老人介護についての個人的HP-円背の方の車椅子調整
掲示板の方でご質問がありました。
『悩み中さん〜円背のかたの食事介助:・・介助をすればいくらかは食べられるのですが、身体に力も入っておらず、右に左に傾きながらしかも頭は下を向いています。いくら声かけをしても頭が上を向きません。姿勢が悪い中食事をして頂くには色々と怖いです。時間を置くにも通所介護なので時間の制限もあります。 上を向いて(顔を起して)食事をして頂くのに良い方法がありますでしょうか。教えてください。 』
まー、様子が目に浮かぶようです。こういう方、多いでしょう?さてどうしましょう?ご質問のケースはおそらく、座位になっていると体幹が前に潰れる(もしくは横に崩れる)方で、私が『弱い円背』さん、と呼んでいるタイプだと思います。(体幹が重力に負けてしまっている状態ですね。)


写真1:左は健常な座位、右が円背に潰れて顔が下を向いている様子です。体幹が潰れて、手足が長く見えますよね?

写真2:実際にはこんな感じでしょうか?
step1:端座位保持能力の確認
まずは、その方が実際にどの程度の姿勢で座っていられるのか?どのような介助を体幹(背中)に加え、どの程度身体を後方に倒せば、顔が起せるのか?顔を起したら起したで、枕(ヘッドレスト)は必要ではないか?を確認します。より細かい手順は、以下の通り。
上のように潰れてしまう方に、まずは介助を加えて脊柱が少しでも伸ばせないか?確認します。まずは、一緒に端座位に座ってみます。

写真3
こんな風に、評価者に寄りかからせて座ってみる、という姿勢になります。評価者自身が、「背もたれ」になってあげるわけです。
まずはそこから、ゆっくりと丸まった背中が伸ばせないか?確認します。

写真4
本人様の胸骨部を押さえながら身体を起し伸ばしてみます。急に行なってボキッ!という大変ですから、ゆっくりと。
写真では随分と「身体を起しながら伸びてしまって」いますが、こんなに綺麗に伸びる方は珍しいですよね。でも、写真2の状態に比べたら、少しでもきちんと伸びる、という方は沢山います。
その際の、「骨盤の後傾具合」を確認します。

写真5
写真5では分かりやすいように評価者の身体を離してしまっていますが、写真3の形のままで、このような「支え」を加えてみたります。
後傾具合を確認するだけではなく、ちょうど良い支えが加わることで、少し背中を伸ばせたりすることも珍しくありません。
次いで、頭部への支持が必要でないか?確認します。写真3・4・5で、介助が加わることで体幹はほどほどに起せるようになっても、その段階で同時に頭部がきちんと起せているか?確認します。

写真6
さらに必要ならば、評価者の手を枕にして、頭を支えてみたりします。
また、体幹を後傾させるとお尻が前にズルズルすべってしまうような方は、

写真7
こんな風に膝下に、丸めた毛布などを挟んで、少しティルティングしたりします。(写真のように足が浮いてはいけません(^^ゞ )
step2:その方にとって安定した座位時の身体各部位置関係確認
写真3〜7の作業で、その方なりに体幹と頭部を起せる安定した座位姿勢が確認できたら、その段階での身体各部の位置関係を確認します。

写真8
この写真では本人だけで座っていますが、もちろん実際には評価者が支えたまま、です。横から見たときの、頭部・肩関節・一番後ろに飛び出た背中・股関節・膝関節・足部の位置関係を、しっかり確認します。心眼に焼き付けてもいいし、こんな風に写真に撮れれば一番よいでしょう。
この、本人様なりに一番安定した座位姿勢を、車椅子で再現していくわけです。
step1:2の評価作業、面倒くさそうですか?そうですねーいかにもPTの作業ぽく見えるかもしれません。ここまでをすっ飛ばして、突然以下の「車椅子調整作業」に取り組んでも、うまくいくかもしれません。でも、この評価作業を行った方が、確実に成功率も効率も上がります。なお、この座位になっての評価の前に、本当はベッド上臥位で下肢の関節可動域の確認もしておきたいところです。このページではその詳細は省きますが、よろしければ08年3月に発売された「中央法規:おはよう21:2008年5月号」の私の連載記事をご覧ください。
step3:リクライニング/リクライニングティルト車椅子利用による調整
さて、ここで一般的な「円背の方の車椅子座位姿勢」を確認してみましょう。

写真9
掲示板にも書いたとおり、丸まった背中の一番飛び出たところが車椅子の背もたれに当たっていませんか?
お尻は座面上で前にすべり出ていますし、骨盤の後ろに大きな隙間ができてしまっています。肩甲骨の辺りは反対に、前に出てしまっていてやはり支持されていません。
つまり、背中の一番飛び出たところ「一点」でしか、支えられていないわけです。これでは座位が安定せずますます潰れてしまい、頭を起すどころではありません。そこで、リクライニング車椅子を思い切って・・・

写真10
思い切って、リクライニング機能をこのようにあわせてみます。つまり、背もたれの後方倒れの角度を、(評価手順で明らかになったその方にとってちょうど良い)骨盤の後傾にあわせるんですね。さらに、人によっては・・

写真11
このようにティルティングして、少し全体を上向かせます。写真5と写真7を、一度に車椅子で行なっているわけです。
でも写真10・11のようにすると、背中から肩甲骨辺りに、大きな隙間ができてしまいます。そこをですね、縦横にクッションやバスタオルロールで埋めてあげるわけです。
さらに必要ならば、ヘッドレストも準備してあげるわけですね。もっとも、このセッティングの背もたれの上方に枕が付いていても、ほとんど役に立ちません。色々と工夫することになります。
写真11では、写真10に比べて「座面〜背もたれの角度」は変えてありません。全体として、「やや上向き」にしてあります。それとともに、胸椎辺りを少し起してあげて顔が前を向くようにしてありますが、頚椎〜頭部の伸展は強めてはいません。
取り急ぎ説明すると、大体こんな感じです。「写真11」みたいにしてうまくいくの?こんな形にしているのは見たことがない!と感じる方が多いのではないでしょうか?
残念、今すぐ実例写真をあげることができません。私の関わっているケースで具体例さんもいますから、数日中に実際の様子を写真でアップします。写真11に極めて近い状態の方です。
ここまで一旦アップ後、以下、つけたし。

写真12
例えば、こんな方がいます。この写真の状態で、写真9に近い状態です。背中の一番飛び出たところで背シートに当たり、お尻は前にすべり出て膝が突き出ています。で、本人さんの体幹・顔は、前に潰れています。この車いすは、リクライニング・ティルティングがそれぞれ独立して調整できるので・・

写真13
こんな風にします。背シート倒しのリクライニングを、丸まった背中全体ではなくて、むしろ「後傾した骨盤」に合わせて倒します。すると、(背シートが背中の飛び出たところで当たらなくなりますから)座面上でお尻を座面奥まで引けるようになります。また、背中が押されなくなるので、身体と頭が起きます。それでも前に潰れていくようなので、写真12よりもティルティングを加え、全体を少し上向にしています。つまり、これが写真11に近い状態です。(リアル感は、この実物写真が当然ですが、理屈は骸骨CGの方が理解しやすいね。両方準備できる“良い時代”です。しかし改めて写真13では、手足が長く見えるでしょう?)
写真12・13の方は、08年3月に私から写真13のポジショニングアドバイスを与え、写真13で1ヶ月過ごしてもらったアップ時点で、「食事の食べがよくなりましたぁ!」とのことでした。よかった!ただ、この方は、リクライニングとティルティング調整だけで済んでしまい、背中の上半分の大きな隙間は、空いたままになっています。つまり写真5のように、後傾した骨盤とせいぜい下部腰椎にちょうど良い支えが当たっただけで、円背なりに座位が安定してしまったんです。

写真14
この写真14の方なんかは、12・13の方よりは円背がひどくありません。また、引力に負けて潰れていくばかりでもありません。「少し強い円背さん」です。ということで、車椅子フレームを左右に絞って背シートを緩め、その分、飛び出た背中を後方に逃がしています。写真14右写真の、左右の銀フレームを結んだラインが本来のパーンと張った背シートの位置ですから、グワッ!と背シートの緩んでいることが理解できますよね?でも、それだけでは背シートを「後傾」させたわけではないので、本人さんの骨盤から下部腰椎の支えは、やはり乏しい状態です。そこで、2本のクッションを ( ) の形に当てて、丸まった背中の隙間を埋めています。まぁ、他にも色々な「埋め方」があるでしょう。
さて、以下は↑こういう方々に対して、特に「食事摂取」を意識して姿勢をみる「視点」です。もっとも、以下は既アップの 食事の援助について〜食事の“相”と姿勢を中心に〜 からの、「一部分抜粋」です。
まず、口腔の傾きをしっかり見ます。普通の姿勢では、口腔内は「やや下向き」になっています。(写真15) で、この傾きは、体表からは『唇の端と耳の穴を結んだ線』で目安とします。

写真15
青線が、大体の口腔内の傾きを表しています。「そしゃく能力」が低下してきている方の場合、嚥下そのものよりも、この「送り込み」に苦労される方が沢山います。

写真16
この方なんかは、一応標準型車椅子に座っていることはできるのですが、食事は送り込みに苦労して、凄い時間がかかった上で量が食べられない、という状況でした。そこで、

写真17
口腔の傾きが水平に近づくよう、食事の際はここまで倒すこととしました。ここでは省略しますが、青線で示す口腔の傾きとは別に、「嚥下しやすい首のうなずき角度」は維持しないといけません。それが円背者さんの場合・・、

写真18
円背を真似している彼、このままお茶を飲めると思いますか?口腔の向きとか顔の向きは普通ですが、実は頚椎部分で激しく伸展している(反っている)んですね。これでは飲み込めません、むせます。(強力な“送り込み”機能を利用しつつ、写真18から顔を“真下”に向ければ、飲み込めます。)実は写真13でも、口腔の向きは自然な姿勢に近づいていますが、頚椎は「伸展傾向」です。日中は写真13で過ごしてもらって良いかもしれませんが、このままではもしかしたら特に「水物」で、ムセが発生するかもしれません。その時は、食事の時のみもう少し、ティルティングを強めて頚椎の反りを緩めてあげないといけないかもしれません。
以上、『円背』にスポットを当てた「座位姿勢評価」「車椅子調整」「食事への配慮」でした。このページ内容だけで、十分研修会が持てるね (^^ゞ