老人介護についての個人的HP-ギャッチベッドについての学術的文献の紹介
まーしつこく何年越しでギャッチアップにこだわってきているわけですが、それは、『ギャッチアップという“ケア”が、もしかしたら(実態として)要介護高齢者さんの健康に、決定的な悪影響を与えているのではないか?(場合によっちゃ、生命の危機をも・・)』という疑問を、強く強〜く感じざるを得ないから、です。で、色々勉強しようと思っても、なかなか資料がないんですね。何せ、「“ギャッチアップケア”の資料」として、拙HPが引用されることがあるくらいですから。(^^ゞ
それでも、今回一つ見つけました。非常に有益な内容であると同時に、「学術的に最先端」であっても、まだまだ重要な未検討要因があるじゃないか?!という面もあるので、このページでご紹介します。このページ作成に当たり、出版社さんへ引用・転載の許可をお願いしたのですが、残念、「却下」でした。(^^ゞ (図の一個くらいは良いそうです。助かった!)そこで、ここでは内容の“要約”という形でご紹介します。
こんなふうに堅苦しい学術的なものは読む気がしね〜!という方も多いかとは思います。ところで私としては、そろそろ『ギャッチアップベッドは“こう”使いましょう!』というまとめ作業をしたいな〜と思っているのですが、実はその内容に対しても、この文献は具体的な“指針”を与えてくれています。ので、紹介しますし、この論文以外にも興味深い論文が満載なので、ぜひ一冊まとめて読んでみたら!とお勧めします。
臨床看護 Vol32 No12 2006年10月臨時増刊号 特集●新・ケア技術のエビデンス (2,310円、へるす出版:〒164-0001 東京都中野区中野2-2-3 TEL:03-3384-8035)
おー、そのものズバリ!見つけたときは嬉しかったですよ。以下、論文内容の要約です。
●はじめに
本稿では、ギャッチベッドを使用して・・「背あげ」・・「背さげ」をして体位を整えることに焦点をあてる。
●日本における半坐位とファウラー位とギャッチベッドの歴史的検討
・明治43年 甲種看護教程
『呼吸困難時には「枕等」を挿入することにより、上半身を起す。』との説明あり。
・昭和12年 看護学教程草案
『呼吸困難時には「毛布等」を挿入することにより、上半身を起す。』との説明あり。
・昭和25年 看護学下巻:外科学および看護法
ファーラー位の紹介。『手術後の体位として、最もしばしば用いられるのがファレル
Fowler氏の体位であろう』『これとても、ながいあいだとっていることはむつかしい。この位置をとらすときは徐々に行なうことがたいせつ。急激に頭部をあげると貧血、メマヒをおこす。足部は少しあげただけでよい。』 図1の腹腔滲出液排出ポジションが股関節90度屈曲位なので、『足部は少しあげただけでよい。』と記述?

昭和25年 看護学下巻 文光堂 p1443
・昭和30年 最新看護学教程
半坐位にする手順の説明、および凭架の紹介。(凭=もたれる、凭架=ヒョウカ?:大渕)『一人の看護師が患者を坐位にして起して支え、補助者がベッドレストや枕をベッド上にセットし、そこに静かに下ろす。』との説明あり。「一旦起してから、安楽な姿勢に落ち着かせるのであって、“臥位から起す動き”は途中に過ぎない」との注意喚起。
・昭和25年〜昭和35年 国産ギャッチアップベッドの開発。病院への普及。
同時に、「Fowler氏の体位=腹腔内炎症性滲出液の効率的な排出姿勢」という意味から、「ファーラー位=半坐位と同義」という意味にとられるようになる。「ギャッチアップ」は和製英語であることへの注意喚起。
大渕:残念ながら大久保先生の歴史的検討は、ギャッチアップ姿勢およびギャッチアップベッドが病院に普及するところまでで終わっています。
しかし、そもそもギャッチアップ姿勢が、あくまで『治療のための姿勢』として認識され運用されたこと、そして、普及一般化とともに、かえってその「治療的意義」が忘れられていったことが指摘されています。さらに歴史的検討を続け加えるとしたら、「真の適応検討、施行条件等の検討が行なわれないまま、介護場面へ流用されていった」というべきでしょう。つまり、この歴史的検証で使用対象者として想定されている「急性期患者」と「要介護高齢者」とは、身体状況なり使用目的なりが全く異なっていることは全く配慮はされず、それは今も変わらない、というべきでしょうね。
また、おそらく日本で一番最初期のfowler位紹介の図も貴重ですね。いいですか?オリジナルからして『骨盤は起きている』でしょう?というか、骨盤が起きていないと、腹腔内滲出液の排液ポジションにはなりませんがな。
●ギャッチベッドの操作とポジショニングの微妙な関係
・ギャッチベッド出現前 → 看護師の手によっていったん坐位にして、バックレストに静かに下ろす。
・ギャッチベッド出現後 → ベッドの動きで、臥位から半坐位に起して終了?
⇒ 『ある程度の時間、静的な半坐位でいるための準備としての動的なポジショニングは、ギャッチベッドの単なる背上げ操作では完了しない。』
その後、身体にかかる力として「圧縮応力」(単純な圧迫)、「引っ張り応力」(筋・腱が伸張されることで生じる力)、「せん断応力」(ズレの引きずる力)の3種類あることの説明。
●ギャッチベッドによる坐位・半坐位のポジショニング研究
上記それぞれの力や、ギャッチベッドの動きに伴う身体移動に注目した研究がいくつか紹介されている。背上げ軸と股関節位置との関係に注目した研究なども紹介されている。
大渕:しかし、要介護高齢者の場合にもっとも大きな“要因”となる「股関節屈曲に伴う膝関節伸展可動域の減少=ハムストリングスの短縮状態」と「脊柱円背」の影響に注目した研究はないようです。
また、背上げ軸と体の位置関係に注目した研究でも、ニュートラルとして背上げ軸と“股関節”を合わせており、個人的に判断している背上げ軸と“坐骨結節”を合わせるべき、という視点から検討されたものはないようです。
●ギャッチベッドによる半坐位のポジショニング〜抱き起こし(いわるゆる背抜き)の効果
ズレ力を逃がすための“背抜き”の重要性の説明。加えて、起した時のみではなく、下げた際も行なうことの大切さを強調。
大渕:確かに!臥床させた際には、“ずり下がる力”がかかったままになっていますね。(実際にベッドに臥床して、体験してみれば分かります。)
●ギャッチベッドを安全で快適に使用するポジショニングのエビデンスのための今後の課題
ギャッチ機能には、多くの要因が複雑に絡みあっている。
身体要因:骨の突出、筋の厚みと機能、皮下組織の厚みと弾力性、皮膚の状態と摩擦力の違い、腹筋・背筋を中心とした脊柱支持力、姿勢など。
環境要因:ベッドの構造と機能、マットレスの構造と機能、シーツの張力や摩擦、枕や姿勢固定具の使用、着衣の素材と摩擦、おむつの装着など殿部条件、テープ類などドレッシング材の有無など。
他の要因:呼吸に伴う肋骨の動きや小さな重心動揺、圧迫部の血流や筋肉の緊張と弛緩、皮下組織の弾力性の低下など。
→ 困難であっても実験室的に条件を整備し、エビデンスを重ねていく必要がある。臥位でいるよりもファウラー位の方が回復には効果的で、ギャッチベッドが開発され、医療技術や補助具が進歩してきた歴史に遅れることなく看護技術を進歩・開発させていくのは、われわれの責務であろう。
大渕:「股関節屈曲角度に伴う膝関節伸展可動域の変化状態=ハムストリングス短縮状態」と、「脊柱円背変形」が、決定的にギャッチアップポジショニングを悪化させる要因であると個人的には考えていますが、残念、意識・指摘されていませんね。まぁ、急性期の集中治療期の患者さんには、「廃用性の短縮」なんて起きていないのかもしれませんが、「要介護高齢者さんの生活道具」としては、見落とせない点だと思います。
●まとめ
ギャッチベッドを操作した後には、身体の向きや姿勢が変わったことで「体位変換を行なった」と考えることなく、身体が動いたことによりせん断力が生じることを念頭に、接触部の力を逃がすポジショニングケアをする必要があることを周知させていく必要があることは確かである。
大渕:ベッドを起して(寝かせて)お終い!ではマズい、ということについては、全面的に賛成です。反対に言うと、「身体が動いたことによりせん断力が生じることを念頭に、接触部の力を逃がすポジショニングケアをする必要があることを周知させていく必要があることは確か・・」ということは、2006年の段階で医療機関においても、それが当たり前になっていない、ということなんでしょうね。病院の看護師さんたちにできていないことを、生活支援介護施設でやれってか?(^^ゞ
いや、しなくちゃいけませんが。それから、論文の最後に多数の「引用文献」がまとめ紹介されています。この中からも、興味深そうなのは読んでみたいと思います。
ただ、論文表題の「上手に使うために」の具体的な項目は、『背抜きをしましょう!』の一項目ですね。シーホネンスの営業マンさんも一生懸命に言って回ってます。論文全体としては「上手に使うため、今後に必要な研究テーマ」というべき内容かもしれません。それも楽しみといえば、楽しみ!です。