老人介護についての個人的HP-4 知識 - (5) 痴呆について−2

「痴呆/健忘/ボケ/仮性痴呆」の違いと、「痴呆/仮性痴呆」への対応

 さて、(3)に続いて、痴呆・ボケということについて、もう少しまとめてみます。まず、痴呆・ボケ・健忘・仮性痴呆といったことについて整理してみます。一般社会、あるいは介護の世界においては、これらが整理されないままに十把一絡げに扱われているような気がするからです。

痴呆と健忘の違い

 「痴呆」とは(3)にまとめた通りの定義があります。明確な「脳の疾病状態」です。それに対して「健忘」とは、「正常な老化に伴って起きてくる物忘れ」のことを言います。ですから、これは「正常な現象」なのです。真の痴呆では「自覚」もなく「日常生活」を自力で営むこともできなくなり、進行していくものですが、「健忘」では「自覚」もありますし、日常生活に障害もありません。また、多少物忘れの頻度が増えることはあっても、病的なレベルにはならないもの、とされています。

 ですから、例えばご家族やご自身に多少の物忘れがおきてとんちんかんなことを言ったりしても、「ただそれだけ」のうちは「正常な老化現象」なのですから、「長生きしてるね〜」というサインに過ぎません。それを「一大事!さぁ大変!」と騒いだり不安に陥ったりしないことが大切です。むしろ、そういう不要な「焦り・不安」が情緒的に、本人さんの中・あるいはご家族間に不安定な状態を作り出していってしまうことの方が多いようです。

仮性痴呆について

 健忘とは違う状態であって、本当に一旦「痴呆状態」に陥りながら、一定の期間や治療で「正常に戻る」ことがあります。そういう状態を便宜的に「仮性痴呆」と呼んでいます。仮性痴呆の原因には、実に様々な事柄が挙げられます。それらの原因についてはページの最後にまとめておきますが、要は高齢者の場合には(例えまだ痴呆が無い状態であっても)身体不調などを明確に訴えることができずに、「痴呆様の症状」で身体の不調が訴えられていることがある、ということです。

 これを見落とすと大変です。本来、仮性痴呆はあくまで「仮性」なのであって、原因の治療・除去でもとに戻るのですが、時期を逸すると「真性痴呆(?)」に移行してしまうことが大変に多いのです。

 実は俗語として使われている「ボケ」という言葉、以上の「痴呆・健忘・仮性痴呆」全てごちゃ混ぜにして使われているようです。そこから色々といらない誤解も生まれてきますから、気をつけたいものです。(「ボケは治らない!」とか、「ウチのばあちゃんのボケは治った!」とかですね。)

仮性痴呆への対応

 さて、次に仮性痴呆を見落とさないこと、あるいは仮性痴呆への対応、ということを考えてみます。

 下記の仮性痴呆の原因のうち、純粋に医学的治療の対象となるものについては、一刻も早い診断治療が何よりも大切です。それまで何ともなかった高齢者が、急にヘンなことを言い出したり、同時になんとなくボヤ〜としているとか、微熱が続いている、といった場合には、何らかの身体疾患が起きている可能性を考えなくてはいけません。しばらく前に転んで頭を打った場合などの「慢性硬膜下血腫」や、「脱水」が代表的です。(脱水については重要なので、別ページに独立してまとめます)

 次に、飲んでいるお薬について、最近種類が変わったり量が変わったりしていないか?そのチェックが大切です。高齢者の場合、壮年者では考えられないような副作用として「仮性痴呆」がおきてくることがあります。

 次には「便秘」です。「たかが便秘、されど便秘」で、便秘のために精神状態が変調をきたすこともあります。排便がある程度規則正しく行なえているかのチェックが大切です。

 以上の「慢性硬膜下血腫」「脱水」「お薬の変化」「便秘」は、仮性痴呆を起こす原因としてだけではなく、健康の維持のために常日頃から注意していてあげたい「チェック項目」です。

 以上のような何らかの身体の異常を伴わない仮性痴呆には、「急激な環境の変化」と「肉親の死などの喪失体験」があげられます。これは仮性であっても「痴呆」と呼んで良いものかどうか、疑問が残りますね。ある意味では、極めて正常な「心理反応」とも言えそうだからです。この場合には、明らかな身体異常はないわけですから、医学的な治療で対応することはできません。あくまで気持ちの上の問題ですから、対応もそれに応じたものとなります。

 基本的にはそのように混乱している本人さんを、「責めず叱らず」に、むしろ「共感・受容」して、ご家族としては「焦らない」ということが大切だと思います。ご家族が「しっかりしてください!」と、焦りながら叱ったりすると、本人さんはますます混乱してしまうことは明白です。「受容・共感」とはよく言われることですが、抽象的でよく分からないですね。この辺りはお話を具体的にしないといけないかもしれません。このHPをご覧になった方から以下のようなお手紙をいただきました。

------------------------------------

 私には現在87歳の母がいます。(同居)半年前に父を亡くしてからいわゆる老人ボケの状態がゆるやかに進行しています。日々,どう対処してよいのかと戸惑うことが多くて,具体的に何かを進めるにもよくわからないまま,過ぎてゆく毎日に疲れてため息をついていました・・(ただし、お手紙の様子では(3)で説明した随伴症状は強くはないようです)

------------------------------------

 典型的な「喪失体験をきっかけとした痴呆?仮性痴呆?」だと思えます。それに対する私の返事からの抜粋、

------------------------------------

 きっとお母様は、ご主人様を亡くされるという重大事件に遭遇され、そういう厳しい現実を受けとめるか、ボケ痴呆の世界・自分の内なる世界の中でご主人様と一緒に生きていくか、その瀬戸際にいらっしゃるのだと思います。可能ならば、残酷なようですが現実と直面していただきたいですね。どうぞ○○さんもご一緒にお父様へのご供養を沢山して、一緒にたくさんたくさん悲しんであげてください。月に一度のご命日にはお寺さんに来てもらって読経してもらったりお寺さんへの対応をお母様にもお願いしたり、お墓参りにも盛んに通ったり、ですね。「励ますんじゃなくて悲しい場面を繰り返すなんて、反対じゃないか?」と思われるかもしれませんが、「悲しみを外に表す」ことが大切なので、それを内に秘めてしまうことは決して精神の健康にとってよいことではありません。人が悲しみから癒されるためには、悲しみのセレモニーが必要なのです。悲しみが深ければ深いだけ、それは沢山必要でしょう。むしろお母様から○○さんへ、「いつまでも悲しんでいても仕方ない。もうそろそろしっかりしよう。」と言い出すほどに、沢山のセレモニーをしてあげてほしいと思います。・・平穏な(ボケの)世界に落ち着こうとされていることも含めて「それでも当然」と、最大限に「情緒的な共感」を示してあげてください。そういう、自身への「肯定的な態度」が、むしろ現実に直面していく「力」を本人様へ与えることになると思います。

------------------------------------

 例えば、↑こういうことです。(^_^;

実際には区別できない「真の痴呆」と「仮性痴呆」〜そこから痴呆への対応の基本を見出す

 さて、(3)では「痴呆」という概念を説明し、このページでは「仮性痴呆」についてかなりの説明を加えました。この2つは精神医学の概念上では、はっきり区別ができるのですが、現実に一人の人間に起こっていることとしては「どちらかが100%」ということはあり得ませんし、また、区別ができるものでもありません。痴呆なりに在宅生活を送っていた方が施設入所されて混乱され、さらに強い痴呆症状を示す、などの場合には、明らかに「痴呆」に「仮性痴呆」の要素がかぶさっています。一旦は痴呆のように思えた方が、治療や何らかの対応で「完全に正常に戻った」という時だけは、「仮性痴呆が100%だった」と断言できますが、それ以外の場合には、「仮性痴呆だけど対応が悪くて改善しない」のか、「真の痴呆だから改善しない」のかは、(厳密に言えば)永久に分かりません。

 となると、「対応」にも「仮性痴呆」と「真の痴呆」用にはっきり区別をすることはできません。私は基本的には「共感・受容」があらゆる「痴呆様状態」への「対応の基本」だと思います。もちろん、どのような場合であっても「身体疾病の可能性」を考慮していかなければならないことは、「仮性痴呆の改善」のためにも「真の痴呆の方の身体健康維持」のためにも、どちらにも大切なことです。

 すでに長年「痴呆状態」でご家族が音を上げられて当院に入院されているキミさん、一日一度は「リハビリ室」へ出されてきますが、訓練室では「弟を呼んでくれ〜」だの、「○○(何百キロも離れている生地)へ行くところだ〜」だの、「おめ、俺をどうする気だぁ!」だの、大騒ぎをされます。(^_^; で、訓練時間が終わって病室のご本人さんのベッドに着くと、特徴のある模様のタオルカバーのしてある自分の枕なんかを見ながら、「あぁここだここだ、助かったぁ、あんたは神様だぁ」などと言います。となると、「弟」や「○○(生地)」は「そのものズバリ」ではなくて、「自分が安心できるモノ・ことの象徴」として捉えた方がよさそうです。私(流しのPT)はキミさんにとって、「特徴のある模様の枕カバー」ほどにも「安心していられる対象」ではない、ということですね。(^_^; もちろん、私とキミさんとの付き合いは始まったばかりですから、このままで済ませるツモリはさらさらありません。(^_^;

真に厳しい「問題行動」への対応は?

 もっとも、本当に「痴呆の問題行動の実態」を知っていらっしゃる方は、上記のような考え方・対応が望ましいことであっても、実際にはとても困難なことである、ということも、十分にご存知でしょう。夜間、一睡もせずに興奮したまま屋外へ飛び出そうとされるなど、ある意味では「緊急の事態」ということも珍しくないでしょう。そんな場合はどうしたら良いか?それを「痴呆について〜3」として次には考えてみます。

 

仮性痴呆を引き起こす身体疾患・状態の例

 @頭蓋内疾患

 A代謝異常

 B中毒・薬物(副作用)

 C便秘

 D急激な環境の変化(急な入院・施設入所や、家の引越し・改築など)

 E肉親の死など喪失体験

コーナートップへ ◆HPトップへ ▲総目次へ