老人介護についての個人的HP-特別コーナー『食事大作戦-補完:食援助の基本まとめ』

葛゚代家具出版ED研究所 月刊「福祉環境」2001年7月発売分寄稿

口から食べたい!〜摂食障害の方への食事援助の基本〜

 以上の「食事大作戦」のページは、HP開設当初に作ったページで割合に評判?がよろしかったページ群なのですが、何せ「ケース報告」の形をとっていますから、多くのケースにそのまま、という訳にいきません。その後も、多数の方からちょいちょいと『食への援助』について、ご質問を受けることがありました。「まとめなきゃな〜」と思っていましたら、表題の雑誌さんから原稿依頼を受けまして、ちょうどよくまとめることができました。ご了解をいただいた上で、以下にご紹介いたします。本当に、『基本のまとめ』といった内容です。


 介護保険制度が始まって、改めて積極的な介護ケアが志向される時代となりました。かなり以前から試みの始まっている「おむつ外し運動」や「寝かせきりケアからの脱却」、また最近特に話題となっている「抑制全廃問題」など、テーマは様々です。そんな中で「摂食障害の方への援助」ということも、重要なテーマのひとつです。この小文では、嚥下障害への援助について、ごく基本的な事柄をおさえ、まとめてみたいと思います。

 さて摂食障害とは、自力で食事が摂れない、あるいは口から食物を摂ることのできない状態のことを指します。となると、まずは「嚥下障害」が浮かぶかと思いますが、しかし嚥下障害は広い意味での摂食障害の原因の一部分でしかありません。では、何から気をつけたら良いのでしょうか?

1活動的・能動的な生活と規則正しい便通を

 まずは、生活全般のあり方から、です。一日中、部屋や寝具の中にこもって暮らしていて、食が進むわけはありませんね。例え自力で歩けない・車椅子でも自力駆動できない、という方であっても、できるだけ日中は安静臥床を避け、かといって「座らせきり」でもない。そんな活動的・能動的な生活全体のありようが、摂食障害を避け、あるいは改善を試みる上での大前提です。
 それから、ヒドイ便秘では食欲はでませんね。便秘も、活動的で規則的な生活が予防改善の第一歩です。できるだけお薬には頼らず、でもやむをえない時には上手に使いましょう。

2十分な口腔ケアを

 私たちは食後に歯磨きをすることが多いのですが、摂食障害のある方の場合には食後だけではなくて食前の口腔ケアも、見落とせません。摂食障害のある方は一般的に、口腔内の自浄作用も低下してしまっていることが多いからです。口中が汚れたままではおいしく食べられませんね。食事の前に口腔内のチェックも行ない、汚れているようだったら綺麗にしてあげてください。そんなことで、虫歯や口内炎などの医療援助の必用な状況が見つかることもあり得ますし、その治療が摂食障害改善につながることもあるでしょう。

3食事の姿勢を整える

 何らかの嚥下障害がある場合でも、嚥下障害はなくとも腕の運動障害や姿勢の崩れがあるような方の場合でも、ますはできるだけ「食べやすい姿勢」を作ってあげてください。不良な姿勢のままでは食べにくく、むせやすくなります。まずは、写真1のようにしっかり身体を起こすこと。そして首を軽くうなずくようにして、テーブルは高すぎないこと、です。写真1の車椅子の方は嚥下障害はありませんがどうも自力で食べにくいということで、私が行なった姿勢調整の結果、写真のように随分食べやすくなりました。それまでは写真2のような状況でした。上記諸点が満たされず、いかにも食べにくそうな姿勢であることが感じられると思います。

 

写真1           写真2

 食事のテーブルは、高齢者にとって一般的な家具テーブルでは高すぎることが多いです。テーブル天板の高さが、椅子の座面から座高の1/3かそれよりも少し低いくらいになるようにしてあげてください。(座面から天板までの距離を「差尺」と言います。差尺を座高の1/3弱に、ということですね。)写真1でも座面に座布団を敷きこんであります。

 また、すでに背中が丸まっているような方の場合、椅子座面の奥が下がっている分だけ、上記の食事姿勢が取りくいことがあります。写真1でも車椅子大車輪の下に電話帳を挟みこんで、座面を地面と水平にしてあります。

 もしも身体障害が重度で、写真1のように身体が起こしていられない、という場合であっても、原則ギャッヂアップベッドで半分身体を起こした状態で自力摂取してもらうことは、原則避けたいものです。ギャッヂアップ姿勢で自力で食事を摂ることは、きちんと座って摂ることよりもかえって難しいだけではなく、むせや誤飲を誘発しかねません。

 本当に重度な障害の方の場合には、リクライニング車椅子やギャッヂアップベッドで半分臥床したような形でもって、食事介助を行いましょう。その場合でも、枕を高めにして頸のうなずき姿勢は作ること、です。頸が反っていては私たちでも嚥下できませんよ。さらに片麻痺のある方の場合には、写真3のように、身体を半身にやや健側に寝返りさせつつ、頸は患側を向いてもらうようにします。これで、喉の健側を通っての嚥下が導かれて、飲み込みやすくなります。

写真3
(本当はもちょっとウナヅキ姿勢のほうが良い?!)

4ふさわしい食器・スプーンを

 もちやすいスプーンとは、柄が太めで持ちやすく、スプーン面は大きすぎず丸すぎず、また深すぎず、口腔に出し入れしやすいものが良いです。食器も既に様々な「すくいやすいお皿」などが市販されていますが、何にしても使用者との“相性”もあるようです。できる範囲で様々に工夫してあげてください。例えばスプーンの柄も太くするだけはなくて、長さやスプーン面との角度(上下・左右の角度)などにも気を使いましょう。何とか自力で食べてもらいたい、という場合で嚥下障害よりも運動障害の問題が大きいようなケースでは、最初は手でつかんで食べられるもの(小さなおにぎりやサンドイッチなど)から試みても構いません。

5食材や食形態に工夫を

 例えばサラサラの水ものにはトロミをつける、大きな固いものは小さく刻む、などは、既に広く一般的に行なわれています。しかし、ただ細かくすれば良い、というものでもありません。ある程度の細かさであると同時に、口中で食塊としてまとまりやすいことも、飲み込みやすさのためには大切なことです。ですからあまりに細かくなったものは、口の中に溢れるようにかえって食べにくかったりもします。このあたりは、嚥下咀嚼能力との兼ね合いとなります。最近は、「介護食」と呼ばれる製品群も様々に増えました。これにも障害の状態との「相性」があるでしょうね。あわないとかえって食べにくいこともあるでしょうし、障害状態に見合ったものならば、介護負担を軽減してくれる有力なツールになり得ますね。

 ざっと駆け足で書いてみました。本当は各項目ごとに、もっともっと丁寧に説明すべき事項です。そして食の援助は、例えば上記の1〜5のうちどれかに集中的にお金をかけて援助しても、他のどれかへの援助が抜けていたりすると、有効な援助とはなりにくいと思います。援助を必用としている一人の人全体を俯瞰する柔軟なものの見方と、各項目ごとの知識・技術と、援助者にはその両方が必要とされています。

HPトップへ ▲総目次へ