老人介護についての個人的HP-3 施設家屋-(6) 施設大浴槽

病院・施設の大浴槽について(使いやすいものとするために)

 既にできあがった環境の中で働いている大多数の方にとってはどうしようもありませんが、HPをご覧の方でこれから建築にあたる、という方から問い合わせがありましたので、施設のお風呂(大浴槽と機械浴)について一気にまとめてしまいます。

※施設大浴槽規格の基本的な考え方

 で、まずは大浴槽です。病院や老人施設の大浴槽の基本的な考え方は、「老人福祉センター・老人憩いの家」のお風呂とは、全く別のものである、ということです。自転車に乗って「憩いの家」まで来る方が入るお風呂と、施設内をやっと歩ける方が入ろうというお風呂なのですから、構造は全然違って当然です。
 ですから、まずは温泉ホテルの大浴場のような『床に完全埋め込みの大浴槽』では全然ダメです。段差がないから良さそうにも思えますが、立ったまま歩を進めて床よりも深いところへ足を運ぶのは困難で恐いですし、座りながら入ろうにも一旦立位から床の上にお尻を下ろす動作〜床への立ち座り動作〜が必要となります。(しかもお湯で濡れている床で!)それが転倒事故の大きな原因となります。

※一般的な大浴槽の欠点

 そこで、一般的なのは「1・2ヶ所の階段、もしくはスロープの出入り口のある大浴槽」という形が常識のように作られています。(写真1)ところがこれも、決して使い勝手の良いものではありません。実際には出入り口あたりに入浴者がかたまって浴槽縁や壁にしがみつき、奥は全然使われずデッドスペースとなっている、ということが普通です。
 理由は簡単なことです。もともと歩きが怪しくなっている方が、お湯の中に向かって階段やスロープをおりるのは、大変に難しく恐いことなのです。また、やっとお湯の中まで入っても、お湯の中をザブザブ歩きながら大浴槽の真中まで行けるわけはありません。そして浴槽が大きければ大きいだけ、お湯の揺らぎで身体がフラフラします。(私たちも温泉大浴場で経験します)だからお湯に浸かっていても怖くてしかたありません。だから、壁に向かって横向きにしがみつくのです。私たちが温泉大浴場に浸かる時のように、背中だけを壁に当て、真中に向かって手足を伸ばすことはなかなかできません。

 写真1 一般的な大浴槽

 写真1では、向かって左側の浴槽の奥が全く使われずにお湯が無駄とのことで、大きなブロックで「埋めて」あります。(空間がもったいない・・(^_^; )それでも利用者は階段の途中辺りで座り込んでしまい、「大変!」だそうです。

※欠点を補う浴槽構造とは?(当苑のお風呂のご紹介)

 一般的な大浴槽が使いにくい理由を上記のように分析把握すれば、「そうではない大浴槽」を考えれば良い訳です。整理すると次のようになります。

 さぁ、このような条件を満たすような浴槽とはどのようなものになるでしょうか?私自身が考えて作ってもらったお風呂が写真2です。寸法は図1のようになっています。イメージとして、「介護福祉機器のコーナー」で説明している「入りやすい家庭浴槽」が、横に幾つも並んでいる(境目は手すりで仕切られている)と考えたら良いと思います。ですから、規格上のポイントは以下の通りとなります。

 

写真2 私の設計によるお風呂(^_^;

図1 写真2浴槽の断面図

 そうなると、奥行き90cmの浴槽が横に長く伸びることになりますね。私の書き上げた図面を見て設計士さんは「こんな“うなぎの寝床”みたいなお風呂は見たことない!」と、いささか険悪なフンイキとなってしまいました。(^_^; あくまで自説を曲げようとしない私に対して設計士さんから出された妥協案が、「せめてお湯面は120cmまで広げる。従って奥行き90cmで一旦“足突き壁”を作り、その上方でさらに30cm奥行きを広げる」というものでした。これで「見た目」があまりに細長くなることを防ぎたい、という訳です。これは結果として、強健な方が腰かけ休む場所となっています。(^_^; この形・サイズのお風呂でピッタリ、写真3のように入浴できます。

 写真3 お風呂に入ったところ(怖くないぞ〜)

※当苑のお風呂の具体的な使い方

 写真4は、当苑のお風呂を跨いで出入りする様子です。「使いやすい家庭浴について」で説明した通り、洗い場と浴槽底の差が5〜6cmしかありませんから、跨ぐのも大変楽です。中には一度、馬にまたがるように縁にお尻を下ろす方もいます。

 写真4 跨いで出入りする所

 写真5は固定移乗台を利用しながら出入りしているところです。ご覧になって分かる通り、ちょうどつかめるような位置に手すりを伸ばしてあります。

写真5 固定移乗台を利用して出入りするところ

 写真6は、専用シャワーチェアを利用しながら出入りしているところです。シャワーチェアもオリジナル品なので、座面の高さを浴槽縁と全く同じにしているほか、写真7のように「着替え台」とも完全にフラットにしています。これで、自力では立てない・歩けない方でも「全て横移動介助」で済み、割合に軽い介助で大浴槽を利用できています。

 

写真6専用チェアから入浴   写真7専用チェアと同じ高さの着替え台

※「“流しのPT”タイプ」大浴槽の注意点

 浴槽縁は、外側には飛び出ていても良いのですが、内側には平らか、むしろ丸みを持たせなくてはいけません。(図1の“”のところ)浴槽に出入りする時に、背中をガリガリしてしまうのです。外側にはつかまる時に指の掛かりが良いように、多少出ていても良いのです。

 また、排水口は浴槽の奥隅に設置することです。真中に作ってしまうと、栓がお尻に当たって痛いです。(^_^;

浴室全体のレイアウトを含め、細かいことは他にも色々ありますので、ご関心をお持ちの方はメールしてください。

※(3年も経ってから追記)このタイプの浴槽の、弱点・欠点と対応

 う〜ん、本当のこと言うと、私は集合施設においても家庭浴槽をいくつも並べるという対応の方が良いと思うのですが…、やっぱり大き目のお風呂も欲しいという意見にも、一理あります。で、追記します。

 大・中浴槽の構造については、このページで説明している内容で自信はあるのですが、関わる人・スタッフの意識として、「何とかより良いケアをしていきたい。そのために必要ならば、新しい形や方法にもどんどん取り組んでいきたい。」という態度でないと、せっかくの新しい浴槽が宙に浮きます。単に「これまで通りの仕事ができてればいいや…」位の意識のスタッフさんや意識はあっても理解が足りないと、「なんだこの風呂、見たことねぇぞ。どうやって介助すればいいんだ?!」と、はなから拒否反応が出てもおかしくありません。(いや、実際に“あった”という噂が…(^_^; )

 ですから、本当は設計段階でスタッフの意思統一と、それからできてもしばらくは前向きな意識を具体化する技術指導が現場で欠かせない、と感じます。

 まずは介助でこのタイプの浴槽を使う場合は、上品に浴槽の外からだけの介助では足りない、ということです。せっかく浅めにしてあるんですから、介助者も浴槽に中に立って、入ろうとする利用者を正面から介助しないといけないことが多いと思います。

 そしてさらに、この浴槽に特有の技術(そしてそれは、一般家庭浴槽の場合も共通ですが…)というのは、移乗台にお尻をついて下肢を出し入れする時の、ハムストの短縮絡みのお話です。つまり、浴槽に出し入れできるくらいに下肢を挙上させようにも膝の裏がつっぱって、強引に足を持ち上げようとすると体幹が後傾して後ろに転げ落ちそうになる、それが恐くて仕方ない、ということが起きるんですね。必要ならば、それをいかに恐くないように、しかも安全に楽々と足を出し入れするように介助するか?ですね。それにはやはり、構造に応じた介助技術が必要だと思います。またそんなことから、最低限の後方転落防止のために、移乗台に背もたれ構造があっても良いな、とも思います。

 それでも、大柄な男性の足の上がりが悪かったりすると、小柄な介護者には移乗動作介助はやっぱりきついかも?とも思えます。そこで、以下の図ような介助機器を考えています。強引に名付ければ『能動的移乗台』でしょうか?以上の説明と図を見れば、最低限の理解は可能だと思いますので、まだできていない機器の説明はしませんが、どなたかこんな図でも参考に、「作ってみよ〜か?」という方はいませんか?下図以外のアイディアでも構いませんよ。オイラと、『新介護機器競作』してみませんか?(^_^; それに、メーカーさんが販売品として取り組んでくれたら、一番いいです。施設の中・大浴槽(縁立ち上がりタイプ)や家庭浴槽、場合によっては在宅場面でも便利に使えるんじゃないかな?


こんなの欲しいな、能動移乗台

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