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ナンバージャック 3-5

「馬鹿馬鹿しい」

 俺は……死にたかったのか?

 例えば少年が英雄に憧れるように、
 俺は目の前で死にいく人に対して憧れを?

「俺は……殺したい? 自分を殺したい?」

 ふと沸き起こったその疑問に対する解を求め、
 CPUが計算を開始する。

 ピート・キャンベルを殺すための自己崩壊プログラムにより、
 博士のプログラム――ピート・キャンベルの思考回路――の7割を崩壊させた。

 あのプログラムこそが俺自身だというのか?

 俺は、俺を殺したい?

 いや、違う。俺が殺したいのは……

 チラとジョーカーを見る。

 記憶領域に存在するお前の記憶だ。

「何をぶつぶつ言っているんだい?」

 ジョーカーが怪訝な表情を浮かべる。

 その仕草、声、発言、その全てが気に食わない。
 俺が消したい記憶が、奴の存在によって蘇る。

「聞こえてんだろ。聞こえているのに聞こえないふりをする。
 お前らしいぜ、ピート・キャンベル」
「知ったような事をいうね……
 そうか、君もピートの……」

 レイチェルの細い手首からそっと手を離す。

「どうやら、残念な事に、俺はお前を壊したいみたいだ」

 右肘のコネクトシステムを分離して壊れた肘から下を外す。
 落下する腕を右足で蹴りつける。

 ジョーカーはなんの躊躇も無く攻撃をかわしこちらに近づいてくる。

「裏切り者! 残念だね、仲良くなれると思ったのに!」

 ジョーカーの動きは素早く、それゆえ、カメラで追いきれない。

 低姿勢で接近して右ブローを放つジョーカーの攻撃を
 俺は半歩脚を後ろに下げてかわし、左の拳をジョーカーの顔面に放つ。

 カウンターを放つ速度、角度、タイミングは全て計算済みだった。

 腕に伝わる鈍い衝撃。俺の拳は完全にジョーカーの頭を捕らえた。
 標的はバランスを崩し、地面を転げる。

 俺は左手の人差し指を立てて自分の頭を指差す。

「忘れてたのか? お前の行動パターンは俺の頭の中にもあるって事を」

 カメラで動きが読みきれないなら、行動を予測するまでの事。

 アンドロイドにとって、もっとも重要な頭への一撃。
 どれほどまでのダメージを与えられたかは推測不能だが、
 ダメージを与えられた事で、今後の戦闘が優位に進められそうだ。

 右腕を失った俺と、頭にダメージを受けたジョーカー。
 倒せる可能性は……CPUからの計算上31.834%。

 唇を吊り上げる。

 悪くない数値だ。0%でない以上は勝てる見込みがある。

「……」

 無言で俺を睨みつけるジョーカー。
 右のカメラから青白い火花が四散し、ジリジリという異音が聞こえる。

「救えなかったバーニィを、
 ルシルや父さん、母さんを蘇らせるんだ。
 アンドロイドの国を作って、みんなで幸せな生活を……あの日を取り戻すんだ」

 立ち上がるジョーカーの速度が明らかに遅くなっている。

 頭部へのダメージが効いているのだろう。

「死んだ人間は生き返らない。お前を救う方法はただひとつ」

 ペッとオイルの不純物を吐き捨てる。

「?」

 ジョーカーが左半分の表情をゆがめた。

「お前が天国に会いに行けばいい」

 死んだ人間は生き返らない。

「願い下げだね。天国になんて行くもんか。
 欲しいものは全て自分の力で手に入れるんだ。
 それに、僕は神ってやつが大嫌いなんだよ。
 だってそうだろう?
 あいつはいつも見ているだけで救ってくれた事なんて
 一度だってありはしなかったんだから。
 そんな奴がいる国になんて行くもんか」

 ピート・キャンベルがいかにも言いそうな台詞だ。

to be continue

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