老人介護についての個人的HP-5 思索 - (15)騙さないでください、隠さないでください

騙さないでください、隠さないでください

  施設職員の皆さん、皆さんの施設にこんな入所者さんはいらっしゃいませんか?以下は当病院の入院患者さんの言葉です。
『「ちょっと検査してもらうだけだから・」と言われてここに来たら、置き去りにされた。だからどうせ会いにも来てくれない。今度また家のモノが来ることがあったら、どうせまた別の所に連れていかれるんこってさ。』(この一文はあくまで私の“創作”ですが、実際にこれに近い内容の嘆きを聞いたことがあります。)

 また、ご夫婦のうち一方が入院入所中に、その妻もしくは夫が亡くなってしまうということ。そんな時に亡くなったことを本人さんに隠しておくという事態。知らないご本人さんは「こないだまでは会いに来てくれたのに、全然来てくれない・・」と嘆くということ・・。

 この一文を書く直接のきっかけになったAお婆さんのケースを紹介します。Aさんは特に痴呆はありませんが重度の身体障害で在宅介護生活が難しくなり、老健に入所されました。Aお婆さんは昔からお嫁さんと大変に仲がよく、Aさん入所後も頻回にお嫁さんはご面会にいらっしゃっていました。ところがこのお嫁さんが、山菜取り中の不慮の事故で急に亡くなられてしまったのです。ご家族は「あんなに仲がよかったのに、知らせない方が良いだろう。」と、本人さんにはそのことを隠されました。Aさんはお嫁さんがご面会に来てくれなくなったことを嘆き、「今日は来るか?明日は来るか?」とお嫁さんがいらっしゃるのを待ちつづけ、レク参加も離床もままなりません。初めに隠してしまった以上、途中で「実は・・」と切り出すわけにもいかず、事情を知る私たちは嘆かれるAさんにどう言えば良いのやら、悩む日々となりました。そのうちAさんは食欲も落ち全身状態が悪化され、病院へ転院されてしまいました。

 ・・ですから、入院入所の決定事実も親しい方の死も、できればきちんとご本人さまに伝えてあげてほしいと思うのです。もちろん、入院・入所の話を持ち出せば到底納得してもらえるわけはない、ということが多いでしょう。そして私はあくまで施設職員でしかなく、困難な場面に直面されるご家族のご心情が100%理解できる訳ではありません。それでもAさんのような方々のことを思う時、できるだけ、とお願いしたいのです。例えば説明しても、入院・入所についてご本人さまの納得は得られないかもしれません。でも、少なくとも事実はしっかり伝えてあげてほしいと思います。ご家族から伝えてさえいただければ、その後のご本人さまの嘆きは私たち施設職員の側でできる限り受けとめ、引きうけさせていただきます。ところが、これが騙され隠された状態だと、Aさんへの対応に苦慮したように、そのお嘆きを受けとめ引き受けることさえままなりません。

 「事実を知らない方が幸せ」それはその一瞬ではその通りかもしれません。でも、ほんの少し先のことを思えば、それがいかにご本人さまにとって残酷な仕打ちであるか?それをご理解いただけたら、と思います。
 Aさんも、初めにお嫁さんの死をきちんと伝えてあげたら、お葬式にも出席してもらいきちんとお別れを言ってもらい、お墓参りのための外泊だってできたに違いありません。

 そして施設職員の皆さんは、もしもご家族がご本人さまに「騙そう・隠そう」とされたら、「そうですか・・」ではなく「大抵の場合、先々に良い結果にはなりませんから・・」と、ご家族さまに説明できないでしょうか?ご家族さまにとっては「初めての経験」でも、私たち職員は同じようなケースを沢山見聞きしているはずです。「全体としてのご家庭への援助」として、そんなことも施設職員の役割ではないでしょうか?

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