老人介護についての個人的HP-2 介護福祉機器- (7) 車椅子抑制/安全帯、その他の工夫

車椅子抑制・安全帯(及びその他の工夫)について

 車椅子に座っている時に使う「抑制帯・安全帯」というのをご存知ですか?車椅子からのずり落ち防止や姿勢保持のために使われるもので、正しく使えば大変に有用なものですが誤った使い方をすると「拷問具」となってしまいます。(^_^; そこでこのページで「車椅子抑制帯・安全帯」の種類と適応についてまとめてみます。

(99年2月、厚生省から“介護保険施設でのあらゆる抑制一切禁止”方針が出されましたが、一律にダメ!という以前に、抑制の目的や適応、抑制以外の手段をもしっかり考えてみることが必要だと思いますので、このページはこのまま残しておきます。H11,4)

※車椅子抑制帯・安全帯を使う目的

ズバリ、以下のようにまとめることができます。

  1. 良姿勢保持のため(ずっこけ座りや、反対に屈んで前方に転落するのを防止するため)

  2. 行動抑制のため(不十分な歩行能力の方がフラフラ立ちあがり転倒するのを防止するため、など)

  3. 点滴や経管栄養を抜いてしまうのを防止するため

 それぞれに相応しい抑制帯の種類・方法があり、また抑制帯以外の面でも工夫ができます。以下にそれらや、あまり好ましくない「抑制」の状態をまとめます。

※良肢位保持のための抑制・安全帯、その他の工夫

 ずっこけ座りの防止には「股ぐり座面部から陰部〜腰部を後方に固定」することが必要です。屈んで転げ落ちるのを防止するには体幹〜脇のした辺りでくるりと回して固定してあげることが必要です。

 写真1は、股ぐり座面からベルトを回してずっこけ座りになるのを防止するベルトです。実際にはベルトをお尻の下に敷きこんで、股ぐりから起こす形になります。これでずっこけ座りは確実に防止できますね。
 写真2はベルトを胸の高さで回して固定しています。ただ、あまりに屈む力が強い場合には、胸を圧迫して呼吸困難になってしまいます。その際には胸だけを圧迫しないように肩まで回すタイプのもの(写真6)が良いでしょう。

 

           写真1 股ぐりベルトでずっこけ防止    写真2 胸ベルトで屈み転落防止

ずっこけ・屈みの他、車椅子上で身体が左右に傾いてしまう方もいらっしゃいます。その際の工夫もあわせてここで紹介しておきます。 写真3は、ご覧になって分かる通り既成品の車椅子に棒を付け足してあります。柔らかいラバーで棒を包んであります。これで極端な左右への傾きは押さえられます。

 写真3 左右への傾きを支えるバーの工夫の例

 写真4は、車椅子の背シートを緩ませてゆったりとってあります。お尻に比べて背中が後ろに飛び出してしまう円背の方や座位能力が落ちてきていて身体をしっかりまっすぐにしていられない方に、良肢位をとってもらうのに大変有効な方法です。例えば円背の方に、このような工夫をしないで股ぐりベルトでお尻を座面奥に固定してしまうと、背中が押されて反対に「おじぎ座り」になったり背中が痛んだりします。本来はすぐにベルトを使用するのではなくて、まずは車椅子の規格そのものは使用者に合っているのか?合っていないから不良姿勢となるのではないか?そのチェックや対策が必要ですが、これは私のようなリハビリ専門職や車椅子製作者でないと、完全なチェックは難しいかもしれません。
 ただ、円背者に写真4のような工夫をしてあげると、前後方向に身体が安定するだけではなく、背中〜肩が車椅子縦フレームの間に入りこむような形になるため、左右方向へも大変に安定が良くなります。ぜひ、試みて欲しい方法です。既成品の車椅子の背シートを、図1のように張りかえるだけでも効果があります。

 

写真4背シートを緩ませた車椅子  図1既成品車椅子背シートの張り替えで緩ませ 

 その他、最近は良肢位保持を目的とした座面クッションなども販売されています。(写真5)


写真5 良肢位保持用座面クッション

※行動抑制を目的とした抑制帯・安全帯

 実際には安全には歩けないのに勝手に歩いて転倒する方や車椅子の上で騒いで転げ落ちる方などには、安全確保のための抑制帯・安全帯が必要となることもあります。「程度」によっては写真1のようなベルトでも安全確保できるかもしれませんが、これでは不十分ということもあります。その場合には写真6のようなタイプが良いでしょう。両肩までベルトを回して車椅子の背シートに体幹を固定する形となります。このように安全確保しても、腕や手や足は自由に動かせますね。もっともその動かせる足で前の壁やテーブルを蹴って、車椅子ごと後ろにひっくりかえりそうになる方もいらっしゃいます。その場合には車椅子のステップバーを延長したり、本当に騒ぐ方には写真7のように工夫してひっくり返らないようにしています。

 

写真6「車椅子キーパー」  写真7 ステッピングバーの工夫でひっくり返り防止 

写真6と写真7を合わせて実施すると、かなり「騒ぐ」状態でも確実に、そして腕は自由ですから最小の拘束感で安全を確保することができます。特に在宅者さんで痴呆のため夜中に興奮して外に飛び出そうとしているような方の場合に、ご家族が一晩中身体を押さえつけていることを思えば緊急避難的に行なっても有用ではないか?と思われます。(もっともその上で、そばにいてあげて欲しいとは思いますが)それから、このタイプでも繰り返しお洗濯などすると生地が弱くなって、破られてしまうことがあります。写真8をご覧ください。写真6と同じ製品ですが、胸元がビリリと引き裂かれてしまっています。これを破ったのは92歳のお婆さんで、ここから抜け出て車椅子の座面に立ちあがったそうです。(^_^;

写真8 胸元を引き破られた抑制安全帯

※点滴や経管栄養の抜去防止のための抑制

 さて、一番深刻なのが実はこれです。点滴を抜こうとされるならば、腕〜手自体を固定しないわけにはいきません。そこでまずは、点滴針は足背に設置する、その上で写真6のタイプのものを用いれば、もう手は足まで届きませんから手の抑制は不要になりますね。(反対に足くびの固定が必要かもしれませんが・・)鼻への経管栄養の管を抜こうとされる方には、同じく写真6のタイプに、手首ではなくて「肘」を車椅子に固定抑制すれば、手先は動かせますがバンザイの方向に持ち上げることはできず抜去を防げそうです。(写真9、肘抑制はベッド上抑制の場合にも使えます)何にしても、できる限り「手先の自由だけは確保する」よう工夫はすべきですね。

 写真9 肘の抑制、せめて手先は動かせます

※不適切と思われる車椅子抑制の例

 一通り、私の経験の範囲から「車椅子抑制の方法と適応」をまとめてみました。以下には「これはちょっと・・」と思える事項、場面を例としてあげてみます。

 例えば行動抑制のために車椅子上で手首を縛ること、これは行動抑制も不十分な上に本人さんのストレスも大きく、明らかに不適切な方法と思われます。

 また、写真10では普通のひもを車椅子上抑制に用いていますが、専用のベルトに比べると良肢位姿勢保持としても行動抑制としても不充分です。(写真でもズッコケ座りになっています、また足に対して緩い分、抜け出せてしまいます)道具の準備が間に合わずひもを使う場合には、写真9のように座面前端からひもを伸ばすのではなく、写真11のようにお尻の下から回した方が、まだ効果的です。(もっとも足の付け根に細いひもが食いこんであまり望ましくないですが・・)

 写真10 ひもで抑制も不十分

写真11 ひもでの腰部の抑制方法

 それから車椅子ベルトとして、昔の自家用車の後部座席シートベルトのように腰部〜お腹に回すだけのベルトがありますが、これは良肢位姿勢保持用としても行動抑制用としても不十分です。これは、何もなくてもしっかり座っていられる方が、屋外などを結構なスピードで介助移動する際の「もしもの時」用です。


 さて、98年夏にこのページをアップした後に、「抑制〜安全帯」についての大きな社会的な動きがありました。(→ 車椅子安全帯使用についての行政指導〜厚生省介護保険施設における抑制一切禁止方針)左記のページでは、このページのような技術的な側面からではなく社会的な側面からこの問題を取り扱うと同時に、私自身一部マスコミ報道との絡みも生じながら事態は進展しています。(そのことについては後ほど左記ページにてまとめてご報告いたします。)厚生省方針の是非や妥当性はとにかく、社会制度がそのようになっていく以上、“現場”ではそれに対応していかなければいけません。それも既に多くの施設で実践が始まっていることと思います。

 その具体的な例の一つとして、ある老人病院のPTさんが中心になった取り組みをご紹介します。

 このページの「※良肢位保持のための抑制・安全帯、その他の工夫」のうち、「その他の工夫」の範疇に属するもので、その名も「トマット」さん!(「止まるマット」の意味ですな。(^_^; )お風呂用マットを切って車椅子用座面としたものです。(写真12) 

写真12 バスマット利用車椅子座面「トマット」さん
http://www01.u-page.so-net.ne.jp/gd5/comcom/link27.htmlより、転載。

 この工夫をご紹介下さったのは、横浜緑協和病院PT:長尾亜紀さんです。以下にコメントをご紹介します。


老人病院で理学療法士をしている長尾です。老人病院に限らず、医療の世界はこれからますます変化していくと思われます。その中でリハビリテーションスタッフの一員として患者さんにできることは何かを考え、実践していく必要を感じています。

 「トマット」を使うことにより、車椅子からすべり落ちそうだった患者さんの姿勢が驚くほど良くなり、安心ベルトが必要なくなりました。

 また、表情の変化や摂食能力の向上も認められています。ぜひ、みなさんも試用して感想や改善点などをお聞かせ下さい。

 左の写真は、厚手の白い浴室マットを使う人の体型(お尻)と車椅子の寸法に合わせてU字型に切り抜いたものです。なお、割れている側(写真手前側)を車椅子の奥に向けて敷きます。実に簡単、これだけでOKです。

 右側写真の車椅子座面で横に白く見えるのが『トマット』です。写真の患者さんは、以前は15分〜30分おきくらいに体を引き上げなければいけませんでしたが、『トマット』使用後はほとんどその必要がなくなり、よく訴えていたお尻の痛みも聞かれなくなりました。

 参考までに、バスマットは柔らかくはさみで切れるもの(500円位)を使用しました。製作時間10分、製作費用250円、問題は耐用日数です。是非、試した上でHPに紹介して下さい。

長尾 亜紀/ 理学療法士 anrpt@d1.dion.ne.jp


 長尾さん、ごめんなさい、今現在の私の職場は未だ入院入所施設がないので、今すぐ効果を試してみることができません。知り合いに提案し、試して結果感想をお届けすることをお約束しますので、一足先にご紹介させてください。(^_^;

 無責任?な国の方針に対しても、「高齢者のため」に力になれるのは、あくまで「現場」です。そのことを改めて教えてくれた長尾さんの実践報告でした。

(追記として、本人さまのお手紙の一部もご紹介しておきます。『・・患者さんにあわせて、どちらかの骨盤を上げたり、前を上げたりしていって欲しいので・・・。作り方も詳しく載せていないのは、「自分で考え、患者さんに合うものを作り出して欲しい」という気持ちからです。』とのことです。)


 さてさて、私も関与している特養さんで「トマットさん」を応用してみました。結果報告いたします。

 私の方で試した入所者さんは、「片麻痺で介護型車椅子を片足駆動しているが、ずっこけてくる」という方です。姿勢保持のためにこのページでもカタログ写真紹介している「機能クッション」を使っていますがそれでも不十分で、しかも座面前方がせりあがっているため片足駆動しにくく、それでなおさらお尻を前に出してしまうのでは?と思えるケースです。

 この方へのクッションとして、既にあるクッションと同じ高さを確保しなければいけません。そういう都合で「浴室マット」を2枚重ねとし、オリジナルトマットさんと同じく座位保持を目指すと同時に片足駆動するのに邪魔にならないように工夫しました。写真13がそれです。これを既成品クッションのカバーにしまいこんで使っています。

 

写真13

写真の奥の楕円部でお尻を安定させ、向って右側の切り落とし部分で片足駆動する足が楽に操作できるわけです。

 結果、グッドです。(^o^)/ 写真14のように日中長時間を車椅子で過ごしています。それでも以前のように、ずっこけに崩れることはありません。

写真14

 写真15を見ると、患側はしっかりトマットさんが支え、健側は片足駆動するのに邪魔にはなっていないことが分かります。

写真15

 素晴らしいアイディア・効果です。これで姿勢保持や機能という点では、1万円〜数万するクッションに少しもひけをとらないどころか、私の報告ケースのように完全に個別ニーズに応じた形で安価に作ることができます。

 カットは私はカッターナイフを使いましたが、しっかりした「発泡スチロール用電熱線カッター」があれば、切り口を綺麗に斜めにすることもできそうです。これから折に触れ、使う技術となるような気がヒシヒシとしております。皆さんもぜひお試しください。

 さて、ここで紹介している『バスマットを利用した座面クッション』ですが、実は大きな難点がありまして、このページ末尾に追記しておきます。


不適合車椅子の応急対応の例

 ついでに具体的な対応の例を、もう一つあげておきます。

 写真左では、ずっこけ座りになってしまっています。この方はとても小柄で、お尻を座面奥にすると座面前端が膝裏の下腿後面を押してしまいます。それを避けようとすれば、当然、お尻が前にずれてずっこけますね。足置き板も前方に遠すぎて、膝を伸ばすことになりますから、なおさらずっこけます。一旦ずっこけると、痴呆と身体障害の問題からどんどん程度がひどくなってしまいます。そこでそれを抑えるために、股ベルト抑制が使われたり、この方の場合は「ずっこけているのならば…」とばかりに、リクライニング車椅子に「寝かされて」いました。あるケアワーカーさんが「どうにかならないか?」と私に相談してきて、2人で行なった工夫が写真中です。奥行きのありすぎる座面前端を少し折り曲げ、左右で針金で止めてしまいました。また、足置き板も前過ぎるので、キャスターの回旋に邪魔にならない範囲で後ろに伸ばしてあげました。この2点のちょっとした改造で、写真右のようになりました。以後、ずっとこれで過ごしてもらって特に問題はありません。

 もっとも、これで全て解決、という訳ではありませんね。後ろに引いた足置き板が小さくしかとれないから足をゴソゴソさせる余裕がありません(そうできないのも難儀だと思います)し、側板も高すぎて腕を動かしにくそうです。

 それでも…写真左のずっこけ姿勢にしてもリクライニングにしても、例えば食事は摂取しにくいですね。車椅子の自力駆動や座っている時の視点など、写真左と右では随分違うのではないでしょうか?ただ、写真中央は事務長さんあたりに『何を備品破壊している!』と怒られそうだな…(^_^;


バスマット利用座面クッションからのバージョンアップのお勧め!

 さて、上の方で紹介しております『バスマットを利用した座面クッション』についてですが、実は大きな難点があります。それは、『しばらく使っていると、マットが体重でウスウスに潰れてしまう』ということです。このページをご覧になった方の中には、そのたびに作り直している、という涙が出るくらい律儀な方もいらっしゃるようですので、私のコメントを寄せておきます。

 このように長期的には実用にはなりにくい物をサイトに掲示しているのは、『バスマットのような安価で手に入りやすい素材で、座面調整の作業や効果を、気軽に体験してほしい』ということからです。ただ、これは上記のように長期的な使用に耐えるものではありません。そこで、最近は既製品でよい座面クッションも増えてきましたし、「自分で色々いじってみたい」ということならば、バスマット以外の建築材〜壁中に張る断熱材のようなもので使えそうなものもあります。

 ただ、「車椅子座面調整の基本」としては、ただちにマット〜クッションに飛びつくのではなく、シート地のヘタリから取り組むことを基本とすべきであると、現時点(H15春)では考えています。そのことについては、(41)車椅子座面の「へたり」改善 でまとめてありますので、こちらをご覧になってください。

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