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ナンバージャック 1-3

 ウォーターパラスの足を切り落とすのは大変だ。
 業界用語では掃除というこの作業は退屈極まりない。
 堅い殻に覆われた部分を切り落とすのは不可能なので、
 足の付け根の弱い部分に刃物を突き刺し、切り落とすのだ。
 このときに腹の柔らかい部分に刃が突き刺さると、
 水が漏れて台無しになってしまうので注意が必要だ。
 短距離レーザーで切り落とす方法もあるのだが、
 レイチェルがケチなので今回も使えない。

 6本の足を切り落としたすのにかかった時間は12分と32秒。
 手際のいいほうだった。
 さすがはアンドロイドの俺だけのことはある。

「のろま」

 レイチェルが腕組みして眉間に皺を寄せた。

 もう少し自画自賛させてくれよ……
 まったく、なんて短気な女なんだ。

 ウォーターパラスの掃除の大変さはこれを経験した者にしかわからない。
 運転と機械の修理しかできないレイチェルに、
 この大変さを説明するのは不可能だった。
 ……正確には可能なのだが、時間と労力を必要とするわりに、
 こちらにメリットが無いのでしないだけなのだ。
 つまり、レイチェルは人の話に耳を傾けるような女ではないのだ。

『潤滑油減少・要補給』

 脳内に文字が浮かび上がった。
 なるほど、どうりで間接の動きが鈍ってたわけだ。

 ポケットに入れてあった手のひらサイズのボトルを取り出し、蓋を開けて一口。

「まずい」

 粗悪品のオイルは体に良くないが、金欠なので仕方ない。
 手に入れた水を売るまでの辛抱だ。

「早く乗り込めバカ! 日が暮れちまうだろ!」

 レイチェルが中指を突きたててきた。
「年頃のレディはおしとやかなものさ」と、むかし博士が言っていたがあれは嘘だな。
 見た目は綺麗なのにレイチェルの中身はウォーターパラスの顔面よりも醜い。

 華奢な体に白い肌。身長は170cmより少し低いぐらいだろう。
 黒いスラックスに白のブラウス。地味で動きやすい服装だ。
 胸には十字架のネックレス。きっと安物だろう。
 綺麗なドレスでも着ればそこそこモテるのだろうが……
 まぁこの性格ではダメだろうな……
 そもそも、女のメカニックにまともな人間がいたためしがない。

 俺はウォーターパラスの胴を両手で抱え上げる。
 手にずっしりとした重み。頭の中が金のことでいっぱいになって俺は口元を緩めた。
 軽トラックに胴を積み込み荷崩れしないようにロープをかけた後、
 急いで助手席に乗り込む。

「4時半過ぎか……ここからリーリまでは4時間はかかるから……
 たどり着くのは夜か……」

 レイチェルが腕時計をチラとみてボソボソと何かいっている。
 そして俺を睨みつけてこういった。

「テメーが起きるのが遅いからこうなるんだよバカ!」
「とっとと運転しろよ、日が暮れちまうだろ」

 レイチェルは口をもごもごして不服そうに俺を睨みつけた後、運転を開始した。
 運転中、延々と小言を繰り返されたことは言うまでもない。

to be continue

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