老人介護についての個人的HP-4 知識 - (4) 病院と老人保健施設の違い
○○ 様
お手紙の受信が週末の入り際だったものでお返事が遅くなってしまいました。
まず、老人病院と老人保健施設の違いですが、まずはこれは両方とも「医療保険からお金が支給されて運営されている“医療保険施設”」です。それに対して特別養護老人ホームは行政の福祉予算で運営されている「福祉施設」ですね。で、老人病院と老人保健施設の違いは何か?というと、大きな違いは医療保険からのお金の給付され方の違い、ということになります。これは利用者にとっては無縁なことのようですが、どっこいそれが施設の設置目的や運営方針、利用者に対する態度までを決めていきますから、やはり大切なことです。
病院の場合は俗に言う「出来高払い」、つまり個々の疾病に対して行なわれる医学治療行為、あるいは薬の一つ一つに「値段」が決められていて、行なった治療に応じて医療保険から病院にお金が支払われます。そのうち、自営業者なら3割、お勤めの方なら2割を自己負担しなければならず、高齢者の場合は入院1日につき1,100円、外来受診の場合は月2,000円までの自己負担をしなければいけないことはご存知のことと思います。そして「治療代」を細かく定めたのが「診療報酬一覧表(正式には医科点数表)」といい、数年に一度の改定では必ずニュースになります。そして、一人の患者さんに行なった診療行為から、病院が保険に治療費を請求する書類を「レセプト」と言います。
それに対して老人保健施設の場合は一般に「定額払い」といわれるシステムです。これは一人の入所者に対して医療保険から1ヶ月に支払われる金額が決まっています。老人保健施設の場合で、1ヶ月25万円強から30万円弱、といったところです。ちなみにご本人ご家族の負担は、保険からは支給されない「食費・洗濯費・教養娯楽費」など、当地では月に5万円から10万円弱、というところが一般的です。
となると、「どんな施設でもどんなサービスでも定額のお金が入る」ということになり、施設のレベル低下が懸念されます。ですから「老人保健施設は、このような“構造”であって、このような職員がいて、このようなサービスをこれくらい提供しなければならない。」という基準が実に細かく決められています。そして、1年に一度はその「施設基準」を満たしているかどうか、行政監査(実地指導)を受けます。
その「施設基準」に定められている老人保健施設の大きな「設置目的」が、「在宅復帰支援施設」である、ということです。「老人保健施設の実績」として、ある程度の人数の方々が老人保健施設からご自宅に退所しているということでないと、監査の時に睨まれます。(^_^; また、システム上もそれを促す仕組みになっており、入所後6ヶ月後、さらに1年後に、上記「保険から支払われる金額」が減額されます。つまり、入所者の平均在苑期間が長くなればなるほど、施設経営が苦しくなっていきます。
ですから、老人保健施設をご利用になる方は、以上のような特性をよく理解していただいて、一旦入所後の3ヶ月後から半年後くらい、普通は長くても1年以内には再び「在宅生活」を送っていただく心積もりをしていただかなければなりません。老人保健施設とは、「そのままずっと入所していてよい施設ではない。」ということです。もちろん、1年を超えようが法律違反ではなく、無理に退所させればすぐにも在宅生活が破綻し、生命の危険すら想定される、というようなケースに退所を無理強いすることはないでしょう。ただし、退所していただくにあたって、どれほどの「在宅生活のための準備」を具体的にお手伝いするか?どれほどの「フォローアップ体制」を組むか?それは、各施設の「運営方針」と「サービスの質」とにかかってきます。
在宅療養生活・介護生活を送っていらっしゃる方の中には、もうどうにも切羽詰って「とにかく今日明日にでも入所させてもらったらありがたい」というくらいに追い詰められているご家族も珍しくはありません。そういうご家族に対して、「ではどうぞ、お入りください。とりあえず3ヶ月間は面倒見ましょう。ただし、3ヶ月後には嫌でもどうでも退所してもらいますよ。」という態度で、「施設の中でのケアだけが自分たちの仕事、その後のことは知ったことじゃない。」というような、そんな施設は絶対に“無い”と信じたいものです。だけど、そういう施設の方が、数字上・行政監査上は「成績優良」ということにもなりかねません。なんとも嫌なことですね。この辺の施設職員のジレンマの一端は、HPの「思索のコーナー」の最初に、「老人保健施設の機能」と題して紹介しておりますのでよろしければどうぞ。
それから「中での実際の業務・サービスの違い」ですが一般的に、老人病院は、より“医療サービス”に、老人保健施設は“日々の介護サービス”に重点が置かれている、と言ってよいと思います。また、老人保健施設は「“生活の場”でもある」という自覚を職員さんが持っていることが普通だと思います。これは大きな差です。老人保健施設内でも簡単な医療行為は行なわれますが、同時に「季節の行事」が行なわれたり、「食事・排泄・入浴」といった日々の生活行為が「患者」としてではなく「生活者」として援助されます。「患者」ならば食事はベッドの上で食べても当たり前かもしれませんが、「生活者」ならば「たとえ介助を受けながらでも食堂へ出て食事をとる」のが当たり前ということになります。排泄や入浴も同じことです。そして、私自身の実感として、高齢者の場合は普通、何よりもこの「生活者としての援助」が充実していなければ、中途半端な医療はかえって効率が悪いものです。丸一日、あるいは何日も「寝かせたまま」にしておいて床ずれができたからと一生懸命局所治療するよりは、一日3度、食事のために離床した方が良いに決まっています。ではなぜ、老人病院では日に3度の食事離床が当たり前にならないかというと、病院では「床ずれ治療」や「経管栄養」には「医科点数」が認められていても「食事のための離床」には「金銭的な見返りがない」というのが、現実的な大きな理由です。(老人病院の中でも、そういう介護ケアに熱心なところもありますし、当院のように「そうではない老人病院」(^_^; の職員も、多くは「これでよい訳がない!」と感じていると思いたいです。)
以上、ご参考になれば幸いです。