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ナンバージャック 3-6

 あれは100年も前の出来事だったのだろうか。
 今でも鮮明に憶えている。
 あの日、俺は死んだ。

 ルシルの誕生日だった、
 花屋で働いていた俺はバラの花束を
 買って彼女に会いに行く予定だった。

「ピートくん、彼女に告白するの?」

 メガネをかけた冴えない女店長が赤いルージュの唇を動かした。
 小太で、いつも同じスカートを履いている。
 洗濯していないのではなく、同じものを5枚も持っているのだ。
 背は低いほうで164pといっていたのを憶えている。

 年齢は30前後といったところだろう。
 この国では25歳を超えた女性に年齢を聞くのは
 失礼とされているので確認した事はないが、
 肌の質感や話題から推測してそのくらいだと思う。

「そうなんですよ。彼女も17歳になるし、これで結婚できますよ」

 この国では男女とも17才になると結婚する事ができる。

「5歳も歳が離れてるなんて、ロリコンねえ」
「ははは、ロリコンですね」

 少し頭にきたが、笑い飛ばした。
 世間がなんと言おうと好きなものは好きなのだから。
 彼女が成長する姿をずっと傍で見ていたい。

 ずっとずっと傍にいたい、二人で一緒に老いていきたい。
 今はそう思う。

 花は咲いている時が一番綺麗だけれど、
 種から成長して、やがて枯れていく、その全てが好きだった。
 僕が花を愛でる気持ちとルシルを思う気持ちは似ているのかもしれない。

 早めに仕事をきりあげて、彼女の元へと向かう。
 雨風が強く、傘が折れそうになる。

 プレゼントしようと思って買ったバラの花は濡れてしまった。
 彼女は怒るだろうか?

 ああ、そういえばこの手元が木目調の傘は、彼女がくれたものだっけ。
 思い出して彼女の温もりを感じる。

 もう少しで彼女の家にたどり着く。

 辺りが明るくなったかと思い、光源を振り向くと車の影。
 しばらくして、視界は暗闇に覆われた。

 かろうじて動く左腕を動かし、胸のポケットにそっとおく。
 彼女はこの指輪を喜んでくれるのだろうか?

「ルシル……」

 神よ……あんたはいつも……そうやって見ているだけなんだろう?
 誰も救ってはくれやしない。

 彼女にさよならさえ言えやしないなんて、残酷すぎやしないかい?

「この腐れ外道が……」

 内臓から上がってくる血を吐き出しながら、
 空気の抜けるような声が漏れた。

 俺はあんたを許さないよ。
 だって一度だってあんたは救ってくれやしなかったじゃないか。

 ほら、また見てるだけなんだろう?
 何もできやしないんだろう?

 神……あんたはいつもそうやって、
 ただ見ているだけじゃないか。

to be continue

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