老人介護についての個人的HP-ギャッチアップケア09年のまとめ

ギャッチアップケアについて09年時点でのまとめ
〜問題点と対応〜

 すっかり『オオカミだぁ〜!』状態の私ですが「ギャッチアップケアについて、“とりあえず”まとめます!」と書いて、もうどれだけ経つでしょう?掲示板で北海道のBooさんにも約束したので、いい加減まとめます。

 このHPではすでに、

(18)ギャッヂアップベッドの多用はちょっと待った?! H11,2,26 H17,6,10 文章追加
(54)ギャッヂアップ許容範囲(角度)の判断法〜試案〜 H17,11,18
(55)2007HCR国際医療福祉機器展:参加目的と収穫:何でギャッチアップベッドは“こう”なのか?! H19,10,28
(56)ギャッヂアップベッドの多用はちょっと待った!:3ギャッヂアップベッドのもう一つの問題点〜膝軸の位置〜 H19,10,31
(58)ギャッチベッドとポジショニングについての学術的文献の紹介 H20,4,8

 と、ギャッチアップについてまとめてきました。足かけちょうど10年(^^ヾ このページでは、あえて以上の既存のページとのダブリもアリにして、とにかく現状での私の見解をまとめておきます。

※問 題 意 識

●どうして、ギャッチアップをしている人には、・下肢屈曲拘縮、・脊柱円背変形、・頚椎過伸展固定状態、の「変形セット」が多いのか?

●普通にギャッチしているその様子は、何だか難儀そうではないか?

●時にニュースに流れるギャッチアップベッドの使用にまつわる「事故」は、↑これらの問題/疑問点と無関係ではないのではないか?

 

Tギャッチアップケアの歴史と目的 詳細は(58)ギャッチベッドとポジショニングについての学術的文献の紹介 H20,4,8

●明治43年に看護学教科書に、「呼吸困難時の姿勢」として紹介されている。

●昭和25年に看護学教科書に、腹腔内手術後の排液姿勢として紹介されている。

図1 昭和25年 看護学下巻 文光堂 p1443

 説明図として「骨盤を体幹とともに起さないと、排液効率は上がらない」、つまり、『fowler位とは、“骨盤が起きる”』ことに注意!

●その後、「経管栄養時の逆流防止姿勢」として用いられる。

●医療場面から介護場面に普及するにつれ、「座位の代価姿勢」としての位置づけが強まっていった。

※以上、ギャッチアップの目的は4つ。

@安楽な呼吸のため
A腹腔内滲出液排液ドレーンのため。
B経管栄養時の逆流防止のため。
C手軽な座位(の代わり)として。

 

U現状でありがちなギャッチアップケアの問題点と原因


図2                   図3

 この写真は、ありがちなギャッチアップ姿勢として典型的なものです。あまりに普通に見られる様子なので、不自然には感じられない方もいるかもしれません。しかし、これはあくまでギャッチアップ不良姿勢である、と考えています。図2の腰部を、横から撮った様子が図4です。


図4

 赤い線が骨盤の大腿の位置・姿勢です。ベッドの上で、「骨盤が寝たまま」で、上半身が起されていることが分かると思います。図3でも、その様子が伺えますね?このように骨盤が横臥したままで脊柱だけで上半身が起されると、以下のような“不都合”が色々と生じます。

・必要以上の脊柱屈曲 ・椎体圧迫骨折〜身体変形 ・胸腔狭小化 ・浅薄呼吸
・腹部圧迫 ・嘔吐 ・呼出力低下→窒息 ・筋緊張亢進
・頚椎伸展顎だし変形 ・不顕性誤嚥 ・仙骨部褥瘡 ・上半身の横崩れ

 まだまだ上げられるかもしれません。これらは本当に深刻な問題を引き起こしており、『必要以上に高齢者の健康を害し、場合によっては死亡事故など生命の問題に直面している』と認識すべきです。では、何故このような問題が起きているのでしょうか?

 原因@:ベッドの背上げ軸が臥床している利用者の身体に比べて、「頭側すぎる」
 原因A:背上げ軸と足上げ軸の軸間距離の問題「遠すぎる」
 原因B利用者ごとの「身体柔軟性=可能ギャッチアップ角度評価」が、普及〜運用されていない
     =可能角度を超えて起されている場合がある。
 原因C:完全に平面な背ボトム面
 原因D:アップすると下膨れするビーズ枕
 原因E:30度半側臥位における頭頚部ポジショニング
 原因F:フカフカなだけで支持性ゼロのエアマット

 現状で私は、以上の原因を上げています。このうち、@〜Bはギャッチアップベッド上で不良姿勢になる「根本原因」、C〜Fは円背変形や頚椎過伸展変形を増悪させる「要因」と考えています。

原因@:ベッドの背上げ軸が臥床している利用者の身体に比べて、「頭側すぎる」

 図4の写真を改めて確認し、ベッドがどこから起きているか?を確認してみます。するとこのベッドの場合には、図5の赤丸のところからであることが分かります。ここを上に伸ばしていくと、臥床している本人様の「腰椎部」に位置していることが分かります。これでは、「骨盤が寝たままで、背骨起こし」になるのは当然ですね。ではこの方は、ベッド上で足元側にズリ落ちている=結果として背上げ軸があがってしまっているのでしょうか?もう一度、図2の全体の様子を確認してみてください。極端にズリ落ちている、という状態でしょうか?むしろ、『ベッド上で自然な位置で臥床している』というべきではないでしょうか?「自然に臥床して自然に使うと、“こうなる”のです。」


図5

 「背上げ軸」が臥床している利用者の「最低限、股関節」、理想的には「坐骨結節の高さ」に位置していれば、骨盤も脊柱と一緒に起きるはずです。図5でいうと坐骨結節の高さは、骨盤を示す『赤横線の左端』あたりです。

原因A:背上げ軸と足上げ軸の軸間距離の問題「遠すぎる」 (詳細は、(56)ギャッヂアップベッドの多用はちょっと待った!:3ギャッヂアップベッドのもう一つの問題点〜膝軸の位置〜 H19,10,31

 図6をご覧ください。


図6

 上の骸骨さんは、まだマシな状態(骨盤が起きている状態)ですが、下骸骨さんは骨盤が横臥したままで腹腔・胸腔が押しつぶされています。この姿勢の違いはなぜ起きているのか?といえば、原因@で書いた「背上げ軸の位置」の問題でもありますが、もう一つの原因がこの図では示されています。それが、『背上げ軸と足上げ軸の距離の違い』ですね。図7の通りです。


図7

 背上げ軸と足上げ軸の距離が使用者の体格に比べて遠すぎると、「足上げすると上半身がズルズル引きずりおろされる」という現象が起きます。


図8

 図8の状態でギャッチアップしたらどうなるか?やってみるまでもありませんが、例えばカタログをどんなに見ても「背上げ軸〜足上げ軸間距離」なんて数字で説明はされていません。そこで、実際に販売されているギャッチアップベッドの軸間距離はどうなっているのか?実測してきたデータをこのページの末尾で「XおまけA」として、紹介しますね。

原因B利用者ごとの「身体柔軟性=可能ギャッチアップ角度評価」が、普及〜運用されていない=可能角度を超えて起されている場合がある。(詳細は、(54)ギャッヂアップ許容範囲(角度)の判断法〜試案〜 H17,11,18)

 例え、背上げ軸が身体に合っており、背上げ〜足上げ軸間距離が利用者の体格に合っているとしても、身体が柔らかい人は沢山起しても大丈夫でしょうし、反対に身体が堅い人に対して硬さを無視して起せば、当然姿勢は崩れるでしょう。つまり、『利用者ごとにどこまで起して良いか?』の評価方法が、いまだに普及しておらず運用されていない、ということが、ギャッチアップケアにおける問題発生の原因の一つになっています。

 以下に改めて、「可能ギャッチアップ角度評価法」を消化しておきます。


図9

まず、膝をできるだけ伸展させます。この方の膝はこれ以上伸びません。


図10

 できるだけ伸展した膝をそのままに、下肢全体を持ち上げ股関節を屈曲させてみます。この時、膝を曲げこんでいけば股関節はもっと屈曲できますが、それではギャッヂアップした際に全下肢屈曲不良姿勢を作るだけです。また、膝を曲げないように下肢全体をもっと持ち上げていくと、股関節が屈曲するのではなくて骨盤が持ち上がってきます。もちろん、それもダメで、ギャッチアップ時には「骨盤が後ろに倒れる」という動きになります。できるだけ膝を伸ばしつつ骨盤も持ち上がらない程度に、どこまで下肢全体をあげられるか?を確認します。


図11

 その時にできる、背中〜お尻(坐骨)〜踵の作る角度(図11の黄線)が、その方のギャッヂアップ精一杯の角度です。これ以上、足を持ち上げては下肢や骨盤の姿勢が崩れてしまうのでしたね。この写真を・・


図12

 このように角度を変えても同じことですし、理解しやすいかもしれません。つまり、これ以上には足を持ち上げてはいけない=背中を起こしてはいけないんですね。写真を見ると、図9に比べて図10・11・12では、本人さんの左手が『これ以上は、も・もうやめてぇ〜』の手つきになっていることが分かるでしょう?(^^ゞ

 つまり、本当にこの角度が膝も曲げこまず骨盤も後傾させないギリギリの角度、この角度で長い時間は無理でしょう。一定時間、ギャッヂアップ姿勢を続けるならばもう少し下げないといけないし、その上で頭に枕や肩甲帯にも支持クッションなどが必要でしょう。それらが上半身に入ることで、上半身は軽い屈曲姿勢に動きますから、なおさらギャッヂアップ角度には余裕がないといけません。(上の写真の状態では、枕で頭を起こしてあげる余裕もありません。)

原因C:完全に平面な背ボトム面

 ベッド面は、一応完全なフラット面となっています。背上げ軸よりも上の面を「背ボトム」と呼びこの面が「背中を支える」わけですが、この面も当然「平面」です。ところがギャッチアップベッドを利用している人はすでに円背傾向にある、もしくは原因@〜Bのために円背にさせられており、背中が丸まっているわけです。当然、フィットしません。よく見かけるのは、丸まった背中の肩甲帯あたりが浮き気味になり頭が後ろに落ちている、という様子です。これが「ギャッチアップ変形」になっていると思わざるを得ません。ベッド面だけではなくて浮き気味の肩甲帯を支える支持帯やその延長に適切な頭部支持(枕)が必要だと思います。その実際の様子は、対応のDで。

原因D:アップすると下膨れするビーズ枕

 ところがさぁ・・病院や施設でよく使われている枕で「ビーズ枕」、あれがギャッチアップ時には最悪です。ギャッチアップすると、「枕が下膨れする」んです・・。図13は、骸骨君で原因Cと原因Dを一度に表現した様子です。


図13

原因E:30度半側臥位における頭頚部ポジショニング

 ギャッチアップベッドを利用しているのは当然より重度の障害をお持ちの方々のわけです。そういう方々には絶えず褥瘡発生の危険が付きまとっています。褥瘡発生のリスク管理の方法として「30度側臥位」というのがあります。仰臥位では仙骨面が圧迫し、完全側臥位では大転子が圧迫します。殿筋部で体重支持して、仙骨面も大転子部もできる限り除圧しようというのが、30度側臥位です。で、現場では30度側臥位のままでギャッチアップすることもあるんですね。ところが30度側臥位の目的が「褥瘡予防」のものですから、頭の位置や姿勢が無頓着なままで放置されてしまっていることが少なくないようです。

 つまり、体幹は30度側臥位状態で、左右どちらかの肩甲帯が浮いた状態なのに、頭部は仰臥位の姿勢まま=頚椎が伸展し頭が後ろに落ちている、という状態です。これを毎日(左右交互に?)やっていれば、それは頚椎変形固定してしまいます。(図14は、ウチの小柄なスタッフをモデルにして再現した様子です)


図14

 

原因F:フカフカなだけで支持性ゼロのエアマット

 同じく、ギャッチアップベッドに「エアマット」を併用しているケースも少なくないというのが、実態だと思います。ただし基本的には、「ギャッヂアップベッドとエアマットは“併用禁止”」というのが原則のはずです。ベッドにマットが押し曲げられ潰れ、一番身体の圧が係る部分で除圧効果がダメになってしまいます。反対に、体幹から頭部は空気が逃げてきて膨らみ、そこに身体が沈み込んで、変形を強めている、そんなふうに思えます。

 

V現場ですべき対応

 要するに、原因としてあげた7項目について、きちんと対応していけば良いわけです。一応、項目ごとにコメントしますね。

 対応@:ベッドを選ぶ
 → 原因@:ベッドの背上げ軸が臥床している利用者の身体に比べて、「頭側すぎる」
    原因A:背上げ軸と足上げ軸の軸間距離の問題「遠すぎる」

 きちんとベッドを選びましょう。レンタル代が一月あたり100円安いとか、施設納入時に一台単価が1万円安いとかも大切ですが、同時に「利用者にとってはどうか?」特に原因@・Aの「ギャッチアップ性能」に関することにこだわり、選択したいものです。もちろん、利用者の体格は様々ですから、全てのケースに共通して「このメーカーのあれがいい!」とは言えません。ただ同時に、これまでは「値段」「見た目のデザイン」あとはせいぜいが「キャスアーの操作性」あたりでしかベッドを選択する要素しかなかったのではないでしょうか?

 対応A:ギャッチアップする前に、十分に頭側へ臥位移動する
 →原因@:ベッドの背上げ軸が臥床している利用者の身体に比べて、「頭側すぎる」

 ギャッチアップする前に、ベッドの頭板に本人様の頭がゴツンとぶつかるか?!というところまで、十分に臥位移動しきましょう。一旦ギャッチアップすれば、どうしても多少はズリ落ちが生じます。そのままギャッチアップをもどしても、ズリ落ちた身体は上方へ戻ってはくれません、ズリ落ちたままです。そのままで次のアップをしたら、「背骨起こし」になってしまうのは当然です。

 重度な障害をお持ちの方に対して、一人の介助者で安全安楽に臥位移動するのは大変です。そこで、「スライディングシート」を活用しましょう。職員一人に一枚とは申しません。「居室一部屋に一枚」スライディングシートを具備できませんか?「スライディングシートの使い方」は、次のHP更新の際に紹介します。

 対応B:合わない足上げ機能は使わない!
 →原因A:背上げ軸と足上げ軸の軸間距離の問題「遠すぎる」

 合わないのであれば、例え3モーターベッドでも足上げ機能は使わないことにしましょう。しかし、それではずり落ちが生じやすくなります。では、どうしましょう?   

 
 図3 足あげ軸が遠すぎて上半身が引きずり降ろされた様子

 そんな時は諦めて、最初から足あげ機能は使わないこととします。それで、どうやってギャッチアップに伴う上半身のズリ落ちを防止するか?ギャッチアップした骨盤〜坐骨の下にクッションを置いて、そこで体重を受けるようにします。クッションを膝の下に入れるのではなく、あくまで「クッションの上に座る」という感じです。


図15 クッションで体重を受けた様子

 図3では、骨盤が寝たままで背骨で曲がり起こされていることが分かりますね、それに比べて図15ではすっきり胸が伸びていることがわかります。図15では下腿部が浮いていますから、決して「ベスト」ではありません。しかし、図3よりはずっとマシだと思います。

 このクッションは、まず少しだけ背あげを行い、ずり落ちの生じないうちにクッションをはさむようにします。お尻の方へ押しつけるように、ですね。それから可能な範囲内で背上げするようにします。もちろん、対応@・対応Aをきちんと行った上で、ですね。

対応C:可能な範囲内でのアップにとどめる
 →原因B利用者ごとの「身体柔軟性=可能ギャッチアップ角度評価」が、普及〜運用されていない
     =可能角度を超えて起されている場合がある。

 原因Bで説明した「その方にとって可能な範囲内」にギャッチアップ角度をとどめること、です。

対応D:上半身〜肩甲帯から頭のポジショニングにも気を使う
 →原因C:完全に平面な背ボトム面
 →原因D:アップすると下膨れするビーズ枕
 →原因E:30度半側臥位における頭頚部ポジショニング
 →原因F:フカフカなだけで支持性ゼロのエアマット


図2 不良ギャッチアップ姿勢1    図17 改善した様子1     

 
図3 不良ギャッチアップ姿勢2     図15 改善した様子

 図2・3に比べて、図17・15では改善が得られています。それぞれに対応@〜Cをきちんと行っていますが、それに加えて、肩甲帯から頭部にかけて気を使い、結果として頭が図14のように伸展位で固定されてしまわないようにしています。

 ギャッチアップに伴い、不顕性誤嚥を防ぎ誤嚥性肺炎を防ぐためには、どうしても「頭頚部の姿勢」にこだわらないといけません。もっともそれ以前に、対応@〜Cがいい加減でギャッチアップした姿勢全体が崩れていては、「頭頚部だけ良い姿勢」にすることも無理です。


 さ、いかがでしょうか?2009年夏の現時点で、私自身がギャッチアップケアについて研修会でお話したり、雑誌や書籍に書いたりしていることは、大体↑こんなことです。一読いただくとわかるとおり、「たとえ重度な障害の方でも、個別の評価と対応が必要」だということが、ご理解いただけると思います。私は、ここにまとめたような「ギャッチアップケアの実践」が、『介護施設における“重度化対応”の基本』項目であり、同時にきわめて大切な点だと考えています。


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