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| 日曜日が月曜日の日付に変わる夜中の12時を過ぎたころ、風が出てきた。雨もぽつぽつ降りだしている。 この家は立てつけが悪く、大雨になると窓から雨が吹き込み、そのあたりがびしゃびしゃになる。あわててリビングの窓を開けて雨戸を出しかけていると、 「わたし、下も閉めてくる。さち子さん、手伝って!」 綾乃が下着の上にカーディガンを羽織っていそいそと出ていく。妙に張り切っている。 あとに続くさち子を止めた。 「わたしが行くわ」 彼女には食事のしたくを続けさせ、綾乃について降りて行く。いつもなら真っ先にわたしに甘えかけるのに、なんだか急にわたしを避けている気がする。 「どうしたの? 変ね」 いっしょに階下の雨戸を閉めにかかり、窓を閉めなおしたりカーテンを引きなおしながら、綾乃の表情をうかがう。 「プレイ、きつかった?」 そう訊くと、強く首を振る。そして、鼻水をすするような音をたてた。泣いているようだった。 「バカねえ、また何度だって会えるでしょ」 「そうですよね」 笑った顔が、ずいぶんと寂しそうに見えた。この日が綾乃との最後になるなんて、そのときのわたしには、想像もつかないことだった。 2階にもどると早くもパスタは茹であがり、いい匂いをさせていた。ほかのことはともかく、さち子は料理だけは手際も良いし、味もまずまずだった。 リビングのテーブルに皿をならべているころ、雨が屋根を打ち、窓をたたいた。ただ、風が強かったのはほんの一時で、その後、強まるようすはない。季節はずれの台風は、典型的な雨台風のようだった。 テーブルにはさち子と綾乃が横にならび、わたしと向かい合う形になった。 「お寿司もあるんやよ。けど、綾乃さんのこと知らんかったもんで……」 さち子がいつになく愉しそうだ。そしてボストンを開け、ごちそうを詰め込んだタッパーウェアをいくつもテーブルにならべる。 「これこれ、これですよぉ。芋の煮っころがしに、ブロッコリーのきんぴら風炒め、ゆで卵としいたけの袱紗煮、あんかけカレイの唐揚げ……」 蓋を開けて皿に盛っていく。 「さち子の料理はね、お袋の味なのよ」 「凄いですねえ、いいですねえ、わたしお袋の味大好き。ねえ、さち子さん、わたしと結婚してくれません?」 「ええわよ」 マジ顔で綾乃の方に向き直ったさち子が、めずらしく大人っぽく見えた。ああ見えて、綾乃よりはけっこうな年上だ。童顔とはいえ、こうして2人ならぶと、態度やしぐさから、その差がなんとなくわかる。 「わたし、でも、ほんま綾乃さんのファンなんですよお」 しみじみと言って、またうっとりする。 「綾乃さんたら、身体かて素敵やし……それに、わたしより背ぇ高いやんかぁ」 「とんでもないとんでもない。わたしなんかこれで、昔っから下半身デブって言われてるのよぉ」 そんなことを言われては、こっちも、ただ静観しているわけにはいかなくなった。 「わたしじゃないよ」と、綾乃の言葉に強く否定のポーズを送った。 「おねえさまじゃないけど……」 ちいさな声で応えた綾乃が、なぜか頬を赤らめ、はにかんだ。が、それをごまかすように、すぐまた勢いづいて言い返す。 「だいいち、さち子さんより高いと言っても、10センチそこそこのことよ」 「10センチ、大きいやんっ!」 ますますこだわって、むきになる。 激しいプレイのあとの一時は、さち子の手料理をつついて和気あいあいに過ぎた。 「ところで、さっきの話に出てきた戦争中の女学生、そのあとどうなったんですか?」 訊いたのはさち子だった。綾乃も真剣な顔で耳をかたむけた。 「3カ月にもわたって凌辱、拷問されたあとね。銃殺されたわ。でも、その死に顔はおだやかだったそうよ」 そのことばに、さち子が納得できないという顔をした。 「花の青春の17の若さで殺されて、なんでおだやかな顔で死ねるんですか?」 「拷問され、凌辱された3カ月が、それだけ苦しく長かったということよ。もし、痛い、辛いだけの日々だったら、反抗的に生きたいと願ったかも知れないわね。でも、じわじわ、ねちねちと責められ、その間倒錯した快楽のなかで身体が勝手に反応し、それを憎い敵の男にじっと観察されてきたのよ」 さち子が、綾乃が、わたしの話を聞きながら、いつになく真剣な顔をした。 「つらいでしょうね、そんな毎日は」 静かにつぶやくさち子のあとで、綾乃は瞳をぎらぎらさせて言った。 「わたしなら、とっくに舌を噛み切って“自害”してるわっ」 自害はいかにも綾乃らしかったが、その言葉の気迫にはただならぬものが感じられた。 見ると、さち子が黙々と残りのスパゲティを平らげている。顔つきがさっきまでと一変している。気持ちを切り換えているのが、一目で見て取れる。 「ごちそうさまっ」 空の皿を持ってキッチンに向かい、そのまま帰ってこなかった。いまごろはバスにつかるか、トイレの便座にへばりついて、セルフ浣腸に励んでいるにちがいない。 「綾乃ちゃん、今日、お仕事どうすんの?」 「休みます」 台風といっても雨台風だし、このていどでは電車が止まることもないだろう。 「今日はいいんです。だって、こんな日はめずらしいもの」 さち子がよほど気に入ったようだ。 綾乃はこのあいだまで服飾会社の見習い店員だったが、リストラで首を切られ、いまはマックのアルバイト店員をしているはずだった。わたしは仕事でだらしないのは大嫌いだが、すこしでも綾乃を引き留めたいのも正直な気持ちだ。 30分は間がある。 わたしは急にそそられるものを感じ、綾乃の下着に向けて手を伸ばした。その手を押しとどめ、綾乃は「いや」と拒否した。 「おねえさまったら、ひどいわよ。わたしのすぐあとで、さち子さんを呼んでたなんて」 恨めしそうに言う綾乃を見て、ああ、やっぱり怒っていたのかと思った。おなじような気持ちは、さち子にもあるかも知れない。 ではなぜ、綾乃はさち子の見ている前で、プレイを続行したいと申し出たのか。さち子はさち子で、綾乃に見られることになるプレイのため、その準備に向かえるのか。 「怒ってるんでしょうね、2人とも」 「怒ってないわよ」 そう言って、「ふっふっ」と笑い、わたしの手を引き、その手の先を自分からパンティのなかへいざないつつ、 「誰も怒ってないわよ。だって、わたしもさち子さんも、おねえさまのことが好きなんだもの……」 そう言いながら、はやくも熱い喘ぎを見せはじめた。 |
| 30分後――。 10畳のプレイルームは、綾乃を責めたときとは違っていた。綾乃を乗せた寝台も片側に寄せられ、代わりに部屋の中央には小ぶりな丸テーブルが置かれ、すこし離れてアイテムをならべるための小机もあった。 小机にはとりどりの燭台が雑多にならべられ、照明を落としたうすぐらいなか、ロウソクの明かりがいくつも点り、悪魔的な雰囲気をかきたてていた。 「すこしはやいクリスマスパーティね」 そう言ったのはわたしではない。もちろんさち子でもない。 バスルームからもどったさち子は、ローブの上からでもわかるくらい、緊張でこちんこちんになっている。息も荒い。まるで100メートルを全力疾走してきた後みたい、そう言っても大げさでないくらい、その場の雰囲気に呑まれている。 「さち子さんは、たしかロウソクも好きだったわね」 綾乃は、すっかりS気分だ。その変わりようはどうしたことだ。 小机にはロウソクのほか、ボルタックとそこから延びるコード類、それに綾乃を責めたドライバーと、お手製電気棒まで用意されてある。さらに、ローションと手術用の手袋が何対か。 「いいのね、ほんとに」 これはわたしの口から訊いた。 念押しすると、さち子は真剣な顔でこっくりした。しかしその顔は真っ青で、唇がぶるぶる震えている。まるで初セックスを前にしたバージンのようだ。 「無理しなくていいのよ」 いちおうはそう言ったが、あくまでも建前上のことだ。第一、さち子のほうが、なにがなんでもその気でいる。綾乃の喜悦の表情を見たことによる好奇心と、それにも増して綾乃への対抗意識によって。 「ええですよ、だいじょうぶです」 気丈なそのようすを、綾乃がじっと見守っている。 ローブを脱いで全裸になった。 150センチそこそこのさち子の身体は、色白のぽっちゃり体型だった。この子も手にくらべて足は太めだから、綾乃にやや肉づきを加えてコンパクトにしたようなものだ。 上体をかがめる姿勢で丸テーブルに横になった。その足の先を取って、左右いっぱいに広げる。 「綾乃ちゃん。足の方、お任せね」 目配せして上体に移動する。すっかり観念しているさち子の手を取って、これも大きく広げ、片方ずつベルトを巻きつけ、テーブルの支柱にしっかりと結びつけた。 綾乃はと見ると、これは、綾乃を責めた際のさち子とはうって変わって、実に手慣れた動作で、きびきびと拘束している。ベルトの締め方もプロ並みだ。 笑みを返す綾乃に、わたしは何も訊けなかった。なんだか、いまそこにいる綾乃は、わたしの知らない綾乃のような気がする。 椅子を2つ置き、綾乃と座った。 さち子の股間をのぞく。濃いめのヘアーのあいだに、きれいなピンクの襞がのぞいている。色も形も処女そのものといった感じだ。 「さち子さん、きれいよ。こんなにきれいな性器、わたし見たことない」 綾乃のことばに、さち子が「いやだ、そんな」と恥ずかしがった。年のわりに、ずいぶんとうぶな子なのだ。 クリップをはさみつけたとき、急に、さち子が震えだした。 「やっぱり怖い。怖いわ、マーゴおねえ。やめて、電気はいややわ」 泣きそうな顔で許しを請う。 「だいじょうぶよ。わたしも最初は怖かったんだから。でも、すぐに慣れるわ」 綾乃が一心になだめる。そして、 「さあ、おねえさま」 わたしをうながす。 ボルタックの電圧を10ボルトにセットし、クリップをピンクのラビアにはさみつけた。いよいよ、さち子の身体に電気を通せるのか。そう思うとゾクゾクする。 「怖い。怖い……」 さち子は、まだ震えている。 「だいじょうぶよ」 綾乃が、死にかけの者でもなぐさめるような目で励ました。 「でも、怖い。怖いんだものぉ」 「じゃ、気分が乗るまで、別のことする?」 綾乃がこんどは、むずがる子どもをあやすように尋ねる。 「なにするの?」 さち子が不安と期待の入りまじった顔で尋ねる。すると、綾乃は自分の左手で握り拳をつくり、それをぐっと押し出すポーズをつくった。 「フィスト?」 「うん、そうよ」 「……………」 2人のやりとりを見ながら、わたしは不整脈を起こすくらい動悸が激しくなり、めまいすら感じた。この展開を、どう判断したらいいのか。 “交渉”が成立したようだ。綾乃が誘惑の目で見てきた。 「わたしからで、いいですか?」 「いいわよ」 思考停止――。 それからあとの時間は、まるで悪い夢でも見ているような気分だった。 豪雨が拷問館をたたいている。 完全防音密室といわれるこのプレイルーム自体では感じられないが、隣り合ったリビングの、開け放したドアの向こうからざあざあ降りの雨が、窓を、屋根を激しくたたく音が入り込んでくる。 さち子は性地獄にあえいでいた。 「うう、くうぅーっ」 顔をゆがめて苦痛におののく。 円形テーブルにハリツケされた小柄なぽっちゃりボディ。全裸でXの字に広げられたさち子の中心に、綾乃の手首が突き立てられようとしていた。 ぬるぬるになった素手の拳の先を、ぐいっ、ぐいっと回転をくわえてねじ込もうとしている。もう、そうやって30分以上もたっているのだ。 綾乃の口元が妖しくゆがみ、 「すこし痛いわよ」 そのことばのあとに、拳がぐりぐりっと大きく動いた。綾乃が全体重をフィストにおよぼうとする右手にかけた。 「ぎゃあーっ」 のけぞる小柄な裸身。綾乃の拳が、みるみるさち子のヴァギナに飲み込まれた。そしてピストン運動を開始する。 わたしは憑かれたように、その情景に見入った。汗で光るさち子の額、胸、腹、太股、それらが揺れて、自由を奪われながらも苦しそうに揺れている。 「いやっ、あああーっ」 右に、左にのけぞる裸身。丸テーブルの外に出た手首に、足首に、きつく拘束された革ベルトがなお深く食い込む。がたがたと揺れてきしむ、さち子を乗せたテーブル。 股間に突き立った綾乃の手首が、はげしく前後運動をくり返す。ピストン運動が、だんだん速くなる。激しさをくわえる。全体重をかけたフィストファックは、さち子の子宮を小突き上げる。 「ぐぇっ!」 なにかを吐き出すのではという声が漏れたとき、てかてかと汗で光るさち子の白いお腹の中心、へそと濃いめの陰毛のあいだが、もこっと盛り上がったり、もとの形にすぼまったりする。 綾乃の拳が、子宮を押してめり込み、体表面に拳の先の部分を浮き立たせているのだ。 「ううむっ。うん、あっああっ!」 頬を紅潮させ、額を汗で光らせ、長湯でのぼせたような顔のさち子が、驚喜乱舞といったていでのたうちまわる。 「どう? どんな気持ちぃ?」 「ああ、いいーっ。いやっ、いやあーっ!」 「どんななのよー」 「いや、いやいやいやあーっ!」 狂ったように首を振った。 綾乃がわたしに目配せをする。わたしは、右手にローションをふりかけ、左手を使って右手全体にまんべんなく行きわたらせ、ぬるぬるにする。 「わたしじゃいやなのね」 「ちがう、ちがうーっ」 「それじゃ、もっと痛いからね」 綾乃が合図する。わたしが待ちかまえる。綾乃が右手を抜き出すと同時に、一瞬空洞になったさち子の膣孔にわたしの右手の先を挿入する。3本、4本、5本と入れ、なかで一気に拳に換えた。 「いやああっ!」 さち子がわたしの拳と意識して身を固くした。だが、そのときすでにわたしの拳はさち子のなかで、どう猛なピストン運動を開始した。びしゃびしゃという水音を立て、ずぼずぼと責め立てた。 「ううっ、うああっ!」 さち子のお腹に、わたしの拳の先の跡が、出たり引っ込んだりをくり返した。こんな凄い眺めは見たことがない。これも綾乃の手ほどきだ。今夜のわたしときた日にはかたなし、すっかり綾乃にリードされていた。 SとM、MとS、綾乃のなかに2つの魔性が同居しているということだろうか。わたしはいつか恭子ママの店で見た若いSM嬢のことを思い出した。 「お慈悲を……お慈悲を……痛いですから、お慈悲を。お願いです、女王様っ!」 そう言って許しを請う“肉襦袢”のようなM奴隷を、容赦ないプレイで責め立てるS嬢の迫力――。 「おまえは、これが欲しかったんでしょ? だったらもっと大声でよがりなさいっ。そしてペニス汁をまき散らすのよっ!」 ペニスに針を突き立て、そこから電気を流して嬉々としている。 電気責めプラス針を使った流血プレイなんて初めて見た驚きでいっぱいだった。 「だいじょうぶなの? こんなに激しいプレイをして」 心配してそう言うわたしを、ママが冷ややかな目で笑いかける。 「おや、天下のマーゴ様が言う言葉かね」 そして、綾乃と会えない淋しさを洩らしたら、いっしょにあの子を責めて、その状況をホームページに書いたらいいよ、となぐさめてくれた。 「ええ?」 わたしが驚いたのは、“肉襦袢”を責め苛んでいるスリム体型のS嬢のことだった。 まるで何年も勤め上げたSそのものになりきり、男のモノをダメにしかねない勢いで責めまくり、罵倒しまくっている。その彼女が、ついこのあいだまではママの“指南”に悶えるM嬢だったとは――。 綾乃が、あのときのS嬢と、みごとダブった。 見れば、いつのまにか綾乃が、後ろ手に縛ったさち子を逆さに抱え上げている。すでに天井の梁にはロープを架け、そこからさち子を逆さ吊りにしようというのだ。 「ちょっとちょっと」 あわてるわたしをしり目に、綾乃はさっさとことを運ぶ。 「はやく、はやく足を縛って」 こういうとき、さち子が強硬に厭がるはずなのに、観念したようになり、瞑目して綾乃に身を任せている。 わたしはさち子の足首にタオルを巻き、その上からロープをかけた。そして、天井の滑車から垂れているロープの先を、部屋の隅に設置されたクレーンに結んで、スイッチを入れる。 カラカラ、ギシギシ……回転音と軋み音を立てて、さち子の足を縛ったロープが天井に引かれていく。足を広げながら吊られていくさち子。円形テーブルの上で、肩胛骨のあたりが浮きかかったところでスイッチを切る。 2人でテーブルをはずし、さち子は完全に逆さ吊りのかっこうになった。 「うう……うっ、うっ……」 苦しそうに喘ぐたび、ぽっちゃりとした裸身が、逆さ吊りにされて静かに揺れている。 「低温ロウソクはどれですか?」 綾乃に訊かれて、「これとこれとこれ」と答える。すると、そのうちの2本を持って、綾乃がさち子に近づく。 「きれいな燭台ですねー」 そんな戯れ言を吐いたと思ったら、すぐそのあとにはズブリ、ズブリと、火のついたロウソクをヴァギナとアヌスに突き立てていた。そして、 「さあ、さち子ちゃん、いい声で泣きなさいよぉ」 どこから見つけだしたのか、綾乃の手には九尾の鞭が握られており、ひゅっと空を切る音がしたと思ったら、つぎにはさち子の背中に赤い筋が走っていた。 「ちょ、ちょっと、ダメよぉ」 わたしはあわてて綾乃から鞭を取り上げた。 「え?」 「この子は、傷をつけてはダメなのに……」 「なんでですか?」 「さち子は、イメージヘルスに勤めてるのよ。身体に傷があったら、仕事にならないじゃないの」 「あ、そうだったんですか」 綾乃が素直にあやまった。 「まったく、なにを考えてるのかしら」 綾乃というより、さち子に言ったつもりだ。綾乃のペースに呑まれ、さち子までが我を忘れている。 「じゃあ、これだぁ」 と、つぎにはローソクの炎が激しく揺れて、さち子のヴァギナに、アヌスに熱いロウがぼたぼたとふりかかった。 「あーっ、ああーっ、熱いーっ!」 後ろ手に縛られたかっこうで、逆さに吊られたさち子がくねくねと悶えまくる。ぎしっ、ぎしっと天井がきしみ、滑車もきしみ音を立てる。 綾乃の持つロウソクは、鞭のようにも動きまわり、ぼたぼたっ、ぼたぼたっと、乳房や腹だけでなく、尻や腿やふくらはぎといったところにまで熱ロウをはじき飛ばす。 「いややーっ、やめてぇーっ!」 「ちょっと、この子ったら……」 「だいじょうぶ、だいじょうぶですよ」 わたしが止めるのも聞かず、綾乃はなぜか自信たっぷりだった。確かに、綾乃のロウソクの扱い方、肌までの距離を考えれば、見た目は激しそうでも、それほど苦痛でも、肌にアザになって残るほどでもなかった。 しかし、10分、15分とたつうち、逆さ吊りの身体への悪影響が心配された。 「うっ、うううっ……」 さち子の顔が鬱血してきている。それを気にしてわたしがなにか言おうとしたとき、綾乃のほうからわたしに指図した。 「そろそろ限界ですね、降ろしてください」 すっかり要領を得ているといった風だ。 わたしは、クレーンを操作した。さち子の身体がゆっくりと頭を下にしたまま下方移動していく。頭が床をつき、肩が床に触れ、背中が半分着地したところで、 「ストップ!」 綾乃が手で制した。 わたしは、クレーンの動きを止める。綾乃の言いなりだ。 綾乃が、右掌を皿にしてローションをたっぷり垂らし、それを左手にまんべんなく塗り込んでぬるぬるにした。またもフィストファックにおよぼうというのだ。それも逆さ半吊りの状態で。 「おねえさま、てつだってください」 わたしは駆け寄る。 「逃げられないよう、腰を押さえて」 「わかったわ」 うなずいてさち子の横に立ち、前後から腰を抱え込んだ。 綾乃が、さち子の股間をのぞき込む。そして、アヌスに指をかけた。 「うっ」 さち子の戦慄を歯牙にもかけず、2本、3本、4本、アヌスのなかに指をねじ込んでいく。さち子が苦しい姿勢で暴れる。それをわたしががっしりと押さえて離さない。 4本目が入った。 「ううっ、痛いっ」 さち子が暴れる。だが腰を押さえられ、天井に吊られた両足の先が、虚しく空をかきむしる。床に着いた半身が、蛇のようにのたうちまわる。 最後に綾乃はゆっくりと親指を入れ、そのまま一気に手全体を挿入していった。 「うーっ!」 手がゆっくりとアヌス穴に飲み込まれるとき、くねくねとのたうつさち子から悲痛な呻きが洩れた。 綾乃の掌が拳が変わるとき、さち子の苦悶が際立つ。だが、それも一瞬だ。なにごとかを察したか、半吊りの裸身が、一瞬静止したようになった。 「さち子さん、気を抜いてね。力んじゃだめよー」 綾乃はそう言ってぐうーっと、拳の先に力を込めた。 「痛い。痛い痛い、いたいーっ!」 さち子が金縛りに会ったようになりながら、懸命に苦痛を叫んだ。直腸の、狭いところをいま、綾乃の拳が入りかけているのだ。わたしはさち子を押さえながら、固唾を呑んで見守った。 「いやああーっ!」 床から見上げる窮屈な姿勢のさち子が、目を見開いて叫んだ。そのとき、綾乃の拳がゆっくり下降した。手首がすこしずつアヌス穴に没していく。ゆっくりゆっくり、入っていく。 「さち子さん、もうだいぶ入ったわよ」 綾乃の声に、さち子はちいさなうなずきをくり返した。その身体で、拳の、手首の侵入をはっきりと感じているはずだった。 「ううーっ、あ、ううーっ!」 突然、逆さ半吊りの上半身が、奇妙な形にひきつれた。綾乃の左手は、肘から数センチ残すのみとなっていた。こんなにも入るものなのか。あのちいさな身体に。 「見て、おねえさま」 「え?」 なんだかこれでは、いまのわたしはこれ以前に、綾乃を責めているのを見せつけられているさち子のようなものではないか。くやしい思いをしつつ、言われるまま目を落とした。 「あっ!」 さっき、フィストで激しく責めているときとおなじところ、さち子の腹部のへそと陰毛のあいだに、ぽこっと盛り上がっている跡が見えた。 「こんどは、腸から押してる拳の形が見えるんですよ」 そういって、イタズラする。お腹から突き出た跡が、出たり引っ込んだりをくり返し、そのたびに、「うっ」「ああっ」と、さち子の反応が悩ましく耳にとどく。 「もうこれくらいにしましょうね。身体に良くないかも知れませんから」 綾乃はそう言うと、ゆっくりと左手をさち子から引き抜いた。拳を抜き出したとき、ぴゅっと黄色い飛沫が飛んで、床に点々と跡をつけた。 「うふっ」 綾乃が笑って、いま抜いたばかりの素手を広げると、掌にべっとりと黄色い水溶便が付着していた。あーあと思った。 「浣腸、十分がまん仕切れなかったのね」 と、これはさち子に聞こえないほどちいさな声で、綾乃の耳元にささやいた。 おどろおどろしいSMグッズのひしめきあうキッチンに駆け出す綾乃。すぐあとから、激しく水道の蛇口をひねってしぶきをあげる音が響いた。 「え? どうしはったんですか?」 さち子が、夢見心地の顔で訊いてきた。 「ううん、なんでもないわ。それより、良かった? 綾乃ちゃんのアナルフィスト」 「ええ、とっても。綾乃さんの拳が、どんどんどんどんわたしのなかに入ってくるんやもん。それを身体全体で感じるんやもん。痺れるような感じやった!」 わたしも、それを聞いて満足した。 「ね、もう平気やわ。おねえ、こんどは電気で責めて。わたし、もう、なにをされても怖おぅないわ」 「わかった」 綾乃がもどってきた。 それからまた30分後――。 さっきからおなじかっこうのまま、さち子を責めにかけていた。 電流の流れているドライバーの先を、さち子のクリトリスに触れる。瞬間、「ひいっ」という叫びが起きて、さち子が激しくのたうちまわる。 「おねえさま、痛いっ。痛いよー」 逆さ半吊りのさち子の下半身が、悲鳴につれて暴れまくる。それをしっかり押さえつけ、ヴァギナを剥き上げ剥き上げ、電流の先でちょん、ちょんと突きまくる。 「いやあ、やめてぇ」 身も世もないといった声を出すさち子。 その一方で、綾乃は電気棒でさち子のアヌスを小突く。 「ぎゃあああーっ!」 さち子を襲う性地獄は、まだまだ終わることはなさそうだ。 |
| うとうととしているとき、電話の声を聞いた。 「もしもし、あ、わたし。綾乃よ」 なんだ、眠いのに。そう思って布団のなかでもごもごしていると、電話の声がつづいた。 「ねえ、今日マックに休むって電話しといてよ。…… わたし、できないのよぉ。………」 あ、綾乃が電話してるんだ。確か、妹に仕事先に電話してもらうと言っていたっけ。あんなプレイのあとでは、上司と会話を交わすわけにもいかないってことか。 また、綾乃の声がする。 「……だから、機嫌なおして電話してって、頼んでるじゃないの。おねえさんの頼みが聞けないって言うのっ?」 なんだ、姉妹げんかになっちゃった。綾乃のぷりぷりした声に気になりながらも眠気には勝てず、そのまままた深い眠りに落ちた。 「台風一過の日本晴れ。といっても、すでに夕方か」 時計をみると、6時だ。 窓を開けはなち、雨戸もしまい込んで、すがすがしい空気を入れているとき、また綾乃が外のようすを気にしている。 「だいじょうぶよ。ここはあんまり人の通りはないのだから」 「あーあ」と、さち子があくびをしながら、ようやく起きるところだ。家から持ってきたパジャマに着替えていた。しかし、この子も元気いい。あれだけ責められながら、あくびひとつで布団をはねのけて起き出す。 「台風一家って、何人家族なんやろ」 「また、バカなこと言って。あんた、28にもなって本気でそんなこと思ってるわけじゃないでしょ」 そう言ったら、綾乃が素っ頓狂な声を出した。 「さち子さんって、28なんですか?」 さち子がぶーぶー顔になって、わたしをにらんだ。 「ごめんごめん」 それから30分もして、全員身支度をととのえた。 みんなで渋谷に出て食事するつもりだったが、綾乃は最寄り駅に送ってほしいらしかった。 玄関を出かけたとき、さち子の股間が湿っているのに気づいた。白のパンツの中心が、べっとり濡れている。 「どうしたの?」 わたしが指さして教えたら、 「あっ」 さち子がたちまち顔を赤らめた。 「あなた、まだ感じてるの?」 「だって、あのあとからこっち、あそこがびりびり感じるんやもの。夢かて、見たんよ、おねえがわたしのあそこを、電気でバシバシ責める夢……」 綾乃がぽかんと口を開けている。 「しょうがないわね。居間の衣裳ケースにわたしの替えがあるから、適当なの履いてらっしゃい」 「はーい」と答えて奥へ駆け出す。 わたしは綾乃と顔を見合わせて笑った。 5分、10分……さち子がやけに衣裳選びに手間取っているようだ。 綾乃が、そのうちそわそわしだした。そして真剣な目を向けてくる。 「おねえさま、怖い!」 そう言って、わたしに抱きついてきた。 この子はゆうべから、なにをそんなにびくついているのだろう。さち子とのプレイで見せた態度も、どことなくぎこちなかった。半分芝居であることは察しがついたが、そのほんとうのところがわからない。なにか、そうとう重いものをこの細い肩にしょっているようだ。 「綾乃ちゃん!」 わたしは、綾乃の両肩に手をかけ、相手の目をしっかりと見据えて言った。 「なにがあっても、わたしは必ずあなたを守ってあげるからね。いつ、どんなときでも、あなたにはわたしがついていることを忘れないでね」 わたしを見る綾乃の目が真剣そのものだった。 「いいわね。きっとよ!」 そう言って肩を揺すったとき、綾乃の目から涙がこぼれた。 いつのまにか、さち子がもどっていた。 じっとたたずんで、呆然としたように、わたしたちを見つめている。 「なんだ、やっぱりだぶだぶだったわね」 そう言って、3人が3人とも、さち子が履いてきた丈の合わないパンツを眺め合った。子どもが大人のズボンをはいているようなものだった。有り余るすそを、しかたなく内側に折ってごまかしてある。 「でも、その方がお漏らしはごまかしやすいわね」 「……ったくぅー、おねえの意地悪」 わたしが運転する車で、“拷問館”をあとにした。 パーキングに車を止め、駅前ロータリーが見渡せる雑居ビルの居酒屋に入った。 7時に近い時間ということで、店はおおぜいの客で活気づいていた。その喧噪は、3人の会話にとっては好都合だった。 それでも自分たちだけにわかるよう、慎重に言葉を選びながら、プレイの余韻を振り返りつつ、嵐のような〈あのとき〉の感想を語り合った。それはそれで、3人だけにわかる愉しいゲームでもあった。 綾乃に迫る危険がなにか、まだ誰にもわかっていなかった。それどころか、わたしたちはわたしたち自身に迫る危険すら、まったく気づいてはいなかった。 夜のとばりのなか、居酒屋のガラス戸越しに、わたしも綾乃もさち子も、その姿を無防備にさらしていた。それをじっと見つめる闇の向こうからの視線――。わたしと綾乃に関わるすべての人を巻き込んだ戦いは、まさにこのときから始まっていたのである。 |
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第1部その5 ● 第1部その6 ● 第1部最終回 第1部のためのプロローグ1 ● 第1部のためのプロローグ2 |