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ナンバージャック
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07 虚空に笑みを、君にさよならを レイチェルが車を選んでいる時間を使って、 街のショッピングモールで買い物をした。 黒地にシャドウストライプの入った2つ釦スーツ。 ジャケットの下には白地のTシャツ。 アクセントとしてシルバーのネックレス。 トップは三連リングで、それぞれが微妙に違う輝きを放ち、 胸元でキラキラと輝いている。 腕時計と靴とベルトは茶色でそろえた。 同色のバックサイドホルスターも買った。 グリップ底部が上方を向き、銃身は地面と平行、 または平行に近い角度になるようベルト背面部に装着する。 隠し持つことを重視した形式のホルスターだ。 シンプルなシルバー製のマネークリップを購入し、 紙幣を挟み胸の内ポケットへ入れる。 小銭はコインケースに入れた。 色はタンで植物系のカービングが施されている。 「で、色々選んでたら2時間もかかったってわけか?」 腕組みして眉間に皺をよせ、レイチェルが睨みつけてくる。 つなぎ姿に白いTシャツというなんとも色気の無い服装だ。 「正確には2時間06分59秒だ」 「うるっせえよ!」 レイチェルが腰にさげた工具ベルトからモンキースパナを取り出し、 勢い良くこちらに向けて投げつけてきた。 さっとバックサイドホルスターから銃を抜いてみるも、 反応が遅かったため、引き金を引く前にモンキースパナが 体に当たると判断したので左手で受け止めた。 「なるほど」 今の動作で銃を抜くまでの時間を計測する事ができた。 これで次からは問題なく攻撃できる。 「何がなるほどだ! ふっざけんな! こっちは早く仕事に行くために準備してんだよ!」 「先に一人で行ってくれても良かったんだぜ」 「てめーがいねーと仕事になんねーんだよ! そのくらいわかるだろ!」 甲高い怒声が煩く付きまとう。 喉の爆弾さえなければ迷わずに撃ち殺しているところだ。 「じゃあ、そろそろ仕事に行くか。今日はもう昼過ぎだし、 大広場の掲示板からはろくな情報も得られないだろう。 手っ取り早く水狩りにでも行くのが無難な判断だな」 「よし! じゃあ行くぞ!」 レイチェルが新品で給水タンク付きの軽トラックに乗り込んだ。 「いってらっしゃい」 銃をホルスターに収め、手を振ってさよならをする。 「テメーも来るんだよ!」 ボルトが飛んできたのでスパナを掴んだまま左手の人差し指と中指の間で受け止めた。 修理したての左腕は完璧ではないにしても、悪くない動きだった。 「いまいち乗り気がしねぇな」 欲しいものを一通り手に入れ、まだ金が残っている今の状況。 俺には、戦う理由が無い。 今の生活にも飽きてきたし、レイチェル・グルンワルドを 殺す方法をそろそろ本格的に考えるとするか。 俺の喉に爆弾を仕掛けて目覚めさせたお前を、必ず殺す。 助手席に座る。エンジンが音を立てて走り出す。 レイチェルの荒い操作で縦揺れが激しく、 処理落ちして景色が細切れになる。 「もう少し優しく運転しろよ」 「だったらお前が運転しろよ!」 甲高い怒鳴り声が車内に響く。 会話は続かない。黙したまま軽トラックは街を走りぬけ、 砂漠の大地へと進んだ。 運転中のレイチェルは緊張のためか両手を ピンと張ってハンドルを握っている。 窓から外を見上げてみれば、空一面が青一色に染まっている。 「相変わらず晴れてんな。たまには雨が降ればいいのに」 「スコールなんて3ヶ月に1回降れば――だからな、 しばら――んじゃねーか」 レイチェルが急にハンドルを切ったため、 衝撃で処理が落ちて言葉が途切れる。 「もう少し優しく運転しろよ」 「だったらお前が運転しろよ!」 甲高い怒鳴り声が車内に響く。 会話は続かない。黙したまま軽トラックは砂漠を駆け抜ける。 喉に仕掛けられた爆弾が爆発する条件を再確認する。 1:リモコンのスイッチを押す 2:レイチェルの心臓が停止する どちらかの条件を満たせば爆弾は爆発する。 リモコンの有効範囲や、妨害電波を使用すれば、 レイチェルを殺す事は容易い事なのだろう。 だが、殺せない。有能なメカニックがこの世界には少なすぎる。 レイチェルを殺せば、俺は喉に爆弾をつけたまま、 メンテナンスが行えない状態で活動しなければならない。 とすると、レイチェルに爆弾を外させる、 もしくは、代わりのメカニックを捜す。 この二択になるわけだ。 「なあメカニックの知り合いはいないのか?」 「こないだ出会ったメリルさんだろ、それに車屋さん、 あとパパくらいかな」 メリルか。片目の女メカニック。 レイチェルよりも話はわかりそうだが、 技術力の面で信頼できない。 車屋に至っては論外だ。会話を交わした限りでは、 専門用語の20%も理解できていないような無能な男だった。 「喉の爆弾はお前の父親を見つければ外してくれる。 そういう約束だよな」 「うん。パパが見つかれば、お前に用は無くなるからな……」 レイチェルはチラとこちらを見て、 どこか寂しげな目をして口の両端を吊り上げた。 手がかりも無い男を捜し出す。そんな悠長な話があるか? 首輪を付けられた飼い犬の生活にはうんざりだ。 よし、決めた。 喉の爆弾をレイチェルに外させて殺す。 メンテナンスは諦めるとする。 細部までの修理はできないとしても、 パーツ屋にはそこそこまともな技術者がいるだろう。 パーツがあれば動くに困る事もない、 それに簡単な修理なら自分でもできる。 軽トラックが大きく縦に揺れて停車した。 体に激しい衝撃が伝わる。処理が落ちる。 一瞬だけカメラからの映像が断片的になる。 「急ブレーキなんて……」 文句のひとつでも言おうとしたが辞めた。 フロントガラスの前方に水獣を発見したのでやめた。 「ウォーターパラスか。ありゃでかい」 ウォーターパラスは体内に水を蓄える砂漠に住むモンスターの事だ。 甲殻類で成虫になると全長3mにまでなる大きな化け物。 砂漠にならどこにでもいて、旅行者や運搬車を襲うことで有名だ。 水をたらふく溜め込んだ腹を引きずりながら 6本の細長い脚で砂漠を進んで行く。 なかなかの大物だ。こいつ1匹でしばらく遊んで暮らせるだろう。 「子連れか……」 レイチェルが小さな声でそう漏らした。 良く見ると腹の水袋の中で、子どもが3匹泳いでいる。 成虫になると母親の腹を食い破って飛び出す事で有名だ。 「チッ、別の水獣を探すぞ」 レイチェルが舌打ちしてそういった。 「バーカ、子持ちだろうが関係ねえよ」 片方の口元が自然につりあがる。 バックサイドホルスターから銃を抜いて窓から上体を出す。 銃を持った右手を前方に向けて狙いを定める。 << ターゲットロック完了・命中率99.5% >> CPUがそう告げる。 「ハハハハ、死ね!」 銃声が砂漠に響く。銃弾はウォーターパラスの頭に直撃して 頭の半分を吹き飛ばした。血と肉片が青空の下ではじけ飛ぶ。 6本の脚から力が抜ける。 大きな音を立ててウォーターパラスは地面に倒れた。 水袋の中で泳ぐ子ども達は何も知らず、のん気に泳いでいる。 「な、こ、殺すなよ! なんで、なんで殺しちまうんだよ!?」 「ガキは成長したら大人になるんだぜ。 子どもだから殺さない? 子どもがいるから殺さない? そんなガキみたいな事いってんじゃねーよ」 「でも……」 レイチェルは口をもごもごさせて、静かになった。 「水を回収するから早くウォーターパラスの傍まで行けよ」 銃を腰のホルスターに収める。 レイチェルがウォーターパラスに車を近づけた。 車から降りて水を回収する。 軽トラックに積んだタンクの積載量は400リットルだ。 タンクからホースを取り出し、ウォーターパラスの腹に突き刺す。 スイッチを押すと給水が始まった。 見る間にウォーターパラスの腹は萎んで、 中で泳いでいた子ども達は水分を失い、 腹を食い破って外へと逃げ出した。 全長50cmに満たない小さな体でよたよたと脚を動かして逃げ出す。 1匹ずつ素手で捕まえて脚を折った。 足を折られた子ども達は逃げる事もできず、 ただ、折れた脚をばたばたと動かす事しかできずにいる。 子どもの腹にもホースの先端を突き刺して給水する。 手際がよかったので作業は7分12秒で終わった。 風が吹き、乾いたウォーターパラスの残骸が 砂漠の砂に埋もれていく。 明日になれば土の下に埋もれてしまっているのだろう。 「終わったな」 「銃撃ちながら変な声で笑うなよな。気持ち悪い」 レイチェルが腕組みして砂の大地に仁王立ちしている。 「血が飛び散る様がたまらなく好きなもんでね」 「気持ち悪い奴……」 レイチェルが顔をしかめた。 「気持ち悪いか?」 「うん。お前、気持ち悪いって。罪悪感とかねえのかよ。 子どもがいたんだ。それにさっきまで生きてたんだ……」 「水狩りがモンスターの心配してるなんてありえねえな。 お前は水狩り失格だ」 「うるさい!」 レイチェルが肩を怒らせ、地団太を踏んだ。 顔を紅くして奥歯を噛み締めている。 「俺の事が気持ち悪けりゃ、喉の爆弾をとっとと外して自由にしてくれよ。 そうすりゃお前の傍からすぐにでも消えてやる」 「それはダメだ。お前がいないと仕事ができない」 「……ったく」 スーツの内ポケットからオイルボトルを取り出して一口。 <<補充率89%>> <<補充率99.5%>> <<補充完了>> CPUの几帳面な告知が終わった。 「綺麗事ばかり言ってんじゃねえよ。 偽善者って奴が一番嫌いなんだよ。虫唾が走る。 お前みたいな奴がこの世界から消えてくれれば この世界は争い事で毎日が楽しくなるってのによ」 「なんだと……!」 眉間に皺をよせ、レイチェルが握りこぶしを作った。 「女は女らしく男に媚びてりゃいいのによ。 親父を捜す? 馬鹿じゃねえか? そんな夢捨ててさっさと結婚でもして幸せな生活でもしてればいいのによ。 つってもお前みたいな性格が悪くてダサい女は 誰にも好きになってもらえないだろうがな。 ふふ、そうだな。娼婦にでもなって男に股を開いてればいいんだよ。 そうすりゃ生きていける。ハハハ、悔しいか。 最初から気にくわねえんだよお前のその性格。 爆弾さえなければとっくに殺してやってるってのによ」 「黙れ! 黙れ! 黙れ黙れ!」 レイチェルが目を赤くしてモンキースパナを取り出した。 計画通りだ。 直情傾向のレイチェルは簡単な挑発に乗る。 モンキースパナを俺に投げつけた時点で計画は起動する。 「小汚ねえ格好で傍にいられるだけで吐き気がする」 「死ね!」 レイチェルの目から涙が溢れて宙を舞った。 それと同じくしてモンキースパナがこちらへと飛んでくる。 回転し、緩やかなカーブを描きこちらに接近してくる。 普段なら手で受け止めるか、かわすのだが計画のためだ仕方ない。 <<頭部・軽度の衝撃>> 頭にモンキースパナが当たる。 衝撃で処理落ちが発生したのか、視界が細切れになった。 わざとらしくならないように自然に両膝を地面について倒れこむ。 目を閉じてうつ伏せに倒れこむ。 このまま動かないでいれば、レイチェルが心配するだろう。 これから、楽しいショーの始まりだ。 レイチェル・グルンワルド、 お前に喉の爆弾を外させるためなら何だってしてやる。 「ふん! お前が悪いんだぞ。お前が変な事言うから悪いんだ!」 沈黙を続ける。 「おい、早く起きろよ。日が暮れちまう」 心配を誘うのに必要なのは沢山の言葉ではない。沈黙だ。 「おい、ジャック大丈夫か、おい、変な冗談はよせよ!」 レイチェルの小さな手が俺の身体をゆする。 身体を触られるのは好きではないが、今回だけは特別に許してやる。 「おい、ジャック! 起きろ! おい、目を覚ましてくれよ! なあ、おい! おいって!」 甲高い声が耳障りだ。 瞼を閉じたままゆっくりと身体を仰向けに動かし、 「う〜ん」とうなる。 「ジャック、大丈夫か? しっかりしろよ」 瞼を開いて初めて会うような表情を作り、俺は口を開いた。 「君は……誰だい?」 「悪い冗談はよしてくれよ……ジャック」 レイチェルの表情がひきつった。 街で水を売り。少なくは無い金が手に入った。 「これがお前の分だ」 そういって差し出した金を俺は受け取らない。 「困ります。そんなお金いただけません。 レイチェルさん……でしたっけ? 貴女、いったい僕とどういう関係なんですか?」 記憶領域に残っていた情報を集めて即席に作った 偽の思考ルーチンから算出される言葉を吐き出す。 できるだけ異性に好感の持たれる性格に仕立てたつもりだ。 今までの俺とレイチェルの関係は険悪そのものだ。 マイナスの状態からレイチェルの信頼を得て喉の爆弾を外させるより、 ゼロの状態から始めたほうがスマートだ。 頭に強い衝撃を受けて思考ルーチンに異常をきたした。 悪くは無い設定だ。 全消ししてやりたかった記憶領域だが、 こんなところで約に立つとは思ってもみなかった。 「お前は私の奴隷だ。水狩りをしていて、お前はモンスターを退治するんだ。 あと、お前の喉には爆弾を仕掛けてあって、 私が死ぬと爆発するようになってる」 奴隷になった覚えはないが…… 「貴女は僕のご主人様なんですね」 「うん。そうだ」 「綺麗なご主人様に巡り合えた事を神に感謝します」 そういって口元を緩め微笑む。 レイチェルは怪訝な表情をしながらも顔を赤くした。 俺から視線を外し、レイチェルが小さな声でいう。 「気持ち悪い」 高性能のマイクはその小さな声を逃さなかった。 「レイチェル様、今日のお仕事はもう終わったのですか?」 「ああ、金は沢山手に入ったからな。借金もこれで返済でき……」 「だったらさっきのお金、僕の分のお金で レイチェル様に服を買って差し上げます」 << 優しく手を取って、目を見つめる >> CPU、キザ過ぎるんじゃねえかそれは…… まあいい、言われるままにしてやるさ。 レイチェルを殺すためだ、この際、方法なんてこだわってられねえ。 「さ、行きましょうレイチェル様」 「おま、やめろって」 レイチェルが手を引っ込めて、困惑の表情でこちらを見ている。 「それにそのレイチェル様って気持ち悪いからやめろよ。 レイチェルでいいって、なんか肌がかゆくなる」 「失礼しましたレイチェルさ……レイチェル」 「ったく……調子狂うな……」 癖のある黒い長髪を右手でかいて、レイチェルは深い溜め息をついた。 「そんなことをしたら髪が乱れてしまいますよ」 左手を肩に置き、右手で優しく髪を撫で付ける。 「やめろよ。自分でするから!」 レイチェルが手を払いのけた。 「お前、調子悪いな。買い物なんて行ってる場合じゃねえぞ。 修理してやるから早く家に帰るぞ」 修理? お前に都合の良い性格になってやったってのに。 何考えてやがる…… 「レイチェル、僕は修理されたらどうなってしまうんですか?」 「そりゃ、元に戻るんじゃねーか?」 「もとの僕はいったいどんな人物だったんですか?」 「性格が悪くてナルシストで金遣いが荒い最低の奴だ」 「そんな! そんな悪い奴だったのですね僕は…… ですがレイチェル、僕は貴女を守りたい。 性格の悪い僕を貴女の傍においてなんておけません。 貴女を守るのは今の僕です」 レイチェルの手を取って目を見つめる。 「うーん……」 レイチェルが複雑な表情を浮かべた。 「さ、買い物に行きましょう」 「修理するしないは別として、服なんていらねえからな。 だって着る服あるし。お前もその服あるし、いらねえだろ」 「アンドロイドというのは、ご主人様にはいつも 綺麗でいて欲しいと願うものですよ。 もっとも今でも十分にお綺麗ですが、 より美しくなっていただきたいのです」 << 頭部・軽度の衝撃 >> 不意にレイチェルが俺の頭をモンキースパナで殴った。 「何をするのですか!」 「いや、直るかと思って……悪い……」 やっぱりだめかと溜め息をついて、 レイチェルはモンキースパナを工具ベルトに収めた。 直る訳ねえだろ馬鹿。元から壊れてなんかねえんだからよ。 危うくボディに拳を入れるところだったじゃねえか。 「罰としてショッピングに付き合っていただきますからね」 レイチェルの手をとり、少し強引に引っ張る。 「おい、待てって、ブーツは歩き辛いし、 ショートパンツは足がすーすーして気持ち悪ぃんだよ。 やっぱり作業着が一番なんだって。 綺麗なドレスとか、大人らしい格好とか全然したくねーんだって!」 振り向いてレイチェルの顔を覗き込む。 頬を赤らめて俺を見上げている。 「きっと大丈夫ですよ。心配する事はありません。 僕に任せておいてください」 「大丈夫……」 『理由はともかくとして、大丈夫という言葉に女性は弱い』 博士が昔そういっていたのだから間違いないだろう。 とりあえず、レイチェルはおとなしくなった。 あまり好みではないがレイチェルが派手な服装を拒むものだから 地味な服で一通りそろえてやった。 黒いスニーカーにゆったりめの黒のストレートパンツ。 ベルトは白いものにした。 上は黒地にメッセージが記載されたタンクトップ。 その上に白いブラウスを着せてた。 今まで着ていた服をショップで買った茶色いトートバッグに入れて担いでいる。 ダサい服なんて捨てちまえばいいのによ。 「なんか落ちつかねえな……」 着慣れていないのか、レイチェルは落ち着かない様子だ。 不安げにきょろきょろと通行人たちに視線を移している。 「とてもお似合いですよ」 目尻を下げて口元を緩める。 CPUの指示通りに表情を作った。 「そうかなあ……」 「さ、次はあのお店に行きましょう」 指差したのはショッピングモールの一角にある雑貨屋。 店の入り口、ショップの名前や一押し商品の名前と値段が書かれた看板の隣で、 鎖でつながれた白い毛の犬――品種はグレート・ピレニーズ―― がメガネをかけた7歳くらいの少女に頭を撫でられている。 少女は黒髪を頭の上で結っている。店員に良く似た少女。 屈託の無い笑みを浮かべ、犬の頭を撫でている。 犬は少し面倒そうに事務的に尻尾をふって 楽しそうな振りをしているように見える。 この店には以前にも一人で入った事があり、 そのときはレイチェルに白いハンカチを買った。 「もう買うものなんてねえだろ。もういいって。 十分買い物したから、それよりお前調子が悪そうだ。 早く家に帰ろう。修理してやるから」 レイチェルが不安気な表情を見せた。 「修理されたら僕はもとの凶悪なアンドロイドに戻ってしまうかもしれない。 レイチェル、僕はそれがとても怖いんです」 アンドロイドは恐怖なんて感じねえよ。 CPUが算出する歯の浮くような台詞をスピーカーから吐き出す。 「レイチェル、貴女の傍にずっといたい」 白く小さな手を取って、瞳を覗き込む。 レイチェルの大きな黒い瞳が震えているのがわかった。 緊張しているのか呼吸も荒くなっている。 口をもごもごさせて何か言おうとしている。 「さ、行きましょうレイチェル」 少し強引にレイチェルの手をとって店へと向かう。 「あ……おじさん……」 お兄さんだろ? 店の前で犬と遊ぶ少女が不安げな表情を浮かべた。 「やあ。こんにちわ。かわいいね」 優しく犬の頭を撫でる。動物特有の体臭がするのであまり触りたくはなかったが、 優男を演出しなければならないので今回は目を瞑る。 グレートピレニーズは警戒するでもなく、 ただ事務的に尻尾をふって喜んでいるふりをした。 少女の表情が見る間に輝いた。 「うん。キーマンっていうんですよ。とてもおりこうさんなんです」 白い歯を見せて微笑む少女の頭をひとなでして店に入る。 「さ、おいでレイチェル」 レイチェルが後ろから付いてくる。 店に入る。フローリングの壁と床。 理解しがたい複雑なデザインの絵が壁に掛けられている。 店には女店員しかおらず、客もまばらだ。 それほど広い店ではないが、珍しい小物などが置かれている。 長い黒髪を頭の上で結って、 黒縁のメガネをかけた女店員が目を大きくして、 いらっしゃいませと駆け寄ってきた。 「こんにちわ。今日は彼女を連れてきてくださったのですね」 「彼女?」 レイチェルがきょとんとして間抜けな声を上げた。 「ははは、ご冗談を、レイチェルは私のご主人様ですよ」 「あら……」 女店員は頬を赤くして口元に手をあてた。 辺りを警戒しながら小さな声でいう。 「ご主人様と飼い犬の関係ってことですよね。深くは追求しませんけど」 「ち・が・う!」 レイチェルが耳まで赤くして甲高い声で怒鳴った。 数人の客がこちらを見ている。 それに気付くとレイチェルの顔はさらに赤くなった。 「形はどうあれ、ご結婚はされるんですか? 結婚ってとても幸せですよ。あの子の笑顔を見るだけで私は幸せです」 そういってドアの向こうを見る女店員。 暖かい瞳をして口元をかすかに上に向ける。 「残念ながら私はアンドロイドなんです。レイチェルは私のご主人様です」 「あらまあ、そうだったんですか。人間と見分けが付きませんでした」 女店員はそこで黒縁のメガネをかけなおした。 「それにしても、以前と少し雰囲気がかわりましたね。 深くは追求しませんけど、ご主人様が傍にいると 性格まで変わってしまうんですか?」 深くは追求しないといいながら、女店員はずけずけと質問してくる。 「まあ、そんなところです」 適当に相槌を打って済ませる。目障りな女だ。 「それはそうと先日のハンカチはどうでしたか? やはり生地がふわふわのほうが良かったんじゃないですか?」 良く喋る店員だ。 銃口を喉に押し付けて引き金を引いてやりたい気分だ。 確か生地を重視する女店員の意見を無視して デザイン重視のハンカチを買ったのだ。 その事を根に持っているのだろうか…… 「え、ハンカチ?」 「あら、やっぱり、お気に召さなかったのですね」 俺にしか見えない角度で、女店員が勝ち誇ったニヤリとした笑みを浮かべた。 「ゆっくりしていってくださいね」 落ち着きがありハキハキした声で 女店員はそういうとレジへと戻って行った。 レイチェルと顔を見合わせる。ゆっくりと微笑む。 レイチェルも歪んだ笑みを浮かべた。店員に呆れているようだ。 「ママ! ママ! パパが帰ってきましたよ!」 「あら……」 「お前たち……」 扉の前に立つ身長170程度の小さな人影が戸惑いの声を漏らした。 口元に赤いバンダナを巻き、ゴーグルを装着している。 レスカ・マーカーの相棒…… 確か名前はモニーか…… 「あ、お前は確かレスカさんの……」 レイチェルが指差して甲高い声で叫んだ。 「ちょっと待て……」 慌てて駆け寄りレイチェルの口を押さえ、 モニーが店の外で話があるといった。 言われるままに外にでて街の細い通路まで移動した。 モニーは人目を避けるように辺りを警戒しながら、 小声で話し始めた。 「こんなところで何をしている?」 「何って、買い物ですよ」 俺はきょとんとした表情を作ってそう答えた。 「目障りだ……その、消えてくれ……」 歯切れの悪い声だった。 目障りなのはお前だよ。 「ちゃんと理由を言えよ」 レイチェルのその一言に、モニーはふうと溜め息をついて答えた。 「俺はメカの腕もいまいちで、戦闘だってお世辞にも褒められたもんじゃねえ。 店を維持するには収入だけじゃ足りない。 困っていた俺を助けてくれたのがレスカ様だ。 でも、でもだ。妻と娘の前でだけは立派なお父さんを演じてやりてえんだ」 少しなまりのある喋り方だ。 ご主人様レスカがいなければ態度がころりと変わるようだ。 お前の人生なんてどうだっていいんだよ。 俺は、喉の爆弾を外してレイチェルを殺してえんだよ。 「妻は連れ子のアリアを本当の娘のように可愛がってくれる。 いい妻だ。俺にはもったいねえくれえだ。 娘と妻がいる生活。それだけで幸せなんだ。本当に幸せなんだ…… な、頼む、仕事をしている時の俺の情けねえ姿を見せたくねえんだ」 「わかる。わかるぞ」 レイチェルが目を赤くしている。 ずるずると鼻水を啜る音まで聞こえる。 「ジャック、行くぞ」 普段の俺なら文句のひとつでも言うところだが、 レイチェルの心を開かせるまでは我慢してやるか。 「そうですね。帰りましょう。モニーさんお元気で」 「ありがとう……」 ゴーグルのせいでモニーの表情を読み取る事はできないが、 声が涙声になっていた。 「行くぞジャック」 「はい。レイチェル」 レイチェルの手に手を伸ばす。自然に手が繋がる。 最初の頃と比べて少しは心を開いてきたようだ。 レイチェル……お前を殺す日は近い…… 「あ、いけね、バッグ忘れてきちまった!」 レイチェルの以前着ていた服を入れたトートバックの事だろう。 「まだ間に合うと思いますよ。さ、急いで取りに行きましょう」 「おう!」 店へと戻る途中で、店の方角から銃声が聞こえた。 それも拳銃ではない。マシンガン何かの連続して銃弾を放つ音だ。 「おい、ジャック!」 「はい!」 顔を見合わせ、バックサイドホルスターから愛銃E02を取り出して店へと向かう。 入り口で立ち止まるとそこは惨劇の後だった。 太った女も、天然パーマの若者も血を溢れさせながら倒れている。 頭が吹き飛んだ女服を着た奴もいる。モニーとその娘アリアの姿はない。 そして…… 「ああ、何て事……私はモニーに騙されていたなんて……」 腹を撃たれ、足が反対方向にねじれた状態で女店員が壁にもたれかかり倒れていた。 「おい! しっかりしろ!」 「若い頃に馬鹿やって、子どもを生めない私に彼はやさ……」 口から血を吐き出す。ごぼごぼという気持ちの悪い音が漏れた。 血と汗でまみれた顔。目から雫があふれ出している。 ぼんやりと虚空を見上げ、女店員は話を続けようとする。 「やさ……」 「やめろ! 喋るな! 死んじまう!」 レイチェルの静止を無視して女店員は話を続けた。 「いいのよ、もう……それに、もう、あまり長くはないようだし……」 苦しそうに息をして続ける。 「誰かに聞いて欲しいのよ。あなたたちのような仲の良い二人にね……」 女は唇を震わせながら話を始めた。 モニーと出会ったのは2年前。珍しくスコールが降る夜に店の前で物音がした。 扉を開けると5歳のアリアを抱きかかえ、モニーが倒れていた。 女店員は迷わずモニーを助けた。モニーはお礼になんでもしてくれた。 仕事もよくした。二人は気がつくと結ばれていた。子どもが生めない女店員を それでもモニーは受け入れてくれた。女店員はモニーとその娘アリアを愛した。 細切れで断片的な情報をつなぐとそんなところだろう。 もはや目の前は真っ白な霧にでも包まれているのだろうか。 「それでも、少しだけでも夢を見られた私は、 幸せだったのかも知れない…… 突然両親が死んでしまって孤独だった私に、 彼は光を与えてくれた…… 薄々は気になっていたの。少し怪しいところがあって、 だけど、だけど、3人でいる時間があまりにも楽しかったから、 最後まで私、いう事が出来なかった……真実なんて知りたくなかった……」 女は虚空をぼんやりと見つめたまま、最後に一言声を漏らした。 「せめて何も言わずに頭を吹き飛ばして欲しかった……そしたら私ずっと……」 ふふふと自嘲気味な声を漏らし口元を緩め、 女はそこでぐったりと倒れて静かになった。 口元がつりあがる。人間が死ぬ様は嫌いじゃない。 レイチェルに気付かれないかとチラリとみるが、 女店員に気をとられているようでこちらを気にした素振りはない。 レイチェルの鳴き声が狭い店の中に響いた。 「追うぞ!」 「レイチェル、追うといっても方法が……」 「追う方法ならあるよ」 扉に立つ人影にレイチェルが目を見開いた。 「レスカさん!」 「モニーの様子が最近おかしかったから、 靴に探知機を仕掛けておいたんだ」 レスカは浮かない表情をしていた。 「だけどこの事件はレイチェルちゃんには関係ないから、 私一人で行くよ。この前は……その……酷い事を言ってごめんね……」 「待って私も、私も行く!」 レイチェルが立ち上がった。 拳を握り締めて言う。 「許せねえんだ。人の事を騙して、こんな事する奴を……」 「……」 どうでもいい話に巻き込まれてんじゃねえよ。 多額の金を手に入れた俺たちが賞金首や犯罪者を捕らえる事に、 なんのメリットもねえんだよ。うざったるい女だぜ…… 「レイチェル、ですが危険です」 「大丈夫だ! お前が付いてる!」 誰が行くって行った馬鹿!? 計画が綻び始めている。CPUが熱を上げる。 「早く、私のハマーで追いかける!」 砂漠色の迷彩服を着たレスカがレザーの皮手袋をはめなおしそういった。 「はい!」 レイチェルの威勢のいい声が店内に響く。 やれやれ、女の友情? 人間臭え。うんざりする。 せめてモニー、お前を惨殺しねえとこっちの気がすまねえ…… ハマーがたどり着いた先は街を出て南南西に10kmほど進んだ先にある 崖の下。人が一人入れるほどの狭い通路を前にしてエンジンが止った。 「たぶん……この奥だよ……」 レスカは金色の長髪を左右に振ってから 頭の後ろでゴムで纏め、ガスマスクを装備した。 「レイチェル、これを」 レスカが護身用の拳銃を手渡した。 22口径。ショートクレイジー・レベッカ仕様だ。 小柄なシルエットに銀色のボディ。複雑な装飾をされており、 御信用とは名ばかりの観賞用といっても過言ではない銃だ。 制度もそれほど良くない。5メートル圏内といったところだろう。 「うん……」 受け取って右手に握り締める。 先へと進む。大柄な俺は狭い通路に悪戦苦闘しながら進むが、 後ろを歩くレスカとレイチェルはさほど苦労していない様子だ。 頭を取り外して右腕とつなぐか……? いや、リスクが多いからやめておこう。 しばらくすると、道が無くなった。 カメラをサーモグラフに変える。 熱量が違う箇所を見つけたので探ってみると地下へと続く通路が現れた。 カメラを通常に戻す。レスカに借りたライトのお陰で視界に不自由する事はない。 視界が開けた。 舗装されていない地面に機材が並べて置かれている。 「これは……」 レイチェルが声を漏らす。 「研究施設……」 違法な研究施設だ。怪しい機材が立ち並び、どこかから電気を引いてきている。 恐らくは太陽光発電だろう。クロン国に気付かれずに電力を得るといえば それくらいしか思い浮かばない。 「ようこそ、レスカ・マーカー。長い間ありがとう。そしてさようなら」 マシンガンを構えたモニーが飛び出してきた。 覆面とゴーグルを外している。細く鋭い目と、分厚い唇をしている。 レイチェルを庇って物陰へと逃れる。 銃弾がいくつか身体に当たった。 << 右太もも・中度衝撃 >> << 右肩・強度衝撃 >> 遠くのほうでレスカが物陰に隠れる姿が見えた。 足から血が溢れている。 お前が死ぬ事はどっちでもいいが、レイチェルを殺されるのは問題でね。 モニー、ちょうどイラついてたんだ。殺してやるぜ。 「レイチェル、目をつぶっていてください。私が彼を止めます」 甘く優しく腹に響く声を出して、レイチェルの目を閉じさせる。 物陰から飛び出して接近する。 うるさいのでCPUからの警告は遮断した。 右足のダメージのせいで少し走り辛い。 移動しながら負傷した右腕から拳銃を左手に持ち変える。 マシンガンから放たれる銃弾がカメラを通して映像化される。 ゆっくりと接近してくる銃弾を無駄の無い動きでかわして、 モニーの顔面を銃で殴りつける。 声を漏らしてモニーは地面に倒れた。 引き金を引く。右腕、左腕、右足、左足。 シリンダーを開けて弾を詰めなおす。 引き金を引く。右肩、左足。引き金を引くたびに大地が揺れた。 モニーが荒く息をしている。 顔を近づけて耳元で囁く。 「終わったな。モニー、なかなか上手な嘘だったぜ。 だが、俺を巻き込んだのが失敗だったな」 「モニー! どうしてこんな事を!」 レスカが駆けつけてくる。その後ろからレイチェルもだ。 「レスカさんか……ふふ……復讐ですよ…… 私達は貴族だったんだ。ほんの2年前までは……」 なまりが抜けている。なまる話し方自体が嘘だったのか。 「ふふ、だけど、没落っていうのかい。いや違うな。 父と母を暗殺され、妻さえも殺された…… 狂ったさ! 私から全てを奪ったあの国を! クロン国ごと破壊してやる。そう誓ったよ……」 苦しそうに息をする。 それを見るレスカは拳を握り締めている。 「奥さんを殺してまで……それが人間のする事だっていうの!?」 レスカの声が震えている。両腕もだ。 「妻か……ふふ、俺の両親を殺した奴の娘だ。 俺は復讐のためあいつの両親を殺した。一族を根絶やしにするためにだ。 そして、娘には一番の苦痛を与えてやるため取り入って結婚したのさ…… 復讐のために顔だって変えたよ……」 「酷い……酷すぎる……」 レスカの腕に力が込められるのがわかる。 「全ては2年前のあの日、何もかもが変わってしまった。 復讐を誓った日から、私は人として生きる事を諦めたよ……」 モニーは誰に焦点を合わすでもなく、虚空を見上げている。 「考えても見ろ。小さな店をやりくりするのに水を売った多額の金が必要か? 妻の抱える借金の話? そんなものは全て嘘さ。レスカ、君には感謝しているよ。 簡単に騙されてくれたんだから。お陰で装置も完成した。 水狩りという仕事は兵器を購入するのにはちょうどいい仕事だったよ……」 「ちくしょう!」 レイチェルが地団太を踏んだ。 「ふふ、これで終わる……長い2年間だったよ…… だけど、彼女の事を考えると涙が止らないんだ…… 娘と彼女のいてくれる生活があまりにも…… ふふ……馬鹿だね。殺してから気付くなんて……」 モニーの頬から涙が流れ落ちた。 「頭を撃ってやるつもりだったんだ。 だけど、涙で照準が合わなかった! あれは、苦しんで俺を恨んで死んだんだろう? 復讐は完璧だ。完璧だよ……」 狂っている。狂った人間を見るのは嫌いじゃない。 つい舌なめずりしたくなる衝動を抑える。 今の俺はレイチェルの王子様を演じているからだ。 モニーは頼みもしないのに話を続けた。 死んだ女店員といい、良く似ている。 死に際に良く喋る夫婦だ。 「国ごと破壊できるエネルギー装置を完成させたんだ。 私達一族が暗殺されるきっかけとなった脅威の技術だよ。 ふふ、皮肉なものだね。国王に忠誠を誓ってきたというのに、 その力に怯えて私達を殺そうとするんだから…… 遺伝子レベルで受け継がれた瞳のコードは娘のアリアの右目にある。 アリアが兵器の設計図と、そしてその瞳が装置の引き金となる。 熱量に負けてこの洞窟ごと二人で心中だ。 もっともクロン国だって道連れにするけどね……」 モニーが緩やかに口元を吊り上げた。 それはまずい! 「逃げますよレイチェル!」 「馬鹿! アリアを止めに行くんだよ!」 レイチェルが俺の手を跳ね除けた。 国が滅ぶなんてどうでもいい。 ただこんなところで終わる事が許せない。 「どこだ! アリアはどこに……」 レスカがモニーの襟首を掴むも、力なく腕がだらりとたれるだけだった。 撃ちすぎたか? どうせ出血多量で死んだのだろう。 気に食わないがサーモにカメラを切り替える。 熱量に違和感のある場所を探ると隠し通路が見つかった。 「行くぞ!」 レイチェルが先人を切って走り出す。 「レイチェル、危ないですよ!」 まだ、お前に死なれちゃ困るんだよ。 死ぬなら喉の爆弾を外してから死ね。 薄暗くうねった通路を進んで行くと、 アリアが立っていた。 「こんにちわ」 屈託の無い笑みを浮かべる。 「外がなんだか騒がしいけどどうかしたんですか?」 血の繋がらない女店員と同じ髪型、黒縁のメガネ姿。 「ああ……ちょっとネズミが騒いでたんだ」 即席のわかりやすい嘘がレイチェルの口から漏れた。 「ふーん。ねえ、パパ見なかったですか? 怖いおじさんがお店にやってくるからって 私を車に乗せてこんなところに連れてくるんだから酷いですよね。 パパがね、このスイッチを押せっていうんです。 そしたらみんな幸せになれるっていうんですよ。 だけどね、アリアはパパが来るまで待ってるんです。 だって、楽しい事はみんな一緒のほうがいいじゃないですか。 ママを捜しに行くってパパがいってたからアリアここで待ってるんです」 モニーと女店員に似て良く喋る女だな。 何も言わずにレスカがアリアを抱きかかえた。 ごめんねと意味も無く何度も何度も繰り返す。 「アリアちゃんのパパとママは少し遠いところに行っちゃったから帰ろう。 良い子にしてたら戻ってくるんだって」 レスカの嘘はアリアを困惑させる。 親がいなくなる恐怖を7歳という小さな身体で 抱え込む事ができないのかもしれない。 「ねえ、パパとママね、とっても仲良しなんですよ。 だからアリア邪魔になっちゃったのかな……」 「そんな事ないよ。そんな事……」 力のないレスカの声が小さな洞窟に響いた。 END |
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