HOME

(4) 老師




_______再会


 親友、小山内京子宅を訪ね、家族ともども失踪して以来9年ぶりの再会となる級友梶山拓也とまみえ、愕然とする美鈴――別れた時の情況が情況だけに、なにを口にすべきか、なにを口にすべきでないか戸惑い、言葉に詰まった。
「とにかくはいって」
 京子に招じられ、なにはともあれ、こたつに足を突っ込み拓也と向かい合った。
「梶君、どこに行ってたの――」
「大阪にある親戚宅に身を寄せてたんだって」
 京子が代わりに答えた。
「だけど、なんでいままで――」
「出て来にくかったのよ。お父さんの店の経営不振から夜逃げ同然にいなくなったんだもの」と、また京子が答えた。
「………?」
 美鈴が唖然とした。所帯じみてというか、女房気取りというか、まるで拓也にしゃべらせたくないように先回りして答える京子に、だったらと矛先をそっちに向けた。
「あんたたち、いつからいっしょなのよ!」
「いっしょだなんて……」
 だしぬけに追及されて京子がどぎまぎした。
「僕たち、まだそんな仲じゃないよ。
 じつは東京にでてきてから、担任だった福原先生を通じて京子ちゃんの居所を訊いたんだ。それから何回か相談に乗ってもらい、美鈴ちゃんのようすもいろいろ聞かせてもらったよ」
「なんでわたしに黙っていたのよ」
 これは両方への非難だったが、とりわけ拓也へは、なぜ級友の自分でなくクラスも学年もちがう京子なのかという不満のほか、“初体験を通じあった仲”なのにという憤懣もあった。
 それがストレートに爆発した。
「早紀ちゃんを裏切っておいてなによ。お金のため、家の急場を救うためと称してクラスメートを悪魔に売り渡したのよ。そうでしょ?」
 烈しすぎる言い方で迫った。
「すずちゃん、それは――」
「黙ってよ京子ちゃんは!
 なにが『経営不振で夜逃げ同然』よ。負債はあの女からの金できれいにしたんでしょ。だから福原先生言ったの――ホームルームの時間にこう言ったのよ。『借金を返していなくなるなんて、そんな夜逃げ聞いたことない』って」
 一度ついた怒りの火は鎮めようとて収まらず、美鈴が言うだけ言ったとき、拓也がこたつからでて土下座した。
「ごめんっ、美鈴ちゃん!」
 畳に額をこすりつけて謝った。
「僕が弱かったんだ。そればかりでなく、美鈴ちゃんのことで早紀さんに嫉妬していた。そんなとき、川村先生にそそのかされたんだ。自分の一件から手を引かせたい、そのための話し合いをするだけで暴力沙汰にはしないって」
「それでいくらもらったのよ」
「300万円」
「ひゃっ!」と美鈴が素っ頓狂な声を挙げた。
「子どもの使い走りのような役目で、そんな大金おかしいと思わなかったの?」
 誰もが訝しがるのが当然で、それが拓也の弱みであり長年抱いてきた疑念でもあった。
「いまにして思えば僕もたしかに変だと――」
 間髪入れず、
「あんなことしといて、いまさらなにを――」
 こんどは京子が間髪入れず反駁した。
「だったら早紀さんだっておなじくらい迂闊だと思わない? なんでそんな危険なところにのこのこ出かけたのよ、あんな慎重な人が――」
「ええーっ!?」
 京子の反駁は美鈴の怒りの火に油を注いだ。
「だまされ、ひどい目に遭わされ、殺されたかも知れない早紀ちゃんを非難するの? いくら京子ちゃんだって聞き捨てならないわよっ!」
 猛烈に反撃した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。僕が変だと言ったのは早紀さんのあのときのようすで――」
「どの時よっ!」
と、これは2人同時に叫んで身を乗り出した。
 拓也にとって幾度振り返ったか知れない場面だった。逡巡、そして悔悟。「星川さん、じつは罠なんだ」と、なんど告白して詫びたかったことか。しかし言い出せないまま一歩、また一歩とみどりに指示された場所へと近づき、「はっ」と気づいたときヤクザ共が現われた。
「あっ!」
 当て身をくらって昏倒する刹那、ちらっと見せた早紀の顔が、目が拓也の視線と合わさった、
「そのとき――」
「その時?」
 また、美鈴と京子が声をあわせて尋ねた。
「『だいじょうぶ、気にしないで』、早紀さんの表情が、口の動きがそう見えたんだ」
「えーっ!?」と美鈴が嘲笑まじりにおどろいた。
 京子は京子で、「わたし、そんなこと聞いてない」と憮然とした面持ち。
「そうなんだ。バスのなかでも僕の使いを真に受け、問題の場所では『だましたわね』と怒りの目を剥いたのに、倒れる寸前の早紀さんがそれまでと別人みたいに見えたんだよ」
 美鈴は頑として首を振った。
「そんなつごうのいい話ってある? あなた自分の良心がすこしでも痛まないよう、そう思いたい気持ちが見せた錯覚だよ。勘違い!」
 テコでも譲らない顔をした。
 だが、京子は別のことを思案していた。
「早紀さん、進んで罠に飛び込んだのかも……」
 こんども美鈴がブーイングを飛ばした。
「なかの誰かが味方とか外とのパイプとかなければ成り立たない理屈だわ。わたしが女刑事の高嶋裕美さんから聞いた話にも、そんな気配はなかった。早紀ちゃんの監禁先はみどり以下、悪徳刑事に極悪スケバン、白人のサド女にヤクザ――それこそワルどもの巣窟だったのよ」
「そういえば」と、美鈴がこれまで胸に抱いた疑問を京子にぶつけかけた。だが、早紀を悪くいう者が早紀と組んでみどり一味撃退の連携行動してたなどかんがえられず、口をつぐんだ。
「わたし帰る!」
「帰るったって、もう電車ないわよ」
 京子に指摘され、すぐに撤回した。
「だったら寝る!」
 そう言って勢いよく押し入れの戸を開けて、いつも自分用にしている布団をバタバタと敷いて、着の身着のままさっさと横になった。
「もう、すずちゃんったら……」
「僕たちも寝ようよ」
 こうしておなじ中学をでた者同士3人、拓也をはさみ再会を祝っての同窓会気分となるはずが、互いにわだかまりを抱いたまま、まんじりともできない寝苦しい夜を迎えることになった。


_______反撥


 おなじころ、いまでは叶吹雪と名前も顔も変えた有沢いさ子が川村みどりの隠れ家を訪ねていた。泊まりを前提とするこんな時刻に、みどり一人なら絶対行くことなどない。いさ子にとっても、麗花が気がかりだったからだ。
 警察の追及を恐れ、外部との接触を絶ってきたみどりだったが、潜伏先への出入りを許可した人物が2人、たがいに一蓮托生の仲と認め合う元刑事の神谷剛太郎と、そして長らく性奴隷として愛玩してきたこのいさ子だった。
 階段を降りきった地下では、すでに奥からなにやら妖しく悩ましき声も聞こえ、みどりがプレイに興じているのは歴然だった。
「ううっ!」という強烈な呻き声を、いさ子ははじめ麗花と思い込んだ。
(また責めている……)
 プレイルームの戸が半開きで、犠牲者の広げた両脚のあいだに椅子を置いてすわり、いたぶる局部をのぞき込み、ときどき顔のほうにも目を向けて観察するみどりの姿が見えた。
「くううーっ!」
 また呻きが強くなって爪先がひきつった。
「こうして顔とオマンコだけ見ていると、またゾクゾクしてきたよ」
 そんな戯れ口をたたきながら、よほどプレイに執心しているのかいさ子の近づく気配を感じないほど無警戒だった。
 苦悶はつづいたが、責める手が変圧器のダイヤルをゆっくり左回転させると呻き声もだんだん弱まり、やがて「ふうーっ」とため息をついて、つぎには喘ぎ声に変わった。
 カチャンと金属が触れ合う音をたてて横のワゴンに医具が置かれた。
 替わりの医具にワニ口を噛ませた。片手に医具を持ち、片手で変圧ダイヤルをひねる。
「こんどはすこしキツイよ」
 その言葉どおり、尖端の太さも形も刺激的な鉗子がコードを垂らしながら、アヒル口の医具で開かれた膣のなかへ慎重に通されていく。
「うおっ!」
 異様な叫び声のあと、「ううーっ」と押し殺したケダモノの咆哮にも似た呻き声――。ほっそりと伸びた脚が烈しく痙攣して暴れ、みどりの手元が狂って火花が散った。
(ショートした!)
 痙攣の状態から50ボルトは出ている。
 慣れた目で判断を下した。
(違う、麗花じゃない!)
 この強さで麗花だったら泣き叫び狂っているはずだった。これほどのガマン強さは別人だ、そう思って駆け寄り、亮子と知った。
「これは!?」
 みどりに付き合い、たいていのことには見慣れたいさ子が目を覆うばかりだった。パックリと口を開いた局部の出血、そして股間のまえに敷いたバスタオルは、たっぷり血を吸ってどぎつい朱に染まっているのだった。
 スイッチが切られて呻きと痙攣が止んだ。
「あら、きたのね」
「どうしたんですか、これは――」
「買ったのよ」
 ぷいと目を向けたワゴンに、責め具といっしょに万札の束も載せられていた。厚さから20、いや30万以上はあると見た。
「それがとんだ買い物でね」
 いまいましそうに言って、またスイッチを入れようとしたが、そのまえに電圧を「0」にして、それから上げていった。
「うーっ」
 また怖ろしげな唸り声を発した。
 全開にしたクスコの奥をのぞきながら、子宮に突き立てた鉗子をぐいぐい力を込めて押したりひねったり、さらにはえぐったりもした。
「くくくうーっ!」
 汗で光る顔を一杯にゆがめて、亮子が必死に声をこらえている。経験のあるいさ子にはその苦痛がわかる。悲鳴をあげてもおかしくないのに、気丈に耐える姿が痛々しかった。
「ううーうーっ……ううっ!」
 電流の流れている鉗子で女の命を抉られる痛みが、いさ子の身体にもびりびり伝わった。
 思わず目をそらした。そこにワゴンがあり、白布の上に先に使われた鉗子が5本並べてあった。その尖端は一様にぬめりを帯びて光り、端へ行くほど血の滲みが濃くなっていた。
「うぉぁーっ、あっ、あ、あ……!」
 吠えるような声が悲鳴じみた呻きに変わり、膝を曲げて延ばされた細足が爪先を極端にひきつれさせて足掻きに足掻いた。そのときには開脚台が軋み音さえ立てて揺れた。
「痛かったろうねー。よく、耐えたわねー」
 感情のともなわないセリフを吐いてゆっくりと鉗子を抜き出した。こんどの尖端はべっとりと鮮血を付けていた。
 ふうーっと、こんどはみどりがため息ついた。
「いつからなんですか?」
「はじめはバイブでよがらせ、本格的なプレイに移ったのは5時ころだったから、かれこれ6時間がとこ責めてることになるわね」
 腕時計を見て呆れた。
(それで30万!?……)
 いさ子は言葉もなかった。
「もう、まえは無理ね」
 長時間いたぶり尽くして、まだ責め足りない不満を顔中にあらわしていた。
 膝の上下を留めたベルトをはずし、重そうに腰を上げると頭のうえの両手のベルトも解いた。
「まあ、見なさいよ」
 ぐったりした亮子のわきの下に両手を入れて、一気に引き起こした。
「あ!」
 いさ子が思わず目をそむけた。
 上体をひねられた亮子の背中半分、ひどいケロイドだった。なにかで見たが、これだけひどい傷の本物を見たのははじめてだった。
「こんな身体で、わたしからいっぱしの淫売金せしめようとしたのよ。『風邪ひいてるから、スリップはこのままに』なーんちゃってね」
 あとの半分は芝居じみて言った。
 亮子が起き上がろうとするのを、
「だめよ、まだアナル責めが残ってるわ。
 バケモノの背中なら気にしないわよ。毛布でもかけて見えなくすればいいんだから」
 いさ子が亮子をかばって逆らった。
「いいかげんにしたら?
 彼女は風俗以外でも働いてるのよ。万が一職場で斃れでもし、あの傷から警察に犯罪性を疑われでもしたらどうするつもり? とばっちりでこっちの尻にまで火がつくのはゴメンよ!」
 いさ子の反発は予想外のことで一時茫然としたが、理屈はもっともと、なにより自分の身の安全をかんがえてみどりが簡単に折れた。
「じゃ、亮子さん」
 いさ子が手渡した衣服を、亮子はスリップだけ着てヤケドを隠した。ただ、そのあとはハンドバッグを取り、麗花につかった救急用具で自分の手当てをはじめたのだった。
 そのようすを、いさ子は息を呑む思いで見つめた。
 ピンセットを持って脱脂綿をつまみ、そこへアルコール瓶をかたむけて浸すと、こんどはスリップの裾をたくしあげる。うえから見当をつけながら自分の秘部深く突っ込んだ。
「ううっ!」
 呻きながら、こらえながら淡々と処置に努める――その姿からアクション映画の一場面を思い出した。手負いの殺し屋が、麻酔なしに自分の傷口をナイフでこじり、銃弾を掻き出す場面だ。その場の亮子がまさにそれだった。
(強いわ、この子!)
 亮子の健気さに感じて熱くなり、いさ子は久しく忘れていた良心に目覚めさせられた。
 それをみどりは侮蔑を顕わにあしらった。
「強いのなんのと褒めてもらいたいの? 冗談じゃないわよ。そんな傷で誰からも相手されないんじゃ、一人でなんでもこなすしかないでしょ。自慢する話でもなんでもないわよ」
 みどりの悪態には、とっておきの仕上げがあった。
「そうだ!」
 思い出したように手をたたいた。ニタニタ笑って近づき、スリップに手をかけて背中をのぞき込み、うって変わった猫なで声で誘いかけた。
「ちかく残酷パーティーがあるとのことで、たしかまだコンパニオンを募集中よ。プレイによっては破格の報酬。お金稼ぐには絶好の機会。こんなになった肌なら何度焼いてもおなじでしょ? あなた焼き印奴隷に志願しなさいよ」
「!」
 一瞬、亮子が凄い顔になった。が、なにもいわずセルフ治療も終え、身づくろいにかかった。
 呆れるだけで、いさ子もなにも言わなかった。
 そこへタイミング良く神谷が現われた。
「まだ、呼んでないわよ」
 憮然と迎えたみどりに、
「今日は麗花を帰す日だ。いつまで好きにできるというもんでもないだろう」
 なぜか全員みどりに反旗をひるがえした形になった。
 亮子がビッコをひきひき麗花のベッドに歩み寄ったが、みどりが手で邪魔をした。
「ダメよ、この子はまだ――」
「麗花さんを帰す約束だったでしょ?」
 亮子が食ってかかったが、これをいさ子がなだめた。
「その身体でほかの子の面倒までは無理よ。彼女はわたしに任せてあなただけ帰りなさいよ」
 そう言って机の上の札束を握らせた。
「神谷さん、いいわね。亮子さん弱ってるから、ちゃんと自宅まで送り届けてあげてよね」
「わかった。亮子を送ってく。じゃ、またこのメガネかけて……俺の肩につかまるがいいさ」
 当てがはずれたような、拍子抜けしたような顔になった神谷が亮子を連れてでていった。
 みどりが、なにごとか察していさ子を振り返った。
「あんたたち、もしや――?」
 それにはこたえず、いさ子が婉然として微笑み返した。
「そんなことどうでも、さっそくあたしとやる? それとも、はじめるまえに一杯ひっかけたいわね。なんだか喉渇いちゃった」
 勝手に仕切って自分から酒のしたくに動いた。
 亮子の修羅場に魅入られ、長らく眠っていた被虐心までが呼び醒まされたのだった。


_______捜査のゆくえ


 トントントン……と、美鈴はまな板の音で目を覚ました。
 起きてキッチンに行くと、京子が調理するそばで拓也が見ていた。まるで夫婦のようだ。
「なにか手伝おうか」と美鈴。
「いいわよ。梶君も行ってよ、すずちゃんと、まだいろいろ話あるでしょ」
 ちょっと険のある言い方で追い払った。
 拓也が両手で角(ツノ)をつくって、口は形だけで声にはださず「怒ってる」。そういってニコッとするところが以前の彼らしかった。
「きのうの話を蒸し返すんじゃなくってよ」
 そう断ったうえで訊ねた。
「工務店経営が立ちゆかなくなったあと、E町で洋服屋さんやってたんだよね。それもダメだったってこと? 近くに大きなマンションが2つも建って、客が呼べると喜んでたじゃない」
「それがヌカ喜びだったんだよ」
 拓也が顔をしかめた。
「マンション住民とかは隣近所との接触をいやがり、購買力もあるからメディアの戦略に乗っかってブランド志向に走ったり、でなきゃスーパーや他の大手量販店に向かうでしょ。そっちは品数も豊富で、それこそよりどりみどり――」
「当てがはずれたってわけね」
「親父が甘かったんだよ。貧すれば鈍するで、赤字が赤字を呼ぶ結果になってしまった……」
 暗い話をひとしきりしたとき、ちょうどいいニオイもしてきたので美鈴が立って、食器をならべるなど手伝いにまわった。
 ご飯をよそいながら京子が話に加わった。
「バブルで狂ったのよ。地上げで地域社会が根こそぎにされ、バブル崩壊後もその後遺症から抜けきれない。あんなのがなければ、客も商店も小さいながら信頼とサービスの良好関係で成り立ってきたのに、いまは勝つか負けるか、大きくなるか弾き飛ばされるかしかないもんね」
「銀行は貧乏人なんか相手にしないし――」
「政治は大企業重視の規制緩和、金持ち優遇」
「国が強くなりさえすれば、弱い庶民が飢えようが自殺しようが知ったことないもんね」
「なぜ強くなりたいの? どこかで、また戦争はじめて、その尻馬に乗って出かけていって、すこしでも余禄にありつこうって了見?」
 京子が言って、美鈴と顔を見合わせた。
「もう、そんな話はやめてご飯にしようよ」
 拓也の一言で食事になった。
 朝食の団らんは、昨夜の反目がなかったように3人和気あいあい、冗談もでるほどだった。
 電話が鳴った。
 京子がでて、なにやら深刻そうな受け答えをして、すぐに受話器を置いた。
「警察。もうすぐここへくるそうよ」
「えっ!?」
 なごやかな雰囲気は一変した。美鈴が不安顔で拓也を見たが、当の本人は案外に平静だった。
「僕が東京にいることはとっくに知れてるんだ。いつか事情聴取したいと言ってたから、それがたまたま今日になっただけだよ」
 そう言ってご飯を食べるペースが早まった。
 美鈴もあわててかっ込んだ。
「ところでどうなってるんだ美鈴ちゃん、警察の捜査のほうは。高嶋さんといったかな、女刑事さん。君から訊けといってたから――」
 美鈴は残りご飯に味噌汁をかけて流し込み、裕美から「原則極秘」と口止めされていた捜査経過を拓也に聞かせた。
「川村みどりが帰国したことで、警視庁の上のほうで9年前の事件の再捜査がはじまったの。言い出しっぺはI県警時代からみどり事件を追ってきて、いまは警視庁一課の宇津木一行警部なんだけど、その警部と数々の捜査を共にし、息の合った精鋭が全国から集められ、特別捜査班が立ち上げられた、その一人がこのあいだまで神奈川県警にいた裕美さんというわけよ」
 立て板に水で一気にまくしたてた。
 美鈴は「警視庁の上が動いた」と言ったが、上を動かしたのは宇津木だった。
 9年前、「早紀が身を投げた」とされた岬の断崖からは、崖に打ち込まれたハーケン、浜で拾われたテグス、さらにロープの切れ端が裕美独自の捜査で見つかっている。いずれも、体型が似た梨沙が早紀の替え玉となり、神谷とおぼしき人物が特殊部隊の奇襲戦法を応用して逃げ道を誘導した証拠の品だ。
 それら三点セットと梨沙がハリツケ柱に架かって焼け死んだ現場から持ち去り、隠匿しておいた「ハリツケトリック」の梱包機もいっしょに示し、宇津木が「捜査しないなら、これを持って出るところに出る」と差し違える覚悟で迫った結果の特別捜査班立ち上げだったのだ。
「梶君、みどりとの関係はもうないのね?」
「もちろんだよ」
「で、いま、お父さんたちは」
「悪銭身に付かずで、結局、300万で不足分を補い、負債をきれいにして出なおしたもののうまくいかずさ」
 自嘲気味にうつむいたが、もう一度起こした顔は意外に明るかった。
「じつは東京にでてきたのは新しく店をはじめるためで、大阪でコツコツ働きながら貯めたお金と腕で、表参道で洋服屋を開くことになったんだ。あるブランドとタイアップして、僕自身のデザインによる品も含めた店なんだよ」
「えーっ、凄いなあ!」
 美鈴は感心したが京子はとうぜん知っているようで、拓也の横で誇らしげだった。
「美鈴ちゃんにも、店の宣伝兼ねて新作の試着品だけど一着プレゼントしようと思ってね」
 そう言って京子から拓也に、拓也から美鈴にと手渡された春物の、明るい花柄のデザインのカーディガンを眺めて美鈴が賞讃のため息をついているところへ玄関チャイムが鳴った。
「……お久しぶり。元気だった?」
「はい。刑事さんも元気そうで――」
 訪問は裕美を入れた3人の刑事で、そのうち40代と20代の男性同僚を裕美が紹介した。
「山岡さんに毎熊くん」
 毎熊と紹介された若いほうは好青年で、2月の発砲事件の際、裕美とコンビを組んで逃亡犯立て籠もりの廃倉庫に飛び込んだ新米刑事だった。裕美のたっての推薦で捜査班に加えられたものだった。
「じゃ、先輩、ここは僕たちが――」
 そう気を利かせた毎熊にあとの聴取をまかせ、裕美は美鈴を誘って外にでた。
 パトカーが駐車する路地とは反対の大通りへ歩きながら、開口一番なにを言うかと思えば、
「美鈴さん、『この子たち』見たんだって?」
 夏に、京子と連れだって見た原爆朗読劇の舞台だった。
 広島と長崎の原爆投下時被害に遭った子や母の手記を、唱歌やレクイエムをバックに、ときおり子たちの肖像スライドをはさみこみ、あとは6人の女優が台本を淡々と連朗読していくだけの構成だったが、
「ショックでした! 原爆があんなにひどいなんて知らなかった」
 思い出して早くも瞳をうるうるさせたが、
「あ、裕美さんも見たことあるんですか?」
 訊かれた裕美が、遠くを見るような懐かしそうな目になった。
「高3のとき――故郷の松山で公演があったとき、親しい友だちと見に行ったの」
「まえに言ってた“憧れの君”ですか?」
「え?」と向けた顔が、一瞬ぽかんとした。
 9年前、美鈴が中3で裕美が平巡査のころ、自宅に招いて歓待してくれたとき、「わたしにも同性愛的感情をいだいた友だちがいたのよ」と打ち明けてくれたことを言ったのだが、
「やっぱりウソだったんだ。わたしが早紀ちゃんに抱いた気持ちを変に思わせないための――」
 寂しそうにそう言ったら烈しく否定した。
「そんなことないよ、あれはホント。わたしは誰にもそんな姑息な手段は使わないし、ましてや美鈴さんをだますようなこと絶対にないない」
 手を振って頑として言い張った。
「そうか。美鈴さんには教えてあったんだったね。だったら白状。そう、その片思いの彼女」
 ちょっとうつむいた顔がはにかんだ。
「当時、わたしも劇はショックだった。でも、“原爆で焼かれる”というイメージがいまひとつピンとこなかったんだけど、あるときそれがリアルに感じられ、原爆への怒りがますます強くなったのよ」
 そう告白して怖いくらい真剣な顔になった。
「あ、もしかして紺野梨沙って子……」
「そう。美鈴さんは担架からはみ出た手だけだったけど、わたしはあの子が全身炎に巻かれ、縛られたまま焼き殺されるのを生で見てた。すぐに助けようとして叶わなかったけどね、あの場面はいまでも。すると同時に『この子たち』のことが胸に浮かんで……原爆で焼かれるという時間的現象は一瞬であっても、スローモーションにたとえるならああいう情況かと――」
 原爆朗読劇にかこつけた過去の事件とは、前述の早紀失踪、自殺を偽装した紺野梨沙を、逃亡の際の時間かせぎ目的だけでなく、少女誘拐監禁凌虐等罪のいっさいがっさいを押しつけ、トリックを用いて生きながら焼殺したことだ。
「ぜったい許さない!」
 裕美が憤怒の瞳で誓った。
 ちょうど捜査のゆくえについて、一つ明るい材料が出かけていた。それを言うつもりだったが、やはりこの場は口をつぐむことにした。
「正月休みにはみんなそろって帰れるわね」
「え? でも、梶君は警察が――」
「なにいってんの。彼はみどり一味に騙されただけで、いわば被害者の一人よ。警察が拓也君に訊くのはその間の事情だけで、それさえすめば、もうわたしたちが付きまとうことはないわ」
 それを聞いて安堵した。
「早紀さん思う気持ちは分かるけど、拓也君を責めてはダメよ。彼だってこの9年間、苦しんで苦しんで苦しみ抜いたにちがいないんだから」
「ええ、分かってます」
 ニッコリして裕美が美鈴の肩にそっと手を置いたとき、京子宅から刑事たちがでてきた。
「話はあらかたうかがいました」
 若い毎熊刑事が報告した。
「じゃ、美鈴ちゃん。わたしたちこれで――」
「はい。じゃ、またいつか」
 会釈を交わし合って別れた。
 パトカーが美鈴のまえを静かに横切った。
 美鈴の胸をよぎる一抹の寂寥――無性に亮子を求めた。だが、昨日も今朝も亮子からの連絡は途絶え、携帯もつながらないままなのだ。


_______美沙樹失踪


 会員制SMクラブ楓でM嬢として働く美沙樹が行方明になった。
 おなじ楓ではS役を務め、美沙樹とはセックスフレンドでもある愛など、心配のあまり仕事が手につかなくなった。
「ママ、なぜ? なぜあの子が――」
 オーナー野々宮潤子に泣きついた。
 潤子が真っ先に思い浮かべたのは川村みどりだった。1ヶ月近くまえ、従業員をあつめて楓からの離脱を迫った際、みどりに昂然と反旗をひるがえしたのが美沙樹だった。美沙樹がみどり関連で狙われるとすれば、それ以外かんがえられない。
 だが、みどりには片腕とも頼るカミソリのような男、神谷だって付いている。拉致だの誘拐だの、癇性なみどりがたとえ発作的に犯罪がらみの報復を思いついたとしても、周りが止めるに決まってた。
 異変を感じて警視庁から裕美が、若い同僚刑事の毎熊とペアを組んで駆けつけたが、意見はおなじだった。
「失踪に気づいたのはいつですか?」
「24日のイブの夜、銀座で食事するため待ち合わせたんですけど、約束の時間になってもこなかったんですよ。まあ、時間にルーズなのはよくあることで、その日は気にせず結局1時間ほど待って携帯で確かめることになったんですが――」
「出なかったのね?」
 裕美が結論を急いた。
「いえ、一度は出たんです」
「え!?」
と、意外に思うと同時に直感がはたらいた。
「客につかまったとか、いいお客が見つかったとか言ってきたんで、なんかちゃっかりしてんなあと思ってあとの連絡待ってたんですよ」
「客って?」
「彼女、M専だから相手はとうぜんSということになるけど、ソフトだから心配ないって平気な口調だったんですよね。というのも、まえにも外人相手して、日本人よりよほど紳士的だって喜んでたことあるもんで……」
「外人?」
 裕美がその瞬間、横の毎熊がぎょっとするほど怖い顔になった。愛がそれを見逃すはずがない。あとの説明は震え声になった。
「あの、フィリピンやブラジルとかじゃなく、フランス、ドイツといったヨーロッパでもないれっきとした英語がそばで聞こえたからアメリカ人、イギリス人といった外人ですけど……」
「アメリカ……!?」
 裕美がオウム返しに訊いたので、また気を回して慌てふためいた。
「なにかあったんですね? アメリカ人がらみの犯罪が。それで彼女も巻き込まれたと――。
 ああ、どうしよう。わたしの通報が遅れたばかりにあの子がどうかなったら。ね、刑事さん。あの子わたしとちがって身寄り頼りが一人もいないんです。だから、わたしが気をつけてやらなければならなかったのに!」
 端で見ているのが気の毒なくらいおろおろとうろたえた。
 愛をよく知る潤子でさえ、勝ち気な愛がこれほどまで慌てふためくのを見たことがなかった。裕美も、なだめたりすかしたりと躍起になった。
「結局、あとの連絡は途絶えたままなのね?」
「はい。こちらからの携帯もつながらないから25日はまったく消息不明の状態でした」
「だったら、なぜきのうのうちに――」
 裕美が地団駄踏む思いで追及した。
「あの子呑気なとこあるんですよ。お金が入ると思うと妙にウキウキしたところがあって、それでわたしとの約束よりかはお金優先、そしてつぎに会うときは汚名挽回とばかり、わたしを喜ばすプレゼントどっさり持ってくるんです。それがまた、あの子の楽しみでもあるんです」
 そう言っておいおい泣きだした。
 愛を責めるのは筋違いだ。これがみどりを追ってきたアメリカの特殊機関のしわざだとしたら、その原因を作ったのは裕美たちなのだ。
 9年前、みどりら一味が起こした事件で、一味のなかに米軍関係者がいるということで捜査の壁にぶち当たり、指をくわえてなにもせず相手が逃げるにまかせたのは警察だった。
「全力を挙げて美沙樹さんを見つけ出します!」
 そう約束して、その場は引き下がるしかなかった。そうする責任と義務が裕美の側にはあった。
 翌日、宇津木指揮下の特別捜査班は、総出で美沙樹宅から愛との待ち合わせ場所までのコース、得体の知れないアメリカ人の影をもとめてしらみつぶしの聞き込み捜査をおこなった。
 裕美は宇津木と組んでいた。
 美沙樹の顔写真を立ち寄る先ごとに提示し、地下鉄の改札で、キヨスクで、コンビニでと聞き込んだが徒労だった。
 コンビニを出たところにバス停があって、ベンチがあって、誰もいなかったのでこれまでの捜査状況を整理すべく腰かけた。
「楓の人間が最初にやられるとはな」
「やはりそうなんでしょうか」
「奴らが日本入りしたという情報はつかんでいるから、これが行動の第一波だろう。
 まちがいであってくれればいい。この間にもひょっこり愛さんのもとに帰ってくれれば、その結果無駄に振り回されただけだとしてもどんなにいいかと、俺はずっと祈っていたよ」
 裕美は宇津木のことばを聞きながら全身緊張感に包まれた。昼間であっても、どこかから見張られているような不気味さをゾクゾクと背中に感じる。
「もしそうだとすると、美沙樹さん、どうなるでしょう」
「めったやたらに殺すことはないとは思うが、しかしCIAはいろんな分派があって、冷酷な連中だとしたら見境がないそうだからなあ」
「安全保障結んだ同盟国なのに――その日本でそんなことするでしょうか」
「沖縄を見りゃ分かるだろう。奴らにすりゃ日本はいまでも被占領国だ。その証拠がここ最近の沖縄での無法ぶりだ。イラク戦争でも始まれば、それこそいま以上ひどくなるだろう」
「世界中が反対の声挙げてもやりますかね」
「やるだろう。奴らには、特にネオコンにはアメリカが世界であって、それ以外は目に入らない。彼らにとって孤立は名誉の同意語だからね」
 憤懣やるかたない口調でまくしたてた。
「先輩、わたし、美鈴ちゃんたちの身が心配で心配で……。
 9年前のことではせっかく築いた級友間の友情まで壊すことになり、その修復もできないままでいるんですよ。例の、お友だちだというミスターKの力でなんとかならないんですか」
「うーむ」
 宇津木がまた腕を組んで考えこんだ。
「奴さん、日本に呼んでみるか」
「おねがいしますよ」
「ともかくいまは、美沙樹さんの無事を祈りつつ犬になって捜索をつづけよう!」
 そう言って2人ベンチを立って歩きだした。


_______刀


 総板張りの広い剣道場は水を打った静けさだった。
〈しわぶき〉ひとつ、吐息さえはばかられるような厳粛さのなか、30人ほどの剣道着姿の門弟と、紅一点川村みどりが、全員正座の姿勢で見守っていた。
〈かくしゃく〉たる全身に気魄をみなぎらせ、刀を腰に差した老師村雨鉄舟(むらさめてっしゅう)が、真剣勝負そのものの足運びで一歩、また一歩と間合いを取るべく藁人形ににじり寄った。
 等身大の人形は後ろ手に縛られた状態で天井から吊られているが、やや前のめりに傾いた姿は、生身の人間の重量感すら感じさせてリアルな迫力があった。
 左手が鯉口を切り、右手で刀が抜かれた。
 もちろん本身である。ずっしりとした幅と厚み――別名胴太貫(どうたぬき)といわれる居合い刀を握る手が両手になり、正眼にかまえたとき、道場の明かりに映えて刃がギラリと鋭光を放った。
「えい!」
 一刀――
「やあっ!」
 返す刀で二刀――凛とした声が2回響くあいだ、まず藁人形の胴が横にぶった斬られ、縄で吊られた腹から上が半回転し、くるりと下になった首を二刀目が刎ねた。
 それは一瞬の光景だった。
 ゴトン、ゴトッと、断たれた物体が床に落ちる音が2つ、斬ったのが先か、斬られて落ちる音が先か分からないほどの早技だった。
 真剣がパチッと元の鞘に収まったとき、門弟たちから拍手が湧き起こった。
 釣られてみどりも手を叩いたが、その間もそのあとも、全身を貫く戦慄とともに冷たい床に正座する腰から下の震えが止めようとして止まるものではなかった。

 広い洗い場をそなえた、石造りの五右衛門風呂にゆったりと浸かりながら、麗花は浴室の小窓をとおして晴れた空を眺めていた。
 暮れも押し詰まった26日、明日が官庁の御用納めで、明後日からはほとんど休みにはいるいうもっともあわただしい時期だった。
 ここはどこだろう――。
(どこだって関係ないわ)
 4WDでくる途中、運転する神谷の口から目白の近くとも聞いた。その昔、今太閤ともいわれ、総理大臣にもなった田中角栄の、広い土地やら豪邸やらがあったという話もしていた。
 角栄の名は、麗花も知っている。自分の国と日本との国交回復に尽力した人でもあり、中国でその名前を知らない人はすくないくらいの超有名人でもあったからだ。
 それにしても神谷はなぜあんなに中国を毛嫌いするのか。中国の話をするときは、まるで親の仇にでも対するような憎しみが感じられる。
 そして川村みどり――。
(あの女は怖ろしい人だ!)
 顔を思い浮かべるたび血が凍る気がする。同時に身体の芯がザワザワする。ということは、あの女の手練手管に飼い馴らされ、いつのまにか被虐の呪縛にからめ取られたということか。
 今日はまた別の予感に被虐の血が騒ぐ。〈清め〉の湯に浸かりながら、運命(さだめ)に身を任せるだけの己が弱さを恥じる。
(あの人は違う)
 みどりになぶられた自分の介抱に親身になってくれた亮子だけは、この国にきてはじめて人間としてのぬくもりを感じさせた日本人だった。
 お世辞にも豊かとはいえぬ乳房をすくいあげて乳首をとがらせた。痛みもない。20日前、針を貫通され、電気を流された傷も、亮子の治療で完治したようだ。まさに地獄で天使に会ったような気がしたものだった。
(また逢いたい。逢えるだろうか)
 ただの親しい同性に対する思慕以上の気持ちを募らせたとき、「はいります」といって、曇りガラスの戸が開いて、肌襦袢姿の若い女性が1人、2人とはいってきた。
「湯加減はどうですか?」
「はい。ちょうど、いいです」
「お身体洗いましょう。洗って差し上げます」
 そういって2人がかりで引き上げた。
「あ、自分で洗います」
「ダメダメ、旦那様はきわめて清潔好きですからね、わたしたちがちゃんと洗ってあげるわ」
「まあー、きれい! それに吸いつく餅肌。さ、横になって。外もなかもツルツルにしたげる」
 2人はそのあと全裸になり、悩殺視線で麗花に迫ると、あれよあれよという間に広いタイルの洗い場に横たえられたのだった。

 門弟たちも去って深閑とした道場に、シックな洋装のみどりと、羽織り袴姿の鉄舟老師が対座していた。静寂のなかに殺気に近い緊張がみなぎっていた。その沈黙を破り、
「あれは三段斬りといってな――」
 端然としたままで、藁人形の一件から切り出した。
「別名『生吊り胴』とも呼ぶ、北陸は前田家K藩が採用していた江戸時代の処刑法だ。他藩にあのような刑法は見当たらない」
 みどりが思わず居ずまいを正した。
「囚人を後ろ手に縛り、さっき人形でやったように縄尻を高いところにかけて宙に吊す。頭が上に、脚が下になった囚人の胴を一刀に断つ。すると頭と残りの胴はバランスを失い、半回転して頭は下に、胴の切り口が上になる。そこをねらって返す刀で首を刎ねる。身体が3つに分かれることから三段斬りと呼ぶのじゃ」
 淡々と語る内容からは、みどりの脳裏に人形ではなくリアルで陰惨な情景が浮かんだ。
「よほど重い罪に科せられる刑なんでしょうね」
 恐る恐る尋ねた。
「姦通罪。つまりは不倫じゃよ。三段斬りが現代(いま)の世に通用するなら、首斬り役人はさぞや忙しかろうて」そう言って相好を崩し、「ほっほっほ」と嬉しそうに笑った。
 姦通罪が女も同罪の極刑ということで、さっきの想像にいま一つドキドキする要素が加わったことになる。
「さて」と老人が本題にはいった。
「そなた、アメリカの特殊機関から狙われているとか。それでわしの庇護を得たいとな?」
「はい」
「捕まればどうなるのか」
「おそらくは確実に殺されるでしょう。ですが、わたしは彼らが洩らされて困ると思う情報など何も握ってはおらず、彼らがやろうとしている行為は見当ちがいの凶行なのです」
「どうかな?」
 落ちくぼんだ眼窩の目が鋭い光を放った。
「だとすると、身体を張って庇護するわしのメリットもないことになるが……まあ、良い。そなたには、ほかにしてもらうこともあるしな」
「は?」と、みどりが身がまえた。
「わしが目をかけている組長の配下の若頭が夜の女たちの教育係を務める者なのだが、どうやら不適のようで、その代わりをそなたにしてもらいたい。これはわしからの願いでもある」
 表向き〈願い〉と言いつつ、実質〈厳命〉を意味する強い調子だった。
「それと――」
 また眼光がみどりに向けて放たれた。
「いずれそなたにはわしの身辺雑務をしてもらうことになるが、それに向けて条件がある」
「なんでも仰せのとおり致します」
「向こうひと月間、鶏を含むケモノ肉を断ってもらいたい。惣菜は野菜と魚のみにすること」
「なぜでございましょう」
 みどりとしてはなにげなく、それこそ媚びまで見せて訊いたことだったが、
「クサイっ!」
 ギロリと睨んで侮蔑的に言い放った。
「……!!」
 みどりの顔から微笑みが消えた。
「おそらくは毛唐(白人)の国での食習慣が長かったせいもあろうが、それにしても肉食の度合いが過ぎたのではあるまいか? 獣の腐臭がホト(膣)から発してここまで臭うわ」
「臭い臭い」といわんばかりの顔つきに、みどりは屈辱の嵐に吹きさらされた。とっさに美鈴を電気でいたぶり、ペニスバンドで犯そうとする刹那、奉仕させるべく向けた陰部に「うっ」と呻いて顔をそむけられた光景が浮かんだ。
(“臭い”とは――!?)
 初めて老人に強い叛意を抱いた。
 目と目が合って火花を散らさんとしたとき、
「旦那様、そろそろ仮床入り(かりどこいり)のお時間ですので……」
 板戸の向こうで女の声がした。
「うむ」と応えてすっくと立ち上がり、およそ老人らしからぬ足どりで鉄舟は出て行った。それこそ、風の如くという形容どおりに――。


_______淫儀


 40畳ほどの道場と、道場門下生30人が逗留するといわれる溜まりの書生部屋、それに賓客を歓待する大広間を入れた離れの間。プライベートゾーンたる母屋は、寝所と書斎のほか、あるじ鉄舟が無類の映画好きでもあることから、映画会社の試写室もかくやと見まごうビデオルームまで有していた。
 この大屋敷だけではない。屋を別にした離れとしての倉庫や別棟もあることから、村雨家の敷地面積はかなりのものだった。
 道場に隣接した向こう奥に湯殿があった。
 湯殿――つまりは浴室である。
 極力洋風を排し、建物、置物、食べるもの、着るものことごとくに和風の贅を凝らした村雨邸にあって、ものの呼び方までその昔の時代色にこだわる――その湯殿から純白の肌襦袢一枚の麗花が、これまた純白の衣に深紅の袴を着けた巫女姿の女官10人ばかりにみちびかれ、しずしずと母屋の方角に向かった。
 後尾の巫女の手に引かれ、みどりがあとにつづいた。スリッパなどというものも許されないから、屋敷内を歩く際には裸足か靴下のままで、みどりはこの日は黒いストッキングの足裏で冷たい床を踏むことになった。
 そして、真っ白い肌襦袢の裾からのぞく麗花の足は湯上がりの桜色をしていた。それがひたひたと踏む先に、こっちの離れと向こうの母家をつないで渡り廊下が見えた。
 ゆうに25メートルはある。
 廊下の片側は壁で仕切られていたが、反対側の開口部――いまは寒さ除けに総ガラス張りの戸が立ててあるそこからは、冬ざれのこの時期でも心和ます見事な庭園が一望できた。
 なにより池の周囲の築山に彩りを添える冬咲きの花が目を慰める。が、極度の緊張にうつむいて歩く麗花には、まえをゆく女官の足元をみているだけで精一杯だった。
 そうして廊下を過ぎ、母屋の床を踏んでいよいよ“儀式の場”へと近づいた。
 寝所には床入りの布団がのべられ、ここにも肌襦袢を着た女官が4人待ち受けていた。
 刺激的な香も焚かれているようだ。
 手を引かれた女官に、目顔で「ここまで」と指示され留められた場所。開け放たれた襖から一間(1. 8メートル)隔てたそこからも、みどりは高まる動悸を感じてクラクラした。
 香は媚薬か麻薬の一種だろう。それが証拠には、手を延べて麗花をいざなう襦袢姿の添い寝番役女官は夢遊の境、手を取られ、身を横たえる麗花の目さえ早くも虚ろに見えた。
「これから、仮床入り(かりどこいり)の儀をー」
 女の声が語尾を伸ばして発せられ、閨の奥で襖が開く気配も感じられたが、みどりの位置からは陶然として横たわる麗花の全身も、襖一枚の空間からは手や足が微妙に切れてみえるのだった。
「まず、お改めをー」
 閨(ねや)に控える女官は上と下とで2人ずつ。そのうち頭側に位置する2人の目が、ねっとり潤み、口元を婉然とゆがませて麗花に迫った。
(はじまるぞ!)
 みどりはゾクゾクした。
 女はいずれも少女世代だ。それが白魚の手を伸ばし、麗花の襦袢に手を差し入れ、乳房をまさぐる。その一方でもう一人、これも17、8の少女が麗花の顔を引き寄せ、唇を奪った。
「はあ、ふう……」
 同世代の少女2人にはさまれ、濃厚に迫られ、麗花ははやくも息を荒げた。
 揉みしだく手の動きが荒くなって、襦袢ははだけて白い乳房がぷるんと躍りでた。それを両手で鷲づかみにすると、愛撫にはさらなる大胆さがくわわった。
 他の2人の女官もじっとしてはいない。
 白魚の手が襦袢の裾をゆっくりゆっくりめくっていく。ふくらはぎが見え、まるい膝小僧も出て、むっちり白い太腿があらわれると、そのあいだに手を差し入れた。
「うっ」
 麗花が喉を反らせた。
 待ちきれない別の1人は、床と尻のあいだから窮屈そうに手を差し入れた。
「はうっ!」
 上と下の中心に入り込んだ2つの手が微妙に動き、二の腕の筋が力んでぴくつくたびに、ひきつった呻きが麗花の口から発せられ、のけ反ったり、身をくねらせたりを繰り返す。
 4人が突如としてもろ肌脱いだ。少女にしては見事すぎる乳房を惜しげもなく揺すって、麗花の胸や腰や腹に押しつけながら、みずからも烈しい喘ぎを立てはじめた。
 千々に乱れた白の衣裳の交錯――。
 それさえ脱ぎ去り、女たちは全裸になった。
「あっ」とみどりが愕いたことには、襦袢を脱ぐ刹那、すっくと膝立ち姿勢になった少女の〈ほと〉(膣)の、恥部を隠す繊毛の一刷毛すらもなく、つるりと剥き身に剃られていたことだった。
 やがて麗花も剥かれる。すでにほとんど裸の腰の帯が解かれ、衣は肩がはずされ、袖が抜かれ、胸から下もおおきくめくられ、身体からすべて引き剥がされると、文字どおり生まれたまんまの丸裸である。
 それへ先に全裸となった4乙女が挑みかかった。
 一人は胸のうえから跨り、別の者はのけぞる顔を押さえ込み、そこへ秘部を押しつけ奉仕を迫る。3人目は寝ている太腿を膝を立てさせ、それに抱きつくかっこうで爪先あたりを股ぐらにめりこませ、最後の者は残りの腰を自分の腰にからませての貝合わせである。
 喘ぎが交錯する。
 喜悦の声が混じりあう。
 ぬちゃぬちゃと割れ目がこすれ合う。
 絡み合い、求め合う全裸の5体が、さながら呑み合う5匹の蛇の交合だった。「お改め」どころの騒ぎではない。もはや香の扇情効果が手伝っての凄惨な邪淫の修羅でしかなかった。
 そう思っていたとき、4匹のメスがだんだんに移動し、さっきまでの乱れた状態は一定の体型を取って、秩序をともなって、動きがぴたりと収まったときには2人一組で麗花の胸と腰にはべる形になっていた。
 儀式めいた動きはそのあとだった。
 それぞれ女官によって麗花の両手がまっすぐ横に伸ばされ、両脚はぴったりそろえて伸ばす、ちょうど十字架姿勢のかっこうにされた。
「う、ああ……」
 恐れ、悶え、震えおののく十字を描いて横たわる全裸の全身。
 だが、その十字も下が分かれ、大の字に分かれた脚が膝を2つに折って立てられると、開かれた中心の黒々とした陰部が割れて赤身の媚肉が淫靡な貌(かお)をのぞかせた。
 そこに老師が作務衣姿で現われた。
(え?)とみどりが意表を突かれた。
 淫儀の場の衣裳が、こともあろうに本来坊主の作業着たる作務衣とは――また、老師の性格の一端を見た気がして少しく可笑しくもあった。
 その作務衣が麗花の開かれた脚と脚のあいだに入って膝を着いた。裾は長く、下履きを付けているかどうか、その位置からはわからない。
 ただ、膝を直角に折り曲げた脚は枯れ枝の如く細く、随所にシミを見せて老いさらばえ、このような身体のどこから道場で見せた気魄が発せられ、技と鍛錬が発揮できるのか信じられなかった。
「お客人、もそっと近くへ」
「はいっ!」
 呼ばれてみどりが畏まった。正座姿勢のまま、いざって近寄ったが、
「そこまで」と制止させられた。そして、
「それ以上近づいたなら、媚薬の毒に当てられ、じっとしてはおれなくなる。まだ、そなたを抱くわけにはいかぬでな。ほっほっほ」
(!)
 はたから見れば主の客への遠慮としか取れぬが、ことばの真意を知るみどりにしてみれば、グサリと気持ちの芯をえぐられた瞬間でもあった。
「見えるかな?」
 鉄舟が身体をちょっとずらして、近い将来には、そこにはべる4官女の〈ほと〉のように剥き玉子にされるにちがいない麗花の、いまは淫靡な翳りにおおわれ、ちょろっと秘肉をのぞかせているその部分を見せつけた。
 見せつけておいて、
「隔たりの長さ2寸5分(約7〜8センチ)と見た。蟻の戸渡り(会陰)の距離ではなく、肛門と実(さね)、つまりアヌスとクリトリスの間隔だが、この者なかなか良い」と賛美した。
「これより狭いと下付きの女陰ということになり、性能としては下の品と書いて下品(げぼん)と呼ぶ。かといって下品とか下等とかいうことではないが、下品(げぼん)は接する男が腰を下げ気味にせねばならず、挿入するには具合が悪い。その点この者の上付き女陰は下品に対して上品(じょうぼん)と呼び、男にとっては快適な姿勢で交合(まぐ)わえる。良い品じゃ」
 指をあてがい広げたり、剥いたり、ためつすがめつ眺めつ講釈をまじえた。
 麗花は感じつつも鉄舟の気迫で石になっており、ただ、その間には女官の手で観音開きされた太腿の、ふくらはぎの小さな震えが快楽の証となった。
 指のぬめりを作務衣の裾にぬぐった。
 ふところから小さな棒状のものを取り出した。
 ふつうの印鑑ほどのものだが、蓋を取った先はざんばら状の穂先で、その1本1本には一定の固さが感じられて見えた。
 それを筆のように持って振りあおぐと、真っ直ぐ降ろしたところが麗花の淫部で、穂先でその部分を捉えられたとたん、
「ひっ!」
 目を剥いてのけぞり、十字の上体も、観音開きの下肢も電気を打たれたように反応した。
 背中をまるめて目のまえの股間をのぞき込む老師の、なにか得体の知れぬ〈獲物〉を持つ手は、微動だにしないようでいてかすかに動いているのだった。
(よほどの淫具――)
 その穂先が敏感の核に触れて快楽の電流を発し、とどめとばかりに女の悦びの度合いを熟知した老師が、そのもっとも適度な強さと速さをもって快楽のツボを直撃しているのである。
 そして、こんどは確かに手の動きが見とどけられて、
「うっ、ふぅーっ!」
 麗花が、のぼせ顔になってのけ反った。暴れる上体を、付きの女官が2人がかりで押さえた。別の2人も全体重をかけて脚と腰を動けなくした。その拘束度合いが強すぎて、関節を白くした白魚の手の指は痛々しいくらい麗花の二の腕に、太腿に深く食いこんで見えた。
「ああっ、うーっ!」
 麗花の喘ぎ声が、呻き声が際だった。
 手と脚と腰を押さえられた反動が残り部分におよんで、胴体だけの上体が蛇のようにのたうちまわり、背中を弓なりに反らせた。首を振ったり、後頭部を布団に打ちつけたりもした。
 その際にはぴちゃぴちゃと、淫具で刺激される〈ほと〉はおびただしい水音を立てた。
(はっ!)として、みどりが周囲の異様さに気づいた。
 正座して見物する巫女姿の女官たちのあいだから、熱い吐息と喘ぎが洩れだしたのである。互いに目は虚ろになり、息も荒げていた。襖一枚へだてた向こうの秘事に興奮し、くわえて麻薬の香にあてられた劣情現象だった。
 さもあろう。
 観音開きされて、淫具でなぶられる中心からは、とめどもなく淫水を湧きたたせ、口を開けかけたピンクの淫裂からあふれるものが布団をぐしょぐしょに濡らしてシミを広げていった。それを見せつけられ、興奮の血が騒がぬ者がいようか。
 麗花の口から――
「う、くくくっ、うーんうん……」
 抵抗する力が小さくなり、弱くなり、すっかりおとなしくなった麗花の閉じた口から、すすり泣きが発せられた。赤子がぐずるような泣き声を立てて首と肩がいやいやを繰り返す。そして――
 淫水を止めどなくあふれさせる〈ほと〉が、淫具の穂先を陰核に受けつつ、ピンクの秘裂をゆっくりゆっくり、まるで陽を受けた花びらのように開き、淫らな食虫植物となってぬめぬめと口を開けたのであった。
 霊と呼ぶべきか魔と称すべきか、恐るべし村雨鉄舟! 剣技において見せた老師の殺気覇気は、淫儀においては信じがたい妖気と狂気をはらみ、その霊力魔力をもってすれば女一人悦楽境の奈落に落とすことなど朝飯前だった。
 みどりは戦慄した。いつかこの男に屈服させられる日のくることを確実視し、背中が泡立つ思いにとらわれたとき、「ここまで」とばかりに、閨のなかから力が加わって、襖がすーっと動いて戸を閉じた。
 呆けて上気した顔の巫女たちが、痺れを切らしたように立ち上がって去り、みどりもつづいた。
 きびすを返そうとしたとき、
「うおっ!」
 なかから鉄舟老のケモノのような呻き。
 そして――
「ヒエエエーッ」
 麗花の絶叫が響きわたった。


_______生け贄


 ここは横浜港湾埠頭の桟橋である。
 すぐちかくで建設工事が行なわれており、ドリルや杭打ちの音でけっこうな騒音だった。
 番ヶ瀬組若頭が数人の部下をずらり横に引き連れ、かしこまっているまえに、神谷剛太郎が運転する4WDがすべり込んだ。
 後部席のドアを開けてみどりが降りると、若頭、酒井明が小腰をかがめ、ステッキを両手について端然と座る村雨老人にうやうやしくあいさつした。
「これはこれは鉄舟先生、わざわざのお越し、恐悦至極に存じ上げます」
「うむ。一番ヶ瀬君は元気かな」
 ちらっと一瞥して訊ねた。
 どこから見てもヤクザの幹部といった押し出しの酒井が、しゃっちょこばった。
「先生のお陰様をもちまして――」
「たまには顔を見せろと言っておいてくれ」
「はっ」
 身体を四角にしてお辞儀した。
 その間みどりは運転席の神谷に目くばせし、工具箱を受け取った。重そうに手に提げての去り際、村雨鉄舟に丁重に会釈した。
「では、先生」
「うむ。一番ヶ瀬君によろしくな」
 ちらっと横目を向けただけで応えた。
 ドアがバタンと閉まって、4WDは老人の指示でどこへとも走り去った。
「どうもまだ、御大が苦手のようですね」
「あの威厳には気圧されるわ」
 みどりの胸には、老人にいわれた一言がまだズキズキと腫れ物のように疼いていた。
 突貫工事の騒音に混じって汽笛が聞こえた。
 酒井がこんなことをつぶやいた。
「今年の2月、ここから百メートル先の廃倉庫で殺人逃亡犯を追いつめた刑事が銃を暴発させる騒ぎがありましてね。ちっぽけな新聞記事で、あまり問題にもならなかったが……」
「わたし、そのときはまだ日本には――」
 酒井の話はまだ終わっておらず、みどりの反応の途中に割り込んでつづけた。
「すんでのところで外したが、あれは犯人処刑の一弾だったともっぱらの噂ですよ。なにせ立て籠もり犯が婦女強姦魔でもあり、自分が女ということから正義感を暴発させたんだと――」
「え? 女刑事だったんですか?」
 ふっと9年前、北陸での一件で自分を追いつめにかかった女性警察官の顔が脳裏をよぎった。
 だが、酒井はみどりの疑問など無視してつづけた。
「それだけ〈うろん〉な噂がでているのに一片の釈明もなく、また大問題にもならないなんて、近ごろの警察はどうなってるのか」
 癒着はヤクザだっておなじだろう。自分らのことを棚に上げて一般市民のような口を利く。みどりは酒井の言い草が可笑しかった。
 倉庫内はシャッターを圧すほど中身がぎっしりだった。
「これだけ荷物に囲まれ、おまけにあの騒音だ。なにがあろうと外に洩れることはないですよ」
 自信を持った口ぶりが、これから展開されるなにごとかを期待させてドキドキした。
 積み荷のすき間を通って抜けたとき――。

 ぱんぱんに詰まった倉庫内のそこだけ一定空間となり、それはまさに異常な光景だった。
 天井の梁から全裸の若い女を縛りつけた十字架が吊られている。女は腹を下にして目は閉じているものの、意識がある証拠に首は垂れてはおらず、弱々しいながら息もまだついていた。
「よし、出せっ!」
 酒井のかけ声で奥から10人ほどの女たちが組員に追い立てられ、足音を乱して出てきた。そしてがらんとした倉庫の中央に並ばされると、仲間の無惨な姿を見上げて息を呑んだ。
 そのときになって気力も体力の芯棒もへし折れたのか、十字架の女はそれまで必死にもたげていた頭を垂れて、あとは死んだようになった。
「おまえたちも肝に銘じておけ」
 酒井が居並ぶ女たちに恫喝したとき、吊られた女の股間から一滴、二滴、それがコンクリートの床に落ちて真っ赤な点となった。
「あっ!」という愕きの声――
 見ればショートヘアーの美少女である。黒の革ジャンに男ものパンツ、靴はブラックレザーのスニーカーと、頭のてっぺんから爪先までボーイッシュで快活な雰囲気を発散させていた。
「あの子――」
 つい訊く気になって、酒井に顔を向けた。
「うちで使ってる女の一人だが……」
 なぜか口をにごした。
「いいんですか? あんな子を――」
「広い世間には、子の一人や二人いなくなったとて気にもかけない親もいるんですぜ」
 歯牙にもかけぬ顔でうそぶいた。
 少女も気になるが、どうやら十字架の女は拷問も受けていたようだった。高いところの暗がりでは目立たなかったが、よく見れば身体のあちこちに青あざ、擦り傷が無数に認められた。
「茜っ」
 いきなり名前が呼ばれて、さっきの少女がビクッと肩をそびやかした。それから先は、茜と呼ばれた少女に周囲の目があつまった。
 まだ、高校生くらいだろう。一見して少年のようだが、それは多分に緊張で表情がひきつっているせいだ。笑えばきっと愛くるしいくらいの美少女にちがいない。
「服を脱げ。全裸になれ」
「………!」
 一瞬には唇をぶるっと震わせたが、すでに覚悟を決めていたのだろう。淡々と命令にしたがった。
 片足ずつスニーカーを脱いで置き、冷たい床に靴下の足をついた。革ジャンを脱ぎ、セーターを脱ぎ、パンツまで脱ぎ去ると、華奢な腰に付けた下着はこれまた男物で、水色に濃紺の格子模様が走るボクサーパンツだった。
「ふんっ」
 酒井が小バカにして鼻を鳴らしたが、みどりは茜のボクサーパンツ姿を「なかなか似合うじゃない」と感心した。
 すらりと伸びた足に目を移したとき、白一色と思えたソックスはうっすらと花柄模様で、姿かたちで男子を気取っても気持ちはやはり女子かと、みどりは茜の素顔を垣間見た気がした。
 とはいえブラウスのボタンを外す動作も落ち着いており、やはりこの少女ただものでない。
(そういえばあの子……)
と、遠い記憶のなかの少女とダブらせた。
 ブラジャーを取り去ると、スレンダーな体型には不似合いなほど量感のある乳房がぷるんと現われ、全身小麦色の肌にそこだけ白く輝いて見えるほどみずみずしかった。
 残る下着も脱いで直立したとき、少女にしては潤沢なヘアーが恥ずかしい部分を黒々と隠していた。
「吊るせ」
 両手を取られ、頭の上へ。一つに束ねられた手首に縄が巻かれ、ぎゅっと締めつけられた。
 余分な縄の先がぽーんと天井に向けて抛られた。梁にかかって落ちた縄の先を取る者、引く者。それを2人がかりで吊りにかかった。
「うっ!」
 ぎりぎりっと締めあげられ、頭の上に伸ばされた手首が吊られていく。歯を食いしばって耐える茜の眉間に苦悶ジワが刻まれた。
 背が伸びあがって爪先立ちになる。が、その足も離れ、2センチ、5センチと爪先がそれでも床を求めて空しく足掻きながら、震えながら身体ごと宙に持って行かれた。
 そうして50センチほども吊られたとき、
「よし」
 酒井の片手が上がった。
 引き締められたロープの残り部分を、先に手首を縛ったロープと一つにして、最初のヤクザ2人は茜から離れた。
 代わって竹笞を持った大柄な体躯の男がでてきた。
「おまえを袖にしたクソガキだ。存分にやれ」
 兄貴分の許しをもらってニタリとした。
 笞の先をのばして、ボリュームのある胸の頂きに竹の節くれ部分をこすらせたり、先でちくちく突ついたり、そのたびに乳房が上へ、横へと向きを変えさせられた。
「くっ……」
 なぶられながら唇を噛んだ。豊かな胸の一撃に固く身がまえたが、手下は吊られた身体を押しやった。そのとたん、びゅうっと音がして、反転した背中に鞭が飛んだ。
 ビシッ、ビシッと肉を打つ音。
 さらに一撃、もう一撃――
 必死に声を殺していた茜の口から「ひっ!」という悲鳴が洩れた。
 攻撃は一点にしぼられ、ミミズ腫れのうえにミミズ腫れを重ねて、はやくも皮膚の一部が裂けて血を流した。見守る女たちは誰もが顔をしかめた。耐えられず目をそむけようものなら容赦ない平手打ちが飛んだ。
「きゃっ!」
 悲鳴をあげて倒れ込んだ女を、酒井が引っ立てた。
「どうだ。どんな気持ちだ?」
 そういって無理に顔を向けさせた。
 男好きする顔のその女を、酒井も意識しているようだった。そういえば茜が笞打たれている間中、なぜか酒井はこの女の表情をちらちらとうかがっていたものだ。
 そうしたあいだも、歯を食いしばって悲鳴をこらえる茜の背中は、ようしゃない責め折檻にミミズ腫れと裂傷箇所を増やすばかりだった。
 ビシッ、バシッ――
「うんっ! むーっ!」
 力まかせに振るわれる笞は、ときとして骨を打つボコッという音さえまじった。そしてそのときだけは「ひいっ!」という甲高い悲鳴を発し、天井に向けてまっすぐ伸ばされた茜の裸身のそこここに硬直の筋が浮き立った。
 茜の背中は鞭の条痕に埋め尽くされ、しだいに変わり果てた姿になっていった。
 そのまま捨ておいたら少女は死ぬまで鞭打たれただろう。ミミズ腫れのあちこちから噴きだした血が小尻に流れ、内腿にまで垂れるようになり、ようやく酒井の「やめ」の合図がでた。
 女たちから離れた酒井が茜に歩み寄った。
「おまえとおまえ、足を持て」
 手下が2人、右と左に立って茜の膝を両手で抱え持って開いた。
 陰毛に覆われた股間が、ちょうど目の高さの位置にさらされた。逆三角の下端手前に、ちょろっと粘膜質のピンク部分が露出し、ぬめって艶やかな輝きを発している。
 いきなり酒井が指を入れた。
「ひっ」
 茜がびっくりしたような顔で下を見て反射的に足を閉じようともがいたが、屈強な男2人の手で割り開かれた股間は隠しようもない。
 酒井の人差し指、中指は膣を蹂躙し、親指の腹でも別の敏感な部分を刺激した。しつようでねちっこい愛撫に、少女の恥ずかしい部分はいやがおうにも濡らされていった。
「ここは気を入れておいたほうがいいぞ」
 そんなことをつぶやきながら、指なぶりを繰り返した。
「くっ、ふぅーうっ……」
 少女の固く結んだ口から、拒否しながらも感じさせられ、その反応を隠しきれない屈辱が切ない喘ぎとなって洩れた。
 外の騒音とも隔絶されてしんとした倉庫内に、少女の喘ぎに、ぴちゃぴちゃとイヤらしい水音が混じった。
 にっと笑った酒井が指を出した。
 3本の指をこすりあわせて、たっぷりと凌辱のぬめりを確認したあと、
「ドスを貸せ」
 差し出した手のひらに、部下から鞘に入った短刀が一振り渡された。
「誰か、こいつのオマンコを開け」
 言うが早いか〈袖にされた〉張本人が茜の背後に回った。尻のあいだから両手をだし、人差し指、中指を割れ目に挿入した。
「うくうーっ!」
 歯を食いしばった少女の口が呻きを発した。
 陰毛といっしょに秘唇がぱっくり開き、ぬめぬめとしたピンクの膣粘膜の中心に、暗い空洞が口を開けかけた。
 短刀が柄から抜かれた。天井の明かりにかざした抜き身はにぶい光を放ち、それだけでは本物か模造刀かも分からなかった。
 その抜き身を真っ直ぐ立て、切っ先を無理に開かされた秘裂に挿入しかけた。
(まさか!?)
 みどりでさえ驚いた。
 女たちの動揺はひとしおだった。一同どよめき、恐怖のあまり仲間と抱き合う者さえいた。
 ただ、当の茜は大きく見開いた目が白目になるほど瞳孔を下に向けたが、すぐ観念して目を閉じた。
「動くなよ。すこしでも動くとどうなるか」
 そう言ってゆっくり入れはじめた。パックリ口を開けたザクロの中心の秘孔に切っ先が隠れ、刃の部分もすこしずつ入って行った。
「うっ」
 しっかり目を閉じた顔がぶるっと震えた。
 開かれた脚の爪先をぎゅっと握りしめた。
「うっ、う。はうっ」
 緊張と恐怖に身をこわばらせる吊られた裸身。手首を結ばれた二の腕も震えている。
 短刀が微妙に角度を変えたり、わずかにひねられたりして、女の路を慎重に探り当てる。
「あ、あはっ」
 せつなそうな喘ぎを洩らし、宙に浮いて開いたふくらはぎにも太腿にも緊張の筋がぴくぴく浮き立った。
 5センチも入ったとき、
「ひいっ!」
 それまでの喘ぎ、呻きとはきわだってちがった反応が起こった。
「うーっ」と唸って裸身がのけぞった。
 抜き身を伝ってゆっくり血が流れた。
「ちっ、もう切れたか」
 いまいましそうに舌打ちして、それでも酒井は短刀をちょっと引いてはまたちょっと進めを繰り返した。
「ううっ、うっうううっ!」
 少女の痛がりようは目立って激しくなった。したたる血の量も多くなった気がした。
「やっ、ああっ!」
 茜がはじめて悲鳴らしい悲鳴を発した。男の指で無理矢理開かされた股間から血を垂らしながら、苦しまぎれに上体をゆすった。
「マグロはどこまでもマグロだ」
 そんなセリフをほざいて、手が、背広の腕が血を受けながらゆっくりと短刀を抜いた。
 刃の血のりを服の袖でしっかりぬぐい、ぱちっと鞘に収めた。
「逆さに吊るせ。おまえは半田ゴテを――」
「待って!」
 部下への差配に、みどりが口をはさんだ。
「なにをする気?」
「あそこを焼きつぶすんだ」
「それじゃわたしの出番がないじゃない」
 だまっていたら殺されるか二目とみられぬ姿にされるか、どちらにしても役立たずとなる。
「わたしにも愉しませてくれるという話は村雨先生の口からの出まかせだったの? 死んだ木偶(でく)など相手にする趣味はないから、このこと報告するわよ。いいわね?」
“江戸の仇長崎”と見られようが、けっこうである。村雨老から受けた恥辱、床入りの間の媚薬による発情、それやこれやで高まったみどりの鬱憤と扇情は、なにかよほどの刺激をはけ口にしないかぎり収まりそうになかった。
「じゃ、あとは好きにするがいい」
 有無をいわさぬ迫力に気圧され、いかな酒井でも引き下がるしかなかった。


_______電気責め


 白いシーツを掛けた診察寝台ようのものが運ばれた。いっしょにSM道具を載せたワゴンも引っぱられてきた。用意がいいというより、ふだんからこういうことには慣れている証拠だ。
 茜を吊っていた縄が解かれた。
 寝台がすぐ下にきて、まっさらなシーツが茜の性器から垂れる血で点々と染まっていった。そこへ無惨な背中を見せる少女の全身が降ろされ、いったんはまっすぐ横たえられた。
「こういうぐあいに――」
 観音開きをジェスチャーで男どもに指示した。
 準備をさせておいて工具箱から手術用手袋を出してはめ、さっき酒井が吐いたことばの意味を尋ねた。
「“マグロ”って?」
「ああ。どんなにしても感じないクソアマだからそう言ったまでさ。こんな奴はマゾ奴隷以外使い道ないと思ってそうすれば、こんどは悲鳴も叫びもあげない強情ときやがる」
(それはあんたが女の身体を知らないからよ)
 肚のなかでせせら笑った。
 ふたたび工具箱からアルコールと脱脂綿とピンセットを取って、潤沢な陰毛のなかからのぞく秘唇の血をきれいに拭き取りながら、むらむらと嗜虐の感情がこみ上げた。
「この子をわたしに預けない?」
「面白みのないガキだぞ。あそこは小さいし、かといってアナルも未開発ときている」
(それがいいんじゃない!!)
 みどりはゾクゾクした。明日からあの手この手で両穴をフィスト調教してやろう、そう思うと妄想がつぎつぎ湧いてでた。
 狭い診察寝台での大の字縛りは無理で、手は頭のうえで組ませてあるが、胴体の一部と腰から下は観音開きで太腿、足首を縄で締めて台に固定した。いわば“カエルの解剖”ポーズだ。
 ワゴン上のアイテムは無視して、やはり持参の工具箱から、コードを付けた円筒形の黒い鉄のかたまりのような変圧器を取り出した。
「これが電気責めの道具か」
 茜にふられたという男が延長コードを手渡しながら感想を洩らし、酒井も加わった。
「スタンガンは強すぎて、女の悶え方がいまひとつだが、これはどうなんだ?」
 アメリカから持ってきた本格的な電気拷問装置もあるが、あれは無闇と見せられず、ここでは簡易変圧装置であるボルタックを用いることにして、茜の緊張した顔の横に置いた。
 延長コードと装置のコードを結び、さらにボルタックからもでている2本のコードのうち、1本の端のクリップをドライバーに結んだ。
 コードの中間に仕込んだスイッチを「入」にし、円筒形のてっぺんの変圧ダイヤルをわずか回して設定したところ、
「130ボルトまであるというのに、ただの10ボルト? それじゃ仕置きにならんだろうが」
 酒井の入れた〈ちゃちゃ〉などは無視した。
「椅子」
 憮然と言って、茜を鞭打った男に運ばせた。
 女たちにもヤクザどもにも見えるようまえは空けて、みどりは茜の腰のわきに座った。
「拷問するだけが能じゃないのよ」
 電気の“効能”をも含め、酒井ら男どもにたっぷりの皮肉を込めていった。
 ドライバーに付けたのとは別のコードの先をつまみ、クリップの口を開いて股間に向けた。
「うっ」
 クリトリスをはさまれ、茜が顎を反らせた。
「ちょっと痛いわよ」
 そう予告しておいて、こんどはドライバーの先を尿道孔に触れさせた。
「う、つうーっ!」
 顎をさっきよりはおおきく反らせた。
 十字ドライバーの先はつぶしてあるものの、初体験の身ではきついはずだ。
「これならどう?」
 ドライバーの先を寝かしつけた。
「あ、ああ……」
 苦痛の緩和が表情からも察せられた。
 寝かした状態からだんだん起こしていった。
「う、うう……」
 刺激は、まだそのままなはずだった。
 尿道孔にドライバーの腹をこすらせながら立てていく。そして性器に対して直立したとき、十字の尖端部がまた触れることになった。
「うっ……う、ううっ!」
 空いている手の指が割れ目に入り込んで揉みしだく。入り口付近は無傷のはずで、だから当然愛撫は効果をあげるはずだった。
「あ……ああ……」
 酒井いわく“マグロ”が、みどりの巧みな指技で反応しはじめた。やわやわと揉みしだく指は潤みを感じ、滑りを良くし、膣壁に快感の渦を起こしながらリズミカルに泳ぎはじめた。
「うっ、くっ……」
 茜の反応に準じて、観音開きで内向きにされた爪先がひくつきを見せた。
「さ、またちょっと痛いわよ」
 巧みな指なぶりをつづけながら、ドライバーの先を尿道孔に入れかけた。
「ひっ!」
 びくん、と喉が反る。観音開きの脚が閉じようとして足掻く、寝台ががくがく音を立てた。
「おしっこの出口に電気が流れているのよ。分かる?」
 茜が切なそうに弱々しく首を振った。
 そろそろ頃合いだ。
「さ、入れるわよ。すこしガマンしてね」
「あ、くーっ!」
 ぐらっ、がたっと、また寝台が音をたてた。
 慎重に慎重を重ね、おそろしくゆっくりと挿入していった。
「ううっ、くふうーっ!」
 鞭打ちではあんなにしぶとく声を耐えていた茜が、必死に歯を食いしばり、顔をくしゃくしゃにゆがめて身悶えた。
「むうっ! あっああっ!」
 イヤがってのけぞり、烈しく身をよじった。
 上体は苦痛にのたうちまわるが、腿、足首、そして腰骨の上の計5箇所の緊縛により下はびくとも動かず、執拗な電気責めからは逃れられるべくもなかった。
 すでに5分経過。
 待っていた反応が現われた。
「あ、ああっ……」
 苦痛の表情はそのままだったが、呻きに変化が生じた。そしてそのとき、ドライバーの先で塞がれた小さな穴から、とろとろと愛液がにじみ出てきた。
「ほぉー!」
 見物する男たちのあいだから小さなどよめきが起こり、女たちはハラハラしながらも、その目は食い入るように茜の性器を凝視する。
「電気でよがってやがる!」
「まだ苦痛の段階ですよ。でも、身体は先に反応するんです」
 そういっている間も愛液はたらたらと、すこしずつ絶えることなくしたたりつづけた。
 さらに5分経過。
「あーあっ! いやっ、やめてっ!」
 甘美な反応を隠しきれず、理性で抵抗していた。ただ、抵抗の証である拒否のことばも弱々しくなり、薄目を開け、口を半開きにしてよがり声をあげはじめた。
 みどりにとってゾクゾクする思いだった。
「この子気に入ったわ。とても電気と相性いいんだもん」
 そう感心している間も反応をつづける。
「あーあ、おーおっ……」という声は泣いているようにも聞こえた。
 シーツの赤い点のうえに尿道から染み出た愛液がかかり、血と愛液が混じりあってピンクの広がりに変わっていった。
(どう? すこしは見直した?)
 得意気な顔でみどりが酒井に視線を送った。電気責め第一弾は、女を「マグロ」としか見られぬ酒井への当てつけだったのだ。
 だが、そろそろ「拷問の醍醐味」とやらも見せておかないと村雨老人との約束が果たせない。
(気持ちいいのはここまで。明日からならいくらでも味わわせてあげる。だから、可哀想でも今夜はこれからたっぷり泣いてもらうわね)
 尿道からゆっくりとドライバーが抜かれた。

 椅子から立って茜の顔を見下ろす位置にきた。
「これからあなたを拷問するわよ」
「……………」
 茜が、はじめのときの強情顔になった。
 電圧を30ボルトに調整し、茜の豊かな乳房に手をかけた。親指の腹で乳首をこすったり、はじいたりして刺激した。
「………!」
 唇を噛む顔が感じていた。
「なにかあるなら言ったほうが身のためよ」
「い、言うことなどなにもないわよ」
「最初はみんなそう答えるわ」
 クリトリスからクリップを外し、さっき使ったドライバーのと合わせて乳首に挟みつけた。茜のすました顔がちょっとゆがんだ。
「ほんとはこんなことしたくないんだけど」
 ぬけぬけと吐く自分のセリフを自分で可笑しがった。
「こんどは、さっきとは比べものにならないくらい辛いのよ」
 これで素直に屈服したならつまらないが、ひきつった顔、結んだ口から返る答はなく、みどりは満足の思いでスイッチを「入」にした。
「むううーっ!」
 茜が烈しく呻いてのけぞった。コードを付けた乳房が、ぶるんとおおきく揺れた。
 呻きは一瞬悲鳴に変わったが、すぐに声を殺した。代わりに苦しまぎれに首を振り、ショートヘアーの前髪がばさばさと乱れた。
 10秒……20秒……みどりは腕時計の秒針をかぞえ、秒針がちょうど一回りしたところでスイッチを切った。
 がっくり首を垂れた口から、はあはあという喘ぎが洩れた。
 すぐまたスイッチを入れた。
「ぎゃっ!」とのけぞったあと、「うぐぐううーっ!」ものすごい呻き声を発して、首の筋がひきつり、汗ばんだ額には青筋が立った。それがぴくぴくと痙攣した。
 またスイッチを切った。
 がっくりとなる肩、腰、全身。そして烈しい喘ぎ声――。それこそ電気仕掛けの人形で、スイッチの切り替え、さらには電圧の強弱で跳ねたり、力んだり、反りかえったりする。
 電圧を一気に50ボルトに上げた。
 その設定を茜は目をおおきくして見ていた。
 トレイから大判ガーゼを2、3枚ひったくり、またたくまに折り畳むと、顎をつかんで無理に開けさせ、口に噛ませた。
 スイッチが押された。
「ひいいいーっ!!」
 上半身が右に左にのたうちまり、コードを付けた乳房がぶるんぶるん揺れた。拳をにぎりしめた両手がちぎれるほど暴れ、手首を縛ったロープが無惨なくい込みを見せた。
 一時金切り声を発したものの、ガーゼのかたまりの猿ぐつわを必死で噛みしめ、悲鳴を、叫びをこらえつづけた。
 スイッチを切った。
 すぐにまたスイッチを入れた。
 一瞬の悲鳴。そのときガタンッと音をたてて、茜の身体が跳ねたようにも感じた。悲鳴は押し殺した呻きに変わり、その呻きもすすり泣くような嗚咽に変わった。
 全身に硬直の筋がぴくぴく浮き立った。
 ………5分経過。
 電気は流されたままだ。
 ぶるぶる震わす顔の見開かれたままの目から涙が筋を引いて流れた。
「うおおーっ!」
 雄叫びのような呻きを発しながら、上体が弓なりに反りかえった。観音開きされた下半身も、緊縛拘束で暴れることはできなかったが、ふくらはぎや内股の筋を浮き立ててぶるぶる震えた。
 10分経過。
 くしゃくしゃの顔、しっかり閉じた目から悲憤の涙がまたひと筋流れた。
「さあ、もっと叫びなさい」
 みどりの手が、さらに電圧を上げていく。
「ぐぐ……!」
 太腿と足首、胴体を縛るロープが強烈な食い込みを見せ、下半身にくっきりと際だつ硬直の筋。寝台ががたがた揺れた。
「や、やめて、おねがい……」
 泣き顔、泣き声で哀願したのは、さっきから気になる女だった。
 みどりが変圧ダイヤルをひねった。
「ぐぎゃああーっ!」
 すざまじい絶叫。
 また、電圧を下げた。
「うううーっ! ぐふうっ!」
 叫びは呻きにもどったが、見るに耐えない苦悶の形相はつづいたままだった。
「なんだ? なにか言うことがあるか?」
 酒井が最前の女を追及した。がっしりと腕のなかに抑え込み、空いた手が服のうえから胸のふくらみを鷲づかみし、乱暴に揉みしだいた。
「や、やめて……あの子、死ぬわ」
「だったらおまえが電気を受けるか」
 みどりが気になって、そのほうに目を向けた。
 涙に濡れた顔の口元に艶ぼくろがあり、それが男好きする美形をさらに引き立てていたことをいまにして思った。歳の頃は34、5と見当をつけ、その熟女っぽさにもそそられた。
 すでに15分が過ぎた。
 茜の呻く声はいつの間にか小さくなっていた。
 電流が身体に馴染んだ証拠だ。
 スイッチを切った。
 がっくりと、また茜の全身が力を失った。
「よくがんばったわね」
 みどりが心から褒めた。
 そして、あらたなる嗜虐心に取り憑かれた。
 みどりの目が開かれた下半身に向けられた。
「まだまだよ。いや、これからなんだから」
 本格的な性器拷問に向け、みどりの心ははやる一方だった。

 ワゴンには、ひととおりの医療プレイ用具が載っていた。持参したものをわざわざ汚すことはないと思い、内視鏡はワゴンのを拝借することにして、やや大型のを選んだ。
 また椅子に腰かけた。
 逆手にかまえた内視鏡を、上から振りかぶって観音開きの中心にあてがった。ゆっくりと力を込める。器具の挿入につれて陰毛に覆われた秘部が左右に広がっていった。
「ううーうーっ」
 酒井が小さいと言った通り、この少女にこのサイズはきついにちがいない。おまけに傷を負っているのだ。突き通しながら、高まる茜の苦痛の呻きに嗜虐の炎は燃えさかるばかりだ。
「うむむむぅーっ!」
 歯をぎりぎり噛みしめて耐えた。屈服を知らない少女だった。耐え抜いて耐え抜いて、より烈しい責めと苦痛を招いて、それによって衰弱死することさえ望んでいるかのようだった。
「くふうーっ」
 すっかり挿入し、すっかり開ききった。うねうねと奥までつづく膣道は血まみれだった。強制拡張によって傷口もいっしょに広がり、じくじくとあらたな出血を招いていた。
「そら、見ろっ」
 酒井が例の女の首根っこをつかまえ、茜の股間のまえに突き出した。
「さあ、はじめてくれ」
 女の顔が逃げないようしっかり押さえて催促した。
 クリップが内視鏡の取っ手に結ばれた。あらたな器具としてワゴン上から先の尖った細身の鉗子を選んで、そこにもクリップをはさんだ。
 いったん電圧を「0」にした。
 まえの女にいちばんよく見えるよう内視鏡の角度を決めておいて、またも“憎さ百倍”の男に押さえさせた。そうしておいてなかをのぞき込み、鉗子の先を慎重に挿入した。
 傷口に触れた。
「ああうっ」
 力を込めてこじった。
「うあああうっ!」
 傷口をえぐられる痛みに叫んでのけ反った。
 だが、地獄はそのあとだ。
 電圧を加えた。
「おおおーっ!!」
 少女が叫んで目を見開いた。つぎの瞬間――
 パチパチッ!
 烈しく火花がはじけ散った。
「バカッ、しっかり押さえてっ!」
「なにっ」
 大の男がバカ呼ばわりされて一度は激高したが、みどりの形相にひるんで怒りを抑えた。だまって言うことを聞き、二度とショートを起こさぬよう内視鏡をつかむ手に力を込めた。
 電流を上げておいて、もう一度鉗子の先で突いた。
「ぎゃああっ!」
 目を見開き、断末魔の絶叫をあげたが、信じられない健気さでなお叫びを耐えた。全身を熱病患者の身体のように震わせ、拳を握り、爪先を握りしめながら歯を食いしばった。
「くくくっ、くひぇーっ!」と、食いしばった歯のあいだから奇妙な呻きを洩らしはじめた。
 とっさにみどりは、少女の思い詰めた顔からなにごとかを直感した。
「誰かっ」
「えっ!?」
「口を押さえてっ」
 間一髪口を開けさせたのを見とどけ、
「猿ぐつわっ。この子舌を噛むから」と、てきぱきと指示すると、勝手知ったる別の者がワゴンからボールギャグを取って茜に付けさせた。
 みどりがすごい勢いで椅子を立った。
 少女の顔のまえに行き、
「死のうとするなんて、見そこなったわよ!」
 言い放ってつぎなる趣向に移った。
 酒井は、もう茜の処置はみどりにまかせ、目をつけた女へのなぶりにいそしんだ。逞しい腕で羽交い締めにして押さえ、飽くことなく乳房をなぶりながら迫った。
「おまえが茜をそそのかし、ここから逃げようとしたんだろ? 正直に詫びを入れればこんどたけは見逃す。それともあくまでシラを切り、このまま茜を責めつづけさせる気か?」
 そう言われた女の顔に戦慄が走った。
 2人のやりとりを聞きながら、みどりは鉗子に付けた電極クリップを外して、ふたたびドライバーに結んだ。そして、その先を内視鏡のあいだに通して行き、子宮孔に突き立てた。
「う、うーっ!」
 茜の苦痛を歯牙にもかけず一気に突っ込んだ。電気は流れたままで辛そうだが、比較的感覚の鈍い器官と傷を負ってない膣への通電で苦痛はさっきより緩和されているはずだった。だが、電圧つまみを回転させた。
「がわわっ!!」
 少女の上体がのけ反った。
 男に目くばせし、内視鏡をつかむ手が男からみどりに交替した。そして筒の部分もふくめて鷲づかみすると、ゆっくりと回転させた。
 血あぶらで滑りを良くした膣は、いくらきつくてもアヒル口の回転をたすけて、金属のえぐれ部分が傷口をこそげ上げ、さらに傷口を大きくする激痛が悲鳴で歴然だった。
「ぐわあああーっ!!」
 ボールで口をふさがれた顔が目をいっぱいに見開いて絶叫した。
 みどりが医具を握る腕をおおきくひねり、一回転させては、また逆に一回転もどす。そのたびに悲鳴が高まり、医具を開いてぱっくり口を開けた膣からあらたな出血を見た。
「さあ、なにか言うことあるんでしょ?」
「おえーっ、うがあーっ……」
「しゃべりたくなったら握った手を広げて」
 みどりの詰問に答える代わりに、茜はしっかり握った拳をなお力を込めて握りしめた。
「良い覚悟だこと」
 医具を握る手がただひねるだけでなく、角度をつけておおきくえぐる動きをした。
「ギエエーっ!!」
 内視鏡ごと拡張部があっちにやられ、こっちを向かされし、残虐な蹂躙によって引き締まった腹部に痙攣が走った。腹筋が浮き立ち、浮き立ったあとでぷるぷるぷるっと痙攣した。痙攣はだんだんと烈しさを増し、電圧の凄さを物語った。
「ギャアアアアアアーーッ!!」
 耳をつんざいて絶叫が響きわたった。
 目を見開き、寝台に貼りついたようになり、それからすざまじい痙攣を生じさせた。


_______帰郷


 人混みをかき分けかき分け、美鈴は雑踏をホームへと急いだ。
 人波の向こうに中央改札が見えた。次いで上の時計も見上げ、時間に急かされながら入場券を買い、そして列につづいた。
 帰省ラッシュで、どこも人、人、人。そんなことは百も承知だったのに、今年はいつもとちがう、年の暮れだっておなじこと――その高揚感が見送りに向かわせたのだった。
 広い改札を抜けてすぐ、16番線ホームへの小さな改札をとおり抜けた。
 上野発K行き夜間急行能登は、すでに客の乗車をはじめたあとだった。あっちでもこっちでも人の列が一方向に動き、それがどんどん電車へと吸い込まれている。
「京子ちゃーん――」
「すずちゃん、早く早く!」
 手を振り合って2人の距離が近づいた。
 着いたときは、さすがに息を上げていた。
「ごめん。つい、店の人がたに呑みにさそわれ……うっかり時間見過ごしちゃった」
 腕時計を見い見い苦しい弁解をした。
「だから見送りなんかいいといったのに」
「梶君は?」
 もう一人をさがしてキョロキョロする。
「荷物持ってうろうろ、席、確認してるわよ。
 世話になった福原先生やら誰やらにって、土産がこーんなに!」とオーバーに両手を広げて見せた。
 美鈴が声を落とした。
「早紀ちゃんのお母さんにも会うんだろうね」
「うーん……」
 9年ぶりに里帰りすることになった拓也の、それが唯一重い宿題だった。
「それで、すずちゃんはいつ?」
「30日は月曜で、わたしの定休なんだけど出ることにしたから――その代わり2日、3日と休みもらえることになって。だから大晦日の夜行で帰るわ」
「じゃ、正月はみんなで顔合わせられるわね」
 2人笑い合ったところで、京子がずっと気にかけていたことを口にした。
「亮子さんとは、その後どう?」
 あれから美鈴は亮子から電話をもらった。そのすぐあとで、京子にも拓也にも亮子との関係を打ち明けたのだった。
「なんか、体調悪くして田舎に帰ったみたいなのよ。心配でマンションにも行ったんだけど、留守だったからまだ帰ってるんだと思う」
 北海道が郷里という以外、亮子のことはほとんどなにも知らなかった。それどころか、みどりとの関係も疑える謎の女性なのだが、京子にも拓也にもそこまでは教えていなかった。
 どう慰めたものかと京子が思案顔になったとき、発車を知らせるアナウンスが聞こえた。
 拓也が、やっと姿を見せた。
「やあ、美鈴ちゃん」
「じゃあね梶君、わたしもあとから行くから」と、さっき京子にした話を繰り返し聞かせたところで発車ベルが鳴りひびいた。
 二言、三言別れを交わし合ったあと、ドアが美鈴と2人の友をへだてた。
 京子と拓也を乗せた能登がホームを滑るように走り、たちまち目のまえを過ぎて行った。

 おなじ夜、2日前、茜が凄惨なリンチと拷問にかけられたおなじ場所で――ある惨たらしい目的をもった決定が、まるで宴会の日どりでも決める気軽さでなされようとしていた。
 すでに茜は拷問から解放されていたが、代わりに別の女が茜以上惨い仕置きにかけられていた。
「ギャアアアアーッ!!」
 衣を裂く絶叫といった形容そのものの断末魔が響いて、膝から下、肘から先を下に向けて台に固定された裸の全身が、がっくりと力を失った。首を垂れた女の口から赤いものが流れた。
「死んだ?」
 それまで器具で全開させられた局部に短刀を突き入れ、夢中でこじっていたみどりが、顔をあげてこともなげに訊いた。
「なに、唇を切っただけさ。このアマに舌を噛む度胸などはない」
 犠牲者は番ヶ瀬組傘下の売春組織のグループ長の一人で、外との往き来が自由な茜を抱き込んで脱走を図ったものと疑われ、きのう午後まで茜への惨い拷問を見せつけられ、暗黙の追及を受けていたのだった。
 大股開きの中心に突っ込まれてあるのは、9年前美鈴の級友渡辺伊津子に破瓜拷問をくわえる際用いられたみどり特製の“苦悩の梨”で、ミリ単位で開いて開いて開ききった筒部分は横幅10センチ以上もあろうかと思われ、血まみれの膣から短刀が引き抜かれた。
 刃の先は血糊でベットリしており、ただ切り刻まれただけでなく、刃の部分に電線が巻きつけられ、電流を流されていたのだった。
 その場に他の女たちはいず、ヤクザ共も屈強な数人の精鋭を残して引き上げていたから、いたぶりに参加しているのは2人だけだった。
「このアマも、もう使い物にならんか」
 酒井の見込みをみどりが否定した。
「男とちがうのよ。膣をえぐったくらいでなによ。女には獲物を食わえる口がたくさんあるのよ。それに全身性感帯、まだまだ使い道はあるわよ」
 笑ってうそぶいたら酒井の目が光った。
「だったら、こいつもアレに使うか」
「なあに? アレって」
 興味津々のみどりに、酒井が耳打ちした。
 話を聞くみどりの目が、たちまち輝いた。
 日本でそんなことができるとは夢にも思わなかった。9年前の“究極の儀式”を、またこの目で見られる、いや、ぜひとも参加せねば――。
 困憊した身体を毛布に包み、焦点の定まらぬ茫乎とした目で震えている茜のまえに、みどりが屈み腰になった。すっかりやつれた顔の額にほつれ毛がかかる。それを手グシで梳き上げて囁きかけた。
「あんたにも、それまでに女の悦びを教えてあげなくちゃね……死にたいと思ってる人間を殺すほどつまらないことはないもの」
 あとの半分は肚のなかだけで言った。
 足音がして、用心棒に案内されて神谷がもどった。その神谷に耳打ちされた。
「美沙樹という女が奴らに捕まったぞ」
 みどりの目がまたまた輝いた。
「あの“ブタ女”が? いい気味だわ」そう言ったが、美沙樹はぽっちゃり体型であってもデブではない。「ブタ」は憎さ百倍がいわせたことばだ。
「いよいよ面白くなったわね」
 そして面白ついでとばかり提案した。
「その究極の儀式、じゃなかった“スナッフ・パーティー”はいつの予定?」
 呑み会の日程でもたしかめる調子で訊いた。
「2月にはいってからになると思う」
「だったら14日にしてくださらない?」
 バレンタインデーでもあるまい。誰しもそう思うし、酒井もそう思って訊ねた。
 嗜虐にぬめる瞳に、さらに妖しい光が加わった。
「14日にしてくれたら、もう一人生け贄を提供するわ。その日は、その生け贄が愛していた子の命日なのよ。どうせなら、その子も恋人とおなじ日に葬ってあげたいから――」
 ぬけぬけと吐いて、そしてせせら笑った。
 美鈴の運命の日が、こうして設定されたのである。


――毒の章・5につづく――

―創作の記―

――参考資料:「拷問刑罰史」(名和弓雄著、雄山閣刊)/「図説・日本拷問刑罰史」(笹間良彦著、柏書房刊)/「江戸の色道・女色篇」(蕣露庵主人著、葉文館出版刊)/「特選実例集・伝統和風住宅」(講談社刊)

 この物語は、一部事実をもとにしたフィクションです。したがって、本篇で取り上げられる実在の事件、個人、団体名なども、いっさい物語とは関係がありません。
 さらに、登場するSMプレイなどは娯楽として誇張されています。特に、電気責めは直接“死”につながる危険行為であり、決して真似しないようおねがいします。
"美鈴呪縛"トップページ

全目次