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 カーディガンを脱ぎ、ブラジャーのホックをはずしながら、綾乃はそのとき、わたし(マルガリテ=筆者)と初めて会った日のことを思い出していたという。
 綾乃が麗羅の本格的な調教を受けたのは、さち子をまじえ、わたしと嵐のようなSM3Pを演じたわずか1週間後のことだった。
 そして、ここからが『綾乃・調教』の第2部でもある。
 本作はこれまでわたしの一人称ですすめてきたが、稿をあらたにスタイルも一新することにした。すなわち、わたしが知り得た断片的な事実をもとに、細部にわたっては自由な発想で書かせてもらうこととしたい。




残虐の序章


 その場所がどこなのか綾乃にもわからなかった。ただ、そのとき綾乃は、裸足で冷たい床を踏んでいた。
 上半身裸になって間接照明のなかに立たされたとき、あらためて自分の胸の小ささに綾乃は身もちぢむ思いだった。
(マルさんは、この胸を好きだと言ってくれたが、ここではどう思われているのだろう……)
 暗がりの向こうにいるはずの人物は物音ひとつたてず、ため息ひとつ洩らさない。その無音のなかに、射るような視線を感じていた。
 スカートを降ろし、パンティを脱いで全裸になった。
 カシャッ! と、カメラのシャッター音に似た響きがして、目の前に新たな間接照明の光が降りそそいだ。
 光のなかに開脚台が……。
 だが、それが「あっ」と息を呑むほどのものだったのは、台の縁からやや斜め向きに生えた突起物だった。太さ4、5センチ、長さ20〜30センチはあろうかと思われる金属製の張り型――それはリアルすぎるほどリアルな造形で、綾乃にとっては少女期の悪夢を呼び醒ますに十分なアイテムだった。
 めまいを覚えて足もとがふらついた。
「それがどこに入るかわかる?」
 闇のなかから響く麗羅の声に、綾乃はわなわな震えているしかなかった。
 張り型からも、台のあちこちからも黒いコードが伸びていて、床に落ちている何本かのコードの先はクリップ状になっている。半年前のなにも知らない綾乃ならともかく、何度か電気責めを経験したいまとなっては、この開脚台自体が電気責め装置であることは一目でわかった。
「その台に上がってもらうのだけれど、その際、そのディルドがアヌスに入るようにして横になるのよ。できる?」
 綾乃は即座に首を振った。
「いやっ。いやだわよ、そんなことっ!」
「電気責めが趣味じゃなかったの」
「ウソよっ、そんなの!」
 きっぱりと否定したとき、いきなり左右から腕をつかまれ、その場に膝を着かされた。後ろ頭をつかまれ、顔を前に突き出させられた。
「こいつで教えてやる」
 野太い声のあと、ズルズルッ、とベルトを外す音、ファスナーを引く音もして、綾乃にとって忌まわしい過去が再現されようとしていた。
 別の手が強引に顎をこじあけ、目の前に血管を浮き立たせた男の一物が、ぬうっと現われ、綾乃は顔をそむけて激しく抵抗した。
「あああーっ!」
 すえた臭いとともに、熱い塊が口のなかに押し入ってきて、狂ったように泣き叫んだ瞬間、なにがなんだかわからなくなった。
 自分の悲鳴のほかに、もう一つ悲鳴を聞いた気がして前を見ると、床に血が飛び散っており、そのそばに投げ出された自分の身体に、鞭の連打が浴びせられた。
 ヒュウーッ、ビシッ、バシッ……
 腿といわず、背中といわず、あたりかまわず打ちすえられ、綾乃は悲鳴をあげながら逃げまどった。
「それくらいにしておいて。あまり目立った傷をつけてはまずいから」
 麗羅の命令で鞭打ちは止んだ。
 だが、つぎにはまた両脇からかかえられ、後ろ手錠をかけられたあと、屈強な男二人に持ち上げられた身体が、ゆっくりと台の上に降ろされた。
「あっ!」
 冷んやりと固いものが身体の中心に当たった。そして綾乃を押さえつける力は、綾乃を張り型のほうにどんどん押しやり、それにつれて身体のなかを固くて冷たい太いものが通っていく。
「あ、うぅーん……」
 ずるずると腸壁をこすって通過していく異物の挿入を感じながら、絶望的な気分にさいなまれて嘆息を洩らした。
 そうして綾乃は串刺し状態で開脚台にベルトでしっかり固定された。
「ほんとうに男が嫌いだったのね」
 麗羅が細くてしなやかな長身をかがめて、陰部をのぞきこむ。
「じゃ、コレを好きにできる相手というのは女……」
 秘部を凝視する瞳が、らんらんと輝いていた。
 麗羅が手術用の手袋を両手にはめた。いよいよだ。拷問されるのか。それともその前に……。綾乃の動悸はいやがうえにも高まる。
「いい声で泣かせてあげるよ」
 口元に妖しい微笑を浮かべ、麗羅は細くて長い指を3本まで突き入れ、ぐるっと2、3回回転させたあと、前後に突き動かしはじめた。
「……うっ……くうーっ!」
 突いては引き、引いてはまた強く押し、その間断続的に微妙なひねりを利かせ、巧みな愛撫によって綾乃のなかで出し入れされる指は、早くも水音を立てはじめている。
「おまえを、ここまで感じやすい女に開発した憎い奴! マーゴではないわよね?」
「!」
 綾乃が巧みな指責めに反応しながら、びっくりしたように目を大きく見開いた。
「ま、マルさんを……し、知ってるの?……う、あぁ……」
「〈あいつ〉のことならなんだってね。おまえがびっくりして、気絶するくらいの〈秘密〉も知ってるんだから」
 麗羅がゆっくり指を抜き出した。ぐっしょり濡れそぼつ三本指を明かりに透かしたとき、すうっと垂れた愛液から糸が引くのが見えた。
「ふうー……」
 ため息をついて、がっくり首を垂れたとき、なれた目に暗がりのなか足を引きずってすごすご退散していく黒い影が見えた。
「それにしても、ずいぶん思いきったことするわね、ペニスを噛み切るなんて。あの男、とうぶん使い物にならないだろうね」
 麗羅はそう言いつつ、「くっくくく」と、心から愉快そうに笑った。
「おまえたちも、もう下がっていいわよ」
 手下たちはじつに忠実にしつけられているようで、お預けどころかおいしい役目をすっかりはずされても、不平ひとつこぼさず、ただ黙々とその場を下がった。
「これで邪魔者がいなくなった」
 麗羅がおしぼりで手袋の指についた愛液をぬぐいながら言った。
「拷問のあと、たっぷり可愛いがってやるよ。だから途中で気絶なんかせず、最後までしっかり耐え抜くんだね」
 そのことばのあとで、パチパチパチッ――と、目の前で地獄の到来を報らせるはげしいスパークがはじけ飛んだ。




拷問遊戯


「はあ、はあ、はあ、はあ……」
 綾乃はそのとき、息が止まるくらいの不安感にさいなまれて大きな喘ぎを洩らしていた。マルガリテとのプレイでは不安感のなかに被虐の期待感も混じったが、そこでは恐怖以外なにもなかった。
「恋人の名前を言いなさい」
「恋人なんかいないわ」
 その瞬間麗羅の手が台に具わったコントローラーを操作し、綾乃の直腸に強烈な電流が走りまわった。
「ぎゃあああっ!」
 目を見開いてのけぞったが、内臓のなかを駈け回る電流は一瞬で止んだ。
「誰なの? 年上? それとも年下?」
「ゆるして、そんなこと……」
 またコントローラーに手がかかった。
「うぎゃあああーっ!」
 絶叫とともに卒倒した。腹のなかを衝撃がはねまわり、腹部がぶるぶると激しいけいれんをくり返した。こんどはすぐには止めてくれない。それどころか、麗羅の手はどんどん電圧を高めていく。
「い、や、ああああーっ!」
 髪を振り乱し、後ろ手に拘束されたまま、右に左にのけぞりまくった。目を見開いて叫ぶ前で、麗羅は冷然としてコントローラーに手をかけたままだった。
 その手がスイッチをひねり、腹のなかを駆け抜ける電撃の暴風が止んだ。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
 激しく喘ぎ、ぜいぜいと息を切らした。こんなことにいつまで耐えられるのかと思った。いや、こんな拷問によって、身体がどうかなってしまうのではという不安が強くよぎった。
「恋人の名は?」
「かんにんして、それだけは……」
 ぶるぶると肩を震わせ、綾乃はあまりの不安と絶望から涙がこぼれた。ぼろぼろぼろぼろ、涙は頬をつたい、肩にながれ、綾乃を拘束している台にこぼれ落ちた。
 乳首にクリップがはさみつけられた。もう片方にも。その瞬間、綾乃の恐怖が高まった。マルガリテに初めて調教されたとき、乳首への電気責めがいちばんつらかったからだ。
「質問を変えるわ」
「………」
「マーゴとのプレイで、フィストファックをされたことは?」
「!」
 告白したくないことがらだった。言いしぶっているとき、耐えがたい苦痛が乳首を襲った。
「いやああああーっ、やめてえーっ!」
 衝撃と熱さをともなった激痛、それはいまにも乳首がちぎれそうな苦痛だった。綾乃は泣き叫び、のけぞりまくった。
「言いなさいっ」
「言います、言いますから……」
 スイッチが切られた。
 綾乃の口から、また激しい喘ぎが漏れた。
「フィストは、されました……はあ、はあ……」
「フィニッシュまで行けたのね」
「は、はい……はあ、はあ……」
「わたしたちとではでききなかったくせに」
 麗羅がいまいましそうに吐き捨てた。
「あとで、たっぷり食らわせてやる」
 また、らんらんと目を輝かせ、麗羅がつぎの仕掛けにとりかかった。
 綾乃の太ももにベルトを架け、それをきゅっと引き締めると、もう片方の太ももにも同様にベルトを回した。
「子どものころ、なにがあったの?」
 質問しながら、麗羅の指は綾乃のラビアをつまんだ。
 綾乃は、ぐっと唇を噛んだ。言おうか言うまいか、懸命に考えていたのだ。言えば自分の恥にもなるし、それを聞かなければ、いまの麗羅は満足しないだろう。
「どうでもアレを責めさせたいのね」
 麗羅の手には、洗濯ばさみを2つならべた形の、フックのついた金属製クリップが持たれていた。
 それを綾乃の両方のラビアにはさみつけた。痛さにすこし顔をゆがめたものの、耐えられないほどではない。
「でもまさか、おまえが電気責めを知っているとは思わなかったわよ」
 そう言ってクリップを強く引っぱり、最大限ラビアを全開にして、クリップについたフックを太ももに巻いた革ベルトに引っかけた。もう片方も同様にして――。
 麗羅が両手に持ったドライバーようのもので、剥き出しにされた急所をはさみにかかった。
 クリトリスにひんやりと固い先が押しつけられ、つぎの瞬間ビリビリという特有の電気刺激をともなった激痛が襲った。
「うひぃーっ!」
 悲鳴をあげて卒倒したとき、肛門にも痛みが走った。太い異物を小さな孔がぱんぱんになるほど食わえさせられ、体内を串刺し状態された身には苦しまぎれに暴れることさえできない。
「いやっ、いやあーっ!」
 鋭敏な急所をはさむ電気刺激は、耐えがたい苦痛だった。綾乃は後ろ手に拘束されたかっこうのまま、かろうじて自由な腰から上の身をよじるしかなかった。
「マーゴの電気責めとわたしの電気責めと、どっちが気持ちいい?」
 そんなことを言いながら両手で持つ器具の先を、なお強く押しつけてくるとき、強烈な電撃痛はクリトリスをかきむしり、性器全体を侵蝕して体内深く貫通していく。
「いやだあーっ、いやいやいやあーっ!」
 綾乃はのけぞり、身悶え、激しく首を振りつづけた。髪がばさばさと音を立てて振り乱れ、のけぞる貧弱な胸の下にあばら骨がくっきり、はっきりと浮き立った。
「ううーっ、ああぁーっ!」
 張り型を食わえさせられた下半身がぶるぶると震えた。必死に耐える太ももが、ふくらはぎが、びくびくと筋肉を浮き立たせてけいれんをくり返していた。
「ひいいーっ! ぎゃっ、あああーっ!」
「さあ、子どものころ、なにがあったの?」
 尋問しながら強く押しつけたとき、器具の先が触れ合わさって、パチパチパチッと火花が飛び散った。
「うあああーっ!」
 悲痛な叫びとともに内診台が音をたてて揺れた。
 パチパチパチッ、パチッパチチッ――クリップでラビアを全開させられた股間に、小さな火花が絶えることなくはじけている。いまや麗羅は、あえてショートさせることを愉しんでいるのだった。

 1週間前――。
 世田谷区砧の閑静な住宅街に建つ別名“拷問館”で、綾乃とマルガリテのSMプレイはさち子の来訪によって中断させられた。
「しょうがない子ね、こんなときに」
 そう言ってマルガリテが階下に降りたとき、ガタッと背後で大きな物音がした。ハッとして振り返ったとき、開け放しの窓の向こうに麗羅が立っていたのだった。
「!」
 あまりの衝撃に悲鳴をあげるところだった。
 Gパンもトレーナーも黒一色というスタイルで、麗羅は冷然と綾乃を見下ろしていた。
「愉しませてもらったわよ」
「いったい、いつから……」
 季節はずれの台風が近づくなか、麗羅の突然の出現は台風どころではなかった。まさに青天の霹靂、驚天動地といった場面で、美奈代夫人のもとに“ある目的”をもって近づいた綾乃にとって、これ以上危険な存在はないものとなった。
 麗羅がなにか言おうとしたそのとき、階段を上がってくる気配が感じられた。
「この〈借り〉は、いずれ返してもらうわよ」
 そう捨てぜりふを残し、豹のような身のこなしで麗羅の姿はたちまち見えなくなった。そして、ベランダの手すりにかかったロープもするすると引かれて消えていった。
 あのときの“借り”が、このときの“拷問プレイ”だった。

 麗羅が股間をのぞきこんだ。しげしげと見入ると、半開きの膣孔から、ホワイトカルピスの液を濃くしたような愛液が流れ出ていた。
「やっぱりね。意識では拒否してても、身体は十分電気を欲しがっていたということかしら」
 そう言うと、すっと立って暗がりに消えた。
(こんどはなにを……)
 綾乃の動悸が、また高鳴る。
 きぬずれと、なにかが触れ合う音、そして、ベルトをしごくような音まで聞こえ、明かりの下にふたたび麗羅が姿を見せた。
「あっ」と、息を呑んだ。
 こんどの麗羅はほとんど全裸。腕も足も小枝のようにか細い痩せぶりもだが、なにより綾乃の目をおどろかせたのは、ぎすぎすした腰に装着したペニスバンドから屹立した、特大張り型の威容さだった。
 黒光りする特太ディルドは、一定間隔で鉛色のビスが埋め込まれており、ペニスバンドから伸びたコードが開脚台までつながっていることから、これも電気責めアイテムのひとつにちがいない。
「いやっ、お願いだから、そんなもの使うのはやめてっ!」
 だが、麗羅は綾乃の哀訴など無視し、手術用の手袋の手にたっぷりとローションを受けとめ、それをディルド全体に塗り込み、ぬるぬる状態にしたうえで挿入にとりかかった。
 左手で綾乃の腰を押さえ、右手でディルドを握ると膣に押し当て、それからゆっくりと自分の腰を綾乃の谷間に埋めていった。
「あ、いやあーっ」
 特大ディルドの先がヴァギナを押し開き、ゆっくりゆっくり綾乃のなかに入っていき、ほとんど根本までおさまった。
「さあ、もうすこし刺激的にね」
 にこっと笑った麗羅の手が、コントローラーに伸びる。
「いやっ、いやああ……」
 恐怖のあまり激しく首を振り、張り型から逃げようとするものの、台から出てアヌスを串刺ししている張り型がそれをゆるさない。
 スイッチがひねられた。
「あ、ああっ!」
 ビリビリビリッ……ディルドのビス部分から発する電流が、さらに残酷な刺激となって綾乃のヴァギナにたたきつけた。
 麗羅が激しく腰をうごかしはじめることにより、刺激はさらに耐えがたいものになった。
「あーっ!」
 前後に揺する腰の動きに、だんだん強さと速さがくわわった。
「あっ、ああ、あああーっ!」
 綾乃が首を振る。はげしく首を振る。
 その頭を麗羅の手が包えこむ。いつしか綾乃は、下半身をディルドで串刺しにされ、上半身は麗羅に蔦のようにからめとられ、犯されるままになっていた。
 また、コントローラーに麗羅の手が伸びる。
「やめてっ、もういやああっ!」
 麗羅の手が変圧ダイヤルに触れ、ゆっくりと昇圧のほうに向けて回転させた。
「うぎゃっ! ぎゃああああっ!!……………」
 綾乃の体内を強烈な電流がはじけまわり、耳をつんざく悲鳴がそれからしばらく止むことはなかった。


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第1部その5 第1部その6 第1部最終回
第1部のためのプロローグ1 第1部のためのプロローグ2