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美鈴外伝・茜悲抄







 バン、バン、バン……激しい銃撃音が連続した。銃弾が頬をかすめ、壁や窓の桟に突き刺さった。
「逃げて! ここはわたしが阻止する!」
 味方に活路を開くべく必死に拳銃を握って応戦した。
「じゃあ、美鈴ちゃん頼む」
 まず宇津木一行(かずゆき)が、その彼について抗米レジスタンスに加わったおなじ警視庁の元刑事高嶋裕美も、
「これ、置いとくわね」
 銃弾をフル装填したスペア弾倉を置いて、さっさと裏口から逃げていった。
「調子いいなあー。すこしは遠慮してよ」
 そうぼやいて、美鈴はコルトの弾倉をいま裕美が置いていったのに差し換えて慎重に外のようすをうかがった。
 あとは鉄舟一門の精鋭、落合正義のみだが、
「俺は最後まで行動を共にするぞ」
 さすが“兄ちゃん”、苗字がいっしょなだけじゃない、頼り甲斐もある。
 よし、頑張れるだけ頑張ろう!
 ボンッ……
 それまでの銃撃音とは違う音。なにかが投げ込まれ、コロコロと床に転がり、それが朦々と白煙を噴霧させ、目や鼻を衝く刺激臭に応戦どころではなく拳銃を持つ手で顔を覆った。
「催涙弾だ!」
 振り返って咳き込む落合。
 ガス弾はどんどん撃ち込まれ、たちまち周囲は煙が充満して真っ白い闇になりかけた。
(捕まる!)
 相手はゲシュタポ並みに残虐な米軍グリーンベレー、捕まったあとの運命は……
 なにげなく振り返った美鈴に落合は、
「俺には耐える自信がない、先に行く!」
「お兄ちゃん!」
 美鈴の制止も間に合わず、〈ドーン!〉と耳をつんざく銃撃音が轟いた。
 その直後、ドアが蹴破られて乱入する複数の足音。またたく間に迫った。
 ガーンと後ろ頭に衝撃を受けた。
 あとは……

 はっ、と美鈴が目を覚ました。
 上体を起こして、枕元のパソコン画面を見つめた。そこには、国際人権機関アムネスティ日本支部の特集記事として、1970年代の中南米の拷問実態が列挙されていた。
(こんなの見ていたからだ)
 ふっと笑って別の画面にスクロールしたが、どれも生々しい記述で人に見られては困ると思い、その画面を閉じた。
 ちょうどそのとき、亮子がコーヒーを運んで入ってきた。挽きたての香ばしいブルーマウンテンの匂いが部屋中に充満した。
「パソコン、馴れた?」
「凄いねえ、まるで図書館並みだわ!」
 インターネットにあふれる知識の海におぼれかけての正直な驚きだった。
「でも、根詰めて無理しないでね。いまの美鈴ちゃんにはストレスがいちばんの大敵。パソコン預けたのは娯楽であって、むずかしい知識を吸収するためなんかじゃないんだからね」
「分かってるって」
 そういって身体を横に向け、亮子にウインクしてから、コーヒーカップを口に運んだ。
 悪魔の女、川村みどりとヤクザの酒井明が催した残虐パーティーの犠牲となり、想像を絶する凌辱、拷問を受けた美鈴は、身体ばかりか心にも傷を負って心療ケアを受けている身だった。
 同様の犠牲者はほかにもいた。
「あの子、どうしてる?」
 常に美鈴の心の一隅を占めている少女の面影があった。
「なかなかお医者さんにも心を開けないでいるらしいわ」
「………」
 じっと宙を見つめる美鈴の瞳。
 いつになく真剣な顔つきの美鈴に、亮子はなにごとか決心を感じ取った。

   

 茜はその時、解剖台のようなテーブルに寝かされていた。裸のうえに毛布が掛けられてある。
 扉が開いて医者がどっと入来した。看護婦やインターンを大勢引き連れ、メタルフレームのメガネをかけた40年輩の女医が入ってきた。
 渇いたヒールの足音が間近で止まった。
「今日こそは診察に応じてもらうわよ」
 有無をいわさずメガネの奥の目を光らせた。看護婦2人が毛布を剥いで上体を起こさせた。
「あ!」
 一瞬で全裸にさせられた茜の驚き。股間から覗く剥き身の割れ目に一瞥くれただけで、女医はポケットから聴診器を取り出し、さっそく診察を開始した。
「ラッセル音が、かなり不規則だわ」
 所見を述べつつ、目は華奢な肢体のわりにぷるんとせり出した量感のある乳房に向けられた。
 聴診器がしまわれ、また寝かされた。
 目がこんどこそ、まっすぐ伸びた裸身の中心、剥き身の割れ目にまじまじと注がれた。
「剃毛されたのね」
 剃り跡から判断した。
 全身の傷も子細に見ていったが、まずは寝ていても豊かな盛り上がりを見せる乳房に触れた。親指が乳頭を押しあげた。
「この低温ヤケドのような痕は電流斑よ」
「デンリュウハン?」
「電気拷問を受けたということよ」
 女医の説明に周囲がざわついた。
「ラッセル音の異常もそれで納得がつくでしょ」
 一同、興味深げに顔を見合わせた。
 女医が、さっきとは別のポケットから手術用の手袋を出し、それをはめた手で指し示した。
「こことここ……あと、ここにも。このミミズ腫れは鞭の痕でしょう。こっちのアザはヤケド。おそらくロウソクによる拷問の結果ね」
 ふたたび周囲がざわめいた。
「この患者は18歳。それが数十日間にわたる監禁生活のなかで、どんな体験をすることになったか。身体に刻印された傷がそれを物語るわ」
 ぐるっと周囲を見回した。
「こんな貴重な“検体”は、またとないわよ」
 そう言って〈にこっ〉とした。
 いきなり2人の看護婦に両脚を取られた。
「あっ」と起きかかると、インターンの一人が押さえつけた。
 それから両脚が膝を曲げて大きく拡げられた。
「みんな集中して」
 女医が手招きし、12、3人ほどのインターンが一所に固まった。前列が腰を屈め、その後ろのまた後ろは人と人のあいだから顔を覗かせるなどして視線が集中した。
 手袋の手が性器に触れ、指と指が開口具のようにして割れ目をめくった。
 見物衆が身を乗り出して発言もする。
「針の痕があります」
「肛門に向けて裂傷も見られますねえ」
「この爛れもヤケドですか?」
 インターンが矢継ぎ早な質問を浴びせ、それらに対して女医は適切に答えた。
「火責め、針責め、強制拡張……拡張にはコーラ瓶やビール瓶、人の拳が使われたかも知れない。その場合たぶん男だろうけど、女だとしたら両腕ということもあり得る、そんな傷だわね」
 酷い情況を仮定しての女医の所見――それらは多分に嗜虐的好奇心を滲ますものでもあったが、それを敢えてメモする者まで現われ、茜の屈辱は高まり心は傷を深くした。
 キャスター音を響かせて医療台車が運ばれた。が、それを無視して指が性器を捉えた。
「あ、あっあっ……」
 茜に凌辱と拷問の恐怖がよみがえって目を大きく見開いた。
「検査よ、検査なのよ」
 そうなだめておいて、無毛の肉鞘の中心に突起する陰核を指ではさんだ。
「ああっ、いやっ」
「検査なんだから、静かになさい!」
 なだめすかすというより、厳しく威嚇して愛撫を繰り返す。敏感なその部分は、羞恥におののきながらも妖しく反応するのだった。
「ああ、やめてください……」
 腰の横に伸ばした手が固く握りしめられた。
「どう? 感じる? これならどう?」
「あ……ああ……」
 身体の力が抜けていき、クリトリスの中心から下腹部全体にかけて快感の潮がざわざわと拡がった。快美感と共にじくじくと湧き立ち、発散するものを身内から感じた。
「ああ……あ、んー……」
 弱々しく首を振った。
 一瞬も見逃すまいと看護婦の手で開脚させられた下半身の中心を、背中を浮かせてひくつく上体を、巧みな指なぶりとそれに身悶える少女の表情を食い入るように見つめる目、目、目。
「ひいっ!」
 その瞬間、電気に打たれたように茜の全身がひくつき、それからぐったりとした。
 ぬめって光る手袋の指が性器から離れ、助手が差し出すタオルで指をぬぐう女医。
「性感は健在、まだ、十分セックスは可能」
 所見を言い渡し、つぎには内視鏡を受け取った。アヒル口の先にたっぷりローションを垂らしてぬるぬるにし、割れ目にあてがった。
「あ……な、なにを……!?」
「検査よ、検査といってるでしょ」
 茜には猫なで声で落ち着かせる反面、看護婦たちには冷酷な意志で目くばせした。
「暴れるわよ、しっかり押さえて」
「はい」
 看護婦もインターンも真剣にうなずき、太腿と肩を押さえる手に力が込められ、指が肌に深く食い込んだ。
 性器が開かれた。
 股間の中心を激痛が引き裂いた。
「ギャアアアアーッ!!」
 血と灼熱の記憶がよみがえった。

   

 夢から醒めた。
 茜は警察病院のベッドの布団のなかで、じっとりと寝汗をかいていた。
(誰か助けて……!)
 寝返りを打って頭を抱えた。
 もう、どうしていいか分からなくなった。
 2年まえまでの茜は、まじめに学業に励む、どこにでもいるふつうの女子高生だった。
 それがイジメを目撃、教師に告発したことで非行学生からは逆襲を受け、イジメ被害者は仕返しを怖れて無視、茜だけ孤立してしまった。学校は事なかれ主義で問題に蓋をしたのだ。
 大人が信じられなくなった。
 生徒も皆、不正に毅然と歯向かう茜を異端者とみなし、いつの間にか離れていった。
 親は放任といいつつ終始無関心。一人っ子の身ではほかに誰に打ち明けることもできず、やがて不登校を繰り返してゲームセンターに入りびたり、貴重な青春を空費するだけとなった。
 ある日、遊びの金も底をつき、行く当てもなく、家にもどった時――
 両親の寝室から洩れる妖しげな呻き声と物音に抜き足差し足で近づき、半開きの戸の陰から目にした光景の異常さ。衝撃と驚愕。
 あられもない姿でベッドとソファーに別れて抱き合う両親。それぞれのセックス相手は見たこともない男と女、つまりは2組の男女のスワップ現場であったのだ。
 言葉を失い、震えていると、
「なんだ、学校はどうした!?」
 父親は周章狼狽し、照れ隠しに我が子の非行をなじることしかできない。
 反対に母親は落ち着き払って開きなおり、あろうことかこう言い放った。
「茜ちゃん、欧米の先進国じゃこれが流行りなのよ。あなたも彼氏がいたら連れてらっしゃいな。けっこう刺激的で愉しいことなのよ」
 呆然とした。世界が逆転する思いだった。
「信じられない! パパもママも人間じゃない!」
 それっきり家を飛び出したのだった。
 行く当てもなく金もなく、自暴自棄から当時番ヶ瀬組若頭だった酒井のもとに飛び込んだ。すでに自分を捨てていた茜がヤクザ組織に身を投じた結果は火を見るよりも明らかだった。

   

 その日の客とは、八王子に向かう首都高速入口のそばで待ち合わせるとのことだった。
 目的地へ向かう車中で、
「もう、この世界で生きていく以外、おまえが生きる道はないんだ。それとも死ぬか?」と酒井は訊いた。
 死なせてももらえるのだ、と茜は思った。
「だが、死ぬのは辛いぞ」
「でも、一瞬だわ」
 酒井が凄みを利かしてニヤッと笑った。
「甘いな。楽に死ねると思うか?」
「え?」
「“死”にも金額が付けられんだぜ。高く売るために楽に殺すと思うのか?」
 酒井という男がどっぷり浸かっている闇社会――魔界と言い替えるべき裏世界の恐ろしさを垣間見たのは、その言葉を聞いた瞬間だった。
 先に来ている車のあとに停まった。
 中年の、身なりの立派な女が座る後部席に招じられて乗り込んだ。
 茜は覚悟を決めた。生きるも地獄、死ぬも地獄なら、とりあえずは生きてみる決心をつけた。
 車が走り出した。

 1時間ほど走った所――といっても車中目隠しされていたから、1時間というのも場所を特定されぬ目的ででたらめに走っていたら、これもまったく判断材料の役に立たない。
 そうして目的の場所に着いたあとも、目隠しは取られぬままだった。
 なにか花の香りが強烈に感じられ、広い庭先を有する屋敷内であるという印象を強く持った。
 廊下をどこまでも真っ直ぐ歩かされ、その間階段はまったく通らなかったから、そうとう広い屋敷であることは疑いようはなかった。
 香が焚かれていた。
 奥へ行くほど香の匂いは強くなり、同時に緊張感、胸の動悸も速くなったことから、なんらかの麻薬効果のある香だったかも知れない。

 あー……っ、あ、うーっ……

 出しぬけに聞こえた呻き声にぎょっとした。ただ、一瞬には、これも麻薬による幻覚作用かとも思った。
「ここよ」と言ってドアが開けられ、その部屋に数歩入ったところで目隠しを取られた。
「あっ」と声に出して驚いた。
 小会議室のような殺風景な部屋に一つだけあるベニヤ板とパイプで組まれた粗末なテーブル、そこに少女が全裸で縛りつけられ、左右の椅子に座った4人の女から弄ばれ、それを見守る者も数人。
「ゆるしてください、もう堪忍……」
「お金が欲しいんでしょ? そのため、どんなあつかいも覚悟してきたんじゃないの?」
 乳房を揉み込み性器を嬲り、胸からうえをたっぷり開けたスリップドレスを着た女たちの指嬲りは執拗に、濃密につづいた。
 少女の股間を向けた側にも誰かいて、
「こんどは手荒く」
 ついたての陰からハスキーボイスの女の声が聞こえた。
 指図を受けて、傍らの台車に手を伸ばした女の手に刺激的な形の張り型が、それを陰毛のなかに覗く性器の割れ目にあてがった。
「ううっ」
 淫具がみるみる秘裂を割り開いて性器に挿入され、歯を食いしばって上向いた少女が「あーっ」と悲鳴をあげた。
 四肢を縛られ、ほぼ大の字の全裸の全身が苦悶に身をよじった。苦悶の形相に興奮し、責め女の張り型を操る手が激しく前後に動く。
 ずぶずぶと音を立てるほどに淫具がピストン運動をつづけ、少女の悲鳴が悲痛に響いた。
「うしろも責めよ」
 ついたての向こうの声。女たちが一部移動して、2人がかりでお産ポーズに抱えられた少女に、責め役が新たな張り型を受け取ってアヌス穴にあてがった。力を込めて押し込んだ。
「痛いーっ!」
「薄汚い淫売が人並みな口を……『痛い』だの『やめて』だのは禁句と言ったはずよ」
 手の空いた下女がしたたか頬を張った。
 挿入がより惨たらしくなった。アヌス穴に突き立った性具が、力を込めてひねられた。
「あ、ぎゃあっ!」
 3人がかりで脚を、腰を押さえられた上体が蛇のようにのたうちまわった。
 両手に責め具を持って憑かれたように少女を小突く責め手の熟女の顔は、サディスティックな欲望を満たして醜く口元をゆがめた。
(もうすぐわたしもおなじ目に……)
 我が身が責められているようで、茜の緊張と不安は頂点に達した。
「茜とやらはきたのか?」
 時代がかったセリフがついたてのカーテンの向こうから飛んできた。さっきからちらちらこちらを見る下女のようすから感じ取ったのだ。
「つい、いましがた」
「では、それまで」と張り型レイプが中断され、ついたての陰から命令主が姿を現わした。
 170センチはあろうか。見事なプロポーションを花柄刺繍のスリップドレスに包んだ肢体の艶やかさ。鼻からうえを仮装用マスクで隠した顔が異様だった。
 その日茜は好みのスタイルを通させてもらい、ショートの髪型だけでなく、頭から爪先まで男物の格好でその場に来たのだった。
「お嬢様のまえに出るのにこのような……」
 下女たちは眉をしかめるが、
「良い良い。ふだんの格好でとは、わたしが酒井に申しつけたことなのじゃ」
 興味深げに、まじまじと見つめた。
「ふむ。なかなかに……」
 頭から爪先まで眺め下ろし、
「脱げ。裸になれ」
 きっぱりと命じた。
 覚悟を決めて服を脱ぎはじめた。
 まず、スニーカーを脱いだ。
(飛び降り自殺のまえに靴を脱ぐ気持ちもこんなかな)
 そんなことを思いつつ、そのあとは革ジャン、セーターという順番に脱いで行った。
 ブラウスに手をかけた時には、ガラにもなく乙女チックになっていた。
(このボタンを外している間に、誰か助けにきてくれないかな……)
 そんなささやかな望みもゲーム感覚だった。ボタンはできるだけ時間をかけて外し、つぎには花柄模様のソックス。「神様、早く!」と最後の焦る願いを託し、ゆっくり手をかけた。
 下着だけの姿になった頃には、もう、諦めていた。あとは機械的にブラジャー、ボクサーパンツという順に脱いで全裸になった。
 裸になって向かった時、仮面の目が股間のデルタに注がれた。
「毛ぶかいのー」
 黒々と茂れる密林を眺めて嘆息をついた。
「はじめろ」
 命令一下、茜は下女たちに取り巻かれた。床にビニールシートが敷かれ、そのうえに寝かされた。あおむけに手足を広げられた。

“鬼姫”――なにか時代がかった雰囲気から、言葉づかいからそう表現するしかない――はウイスキーグラス片手に、椅子にふんぞり返っての高見の見物を決め込んでいるようだった。
 一人ずつに両手で四肢の先を掴まれ、4人がかりで大の字に開かれた茜の全裸全身。それを舌なめずりしながら主(あるじ)は悠然と見下ろした。
「たっぷりと泣かせてやれ」
 顎をしゃくり、差された下女がスリップドレスの前ボタンを外し、もろ肌脱いで豊かな乳房を垂らした。
「では、たっぷりと……」
 婉然と微笑んで下女はやにわに乗り上がり、身体は円を描きつつ、頬ずりし、キスし、両手もフルに働かせ、全身を使っての愛撫攻撃で胸から腹へ、腹から腰へと下降していった。
「あ、あふう……」
 のぼせたような茜の喘ぎ。
 乳房を揉みしだく手はときおり爪を立て、指を食い込ませし、茜の性感はびりびりと反応した。乳首がつままれ、乳頭がひねられた。
「あ、あ、ああ……」
 同時に舌は秘所へと降りてくる。
 ネンネの身では快感どころではなかった。また、両親の忌まわしい行為を見たこともある。性的行為に対する嫌悪感は、異常なプレイへの羞恥と恐怖心を高まらせ、戦慄が背中を貫いた。
「いや、やめて」
「なに言ってるの? 好きなクセに」
「ウソよ、そんなこと」
 茜は激しく否定して首を振った。
 指が性器をまさぐった。
「ひいっ!」と、びっくりしたような悲鳴。
 嫌悪する心とは裏腹に、じくじくと愛液を湧き立たせる秘所粘膜を掻き回しながら、凌辱の指は早くもイヤらしい水音を立てている。
 ぴちゃぴちゃ音をたてつつ寄せては返す快感のさざ波。その波長がだんだん強く、長く感じられ、絶頂の高みへと昇りつめていった。
 愛撫に2人目が加わった。
 1人目が離れたあとを引き継ぎ、寝ていても盛り上がりを見せる豊かな乳房に両手をかけた。手に余る乳房を精一杯掴み、揉みしだいた。
「あう、あ、ああ……」
 茜の喘ぎが強くなった。
 大の字に拡げられた手足が、内に籠もろうとして手首足首に硬直の筋を浮かべた。
 2人目が3人目に代わり、延々4人目に代わる頃には、茜の全身、汗でローションを塗りたくったように輝いた。
「そこまで!」
 また、鬼姫が仕切った。
 茫乎とした顔を上げかけた茜の瞳に、琥珀色の液体を満たしたグラスを傾け、淫猥な笑みを浮かべる、その場のボスたる仮面の女。
「つぎ!」
 新たなる展開――。
 ぷーんとなにか匂う。
 下女から別の下女に火が手渡された。
 灯心を揺らめかせたロウソクを掴んだ下女が、4人の仲間によって四肢を大きく開かされた茜に近づいた。
「いや、いやぁ……」
 炎に怯えて身体が逃げかかった。支点としての手首、足首は逃げようがないが、それ以外は押さえられているわけではなく、腰が暴れることで黒々とした密林も右に左にうごめいた。
 鬼姫が身を乗り出して見入った。
「それにしても毛ぶかいのー」
 再度、感想と嘆息を繰り返した。
 下女の手にゆらめく灯心のロウソクが下を向いた。
「あっ、ああ……」
 ぽたぽたぽたと、熱いしずくが乳房に、胸元に垂れて、肌に貼りつく赤い熱ロウの点々が血の痕のようだった。
 炎がなお低い位置に迫ってきて、したたるロウが熱さを増した。
「ああ……!」
 耐えがたい熱さ。焼け針でチクチク刺されるような痛さに顔をしかめた。
「茜とやら、可愛いいぞ。もっと泣け、叫べ」
 責め役の下女が、またロウソクを傾ける。
「あつーっ、熱いです!」
 手足を引っぱられ、頭を押さえつけられ、熱さからも恥ずかしさからも逃げるべく懸命に身を揺すった。寝ていても豊かな盛り上がりを見せる乳房が暴れるごとにぶるぶる揺れた。
 赤いロウのしずくは、みずみずしい乳房を醜い血の色のあばたに変え、その浸食範囲を胸元から腹へ、その下へと広げていった。
「ああ、うああ……ああっ……」
 潤沢な陰毛のジャングルにも赤い点々が記された。やがては陰毛のなかに覗いたピンクの淫肉にも一滴、二滴と降りかかった。
「きゃっ、ぎゃああっ!」
 けたたましい悲鳴が上がり、悲鳴に驚いてかロウソクの炎が一瞬高くなったが、つぎには上げたり下げたりを繰り返して、責めにバリエーションを加えた。
 こんどは頭のうえで止まったままだ。
 そうして焦らすようになにもせず、その間ロウを溜めておいて、たっぷり溜まったところで、こんどは鞭のようにロウソクを振った。
 びしゃーっ、ばしゃーっと大量のロウが陰毛の土手に、性器の割れ目に飛び付いた。
「熱いーっ! あ、あー、いやっ熱い!」
 悲鳴が断続的に繰り返された。苦痛に反応する四肢の突っ張りぐあいも時々に変化し、太腿やふくらはぎがぴくぴく筋立ち、爪先が突っ張ったり反りかえったりを繰り返した。
「あーっ! あ……はあっ……はあ、はあ、はあ……」
 悲鳴は喘ぎに変わった。
 ひとしきりロウソク責めで炙られ、さっきまでローションを塗ったように輝いていた全身は、いまは血のような赤いロウソク痕といっしょに汗みずく、凄惨な様相を呈していた。
「ロウソクはそれくらいでいいだろう」
 そう言って鬼姫は汗とロウにまみれた全身をしげしげと眺めまわした。
「醜いのう、これでは興醒めじゃ」
 ぷいと顔を背けて関心を他に向けた。
「おい、またおまえだ」
 ベッドのうえでぐったりしている最前の少女の頬をつまんで自分の方に向けさせた。
「こんどはこいつだ」
 握り拳を作って顔のまえに突き出した。
 茜は下女の一人に引っ立てられた。
 どこへともなく案内され、よろよろとよろけながらついて廊下に出て行った時、後ろで少女の絶叫が叫ばれた。

   

 スリッパの音をひたひたさせていずこかへ向かう途中、少女の悲鳴が絶え間なく響いて茜の心を寒々させた。
(なにをされているのだろう)
 自分もおなじ目に遭うのだろうか。いや、もっとひどい目に……。
 客からは、かなり高額な金をもらっていると酒井は言っていた。ただのエッチで済むはずのないことはとっくに承知のはずだったが、その恐怖感がますます現実味を帯びて迫った。
 廊下の突き当たりを曲がったところに五右衛門風呂の浴室があった。
「お風呂できれいになるまえに、お浣腸するわね」
「オカンチョー?」
 それが浣腸のことであるなど、注射器の化け物のようなガラス器具が実際でてくるまでは分からなかった。
「なぜそんなことを」
「四つんばいになってお尻を向けて!」
 質問も口答えも許されなかった。
 固い嘴管がアヌス穴に突き刺され、冷たい液が大量に投入された。
「15分我慢するのよ」
 もとより拒否は許されない。それからトイレに座らされ、腹のなかで便液の逆流に抗う苦痛の時間。勢いよく排泄がぶちまけられるまでの、たまらなく長く感じた時間との闘い。
 浴槽に浸かって汗を流し、ぽつぽつと浮かぶロウの欠片を見つめながら、遠くに少女の悲鳴を聞きながら不安と恐怖がまた募った。

   

 桜色に火照った湯あがりの身体を、バスローブ1枚で包んで元きた廊下をスリッパの音をさせてもどる時、すでに少女の悲鳴も呻きも尽きていた。
 案内の下女がその部屋のまえを過ぎ、一つ隣り部屋の戸を開けた。
 最前の下女たちが神妙な顔で待ち受けるなかへ、手振りで「入れ」という指示。
 間接照明の薄暗い和室の間。ここも窓一つなく、隅っこにダンボール箱が無雑作に積み上げられ、陰気で湿った雰囲気からは物置か、ちょっと広めの女中部屋といった感じ。
 背後で襖の閉まる音。
 離れにトイレがあるのか水洗の音がして、奥の暗がりから仮面の鬼姫が姿を現わした。つつつーと足早に近づき、一つ敷かれた布団のそばに正座する茜の横にでんと腰を着いた。
 やにわにバスローブが剥ぎ取られた。
「綺麗に磨かれたの」
 満足そうに笑い、じっと身を固くしている茜の顎を取り顔を向けさせると、その手がすぐ下の量感のある乳房を鷲づかみした。
「!」
 ぎゅっ、と握られたがこらえた。代わりに口をへの字に結んで相手を睨む形になった。
「しぶとそうな面がまえよ」
 感心して手が乳房を離れ、布団を指差した。
「そこに仰向けに寝るのじゃ」
 なにをされるにしても素直に応じるしかなく、正座から四つんばい姿勢になって布団へ移動し、いわれたとおり仰向けに寝たところ、4人の下女が取り囲んで手足を掴んだ。
 両手は頭のうえで組まされ、両脚はカエルの解剖図のような観音開きにされた。
「それにしても毛ぶかい!」
 これで3度目。仮面の目を光らせて、その部分を凝視した。
「これを」と下女が医療用の薄いゴム手袋を差し出した。
「直にさわりたい」
「いえ、このような下賤の者、直(じか)には汚らわしいことなのでおやめください」
 そう言って下女は鬼姫の手のひらを広げさせ、甲斐甲斐しく手袋をはめさせた。
(いったいなにを!?)
 開かれた両腿のあいだから2人のようすを窺い、茜は極度の緊張と、異様な興奮に胸の鼓動を高めた。
 手が性器に入り込んで、茜は苦痛に呻いた。愛撫などという生やさしいものではない、手そのものを強引に入れかけてくる。
「ひやあーっ」
 首を振って暴れたところ、うえに回った下女の一人が自分の体重をかけてのしかかり、乳房を揉みしだいた。
「なにを……なんなの?」
「ペニス以外入れたことないの?」
 蠱惑(こわく)する顔で笑いかけ、力を込めて揉みしだいた。
 茜が鬼姫の魂胆を察して驚嘆した。
「いやああーっ!」
 目を見開いて叫んだとき、冷んやり、ぬるぬるした感触が股間に伝わり、大量のローションが垂らされたことを覚った。液をまんべんなくなすりつけながら指が、手が侵入を開始した。
 ぬるっ、ずるっと入り込むたびに蜜壺を拡張される痛みに襲われる。
「いや、やめてぇー……」
 痛みと恐怖で涙声になった。
 ぐい、とこじ開けつつ手刀が一気貫通した。なかでさまざまに形を変えて暴れまくる。指が膣壁をこすれ、爪で引っ掻かれたりもした。回転するごとに、ぐちゃぐちゃ音をたてる。
「ひやあーっ!」
 奥まで突っ込み、ゆっくりと引き抜く。その時には手刀は拳に変えられ、拳のいちばん太いところでメいっぱい割れ目を開いて留め、そこで角度を変えたりひねったりする。
「いやっ痛い!」
 苦痛に暴れることで、なお痛い。その苦悶の表情をじっと見つめ、どこをどうすれば痛いか学習しながらまた突っ込む。つぎに引き抜く時は茜の悲鳴は叫びに変わっていた。
 拳によるピストン運動がだんだん加速した。
 やがて身体ごと突っ込んできた。鬼姫の体重をともなった拳が膣の深奥部にめり込み、余勢をかって内臓ごと押し上げられて卒倒した。
「ぐええーっ!」
「ぎゃあっ!」
「ぐひいっ、やめてっ、壊れる!」
 叫びを連続させて性器破壊、子宮崩壊の恐怖に戦慄した。
 強烈な拳ファック攻撃はしばらくつづいたが、やがてそれにも飽きた。
 右手挿入を保っておいて、なおかつ右手が割れ目のあいだにすき間を作り左手までも迎え入れる行為にでた。ずるっと入りかける。
 まさかの両手挿入であった。
「むああーっ!」
 激痛にのけぞった。
「いやだあーっ」と首を振るが、その間にも鬼姫のダブルフィストへのチャレンジはひるむことなくつづけられた。
「痛いっ、痛いーっ! ぎゃあっ!」
 茜の苦悶に興奮しつつ励むが、恥骨に邪魔され鬼姫の2本目の腕は先っぽ以上は入っていかなかった。
「こいつ、なかなかにしぶとい……」
 酷いプレイの貫徹に執着する仮面の外の額にも頬にも汗が浮かんで、息をあげているのが茜からも見て取れた。手こずるほどに極まる痛さ。
 鬼姫がついに諦めた。
 業を煮やした腹いせは下女を督促した。
「わたしでよろしいので?」
「米子(よねこ)の拳は男も顔負けだからのお」
「あんまり嬉しくない褒め言葉でございますよ」
「そう言うな。グローブ並みの手ならダブルフィストの予行演習にはもってこいなんだから」
 その言葉のすぐあとに激痛が襲った。
 まず鬼姫が、激しい抽送で赤剥け濡れそぼつ淫裂をカギ裂きにしてすき間をつくり、そこへ下女の拳が入りかかる。
 熟練の拳姦テクニックにより、あとは一気呵成。「うんっ!」と気合いを込めたと思うや、上体の重みをかけた拳が少女の局部を残虐に最大拡張して入り込んだ。
「ギャアアーッ」
 絶叫が長く尾を引いた。
「うわっ、凄い!」と鬼姫。
「熊が欠伸(あくび)しているようよ!」
 若い下女の形容の可笑しさに周囲から喚声があがった。
 男並みの拳を食わえた陰毛が縁取る陰唇。いったんは口を開け、つぎには生身の凶器を呑み込み、あとは手首を残し愛液、粘液をしたたらせた。
 機械的なフィスト連打が開始された。
 出し入れに合わせたように繰り返される切ない呻き。悲鳴は叫びになったり、溜息じみたよがり声になったり。技巧をきわめた熟女の拳姦は、いつしか茜を倒錯地獄に酔わせていた。
「ああ……ああーあ……」
 嗚咽のようなよがり声が発したかと思うと、
「きええーっ! いひいーっ!」
 突如として怪鳥のような叫び声――うえでは若い下女による乳房なぶりが執拗につづけられ、茜は半狂乱の忘我の境地だった。
 やがて長い時が過ぎた。
 ぐったりとし、全身を汗で光らせ失神したような少女の裸身。その中心からゆっくりと拳が引かれた。陰毛の性器がくわぁーっと口を開け、拳のいちばん太い部分が抜ける刹那に、
「ひ、ひいーっ!」
 汗を吹いた全身が、手がシーツを掻きむしってのけぞった。
 ずぶどろの、ふやけたような手袋の手が抜けて、陰毛の性器がすぐにはすぼまらず口をあんぐりしたままの状態をとどめた。
 愛液、体液がローション液と混じってぽたぽたシーツにしたたり、糸を引いた。
 鬼姫の仮面の目くばせ一下、ごろんと茜の全身が反転させられた。
 茫乎とした顔のまま、ぐったりしたままの茜。
「見ろ、こいつのアヌスを――ジャングルが後ろの穴にまで繋がっているぞ」
 くくくと含み笑いする鬼姫。
「剃っちゃいますか?」
「この方が面白い、なあ米子」と、この姫ありて、この乳母ありきといった感じの先輩下女に相づちを求めた。
「そうですとも」
 若い下女らを尻目に大きくうなずいて見せた。
「では」
「はい、ご存分に」
 その直後、冷んやり、ぬるぬるした感触をこんどはアヌス穴に、その周り一面に受けた。
「ひえーっ」
 こんども、まさかの展開にあわてふためく茜。
「そんなとこ、お許しを!」
「バカ。なんのための浣腸だと思った!」
 そう言って指がねじ込まれ、ぐいぐいと苦痛が肛門を襲った。
 逃げようとする背中に下女の一人がのしかかる。別の下女は両手を頭のうえで押さえつけた。
 足首はとうに開かれ、これも閉じることはかなわず、空しく中間をばたつかせるのみだった。
 ぐちゃぐちゃという音が聞こえた。アヌスに手刀が差し込まれ、指が1本から2本に増え、括約筋を押し広げにかかった。
「いやああーっ!」
 茜の悲鳴。同時に鬼姫が狂喜した。
「見て、ほら! 手首を食わえた肛門よ。陰毛だらけの口がオマンコのよう!」
 鬼姫がはしゃぎ、下女もはしゃいで「凄い」「凄い」を連発した。
「どうだ、これが見たかったのだ。性器が2つあるようじゃろう」
 得意になって解説した。
 手がぐいぐいと押し入った。ローションの滑りに助けられ、ぬるっと入りかけるが、括約筋のしぶとさに押しもどされる。
「堅い! さすがにアヌスは……」
 早くも息を上げた。
 またきた。こんどは強く押し込まれた。
「ぬああーっ!」
 激痛に茜が激しく首を振った。のけぞった。
 年増の下女が呆れ声を出した。
「お嬢様って、ほんとに力がないんですわねえー。も少し鍛えなくてはいけませんわよ」
 思いあまって出過ぎた口を利いたが、それを叱ることもなかった。
「どうするのじゃ、なんとかならんか」
 泣きついて加勢を求めた。
「では、このように……」
 下女の口調が無気味な様相を帯びて茜は緊張に身を固くした。
「おお、そうか。さっき、そちがやったようにやるのか」
 そう言った時、明かりが翳り、鬼姫が膝立ちしたのだと感じられた。
 そばの若い下女から耳打ちされた。
「気を楽に。けっして力んではダメ」
 思いもかけぬやさしげな言葉。だが、「力むな」と言っても状況が状況、急には無理だ。
 向こうではいよいよの態勢。
「左手を添え木のように当てて、そこへ体重をかけて押し込むんです。こうです」
 先輩下女が手取り足取りの指導だった。
「ひっ!」
 秘孔を押す異物感に強さが加わった。激痛が拡がりかけた。
 また耳元で若い声。
「吸って吐いて、深呼吸を、すこし早めに繰り返して。はあー、すうー、はあー、すう……」
 言葉だけでなく自分から実際やって見せた。
 それを凝視し、茜は自己暗示をかけた。「力を抜いて」「息を吸って」「吐いて」心に唱えながら深呼吸を共にした。
 激痛は突然にきた。
「いや、ギャアッ」
 深呼吸どころではなくなった。が、横では若い下女が相変わらず伝授している。手をなびかせて「しっかり」と無言の応援。
「くうっ! ふうー、ああー……」
 激痛に耐え、汗で光る顔を震わせながら、歯を食いしばって深呼吸を繰り返した。
「う、むむむ……!」
 局部が変調をきたしたのはその時だった。肛門括約筋のゆるみを感じた。秘門がゆっくり開いていく感じだった。口を開けていくのが身内から感じられた。同時に痛みの急上昇。
「うあ、あ、あ……」
 開く、開く、それを感じながら、思い描きながら、
「ギャアアアーッ!」
 耐えがたい激痛に首を振って叫んだ時、体温を持った異物がズボッとすっぽ抜けた感じがした。
「入った!」
 鬼姫が喚声を上げた。
 今度はなかに入ってくる異物感。どんどん侵入して直腸奥で止まった。なにかにめり込み、そのなにかをきりきりとえぐる鋭い鈍痛。
「なかで拳にしてごらんなさい」
「分かった!」
 下女頭と鬼姫のやりとりのあと、直腸深く暴れるものを感じた。えぐり廻し、掻き廻し、手刀は拳に変わった。
 そいつが回転しながら後退した。
 ゆっくりと後進し、外に近づくにつれてアヌス穴をまた押し広げた。苦痛がぶり返した。痛みが強まった。
「いやあっ、痛いーっ!」
 激痛にのけ反った。
 その顔を取って助言をくれた下女が頬ずりしてきた。
「だいじょうぶ、すぐに馴れるわ」
 甘い言葉を囁きながら背後から抱きつき、激情に憑かれたように乳房を揉みしだいた。
 アナルフィストは激しさをきわめた。ずぶっと突き入り、S字をえぐり込む。この時が最もつらい時だった。
「いひいっ」と顔をしかめ、固くシーツを握り締めた。
 顔をしかめ、悲鳴を洩らす、が、そのあと拳はひねりを利かして後退し、入口を押し広げて関節のいちばん太いところで、また留まる。それがまた痛さが極まるところでもあった。
 それの繰り返しだった。
 ピストン運動は速さと強さを増していった。
「ああっ、いやっ、ああ……ああっ……」
 茜の苦悶に鬼姫の笑い声が重なった。
「見ろ、米子。こうして見ると正に熊の欠伸。あいつめ、うまく表現したのー」
 拳をいちばん太いところ、つまり最大苦痛を与えたままで後輩下女の形容を褒めそやした。
 十分観察したあと、また拳を突っ込む。引いては突っ込んで、また引き抜く繰り返しだ。
「ぱくぱくフワフワ、マンコ毛の口が、開けたりすぼめたりを繰り返してる」
 癇性に笑いこけた。
「米子、おまえもやれ」
「ではやらせて戴きます。さっきからむらむらしていたところで……」
 とっさには鬼姫から淫乱熟女への交代かとも思った。
「枕を持て」
 拳を抜く気配をまったく見せず命じる鬼姫。
 交代するのに「なぜ?」と思った。そうこうするうち、あれよあれよと腰を抱えられ、布団とのあいだをブロックされて局部が浮かされた。
「だいじょうぶか!?」と鬼姫。
「ふふふふ」と年増下女の無気味な笑い。
 また、あの太い拳を入れられるのだと茜は直感して絶望的な気分になった。
「壊すなよ、まだいろいろオモチャにせねばならんのだから」
 さも愉快そうに笑うのに、茜は肝を冷やした。
「ぎゃあああーっ!」
 狂ったように滅茶苦茶に首を振って叫んだ。
 それを歯牙にもかけない。固い異物がぐいぐいと性器を割って押し入る。アヌス強制拡張の痛みに、ふたたび性器破壊の激痛がくわわった。
「うぎゃあああーっ!」
 2つの穴が全開されているという、こんどは正真正銘激痛に泣き叫んだ。
「しっかり押さえなさい!」
 先輩下女の厳しい叱責が飛んだ。
 背中に重圧が加わり、肩に指が食い込む。腰も脚も痛いくらいに押さえつけられた。
「ううっ!」
 肛門もだが、こんどの性器責めはケタ外れにつらい。うつ伏せ姿勢での挿入は、あおむけにくらべてそれほど困難ということなのか!?
「くくうーっ!」
 ぐいぐいと押し込み、すでに相当開いているはずなのに、まだ開こうとしている。アヌスをふさがれている緊張が性器にも伝染し、口が固くなったということだろうか。
 また開いた。
「うああーっ!」
 自由にできる首だけが大きくのけ反った。あまりの痛さに脂汗が流れて頬を伝った。
「やれ、米子」
「まあ、そう急がずとも。無理したら裂けちゃいます」
「かまわん、どうせ買った身だ」
「そんな、さっきは……」
 話がちがうと言いたげだが、主(あるじ)は残虐趣味に徹したようだと、それ以上は逆らわず、むしろお墨付きを得て下女頭も本性を発揮した。
 痛みに圧迫が加わった。
 気合いを入れる声が掛かったと思うと、めりめりめりっと音を立てて――もちろんそんな音はしないが、音を、光景が感じられるほどの信じがたい激痛が性器を襲った。
「う、うあっ!」
 激痛はどんどん高まった。
「いやああーっ、いやだあーっ!」
 どんどんどんどん、どこまでも際限なく激痛が高まるようだった。
「ギャアアアアーッ! ウギャッ、ギャアアアアアーッ!!」
 切れたと思った。ブチブチブチッと苦痛の限界の糸が切れたと思った。そして、こんどはすっぽ抜けることなく、最高の痛みのところで留まったままの苦痛となってつづいた。
「キャッキャキャ」と鬼姫がはしゃぎまくった。
 下女たちからは静かなどよめきが洩れたが、それは驚きを通り越した茫然自失といったもので、その異様さが茜の不安を高めた時、
「手を持ってこさせろ」との指示で、若い下女から手を取られた。
「わたしの手に触らせろ」
 鬼姫の指図で、下女がそこへ持ってった。
 手首の細いところ、それをたどって拳へ、拳をたどっていちばん太い部分から先は自分の尻にぶつかった。
(うそ!)
 拳の周囲もぐるりとたどった。直径5センチはゆうに超えている見当――。
「さあ、こんどはわたしよ」
 言葉と同時に、下女頭が自分で茜の手を掴んだ。片手で掴み、それに重ねてもう片方。
(え? ええっ!? 性器に入ってるのは手じゃないの?)
 おぞましい疑念。さっきと同様手探りさせられ間もなく分かった。
 異物は巨大な張り型で、太さは500ミリリットルのペットボトル分もあったからだ。
「いやあああーっ!! いやだあーっ!!」
 性具ではち切れそうに拡がった性器、拳で拡張しきった肛門、2つの穴は陰毛で縁取られ、まるで2つの女性器が無惨なフィストレイプにさらされる光景がありありと想像された。
 そして性器部分では抽送が開始された。
 肛門部はそのままの位置で、角度を変えたりひねりを利かせたり……
「いやああっ! 痛いっ!」
 激痛を維持したままの前後運動、アヌスも性器も大拡張したままの残虐フィストがそれから延々とつづけられた。
「抜いてえーっ、壊れるーっ!!」
 身体はがんじがらめに押さえ込まれ、もはやびくとも動かすことはできなくなっていた。頭も押さえつけられ、横を向いていなかったら窒息死していたかと思うくらいだった。
 そうして激痛地獄がつづいた。
 下女頭と鬼姫が囁き合っていた。
「凄い出血ですね」
「こんな小娘一匹。いざとなれば……」
「そうでしたね。では……」
 鬼姫の口から無気味な笑いが洩らされ、茜が真底死の恐怖を感じた瞬間だった。
「いやっ、死にたくない。助けて!」
 涙声で命乞いした時、含み笑いはけたたましく癇性な笑い声に転調した。悪魔の高笑いのなかで激痛責めは飽くことなくつづけられた。 
「誰か、助けて……」
 いつ終わるとも知れぬ地獄の夜の時の流れのなかで泣きつづけたのだった。

   

 ノックの音がした。
「どうぞ」
 声を受けて戸が開いたが、すぐには姿がなく、茜はとっさに緊張した。が……
 ぼそぼそと話す声――。
「だいじょうぶ?」と案ずる声。
「うん。ちょっと待ってて」と、別の声。
 女性2人の会話がひそひそと、しかしシーンとしたなか、ちゃんと聞き取れた。
 車いすの足載せ部分が見え、それから不慣れな手つきで車輪を漕いで入ってきた。
 顔を見て「あっ」と驚いた。
「茜さん、元気だった?」
 訪問者は車いすを必死に漕いで漕いで、思いあまってベッドにぶつかって止まると手を伸ばした。強く握り締めてきた。
「良かった、ほんとに良かった。こうしてあなたが生きていることがなにより嬉しい!」
 目にいっぱい涙を浮かべた。
 抱き締めたかったにちがいない。車いすの身でそれができぬもどかしさを察して、というより真底甘えたかった相手に会えた嬉しさから、茜は自分から寄って行ってもたれかかった。
「美鈴さん!」
「名前、憶えてくれてたのね」
「忘れるわけないです、命の恩人だもの!」
 互いに声が詰まって、あとはなにも言えなかった。美鈴は茜の頭を撫で、肩をさすり、車いすから精一杯身を乗り出して頬ずりした。
「いっしょに元気になろうね、お医者さんにも診てもらって」
「……………」
 すぐには答えられない茜の心中を美鈴であればよく分かった。説得する言葉も病院に来るまでは用意してきたが、それより有効な行動があることを覚ったばかりだった。
「ねえ、わたし今夜からこの部屋にいっしょしていい?」
「ええっ!?」
「イヤならよすけど、話し相手になれればと思って。先生には許可得てあるわ」
 茜の表情がみるみる華やいで見えた。
 それを認めて美鈴も嬉しくなった。茜とは地獄の修羅場を共にして以来、十年来の知己のような気がしていた。その友だちと枕を共にするのは突飛なことでもなんでもなかった。
「美鈴さんといっしょなら嬉しい!」
「ほんと?」
 茜の顔がさらに明るく輝いた。
「もっと早く来れば良かった。ゴメンね!」
「ううん」
 健気に首を振る茜をもう一度抱き締めた。
 互いに傷を抱え合った者同士、共にダメージが大きいだけなら別だが、一方が立ち直っていれば、その者からの励ましは落ち込んだ者にとってなにものにも代え難い再生能力となる。
 そのことを心理カウンセラーから聞いた美鈴は、ここ数日己が心身に鞭打って気力を奮い起こし、茜に会う決心をつけて来たのであった。

 それから後、ベッドの運び込みと美鈴の同室入居がその夜のうちに済んだ。
 担当医の話を聞いた亮子が、「もう一度茜にも会ってあいさつを」と向かった時、部屋から唱歌を口ずさむ美鈴の声……てっきり茜に子守唄でも聴かせているのかと早合点した。
「ぶーっ」という口真似擬音に「え?」と思った。
 そのあとに茜の声がつづいた。
「看護婦さんズルイ、美鈴さんにエコ贔屓(ひいき)! “る”ではじまる歌なんかあるわけないよ!」
 ムキになって反発する図がありありと頭に描かれ、亮子が吹き出した。
(なーんだ……。
 それにしても茜さん、美鈴ちゃんが来ただけで、あんなにも元気になって……)
 その茜の歌も聞こえはじめた。
 じっと聴きいる美鈴の顔も脳裡をよぎって、亮子は胸を熱くさせながら反転した。
(しばらく会えなくなるなあ……。
 ま、いいか。この際、ひさしぶりにシャバに戻って、また一稼ぎするか!)
 いつもの亮子にもどって、元気溌剌、意気軒高として病院廊下を歩きだしていた。

美鈴外伝/茜悲抄
――完――



出逢いの記

蜜の章/扉   毒の章/扉

総 扉   総あらすじ   創作の記



●マーゴ/美鈴呪縛●

全目次