老人介護についての個人的HP-5 思索 - (26) 福祉QCについて

福祉QCについて

 最近、福祉施設において「福祉QC」というシステムを導入しよう、という流れがあるようです。そのことについて、ちょっと…。(と書き出して、かなり長くなった…(^_^; )

●QCとは何か

 QCとは、Quality Control、品質管理手法のことです。これは、アメリカの経済学者さんだったかが開発した手法なんですけど、戦後の日本の企業で大々的に取り入れられ、日本経済成長の原動力の一部ともなった、と言われるものです。

 どんなものかというと、あくまで現場スタッフが自分の身近な業務の中から、改善すべき点を自分たちで見つけて、自分たちで改善していく、そういう『あくまで自主的なサークル活動』をしていこう、というものです。製造業では、不良品割合を減らそう!ミスを減らそう!時間の短縮化を図ろう!とか、ですね。

 それが、1980年代バブル経済の頃には、医療界に持ち込まれました。「経済をここまで押し上げたシステムなら、医療界でも!」って感じだったんでしょうか?私も精神科病院勤務時代にやりましたよ。その病院の庶務課長が病院QCの本を出していたくらいでしたから。ブレーンストーミング・特定要因図・パレート図の作成・目標の設定と効果確認…そして、施設を上げての発表会。

 で、今は福祉施設がやり出してる、というか、持ち込もうとしている流れがあるわけですね。「施設業務改善のために!」と謳っているようです。つまり、個別の入所者のケアは「ケアプラン」で、施設管理業務は「QC」で、っていうことでしょうね。

 う〜ん、正直言って、私自身はあんまり積極的にはなれません。どういう点が「ちょっと待て!」なのか、以下にまとめます。ただし、確かに役立つ部分もありますし、ただQCを否定すればよい!というものでもないですね。その辺りも順番にまとめてみます。

●「良いもの」か?役に立つか?

 QC活動を福祉施設で取り組もうとすると、以下のような感慨が沸いてくることが想像されます。(というか、私自身、病院勤務時代に経験しました。)

1:ただでさえ忙しいのに、時間ばかり取られる。

 QCってのは、時間がとられます。それも、グループサークル活動ですから、自分ひとりで時間を作ればよい、という訳にはいきません。グループ全員が、QC活動のために時間をあわせて集合する…。24時間体制の福祉施設でできますか?日中勤務だけの病院パラメディカルスタッフでも大変でしたよ。(^_^;

 本来QCは、例えば流れ作業をしている製造業の現場みたいなところで行なわれてきたものです。そういうところでは、全社的な方針のもとで、製造ラインを一時的にストップして、皆で一斉にQC活動に取り組んだわけです。そんな形が医療や福祉の現場でとれますか?私は結局、プライベートな時間とプライベートな場所を使ってやってましたね。独身だったからできましたけどね…。

2:QCに取り組まないといけない、という現実は恥ずかしいんじゃない?

 QC活動は、「(サービス)品質管理・(サービス)品質向上」のために行なわれるもので、そもそもは、『“流れ作業”をしている製造業の現場みたいなところで行なわれてきたものです。』(再掲(^_^; )そういう業務に携わっている方々は、自らの専門性として俗に言う「科学的手法・科学的思考」を持っていない職種さんのわけです。(個人ごとにはそれぞれでしょうけど、職種全体としてみれば・職種全体としての位置づけとしては…という意味です。

 だから、例えば医療職者がQC活動に取り組まなければいけない、というのは、とても『恥ずかしい』ことだと私は思います。QC手法としての「現状把握や現状分析、目標の立て方や効果確認の仕方」なんて学ばなくても、自らの専門性のうちにそういう思考パターンは身についているはずだし、それは患者さん個別に対する医療行為だけではなくて、結局は個々の患者さんのためになるはずの「業務改善」にも発揮されて当然だろう!ということです。

 だから、医療の現場でQC活動に取り組むと言うのは、「ウチの職員スタッフは、専門家としての思考のできない流れ作業スタッフばかりです。」と宣言することと等しいのです。介護・福祉スタッフさんも?なの?(^_^;

●QCで根本的な問題は解決するか?

 でもまぁそうは言っても、現場まかせでは実際に図られるべき業務改善が進まない、ということならば、QC活動にも取り組まざるを得ない、という面もあるとは思います。

 でも、「専門職とQC」というのは↑のような関係にあるわけですから、まずは、『QC活動しなくちゃいけないこと事態が問題なんだ!』という発想、それから、『その根本的な問題は、どんなにQC活動しても解決しない!』ということを認識すべきです。

 忘れられない光景があります。病院QCの発表会で、ある病棟看護チームが「水分摂取率をあげる」というテーマについて、発表したことがあります。味噌汁やお茶の残りを減らそう!というQC活動ですね。良いことじゃないか!と考えることもできますが、当時、QCについては冷淡だった関連施設の婦長さんが、「看護婦がQCで患者さんの命に関わる水分摂取を取り上げるとは何事か!あなたたち看護婦は、QCがなければ患者さんの水分確保もできないのか!」と怒ったんですね。至極もっとも、です。そういうことをQCで取り組んでも恥ずかしくない、そういう看護のあり方自体が問題のわけです。で、それはどんなにQC活動しても、改善はされません。他にも看護婦さんの手の常在菌数を減らすとか「おいおい…」ってのがあったなぁ。(^_^; だから私はQCで、PTとしての根本的なテーマには取り組まないぞ!という固い決心を持っていました。PTが「QCで寝たきり患者を減らす」とか、「QCで患者のADLを向上させる」なんてやり出したら、お終いだと思いませんか?

 はっきり書くと、「QCで成果をあげられるスタッフはQCが無くてもやっていける、ダメなスタッフはQCだろうがケアプランだろうが何を持ち込んでもダメ。」という、例の構図がここにも存在します。

●押し付けQCの実態

 で、それでもQC活動を押し付けられるとどういうことになるか?↑に書いたように看護職やPTとしての直接医療業務をQCで取り上げるのは懲り懲りだから、「申し送り時間の短縮」とか「情報伝達手段としての伝票について」とか、文字通り「業務改善」に取り組みますね。で、1年目・2年目は、QC活動で例えば確実で効率的な情報伝達を目指して、新しい伝票やその運用方法を作り上げる。で、そんなことを2・3年続けると、ステーションにやたらと伝票の種類が増えてくる。そこで、何年目かには「伝票の整理・統合」に取り組むわけです。数年サイクルでこれの繰り返し。(^_^; もう一度書きます。医療行為そのものをQCに取り上げたり、こういう↑業務改善で、本当に問題の解決になりますか?はっきり言って、くだらないですね、こんなQC活動。時間のムダ以外の何物でもありません。

 私個人としては介護職さんがQC活動で、「寝たきりを減らそう!」とか「利用者さんの笑顔を増やそう!」なんて取り組む姿は見たくありません。それに、ただでさえ忙しいのに、わざわざプライベートな時間を使って伝票を増やしたり減らしたりするのも、見るに耐えません。

●真に意味・意義のあるQCとするためには?

 でも、QCは確かに安価で高品質な日本の工業製品を生み出し、ひいては驚異的な経済成長を実現してきた、一つの原動力であることには間違いないのですから、ダメなものとばかりは言い切れませんね。では、医療や福祉の場においてQCが真に意味・意義のあるものとなるためには?私なりの考えを以下にまとめておきます。

※管理者さんたちへ、1

 QCは本来、「自主的なサークル活動」のはずです。であるならば、現場スタッフさんたちのQC活動参加は、あくまでスタッフさんたちの自由に任せてください。そして、活動しないことをマイナス評価材料とはしないでください。「参加してもしなくても構わないし、勤務評定も変らない。」ことを保証してあげてください。それで参加者してくれるスタッフやグループが少数であってもきちんとした発表会を行い、その場で成果はともかくも「自主的に活動したこと」に対して、最大限の賛辞を贈ってあげてください。

 「強制されているわけじゃないけど、上の顔をうかがって参加しないわけにはいかないか…」では不十分です。「きちんと参加しなくちゃ、スタッフ同士の間で恥ずかしい。」くらいの雰囲気が作られていかないと、QC活動する意味は無い、と考えます。強制されたQC活動がどのようなものになるか?は、↑に書いたとおりです。

※管理者さんたちへ、2

 QC活動するスタッフさんたちの「QC活動時間」をきちんと勤務時間として認めてあげてください。本来のQC活動は、自主的なサークル活動のわけですが、それも「製造ラインを一時、止める」「営業活動を一斉に休む」という雇用側の協力・負担があって、初めて実現できたのです。医療現場や福祉施設では、「皆で一斉に仕事を一時的にストップ」するというわけにはいきません。どうしてもプライベートな時間を使わざるを得なくなります。きちんと勤務手当てを出すなり、スタッフ数を増やすなり、雇用者側もきちんと負担してください。活動を強制しておいて、「本来QCは自主的なサークル活動だから、勤務としては認めない、手当てなんか出せない。」とか都合のいいときだけ建前を吐かないでください。「時間はやらない、金は出さない、成果だけは求め」て、現場スタッフがついてくると思いますか?

※管理者さんたちへ、3

 本来、非専門家集団の仕事の質を上げるためのQCを、専門家集団のはずのスタッフが取り組まざるを得ないという状況は、実はとても恥ずかしいことなんだ、という自覚を持ってください。協会が進めているから、とか、流行だから、とか、脳天気に取り組まないでください。(まぁ、それじゃどうせ長続きしないでしょうけど…(^_^; )「何とか大会」で『QCにより職場が活性化した!』ことを誇るような発表をしたりとか、そういう勘違いはしないでください。

※管理者さんたちへ、4

 QCは、職場の小グループで自ら行なえる改善の積み重ねで業務改善効果をあげていこう、というものです。で、QCを熱心にやればやるほど、「手元のささやかな改善」だけではどうにもならない問題というのが、段々と明らかになってきます。「現場でこそこそやってなくても、法人全体の体制が○○であればこんな問題は生じないのに!」みたいなことが明確になってくることが多いものです。

 その時、現場スタッフの頑張り・指摘に対して、管理者としてより大きな枠組みで改善に取り組むことができますか?現場に現場でできる改善をやらせておいて、結局大枠では何も変らない、というのでは、QCをやればやるだけ現場のやる気はそがれるだけです。だったら、何もしない方が良いですよ。(^_^;

 以上4つ、甘い!とお思いでしょうね。でも、それくらいに譲歩して自らも負担を負って初めて、それでもやる気を見せないスタッフさんに対して、「あんたは本当にやる気が無いんだね。」と言うことが許される、と思います。

※スタッフさんたちへ、1

 上に書いたとおり、「直接介護」業務そのものについてQCで取り上げる、なんて、自らの首を絞めるようなことはしない方がいいと思います。業務管理・施設管理手法の一部として位置付けるべきです。

※スタッフさんたちへ、2

 目に見える成果を上げることや、発表をきれいにまとめることよりも、「QC手法の習得」自体を心がけた方がお得です。渾然としたカオスのような現状から、要因を抽出整理して分析していくというQC手法は、確かにどんな場面でも役に立ちますし、数値で現状を把握し効果を確認する手法は確かに学ぶ価値があります。

※スタッフさんたちへ、3

 管理者さんが、上記「管理者さんへ、1〜4」とは正反対のような姿勢ならば、熱心に取り組むだけバカを見ますから、まぁ、2の「手法の習得」だけは別として、なるべく手を抜いて構わない、と思います。我々には我々の生活を守る権利があるはずです。(^_^;

 でも反対に、上記「管理者さんたちへ、1〜4」を全て満たすような管理者さんだったら、本当に自分たちも厳しい局面に立たされている、厳しい目で見られていると自覚された方がいいですね。

※福祉施設協会さんへ

 非専門家集団の場である製造業の現場で始められて成果があった、というだけで、福祉の現場でも、というのは成り立ちません。ここまで書いたように、職場環境・職種の性質があまりに違いすぎます。せめてその違いを踏まえ、形を変えたQCを提言していただきたいと思います。↑にも、その具体案はいっぱい書いたつもりですよ。それとも、「少し前に医療界でもやっていたから…」という単純な理由から「福祉界でも…」という発想なんでしょうか?いつまで『医療の後追い』をすれば気が済むのでしょうか?そういう「医療の後追い」体質が、例えば「抑制問題」に至っている、とは思いませんか?(医療の場で行なわれていたことを無反省に取り入れてるって意味で…)

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