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拷問館


 世田谷区砧の閑静な住宅街に建つ小さな一軒家──そこが自宅とは別のプレイルームとなっており、広さは10畳・8畳の和室に10畳分の広さはあるキッチンの1階と2階。「こんな立派なお家があるのに」と綾乃は言ったが、綾乃と会ったときにはまだわたしの自由になる家ではなかった。
 持ち主は家財の一切合切を置いて、最近祖国に帰ったアルゼンチン人──覚えている方もおられるだろうが、綾乃を初めて拷問したとき、手術着姿にした綾乃が載った手術台、あれを貸してくれた人でもある──で、わたしはその男性から預かっていることにはなっているものの、よほどのことでもないかぎり来日しないので、誰かに売るなりゆずって完全に手放すまでは、わたしが自由に使っていいことになっている。
「その男性って、おねえさまの元の彼氏?」
「わたしは男は相手にしないわ」
「全然? まったく?」
「バツをあたえるわよ」
 わたしはじろっと睨むと、いきなり綾乃の股間に手を伸ばしかけた。
「あ、だめっ」
 綾乃は体をかわして逃げる。わたしはそれを追いかける。嬉々として床を走る綾乃の素足を目で追い、狭い玄関内で一時子どものようにじゃれた。
 畳敷きで掛け軸や違い棚、季節の生け花まで飾られる応接間と居間のある1階からは、どこから見てもしゃれた和風家屋といった風情しか感じられないが、階段をのぼって一歩2階に上がるや常人が眉をしかめる異空間となる。
 先に上がった綾乃が「あっ」と息を呑んで立ちすくんだくらいだ。
 2階のとば口には、リアルなヴァギナとペニスを備えた男女一対のブロンズトルソーが、来客をむかえて番兵さながら立っているのをはじめとして、1階キッチンに当たる10畳分はさながらSMグッズの展覧会場といった感がある。
 等身大に近いリアルなSMフィギアがさまざまなポーズで一角を占め、他の空間には鞭やチェーンやディルド、その他拷問道具の数々が10畳せましと垂れ下がり、ひしめきあい、それが薄暗い半照明のなかに浮かんでいるから、より無気味である。
「もとは和風好みの日本間志向だったのに、SM趣味が高じて2階は拷問館みたいになったのよ。だからこの階は畳を取り払い、すべて板敷きのリノリウム張りになっているの」
「……………」
「!?」
 綾乃が声を失って見つめていたのは、絡み合う3体のリアルな全裸フィギア──。
 後ろ手に縛られ、大股開きの下半身を天井に吊られて転がされた生け贄と、それを前後からはさんで責める2体の責め役。1体は前のめりになり、スキンヘッズの頭部をヴァギナに半分以上まで埋め込み、1体はツイスト踊りのスタイルをして、片足の膝から下を直腸深く挿入している。絶叫顔でのけぞる生け贄のヴァギナ(ものすごく大きな円ができている!)からもアヌスからも、おびただしい鮮血が流れているという、フィギアを使った地獄の立体再現図であった。
「どう、興奮するでしょ」
「こんなの、実際に見たことあります?」
「ないわよ」
「現実では可能なのかしら」
「赤ん坊が出てくるホールなのよ。スカルファックだって訓練しだいで、あんな人形の表情みたいに苦しまないかも」
「でも、後ろは……」
「まだ足ファックは実際見たことないわね。でも、男同士のフィストファックで肘までくわえているのを見たことはあるわ。だから、足だって……」
 綾乃がぞくぞくっと肩をすくめた。
「わたしにあんなことはしないでね」
「わかんないわよ」
 綾乃が怖い顔をしてわたしを見た。
「それとも、ここでやめて帰る?」
 そう言ったら、綾乃はわたしからゆっくりと顔をそらせながら、これまでにないほど思い詰めた表情になった。
「バカね、本気にしたの? それに、スカルファックなんかしようと思ったら、わたしが尼さんにならなくちゃいけないでしょ」
「そうよねえ」と振り向いた綾乃に笑顔が広がり、
「マーゴおねえさまの坊主頭なんか見たくないわ」
 憎まれ口をたたいた。
 グッズがひしめくおどろおどろしい廊下は別として、他の2室はわりとゆったり空間にめぐまれ、防音設備までほどこした調教ルームとなっている。
 大きい方の10畳には、例の「綾乃拷問」の際使った解剖台と開脚台が置かれ、ここには本物の電気ショック装置まであるが、わたしは使ったことはない。
 8畳は来客用のリビング兼調教室、また、外でひろってきたパートナーとのセックスルームにもあてている。もちろん、パートナーとはSMを兼ねたレズプレイを演じるため、ここにも10畳の部屋に負けず劣らず責め道具が用意されてある。
「今夜はリビングのほうで──ベッドイン感覚で虐めたいから」
「はい、おねえさま」
 綾乃がめっきりしおらしくなった。心はすでにわたしの奴隷になりきっているのだろう。しかし、今夜は、なんでも「はい」「はい」の奴隷では困るのだ。




尋問プレイ


 30分後のリビング。
 ビニールシートを敷いた調教用ベッドの上に全裸で寝かされ、手首と足首にロープを結ばれXの字型にされている綾乃──コードを束ねたボルタックを持って近づくのを、目を見開いて見つめた。
「はあ、はあ、はあ……」
 しんとした室内にただよう喘ぎは、不安感と期待感のまじった複雑な反応だ。照明を落としたなかに生白い女体が浮き上がり、扁平な胸が喘ぎにつれて大きく息づく。
「電気責めはされなかった?」
「は……はい……」
 ボルタックを、大きく開いた脚と脚のあいだに置いて、わたしは綾乃の横に腰を下ろした。陰毛は狭い範囲に密生し、ヴァギナはほぼ剥きだしという嫌らしい光景の陰部がある。
「5カ月ものあいだ、このかわいい部分をわたし以外のものが好き放題にしたのね」
「おねえさま、ゴメンナサイ……」
「でも、今夜はわたしのもの。わたしのもっとも好きな方法で徹底的にいたぶってあげるからね」
 そう言うやいなや、クレバスに右手の指をかけ、人差し指、中指、薬指の3本までも突き入れた。
「うっ、くううーっ」
 綾乃が顔をしかめて呻く。だが、激しい呻きようには反して、綾乃のそこはぬるっという感触を受けて3本指はやすやすなかにおさまった。
「ふっ。よほど欲しかったのね」
 溢れる愛液は文字どおり堰を切って、わたしの指をぬるぬるに包み、さらにおびただしい発散によって手にまで流れてきた。
 わたしは親指の腹でクリトリスを転がしはじめた。
「あ、ああーっ……」
 綾乃がさらに恍惚とした反応をみせた。左右に突っ張った四肢に硬直の筋が走り、扁平な乳房の下にはあばら骨までくっきりと浮き立つ。
「さあ、このままいい気持ちをつづけたかったら、美奈代夫人と麗羅さんにされたことのすべてを、こんどは自分の口から話すのよ。
 まず、第1日目の最初から──」
 綾乃は半ば恍惚とした表情のまま応えた。
「……あ……麗羅さんと……ま……待ち合わせたのは……」
 わたしの飽くことない愛撫のなかで切れ切れに答えたことは、6月第3金曜の午後、首都高入り口ちかくに建つパブ喫茶を目印に立っていると、麗羅という女性がカッコいい外車に乗って迎えにきた。
 金曜午後というのは、その夜からはじまって、土曜、日曜は丸2日いっぱい使って綾乃をいたぶるということで、綾乃の話を聞きながらわたしは、美奈代夫人たちの執拗さに驚いた。彼女らにとって、それほど綾乃が魅力ある存在だったということだろうか。
「でも……3日連続と、いうわけ、には……い……いきません、でした……」
「なにかあったの?」
 それからはこうだ。車のなかで、睡眠薬入りコーヒーを飲まされ眠ってしまったからだ。
「よほど連れ込んだ先を知られたくなかったのね。それから?」
「目覚めたわたしの前に……あ……麗羅さんが、立って……ああっ……」
 薬はわずかしか入ってなかったということだが、前夜緊張のあまりよく寝てなかった綾乃は、薬に助けられて明け方ちかくまでぐっすり眠りこけてしまったという。
 ここでわたしは意地悪なリンチを思い立った。
「さっきから聞いていると、麗羅という女性のことを話すときのあなたの目が、いつもより輝いて見えるわよ」
「……………」
 わたしは疑惑の目を向けながら、電気責めの準備にとりかかった。
 こんどのボルタックから伸びるコードは、2本に分かれた一方の先が何本もに枝分かれしている。その一本一本の鰐口を、綾乃の濡れ切ったラビアのところどころにはさみ付けた。
「察するところ麗羅に惚れたわね。わたしを好きだと言いながら、それはどういうこと!?」
 激しく自白を迫った。
「そんなぁ、濡れ衣ですっ」
 綾乃が懸命に無実を言い張った。
「こんどのボルタックはどんなに事故っても、50ボルトまでしか上がらないよう業者さんに頼んで改造してもらったの。だから、思い切って拷問できるのよ」
 そう言って、余った一方の電極を愛液でぐしゃぐしゃのヴァギナのなかに押し込んだ。
「まだ50ボルトは経験したことなかったわよね。でも、麗羅さんへの正直な気持ちを白状しなければ、今夜こそ地獄の50ボルトを経験することになるのよ」
「いやあああーっ!」
 わたしは綾乃の絶叫を無視して、10ボルトきざみで表示される変圧ダイヤルをゆっくり回していった。
「あ……いや、いやあ……」
 ……(0から10ボルトの中間)……10ボルト……
「いや、いやあっ……」
 ……(10から20ボルトの中間)……
「痛いっ……いたいーっ……」
 ……それからは目見当で、ほぼ1ボルトきざみで上げていって、20ボルトの手前で止めたとき、綾乃の顔が大きくゆがんだ。
「熱いっ、痛いっ……いやっ、もう止めて」
 綾乃の全身がぴーんと突っ張り、爪先がぶるぶる震えている。
「ひさしぶりの電気の味はどう?」
「いやっ、痛いーっ!」
 わたしは何本もの電線を結んだラビアのそばに手をかけ、鰐口をコードごと突っ込まれたヴァギナをこじ開けた。複雑な皺をきざむ淫肉はぐっしょりと濡れそぼち、一筋、二筋流れ、内腿を伝って落ち、ビニールシートを濡らしていた。
 わたしは20ボルトの手前から一気に20ボルトを超し、30ボルトにまで上げた。
「ぎゃああああーっ!」
 綾乃の全身が大きくのけぞった。あばら骨がくっきり浮き立ち、全身が硬直しながら痙攣を繰り返した。
「麗羅さんをいいと思ったでしょ?」
「はいっ、い……いいと、思いましたっ……ああっ!……」
 そこまでやっと言うと、ぎりぎりと歯を食いしばって耐えていたが、また「ぎゃあああっ!」と大きな叫びを上げた。
 わたしは再び電圧を20ボルトの手前まで下げた。
「はあ、はあ、はあ……」喘ぎながら、「でも……でも、マーゴおねえさまが好きな気持ちに変わりありません。ほんとです、信じて。麗羅さんは2番目です」
「いいわ」と、わたしは電圧を10ボルトまで下げ、ヴァギナから出たコードを引っ張った。ぐしゃぐしゃに濡れた鰐口の電極がポトンとビニールシートに落ち、1滴、2滴そのあたりに愛液のしずくが散った。
「ではこんどは、美奈代夫人の屋敷で目を覚ましたところから話して」
 わたしは右手に鰐口を持ち、左手でラビアを剥き上げ、尿道孔を露出した。そして、鰐口の先を小さな穴に押しつけた。
「ひ、ああーっ!」
 綾乃が悲鳴を上げてのけぞる。残酷で淫らな光景。あんなに苦痛の表情を見せながら、2度、3度つつかれるたび、尿道孔からも、つつーっと、愛液が糸を引いてしたたり落ちた。
 長い夜のはじまりだった。




淫らな眺め


 最初の電気責めから2時間以上経ったが、場所を替えず拷問をつづけることにした。そして全裸の綾乃を、これ以上ないくらい無防備な姿にさらした。
 後ろ手に縛ってあおむけにしたあと、両脚を大きく開き、そのまま両肩の方向にバンザイさせて、ベッドの手すりに足首を縛りつける。ちょうど赤ちゃんがおむつを取り替えるかっこうに近い。
 緊張と羞恥のあまりか、綾乃がもじもじする。
「少しきつい?」
「いえ」
「どんな感じ?」
「足首の縛られた部分を伝わって脈拍がどっきんどっきん感じられます」
 カチッとビデオライトのスイッチをひねり、綾乃のぬるぬるに濡れて輝く股間を照らした。恥ずかしい部分が丸見えだ。こうした姿にしたのは、ある行為をしやすくするためだった。
 白衣に着替え、両手に手術用の薄いゴム手袋をはめて綾乃の前にかがみこんだ。
「さあ、じっくりと観察してあげるわ」
 まず、愛液まみれのラビアをめくったり、引っ張ったりして子細に調べまくった。黒ずみがやや増し、ラビア自体も大きくなったようだ。
「フィストファックされたと言ったわね」
「はい」
 アヌスにもじっくりと目をやる。ここは明らかに変化した。複雑な皺を刻む菊門に、はっきりと裂け目ができているのだ。
「最初のときにはさぞ痛かったでしょ」
「あまりの痛さに泪が出ました」
「それを思い出させてあげるわ」
 綾乃がごくりと生唾を呑んだ。
 わたしはしかし、すぐフィストファックには及ばなかった。楽しみはあとに残したい(といって、これからすることも楽しみにはちがいないのだが)。
 まず、美奈代夫人と麗羅なる女性によって開発された綾乃のアヌスを、電気棒で責めることにした。今度の電気棒は、前に使ったものとはちがう。というのも、針金では愛液で錆びてしまうことを頭に入れず失敗した。
 今度の改良型は、錆びないようにディルドに巻くワイヤーは真鍮に替え、それも全体に巻くのではなく先端部2箇所だけに限定した。これが前回まで使ったのより効果的刺激を与えることは、恭子ママの店の子で試して実証ずみなのだ。
「じゃあ、行くわよ」
 調教開始の合図をしたとき、綾乃が緊張に、また身を引き締めた。
 電気棒の先をアヌス穴にあてがった。ゆっくりと挿入し、一つ目のワイヤーリングがアヌスのなかに見えなくなり、二つ目のワイヤーリングがアヌス穴に触れたとき、「うーっ」と顔をしかめて綾乃が身をくねらせた。
「どんな?」
「うう……びりびり来ます……うーっ」
 わたしは勢いをつけて奧まで挿入した。それにつれて綾乃の悶えかたが鈍くなる。だが、再び棒を手前に引き、真鍮部分が入り口すれすれまでくると、「うーっ」と綾乃の呻きがまた強くなる。
「う……うーっ……あ……うーっ……」
 ピストン運動と呻き声が、おなじ反復運動を繰り返している。つまりは、直腸もヴァギナとおなじで入り口に近いほど敏感で、奧へ行けば感覚が鈍くなる。それが声の調子で実証されたわけだ。
「どう? 綾乃ちゃん」
「あっ……アヌスを激しくレイプされてる気分……ああっ……それも電気でレイプされて痺れさせられ……あ……ううっ……」
 わたしはしかし、いつまでも綾乃に反応させるわけにはいかなかった。かんじんの美奈代夫人とのプレイを訊き出さなければならないからだ。
「これでは、話ができないわね」
 そこで電気棒に流れる電圧を少し下げ、電極がアヌスに近い部分に触れたところで止めて、局部に一定の電流が流れている状態で告白をさせることにした。

「車に乗ったあと、そっと横を向いて、麗羅さんを観察しました。年齢は20代半ばから30代といった感じで、メッシュにしたボーイッシュな髪型、そのうえ背広もパンツも黒の男物で決めてますから、『男装の麗人』という形容がぴったりの美人女性でした。
 車が首都高に入り、料金所を過ぎてぐんぐんスピードをあげました。突然麗羅さんが、『写真、きれいに撮れてたわね』なんて言うので、わたしはぽっと熱くなりました。
 だって、会う前から全裸のプロフィールや恥ずかしい部分の接写まで要求され、メールに添付してパソコンの送信ボタンを押すときは、なかなか思い切れずしばらく動けなかったくらいだったんですもの。
『美奈代おばさまは、しつこいわよ』なんてことも言いましたが、そのときわたしは少し微笑んでいました。マーゴおねえさまのことを思い出したからです。(しつこさなら、マーゴおねえさまにかなう人がいるかしら)と。
 ハンドルを握りながら、麗羅さんの目がミニの下に注がれ、わたしの脚をほめるのです。『わたしは綾乃ちゃんのような脚にそそられるわ』と聞いて、ゾクッとしました。Mだとばかり思っていたのに、麗羅さんはどうやらSのようです。それに、わたしの脚のほめかたまでマーゴおねえさまみたい。麗羅さんに惹かれたのはそんなことからで、けっして浮気心なんかではないのよ。
『麗羅さんはSなんですか?』と訊いたらあっさり肯定しました。そして『綾乃ちゃんを拷問したくなった』とまで言うので、わたしはまた、どきどきしてしまいました。
『美奈代夫人の手前、すぐってわけにはいかないけど、近々わたしに虐めさせて』とアプローチをかけ、人がやらないような『特殊プレイ』も得意だなんてことを言われたときには、『もしや』と感じてハートにびんびんきました」




疑惑の影


 そこまで聞いて、わたしも「ハートにびんびん」きた。ただし、綾乃とは別の感覚で。
「それって、電気責めじゃない?」
「わたしもそう思ったんですよぉ」
「……………」
 麗羅という子に関心を持った。そして、まだ見たこともないその子の心に、鬼火のようなものがちょろちょろ燃えさかる図が目に浮かぶようだった。
「その麗羅さんって子、痩せてない?」
「ええ、すごく痩せてます」
 わたしの記憶のなかに、一人の少女の微笑みがおぼろげに浮かび上がろうとしていた。
「綾乃ちゃん、その子の誘い、ことわったほうがいいかも」
「え?」
 16年前、麗羅と似た子を知っていたからだ。「だが、まさか」と打ち消した。それにいまは、綾乃の告白を聞くことだと思い、「つづけて」と先をうながした。

「『特殊なプレイ』というのがなんなのか質問しようとしたとき、ポットに入れてきたコーヒーを勧められたのです。ノドが乾いていたからというより、朝からお腹に貯まるものをほとんど入れてなかったので、無防備に差し出されたポットと紙コップを受け取り、自分で注いで熱いコーヒーを口に運びました。
 一口すすり、口のなかにとろけるカカオの薫りが広がりました。まろやかで豊醇な味につられ、二口三口すすりました。からだじゅうの力が抜けていくような気分になったのは、コーヒーをすすりはじめて何分後くらいのことかよく覚えていません。からだが浮くような心地良さを感じ、しだいに意識が薄れていくのを感じました。
(だれにも知られてはならない場所──だれにも知られてはならない行為──SM? SMなんてものじゃないの? だとすると拷問……いや、拷問よりすごいことかも……)
 胸が激しく動悸打つ不安にも襲われましたが、それもほんの一瞬のこと。
(ああ、これで麗羅さんの乱暴な運転にハラハラすることもない……)
 むしろ、解き放たれたような気分になり、心もからだもとろけるように落ち込み、あとには意識のない白い闇が広がるだけでした。
 夢だったのか、それとも現実のことが夢心地のなかで聞こえたのか。
 ああ、あーっ……
 と、悲鳴のようなものを聞いた気がします。ぼそぼそ囁くような声もしました。誰かが耳元でささやいたという感じではなく、誰かと誰かが話し合っていて、悲鳴はその合間に断続的に聞こえるといった風でした。
 うっすらと目を開けかけましたが、あまりの気持ちよさに、それ以上なにをする気も起きませんでした。
 たすけて。だれか、わたしをたすけて………
 また、そんな声がしましたが、ああ、わたしは夢を見ているのだ。そしてさっきの声も今の声も、夢のなかのわたしの声だと思い込むことにしました。だって疲れて疲れて、ただ眠りたいだけでしたから……。

 話を聞きながら、綾乃の「オムツ替え」ポーズを見つめ、ヴァギナといわずアヌスといわずビデオライトの照明のなかにあますところなく陰部をさらしている姿にそそられ、じっとしていられなくなった。
「それから?」
 どうかしたくなる気を必死になだめ、話のつづきを催促した。

「すっかり目を覚ましたのはベッドの上でした。薄い肌掛けぶとんをはねのけて起きあがると、そこは6畳ほどの広さの洋寝室で、わたしはダブルベッドに寝かされていたのです。コートと靴がない以外は家を出たときのままの服装でした。
 寝ているあいだなにかされても不思議ありませんでしたが、服装の乱れもないし、どこにも違和感はないようで、なにもされてないと思います。
 不意にノックの音がして、まるでどこからか監視していたかのようにタイミング良く、麗羅さんが顔を見せました。とにかく気になって時間を聞きますと、『もう夜中よ』と言うのです。
 『えっ!』と思いました。だまして薬で眠らせた相手を怨むより、見ず知らずの人の家のベッドにすやすや眠りつづけていた自分のノンキさがおかしかったからです。
 薬はごくわずかだったそうです。それがあんまり気持ちよく寝込んでいたので、起こすのはやめたそうです。
 前の晩、あまり寝てなかったかと聞かれましたが、そのとおりでした。素直に応えると、『やっぱり、まだまだね。ふふふ』と笑って、麗羅さんはいったんはその場をはなれ、つぎに見えたときは、チャイナドレスを着た豊満な体型の、年のころは40代後半といった夫人といっしょでした。
 わたしは緊張のあまりこちこちになって向かい合わせました。
『斎木綾乃です』と自己紹介したところ、『上条美奈代よ、こちらこそよろしく』
 そう言いつつ、すばやくわたしの全身を見回しましたが、『いい腰をしているわ』とか、『手が細いわりに、足はたくましそうね』とか、『お尻がおいしそう』とかといやらしい感想をつぎからつぎに言いました。
『いまからじゃ朝までになるけど、さっそくはじめてもいいかしら』
 わたしは、もちろん承知しました。夫人は『奧のプレイルームへ』と先に立ち、寝室と隣り合わせになっている部屋に案内しました。
 一歩入ると、素足の足裏にタイルの冷たさが伝わりました。
 プレイルームというのは、広めのバスルームとトイレをぶち抜きにしたような総タイル張りの部屋なのです。バスタブの代わりにあるのが革ベルトのついたリノリウム張りの拘束ベッド。そして少し離れたところにあるトイレの便座の上には、寝たきり老人の入浴介助につかうようなホイストが備わっていました。
(あれは、なんのための……)と、わたしは一時ホイストに見とれていました。金属部分は人を座らせる装置であること、ベルトはからだの自由を奪うためであることはわかるものの、そこから先の想像がつかないのです。
 さっそく服を脱ぐようにいわれ、わたしが全裸になるあいだ、美奈代夫人はチャイナドレスのポケットから手術用のゴム手袋を出して、女性にしては少し大きめの右手にはめました。
『!!!!!』と!(バットマーク)が5つ同時に付くくらいおどろき、わたしは言い知れぬ不安に襲われました。初対面から、第一回目のプレイからフィストファックされるのではと怯えたからです。でも、『全裸になったあと、あなたの内部をいろいろ調べさせてもらうの』といわれ、ああ、お医者さんごっこじゃないが、そのための手袋なんだと無理に自分に言い聞かせました。




お尻を突き出し


 わたしは緊張し、同時に被虐の虫が騒いで胸が苦しくなるほどドキドキしました。そこへ、麗羅さんが脱衣カゴを持って横に立ちましたので、ブラウスを脱ぎ、ミニのジャンパースカートを脱ぎ、簡単にたたんでカゴに入れていきました。ブラジャーもはずしました。
 その間、美奈代夫人の目はじっとわたしに注がれているわけですが、ブラジャーを取った時点で、『胸、小さいわね』と初めてわたしの身体へ感想を述べました。わたしは軽蔑されたと思って唇を噛みましたが、夫人はそれを打ち消し、『いいのよ。胸は小さいくらいがわたしは好き』と言い添えました。
 マーゴおねえさまもそう言ってましたよね。
 美奈代夫人の目が、パンティーを脱ぐ動作に合わせて下へ、下へ降りていきます。
 もう、なにもありません。ストッキングもはかない生脚だったので、そこまででわたしは全裸となったのです。そして、両手をまっすぐ伸ばして、直立不動の姿勢で美奈代夫人のほうを向きました。
 そのときになって『近々、髪を切らせてもらうわね』と言われたのです。『その長い髪もいいけど、ボーイッシュのほうが、なお、そそられるから』と説明しました。もちろんことわれるはずもありませんので、『はい、どうぞ』と言いました。
『タイルに膝をついて、それからお尻を突き出すようにして四つんばいになりなさい』と命令され、素直に『はい』と応えました。いよいよはじまるんだと思いました。
 言われたとおりタイルの床に膝をつき、上体を前に倒してお尻を突き出したところ、ゆっくりと局部を観察されました。
『ラビアが開きかげんね』『少し黒ずんでるわ』『アヌスは初めてね』などと2人は口々に感想を述べたあと、『男性経験はまだまだのようだわ。これじゃフィストファックは相当つらいことになるわね』といちばん心配していたことをささやき合いました。
『まず、お腹のなかをきれいにしなくちゃあ』と夫人が言い、麗羅さんが浣腸の準備に動きました。わたしは、ああ、と、情けない気分に陥りました。それがイヤで朝から水分も食物も控えていたのです。

 そこまで聞いて、「待って」と綾乃の話をさえぎった。
「浣腸の話はいいわ」
「え?」
「こんどはこっちが楽しませてもらわなくちゃ。つづきはひとしきりプレイしてから聞くことにするわ」
「……………」
 不服そうにする綾乃を無視して、火のついたローソクを持って、エビ責め変形縛りともいえる、「オムツ替え」ポーズの綾乃に近づいた。
「ロウソク責めはされなかった?」
「つぎの日にされました」
「だったら、これからそれを思い出すのね」
 腰を大きく浮かされ、宙に向けられたヴァギナもアヌスもこれ以上ないほど無防備に、恥ずかしげにさらされている。
「はあ、はあ、はあ……」
 緊張に目を見開いた綾乃が、激しく喘ぎながらわたしを見ている。
 わたしはローソクを傾げた。
「あっーっ、ああ、あーっ!」
 熱いしずくがわずかに黒ずんだラビアの上に落ち、割れ目に吸い込まれつつ静かに固まっていく。
 2滴、3滴、あらたな熱いしずくが所を変えてラビアに、クレバスにしたたり、窮屈なかっこうの全身を揺すり、悲鳴をあげてのたうちまわる。
「さあ、いままでよそのオバサンのものになって、わたしを苛つかせた罰よ」
「そんな、無体なっ……」
 時代劇のような綾乃の抗議の声を無視して、熱いロウソクのしずくが、こんどはアヌスを責めたてる。
「あつぅーっ! いやあっ!」
 ひときわ大きな悲鳴とともに、頭の上に向かって張られた下半身が硬直の筋を浮き立たせた。
「そんなに熱がるようじゃ、アヌスはまだまだ未開発のようね」
 わたしは綾乃の苦しみように興奮し、空いている手の先でアヌス穴をほじくり開け、わずかの空洞ができた部分にもロウソクのしずくを垂らし込んだ。
「きゃああーっ!」
 綾乃がのけぞり、ベッドが軋み音を立てた。
 ぼたぼたぼたぼた……絶え間なくしたたるろうそくのしずくは、淫肉ののぞくクレバスをふさぎ、複雑なシワを刻む菊門をも見えなくした。
 わたしはテーブルに並べた責め道具のなかから、バターナイフを取って再び綾乃に近づく。
「さあ、こんどはお掃除しましょ」
 ヘラの先をロウでふさがったヴァギナに挿入した。そして、ロウをこそげ取ると見せかけて、別の目的はヘラの先で膣のなかをかき回すことだった。
「あっ、いやあーっ!」
「感じるでしょ? 気持ちいいでしょ?」
 ぐりぐり、ずこずこ、ヘラの先が膣をなぶり、ラビアを触れまわし、その合間合間に、ぎざぎざの刃の部分でクリトリスや尿道孔をも刺激した。
「いやっ、いやあっ!……くく、く!……」
 綾乃が全身を揺すってすすり泣いた。
 ヴァギナのヘラ責めに飽きると、取っ手の方を使ってのアヌス責めだ。
「こんどはここよ」
 言うが早いか、ロウで固まったところにヘラじゃない方をぶっすり突き立てた。
「いたいーっ!」




浣腸の準備


 綾乃は、いまもこれ以上ないくらい恥ずかしいポーズをとらされ、わたしのしつような責め苦に反応していた。
 アナルには、バターナイフが逆さに突き立てられ、なぶりになぶられた陰部に、ビデオライトの明かりが当てられている。そのまぶしさ、光量といったら、綾乃の恥ずかしい部分は熱いくらいに感じているにちがいない。
 わたしは、肩に向かって伸ばされている脚と脚のあいだ、綾乃の中心に位置し、ぐしゃぐしゃになった陰部を見つめた。そして、ずりっとヴァギナに入れたバターナイフの柄の先に力をくわえた。
「かき回すわよ」
 そう言ったと思うや、ずりずり、ずぼすぼと、金属製の固い器具をアヌスのなかで激しく動かした。綾乃が痛みに卒倒する。わたしは容赦ない手の動きで、なかに入れた責め具の角度を変え、強さをちがえ、さまざまなバリエーションをつけて責め立てる。
「いい、いやあーっ」
 綾乃が窮屈なオムツ替えポーズのまま、激しくいやいやをする。苦痛と恐れ、そのなかから微妙に生じる倒錯的な快楽、それによってどきどきするような期待感、綾乃のなかでさまざまな感情と刺激が渦巻いているはずだ。
 回転させながら出し入れを繰り返す器具の先端部が、だんだんに滑りを増して動きを加速していく。
「いやっ、そこはいやっ」ということばとは裏腹に、びちゅびちゅびちゅと、体内に埋め込まれ、暴れまくる責め具の先が水音を伝えてくる。そしてますます滑りを増すことにより、かき回し方も荒々しくなる。
「いやだあーっ、あ、ああーん……」
 涙がこぼれた。それは綾乃にも不思議な反応だろう。情けないとか、恥ずかしいということとは別に、アヌスを責められることで被虐心に火がつき、その激情の余りの涙にちがいない。これも、随喜の涙というのだろうか。
「これくらいで許してあげるわ」
「いやっ、もっとして」そうおねだりしたかったのではないか。ゆがめた顔に、拒否することばとは裏腹に不満の影がやどる。
 逆さにしたバターナイフを、最後にぐるっと大きく回転させてから、一気に引き抜いた。引き抜くと同時に、アヌスからびゅっと飛沫が散って、腰に敷いた黒いビニールシートに点々とかかった。
「あううーっ、ん!」
 綾乃が、がっくりした。
 すかさず相手の頬をぱんぱんとたたいて目を開けさせる。今抜いたバターナイフの柄の部分を鼻にかざしたあと、綾乃の顔の前にも差し出す。
「におうわよ」
「えっ?」
 綾乃が目を丸くする。「あっ」と一声発して顔をそむけた。そむけたあとの頬が、みるみる紅潮する。わたしのことばが追い討ちをかける。
「そろそろお昼に食べたものが、ウンチになって出かかっているのよ」と言い、さらには「さっき使った電気棒の先にもついているんじゃない? いやだわ」と精一杯の意地悪口をたたいて責めた。
「いやっ。いやいや、そんなことっ」
 こんどこそ羞恥で身も心も震えたようだ。
「こんなんだったら、いちじく浣腸持参で自分で処理すべきだった。そう後悔してるんでしょうけど、昼に会ってわたしと行動がいっしょじゃ、そのヒマはなかったわよね」
 綾乃が恨めししそうな顔をした。心のなかでは、自分から希望してお昼に食べたお寿司にまで悪態ついているかも知れない。
「浣腸、どうでもするんですかぁ?」
 綾乃の思いなど無視してわたしは浣腸の準備にかかった。


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