BACK  ナンバージャック  NEXT
ナンバージャック 3-11

 システムが起動する。
 起動したカメラから受信する映像。
 ウェーブの長い黒髪。
 レイチェル・グルンワルドがカメラを覗き込むように見つめている。

「気分はどうだ?」

 汚れた作業着から伸びた白く細い首から血管が透けて見えた。

「気分? それ以前の問題だろう?」

 片方の唇を吊り上げて、皮肉を言ってやった。

 首から下が存在しない。
 胴体が見当たらない。

「おお、動いてる。やったー」

 レイチェルが小さくガッツポーズを作った。

 辺りを見回す。薄汚れた倉庫だった。

「生き返ってよかったな。毎日神様にお祈りしたお陰だ」
「アンドロイドは死なねーよ。壊れるだけだ」
「あいかわらずお前もわがままな奴だな」

 レイチェルが油まみれの手で俺の頬をつねった。

 殺す。

「あの後、大変だったんだぞ。
 火事になるし、ジョーカーは暴れるし、
 お前の首をもって必死に逃げたんだぞ」

 レイチェルが腕組みし、うんうん頷きながらいう。

「誰も助けろなんていってねーだろ」
「まあ、そんな悲しいこというなよ。
 私を助けようとしてくれたんだろ。
 ちょっと嬉しかったんだぜ……」

 レイチェルが視線を外し、照れくさそうにぽりぽりと頬を指先でかいた。

「ったく……」

 悪夢が終わるはずだったってのに……
 まだ、終わる事さえ許されないってのか?
 博士、こうなる事も、あんたは予測していたのか?

 死んだ人間は何も答えてはくれない。
 それでも、問いかけずにはいられない。

「今は機械屋さんのお世話になってんだ。
 ミリーナおばさんは気さくで楽しい人だし、
 ボブおじさんはちょっと頑固だけどとっても
 腕のいいメカニックなんだぞ」

 レイチェルが腕組みし、うんうん頷きながら話し始めた。

「少しずつ金を稼いで、体を買ってやるからそれまで待ってろよ。
 まだまだ時間はかかるかも知んねーけど、絶対直してやるからな」

 レイチェルがピンと人差し指を立てた。

「そうだ。お前さ、パスワードとか解析できねえか?」
「?」
「パパの記憶、調べてたらロックがかけられた部分を見つけたんだ」

 レイチェルの父親ロッキー・グルンワルドの
 コピーロボットから入手した記憶ディスク。

 レイチェルは父親の記憶を解析しようとして、
 ロックが解除できずに困っているという。

「心当たりは調べたのか?」
「パパが好きだった食べ物とか、ママの名前とか入れたけどダメだった」
「お前の名前は?」
「ダメだった」

 俺の頭にケーブルを繋ぎ、ロッキーの思考回路にハッキングをかける。

 パスワードは複雑な数値の羅列。暗号化による隠蔽を紐解いていく。
 そうすると『knock king』という名前が現れた。
 博士の名前だ。100年以上も前に亡くなった博士に
 ロッキーは憧れていたのだろうか?

 結局、答えはわからない。

 パスワードをレイチェルに告げると、
 レイチェルが解析を始めた。

「尊敬していた博士の名前か……パパらしい」

 しばらくするとディスプレイにロッキーの姿が現れた。

 顔のほとんどを黒いひげに覆われた男だった。
 娘と同じく服装には拘らないようで、
 油まみれのしわしわのコートを着ている。

『レイチェル……』

 語りかけてくる声は低く、まるでウドの大木のようだ。

 レイチェルの後姿が小刻みに震えている。

『パパはお金持ちになったよ』

 額やシャツにキスマークが付いた男。

『記憶をコピーして売る事業に成功したんだ。
 パパはとっても幸せに暮らしているよ。
 表向きパパは死んだ事にして悠々自適な生活を送っているんだ。
 所詮アンドロイドは思考が成長しないから、
 バージョンアップ対応でさらにもう一儲けできる手はずだよ。
 彼らは柔軟性に欠けるのだよ。
 返答や思考パターンが固定化されているからだろうね。
 こほん。話がそれたね。私はあまり褒められた組織と
 関係している訳ではないからお前を連れて行くわけにはいかなかったんだ。
 すまないと思っている。だから、お前はお前で幸せになりなさい』

 ざわざわと辺りが騒がしい。

『ねえ、早く遊びましょうよダーリン』
『ああ、後で行くよ、ちょっと待ってなさい』

 女の身体がチラチラとディスプレイに映りこむ。
 ブロンドの長髪に下着姿だ。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 レイチェルが呪いのように「殺す」と繰り返す。

「ハハハ、最高にクレイジーな親父だな!」

 金のために悪の組織に加担する奴は嫌いじゃない。
 愛娘を捨てて金に溺れた親父。傑作じゃねーか。

 唇が釣りあがる。

「借金してでも見つけ出してやる!」
「いってらっしゃい」
「テメーも来んだよ! パーツなんてすぐにでもかき集めてやるよ!」
「短絡的な発想だな」
「うっせー、あのバカ親父、絶対見つけてぶん殴ってやる!」

 レイチェルが胸の前で拳を強く握り締めた。

「ジャック、パパを捜すの手伝ってくれよ」
「断る理由しか思いつかねーな」
「るっせー、冗談いってんじゃねーよ、
 黙ってうんって言ってろよ!
 ああ、わかったよ、今度は本当に喉に爆弾仕掛けてやるって!
 テメーは一生私の傍から離れられねーんだよ!」

 レイチェルが眉間に皺をよせ唾を飛ばす。
 相変わらず喜怒哀楽が激しく忙しい女だ。

『レイチェル、愛しているよ』

 ディスプレイの中でレイチェルの父親が微笑む。
 映像はそこで途絶えた。

 レイチェルが中指を突き立て唾を飛ばす。

「FUCK!」

the end

BACK  ナンバージャック  NEXT