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手記:7
解放 (1)
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 喉を通る水の冷たさに目を覚ました私に、シャワーを浴びるお許しが与えられました。全身は汗まみれの上、クリトリス責めで絶頂しながら、失禁してしまったのです。
 バスルームの鏡に映したクリトリスは、包皮を奥へ追いやってしまったかのように、真っ赤な顔を覗かせたままでした。
(なんだか……大きくなったかも知れない……)
 ぬるめのシャワーを頭から浴びながら、指先でそっと触れてみると、ピリピリした痛みと、じんわりと拡がる疼きを感じました。
(もし……こんなところに針が突き刺さったら……私、きっと彼女のように……)
 そのときには、もう普通の責めでは二度と満足できない身体になっているだろう……そんな確信が私にはありました。

 シャワーを終えた私を待っていたのは、ベッドの上に拡げられた拘束具でした。
 乳房はオープンカップの拘束用ブラで絞り出されました。両手首は二の腕に巻かれたベルトに、両足首は太股に巻かれたベルトに、それぞれ枷で繋がれました。二の腕と太股のベルトは、背中を通るベルトで繋がれ、さらに太股のベルトは、ベッドの脚へ固定されました。私はM字開脚で拘束されました。
 自由が残されたのは、首、手と足の指、そして目と耳と口。全身の次に自由が奪われたのは、先ほどからベルトが締まるたびに小さな声を漏らし続ける口でした。
「ぐっ……む、ぐ……ん……んぐ」
 口の中には、柔らかい布がいっぱいに詰め込まれ、太いビニールテープのようなもので、しっかりと塞がれたのです。これだけ厳重に塞がれてしまうと、例えどれだけ大きな声を出してしまったとしても、この部屋のリビングにすら届くことはないでしょう。華蓮様がサイドテーブルのバッグの中から、小さなボトルを取り出されたのが見えました。

「んふっ……ん……」
 スーッと鼻腔を抜けていく、冷たい皮膚の感覚……搾り出された乳房と固く尖った乳首を、華蓮様がコットンで拭いてくださいました。小さなボトルの中身は消毒液でした。乳首は消毒液の冷たさにさえも、恥ずかしいほどの反応を見せました。
 胸への消毒を終えると、華蓮様は私に数種類の針をお見せになりながら、ボディピアス用のニードルよ、とご説明くださいました。斜めに裁ち落とされた鋭い先端に、私の視線は吸い寄せられていました。
(あれが……あの鋭い先端が……私の身体を……貫いていく……)
 それは、あの日私が彼女にした行為であり、その後何度も夢に見た場面でした。針を突き刺されて、喜びの大きな喘ぎを上げる私……痛みさえ快楽に変えてしまうマゾヒストの喜び……その瞬間が、現実のものとして、すぐそこまで近づいています。自然と鼻息は荒くなり、乳房の上下動も激しくなりました。恐怖心が湧かないのが、自分でも不思議なほどでした。

 まず、右の乳首が摘まれました。針先が付け根より少し上の辺りにあてがわれます。
「目を反らさないで。しっかり最後まで見ていなさい……いいわね?」
 華蓮様のお言葉に、私は頷きました。先端が、乳首の外側に押しつけられていきます。押しつけられた部分がへこみ始め、突然プッと皮膚を突きぬける感覚。異物が通りぬけていく、微かな感覚。やがて、もう一度皮膚を突きぬける感覚。
 針が、右の乳首を真横に貫通していました。

 それだけで、私は絶頂しそうになっていました。興奮の中にいた私の身体は、針を刺された痛みよりも、刺されたという事実に対して反応していたのです。全身がビクビクと小さな麻痺を繰り返し、猛烈な尿意も催しました。
(これが、これが……! あぁ、いきたい……いってしまいたい! ……だから! だから早く! 早く……左にも……早く!!)
 スレイブの言葉遣いや立場など、どこかに置き忘れていました。そのときの私は、針の刺激とその先の絶頂だけを求める、浅ましい牝になっていたのです……そう、あのときの彼女そのままに。
 彼女があの日、不自由な口で必死に訴えていた声の意味を、私はようやく理解しました……彼女はやはり、「お願い!」と訴えていたのです。
 右よりも敏感な左の乳首が、ぎゅっと摘まれました。いつのまにか涙が滲み、鼻水も溢れ出しています。私はいっぱいに目を開いて、左の乳首を見つめ続けました。
「んっ! んん、んっふ………ううう!」
 左の乳首に針が貫通して、恥ずかしいお漏らしとともに、私は大きな絶頂の中に飲み込まれていきました。

「あなたには、いつも驚かされてばかり(笑)。恥ずかしいお漏らしまでしちゃうなんて……いけない乳首ね」
 華蓮様の指が、乳首をまさぐり続けています。私は、潮を吹いてしまったのです。初めてのことではありませんでした。公開調教で、どこにも触れないまま達したときにも、ショーツの中に少量ですがお漏らししていたのです。でもこれほど大量のお漏らしをしたのは、初めてのことでした。
「どれだけ漏らしてもいいの。どこまで狂ってもいいの…………藍子、あなたを壊してあげる」
 針が貫通したままの乳首を弄ばれる私には、くぐもった喘ぎ声でお返事することしかできませんでした。乳首の感度がいつも以上に高まっている気がしました。先端と周囲を軽く擦られているだけなのに、全身がびくびくと反応するのです。そして私は、再び絶頂しました。




解放 (2)
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 丁寧に拭いていただいたはずの股間は、すでに新しい蜜で溢れかえっていました。ラビアが、少し上に向けて引っ張り出され、ニードルの先端があてがわれています。乳房とお腹が波打つように、大きく上下動を繰り返しています。
 ニードルは、呆気ないほど簡単に、ラビアを貫通しました。プツッとした感覚を感じた次の瞬間には、先端が飛び出していたのです。そしてまた新しいニードルが、ラビアを貫きました。
 まるでヴァギナを縫い合わせるように突き出した二本の針は、すぐに蜜にまみれていきました。華蓮様の指先が、クリトリスに軽く触れただけで、声を上げる間もなく私は絶頂していました。

 針を抜いていただいたラビアに、クリップが食い込みました。クリップには短いチェーンが付いています。チェーンを左右に引っ張り、華蓮様はそれを太股のベルトに固定されました。私の股間は、完全に開かれました。
 華蓮様のお顔が股間に近づき、そこに生暖かい液体を感じました。お顔を上げられた華蓮様の口の端で、唾液が少し糸を曳いていました。そして私の中に指が二本、ゆっくりと入ってきたのです。
「んっ……ふ……ぅうん……」
 何度も達していた私のヴァギナは、簡単に受け入れました。指先がすぐに奥まで届き、掻き回すような動きが始まりました。
「んむっ……むっ……ぐ! んっふ、ふ……ぅうぐっ!」
 ねっとりした水音が高まると、そこに三本目の指が入ってきました。私のヴァギナは、三本目の指まで簡単に飲み込んだのです。
(嬉しい……嬉しい! 私の中が、華蓮様でいっぱいになっていく!)
 指は、ヴァギナの中や入り口を拡げるように掻き回し、出入りを繰り返していました。
「いいのよ、我慢しなくても……もう限界なんでしょう? さっきから白い愛液が、溢れてきてる……」
「んふっ! ん、ん……んっ!」
 ヴァギナいっぱいに指をいただいて、私はその日何度目になるのかわからない絶頂を迎えました。

 そして華蓮様が、新しいニードルをご用意されました。

 それは、繰り返し夢で見た自分の姿でした。朦朧としたまま快楽のあいだを漂う私を、もうひとりの私がじっと見つめていました。
 苦痛の先にだけ潜む大いなる快感を発見してしまった私は、これから先、二度と後戻りはできないのでしょう。例えそれがどれほど過酷な責めであろうと、どれほど苦痛を伴う責めであろうと、ここからの私はその先に待つ快感のみを求め続けていくことになるのです。
 私の中のマゾヒズムは、私をどこまで連れて行こうとしているのでしょうか。
 そしてそこで私が見る光景は、いったいどのような光景なのでしょうか。
 脳裏に、あの日の彼女の姿がフラッシュバックしました。それは紛れもなく私自身の姿でした。彼女と私はあの日、無意識の部分でシンクロしていたのです。淫夢は、そのことを私に伝えようとしていたのです。

 長いあいだ私を呪縛していた鎖が、音を立てて千切れ飛んだ気がしました。針先がクリトリスを貫いたその瞬間、私の全身は悲鳴を上げていました。それは苦痛の先の快感を得たものだけがあげる、歓喜の悲鳴でした。私は真っ白な闇の中へ堕ちていきました。




追記
エピローグという名のプロローグ
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「…………浅ましい女だと思います……私って」
 言葉が途切れる。私も、なんとリアクションすればよいのか考えあぐねている。いつの間にか窓の外は、すっかり暮れていた。
「……よくわかりました。いろいろ突っ込んだことまでお話ししてもらって、どうもありがとう」
 対話を録音していたレコーダーに手を伸ばしながら、とりあえずお礼を言い、私は微笑みかける。
「いえ……こんなにいろんなことを、一度に喋ったのは初めてです。なんだか、少しスッキリしました」
 藍子と名乗った女性も、私に笑顔を向けた。
「でも……本当にいいの?」
 長い時間話していたので、初対面とはいえ、私の口調はついついうち解けたものになる。
「できれば、ぜひ」
 藍子は熱の籠もった眼差しで、じっと私を見つめた。

 私の職業はライターだ。表向きも裏向きもない。表では洒落たレストランやカフェ、女性の喜びそうな雑貨などを取材して文章にしているが、裏では某ホームページ上で、ポルノ小説を書いている。それだけの違い。
 小説のテーマは『レズビアンSM』。自分の中のレズビアニズムとサディズム、そしてマゾヒズムを表現するための、もっとも適したテーマでありモチーフでもあると思っている。
 それほど多作なほうではない。これまでに発表したのはわずか三作。どれも、自分の頭の中でとぐろを巻いていた妄想を、小説という形で発散させた、ひとことで言えばそれなりに過激な内容の小説だ。
 小説を書きながら、私は主になり、奴隷になる。【独白】というシリーズタイトルにしたのは、どの登場人物も、すべて私を投影させたものだから。つまりあの小説の中で徹底的に辱めを受けているのも私なら、その辱めを与えているのも、もう一人の私なのだ。
 ありがたいことに、ときどき小説を読んでくれた人から感想のメールをもらうことがある。藍子もその中の一人だった。長い感想文のあと、藍子のメールはこう締めくくられていた。
『私の体験を、小説にしていただけませんか?』

 どこかで聞いたような話だと思った。そしてそんな話が、私のところへ来るのも、少し不思議な気がした。結局私は、藍子の依頼を承諾した。これまで妄想だけを題材にしてきた私に、果たして事実を元にしたフィクションが書けるかどうか、大袈裟に言えば自分への挑戦として、私は藍子の依頼を受けた。
 私は、藍子に取材を申し込んだ。会見場所は、藍子も多分よく知っているはずのホテルを選んだ。

「そういえば……あの中に登場する、赤い髪のミストレスって……」
 藍子がちらっと私の髪に目を留める。生まれつき私の髪は、赤みがかっている。私もそれを自慢に思っている。
「ん……やっぱりわかる?」
 髪をかき上げながら、私は苦笑する。私が書いた三編は、ある登場人物を通じて、作品世界が繋がっている。それが藍子のいう『赤い髪のミストレス』……私の中のサディズムに、極端な形で人格を与えた、もう一人の私。
「やっぱり、赤い髪のミストレスが登場するんでしょうか?」
「んー、それはまだわかんないけど。でも主人公はあくまでも藍子さんだから、今回は登場しないほうがいいかもね? ちょっともったいないけど」
「もったいない……とは?」
「だって、せっかく藍子さんを壊してあげられるチャンスをもらえたのに(笑)」
「(笑)……お任せします」

 藍子を帰したあとの一人の部屋。冷蔵庫からビールを取り出す。喉を鳴らしてビールを流し込みながら、レコーダーを再生する。さっきまで向かい合っていた藍子の容姿を思い浮かべる。ベッドに腰掛け、藍子と自分をひとつに重ねながら、私は妄想世界に入っていく。手のひらの熱で、ビールの缶が暖かくなっていく。やがて冒頭の光景が、頭の中で広がり始める。
 残ったビールを飲み干し、ノートパソコンを起動させてから、洗面所でじゃぶじゃぶと盛大に顔を洗う。今日のうちに、書けるところまで一気に書こうと思った。
 ソフトを立ち上げて、キーボードにそっと指を置く。あとは頭の中の光景を、文字に置き換えていくだけ。
 指先が滑らかにキーを叩き始める。

『週末の夕方。仕事を急いで終えた私は、雑踏の中を急いでいました……』


−終−



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