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(1) 過去からの声




_______友


 季節はめぐって、その年の7月。
 落合美鈴は、台東区浅草にある勤務先であるショッピングビルR内書店で、書架の高いところを見上げている電動車いすの客に目を止めた。
「あの、お取りしますよ」
 40年輩――いや、ひょっとしたら50過ぎくらいかも知れない男性客は、「あ」と一声発したきり頼むでも断るでもなかった。
 単純に遠慮してるのだと思い込んだ。
「どうぞご遠慮なく――」
 親切で脚立まで持ってきた美鈴を、車いすの客はなぜか困ったような顔で迎えた。
「はあ、じゃあ」
 客はそれならと意を決して書架を指さした。
 美鈴は美鈴で目がある一点で静止した。

  『図説・性拷問全書』
   ――魔女狩りから秘密警察まで

 美鈴の全身がその一瞬、脚立とセットの静止画になった。が、下からの声でわれに返った。
「あ、どれですか?」
「『江戸の風俗・色暦』という……」
 それでさえも客は言いにくそうにした。
 レジで精算のあと、
「品物はどちらに?」と、また気を利かせた。
 男は「だいじょうぶ」と笑って、座席と、その下のバッテリーとのあいだのすき間に入れにかかった。ただ、どうもうまく入らない。
「あ、やりますやります」
 ちょうど客が切れたときで、美鈴はあわてて駆け寄った。
 車いすのまえに深くかがんだとき、客の男からちょうどいい目の位置に、スカートのすそからぽろっと生足の太腿を見せてしまった。
「入りました」
 しっかり見られたのも気づかずに、商品をしまい終わって美鈴はニコニコと応じた。障害者を“男”と意識してなかったこともあるが、なにより美鈴はその日いつになく上機嫌だった。
 それにしても〈あの本〉は気になる。
 仕事を終えて外へ出たら、もう夜のとばりが降りるころだった。
 寿司屋横丁のアーケードを横目に過ぎて、別のアーケードの仲見世通りへ、人波にまじって地下鉄の駅へと道を急いだ。

 文京区といえば動坂、団子坂など急な坂道のある街でも有名だ。千駄木には、やはり坂の途中に古くて有名なN医大病院があるが、その病院のすぐ近くに小山内京子のアパートがあった。
「いらっしゃい、すずちゃん!」
 小ぎれいな1階1DKの玄関戸がぱっと開いて、半月ぶりの親友の顔は華やいで見えた。えてしてこういうときの女は恋をしていると思われがちだが、はたして京子はどうなんだろう。
「わあー、きれいなカサブランカ!」
 駅前の花屋で適当に見つくろってきたみやげを、さも嬉しそうに喜んでくれた。
「うわっ、すごいごちそうっ!」
 美鈴のほうこそ、テーブルのうえにひしめく手作り料理のにぎやかさに舌つづみを打った。
「腕によりをかけたわ」
「ありがとう。嬉しいっ!」
 中学を卒業しから8回目。9年前、ドラマチックな出逢いから“親友の契り”を交わした京子は、毎年おなじ日にこうしてご馳走などで祝ってくれた。今日は美鈴の23歳の誕生日だった。
「きのうだったら、日本全国みんなに憶えてもらえるのにね」
「えー、なんで?」
「だって7月7日、七夕の日じゃない」
「あ、そっかぁー」
 何度もビールで乾杯し合ってほろ酔いになったころ、「忘れないうちに」と言って、京子がキッチンからなにか大事そうにかかえてきた。
「京子ちゃんが使ってたワープロじゃない」
 まだ新品同然の代物だった。
「劇団の仲間からパソコン譲り受けたの。で、いらなくなっちゃったから、すずちゃんもらってくんないかなあーと思って」
「え!?」
「便利よ。ほんとに便利だから」
 かなり強力な奨めようだ。
 美鈴は早紀の影響でこれまで自筆派だったが、職場では検索コンピューターもいじれず凹む場面が多く、そろそろ生活面にもデジタル化をとかんがえていた矢先でもあった。
「ありがたく頂戴つかまつる!」
 おどけて言ったが本心では嬉しかった。
 宅配便で送ると言うのを辞退した。もらったからには、すぐにでも入力してみたかった。
「それじゃあ、ナップザックで持ってってよ」
 そう言って段ボールに入れ、詰め物までしてあとは持っていくだけに整えた。京子は料理も得意なら、こういうことにも長けていた。
「職場ではどう? なにかいいことある?」
 デザートを頬ばりながら訊く京子が、自分で訊いたことに反応しているかのごとく、ぽっと頬を赤らめたように感じ「おや?」と思った。
「相変わらずよ。
 ところで、ねえ京子ちゃん。身障者の人でも、エッチなことかんがえるんだろか」
 昼間のできごとを思い出して言った。
「あたりまえでしょ」
 京子は「なにをバカな」と笑った。
「なんでそんなこと訊くの?」
 もちろん太腿を見られたことではなく、もしやあの人は自分も注目した、横のほうの『図説・現代性拷問』が欲しかったのではないかと、いまになって思ったからだった。
 あれは美鈴にも強烈なインパクトを与えた。「図説」って、なにが描かれてるんだろう。見たいと思うが職場で手に取る勇気はない。また京子といえど話題にできないことがらだった。
「すぐ近所にも松葉ヅエついた男の人がいるわよ。でも、年々歩くのがしんどいみたい」
「ふーん、なんだそうか」
 美鈴は妄想しながらひとりごちた。
 車いすの男が、SMで虐められる対象にでは絶対なく、ひたすらサドとして自分を陰湿にいたぶり、苛む光景を。美鈴の中にはまだ「異形者もおなじ男女の性」という意識はなかった。
「それより、京子ちゃんは? ビッグな仕事とかもらえるようになったんじゃない?」
 今日訪ねたときの最初の印象、職場のことを訊かれたときの印象から発展的な話題を期待したが、かえって皮肉と取られた。
「この不景気じゃ、テレビの世界だってわたしら〈ぺえぺえ〉は青息吐息よ」
 それこそ苦虫を潰した顔をした。
 好きな道の声優にはなったものの、端役しかもらえない身では生活できず、夜はマクドナルドのアルバイトをしているくらいだ。こうして美鈴を祝うのにも貴重な休みを充てていた。
 ただ、それで思い出してか、
「すずちゃん、『スター隠し芸大会』見てなかったんだよね。今夜こそはあのビデオ見せたる」
 言うが早いか、テレビと一体になったビデオデッキにカセットをセットした。
「それってお正月番組――半年以上もまえのじゃない。よくそんなの録ってあるわね」
 こんどは美鈴が呆れる番だった。
 タレントがつぎつぎ登場し、歌手がコントを演じ、役者が歌を歌ったりを繰り返し、あるところへきて京子が「わーっ!」と、ほとんど子どもに還ってはしゃいだ。
 カラオケをバックに登場した女性は、NHKで何度も再放送された有名な海外ドラマで、主役の吹き替えを担当する声優だった。
 そのことを美鈴は知らない。しかし彼女が歌う歌と歌手はよく知っていた。だから、
「ええっ!? ウッソー!!」
 あまりのそっくりぶりに驚嘆した。
「こんなに〈瓜二つ〉の声が出せるの!?」
「そうよ。声優の世界には、歌マネ、物マネの上手い人たくさんいるわよ。ちゃんとした理論にもとづく発声法を用いれば、〈シロウトだって〉かなりのレベルの物マネができるのよ」
 得意満面まくしたてる京子の口上を反芻し、さっき自分が言ったことばとも照らし合わせ、美鈴はあることに思い至った。
(あの声は、もしや京子ちゃん!?)
 テレビに向かい、恋人でも見る目でひいきの声優にうっとりする親友の姿を見つめながら、美鈴は茫然として声も出なかった。
 忌まわしいこと、酷いこととして封印した過去が、突如なにかの連鎖をきっかけに鮮明によみがえることがある。裕美がそうだったように、そのときの美鈴もまさにそうだった。


_______過去からの声


「台風がくるみたいね」
 駅までの道すがら、京子のことばも上の空だった。
 帰りの電車内で一人になり、また「あの声」のことをかんがえていた。

――大人たちの罠はとても危険で、蜜のようで毒を含んでいることを忘れないでください。

 あのとき、校内スピーカーから流れていた星川早紀の声は、大人たちの不正、欺瞞に立ち向かったK中有志の心を鼓舞した。

――大人たちの罠と闘ってください。わたしも断固とした態度で闘うことを、いま、この場で決意しました。さあ、〈勇気を持って〉!

 あの一言に打たれ、性的被害に遭った女生徒たちがなだれを打って警察に出頭し、決め手となる証言をつぎつぎ告白したのだった。
 だが、あれには作為がある。
 マスターテープは紛失し、数日後に早紀の机からこれ見よがしに出てきた。その数日間に元のにはなかった「勇気を持って」の部分が早紀の声音で付け足された。それをしたのが……。
 それにしても、一部生徒に対する学校側の不当で人権を無視した事情聴取への、放送室占拠に端を発した抗議行動は凄かった。途中から参加した美鈴も血湧き肉おどる興奮を味わった。
「すごかったねえ、京子ちゃん」
「わが青春に悔いなしだわよ」
「なに、それ。すっごくババくさい表現!」
「イッちゃんの団結ぶりだって学生運動っぽくて堂に入ってたわよ」
 そういって懐かしがる2人の友のそばに自分がいる。美鈴はそういう光景をなんど想像してワクワクしたことか。
 だが、そうはならなかった。
 生徒、父兄、それに一部教師までくわえた相当数の署名により、学校側の事情聴取は中止、聴取がもとで誹謗中傷攻撃にさらされた生徒と父兄への謝罪文まで勝ち取ったのである。
 しかし、あれだけの事件でありながら、みどり一味が犯した悪事は一不良少女とそれに加担したヤクザの罪とされ、それらがマスコミに報じられることもなく真相は闇に葬られた。
 大好きな早紀は依然行方不明、失踪した梶山拓也からの連絡も途絶えたまま。さらにその後の美鈴の周辺には癒しがたい亀裂が生じた。
 みどり一味に拉致され、無惨な被虐を共にした伊津子は、あのあと急によそよそしくなった。
 京子とはこうして大人になるまで親友同士だが、お互い暗黙の了解のように、あの事件のことを話すのはほとんどタブーとされてしまった。

 トン、トンと戸をたたく音がした。
 一度は気のせいかと思ったが、それがまた耳に響いて、美鈴は入力しかけのワープロの手を止めて振り返った。立って玄関へと向かった。
「どなたですか?」
 返事はない。
 チェーンロックをはずし、玄関ドアも全開して見まわしたが、誰もいないし、あたりに人の気配も感じられない。
 戸を閉めた。もどりかけて、また音を聞いた。
 息をひそめて耳をすました。鳴っているのは玄関の戸だった。建て付けの悪い玄関扉が風に震えて音を立てているのだった。
 そういえば台風が発生したんだっけ。
 台風、東京にもくるんだろか。
(なんだかドキドキする!)
 台風接近という“非日常感覚”が、美鈴の潜在心理をさっき戸が音をたてたように、ざわざわと騒がせている。
 ブラウスもスカートも脱いでスリップ姿になると、バタンとあおむけに寝ころんで、足を広げていた。
(図説、性拷問全書……)
 昼間見た高いところの書架の背文字を、心のなかでつぶやいた。
 スリップの肩ひもをはずし、ふくらみの乏しい乳房をはみ出させた。両手がスリップのすそをたくしあげ、パンティを押しのけると、腰からはずしていった。
 それらの行為者は自分であって自分ではなかった。スリップを、パンティを脱がした手は、美鈴の妄想のなかの拷問者であった。
 そうしてパンティが膝まで降ろされたとき畳のうえで大の字姿勢をとっていた。まるで処刑台か拷問台にでも拘束されているように……。
 さまざまな場面が浮かぶが、それらが単に妄想でないところに美鈴の特異性があった。それらはすべて中学の一時期に経験したことであり、たしかな事実に裏打ちされた情景なのだ。
(いけない。いけないわよっ!)
 妄念を振り払って、下着の乱れを正した。
 そして今夜の親友の顔を思い浮かべた。
(京子ちゃん、きっと彼氏できたのね。そんな気がする。それなのに自分ときたら……)
 美鈴はこのところの情緒不安定さ、欲求不満気分の自分を叱りつけ、鼓舞した。
 気を取りなおして奥の和机に向かった。
 初めてのワープロでなにを入力するかとかんがえ、真っ先に思いついたのが早紀から届いた美鈴宛の〈手紙〉だった。

 美鈴ちゃん、今日も元気にしてますか?
 あなたのことは、ずっと心配でした……

(そうよ、これは遺書なんかじゃない!)
 いまだ早紀の生存を信じて、一文字一文字時間をかけて入力した。
 当然ながら流れるような筆記体が、ワープロにすると原稿用紙の升目にはまったようにきちっとして、手書きとは全然印象がちがって見えた。
(早紀ちゃんが遺したものといえば……)
 いまも自室の見えるところに中学時代に愛用したウエストポーチを置いて、そこにはかならず早紀からもらったアザミの押し花の、ラミネートカードにしたものを忍ばせていた。
 それを取り出し見ていたとき、電話が鳴った。
「あ、きっと京子ちゃんだ」
 そう思って何の気なしに受話器を取った。
「もしもし」
「…………」
 相手は無言だった。とっさには悪質なイタズラ電話と直感した。すぐに切ろうかとも思ったが、もう一度だけ「もしもし」と声かけたら――

 くっくくくく……

 闇の底から聞こえるような不気味な笑い声に、その瞬間、自分の眼が飛び出すくらい大きくなっているのがハッキリと感じられた。
「美鈴ちゃん、おめでとう。今日が誕生日だったんでしょ?」
「なぜ? なぜなのっ!?」
「“幽霊”じゃないわよ」
 性能の悪いウィンド・ファンだけのあまり涼しくない部屋だったが、背中に冷水を浴びせられたようにゾワゾワする思いだった。
「また会いましょうよ。そして刺激的な遊びしない? あなたの身体が欲しくなったの。23歳の大人になったあなたのアソコがね」
 肌に粘りつく川村みどりの妙に甘ったるい声は、忘れていた9年前の悪夢をよみがえらせた。じくじくと女の部分を疼かせる美鈴の妄念が目覚め、烈しく燃え上がった。
「ひと晩可愛がらせてくれたら、早紀ちゃんがどうなったかを教えてあげてもいいわよ……」
 美鈴の頭の奥で、みどりの声がガンガン反響していた。

 茫乎としたまま座りこんでいたが、やがておもむろにお守り代わりの押し花を手に、しみじみと向き合った。
「約束破ることになったけどゴメンね! こんどは連れてかないよ。だって早紀ちゃん、美鈴はもう
、いざとなれば死んだっていいんだから!」
 泣く泣くつぶやき、
アザミの押し花を、また大事そうにポーチの奥にしまい込む美鈴だった。


_______SMな女たち


 下宿の窓から見上げる空がどんどん暗くなっていた。
 2日前不安がよぎった大型台風が勢力を弱めながらも本州に近づき、この間、上空に停滞していた活発な梅雨前線と連動して大雨をもたらす状況となったのだ。
 早めに家を出たものの、池袋で地下鉄を降りて地上にでたらザンザンぶり。いったん地下街にもどり、メトロポリタンの喫茶店で小降りになるのを待つことにした。
 時計を見たら4時過ぎ。
 店員の目を気にしながら1杯のコーヒーをすすりすすり、ほぼ1時間後にまた地上に出た。
「あーあ!」
 あいかわらず大降りの空を仰ぎ見て嘆息した。
 メモを左手に、傘を右手にと歩き出したが、吹き込んだ雨が夏服をとおし、たちまち肌にべとべととまとわりついた。
 視界の悪さと方向音痴のため道をまちがえ、メモの所番地を電柱の標識で確認したときは、すっかり濡れネズミになっていた。
 人通りもほとんどない路地の一角に、そのビルの地下へ降りる階段があって、階段の手前にはパブ名を記した電光看板があるほか、クラブの所在を表示するものはなにもない。
 せまい急階段を降りる途中、上がってくる客、降りてくる客、一人ずつにじろじろ見られ、いたたまれない気持ちになった。
(やっぱり引き返そうか。そして“あんな女”との縁なんか金輪際断ち切ろう)
 ただ、その場合、早紀がどうなったかは永遠にわからなくなる。早紀については、なんとしても川村みどりに訊いて知らなければならないことなのだ。
 気がつけばカラオケの歌やら嬌声やら、雑多な喧騒が洩れだすパブ前に着いていた。

  会員制クラブ・楓へおいでの方は
  つきあたり廊下を左へどうぞ――

 扉の横に、そんなメモ書きが貼ってあった。
 なるほど壁が途切れた向こうに、廊下と呼ぶには頼りないくらいの空間があって、大人ひとり通れるくらいの通路ができていた。
 壁と壁のあいだを抜けたところがやや開けていて、エレベーターホールとなっていた。

  楓クラブへご用の方は
  インターホンでどうぞ

 また貼り紙――エレベーターボタンと思ったのは、じつはインターホンを押すためのものだった。ということは、自分ではエレベーターを操作できないことになる。
「なんですかぁー?」
 呼ぶとすぐ女性の無愛想な声が返ってきた。
「落合です」
 名乗ったとたん別の女性に代わった。
「美鈴さんですね。いま行きまーす」
 うって変わって愛想の良い調子。
 それにしても、裏通りとはいえ歓楽市街・池袋にこんな秘密めいた一角があるとは――。やはり東京は広い。
 うぃーん……
 壁を通してエレベーター音がする。
(下から聞こえる!)
 地下1階のまた地下に、自分では行くことも帰ることもできない秘密の世界が待ち受けている――緊張はいやがうえにも高まった。
 エレベーターが開いてスリム体型で上背のある女性が小腰をかがめて顔を突き出した。
「はじめまして、愛でーす!」
 美鈴よりはずいぶん年上だが、水商売ずれしたような声でウインクまでしてきた。
「大変大変、びしょ濡れ! どうしてこんな日に限って台風さん来るんでしょうね。早く着替えなきゃ。はるばるご足労させて、風邪などひかせたらそれこそ申し訳ないわ」
 愛と名乗った女性は一方的におしゃべりした。
 すぐ下の地下2階で停まった。
 エレベーターホールを出たところは事務所の倉庫のような印象で、廊下の左右に「楓401」「楓402」と番号表示の部屋がならぶ。1フロア全体をクラブに借り切っている感じだ。
「静かですね」
 息苦しさに耐えきれず、つい質問した。
「この天気でしょ、休みにしたのよ」
 それであんなに愛想悪かったのかと、美鈴は一人合点した。
「ここです。さ、どうぞ」
 招じられた奥の楓407は、入ったところが事務所の待合室のように狭く、ここがSMプレイルームとはとても思えなかった。
 隣り合ってもっと広い部屋があるようだ。その戸を開けて2人出てきた。
「今夜のお仲間――」
 愛にうながされ、まず小柄でぽっちゃり系の20歳代の子が、ほわっとした笑いを浮かべた。
「美沙樹です」
 ぺこりと頭を下げた。
 一方で、もう一人の27、8歳といった女性のほうは憮然とした表情のままだった。
「ミーシャよ」
 名乗っただけ上等かも知れない。そのミーシャになんとなく見覚えが感じられたが、それが誰かを美鈴はすぐには思い出せなかった。
「さ、脱いで脱いで。すぐに着替えなくちゃ。美沙樹ちゃん、おねがいね、わたしたち、またあっちで準備してるから」
「あの……」と訊く間もなく2人はまた向こうへ去り、そのあと、およそSMの女王様には似つかわしくない美沙樹が、甲斐甲斐しいそぶりで隣り合った浴室へ美鈴を案内した。
 アコーデオンカーテンのまえで服を脱ぐあいだ、美沙樹は離れたところでなにか準備に余念がない。
 バスタブの湯はちょうど入りごろで、どうも最初からそのつもりで用意してあった気がする。だとするとこれは、殿様の夜とぎに差し出される大奥女中への清めの儀式みたいなものだ。
(ウソ! そんなんじゃないわ。たっぷり磨きをかけて“拷問”しようということなのよ!)
 自分から刺激的な言い方をして、自分からゾクゾクしていた。
 一汗かいたとき、美沙樹が来て言った。
「お浣腸しましょうね」
「!」
 軽い調子で、看護婦にでもいわれた気になり、美鈴はタイルの床に四つんばいになった。
「痛かったらごめんなさいねー」
 不意にアヌスに固いものを感じた。
「うっ」
 浣腸器の先がアヌスを突いて入りこみ、冷んやりとした液体がどんどん注入された。
 浣腸器1本分すっかり注入されると、なにか太くて固いものが押し込まれ、固定された。
 間もなく、ぐるぐるぐるっ……直腸内で浣腸液が逆流をはじめ、便意と腹痛に襲われた。
「おねがい。トイレに行かせて」
 早くも美鈴は排泄を希望した。
「ダメですよー。15分がまんしてくださーい」
 ほんわかした感じで言いつけ、見ればストップウォッチ持参で時間を測っている。
「美鈴さん、ガマンしてくださいねー」
 その物言いにも憶えがあった。
(なんて子だったっけ、ちょっと知恵が遅れたような、純真無垢といった感じの高校生……)
 便意をこらえるためもあって、そのことをかんがえつづけた。
 そうだ、サツキといったっけ。イングッドとかいう女の館が炎上しているとき駆けつけ、迷路のような地下室で隠し扉を教えてくれた命の恩人!
 やさしい心を持っていて、鬼のような不良番長の非業の死に対しても、あんなにも涙を流して泣いていたっけ。なぜ? なぜ、あの子は〈紺野梨沙〉のような子のために――
「あーっ!」
 そばにいる美沙樹がびっくりするほど大きな声をだしていた。あのミーシャを梨沙とダブらせたのだった。
 ただ、よくよくかんがえればそんなはずはない。梨沙は子どもだったが、ミーシャはこうして大人だし顔もちがう。なにが似てるんだろ。
 そんな詮索どころではなくなった。こんどこそは耐えがたい便意が襲ってきた。
「美沙樹さん、もうダメっ!」
「あと5分ですよぉ」
「ダメダメっ! 耐えられないわっ!」
 突き出した尻を烈しく振って排泄を懇願した。
「だったら、トイレに」
「ダメよぉー、トイレまで保たないっ!」
 泣きそうな顔を振ってわめいた。
「だったらここに――」
 とっさに美沙樹が便器を差し出し、どっと安心して一気に排泄した。凄い音と下痢便。吐き出しては中断し、また吐き出しというように、大量の排泄物がたちまち便器を満たした。
 さらに2度浣腸されたが、最初であらかた排泄されたのであとは付け足しのダメ押し。5分だ、10分だと我慢させられることはなかった。
「では、お連れします」
 美沙樹が美鈴の手を引いた。事務所のような小部屋も過ぎ、さっき愛たちが向かったプレイルームとおぼしき部屋へと案内した。


_______異界


 そこは椅子を取っ払った小講堂といった感じの部屋だった。
 舞台から見おろす位置に産婦人科で見かけるおなじみの開脚寝台があり、寝台に向けて複数のライトがセットされていた。
「こちらへいらっしゃい」
 椅子に座ってミーシャが手招きした。
 その横で愛が、空いている椅子をすすめる。
 美鈴は股間ではなく、貧乳を手で覆いながら、おずおずと近づいて行って座った。
 向かい合ってミーシャが、美鈴の覚悟のほどを確かめた。
「ここでなにをするかは分かってますよね」
 よどみない日本語だった。だが、色白でソバカス混じりの顔はどことなく日本人離れして見え、ミーシャと名乗るように、もしやロシア人の混血ではないかとも思った。
 大きくうなずいたすぐあとで、
「川村〈先生〉はどうしたんですか? なぜここにいらっしゃらないんですか?」
 さっきから訊きたかったことを、美鈴は中学時代とおなじ呼び方で尋ねてしまった。
「〈先生〉からは携帯に連絡をもらってます。雨で道路が渋滞して遅れる、先に準備して待っているようにとのことでした」
 美鈴は「おや?」と思った。おなじように先生というからには、みどりはここでも〈先生的〉役割をしているのか。だったらどんな先生なんだろうと、かんがえて可笑しくなった。
「SMって行為をどうかんがえてます?」
「え?」
 唐突な問いかけに美鈴が首をひねった。
 愛が補足した。
「彼女はSMという行為に対する世間の偏見を解きたいのよ。そしてあなたの心を解放し、めくるめくプレイへといざなおうというの」
 ミーシャが話をつづけた。
「たしかにSMをする人は少数派よ。でも、多数派でない、一般的でないからといって、異常でも変態でもないわ。むしろ“特殊な性癖”という意味では、神に選ばれた者だけが知りうる“極上の特別快楽”といえるでしょうね」
 ミーシャの勝手なSM講釈・SM定義は、特殊ということに劣等意識だけ持ちつづけてきた美鈴に対し、たとえ気休めといえどもささやかな解放気分に向かわせていた。
 2人が椅子から立った。
「では――床に肘、膝を突いて四つんばいになりなさい」
 ミーシャのことばがいきなり女王様口調になったが、それを甘美な響きと受け止め、美鈴はいわれるままになった。
「ううっ!」
「動かないでっ!」
 指を入れてきたのも出しぬけなら、それに反応した足掻きを制する警句も素早かった。雷に打たれたように静止した美鈴の膣を、2本の指が深々と挿入され、引き回しにかかった。
「う、くくっ……」
「動くんじゃないわよ」
 たっぷりと脅しを利かせておいて、ぐりぐり、ずぶずぶ、時間をかけて掻き回した。
「さあ、こんどはうしろよ」
「あっ、あ……」
 最初は1本、つぎに2本と入れられ、それだけでも痛いのに、固くすぼまったアヌス穴に挿入された人差し指と中指で、さらに乱暴にひねり回されることになった。
「アナルセックスの経験も豊富なようね」
「うう……く、うーう……!」
 烈しく呻いたとき、ミーシャが指を抜いた。
 ぐっしょりと濡れた2本の指の先を、鼻で嗅いでからハンカチにぬぐった。
「お腹のなかはすっかりきれいになったわね」
 ふっふっ、と笑ったとき、それまでわきに控えていただけの美沙樹がはじめて口を開いた。
「お浣腸、念入りにいたしましたから」
 腰元口調で、三つ指つきかねないようすで言ったので、ははあ、この子はマゾかと美鈴にもやっと合点がいった。
 対してミーシャには本物のサドの血が流れている気がした。下品さはないものの、それ以外笑い方や物言いは梨沙そっくりだし、梨沙が生きていればこの年ごろなのだ。
(この女ならどんなことでもやりかねない!)
 梨沙の亡霊を見た思いで怖気(おぞけ)をふるったとき、ヒールの渇いた足音が舞台のうえから響いた。
「美鈴ちゃん。おひさしぶりね」
 声に振り返った美鈴が「あっ」と叫んだ。
 おどろいたのは愛もミーシャもおなじだった。
「先生いつの間に!」
「だまって隠れてるなんて人が悪い!」
 意表を突く登場のしかたで舞台から見おろしているのは、かつての“保健室の先生”川村みどりその人だった。9年経っても変わらぬ美貌に、凄みと貫禄が具わった気がした。
「……………!」
 美鈴は絶句したままでいた。烈しい動揺を鎮めることができなかった。
「なんて顔してるの? 脚も立派についているし、〈幽霊〉でもなんでもないことがこれでハッキリしたでしょ?」
 ここでも幽霊といった。なぜみどりは幽霊ということばにこだわるのか。それも気になったが、美鈴は愛とミーシャの、みどりを見る“尊敬のまなざし”にも意外な気がした。
「約束のことは!?」
 美鈴がせっかちに切り出した。
「忘れてないわよ。でも、あとで、あとでよ」
 そう応えたら、愛とミーシャがむくれた。
「いきなり〈商談〉ですかあー? いいなあ美鈴ちゃん、〈たんまり〉もらえて」
「なにをいうの!?」
 あわてて弁解しようとしたら、みどりに「しーっ」と指を立てられた。これでは3人から、「金で身を売った」「売春目的のSM」と思われてもしかたないではないか。
 いっそあらいざらい吐き出し、みどりの罪を暴き立てたっていいとさえ思った。ただ、その際には美鈴一人の恥ではすまない。早紀への忌まわしい事実をも明かすことになる。
「はじめてっ」
 みどりの凛とした声を合図に、美鈴は愛とミーシャに引き立てられた。
 開脚台に横たえられ、目いっぱい横に開かれた足乗せ台に両脚が乗せられ、膝の上と下にベルトを巻かれた。
 手も頭のうえでベルトで拘束された。
「照明落としまーす」
 愛が合図して、スイッチの音とともに暗闇と化した。
「スポットライト当てまーす」
 ふたたび愛の声。こんどはさっきより大きなスイッチ音がして、ぱっと明るくなった。が、それは幾筋もの光の照射によって、美鈴を大開脚拘束した台が照らされたからだった。
 そこだけ舞台のようだった。光の交わるなか、明かりのもっとも強い中心円に、やや黒ずんだピンクの淫裂と、それを包み込む陰毛の、薄墨で刷いたような繁みがあった。
 くくくくく……高所の暗がりから不気味な笑いが洩れた。
「美鈴ちゃん、見えるわよ。キラキラしてるじゃない。もうそんなに濡らして……これからどんなに乱れて泣き叫ぶか、楽しみだわねぇ」
 そう言ってあざ笑う声を聞きながら、美鈴は底なしの闇に落ちていく自分を感じていた。


_______鬼火


 蜜露を光らせている女の部分にみどりの視点がさだまった。
 きれいな逆三角を描くデルタは「薄墨で刷いたような」という形容にぴったりなくらい、範囲も狭く淡かった。それが遠目には逆立って見え、間近では1本1本勝手な方を向いている。
 凝視しながら、みどりがからかった。
「見なさいよ、この子のお毛々。こういう生え方は、淫乱なタイプの子に多いというわよ」
「ウソ。ウソだ、そんなこと」
 即座に否定した。だが、細かな陰毛に取り巻かれて延びる淫猥な秘裂の柔肉を子細に観察して、追い討ちをかけた。
「ウソなもんですか。オマンコだってすこし黒ずんでるし、ビラビラだって、ほら――」
 みどりにつき合い、愛とミーシャもその部分をしげしげと眺めた。
 キャスター音をガラガラひびかせ、美沙樹が小物運搬台車を押してきた。
 美鈴が開脚寝台から身を乗り出した。
 ハサミの形をした鉗子類、アヒル口の内視鏡といった医具のほか、ドライバー、半田ゴテなど。そのどれもに電線が結ばれている。
「こ、コレって“電気”!?」
「そう。すべて“電気責め”の道具よ」
 みどりが言いなおした。
 ミーシャがしゃがんで、台車の2段目に置かれたボックス装置に手を伸ばし、スイッチやつまみをセットした。
 そうしておいて、みどりも愛たちもいったんは全員その場からいなくなった。
 大股開きで拘束され、恥ずかしい全裸の姿をさらして美鈴一人取り残された。
「電気はイヤなのに……」
 小声でつぶやき、もう一度台車の上の道具立てを見つめた。じっと見つめる美鈴の心のなかで、なにかがくすぶりはじめていた。

 ふたたび姿を見せたとき、4人全員白衣に着替えていた。電気責めを用いた医療プレイということで、美鈴の緊張はこれ以上ないくらいに高まった。
「さあ、いよいよはじめるわね」
 みどりの目くばせでSM嬢たちは美鈴の腰に貼りついた。ミーシャが局部を“かぶりつき”の位置でしゃがみ、愛と美沙樹は両脇に立って“桟敷席”からのぞき込むかっこうだ。
「3時間、いや4、5時間はたっぷりとね」
「いやあっ」
 美鈴がめちゃくちゃに首を振った。
「電話であれだけ、今回ひどいことはしないって約束したのに。ウソつきっ!」
 美鈴の烈しい反発に、愛が「そんなことないってば」と首を振った。
「この子なんか叫びっ通しだったわ。もちろん苦痛なんかじゃなく、よがりによがってよ!」
 思い出して興奮したのか、はしゃいだ。当人の美沙樹など、ことばに反応して頬を赤らめた。
「ウソ。ウソよぉ、ぜったいウソっ!」
 電気で気持ちいいなど、あろうはずがない。そう思いつつも、もしやという期待感、異様な興奮に胸はドキドキするのだ。
「クスコ」
 みどりが右手を差し出し、美沙樹が台車上のトレイから医具を手渡す。もちろん、これにも電線が結んである。
「ううっ!」
 呻いて腰を引いた。
 いくら愛液を滲ませているといっても、ローションも用いずいきなり太めのアヒル口はムリである。やや手こずった末、ゆっくりと肉の秘裂を押し割って挿入された。
 取っ手を握ることで奥が徐々に徐々に開かれていき、明かりに照らされ、濃いピンク色の子宮がもっこりとして見えた。
 ネジを締めて器具を固定した。先端はすっかり全開され、これで内視鏡が抜けることもない。
「麦粒(ばくりゅう)鉗子」
 聞き慣れない名前がつかわれた。
 美沙樹が選んだこんどのは相当に細長い鉗子で、コードを挟んだ先端の、反りをもたせた部分以外は、テープを巻いて内視鏡とのショートを防ぐ処置がほどこされていた。
 その長い医具が、さっき膣に押し込んだ内視鏡のあいだに慎重に通され、きれいに湾曲した先端部を子宮口に挿入した。
「ううっ!」
 美鈴の苦悶を愉しみ愉しみ、大きくひねりまわしながら最深部まで突き入れた。
「おなじ麦粒には反りのないのもあるけど、この場合はあの反りぐあいが子宮に留置させるにはもってこいなのよ。どう?」
 得意気に言って、くくっと笑った。
 その間ミーシャは、愛から先が剥かれたコードを受け取り、太腿、ふくらはぎ、膝、足の甲といったところにテープでつぎつぎ貼りつけていき、最後に長く剥いた先を親指に巻きつけた。
「もう一箇所あったわね」
 三たび美沙樹からリレーされたのは、コードを2本つけたアナル・ストッパーで、寝台の縁すれすれに位置する小尻の中心のアヌス穴をさぐり当てると、ぐぐっと押し込んだ。
「うっ」と呻いて身をよじり、美沙樹から浣腸されたときの痛さをよみがえらせた。あのときの肛門栓がこれだったかと、いま分かった。
 こうしてあとは責めるだけの身になった美鈴を、一同、一段落つけてながめ入った。
 開脚拘束された中心に内視鏡が挿入され、内視鏡からはみ出た鉗子の取っ手部分。さらには貼りつけられたり、器具から延びたりしてあちこちよじれ、垂れ下がった複数の電気コード。
「ふうー……」
 ため息をついてまっすぐ天井を見つめたとき、カチッ――と、スイッチの音。
「う、ううーっ!」
 目を剥いて呻いた。
 電流が一気にわっと押し寄せた。
 膣の深奥部と下半身全体、なにより肛門がいちばん強烈に感じられた。びりびりという刺激に貫かれ、爪先が突っ張り、脚のところどころ筋を浮き立たせて細かく痙攣した。
「いやあああーっ!」
 甲高い悲鳴をあげた。こんどこそはメチャメチャに首を振って、ショートヘアーの前髪でさえも、バサバサと音を立てて揺れていた。
「ほら」
「おおー!」
 SM嬢たちから嘆息の声が洩れた。
 電流に責められる股間のヘアーが、よく見ると電流に反応して、ふわーっと逆立っているのだった。
「ううっ、くうーっ!」
 ベルトで拘束され、頭のうえで組まされた両手を、関節が真っ白く見えるほどしっかりと握りしめて、歯を食いしばった。
 膝を曲げて左右に伸ばされた足が、腿やふくらはぎの筋を浮き立たせてぴーんと突っ張った。小刻みにぶるぶると震えた。
 ミーシャが装置を操作しにかかった。
「や、やめてっ。これ以上はっ!」
 美鈴が叫んで懇願した。
 と、予想に反して下半身を走り回る衝撃に変化が生じた。
「あ、つうーっ! ああっ、うああ……」
 下半身を走り回る電流刺激にバリエーションがプラスされた。びりびりびり、という刺激がぼわーんと高まり、高まったと思うとすーっと潮が引くように弱まる、そんな感じだ。
「ああ、凄い」
と、これはもちろん見物の女たちからでた感嘆の反応だ。美鈴を責めるパルスの変化は、そばで見ている目にもそれと感じられるのだ。
 足載せ台に固定して開脚された下肢が痙攣し、筋走る。と、爪先――これは女にしては節くれだった爪先だが、それが美鈴の意思に関係なく勝手な方を向いて突っ張る。痙攣する。
「うわー、あ、あ、あー……!」
 電流刺激に犯され、いまや美鈴は忘我の境地だった。
「うう、ぐふぁああっ!」
 ミーシャが発電装置のつまみを回した。
 衝撃が子宮を、膣を、肛門を襲ってブルブル震わせ、バチバチッと叩く。美鈴は身体中に瞬発する電気のパワーを感じ、火花を感じた。
「いやっ、いやああっ!!」
 足指を引きつるだけ引きつらせ、ぴーんと突っ張った爪先に走る痙攣も痛々しく、さも凄い状況に見えた。
 カチッ――とスイッチが切られたとき、それまで引きつれ、ガクガクしていた開脚全身が、力が抜けたようにがっくりした。「はあはあ」息をはずませ、のぼせた顔になっている。
 また、スイッチ。
「ぎゃあああーっ!」
 凄い悲鳴。
 美鈴は電流に反応して叫びながら、「待てよ」という思いもあった。ぐわーっ、ぐわーっと一定リズムで襲いかかる衝撃のパルスは、9年前に受けた拷問電流とはちがった感じだった。
 もう、当に忘れかけた異常な刺激に恐怖感だけ先走り、それで半狂乱になって泣き叫んだものの、いつの間にか異様な刺激に反応している自分も実感しているのだった。
「見なさい」
 みどりが医具を食わえ、鉗子の取っ手以上の部分をはみ出させ、パックリ口を開けている淫靡な秘裂を指さした。そこには新たにあふれ、滲み出す愛液の輝きがハッキリ見てとれた。
「ああーっ! わああーっ!」
 のけぞり、身をくねらせ、断続的にひきつれを見せる上体。一方で、一定のリズムをもって痙攣、収縮、引きつれを生じ、突っ張ったり、勝手な方を向いたりする下肢と爪先――。
 スポットライトの明かりのなか、一糸まとわぬ若い女体の生け贄饗宴が飽くことなくつづけられ、めくるめく電流刺激がショートして、美鈴のなかでは嗜虐の鬼火が燃えはじめていた。


_______串刺電流


 電流責めは飽くことなくつづけられた。
「あああーっ!」
 美鈴の苦悶は延々とつづいていて、すでに電流責め開始から1時間が経っていた。
 ただ、電気を流すだけでなく、気まぐれなイタズラもおこなわれた。
「さあ、こうよ。これはどう?」
 明かりに照らされた内視鏡の奥を凝視しながら、はみ出ている鉗子の取っ手をつかみ、子宮に突き立てた先の部分の抜き差しを繰り返す。
「ああっ、いやっ!」
 ぐうっと押し込んだかと思えば、ひねり回しながらゆっくり引きにかかる。鉗子の先に力をくわえるたび、強まる電気刺激に美鈴の暴れようも烈しく変化するのだ。
「ひっ! ひえーっ!」
 額に汗を光らせた顔が、くしゃくしゃになって右に左にのけぞりまくった。
 そうした子宮責めはみどりだけでなく、愛もミーシャもけっこう愉快らしく、30分かそこらは、それだけで満足していた。
「も、もうやめてっ!」
「なに言ってんの。まだ2時間も経ってないのよ」
 美鈴の訴えなどは相手にもされなかった。
 ただ、その間、おそらくクラブではM役に徹しているだろう美沙樹だけは、拷問まがいの凌辱にはくわわらなかった。
 横にきて、美鈴の貧乳に手を添え、そっと握って中心を押し出し、乳首をつんつん刺激したりしてやさしい愛撫を繰り返すのだった。
「美鈴ちゃん、可愛いいわよ。感じてるその顔、とってもきれい」
 うっとりとして眺めながら、そんな言葉をかけつづけていた。
 そうして美鈴は不思議な時間のなかをただよっていた。身も心も倒錯快感に酔いしれ、これまで何人もの男たちとのゆきずりのセックスでは得られなかった陶酔を味わいつづけていた。
 ふと、美鈴は思い出した。

「美鈴ちゃん、ほんとうの恋をしなさいね。
 素敵な彼氏を見つけて。
 そうしたら、みどりのような
 悪い女にひっかかることもないんだから」

 いつか早紀が自分に言った言葉を思い出し、その言葉に打ちすえられている気がして、じんじん心が痛んだ。

(ああ、もう、ふつうの恋などできないんだろか……)
 なぜか言い知れぬ悔恨にさいなまれ、胸を締めつけられるようだった。

 みどりが横を向いた。
「アナルバトン――」
 その声で、美沙樹が美鈴のまえを離れた。
(アナルバトン、ってなんだろ……)
 またドキドキ、期待まじりの不安がよぎる。
 それは螺旋にえぐれの入った長い棒器具だった。えぐれに沿ってコードが2本這わせてあるが、裸に剥かれてるのは先端だけだった。
 肛門からコルク栓が抜かれた。
 その代わりとしてえぐれ棒が挿入された。
「あ、ううっ、うーっ!」
 ゆっくり挿入されながら、入り口から奥へと移動する電気刺激に美鈴が反応した。緊張に身体は貼りついたようになりながら、手足の先は筋を浮かせて突っ張った。
 奥まで挿入し終わり、えぐれ棒はもう1ミリも入らないところまで達した。
 汗でじっとりと光る腹部の中心に、腸に貫通され、無理に押し込まれた棒器具の先がぷくんと出て見えた。美鈴にとっては、その部分の体内が衝撃に叩かれているのである。
「こんどはコレよ」
 そう微笑みかけて、拳にした右手を美鈴の顔の前に突き出した。
「大人になった美鈴ちゃんのココを、3人で代わる代わるレイプさせてもらうわね」
「いやあーっ!」
 美鈴が目を見開いて何度も何度も首を振った。
 子宮から鉗子が抜かれ、膣から取り出されたあと、内視鏡もアヒル口の先を閉じて、ゆっくりと引き出された。
 べっとりと白い体液をつけた先端が抜かれるとすぐ、だらしなく口を開けたままのヴァギナに、ゴム手袋をした腕の先がねじ込まれるところだった。
「あっ!」
 それが誰の手かを確認するよりなにより、美鈴は手袋を見て仰天した。
 コードを仕込んだゴム手袋だった。分厚く見える分、いかにも入りにくそうなそれを付けた腕に、ぬるぬるのローション液がたっぷりめに塗りこめられていた。
「そ、それはっ!?」
「そうよ。電撃グローブよ。だいじょうぶ、もう何人も経験ずみで危険なことはなにもないわ」
 みどりは涼しい顔で言ってのけた。
 最初は愛だった。細くて長い腕の先の拳は、美沙樹をのぞく3人のなかではいちばん小さく見えるが、前戯もなしでいきなりのフィストファックには、さすがに無理があった。
「ああっ、や、やめてっ!」
 美鈴の苦悶の顔を、微笑みを浮かべてうっとりと眺めつつ拳の先に力を込めた。右に、左にひねりをくわえるうち、愛液でぬるぬるの淫裂をこじ開けながら、ゆっくりと没した。
 装置が操作され、その部分の電流が電圧を上げられた。びりびりびりっという刺激が、昇圧によってぐわーっと烈しさを増した。
 その電撃グローブによるレイプが、ピストン運動がはじまった。
「うっ、うっ、ううーっ!」
 まず、ゆっくり、
「あっ、あっ、いやああーっ!」
 次いで烈しく、早く、美鈴が無理に食わえこまされた愛の拳は、ずぶずぶと水音を立てながら、突いたり抜いたりを繰り返された。ビリビリと痺れる刺激のピストン運動が繰り返された。
「ぎゃあああーっ……」
 開脚寝台が揺れるほどの烈しさ――その間、膣をえぐられ、子宮を突き上げられる衝撃に美鈴は狂ったように泣きわめいた。
 そばで見ているみどりの身体が沈んだと思うや、膣内を往き来する電気刺激が烈しくなった。ビリビリ、バリバリという衝撃が嵐となって腹部を叩いた。体内を走り回った。
「いやっ、いやいやいやあーっ!」
 アナルバトンとフィストファック、電流責めの衝撃に串刺しされる美鈴の前と後ろは、暴風のようだった。
 ひとしきり暴風が吹き荒れ、いったん電圧が下げられ、ゼロにされた。愛が満足の笑みを浮かべて腕を引き抜きにかかった。
 スポットライトの照明のなか、ぐっしょりとした腕が見え、手首が見え、拳にした先が見え、やがて右手のすべてが抜き出された。
「くっ、くくっ……」
 しゃくりあげるような嗚咽が洩れた。
 抜き出されたばかりの腕からは淫水がしたたり、糸を引いて垂れたりもし、それが照明に映えてきらきらしていた。
 アナルバトンも抜かれた。
 代わりに、もっと太いディルドがみどりの手に握られた。太さ5センチはあろうかと思えるペニスの形をしつつ、長さは50センチをゆうに超えていた。そしてこれにもコードが――。
 粘性の淫水にまみれた肛門を、みどりの手の先が挿入され、えぐったり、ひねったりしながらたっぷり時間をかけて括約筋をほぐしにほぐした。
 すっかりがばがばになったところで、長大ディルドが押し込まれた。
「わああーっ!」
 また電気刺激が入ってきた。こんどはアヌスをこじ開ける痛さをともなって入ってきた。
「いやあっ。痛いっ!」
 なにかに阻まれ、挿入するみどりの手は止まり、美鈴はきりきりと刺すような痛みにさいなまれた。
「S字結腸ね。でも、これを抜けないと腸には到達しないから――」
「いやっ。そんなひどいこと――!」
 みどりは歯牙にもかけなかった。
 ディルドを握る手に力を込めた。
「ぎゃああっ、ぎやううっ!!」
 腸壁がくだけるかと思える激痛が、恐怖心を道連れにして押し寄せた。
「美鈴ちゃん、耐えて。がんばって」
 美沙樹が貧乳の乳房を愛撫しながら言葉をかけた。励ました。
 めりっと骨盤が軋んだかと思った瞬間、タガがはずれたように、またみどりが操作する長大ディルドが腸への侵攻を開始した。こんどは勢いをつけてずんずん入ってきた。
 これ以上奥へは行かぬほどすっかり入りきって、性具が入った部分の腸管内を電流刺激が走り回っていた。ビリビリビリビリ、火花を散らしたように走り回っていた。
「うああーっ!! あああーっ!!」
 のけぞり、身をくねらして暴れる美鈴の上体を、美沙樹の愛撫が、言葉が一心に鎮めにかかっていた。
「こんどはミーシャ」
 みどりの言葉で、愛が付けていた電流グローブを、日本人離れした顔つきのミーシャが、ゆっくりと愉しむように腕に付けた。
「わたしのは、もっと太いからあとにするわ」
 みどりが後ろに下がって、代わりにミーシャが大股開脚開きの美鈴の前に立ちはだかった。
「わたしは愛とちがって手荒いわよ」
 そう言っておいて、拳を入れにかかった。
 右手を左手で支えて突き出し、拳のとがらせた先をずるずるに濡れそぼった割れ目に押し当てた。そして、割れ目を開いて入りかかったと見るや、全体重をかけて一気に突っ込んだ。
「ぎゃあああーっ!!」
 信じがたい激痛に襲われて、美鈴が声を限りに叫びまくった。開脚寝台がぎしぎしと軋んで揺れた。


_______残酷のしたたり


 気がついたとき、まわりの景色が全然ちがっていた。
 そこはさっきまでの椅子をのぞいた小ホールのような部屋ではなく、ふつうの寝室、そして美鈴が目覚めたベッドも、シーツを敷いたふつうのダブルベッドだった。
 ドアが開いてみどりが入ってきた。
「気がついたわね」
 スリップだけの下着姿で片手でトレイを持っていた。
 あわてて跳ね起き、貧乳の胸を手で覆った。
 目の前にトレイが置かれた。例の四角いボックス状の発電装置と、コードでつながったドライバー。どうやら電気責めも、まだ終わってないようだ。
「あの子たちはいないわよ。別の部屋で愉しんでるわ。ここからは2人だけ――」
 悩ましげな目を向けてくるみどりに、美鈴は警戒心むきだしでにらみ返した。
 両手が伸びてきて、太腿を押し割った。
 目を落として、さんざんなぶった股間を一時ながめたあとで、
「縛らないでもじっとしてられる?」
 共に裸になってレズろうとでもいうのか。
「イヤっ。縛って」
 思い切った言葉を口にした。
「わたしに従うのはどうしてもイヤだというのね?」
 そのとき、美鈴の目は豹になっていた。SM嬢たちがいたときとは大ちがいの心境だった。そして、その口から、さらに驚くべき言葉を発した。
「縛らないとそのノド笛に飛びついて噛み殺すかも知れないからよ」
 うそぶいて笑って見せた。まんざらコケ脅しとも思えぬ、そうしかねない迫力がその口吻には感じられた。
 その一方、みどりはみどりで表情にふたたび平静を取りもどし、ある魂胆のもと凄みを利かせて見据えた。
(おまえごとき、この場でひねり殺せるんだ)
 そう言っている目と美鈴は取った。
 だが、みどりの本心はもっとしたたかだった。彼女の毒の牙には溶ろける蜜の味が仕込まれているのに、美鈴ごとき若輩がまだ気づくはずもなかった。
 ただ、半分は本気に思ったのか、みどりはダブルのベッドいっぱいに美鈴の手足を伸ばさせ、手首と足首にベルトを巻きつけて大の字拘束した。
 色白の全身があおむけ大の字にされ、真っ白いシーツのベッドに寝かされている。革ベルトに縛られた手足の先にまだシーツ面を残すのは、美鈴の小柄ぶりを示してあまりあった。
「ふぅー……」
 ようやくそれと分かる乳房をため息で息づかせ、天井をにらんで生つばを呑んだ。いよいよというそのときになって、悪態をついたことを後悔した。
 手が触れた。
 美鈴が「うっ」とわずか顔をゆがめた。
 ラビアを押し開きながら、指が性器に触れた。膣孔を愛撫しつつ、クリトリスをも刺激する。巧みな愛撫がもたらす甘美な快感に、美鈴はたちまちうっとりした。
 すうーっと性器に愛液が流れた。わずかの粘り気を見せる透明の体液が、くすんだピンク色の花唇の一端で露となり、玉となり、ついにはシーツにしたたり落ちた。
 愛撫はしばらくつづけられた。
「くっ、くくっ……」
 美鈴は唇を噛みしめ、声をこらえた。やっぱりこんなことかと一人合点したものの、腹に一物ある身としては仇になぶられ、やすやすとよがり声をあげるわけにはいかなかった。
 ただ、それも美鈴の勘違いだった。みどりは勃起したクリトリスをしかと確かめると、たちまち愛撫をやめてトレイに手を伸ばした。
 コードが1本、目の前をかすめた。その瞬間、
「うっ」
 もっとも敏感な部分に小さな痛みが――。
 巧みな愛撫で感じさせられ、固くとがらされた女の急所に、コードを付けた電極クリップがはさみつけられたのだ。
 それからみどりの手にドライバーが握られた。
 来るぞ――と思った。手が、足が緊張に力みかえった。
 十字の先が、剥きあげたラビアとラビアの中心に位置する尿道孔に近づけられる。
「うーっ!」
 電気が通じて、生殖器の中心、近接した2つの器官に刺す痛みが、あの、びりびりという独特の電気刺激とともに伝わった。
 四肢を固定されたまま、大の字の腰が不自由に逃げまわった。
「ほらほら、暴れるんじゃないわよ」
 そう言って自分の体重を預けてくる。これで責められる箇所は微動だにしない。それは凄い力だった。こうして何人、何十人責めたかと思えるくらい経験がこもった拘束力だった。
「あーっ、いやあーっ!」
 びりびりという刺激がクリトリスを侵蝕し、熱針で刺される痛みが尿道孔を貫通した。尿道の奥の奥まで突き抜ける、それは美鈴にとって地獄の責め苦に近かった。
「ふふふ……その顔が見えないのが残念」
 どっしりのしかかって押さえつけ、ラビアを剥き上げ、開いた中心の秘肉の小穴をドライバーの先で突つく。
 みどりがその姿勢で見える範囲に目を向けると、左右に伸ばされた美鈴の足は、内向きに反って必死に足掻いていた。
 爪先が力んで丸まり、ひしゃげた踵をめり込ませたシーツに、乱れたシワがいっぱい刻まれた。ぴくぴく筋を浮き立たせた太腿は早くも汗ばみ、つややかな光沢をたたえて見えた。
 そして――
「あっ、う。うあーっ!」
 首を振ってのけぞり、のたうちまわる、苦悶に烈しくゆがむ美鈴の顔も、べっとりとした汗で照り輝いて見えた。
「と、止めてっ。もうイヤっ!」
 突き刺す電流に、もはや耐えられなかった。
 5分……10分。いや、30分、それ以上かも知れなかった。とにかく恐ろしく長い時間が過ぎたように思えた。
 汗を吸い込んだシーツのしっとり感が肌にハッキリとまとわりついた頃――
「あっ」と声にだした。
 電流刺激に麻痺した局部感覚に、痛みとはちがうなにか、羽虫がまとわりつくような、くすぐったいような刺激が、薄らいだ痛みの向こうからじんじんと押し寄せてきた。
 その肉体的反応に、みどりが目ざとく察知した。
 クリトリスをつまんだ電極クリップとペアで電流を発して責めるドライバーの先に、十字が捉えた尿道孔にキラリと露が光ったのを――。
 美鈴の目は半開きに茫乎としていた。
「あ、ああ……」
 茫乎として声を洩らしていた。
 身体の中心の奥深いところで、沸き出し、滲み出て、はじけてほとばしるものを確かな意識で身内から感じた。
 なんなの? これは――。
 いまだ味わったことのない不思議な刺激。ただ、それを快感と認めるには美鈴の心は懐疑的過ぎた。“仇に犯され、なぶられている”意識が淫らに溺れるのを一歩食い止めていた。
 が、それも時間の問題。
「く……くっくく……」
 この時を待っていたみどりは、こみ上げる笑いを止めるのがやっとだった。らんらんと輝く彼女の2つの眼(まなこ)は、たらたらと愛液を垂らす尿道をしかと見とどけていた。
「ああっ、いやあーっ!」
 美鈴が目を見開いて絶叫した。
 激痛に喚いたのでも、おぞましさに泣いたのでもなかった。めくるめく快美な衝撃に打ちのめされ、みどりの前であられもなく愛液をぶちまけている嫌悪感にさいなまれたからだった。

  快感電流――

 不意にそんな言葉が浮かんだ。
 快感電流に突き刺され、堰を破って出る愛液のほとばしりは、なおつづき、シーツの染みをどんどん広げていた。
「ね。言ったでしょ。拷問ではないって」
 みどりが勝ち誇った顔でつぶやいた。
「う、うう、うっ……」
 尿道孔を、クリトリスを襲う刺激が、声を殺して耐える意思を押しのけ、なぎ倒し、快感電流の潮(うしお)となって美鈴の性感を侵蝕している。
「思いっきりよがりなさい。叫びなさい。恥ずかしくなんかないわ。この部屋には私と美鈴ちゃん、2人だけしかいないんだから」
 あやすような言葉を聞きながら、いつの間にか現実感も遠のき、めくるめく桃源郷の夢遊空間にいる心地だった。
 完全なる美鈴の敗北だった。が、つぎには、毒食らわば皿まで――の心境で開きなおった。
「ああ、あうああーっ!!」
 のけぞり、のたうちまわり、烈しく首を振って泣き叫んだ。
「さあ、美鈴ちゃん。すこしね、すこしだけアップさせてよね」
 みどりが小首をかしげ、眉根を寄せて目尻は下げた。そんな懇請の顔をしながら、手は無慈悲に、サディスティックに発電機に延びてダイヤルをセットしなおすのだった。
「いやっ。イヤイヤイヤーっ!」
 電圧を上げたドライバーの先が、尿道孔を突いた。
「うわーっ!」
 目を見開いて叫んだ。
 その瞬間、強い電流刺激に叩かれ、尿道孔とクリトリスに烈しい痛みが生じたが、痛みに混じって鋭い快感も走った。そしてこんどは尿道孔だけでなく、膣からも愛液がしたたり落ちた。
「すごいわよ、美鈴ちゃん。2つの穴からたらたらおツユが垂れてる」
「うそっ。ウソウソウソーっ!」
 首を振って背中をのたうちまわらせた。
 2分、3分……尿道孔への電気責めは飽くことなくつづけられ、ついさっきあれほど苦痛と感じた電気刺激を、また快感だけの刺激ととらえるまでになっていた。
 みどりはさらに大胆に責めた。ドライバーの十字の先が、2、3ミリ尿道の中に突き入れられたのだ。
「ぎゃああっ!!」
 凄い悲鳴が起こった。美鈴を押さえるみどりの身体がわずか押し返された。だが、すぐまたしっかりと押さえ込んだ。
「電圧をもとにもどすわ」
 その言葉どおり、電圧を下げられた。が、
「その代わりぃ――」
といって、さらに奥への挿入を試みた。
「いやっ、そんなっ――!?」
 美鈴の驚愕など歯牙にもかけず、まず十字のえぐれた部分をすっかり尿道の中に埋め込み、ゆっくり、ゆっくりとドライバーの金属部分をなお奥へと進ませた。
「いやぁー……あーあぁー……」
と声をあげつづけ、ドライバーがすっかり尿道をふさいでしまうまでの恐ろしく緩慢な時間、美鈴は大の字の全身をベッドに貼りつけたようになって微動だもせずじっと耐えていた。
 その間、たらっ、たらっと、膣からも、尿道からも、したたる愛液は少しずつではあるが止まることなくつづいた。
 そうして、また10分以上がたった。
「あううー……あ、うーん、ん……」
 美鈴が呆けたようなよがり声をあげはじめたとき、みどりがいよいよフィニッシュをかけるときと判断した。そのフィニッシュとは、美鈴にとっても信じがたい展開となる行為だった。
 トレイに手をのばし、また引っこめたとき、つまんだコードの先にピカピカの細い金属棒がつながっていた。それを目の前にちらちらさせて言った。
「美鈴ちゃん、ほら、ごらん。角々がまったくないでしょ。だから慎重に入れれば傷つけることはないのよ。だけど、もし動いたりしたらぁ……」
「うそっ! まさか、それを――」
 みどりが股間に目を落とした。
「じっとしてるのよ」と美鈴には言いつけ、また股間に目をもどすと、ドライバーをゆっくり抜き出し、代わりにいま見せた金属棒をおそろしく慎重に尿道に挿入していった。
「いやあー。もう、いやだぁー」
 びりびりという刺激は耐えられない苦痛ではないが、膀胱にさえ届きそうな尿道への、電気の流れている異物挿入は恐怖以外のなにものでもなかった。
 それなのに、刺激に反応しての愛液の浸潤は相変わらずつづいている。それを身内から感じ、信じられない思いと同時に、我が身が壊れていく恐怖にさいなまれるのだった。
「また、じっとしてるのよぉ」
「いや、やめてよぉー」
 拒否しつつ、のがれるすべの全くないなか、ふたたび貼りついたように、石になっているしかなかった。
「あ、あぁ、くっくくく……」
 美鈴の目から涙がこぼれた。ただ、それは悲憤でも、苦痛でもなく、信じられない被虐快感に貫かれた随喜のなみだに近いものだった。やはり壊れつつあると覚るべきかも知れない。
「よし、これで」
 すっかり金属棒を埋め込んだ尿道から、愛液を滲ませたコードがはみ出、ベッドの上に置かれた装置につづいている。
 みどりが初めて美鈴の身体から離れた。後ろを向いて、足首のベルトを解いた。前にも来て手首のも取った。なにをするのか。真意を計りかねて、なお動けずにいた。
「こんどはわたしも愉しませてもらうわよ」
 そう言って背中に手を入れて美鈴の上体を起こさせた。
 両手を後ろにまわさせた。その手に手錠が架けられ、こんどは後ろ手錠にして自由を奪われた。
 尿道とクリトリスを襲う刺激をびりびりと感じながら、そのあとの展開は美鈴の意表を突くものだった。
「膝を突いて正座しなさいっ!」
 拒否を許さない断固とした命令口調だった。
 言われるままダブルベッドのふとんの上で、後ろ手に縛られた正座のかっこうをとった。
 みどりが前に立った。
 目を落としたところに変圧装置が置かれた。
 ふたたび顔を上げた美鈴が「はっ」となった。
 みどりの手に、太くて長いディルドを仕込んだペニスバンドがぶら下がっていた。
「ふっふふふふ……」
 口元をゆがめて不気味に笑った。
 ゆっくりとスリップのすそをたくし上げた。
「あっ!!」
 目を見開いた美鈴が息が止まるほど驚いた。
 スリップの下はなにも付けていなかった。ぼうぼうとして潤沢に繁茂する陰毛のあいだからは、毒々しい色のびらんした性器が浮き出していた。
「いいかい? 逆らったら尿道が破壊されるくらいの電気を流すからね」
 そう言ってかがむと、変圧ダイヤルに手をかけた。
 美鈴は烈しく首を振った。
 と、すかさず、その後頭を両手にしっかりとらえ、自分の股間に押しつけた。
 鼻を突くきつい体臭に「うっ」と顔をしかめた。が、みどりの両手は、寸毫も逃がすものではなかった。
「さあ、舌で上手にわたしを感じさせなさい。歯なんか立てたりしたら承知しないから!」
 たっぷり脅しをくれて引き寄せた。
 もう、あとは無我夢中だった。嫌悪をこらえて舌をうごめかせた。そのすぐあとで、「うっ」と反応が返ってきた。
「あ、いい……その感じ……」
 その声のようすから相手の恍惚を読み取った。
 あのみどりが、自分の舌技に感じている。美鈴は一時不思議な感動に打たれたが、そのすぐあとではみどりの淫乱を確信した。
「よーし」
 十分潤ったようで、美鈴を押しのけたみどりがいよいよペニスバンドを装着にかかった。双頭ディルドの細いほうを自分に向けて、両手であてがい、ゆっくりと押し込んだ。
「う、ああ……」
 あのみどりが喘ぎながら、“行き顔”をさらしながら、自分の見ている前で、おのが中心にディルドを埋めていく――と、美鈴はこんども信じられない思いだった。そして――
 ディルドの片割れがすっかりみどりの中に収まったとき、ペニスバンドの股間には、さらに猛々しいもう片割れのディルドが残って、宙を突いて屹立していた。
「口を開けて」
 また、後ろ頭を取られた。そしてこんどは顎までつかまれ、無理矢理こじ開けた口に、双頭ディルドの太いほうを押し込まれた。
「うぐっ、げっ!」
「たっぷりとしゃぶれ。ツバを付け、よだれを付けて。いいか、十分にしゃぶってヌルヌルにしないと、おまえのアヌスがこすれて切れるかも知れないんだからな」
 美鈴はしかたなく、無理矢理頬ばらされた太めの性具をしゃぶった。ノドを塞がれる苦しさにむせ、窒息するかという恐怖のなか、ツバを出し、よだれを沸きたたせて一心にしゃぶった。
 ひとしきりヌルヌルにしたディルドが、口から出されると、
「さっきはよくも顔をそむけたな。わたしのアソコがそんなにけがらわしいか?」
 凄い顔で詰問した。
「そ、そんな。そんなことわたし……」
 弁解を無視して、みどりは美鈴を後ろから抱えてベッドに膝を着かせ、肘を着かせて四つんばいにした。いよいよあの凶器がと脅えたが、まだそうではなかった。
 尿道に入れた金属棒を抜き、すぐまたそれを膣に押し込んだ。深奥部まで挿入するのに、手まで使ったから、またフィストされるかと勘違いしたほどだ。そうして、
「顔をそむけた罰だ」
 そう言って、電圧を上げた。
「ぎゃああっ!」
 いきなり襲いかかった衝撃のすさまじさに、身をよじって四つんばい姿勢からばったり倒れ込むところだった。
「じっとしてろっ!」
 その一喝がかろうじて姿勢を保たせた。
 敏感なクリトリスは、電圧を上げられながら、その前までの電圧に感覚が麻痺しているからそれほどでもない。が、だしぬけに衝撃を受けたヴァギナはたまったものではなかった。
「ああーっ! 止めてーっ!」
 バリバリ、バチバチ、それまでの快感電流がどこへ行ったかと思う拷問電流が、愛液まみれでずぶずぶのヴァギナ内をはじけ回り、走り回った。
 そしてさらに新たな苦痛が……。
「すこし痛いわよ」
 その言葉のすぐあとに、アヌスの中心に強い圧迫がくわわった。あの凶器がアヌス穴をこじ開け、押し広げ、引き裂く痛みをくわえながら徐々に徐々に直腸へと侵攻してきた。
「ううっ、痛いっ。痛いーっ!」
 6センチ、いや、それ以上の太さを持っていたにちがいない。それが少しずつ入ってくるのを、その身の痛みで情景として実感された。裂けるっ――と脅えながら痛みに耐えた。
「いや。痛いっ! いやああーっ!」
 痛みはどんどん強くなり、もうこれ以上耐えられないと思ったとき、いちばん太いところが通過した。
「さあ、すっかり入ったわよ。じゃ、行くわね。たっぷりと突くわよ」
 みどりが腰を使った。
「う、うう……あ、ああっ!」
 美鈴が四つんばいの姿勢だけは保ったまま、全身をぶるぶる震わせてじっと耐えた。
 ディルドが突き入れられ、引き抜かれ、強烈な異物感、圧迫をともなった通過感を持って烈しいピストン運動が開始された。
 そしてその間、前を襲う電流刺激は衝撃の激流となって美鈴の性感を貫通し、はじけ飛び、縦横無尽に暴れ狂っていた。


――毒の章・2につづく――

―創作の記―

 この物語は、一部事実をもとにしたフィクションです。したがって、本篇で取り上げられる実在の事件、個人、団体名なども、いっさい物語とは関係がありません。
 さらに、登場するSMプレイなどは娯楽として誇張されています。特に、電気責めは直接“死”につながる危険行為であり、決して真似しないようおねがいします。
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