が坐骨にあっていたとしても)下肢全体を縮み曲げこむか、(ギャッヂ軸が腰椎部にずれていれば)体幹が押しつぶされるか、どちらにしても苦しい姿勢となります。そして、長期間にわたってギャッヂアップさせられている方は、その両方の変形をきたしてしまっていることが多いのではないでしょうか?つまり、下肢・体幹とも屈曲し、固まってしまいます。
おまけ2:現状のベッドのギャッヂアップ軸と人体の関係
では、実際のベッドのギャッヂアップ軸は、どうなっているのでしょう?以上の説明を読んで、皆さんの職場で確認していただけばよろしいのですが、とりあえず職員をモデルにしてウチの施設で使っているベッドについて、確認してみました。(ここではとりあえず、どのメーカーのなんというベッドなのか?ということは、問題にはしません。現場の一例、です。)

写真6
まず、ベッド上で「自然な位置」に臥床してから、少ぅしだけギャッヂアップしてみました。本人さんの坐骨はボールペンの位置です。どこからベッドが起き上がってきているか?肘の高さ辺りになっているでしょう?なんと、「胸腰椎移行部」付近です。

写真7
そのままギャッヂアップ続けたところです。坐骨の位置は写真6と変わっていません。このベッドは、角度をあげるにつれて折れ曲がり軸が足元に移動していく、というベッドです。この段階で、ベッドは本人さんの骨盤稜辺りにきていることがわかります。つまり、腰椎部が曲げられ上半身が起こされた状態で、骨盤はまだ寝たままに近い状態です。本人さんいわく「お腹が苦しい・・」

写真8
苦しいままでは可哀想なのでギャッヂアップ角度はそのままで、楽になるよう「座りなおし」をしてもらいました。頭側に移動する形になります。坐骨の位置はボールペンの位置まで(頭側へ)移動しています。写真5の黄色線に近い状態ですね。実は、枕をずらすのを忘れてしまって、頭の下にあった枕が「肩甲帯サポート枕」になってしまっています。つまりその枕の分だけ、より上半身が起こされた状態ですが、本人さんは写真7に比べて「ずっと楽」な状態です。

写真9
ところが、その楽なギャッヂアップポジションからギャッヂをフラットに戻すと・・頭がベッド頭板にぶつかってしまいました・・。
結論:この職員に対してこのベッドでは、(起き上がり軸が移動するという特性を踏まえても)ギャッヂアップする軸位置が、頭側すぎます。軸移動しなくても、最初から写真6・7のボールペンの位置から起き上がってくれると、随分楽に快適に使えるベッドになると思うのですが・・・。
では、職員モデルではなく、実際の要介護高齢者さんではどうなのか?どうなっているのか?ぜひ、ご自身の目で、確認してみてください。
おまけ3:ギャッヂアップ軸は臥床している状態での坐骨結節の位置で、の根拠
では、改めて「ギャッヂアップの軸は、臥床時の坐骨結節の高さに合せるべき」という、このページでの主張内容の一つについて、もう少し説明します。上の写真8、これはギャッヂアップした状態でより安楽な姿勢に座りなおした状態でした。それで、この姿勢でギャッヂアップ軸は、坐骨結節の下に来ています。つまり、写真5の黄色線の状態です。この状態から、ギャッヂアップを戻したのが、写真9でした。写真8から写真9の状態に骨盤とベッドが倒れていって、写真9の状態でギャッヂアップ軸は寝た骨盤の大転子の高さでしょうか?坐骨結節の高さでしょうか?坐骨結節の高さですよね?違うかなぁ〜勘違いしてるかな〜?逆に臥位状態からギャッヂアップするのであれば、最初からギャッヂ軸が坐骨結節部にあれば、素直?に写真8のようになると思うのですが・・いかがでしょう?
おまけ4:専門職・医療介護従事者として
「機器のコーナー(18)ギャッヂアップベッドの多用はちょっと待った?!」のページをアップしたのが、平成11年2月です。同じく「機器のコーナー(3)ベッドについて」の内容をすっかり入れ替えたのが、平成16年6月です。今こうしてこのページを作りながら、なぜ平成11年の段階でこのページでお示ししたような内容を追加記載しなかったのか?少なくとも平成16年には追加できなかったのか?自分自身を、非常に悔しく申し訳なく思います。私自身がギャッヂアップベッドの問題を意識しだしたのがもう15年以上前、若手のPTの勉強会で「ギャッヂアップが全然患者さんに合っていないよな〜」なんて文句を言い合ったものです。自分自身のサイトで、きちんと問題提起と解決のための指針?までをお示しするのが、平成17年晩秋まで遅れたことを、悔しく思うわけです。
15年以上も前、「時間が経てば福祉用具=ベッドもだんだんと良くなっていくのかな?」と期待もしていたと思います。確かに、在宅介護場面でも電動3モーターベッドが当たり前の時代にはなりました。しかしそういう、値段とか見た目の問題ではなく、根本のところで何も変わっていない、むしろ社会の高齢化が進み制度も整備されることで、使用者=かえって弊害を蒙る方も増えているのではないか?そんな気がしてなりません。
遅ればせながら、ですが、以上のような気持ちでギャッヂアップベッドに関する問題提起と、解決の指針くらいにはなってほしいと、このページをまとめました。