老人介護についての個人的HP-4 知識 - (26) 失語症について

失語症について〜最低限の知識と対応(おまけ:全国失語症者のつどい〜新潟大会参加報告)

 ふと気づくと、自分のHPの中に「失語症」について触れているページの無いことに気づいて、いささか愕然!としているところです。ありゃりゃ〜何でどうして「無い」んだろ〜?(^_^; というわけで、大急ぎで簡単にまとめておきます。

■失語症とは?

 失語症とは、意識障害や痴呆や構音障害(つまり喉や舌のあたりの運動麻痺)がないのに、上手く言葉が話せない状態を言います。←この文章は医学的に厳密に定義されたものではありませんが、失語症の状態を分かりやすく表現はしていると思います。障害の原因は、「大脳の言語中枢が障害される」ことによります。ですから、意識障害や痴呆や運動麻痺の要素は含まないわけです。もちろん、失語症の状態は「話せない」だけではありませんが、それは以下に説明していきます。失語症の原因となるのは、なんといっても脳血管障害、脳卒中が多いです。その他にも頭部外傷や脳腫瘍でも起こることがあります。もともと右利きだった方が脳血管障害で右片麻痺になった場合に合併します。(これは脳の言語中枢が左大脳半球にあるためで、右片麻痺では左半球が障害されるため、です。)

■失語症の分類

 一口に失語症といっても、実は神経学的には様々な種類があります。もっとも、臨床的にはそれほど沢山の種類の失語症が見られるわけではありません。でも、重症度は人それぞれです。言語機能は、大きく分けると「話して伝える・書いて伝える・聞いて理解する・読んで理解する」くらいに分けることができます。失語症の種類・タイプによって、この4つの機能がそれぞれに(意識障害・痴呆・喉や舌や腕手指の運動麻痺がないにもかかわらず)障害されます。細かい分類は未だに議論のあるところでもありますから、ここでは大分類について説明しておきます。

※運動性失語

 聞いて読むことはできますが、話したり書いたりすることができません。つまり、言語表出の障害です。多くの失語症がこのタイプですが、障害の程度は人それぞれです。
 その他、話せないが「書くことはできる」、話せないが「復唱(言い真似)はできる」など、「話せず書けない」という典型像以外にも、様々な障害像がみられます。

※感覚性失語

 聞いて理解し読んで理解することが障害されるです。もっともそういう状態になると、自分で話して書くことにも障害が現れてきます。流暢にしゃべっているけど、意味が通じない、などです。運動性失語に比べればごく珍しい、といってよい頻度です。

※全失語

 「話す・書く・聞く・読む」全てが障害された失語です。もっとも、意識障害や痴呆がまったくない状態での全失語も珍しいというべきで、何らかの意識障害や痴呆も伴っているような臨床症状が普通です。また臨床的には、「大まかには運動性失語だが、聞いて読むことも若干障害されている」という状態も、よく見られます。

■運動性失語症さんへの介護上の対応

  1. 痴呆と混同しない、子ども扱いしない。
     まず「痴呆扱い」しないことです。運動性失語の場合は、言われることは全て分かっています。それどころか頭の中では、宇宙の大真理を悟っているのかもしれません。(^_^; ただ、それが「表せないだけ」です。ですから、くれぐれも「痴呆扱い」「子ども扱い」しないでください。可哀想なくらいに凹みます。当たり前、です。

  2. 感情の障害もありません。
     喜怒哀楽といった感情も、何ら障害されていません。それが言語として表せないだけで、表情などは豊かであって欲しいものです。

  3. 構音障害との判別を意識して行なう。
     表面的には、喉や舌に運動麻痺が起こって発語が上手くできない「構音障害」と似てくる面があります。しかし、構音障害の場合には運動麻痺のための、流涎・食事摂取障害が普通に見られます。しかし、失語症ではそれはありません。構音障害の方には、もしかしたら嚥下しやすい食事の準備が必要かもしれませんが、失語症の方にそういう食事をあてがってはいけません。失語症では嚥下はなんら障害ありません。これも対応を間違うと落ち込ませてしまいますし、反対に構音障害の方を失語症と勘違いするのも危険が生じます。ところが臨床的には、失語症と構音障害とを合併している方も確かにいらっしゃいます。面倒ですね。(^_^;

  4. 話しかけは障害の程度に応じて「はい〜いいえ」で答えられる形にする。
     失語症であっても、うなずき・首振り・表情といったボディランゲージは保たれていることが普通です。ですから話しかける時、特に質問する時は「はい・いいえ」で答えられる内容で問いかけます。

  5. 書字や文字盤は通用しない。
     「話せないなら、書いてください。」これはダメです。「話せず書けない」のが典型的な運動性失語です。五十音表のような文字盤指差しもダメです。これは構音障害の方の場合には痴呆さえなければ非常に有効な意思表示方法になりますから、ゴチャにしないように。(上に書いたとおり、失語症でも少数の方は書くことができますから、一度は試しても良いかな?)

  6. 出やすい言葉と出にくい言葉
     一番出やすいのは「自分の名前」といった「習慣的な言葉」、それから「歌」、もう一つは「いろはにほへと・いちにぃさんしぃ」といった順列の言葉です。あとは「感嘆詞」かな?「うん!」「んまぁ〜!」「ほ〜んに!」「いやぁ〜!」といった言葉。中にはイエスの時は肯定的なイントネーションで「ほ〜んに!」、嫌な時はいかにも嫌そうに「ほ〜んに!」という方もいます。
     次に出やすいのが「名詞」。それも抽象的なものではなくて具体的な物の名前です。
    一番出にくいのが、「抽象的な概念」です。

     以上の中で、出やすい言葉があっていつでもそれしか出てこないとなると、「残語」といった状態になります。何を聞いてもどんなニュアンスを表す時も、全部「ほ〜んに!」。(^_^; ところが実際にこの「ほ〜んに!」を聞くと、色んなニュアンスの「ほ〜んに!」を聞き分けられるのですから、よくしたものです。以前、佐渡おけさを全部「いやぁ〜!」で歌ったお婆さんもいました。一節一節が「いやぁ〜!」。ちょっとやってみてください、自分でも可笑しかったらしくて途中で笑い出してましたが、それでも歌おうとする気持ちというか、そういう状態を実現している介護とは凄いものです。

  7. 訓練的な対応は?
     まずは出やすい言葉を導くような介護対応が良いですね。簡単で馴染み深い歌の一節(出だしなんか)を歌ってもらうようなレクだとか、名前を発語する・物の名前を答えるなどのちょっとしたやり取りなんかが、訓練的な対応になります。「お茶が良いですか?ジュースが良いですかぁ?」(^_^; もちろんそう聞いた以上、ちょっと時間がかかってもつっかえても、急がせたりせず答えられるのを待ってあげなくてはいけません。同時に「逃げ道」として、指差しもできるように実物も同時に示す、といった配慮も必要かもしれません。文章を真似して書かせる、などには意味がありません。単なる図形模写にしかなりません。→ここについて、次のように書き換えます。→→文章を真似して書かせる、などの練習をしても、それで自分の意思が表現できるようになる=失語症が治る、ということはありません。ただの図形模写にしかなりません。ただしそれでも、それがコミュニケーションの一手段となる可能性はあります。「トイレ」という“文字”で「おしっこしたい」と意思表示するのではなく、「ト・イ・レ」という“図形”でもっておしっこがしたいということを伝える、というくらいの意味でしょうか?でも、それなら便器の絵を書いたり、動作として立小便の真似をするのも同じことです。このあたり、運動性失語者の書字訓練に限らず失語症者に対する訓練的対応については、まったくケースバイケースの世界ですから、ぜひSTさんのアドバイスを受けてください。(この書き換えは、「全く無意味とは言い切れないのでは?」という閲覧者さんからのご質問に答える形で行ないます。どの“レベル”まで説明をしていくか?というのは、このような多数の人が閲覧する媒体においては、絶えず問題になる点です。)

 以上くらいが、運動性失語症さんへの基本的な対応のまとめになるでしょうか?時にご家族の理解が不足していて、不必要なストレスがお互いに生じていることもあります。そんな時は、ご家族さまに上手に説明して調整してあげてください。(これは本当に、職業者の大切な役目だと思います。)それどころか知らなかったために介護職者がストレスを与えてた!なんてことがあってはいけませんよね。

 以上で本編は終わり。以下はおまけです。

■『全国失語症者のつどい:新潟大会』参加報告

 平成13年7月14・15日、標題の大会が新潟市内で行なわれました。その会に「アドバイザー」としてお呼ばれしてきましたので、以下に様子を紹介しておきます。

会場は新潟市内の「新潟テルサ」という大ホールでした。新潟県内のSTさんたちが手作りで準備したって感じの看板です。

 

ステージでは体験発表や芸能発表なんかが行なわれてます。写真はご当地新潟の佐渡おけさ。

その間、座席では全国から集まった皆さんが、座ったままで腕だけでも見よう見まねで踊ってます。

 こんな楽しい時間のあとで、「公開相談会」というマジメな時間がもたれました。ステージ上に専門職者が並んで、会場参加者さんからの質問に答える、という形式です。質問に答えるアドバイザー・コメンテーターは…

 アドバイザー医師  燕労災病院 真柄 彰先生
 アドバイザーPT  わたくし、大渕
 アドバイザーOT  老人保健施設みそのぴあ 間 牧子作業療法士さん
 アドバイザーSW 信楽園病院 藤本 泰子MSWさん
 アドバイザーST  板橋ナーシングホーム 遠藤 尚志STさん
  そして…
 コメンテーター   茨城大学医療大学附属病院 大田 仁史先生

 といった、先生方でした。私としては、大田先生・遠藤さんといった方と一緒にステージにあげてもらっただけで、身に余る光栄!といったところです。もっともこの大会そのものが、大田先生と遠藤さんを慕って、全国から人が集まってくる、という雰囲気が強いもののようです。

 実際の質問〜回答内容ですが、「老いとは何ぞや」という哲学的?なものから、「麻痺した手がいつまでも治らないんですが…」というどうにもこうにもお答えに困るご質問、あるいは具体的な介護保険に関する質問など色々でした。そんな中で私に振られたのが…

『最近歩くのが難儀なので車椅子を考えているが、いったん車椅子を使い出すとなおさら歩けなくなる、と仲間に聞いて、躊躇してるが…』

といったご質問でした。これに対して…

『1、もしも車椅子を使うことで日々の生活がより豊かになるのだったら、積極的に使ってよいと思います。
 2、ただし、ご自身の中で「あくまで歩くことに頑張りたい」というお気持ちが強いのならば、それを貫いてもよい。
 3、何にせよ、暮らしの中に“安全”は確保していっていただきたい。危険なのに無理をする、ということは避けていただきたい。
 4、車椅子を使い出すと起立歩行能力が低下するかも?という面は確かにありますから、車椅子を使った日々の暮らしの場面とは別に、身体を維持管理していく意味合いで、いずれかどこかで歩く練習をする時間を持つようにされたらよいと思います。』

という回答をさせていただきました。

 いや、良い経験をさせていただきました。堅苦しい雰囲気のない、楽しい大会でした。どこでの大会でも、太田先生と遠藤STさんは参加されるのでしょうし、もしもお近くで開催される時は、覗いてみたらいかがでしょうか?

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