老人介護についての個人的HP-4 知識 - (9) 大腿骨頸部骨折

大腿骨頸部骨折について

 大腿骨頸部骨折はお年寄りに多い骨折で、「寝たきり」の直接の原因としてもよく知られたものです。しかし同じ大腿骨頸部骨折でも、折れる場所により治療法・対応法も異なってきますしそれに伴い将来的な予後も大きく変ってきます。これは整形外科的な事柄ではありますが、介護に携わる人にとっても「大腿骨頸部骨折を起こしたから・・」と全て諦めてしまうのではなく、状態に応じたケアを展開できるように持っていたい知識です。その辺りのことについて、「知識」として整理し、治療法選択にあたっての提案を一つ行ないます。

※大腿骨頸部骨折の大分類

 図1をご覧ください。これは大腿骨及び股関節を正面から見た図です。図中の黄色の部分が関節を包んでいる「関節包及び関節内腔」です。骨折が、この関節内で起こるか関節外で起こるかが、まずは大きな違いとなります。関節内で骨折が起こった場合、つまり図のピンク色の部分で骨折が起こった場合を「大腿骨頸部“内側骨折”」といい、関節外で骨折が起こった場合、つまり図の水色の部分で骨折が起こった場合を「大腿骨頸部“外側骨折”」といいます。

 関節内腔の骨の表面には「骨膜」がありません。その場合は骨折の治癒は大変に難しいと言われています。つまり、「内側骨折」の方が治りが悪くタチが悪いのです。「外側骨折」は、それに比べればまだ、マシといえます。

図1 大腿骨頸部骨折の「内・外側」の別

※内側骨折の種類と治療

 内側骨折の分類の仕方にも幾つかありますが、ここでは「Gardenの分類」を紹介します。stageTは骨折線が横断していない「不全骨折」、stageUは「転移のない完全骨折」、stageVは「軽度の転移」、stageWは「高度の転移」です。

 

図2 Gardenの分類

 この中で、手術をせずに「安静で治す」つまり「保存療法」の適応となるのは、stageTだけです。それ以外の場合は全て手術適応となります。stageTの場合で保存療法の場合では、順調にいっても骨折した足を地面についてよいのは2ヶ月、完全に立ってよいのは3ヶ月後、となります。

 stageU・V・Wはそれぞれ、手術療法が適応になります。その術式は、例えば以下のように整理されています。

  stageU:骨接合術。
  stageV:整復状態の良いものには骨接合術、整復の良くないものと70歳以上の高齢者では人工骨頭置換術。
  stageW:人工骨頭置換術。

 写真1のレントゲン写真をご覧ください。左と真中が「骨接合術」、右が「人工骨頭置換術」です。接合術のうち左は「単なるネジ止め」、真中は「コンプレッションヒップスクリュー」と呼ぶ、より積極的な接合術です。

  写真1

 「人工骨頭置換術」の場合、何か問題がなければ「術後1週間から2週間もすれば歩いて良い」となります。上記保存療法の場合とはえらい違いです。「コンプレッションスクリュー」の場合も、特に問題がなければ人工骨頭に準じて構わない、とされています。「単なるネジ止め」の場合には、レントゲンで治り具合を見ながら、ということになります。もちろん、その判断は「医師の仕事」となります。

 このように、同じ手術療法でも予後には大きな違いがあります。ところが予後が良い手術は手術自体が大変なのです。本人さんの全身状態によっては、「簡単なネジ止め」しかできないかもしれません。また、行なわれた術式を見ることで、治療に当たった整形外科の医師の先生の「治療にあたっての積極さ」が窺えることになります。

※外側骨折の種類と治療

 外側骨折の分類についても幾つかありますが、ここでは簡単に説明しておきます。要するに「安定型」か「不安定型」かが問題となるわけです。図の通り「二つに折れて転移の少ないもの」は安定型、「三つ以上に割れているもの」は不安定型ということになります。安定型の「不全骨折」の場合には保存療法がとられる場合もありますが、安定型でも完全な骨折であれば手術療法が基本となります。コンプレッションヒップスクリューが適応となりますが、骨折の状態によっては様々な術式がとられることになると思います。安定型に対してコンプレッションヒップスクリューが施された場合で問題が少ない場合には、人工骨頭の場合と同じく1〜2週で歩行にもっていきます。不安定型の場合には、かけてよい負担の具合など特に医師の判断を仰ぎ、守るようにしなければいけません。

 

図3 大腿骨頸部外側骨折の分類(jensenの分類)

※骨折者の状態を把握しましょう

 以上のように、一口に「大腿骨頸部骨折」といっても様々な状態があり、治療法も様々です。骨折者が発生してしまった場合、まずは「骨折の型」を把握するように努めましょう。はっきり折れてしまっている場合、「外側型か内側型か」「安定型か不安定型か」などを見るのは難しいことではありません。そして手術をした場合、レントゲンを見れば同じくどのような手術を行なったのかを見るのはそんなに難しいことではありません。そしてその上で、ケアの展開を考えていかなければいけません。例えば人工骨頭置換術を行ない問題も少ないのに、「頸部骨折だから」と何ヶ月間も寝かせっぱなしにしていた・・、そんなことのないようにしたいものです。骨折の状態・行なわれた治療法とそれに相応しい対応の基本を踏まえた上で、必要ならば医師の先生へ積極的に確認をとりながら積極的なケアを展開していただきたいと思います。

※積極的な治療を希望しましょう〜医師・ご家族への働きかけ

 上記のとおり、大腿骨頸部骨折であれば「保存療法が適応」となるケースはむしろ稀です。ところが(当地の場合)施設内で骨折してしまって大きな病院にいくと「様子を見ましょう。」の一言だけで帰されてしまうことが珍しくありません。明らかに手術療法が適応なのに、です。これは全身状態や術後の管理のことなど全て勘案してのこととは思いますが、「もう年だから・・」という消極的な姿勢が感じられてしまうのは私だけでしょうか?特に骨折前から歩けなかったとなると、医師としては積極的な手術は行なう価値は無いように思えるのかもしれません。

 しかし手術をせずに安静を保とうとしても、オムツ交換のたびに「痛い痛い・・」と大騒ぎになり、それが可哀想だからと「フォーレ留置」の管を使い、要するに痛い上に一気に寝たきり化が進み、排泄機能までダメになってしまうことが珍しくありません。ですから、例え手術をしても歩けるかどうかは分からない、という場合であっても、きちんと手術を受け「痛みの原因を取り除く」ことができれば一番よいと思います。安静保存療法でも長期的には痛みのなくなるケースもありますが、手術を受けた場合に比べて期間はずっと必要となります。

 ですから、できれば医師の先生に「手術をして痛みだけでも楽にしてもらえないでしょうか?」と積極的に希望を伝えるべきと考えます。その場合、施設職員がそのような希望を述べるよりもご家族が希望を述べた方が、医師の先生はずっと耳を傾けてくださいます。

 そして骨折したのが施設内である場合、施設職員からご家族への働きかけが必要となる場合もあります。ご家族が「もう年だから今さら手術なんて・・」という姿勢の場合、上記のように手術をしないと避けられる苦痛を長期間に渡って味わなければいけないこと・その間にすっかりダメになってしまうことが大変に多いことをしっかり説明申し上げ、できればご家族に積極的な治療へ協力してもらうこと。そんなことが本人さんの将来を大きく左右していきます。もちろん、術後の付き添いが必要となるが・・などの別の問題が起きてくるかもしれませんが、それはそれで対応を皆で考えていければ、と思います。

 繰り返し申し上げますが、「骨折は整形外科の先生の範疇だから・・」と無関心でいることはできません。上記のように、施設職員の知識と態度で、事態は大きく変っていく可能性があります。施設職員であれば「大腿骨頸部骨折」に遭遇する機会はきっとあると思います。ぜひともこのページで説明申し上げた程度の知識はお持ちになり、適切な対応をとっていただきたいと思います。

コーナートップへ ◆HPトップへ ▲総目次へ