老人介護についての個人的HP-3 施設家屋-(11) 高齢者の寝室・居室

在宅生活における高齢者の寝室・居室の満たすべき要件

 在宅介護についての本ではよく、「高齢者の部屋」として「南向きで日当たりが良く、換気も良くて適度な明るさ・湿度・室温を保つ部屋がよい」というように説明しています。

 しかし私は、実際の訪問指導の場面では、かならずしもそのようにはお話しません。要はこのような「物理的」な要因でのみ部屋を考えるべきではなくまだ他にも考え合わせるべき要因があると思えることと、「寝室」と「居室」はあくまで分けて考えるべきではないか?と思えるからです。具体的には以下の様になります。

 例えばまだまだお元気な方の場合には、その寝室は必ずしも上記のような大変に「居心地の良い」部屋でなければいけない、とは思えません。反対に居心地が良い部屋ではむしろ、部屋の中に「閉じこもり」となってしまいがちになるかもしれません。少なくともその可能性は考慮すべきだと思うのです。夜寝るだけならばむしろ日中も薄暗いようなお部屋でもよいのではないでしょうか?日中はそこから出てきて過ごす部屋が別にあって、むしろその「居間」の方こそを「居心地の良い部屋」にすることも大切だ、と思うわけです。

 さらに、例えその部屋の居心地が良かろうと悪かろうと、例えばご家族の部屋から遠く離れた部屋であるよりは、(きちんとプライバシーを守れる範囲で)ご家族からあまり離れていない部屋が良い、とも思えます。簡単にご家族同士で声をかけられるような位置関係になっていること、ですね。

 またお年よりが過ごす部屋が「家の玄関」に近いこと、というのも大変に良いことだと思います。誰が訪ねてきてもすぐに分かり、お客さんからも簡単に声がかけられるような部屋、そんな部屋が高齢者にとって望ましいと思えます。つまり、明るさ・室温といった「物理的」な環境だけではなく、このような「社会的」な要素も重視すべきだと思うのです。

 もっとも「物理的」な要素と「社会的」な要素、それぞれにどの程度重視するかは、ご本人さまの身体状況や性格、さらには日中ご家族さまが家の中にどの程度いらっしゃるか?といった様々な要因で変わってきます。例えばごく重度の寝たきり状態で実際に極めて離床することが困難な場合には、やはり物理的にできるだけ健康的な居心地の良いお部屋とするべきでしょう。


 さて、以上はあくまで私の独断的な内容ですが、「社会的な要素からも部屋位置の配慮を」という点について、本日訪問させていただいたお宅がそういう面では「理想的」と思える状況となっていたので、写真とともにご紹介します。

 このお宅は新潟平野の真ん中の田園地帯の中の小さな村中の家です。この方は若い時からずっと「表具職人」をされていた方で、今は起きあがれますが一人では起立できず、歩くこともできません。玄関に当たる部分は大きな土間となっていて、もとは電動作業場、ベッドの置いてある部屋は座り作業場だったそうです。で、ベッドに起きた本人さんから、そのまま玄関来訪者の応対ができます。(写真1)玄関から見ると、土間を隔てた部屋に本人さんが起きあがっているのがよく見えます。(写真2)小さな村の、それでもメインストリートに面していますから、通りすがりの昔からの知り合いさんが歩きながら「じじ〜起きてるか〜?」と声をかけてくれるそうです。

 

写真1                       写真2

 奥には新築増築した綺麗な部屋が続いているのですが、夜はご本人さんのベッドの脇に奥さんが布団でお休みになり、子供さんお孫さんが遊びに来ると、皆で本人さんのベッド脇で食事を摂られるそうです。訪問場面では自分が病気になって作業場をつぶすのは悔しかったとお話してくれました。こんな生活がもう6年続いているそうです。

 それやこれやのためでしょうか?お会いしてても「寝たきり老人」というイメージは全然ありません。結局私は何の指導もせずに帰ってきました。(車椅子ではお尻が痛い、とおっしゃるので、クッションの工夫をしてみるくらいでしょうか?)訪問の最後に最高の笑顔を見せてくれました。ご本人ご家族の承諾の上、ご紹介させていただきます。

写真3

 居間がほとんど表通りから丸見えなこと、誰でも気軽に足を踏み入れることなど、イナカ特有の“地域特性”の上に立った在宅療養生活で、都会地で全く同じような生活が実現できるとは思いませんが、少なくともこういった生活スタイルがご本人さまにとってプラスに作用しているのは間違いないことと思います。


 さてさて、以上の実例報告をご覧になった方から、以下のようなご教示をいただきました。

『昔から北西は主の位置であるといわれます。不思議な居住位置関係が親子関係に摩擦を生むこともあります。

 また、天皇家では皇太子さまのお住まいを東宮御所と呼び、浩宮様を東宮さまとよばれています。東は長男。跡継ぎの意味があるそうです。北は北の政所といわれたように、家庭では家長が方針を示し司るところです。

 訪問調査などでは 間取り図なんかを書き込む欄がありますね。そのお宅のお年寄りがその家庭でどのような役割をになっているのか、どこを居室・寝室にしているかでおよそが掴めていくのではと思います。』

 う〜〜ん、正直って私はこれまで、ご教示のような感性でもって在宅場面に関わることはありませんでした。↑のおじいさんも、表通りに面した仕事部屋を自分の居場所とするにあたっては、このような葛藤もあったのかもしれません。もはや自分が家長ではないということを受け入れた上でないと、確かに来訪者の応対なんてできませんね。(そりゃ、昔なら丁稚さんやお弟子さん、もしくは奥さんの役割ですね。)

 在宅要介護者の部屋の位置、それだけのことでもこのページに取り上げたような「医学的な要素」「社会的な要素」さらに、「日本の伝統」まで考え合わせて評価やアドバイスをしなければいけませんね。う〜ん、介護ってどこまでも奥深い!どんなに豊かな感性が求められる仕事なんだろう!と改めて気づかせていただいたご教示でした。

コーナートップへ ◆HPトップへ ▲総目次へ