老人介護についての個人的HP-4 知識 - (11) 最低限のROM

最低限確保しておきたいROM(関節可動域)

 身体障害を負ったり寝たきり化が進むと、どうしてもROM(Range of motion = 関節可動域)が制限され、関節の動く範囲が狭くなってきます。例えば、膝関節はまっすぐに伸び股関節は真下に向かって伸ばせるのが「正常」ですが、これは「立つ」ために必要なのであって、既に寝たきりで立てないという方はそこまで足がきちんと伸びることは少ないと思います。

 体中の関節ごとに、関節の動く範囲というのは正常値が決められています。身体障害を負ったり寝たきり化が進んでも、何とか少しでも正常に保ちたいものとも言えますが、明らかに既に立てないのに「膝が最後まで伸びきるかどうか?」にこだわり、痛がるのを無理に引っ張るのもいかがなものか?と思えます。

 そこで、介護上で最低限、確保しておきたい関節可動域について説明し、対応をまとめます。なお、以下に説明する関節の動く範囲が「自力で動かせないといけない」という意味ではありません。「介護者が持って動かしてあげて動く範囲」のことです。

@最低限必要な関節可動域:上肢の場合

 言葉じゃ分かりにくいですね。写真1・2が上記の関節肢位です。それぞれもっと動きがわるくなると写真3のようになってしまいます。

 

写真1肩屈曲90肘屈曲90  写真2肩外転90肘屈曲90

写真1・2の位置まで腕全体が動いてくれず、写真3のような状態では服の脱ぎ着が非常に面倒になります。

写真3 上肢の屈曲拘縮肢位、袖を通すのが大変

 反対に、脳卒中片麻痺の方の場合など、前ならえまで上がれば無理にバンザイまで上げる必要はありません。無理をすると場合によっては関節を壊してしまって、痛みの原因になってしまいます。

A最低限必要な関節可動域:下肢の場合

 写真4がこの姿勢、つまり「腰かけた」姿勢です。股関節膝関節とも屈曲拘縮が進んでしまうと、写真5のような姿勢になってしまって車椅子に座ってもらうのも不安定になってしまいます。反対に伸びきったままで曲がらない状態でも、同じく車椅子姿勢は苦しくなってしまいます。

 

    写真4股屈曲90膝屈曲90  写真5 下肢の屈曲拘縮肢位

さらにもう一点、

 と言えます。これは写真6の「開排位」と言われるものでオムツ交換の時の清潔保持がずっとしやすいですね。反対に股関節が内旋拘縮をきたしてしまうと写真5のように「閉じたまま」になってしまい、清潔保持が大変になります。

写真6 股関節開排位

B予防・対応は?

 体の関節可動域も「能動的に使わなければだんだん動かなくなる」ものです。かといって、固まるに任せるわけにもいきません。「機能訓練」としては一日一度、「イチニイチニ」と他動的に関節を動かしてあげる=関節可動域訓練を行ないますが、ご家族にそれをお願いできるとは限りません。それよりも日常の生活の動作の中で上記可動域を確保していくのが良いと思います。

 まず上肢は、着替えの時に肩や肘を持ち上げ伸ばしてあげましょう。着替え動作を可動域他動運動と兼ねてしまえばよい訳ですね。

 下肢は、寝たままで拘縮を予防するのはなかなか難しいことです。写真5のように縮こまり固まってしまうのを防ぐには、何よりも「車椅子座位をとること」が一番です。反対に伸びきって曲がらない場合でも、座位をとることで徐々に曲がってきます。ただし、屈曲拘縮が強い状態で車椅子に座らせると写真7のように前方に転落しやすいですから「機器のコーナー(7)車椅子安全帯の写真2:胸ベルト」で安全を確保してあげた方がよいかもしれません。

写真7 下肢屈曲拘縮位での車椅子座位の不安定さ

 開排位の確保は、臥床中も股の間に枕を挟み込んでおくこと、特に側臥位に横向きになっている時も枕を挟んでおくことが必要かと思います。それでも麻痺の状態によっては完全な拘縮予防は難しいこともあるかもしれません。

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C追加:体幹の柔軟性〜体幹前屈について

 ダラダラ付け足すようで申し訳ないのですが、最近、体幹前屈の柔軟性の重要性を改めて感じていますので、ここでまとめておきます。実はこのことについては既に、HPのあちこちに出てきていることではあるのですが…。

 体幹前屈の柔軟性とは図1の姿勢ですね。これを図の左側のようにできる限り柔らかくしておいた方が良い、ということです。その理由を具体的に以下にまとめておきます。

図1

※床から立つ時に、硬いと立ちにくい。

 写真8をご覧ください。これは動作介助のコーナー(13)の「床からの起立」で使っている説明写真ですが、その動作中に、図1の左側の体幹を前に屈めた状態を90度回して地面に立てた状態になることが分かりますよね。連続写真の「左下の瞬間」です。どんなに筋力があっても体幹前屈の柔軟性がないと、手をつきながら腰を高く持ち上げることができません。かといって、早々と手を床から離して立ってしまうには筋力が足りない、という場合には「立てない」ということになってしまい、「手付き台」が必要になってしまいます。

写真8 床からの起立動作の瞬間が「体幹前屈」

 つまり、いつでもどこでも自由に安全に床から立ち上がったり座ったりするためには、体幹前屈の柔軟性が大切になってくるんですね。

※立ってまたいでのお風呂の出入りがしにくくなる

 写真9をご覧ください。これはある程度お元気な方が、浴室の洗い場からまたいで浴槽の中に足を降ろそうとしている瞬間を模式的に再現したところです。浴槽の中から下ろそうとしている足を見ている訳ですね。この瞬間に、本当にお元気な方は手で浴槽の縁につかまらなくても平気でしょうが、やはり写真のように両手で縁をつかんで、という方も多いと思います。ところがこの瞬間が、やはり「体幹の前屈」姿勢であることがお分かりいただけると思います。

写真9 またいで浴槽の中に足を下ろす瞬間が「体幹前屈」

 このとき体幹前屈の柔軟性が不十分でしかも浴槽が深すぎたりすると、下した足が浴槽の底に届いてくれなくなります。写真ではそれでも綺麗に膝を伸ばしていますが、体幹前屈の柔軟性が足りないと膝が曲がったままになりますから当然ですね。このような場合、身体を起こしたままでまたげるようにするために、身体を起こした位置で、つまり壁などに手すりが必要になります。

※いざりがしにくくなる・起きあがりにくくなる・長座位で安楽に座っていられなくなる

 上記2項はある程度お元気な方の場合ですが、既に歩行が困難な方でも体験前屈の柔軟性は同じように大切です。以下はこれまでそれぞれの動作介助のページで触れていることですが、改めて…

 写真10では片麻痺の方が前方にいざっています。その瞬間がまさに「体幹前屈」の姿勢となります。つまり柔かくないといざれない、ということになります。

写真10 いざる瞬間が「体幹前屈」

 その他にも、体幹前屈の柔軟性に余裕がないほどに、例えばベッド上で起座する時にきちんと足をベッド脇に垂らして膝を曲げないと起座できなくなりますし、座位保持姿勢としては柔軟性が十分にあれば、端座位よりは足を投げ出した長座位のほうが安定が良いことは、すでに動作介助のページで説明した通りです。

※予防体操〜単純に体幹前屈運動を!

 以上のように、体幹前屈の柔軟性は、おそらく皆さんが想像する以上に様々な生活場面に影響を与えます。(きっと上記以外にもそんな場面があるでしょう)ですから日頃から、「柔軟体操・ストレッチ体操」を行なうのはとても良いことです。単純にあぐらや長座位で、ジワー!とばかりに身体を前に曲げる体操ですね。ご夫婦で向かい合いになって、軽く手を引きながらでも良いでしょう。よく「私は毎日こんな体操しています」というお話を伺いますが、その際に体幹前屈ストレッチ運動が抜けている場合には、ぜひぜひとお勧めしています。

 また、すでにギャッヂアップベッドを使っている方の場合でも、それだけに頼っていては体幹前屈は硬くなるばかり、です。時には後ろから支えながらでも膝が多少曲がってでも、ちょっと体を前に屈めてみるような体操は大変に良いことと言えます。

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