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_______楓摘発
池袋にある雑居ビル地下の会員制SMクラブ楓の事務所――。売上計算をしているオーナー野々宮潤子のまえに、店の子が息せき切って飛び込んできた。
「ママ、大変。警察の手入れですって!」
「ええっ!?」
血相変えて立ち上がった。が、しかし予想しないことではなかった。
(あの疫病神のせいだ!)
アメリカ帰りかなにか知らないが、高慢で冷酷なしたり顔を思い出すたび、いらいらする。あの女の所業や性格を思えば、警察が動くようなことになっても不思議はなかった。
まもなく愛に案内されて2人の刑事が入ってきた。
年輩の方が警察手帳を示した。
「警視庁刑事部、第二特捜班の宇津木です。職務により、これからこの階のすべての部屋の捜索をおこないます。証拠保全のため、全員いったん部屋から出てもらわねばなりません」
「なんの容疑ですか?」
「売春防止法および暴行、傷害、それに監禁、強要容疑です」
やはり、あの拷問ショーの一件かと思った。
SMは本番をしない前提もあって、これまで風俗関係の摘発対象にはなりにくかった。その一線をあのショーではいとも簡単に超え、この世界に慣れた潤子でさえ目を覆うほどだった。
不安顔でたたずむ、その時間客の付かなかったフリーの子たちを指図した。
「あなたたち、各室まわってお客さんたちを外に。ただし、くれぐれも失礼のないようにね」
そう言われて出て行った子の一人が捕まった。
「あなた、美沙樹さんという方じゃない?」
私服の高嶋裕美刑事が、刑事とは思えぬ気さくなようすで隅に連れてった。
「ここの地下で携帯が使える?」
美沙樹は質問の主旨を、単に裕美が電話をかけたいのかと思った。
「あ、ここダメですよ。エレベーターのなかもダメ。携帯かけるなら、従業員用エレベーターで上がって通用門から外にでないと」
そう答えて美沙樹は、廊下の奥まったところにある細い迷路のような通路へ案内した。
プレイルームのある廊下では、着替え途中の客やSM嬢たちが捜査員に追い立てられ、すでに拷問ショー参加者の何人かが、不承不承といった顔で刑事からの事情聴取に答えていた。
突然、
「ぎゃあああーっ!」
異様な絶叫が、その場の者たちを愕かせた。
プレイ途中の者など誰もいないはずだ。
SMというより拷問、それも断末魔に近い烈しい叫びは事務所から起こっており、それは潤子に向かい合った宇津木が、持参のカセットレコーダーからの声を聴かせていたのだった。
「匿名のパーティー参加者から送られたテープです。いまのは麗花さんの悲鳴ですよね?」
「ええ」
うなずいた潤子の表情が陰鬱に翳った。
凄絶な悲鳴はつづき、それがいったん止んで客の声になった。
「おまえ、ほんとに中国人なのか?」
テープを聴く潤子の顔が不快をあらわにした。それを宇津木は警察への反感と思い込んでいた。
「こんなものを録ってた人がいるんですか」
そうつぶやいて、ため息をつき、「ま、どうぞ」と隣り合った奥の部屋へと招じた。
講堂かミニシアターかといった広さのその部屋は、2ヶ月まえには潤子でさえ“ヘドがでるショー”と思った現場だったが、いまは捜査員がなにかを物色してうろつき回っていた。
「3日まえ――」
「12月1日ですね」
「ええ。日曜で店も早じまいする日でしたよ」
みどりと“訣別”することになった話し合いの場もここだった。
そのときみどりは、潤子や店の女の子たち相手に対峙しながら、逆に余裕の体でタバコをふかせ、露出気味の脚をさらに大胆に組んだ挑発ポーズで悠然たる表情だった。
「で、わたしにどうしろと?」
「楓から離れてって欲しいのよ。もちろん、そちらが紹介してくれた会員ともどもにね」
決然たる意志を込めて潤子が言い切った。
「それじゃ元の黙阿弥じゃない。せっかく新たな客筋がつくようにと、インターネットからなにから利用して過激な企画組んで、そのディナーショーが一定の成果を収めたというのに」
「それがとんだ迷惑なのよ」
それこそ唾棄しかねない顔で言った。
「あんなのはショーでもなんでもない、ゲテモノよ。残虐趣味が高じた拷問であって、見ていてヘドが出るようだったわ」
潤子の不快に、みどりは軽蔑の表情で返した。
「欧米ではなんでもないことよ。身体に焼き印を押すことさえあるマゾの世界を、あなただって知らないはずじゃないでしょ。いまさら、なにをキレイ事いってるのよ」
灰皿にタバコの火を押しつけて消すと、腕組みしてにらみ返した。
だが、潤子も負けてはいない。
「そうかしら? わたしには、あの麗花という子が、納得ずくであの“荒行”を受け入れたとは思えなかったけどね」
居ならぶ子たちの顔にも、一人をのぞいて同調の色が濃かった。そのミーシャに目くばせして、新しい洋モクに火を点けた。
「あの子はお金が欲しいのよ。そのために身を売った以上は、どうされたって文句はいえないはずよ。そういう世界ではなかったの?」
にべもなく言って一服吹かしたとき、傲然と反発した者がいた。
「わたしは、そうは思わないっ!」
「はっ」としてその方を見ると楓ではM専門の美沙樹だった。寄り添うように居ならぶ愛も、ハッキリ首を縦に振ってうなずいた。
みどりが最後に助け船を求めたのは隅の暗がりに立つ神谷だったが、その彼は「無駄だ」というように首を横に振った。
それが合図となって、
「柔弱なエセSM志向とは相容れないわね」
最後に捨て台詞を残してみどりは楓と、野々宮潤子とに袂を分かったのである。
「そういういきさつがあったんですか?」
しみじみつぶやく宇津木の言葉には、捜査員にあるまじき同情の気持ちが込められていた。
「これだけのスペースを借り切っての経営はたいへんだったでしょう」
「は?」
潤子の目がまじまじと宇津木を捉えた。
「たいへんでないと言ってはウソになりますが、元は倉庫だったところを内装こっち持ちで借りた部屋、見た目の広さほど家賃はかかってないんですよ。
あ、上の居酒屋も元は映画館に使っていたところで、行けば分かりますが天井が高いんですよ。こう、不景気では貸し主もそう気取ってはいられませんからね」
家宅捜査にきておいて、刑事らしからぬ相手の親身なようすに気をゆるし、つい訊かれもしないことまで答えていた。
そのうち、捜査員がつぎつぎと宇津木のもとへ報告にもどった。
「どこにも見当たりません」
部下たちの答は一様だった。
宇津木が捜していたのは麗花拷問に用いた電気ショック装置だった。不意打ちでみどりをしょっ引ければそれに越したことはなかったが、一足早く楓とは無縁だったとは迂闊だった。
これ以上得るものはないと判断、宇津木が潤子にあらためて向かい合った。
「いや、お騒がせしたうえ、お手間を取らせました。またなにか訊くことがあればうかがいますが、今日のところはこれで引き取らせていただきます。ご協力ありがとうございました」
丁重にあいさつして部屋を出た。
廊下に出ると、目立たないところに裕美と若い男の刑事が控えていた。
「どうだった」
「わたしに気づかず携帯で連絡してました」と裕美。
「エレベーターまえで張っていたのは、たしかに……」と別の刑事。
「やはりスパイはあの2人だったか」
2人の報告を受けた宇津木が、苦虫を噛みつぶし、いつになく凄みのある目でうなずいた。
「収穫はそれで十分」
不本意だが、これ以上つづけてもなにも出るまい。そう判断して部下たちを集め、捜索の打ち切りを命じた。
捜査陣が去った楓フロア内で、しかし嵐はまだ深刻な余韻をのこしたまま収まらずにいた。
「わたしたちどうなるの?」
潤子の周囲には、たちまち4、5人のSM嬢が不安な面持ちで集まった。
今回の捜査の矛先はみどりで、売春容疑等すべてみどり逮捕のための“当て馬”、とりあえず楓は放免のようだが、客への不信やら威嚇やらたいへんなダメージである。だがしかし、
「だいじょうぶよ」
従業員たるSM嬢たちの気を引き立たせるべく明るく振る舞うしかなかった。
さらには、寒々とした廊下に閉め出された客たちの説得にも努めねばならなかった。
「だいじょうぶですよ。みなさんにご迷惑がかかることはけっしてありませんから」
どんな目算があるわけでもない。ただ、クラブオーナーとしては、そう言い切るしかなかった。
そして、この日から約1ヶ月後、楓は解散の憂き目を見ることになる。
_______麗花無惨
「ひえーっ!」
針をつまんだ手が動くたび、悲鳴が響きわたった。
全裸の麗花の窮屈な全身が、間接照明の明かりのなかで揺れる。手も足も裏側に回し、後ろ手後ろ足で台を抱くよう屈曲させられているため、肘から先、膝から先がない状態だった。
首の付いた生身のトルソーである。
ワゴンに拷問用の針と燭台が載っていた。針は畳針よりは細かったが、長さがある分、よけい縫い針よりも太く見えた。
その針をつまんで、みどりが愉しむようにゆっくりとラビアに突き通していった。
「きゃっ、ああーっ!」
悲鳴が尻上がりに高まり、台が揺れた。はた目には腰のベルトだけでの拘束だが、裏にまわされた両手首、足首がきつく台に結ばれ、どんなに暴れてもそこから身体が落ちることはない。
そして、また1本ゆっくりと――。
「ううっ、ひいっ!」
生身のトルソーがお椀を伏せた形の美乳を揺すって大きく揺れた。
そうして4本、5本と針を貫き通し終えたみどりが、手術用の手袋の手に付いた血をバスタオルでぬぐい去った。
「わたしから逃げるなんて……」
その罰だといわんばかりだ。例の拷問ショーのなかでさんざん酷い仕置きにかけながら、まだ飽きたらないというのか。いや、みどりのサディストぶりは、最近狂気じみてきていた。
「憎い娘……」
針の頭を押したら、小さな傷口に血の玉がゆっくりふくらんだ。
「シィ、ファ……」
苦痛のなかから、なにか言おうとしたとき、烈しい平手打ちが飛んだ。
「中国語で話すなと言ったでしょっ!」
酒臭い息をぷんぷんさせながら凄い剣幕で怒りつけた。
燭台をつかんでロウソクの明かりで秘部を照らした。火を近づけ、その火で局部に突き立っている針をあぶった。
「ひゃっ! あ、熱いです。熱いーっ!」
「くっくくく……オマンコを焼いてやるわ」
燭台をかたむけた。針で縫い込められ、剥き出しにされた膣粘膜部分にぽたぽたと熱ロウのしずくがしたたり落ちた。
「ぎゃああーっ!」
けたたましい悲鳴が起きて、台に貼り付けられた全身が飛び上がらんばかりにびくついた。ガタンと音がしたのは、一瞬でも台が床を離れたということだろうか。
ぷぅーんと異臭がただよったが、まさか肉が焼けたわけではあるまい。
「ひいいーっ、いっいっ。あああっ!」
すすり泣くような悲鳴は、悲痛な余韻となって後を引いた。
「さあ、どこへ逃げるつもりだったか言いなさいっ」
「逃げません。わたし逃げませんっ……ああっ!」
首を振り振り、ベルトを境界にして、上体と下肢がおのおの勝手な方向に身をよじり、のたうち回った。
燭台がテーブルにもどされ、麗花の悲鳴が一時止んだ。さすがにラビアや膣に目立ったヤケド痕を付けるのだけは遠慮した。だが、それで責めが終わったわけではなかった。
「おまえ、可愛いいよ」
そう言って、膣に刺した針をラビアの右と左で束にしてつまんで、揺すった。
「うっ、うあーっ!」
麗花がふたたび苦痛に顔をゆがめ、苦悶を全身であらわにしはじめた。
「どうれ、中を見てやろう」
そう言うや束にしてつまんだ針ごと、それぞれ反対方向に動かし、左右に開きにかかった。
「いやっ、ぎゃああーっ!」
数本ごと刺された針といっしょに膣が口を開いた。
「い、イタイーっ!」
「ふんっ、まだこんなものじゃ済まないよ」
手が勝手な動きをした。横に開くだけでは飽きたらない。斜めによじったり、縦にひねったり、そのたびに陰毛に縁取られた女の部分がうねうねと、さまざまに形を変えた。
「こりゃあ面白いわ。こんなオマンコ見たことない。ほれどうだ? これなら……これは?」
「ぎゃ、ぎゃああー、やめてくださいーっ!」
ひとしきり遊んで離した手を、またバスタオルで拭わなければならなかった。ベトベトに血の付いた薄いゴム手袋は、きれいには拭いきれないほど血だらけだった。
いまいましくなって脱ぎすてた。
素手になって伸びた手がコードを引き寄せた。1本、2本、つまんでは引き、尖端のワニ口を性器に突き立てた針に噛ませた。
そうしておいて本体である円筒形の黒い物体――変圧機を近づけた。
いまは0の位置にある「・」を、ゆっくりと高い数字のほうへ回していった。このボルタックは最大130ボルトまで昇圧可能だ。
「い、あ、ああー……」
茫然と天井を向いていた麗花の顔が、声を大きくさせながら、目を見開いていった。半開きの口もだんだんおおきく開いていって、やがてけたたましい悲鳴をあげた。
「うあァァァーっ!!」
トルソーの全裸体が、台を揺すって右に左にのたうち回った。
電圧は10を超えて15へ近づいた。
「いやあーあーっ!」
烈しく首を振った。
台が倒れるかと思うくらい横に揺れたとき、電話が鳴った。
「ちっ」
いまいましそうに舌打ちし、スイッチを切ってでたら、元刑事の神谷剛太郎だった。
「楓にガサが入ったぞ」
「えっ!?」
いよいよ進退きわまったか。だが、
「心配するな。俺がなんとかする。9年前、梨沙の相棒ということになってムショ入りした鉄砲玉がいただろう。あのときに世話になった組長の口利きで、ある老人と繋ぎをつけている」
「だいじょうぶなの?」
みどりが訊いたのは相手方の信用もだが、なにより神谷への不信が強い。
郷里で開いていたSM秘密パーティー関係者数人が、警察の手が及ぶまえに口封じに殺された。犠牲者の一人が、みどりの愛人で当時SM雑誌に売り出しのイラストレーターだった。
だが、神谷はここでもきっぱりと否定した。
「俺が手を下したのはただの一人だけで、隠蔽工作のほとんどはイングリッドの旦那が部下に命じてやらせたことだ。第一、ウルフとはウマが合ってたんだ。そんな奴を殺せるものか」
「………」
みどりが黙っているのでさらにつづけた。
「とにかくこうなった以上、あんたと俺とは一蓮托生。おたがい四の五の言ってるときじゃないだろ。“奴ら”につぶされるか、より大きな力をバックに攻め返すかしか道はないんだぜ」
この場合の「奴ら」は警察だけではない。海を渡ってきた、とてつもなく強大な権力がバックの刺客とも戦わなければならないのだ。神谷の言葉がそれを匂わし、戦慄にゾクゾクした。
「わかったわ」
「ついては土産が必要だ」
それにはみどりは、すぐにピーンときた。
「女ね」
「さすがにそっちのほうの勘はいいな。そう、“生け贄”だ」
ゴクリと生つばの音が聞こえた。
「俺が繋ぎをつけようとしている有力者は、SMコンパニオンを一人探しているらしい。SMといっても実際の内容は拷問。そんな行為、ふつうのM嬢ではとても勤まらないからね」
「それもわかったわ」
二、三心当たりを思い浮かべたが、そのうちの何人かはすぐに候補から脱落した。
「例の中国娘、退屈しのぎに傷物になどせんでくれよ。こうなりゃ大事な人質だ。といっても、もう相当ガタがきてるが、むふふふ……」
2ヶ月前の拷問ショーを振り返って酷い想像をしたか、また生唾を呑んだ。だが、その神谷へは新たな用事を頼むことになった。
「連れてきて欲しい子がいるんだけど……」
あとはひそひそ声で伝えた。
「じゃあ」と電話を切った。
ふたたび麗花のもとにもどった。
水を差されても、一度火のついた嗜虐の血を冷ますことなど、みどりにはできなかった。
ただし、傷を付けるわけにはいかず、まずはワニ口を外し、針を1本1本抜いていった。
「ふうー……」
いったんは安堵のため息をついたものの、ふたたび麗花の目の前に立ったみどりは半田ゴテを持っていた。
「ひえーっ!」
目を見開いて烈しく首を振った。
「安心おし。焼くつもりはないよ」
そう言ったものの、開かれた太腿と太腿のあいだをのぞき込むと、尖った先をアヌス穴に押し当て、一気にひねり込んだ。
「う、ううーっ」
烈しく呻いて身をよじった。
どうせ見えない部分ならかまうものかとばかり、乱暴に回転させ、えぐって挿入し、すこしのこした金属部分にワニ口が噛まされた。
挿入された棒器具からコードが垂れ下がっている。それをながめたみどりがニンマリとした。
「ゆ……許して……」
紙包みの包装が破かれ、中からでてきた真っさらな手術用ゴム手袋を右手に装着した。素手の左手の平にローション液がたっぷり垂らされ、たちまち右手全体がぬるぬるになった。
その手に別のコードの先のワニ口を握った。
「いやああーっ!」
「おまえ、フィストは不慣れだったよね」
「や、やめて……やめてぇー」
涙をぼろぼろこぼしながら哀願した。
握った拳の中指と人差し指のあいだから親指をのぞかせた。男が卑猥なサインでいうアレだが、ちがうのは親指といっしょにワニ口が出てきたことだった。
親指とワニ口が引っ込み、残りのコードを長く垂らした拳が麗花の割れ目に押し当てられた。
「あう……あ、ああ……」
わなわなと唇を震わせてうろたえる麗花。
「おなかの力を抜きな。力むと傷つくよ」
そう言って、ぐりぐりとひねりながら力を込めて押しつけた。
「ううっ、うああーっ!」
中指を出し気味にして尖らせた効果で、たちまち肉のクレバスが押し開かれ、広げられ、無理にでも拳を食わえさせられていく。
「うぐぅーっ!」
「痛いか? 痛いだろうね」
麗花の苦悶に興奮して右手に力がはいる。左手が添え木のように付け足され、さらに押した。
「ああっ!」
つぎには身体ごと押しまくった。
「ひぎゃああっ、ああーっ!」
性器が全開された。
生き身のトルソーが奇妙に反りかえり、全身力みかえってあばらや筋を浮き立たせた。そして、ずぼっと音が感じられるほどに拳が勢いよく突っ込まれ、あとは手首だけになった。
「う、う、うううーっ!」
悲痛に呻く麗花を見やりながら、用のなくなった左手が変圧器のダイヤルをまさぐって4分の1回転ほど回した。それでもまだ、麗花に呻く以上の苦痛は見られなかった。
みどりの右手がファックを開始した。
「うっ、ああっ!……ひ、ぎゃあっ!……」
小突き、抜かれ、抜かれるときには拳のいちばん太いところまで引かれるから、そのときには膣が全開状態になり、呻きも悲鳴もおおきくなる。
「いっ、やあっ!……ああ、あっ!……」
「くふふふ……あーははは……」
しばらくフィストファックがくり返された。
烈しくピストンされ、フィストパンチが子宮にぶつかり、他の内臓ごと小突きあげるたびに悲鳴があがり、台とトルソーの全身が揺れた。
みどりが「にやっ」と口元をゆがめた。
膣のなかで暴れる拳は、そのとき親指が電流の流れたワニ口を押し出すところだった。
麗花が目を剥いた。
「うぎゃっ! ぎゃあああああ……!!」
トルソーの全身が飛び上がったように見えた。身体中の筋を浮き立たせ、腹部が、下肢が烈しく痙攣した。ガタガタガタっと台が音をたてた。
「うがあああーっ!!」
目を見開き、顔をのけ反らせて絶叫している。
背中を丸めてぐわっと上体がせり出し、あばら骨が痛々しく浮き出した。ベルトが腹部に深々と食いこんだ。
「ぐ、ふうーっ」
と、悲鳴が止んだ。全身ガックリと力を失い、それまでの断末魔が信じられないような静寂の一瞬がおとずれた。
が、またすぐに、
「うぎゃあああーっ!!」
絶叫。悶絶。
耳をつんざく叫び声に包まれながら、膣に押し込んだ拳の先にワニ口の出し入れをくり返すみどりは、麗花の苦悶を見て狂喜した。
そしてまたスイッチが切られ、がっくりと首を垂れた麗花。
「はあ、はあ、はあ……」
まるで死にかけの病人のように喘ぎつづけた。顔にも乳房にも太腿にもべっとり汗が吹き出し、間接照明のなかで凄絶な輝きを放っていた。
「た、たた……」
どもって言葉にならなかった。
「なにが言いたいの?」
「助ケテッ……死ニタクナイ……」
「わかったわ」
うなずく手が、ダイヤルを0までもどした。
「こんな目に遭っても、まだ生きたいのね」
そう言いながら拳がゆっくりと抜き出された。
ぬるぬるに濡れたドクターハンドの手に、ワニ口は握られてなかった。そしてコードは割れ目から垂れ下がったままだった。
いったん離れたみどりが、数分後にもどったときには手袋もなく、石鹸液の匂いをさせた素手にブランデーの瓶とグラスが持たれていた。それをワゴンに置いて麗花を見下ろした。
「カ、帰シテクレマスカ?」
それには答えず、うっとりとながめて、
「まだ、18なのよね」
右手が汗で光る額に貼りついたほつれ毛を手グシですき上げてやった。
その一方で左手がボルタックをオンにした。
ゆっくりとダイヤルを回した。
「あ、ああ……や……や……」
麗花が脅え、うろたえ、中心に電気をだんだん強く感じながらすこしずつすこしずつ全身が力み返っていった。
とくとくとく……音をたてて酒が注がれたとき、みどりの左手が急角度に回転した。
その瞬間、密室が地獄の拷問室と化した。
甲高い悲鳴が響きわたった。
断末魔の足掻き、叫び――汗でまみれた顔を引きつらせ、のたうちまわる少女の苦悶を観察しながら、みどりはうま酒に酔い痴れた。
_______疑惑
12月最初の日曜日は、雪でも降りそうな空模様と寒さだった。
明日は休みというその日、勤めを終えた美鈴は書店のあるショッピングビルから出ると浅草ロック通りを横切り、一目散に仲見世アーケードを抜けて地下鉄駅へ向かった。
その途中である。
「いまお帰りかい?」
屋台のおでん屋から声をかけられた。
寒々とした夜に、もうもうと湯気を立ててそこだけ小さな別天地に見えた。会社員風の男が3人、コートの襟を立てて熱燗をすすり、ほんのり顔を赤らめていた。
「あ、おいしそう!」
ニオイにつられて、つい足を止めた。
「この寒さに早くから仕込んどいたからね、どれもこれもこってり味がしみ込んでるよー」
席はまだ2人分ほど余裕があった。
「やあ」と、コートの一人が軽く手を挙げた。
「あら、今晩は」
この人も見たことがある。
ここは麗花という少女が、チンピラにからまれていた現場でもある。美鈴が勇を奮って飛び出すまで、通行人の誰もが無関心を決め込み、この屋台の親父もいまの会社員も同類だった。
ただ、それも2か月も前のこと。
「家、遠いの?」
「川渡ってすぐの墨田区です」
会社員は詮索好きで訊いているのではなかった。
「だったら寄ってきなよ。いける口だろ?」
しきりと勧める。
「それじゃあ――」
言いかけたとたん、わっと周囲が湧いたようになった。男たちが競って席を広くとったところへ美鈴が腰を落とした。
「ショボイ屋台に箔がついたな」
「こんな美人のお客さんはめったにないぞ」
「だから雪が降るんだよ」
誰もが口さがなかった。
「やっぱり、雪降るっていってました?」
おでん屋の耳から垂れているイヤホーンコードに気づいて尋ねた。
「ああ、明日は降るようだね」
「へえー!」
あいにくの雪だというのに、顔が明るかった。
(雪のデートか。ロマンチックだわ)
亮子の顔を思い浮かべてわくわくした。どこへ行こうか。なにをご馳走してもらおうか。そして――ドキドキする夜までは、なにをして遊ぼうか。どんどん楽しみが広がった。
「あした、わたし休みなんですよぉ」
「あ、それじゃ、デートだな!?」
言い当てられたが、その意味の半分は当たってないだろう。からかってやりたい気分もあったが、やはり黙っておいた。しゃべったら、楽しみに逃げられる気がした。
「あんた、もしやあのときの?」
とっくに憶えられていると思い込んでいた客から確認され、拍子抜けしたあげくに返事した。
「さぞあのときは、大の男どもがだらしないと思ったろうね」
しみじみと振り返る会社員のあと、おでん屋の親父が弁解がましく、こんなことも言った。
「あのチンピラ、あの晩にかぎって妙にしつこかったよねえ。度の過ぎたイヤがらせはあっても、結局はたいしたことにならず済んでたのに」
「え!?」
ただの弁解と思って聞いていた美鈴の直感のアンテナが〈ぴんぴん〉反応した。
「あの人たち、あの晩だけじゃなかったの?」
「そうだよ。なぜかいつもおなじ時間に、おなじ場所で誰かしらに因縁つけ、5、6分もしたかと思うとサッと引き上げるんだから」
「そうそう。だから、あの晩もほっとけばじきいなくなると思ってたんだよね」
聞き捨てならない話だった。
おなじ時間、おなじ場所で、一定時間目立つ不良行為にでてあとはいなくなる――
(まさか、予行演習?)
ここは吾妻橋の水上バス乗り場近くの交番と、雷門まえ交番の中間。通行人のだれかが止めにはいるか、通報して警官が駆けつけるか、それとも無関心を貫きとおして誰もこないか。
(邪魔がはいるかどうか事前に確かめていたってこと? じゃ、チンピラも、麗花という子も……ええっ!? 亮子さんもグルってこと?)
美鈴の胸の内で矢木沢亮子に対する疑惑が急激に膨れあがっていた。その疑惑の黒い霧の中心に立って笑っているのは誰あろう、大好きな早紀の“仇”とも思う憎い川村みどりだった。
文京区駒込にあるアパートの一室。
劇団の集まりもバイトもないこの日、美鈴の親友小山内京子はエプロン掛けで立って夕飯のしたくをしていた。足元の卓袱台には2人分の食器がならべられてあった。
トントンとまな板をたたく音がひびく。
居間との境の戸の磨りガラスに、男の影が映っていた。
電話が鳴った。
包丁の音が止まって、京子が電話に出た。
「もしもし、あ、すずちゃんね」
そう答えたとき、戸の向こうでガタッと音がした。そこにいる者が、よほど心を動かされ、慌ててなにかにぶつかったような――。
「相談したいこと? ああ、このあいだ言ってたことね。すずちゃんが最近親しくしてるって女の人……」
京子の受け答えはいちいちオウム返しで、この場にいる者になら、しきり戸の向こうの誰かに聞かせているのが見え見えだった。
「悪いけど、それ、こんどにして。ウチ、いまごった返してるのよ……ひさしぶりのお休みに、すこし早い大掃除というわけでね」
とりつくしまもないといった態度で、そのあと、ふん、ふんと2度、3度うなずく声をさせて受話器を置いた。
「やっぱり俺――」
戸の向こうの男が声だけ投げかけてきた。
その意志を京子は強く押しとどめたが、その口調はまるで何年かいっしょに過ごしている世話女房のようにも感じられた。
「待ってよ。すずちゃんには時期を見てわたしから話すから、それまで待ってちょうだい。もう、どうしたらいいのか……」
そう言ったきりガックリうなだれ、ほとほと困り果てた顔になった。
_______呼び出し
あくる日は予報通り午後から雪になった。
気温2・5度という身を切る寒さのなか、亮子は白いものが舞う空を見上げて、JR中野駅の改札を出たところで迎えを待った。
美鈴には携帯を通じてことわってある。「遅くなるかも知れない」といったら、いつになくしつこく理由を訊ねた。それが亮子には予感めいたものに思え、にわかに胸が高ぶった。
(やはりことわるべきだったかも……)
それでもきたのは、みどりからの緊急連絡に応えてのことだ。みどりの“緊急”を真に受けたことなど一度もない。それが心を動かしたのは、ひとえに麗花に関することだったからだ。
日本語を習うため中国からきたという18歳の少女の、薄幸に見えて影の薄い印象が亮子にはなんとも気がかりでならなかった。できればみどりの毒牙から救いたいとずっと思ってきた。
クラクションの音に「はっ」とした。
見慣れた4WDがエンジン音を吹かして入ってきた。
ごつい顔の男が助手席のドアを開けて、「乗れ」と顎をしゃくってうながした。
ドアが閉まって、車が急発進した。
「なにかあったの?」
気安く尋ねた。神谷は、あの叶吹雪こと有沢いさ子でさえ強面な存在だったが、亮子は誰にでも物怖じすることはなかった。
「いつものことさ」
亮子の問いに、ぶっきらぼうに答えた。
この男も亮子には一目おいている。へそ曲がりの神谷としては、亮子の凛とした態度が「女ながら天晴れ」と感じるようだ。歳はずいぶんちがうが、おなじ例を過去に知っていた。
15分ほど走ったころ、路肩に車を停め、
「これを付けてくれ」
そういって差し出したのは、サングラスと見えてよくできたアイマスクだった。眼鏡のつもりで掛けると、すっぽりと目の前が黒くなった。
(行き先を知られちゃ困るんだ)
ますますミステリーじみたが、逆に「行き先を知らせないのは帰す証拠」という安心感も得た。
それで調子づいたわけではないが、ほんのわずかの視界から外のようすの片鱗など観察しとこうと身がまえたとき、
「よけいな詮索はしないことだ」
神谷のカミソリのような声が飛んだ。
「まっすぐまえを見ていろ」
その二言は人を威圧するときの、殺気すら含んだいつもの神谷の声になって言っていた。
(これではダメだ)
代わりに全神経を集中して耳をそばだてた。
だが、ヒーターを利かせ、窓を締め切りにした車内では、車の走行音以外耳に入るはずがなかった。もはや行き先地のヒントなりとも探り当てることは無理のようだった。
けたたましいクラクションが近づき、そばだてた耳に癇性に響いた。とっさに暴走族を連想した。騒音はそのあと遠ざかりもせず、それ以上近づきもせず一定音量でつづいた。
「うるさい奴らだ」
早くも神谷がいらついた。
騒音車はならんで走っているようだ。「おじさんよー」と、若者らしい声も右から聞こえてくる。
しかたなく神谷がウインドーを降ろしたようだ。クラクションと声が一気に大きくなった。
「なんだ、危ないじゃないか」
「おじさーん、高尾山道へはこのままの道でいいのかー? 教えてくれよ」
無遠慮な、礼儀もなにもあったものではない訊き方だった。
「ちがうよっ」
憮然と言い放って、すぐに窓を閉じた。
「ええっ!?」という意外そうな反応が、耳障りなクラクションとともに遠ざかった。
「クソ餓鬼が」
唾棄するように言って、車が猛スピードを出した。その瞬間、体重がうしろに持って行かれ、身体がシートに深く沈んだ。
すでに1時間近く走っていた。
(もう、都内ではないな)
そのとき亮子は直感した。
彼女の頭のなかには、ぼんやりとだが井の頭あたりを境にした地図が広がっていた。
シャッターの音が耳に響いた。
それからアイマスクのサングラスをはずされ、暗い駐車場内で車から降ろされた。
駐車場の隅に扉があって、そこをくぐった奥に地下に降りる階段があった。
「足元に気をつけろよ」
神谷が注意したが、いわれるまでもなくずっとまえから緊張しっぱなしで、亮子の目は慎重に周囲をうかがい、一瞬のゆだんもなかった。
狭い階段を降りたところは物置のようで、段ポール箱が散らばった部屋を突っ切った奥が、一般住宅のような間取りになっていた。
「え?」
「どうした」
なにかに気づいて思わず洩らした声に、神谷が聞き返したのだった。
なにもいわずにいると神谷のほうで答えた。
「麗花さ。こっぴどくやられたんだろう」
そう言われて早くも亮子の胸は痛んだ。
廊下の途中の一部屋が開いて、みどりが現われ手招きした。
「じゃ、俺はこれで」
神谷はそこまでで帰った。
亮子の注意は、そのあとベッドに横たわって毛布をかけられている麗花に集中した。駆け寄り、額に手を当てたりして容体を確認した。
毛布をめくったが、麗花がなにも着けてない素裸と知って戸惑った。
「あなたの看護術が必要になってね」
そう言って、亮子が躊躇してそのままにした毛布を、みどりはいとも無雑作にはぎ取った。
「なにをするんですか!」
毛布の下は、全裸の麗花がガタガタ震え、芋虫のように膝をかかえて縮こまっていた。その麗花の頭をみどりは乱暴に引っ立てた。
「暑いくらいの部屋なのよ」
ごろんと仰向けにし、
「さ、ここを介抱してやって」
そう言って腿と腿のあいだに両手を入れて左右に押し割り、陰毛がきれいな逆三角を描く股間を観音開きにしてさらした。
テーブルにはアルコールやら脱脂綿やらピンセットやらが置かれている。それを亮子は手にして、看護婦然とした手つきで治療した。
「みどりさん、これは犯罪ですよ」
治療に専念し、背中を向けたまま非難した。
「ふんっ。誰がわたしを責められる? 警察? 医者? 福祉事務所? それともお上が? ここに誰の手が入れると思うの?」
(あら、そう)
もうなにも言わず、ただ治療に没頭することにした。
軟膏を塗ってガーゼを当てて、安心させるよう肩をそっと抱いてやって、それから元のように毛布を掛けた。
「用はこれだけ?」
「まあ、一杯やってきなさいな。神谷も帰ったばかりですぐにはもどれないから」
亮子が麗花のほうを見やって、
「あの子も連れて帰りたいわ」
そう言ったら、みどりの目が光った。不快感といっしょに、その瞬間において何事かを画策した目だった。
「まあ一杯」
すぐには切り出さず、なお酒を勧めた。
しかたなく、腰を下ろした。
みどりが亮子のグラスにウイスキーを注ぎ、水割りにして差し出した。
それに口をつけ、ゆっくりと味わいながらぐるっと殺風景なリビング内を見まわした。全部で3LDKはあろうか。どことなく映画のセットを思わせるような頼りない造りだ。
(一人だけの住みかだろうか)
上の駐車場にもここにも、他に人気はないようだった。神谷がいなくなったあと彼女だけとは、外部に対してあまりに無防備すぎる。
「わたしに買われてみない? 1時間10万円、いえ、15万円出してもいいわよ」
「!」
唐突にでた言葉があまりに常軌を逸していて、わが耳を疑うと同時に、みどりの神経をも疑った。が、常識の通ずる相手でないことを悟り、つぎにはどう返答すべきか心に武装した。
ふと振り返ると、毛布を掛けられて横たわる麗花からは安らかな寝息が聞こえていた。
「いったいなんのことかしら?」
「あなたの返答次第では、麗花を連れてってもかまわないわ。そのうえでお金まで手元に残るんだから、あなたにとっては御の字でしょ」
ねっとりとした目で交渉しかけてきた。
この時期お金は喉から手が出るほど欲しかった。再開する店の資金もだが、それとは別に亮子自身身軽になるためにも欲しかった。ただ、その相手が問題なのだ。
「あなたが耐えられるなら、2時間が3時間、4時間でもかまわないのよ。もちろん、1時間につき10万円が付いてくるのよ」
「なにを……」
亮子の気持ちがぐらついた。1時間10万円の誘惑は、いまの亮子には大きかった。だが、それだけに気後れも強かった。
「いえ、やはり……」
いったんは断り、足が反転しかけた。
「ここまで肚のうちを晒させておいて、わたしに恥をかかせるつもり?」
みどりが毒づいた。
勝手な言い草だが、亮子はカッコつけたのでもプレイに臆したわけでもなかった。
「じつは風邪気味で、寒気がするので……」
まんざら嘘ではない言い訳をした。
みどりが額に手を当てた。
「そういえばすこし熱あるわね。いいわ、裸になるのだけは許してあげるわ」
「ええ?」
まじまじと見つめる相手が、高まる嗜虐心に自然と口元をゆがめる顔になっていた。
「知ってるでしょ、わたしが身体のどの部分がいちばん好きかが……」
そう言って視線をスカートの中心に留めてニタリと笑った。
「いらっしゃい。用意はできているわ」
みどりが、居間に隣り合った部屋へと扉を開いて招じた。
_______思慕
喫茶店の窓をとおして、いつ止むとも知れぬ雪を見ていた。
(やっぱり来れないのかなあ……)
きのう勤め帰りにおでん屋の屋台で聞いた話は、正直美鈴にはショックだった。だが、それまでに抱いた亮子への憧れや思慕は、あとから湧いた疑惑などあっさり超越してしまった。
こうしていても、心は亮子を身近に感じる。
男と女の恋人同士のように手をつなぎ、肩を寄せ合い、ウインドウショッピングしたり、いろんなところを歩きまわった。その一コマ一コマがついさっきのことのように思える。
「美鈴ちゃん、こんどどこ行く?」
「お腹空いちゃったよー」
「えーっ? アイスクリーム食べたばかりじゃない。太るぞー」
「お菓子とごはんは別腹なのー。それに、わたしっていくら食べても太らない体質だもん」
くくくっと思い出し笑いし、ウエイトレスが怪訝な顔で横を通っても気づかなかった。
楽しい回想はつづいていた。
「じゃ、どこで食べる? 給料もらったあとだから、なんでもご馳走するわよ」
「だったらお寿司屋さん。ふだんたいしたもの食べれないから」
「そんなこと言ってー」
あのとき、亮子は軽くおでこをコッツンコしたあと、こうも言ったのだ。
「そういえば美鈴ちゃん、魚が好きだったね。煮魚が好物だって。
ねえねえ、こんど海のきれいなところに旅しよっか。魚介料理がたくさんでてくる旅館に泊まって、温泉にも浸かって……」
亮子は美鈴が言ったことは全部憶えていた。美鈴がいいと思うこと、好きだというものを頭に刻みつけるのか、なにかにつけ話題にしたり実際プレゼントして驚かせたりもした。
いつか二人だけで、海の見える温泉旅館に泊まることも、そう遠い夢でない気がする。そう思うとわくわくする。ドキドキする……。
亮子との夜をかんがえてドキドキする。
浴衣を着せておいて、また縛るのだろうか。
だとしたら和室は不向きだ。洋間で、ベッドに大の字縛りしてのしかかってくるんだろうな。そのとき下はなにも付けてないから、わたしは浴衣を着ていてもドキドキするだろう。
亮子の手が浴衣の紐を解く。
ゆっくりと浴衣をめくって胸をあらわにする。
「美鈴ちゃん、可愛いいオッパイだね」
「また、そんなこと言う。意地悪なんだから」
「あら、そんなことない。可愛いいわよ」
すねるのもはにかむのも、そのあとで亮子に「可愛いい」を連発してもらいたいがためだった。「せめて80は欲しい」と恥じてきた貧乳が亮子のやさしさと甘い言葉で、いつのまにか自分のチャームポイントと思うようにもなった。
そうして亮子に裸にされ、亮子の指で感じさせられ、亮子に濡らされ、高まりを迎えて絶頂に導かれる。それまでのあいだ、
(ショボイ旅館じゃイヤだなー。わたしのアノ声、みんな聞かれちゃうじゃない)
そんなよけいなことをかんがえ、歯を食いしばって必死に声をこらえていた。左右に開かれた手を握りしめていた。
亮子に開かれ、延ばされ、もまれ、つねられながら性感の芯はびんびん反応し、しだいに勃起していく。そして快楽の潮がざわめき、あふれ返り、絶え間なく湧き出ていく。
美鈴のなかで亮子と体験した夜と、いつかあるかも知れない想像の夜とがごっちゃになり、その瞬間を思い出して陶然としていたとき、
「あのー」
間の抜けた声と顔がぬーっと出てきて、それまでの甘美な夢想を中断させた。
「なにかご注文ありますか?」
ウエイトレスが不満をあらわに伝票に手を出しかけている。なにか注文あるかと口で訊きながら、顔はなにか注文しろとせっついている。
「じゃ、コーヒーの追加」
美鈴がにらみ返して伝票を突き出した。
(やっぱり来られない用ができたんだ)
そう思うと急にさびしくなった。だが、裏切られたとも騙されているとも思えなかった。
亮子から得られる信頼感、安心感は早紀から感じたやすらぎでもあり、それゆえ早紀の再来とも受け止めた。亮子に姿を変えた早紀が、美鈴を傷つけるはずがないと強く確信した。
「だって……」
亮子は寝物語に自分の過去も話してくれた。
「お金が欲しくてお金が欲しくて……」
「だから風俗?」
「北海道から上京したての頃にはいろいろやったわよ。看護婦見習い、女タクシードライバー……はじめは地道を目指し、きつい仕事ばっかり。それが浴衣着で縄暖簾に勤めたとき、お客に二号さんにならないかと持ちかけられてね」
「えっ!? で、どうしたの?」
「ことわったわよ。でも、そんなことから自信付けた、わたしって魅力あるのかなーって」
「またー」
なにを冗談と思った。亮子に男を惹きつける魅力がないわけがない。ただ、それが、
「手っとり早くファッションマッサージに鞍替えしたわよ。でも、もっと効率のいい仕事ということでいまのSM嬢――だって、男をイジメて高く稼げるなんて職業、ほかにないもんね」
一気にそこへ行き、それをあっけらかんとして打ち明ける。驚くやら、呆れるやら、でも、亮子の不思議な一面をも見た気がした。
ただ、なぜそんなに金が要るのか、その理由を何度か言いかけ、そのたびに口を濁した。
それがあるとき、烈しい行為のあと、毛布を掛けて腹ばいに並び、ぽつりと言った。
「札幌で父と母と中華料理店やってたんだけど火事で丸焼け。運悪く保険が切れているわずかのあいだで、それも放火だったのよ……もともと身体の弱かった母はそれで気落ちしたか1年後に病死。ただ、父もわたしも店の再起を念願してたから、その資金づくりに働いてきたの」
美鈴はショックを受けた。
しかし、打ち明けられて嬉しくもあった。
「姉弟とかはいないの?」
「うん、だからいまとなっては身内は父だけ」
ふと美鈴は郷里の家族を思い出した。自分も一人っ子だが父母は健在、口やかましい母など風邪もひかない頑健な身体をしている。
そんなことを考え、引き比べている美鈴に、当の亮子がうって変わって明るい顔になった。
「でね、店の再開資金がもうすぐ目標額に達するのよ」
「えーっ!? ほんとう!」
その一瞬には自分のことのように喜んだ。
が、すぐまた沈んだ顔にもどった。
「どうしたの?」
「だって、そしたら亮子さん北海道に帰るってことじゃない」
そう言ってしょげた。ところが、亮子の周辺事情はなかなか複雑なようだった。
「わたしが帰らなくても良さそうなのよ」
ぽつんと亮子が寂しそうにつぶやき、そのとき美鈴にはなんのことか分からなかった。
ただ、そのあと思わせぶりなことを言った。
「もし東京に残ることになったら、美鈴ちゃんともっと仲良くなれる。そしたら、美鈴ちゃんの役にも立つわ。まだ、はっきりしたこと言えないけど、だからすこし待ってて欲しい」
そうまで言ってくれる相手が自分を裏切るはずがない、疑惑を呼ぶ行動にはなにか訳があるはず、そうとしかかんがえられなかった。また、そう思うことしかできなかった。
(いま以上〈仲良く〉なれたら、そのときこそ裸になってすべて見せてくれるにちがいない)
そう思ってわくわくした。
せっかく火事に遭ったということまで告白されながら、亮子が裸にならない理由をまったく的はずれに、それこそ美鈴らしい突飛な発想で憶測しているのだった。
喫茶店で無為な時間をつぶしたあと、美鈴は地下鉄に乗って小山内京子のアパートに向かっていた。
(京子ちゃんに相談しよう)
これまでも、何度そう思ったか知れない。
ただ、亮子との関係をどう説明したものか迷ってしまう。早紀への思いだって、これまで一度たりと口にはださなかったのだ。
京子の性格なら同性愛に偏見はないだろう。勘のいい子だからとっくに察してるかも知れないが、亮子を知ったいまが打ち明け時だ、そう決心してのことだった。
抜き打ちに訪ねようと思ったのは、最近京子が妙によそよそしかったからだ。ゆうべだってそうだし、行くといって電話すると、なんのかんの言い訳つけて結局は向こうから来てしまう。
その理由に美鈴は見当をつけていた。
――京子ちゃん、恋人できたのよ。
最近、めっきりきれいになったし……。
わたしに来て欲しくないのも彼氏と暮らしているからにちがいない。
その想像は日に日に強くなり、この日に至っては確信にまでふくらんでいた。
電車に揺られながら真っ暗な窓外に目を向け、美鈴はあれこれ想像をふくらませて、一人心を躍らせているのだった。
_______欲しがる身体
黒いスリップ姿の亮子が横になった。
レースの裾から出たぴちぴちの太腿が、膝から下のほっそりした素足につづいていた。指が長い。バレリーナのような足だった。
裾に両手をかけたとき、処女ででもあるかのようにぶるぶるっと唇を震わせた。
(なぶり甲斐がある)
そう思うやいなや一気にたくし上げた。
黒々と繁茂するデルタのなかに息ずく肉のクレバスの、まるで少女を思わせるピンクの艶やかさに、一瞬目をみはった。
膝を立て、がばっと観音開きにした。
「たっぷりと愉しませてもらうわよ」
あの手この手を思い浮かべ、かたわらのテーブルに目を向けた。まずはオーソドックスにと、バイブから手をつけた。
ヴィイイイーン……
スイッチを入れたとたん、亮子の眉間がピクリと反応した。
ヴィッ、ヴヴヴ……
振動の先端が割れ目をはじいた。
「ひっ!」
電気を受けたように身体がひくついた。
「ずいぶん敏感なのね」
相手の反応に気を良くし、力をくわえてバイブをえぐり込んだ。
「ううっ!」
淫具がピンクの陰唇に食わえられたが、それ以上はなかなか入っていかない。その間亮子は顔に苦痛のシワを刻み、開かれた内股の筋がピクピク浮き立っていた。
空いている手の指で、クリットを刺激した。やわやわとこすりつけたり、つまんだり、巧みな愛撫でほぐしにかかった。
「うー……う……」
甘美な声と共に、かくっと首が白い喉を見せて反りかえった。
ぬるっとした手応えのあと、棒状の淫具は割れ目に吸い込まれて埋まった。「ああっ」という声のあと、つつーっと愛液が割れ目を伝ってシーツにぽたりと落ちた。
「欲しかったのね、身体がそういってる」
相手の反応につられて手が大胆になった。微妙に角度を変えたり、えぐり込んだり、そのたびにぐにゅぐにゅと形を変える肉唇の淫らさに嗜虐心を掻き立てられた。
「う、ううーっ!」
スリップ姿の上体が右に左にのたうつ。
烈しい小突きをくり返す性具が、じゅくじゅくと湿った音をたてて愛液をしたたらせる。
(まるで禁欲の堰を切ったような……)
そんな反応だった。
似たような光景を、アメリカ暮らしの淫靡な光景のなかで見たことがあると思った。
(あれは、翌日には拷問されるという南米人の女をオモチャにしたときだった)
妊娠のためか地下活動下の制約か、禁欲で眠っていた性欲を巧みな指技で喚び覚まされ、反抗する意志とは裏腹に身体が烈しく反応したのだった。
「ううっ、見ないで。いやっ、殺してっ!」
女は、苦悩に顔をゆがめながら、秘所からは絶え間なく愛液をしたたらせ身悶えしつづけたのである。
いまの亮子のヴァギナがそんなだった。
淫具を食わえたクレバスから、うっすらと性臭もただよう。
「うっ、あっ……」
半開きの口を突いて出る声の調子がせわしなくなった。背中を浮かし、胸をそびやかせてのけ反る肩が、薄いマットに強く沈んでシーツの皺を際立たせる。
まだ10分も経ってないのに、その兆しがあらわれた。あの亮子が、だらしないほどのよがり声をあげはじめた。マゾではない女のマゾ的反応に、みどりの征服心は満たされる思いだった。
そのうちには性臭も強くなった。
バイブを操る手の動きを速くした。出し入れされる淫具にからみつく愛液は、いまは粘度を帯びた白っぽいものに変わっていた。
「ああっ、ううんっ、ああっ、あっあーっ」
背中と胸が描くブリッジが急勾配を見せた。
内腿の筋が際だち、ピクピク痙攣もさせている。
「うーっ、あっ!」
高まる絶頂感に声も大きくなった。
唐突に「数の子天井」「Gスポット」という2つの言葉を思い出した。指を入れてみるべきだと思った。だったら試してみればいいと手が行動に移った。
出し入れするバイブの先端部の、角度を変えて上向きにしてえぐり込んだ。
「ひっ」という、びっくりしたような呻きが、烈しくひくつく身体の反応と相応した。
ヴヴ、ヴヴ、ヴゥウウウー……と、バイブの音もくぐもった音に変わった。
振動の先がGスポットに当たる部分をこすり回り、そこを中心にしつこく往き来して攻めまくった。ただ、誰にでもあるわけではない。亮子はどうか。
「ああっ、や、やめてっ!」
スリップの上体が烈しくのたうちまわり、手が台に敷かれたシーツの端を握りしめてぶるぶるふるえた。
「あっ、ひっ!」
小突かれ、犯され、淫具にレイプされながらスリップ姿の上体が烈しくくねった。そして剥き出しにされ、しっとりと汗ばむ下半身は、淫具に貫かれる愛液まみれの秘部を露出して、これもぶるぶる悶えおののいた。
「ううーっ!」
終わりは出しぬけにきた。
弓なりの上体が一瞬静止し、汗で光る素裸の下半身が烈しく痙攣し、そのときバイブを食わえた割れ目からヨーグルト状の体液があふれた。たらたらと垂れてシーツを濡らし、バイブにも指から手にも流れた。
むっとするような性臭を放ち、白い愛液にまみれた性具が、ゴトンと音をたてて横の台に置かれた。
べっとり愛液を付けた手をシーツにぬぐって呆けた顔でぐったりしている亮子を、みどりは勝ち誇った顔で見下ろした。そして汗ばむ額に張りついた前髪を、手グシで梳き上げた。
「バイブだけで感じちゃったの?」
呆れて見つめる目の下で、亮子はまだ息を荒げていた。
「もっと凄いことしたいな。させてよ」
「え?」
亮子のその部分を、凌虐の毒牙にかけてみたくなった。ぐちゃぐちゃに乱れさせ、願わくばズタズタに責めさいなみたかった。
「これから先は内容にもよるけど、1時間10万が15万、20万になるよう上乗せしてもいいわ」
奮発され、欲が働いた。一時のしんぼうだ。それさえ耐えれば店の開店資金の目標額にはぐんと近づけるし、それでここからも脱けられる。あの麗花を連れて帰れるのだ。
「さあ、決心をつけたら、そんな邪魔なものは脱いで脱いで、あんたの全部を見たいのよ。青臭いオモチャには、もう飽きたから……」
取ってつけたようにそう言った。
そうとなったら、これ以上は隠せない。
思い切ってスリップを脱いだ。そして、みどりの方へ背中を向けた。
「!」
みどりがぎょっとなった。
亮子の身体は色白美肌の素の部分とは別に、背中半分醜く変色したケロイドだった。それを見たみどりの表情が、驚愕からあからさまな蔑みへと変わるのにそれほどの間はなかった。
「どうしたの」
「まえに住んでいたアパートで火事に遭い、逃げおくれてのことです」
こんな女に正直打ち明けたところで真実が腐るだけだと思い、火事以外は口からの出まかせで言った。
「これじゃあ相当値が落ちるわよ」
急にぞんざいな口調になった。
「………!」
唖然として見返す亮子の顔が、やがて屈辱にぶるぶる震えだした。
「だったらわたしはこれで。お金は一銭も要らない代わりに、麗花さんは連れていきますからね」
そそくさと服を着そうにするのを、みどりが手で制した。
「おっと! なにをふざけたこと言ってるの。
第一、ここをあんたに知られてわたしの生きる道はないのよ。帰りはまた目隠し。だから、神谷の迎えがないかぎりダメなのよ」
「そんな!」
精一杯の抗議も効果はなく、冷然と突きはなすだけだった。
背中のケロイドを指でさすりながら、捕らえたネズミをねちねちといたぶり、時間をかけて生殺しにする猫の目になって言った。
「いいわよ、背中がこんなでもアソコは関係ないんだから。ただし、これで10万円の価値はかなりちがったものになるわね」
亮子は「きっ」となって見返した。
「それでもわたしの責めを受ける?」
「どうぞ」
捨て鉢な気分で開きなおってうなずいた。
「そうこなくちゃ。じゃ、奥の部屋へ」
隣り合ったもうひとつの部屋へと案内した。
_______屈辱
がらんとした部屋に開脚寝台が置かれ、そばには医療器具などをならべたワゴンが金属製の冷たい光を放っていた。
「ここへ?」
「そうよ、きのう届いたばかりだから、ここに載るのはあんたが最初」
どうりで真新しく見えると思った。よほど自慢の品らしく、あごをしゃくってうながすときもニコニコしていた。
その寝台に腰を着き、片足ずつ膝を乗せて、リクライニング部分に横になった。
膝の上下にベルトが巻かれ、両手は頭の上で一つにされ、人の字M字開脚に拘束された。
大股開きの局部をのぞきこみ、やにわに性器をつまんだ。ラビアを剥き上げ、クリトリスや尿道孔をなぶられ、ねちねちと刺激された。
「くっ……」
感じつつも声を殺した。
「『風邪気味だから下着はこのままで』だって? よく言うわね。このわたしを騙してまともな淫売金をせびり取る魂胆だったとは!」
「そ、そんな……」
「口ごたえしないのっ!」
ビシッと平手で頬を張って黙らせた。
亮子が表情を固くして見返した。
「これもプレイのうちですか?」
「そうよ。生半可なことでは済まないから覚悟するのね」
憎々しげに言って、ワゴンからバスタオルを取って手と指のぬめりを拭き取った。
「電気棒レイプくらいにとどめようと思ったけど、それじゃ飽きたらないから拷問することにしたわ」
にたっと口元をゆがめた。そして、リクライニング部分から一段下がって出たところにバスタオルを2つ折りにして敷いた。
麗花にしたことをこの女にも試したいが、おなじではつまらない。同工異曲、麗花とはちがう趣向で愉しみたい。その目論見で嗜虐の鎌首をもたげているのを亮子は知るよしもなかった。
「呻くくらいはいいけど、泣いても喚いてもタダになるわよ。その代わり苦痛と耐え方の度合いによっては、報酬もそれなり高くしてあげるわ」
そんな勝手な条件をつけた。
「どう?」
「ご自由に」
このときには、まだ毅然と答えられた。
ジャラジャラと音をさせ、トレイのなかを掻き回していたが、ひょいと差し出した手の平に太くて長い針が4、5本乗せられていた。
「な、なにをっ!?」
ぎょっと目を剥いたところ、間髪入れずラビアに貫通させられた。
「うーっ!」
呻いてのけぞった。つづけて2本目が、おなじ縦方向に打ち込まれた。強烈な痛みに歯を食いしばって耐えた。
みどりの手には、まだ3本残っている。それを目の前にちらちらさせてから、もう片方のラビアに貫通した。
「やあーっ!」
「ほらほら、いまのでさっきの痛みの代償はふいよ」
そんな無慈悲なペナルティーを課し、つづけてまた1本打ち込み、合計4本の針で赤貝を串刺しにされた。
傷口からはたらたらと血がしたたって、すぐ下のバスタオルを赤く染めていた。
残る1本は台の上に残して、刺した針ごとつかんでラビアがこじられた。
「ううっ!」
痛さと恐怖に、しかし必死に声を殺した。ただ、そのときの痛さは本格的な苦痛へのほんのイントロにすぎなかったのだ。
ラビアに刺した針に紐を結び、その紐が各々膝に向けて引っぱられ、淫肉がぐうーんと左右に伸び切らされた。
「痛っ、うっ!」
「くくくく……」
亮子の苦悶を面白がりながら、引っぱれるだけ引っぱった紐を、わずかのたるみもなく内診台の足乗せ部分に結びつけた。
「いいザマだわ。ビラビラのなかから、オマンコ穴がコンニチワしてるわよ」
そう言ってワゴンの上に、先に乗せた器具類を片側に寄せてブリーフケースが置かれた。ふたを開けると装置が埋まっている。拷問ショーで麗花を苦しめた電気ショック装置だった。
「え? えっ!?」
初めて目にする亮子には、装置の実態がわからない。
実は美鈴を楓に招いたときも、麗花を生け贄に供した拷問ショーにも呼ばれながら、ふてくされて行かなかった。そんな〈澄ました〉ところも亮子を嫌う理由だった。その仕返しを、ここでもろに受けることになった。
装置からコードが2本引き出され、コードの先端に付いたクリップがそれぞれ針の一端に噛まされ、あとはスイッチを入れるばかりだ。
「まさか!?」
そのときになって亮子が血相変えた。
「そ、そんなムゴイことなら……」
歯ぎしりして睨み返したが、かえってみどりの嘲笑を浴びるだけだった。
「お金が欲しかったんでしょ? だったら我慢するのねえ。まともな身体ならともかく、あんたのようなケロイド女が大金稼ぐには、こういう変態ハードな責め以外ないわよ」
嘲るだけ嘲ってケタケタと笑い転げた。
「さあ、10万円を味わいなさい」
スイッチがひねられ、ダイヤルがゆっくりと回された。
「ううっ……うっ……つううっ、うっ!」
押し殺した呻き声が尻上がりに強くなり、リクライニング部分に乗せられた上体が悲鳴に合わせてだんだんそっくり返った。
「くっ、ぐぐっ……」
ダイヤルを回転させるみどりの手を見つめる目が、驚愕でおおきく見開かされた。
針で刺された痛みが、その痛みをこじられる痛みとなって広がり、浸食され、倍にも3倍にもなっていった。
間もなく千切れるような痛みに襲われた。
「くえぇっ!」
耐えがたい激痛に異様な声を発した。
強烈な痛みに、灼かれ、はじける痛撃が加わった。溢れかえろうとする悲鳴を、叫びを死に物狂いで押しとどめた。
「つぅーっ!! くくっ!!」
苦しまぎれに上体をのけ反らせた。首を振って背中を右に左に反らせ、それでも耐えられずめちゃくちゃにのたうち回った。内診台がぎしぎしと軋み音をたてた。
「ゆ、許して、やめて!」
ひいひいとかすれる声で哀願した。
「叫びなさんなよ。喚きなさんなよ」
みどりがドライバーを取り上げると遊んでいるコードをつまみ上げて、器具の金属部分にワニ口を噛ませた。
「な、なにを!?」
「クリトリスもいいけど、わたしはもっとちがうところを責めたくてね」
そう言いながら針を突き立てたラビアを押しのけ、ドライバーの先を中心に近づけた。
激痛が尿道孔を烈しく襲った。
「ぎえっ!!」
その瞬間、みどりがぎろっと睨んだ。
「いまのはどういう判定になるかな。悲鳴とも叫びとも聞こえるしー」
面白がってもてあそんだ。
「う、うう、ンンぅー……っっ……!」
すすり泣くような呻き声を発して、四肢の筋が突っ張り、硬直して震えた。ぶるぶる震え、爪先や拳を固く握りしめた。
股間を襲う衝撃は痛さを通り越して焼けただれんばかりだった。
「あっ、うっ、くふうーっ!!」
可能なかぎり全身を揺すって苦痛をまぎらせようと努めた。
身体中の筋という筋が突っ張りまくり、ベルトの拘束から逃れようとして方々に足掻きまくった。その間にも痛撃は絶え間なくつづいた。
「や、焼けるぅーっ! 助けてっ!」
性器がブスブスと音を立てて焼けただれる、そんな錯覚にも駆られた。
それはまさに拷問としかいいようがなかった。性器破壊どころではない。こんな苦痛が1時間もつづいたら、精根尽き果てて身も心もボロボロになってしまう気がした。
「見てられないわ。叫んでも喚いてもいいわよ。大目に見てあげるわ」
その瞬間、絶叫が堰を切った。
「ぎゃあああっ、やめてっ! もう耐えられないっ! お願いだから許してっ!」
わめき散らして許し乞いした。
この地獄から逃れられるならみどりの足元にひれ伏してもいいと思った。足を舐めろといわれれば舐め、目の前でオナニーをしろといわれたら嬉々としてその通りするだろう。
そう思ったとき、すーっと痛みが和らいでいった。焼ける痛みから、チリチリとした痛みに変わり、それも薄らぐと元の針で貫かれた痛みだけにもどった。
「ふんっ」
気がつくと目の前に、侮蔑をあらわにしたみどりの顔があった。
後ろ髪をつかんで引っ立てた。
「責め甲斐のない――見そこなったよ」
ビシッと1つ頬に平手を張って離れた。
その直後、また股間に痛みを感じたが、その痛みは刺した極太針を抜かれる痛みだった。やがて4本すべて抜かれた。
「10万円への道は遠いようね」
言われるまでもなかった。
「もうお金はいりませんから、神谷さんを呼んで帰してください。後生、おねがいです!」
プレイの中止を懇願した。足を舐めさせられたりしなかっただけましだった。
「まあね、いまのだったら美鈴にだって耐えられたかどうか。美沙樹なんかじゃとても無理」
「美鈴ちゃん?」
その名がでて気持ちが変わった。もちろん単純な金銭欲からなどではなかった。
(あと40万で店を再開する目標額に達する。そうしたらずっと自由になれるし、身軽になって美鈴ちゃんの手助けができるかも――)
それに近づく10万、20万なのだ。
「美鈴にしたのとおなじのならどう?」
「それ、やってください」
覚悟を決めて申し出た。
「1、2週間アソコは使い物にならなくなるけど……。まあ、いいわよね、どうせ相手してくれる男もいないんでしょうから」
(このクソ女!)とむかついたが、憤慨を隠して唇を噛んだ。
一度その場を離れたみどりが、コードを付けたゴム手袋を持ってもどってきた。電流グローブだったが、もちろん亮子にそれがどんな用途のものかなど、わかるはずもなかった。
開かれた足と足の間に椅子が置かれ、そこに座ったみどりの目は、針痕と血をこびりつかせる局部を間近に見ることになった。
「ほんとうにいい色だわ」
指がラビアを押しのけ、ピンクの秘孔をさらし、一時じっと見とれていた。
「フィストは経験ある?」
「いえ」
即座に否定した。すると試すが早いとばかり親指をのぞく4本が強引にねじ込まれた。
「ううっ!」
痛みにのけぞるが、それを歯牙にもかけず強引にひねり込み、膣粘膜をえぐりながら、掻き回してきた。
「痛い?」
「ひいーっ!」
答えは悲鳴にしかならなかった。
くくくく……
不気味な笑いを遠くに聞きながら、力まかせに押し込まれる痛みに顔をしかめ、呻いたり叫んだりをくり返した。
「うぐううーっ、ひいいっ!」
「小さいわね。いい歳して処女みたい」
からかいなから、ぐいぐい押し込んだ。
フィストがこんなに痛いとは知らなかった。いや、実際はフィストどころか手刀挿入でしかなく、その手刀も最後の関節のところで止まったままなのだ。
「くくっ、うむーっ!」
「痛そうね。脂汗流してるじゃない」
手こずるほどに面白く、ますます興奮の度を増して侵入を試みるようだった。微妙に角度を変え、手刀の先をすぼめたり、回転させたりをくり返した。
その間、亮子は身悶えつづけた。
結局あきらめた。使わずにすんでしまった電流グローブを目の前にぶらぶらさせ、不満たらたらつぶやいた。
「これ使うからには、フィストができなくちゃだめなのよね。それなのにあれもダメ、これもダメじゃ一銭だって払うことできないわよ」
「へ、平気よ、つづけてっ」
気丈にプレイの継続を申し出たとき、すうーっとみどりが横にきた。
「じゃ、もう一度電気でね」
見下ろす瞳がねっとりとしていた。
こんど運ばれた装置は、円筒形の黒い鉄のかたまりだった。コードは横から出て、筒のてっぺんのダイヤルが変圧目盛りのようだった。麗花に使った装置のボルタックだった。
「クスコよ」
そう言って内視鏡を見せつけ、ローション液でぬるぬるにしておいて挿入しにかかった。手指がラビアを押しのけ、秘孔をひねり出し、そこへ医具の先が押し当てられた。
冷んやりと固い異物感、それが秘部を押しのけ、押し分け、どんどん挿入されてくる。
「うぐっ!」
底にぶち当たって鈍い痛みとなった。
それからゆっくりと開かれた。きりきりと女の急所を開かれる痛みが、性器破壊の恐怖をともなってひしひしと伝わった。
「はっ」
みどりの手にコードがつままれていた。その延長に、さっき尿道責めに使われたドライバーがある。
「う、うう……」
迫りくる恐怖にすくみ上がった。
変圧ダイヤルを回すみどりが不気味に笑いかけた。
背中を沈め、器具が挿入された。
「ひっ!」
異様な刺激と痛み。電流の流れた異物の尖端が子宮孔に触れた。
ゆっくりと挿入される。ビリビリと痺れさせながら子宮をえぐり、こすれながら入ってくる。
「うあーっ!」
女の命ともいえる部分を浸食される痛みと恐怖に、総毛立つようなおぞましさを感じた。
ドライバーをこじる。ねじって角度をつけ、強引にえぐったりもする。開かれた太腿と太腿のあいだ越しに嗜虐の興奮で悦に入った顔のみどりが見える。
(来るんじゃなかった……)
そう思って涙があふれた。
涙の向こうに美鈴を思い浮かべた。
会う約束をすっぽかされ、さぞや心配してるだろう。いや、怒っているだろう。そのもとへ飛んで帰って謝りたいが、果たしてここから帰ることなどできるのだろうか。絶望感が胸を浸した。
「あっ!」
局部の刺激が強くなった。
みどりの、ドライバーをあやつる手とは別の手がそばの台車に伸び、変圧装置のダイヤルを回しているところだった。
体の奥を走る衝撃が、強さと烈しさを増していった。
嗜虐に取り憑かれたみどりを止める言葉はなかった。変圧ダイヤルを回して回して狂ったように電圧を上げ、膣と子宮を叩く電撃は凶暴な嵐となって局部に叩きつけた。
「ギャアアアアーッ!!」
血を吐くような悲鳴が叫ばれた。
_______男
見慣れた街の一角の見慣れた路地の入口を過ぎてすぐ、京子の住むアパートが見え、1階の通りに面した部屋の明かりも見えた。
そこがいつになく暖かく感じられるのは、亮子にすっぽかされたひが目からか、それとも京子への友情のファクター効果か。ただ、この数分後にくる驚愕を美鈴は知るよしもない。
呼び鈴を鳴らしたが出てくる気配がない。
が、勝手知ったる友の家。ガラッと開けて、
「京子ちゃーん」
呼びかけたとき、ちょうど出てくる気配を感じた。
見合わすまえに、素早く玄関のたたきに目を落とした。そこに案の定、男物の靴があった。きれいにそろえて置いてあった。
「あら、お客さん?」
とぼけて言って目を上げたとき、ちょうど出てきた友と友の目が合った。
いつもの京子が別人になっていた。うろたえ、戸惑い、目の焦点が定まらなかった。
「え?」
と、こんどは美鈴が落ち着かなくなる番だった。
恋人なら紹介すればいい。自分から言わないのは照れ臭いから。だが、わざわざ出向いてきた友に、いまさら隠し事もあるまい。簡単にそう考えたのが、どうやらまちがいだったようだ。
「やっぱり帰るわ」
バツが悪くなってそそくさときびすを返しかけたときだ。
「美鈴ちゃん」
声がして、そのあとドタドタと足音がして、美鈴よりは5、6歳上に見える年格好の男が、どこか卑屈そうな笑顔を浮かべて現われた。
「なんで出てきたの」といわんばかりの非難めいた京子、「いいんだ」という顔で見返す男。2人のそんなようすは、すでに2、3年いっしょに暮らした夫婦のようにも見えた。
「え?」
美鈴がきょとんとした。
「どうしたんだよ、美鈴ちゃん。俺だよ、忘れたの?」
「え? ええ?」
美鈴がバカになったようにぽかんと口を開け、京子と男とを見くらべた。
男が困った顔をして、だが、しかたなく名乗るしかなかった。
「拓也だよ。9年前にはクラスメートだった梶山拓也」
その一瞬、美鈴はガーンと後ろ頭を殴られた気がした。全身の力が抜け、その場にへたりこむところだった。
これが中学時代をいっしょした梶君? どうして! 暗い顔で、暗い笑いをたたえ、歳だって5、6歳も老けて見える。あのひょうきんで、お調子者の梶君はどこへ行ったの?
そのとき、なにかが砕け散り、周囲が烈しく吹雪いたように錯覚した。
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