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いけにえ |
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| 10平米あるかなきかのその部屋は床から天井まで白で統一され、壁の下半分と床はタイル張りだった。小じんまりとしてはいても、れっきとした手術室の体をなしていた。 無影灯の下に置かれた医療用寝台。四本足ではないどっしりしたかまえのもので、シートの下にも装置をそなえた多目的寝台だ。 横から固定レバーや回転レバーがでていて、中央部付近のくり抜き、扁平六角の穴は血抜きか。くり抜きをまたいで2つ、ほかに1つ、シートは3つの部分に区切れていた。 その1つがリクライニングにもなり、レバー側のシートの1つを取り外して、足乗せ台を付ければ開脚寝台になるのだった。 そばにはモニターやらPCやら測定器を組みこんだキャスター付のユニットワゴン、医具などをならべた小物ワゴンも可動式だ。 その部屋へ3人の男女がはいってきた。 まずウイルソン。映画スターと見まごうほどの二枚目米軍大尉は、今日は軍服ではなくラフなTシャツとジーンズで決めていた。 未沙ことミーシャ。黒のボンデージルックをぴっちり着込んだスリム体型。生まれはロシア。あとは謎で、ただ、ちょっぴり日本人の血がまじった混血アジアンとのこと。 美しい悪魔。けっして感情をおもてにださず、冷酷な加虐心を裡に秘めた女豹。 そんな未沙を片腕とたのむ白衣のマルガリテは、おなじ混血アジアンでも、こてこての日本人顔。その母は数奇な運命により祖国に棄てられ、祖国を棄てた日本人女性だった。 3人が小物台車のまえにきた。 そこにはサドマニアの嗜虐心をくすぐるさまざまなアイテムが雑多に置かれていた。 押し合い、ひし合い、その形状からしてそれら本来の役割を誇示し、禍々しさと淫猥さのなかに、それを使われて身悶え、泣き叫ぶ犠牲者たちの声が聞こえてくるようだった。 内視鏡、肛門鏡、鉗子やキューレット、導尿用ゴム管、薬品瓶や医療用手袋といった医具類や、性戯に用いる大小さまざまな張り型類、そして円筒形の黒い鉄の固まりようの装置からはコードが何本も垂れていた。 「スライダックというのよ」 マルガリテが装置の表面の、「1」から「130」まである変圧ダイヤルをつまみながら未沙に説明した。 「昔はボルタックというのもあったけど、いまはこれだけになってね」 「ふん」 とウイルソンが鼻を鳴らした。 「はじめるまえに、こいつを頭にたたきこんでおけよ」 無影灯に頭をぶつけないよう、一つきりの椅子に座るとPCを操作した。 モニター画面が明るくなり、メモリーカードを挿入、暗証番号を入れてファイルを開いた。デスクトップの半分を埋めて少女の顔写真。のこり半分にかんたんなプロフィールが日本語入力されていた。 氏 名 片桐明奈(かたぎり・あきな) 生年月日 1987年(昭和60年)8月6日 出生地 東京都日野市××…… 現住所(下宿) 新宿区市ヶ谷…… (大蔵省保全課職員・片桐秋之助次女) 就業/勉学/その他 学生 勤め先/学校/その他 都立白山女学院(文京区本駒込……) 校友間のあだ名はアッキー …………… だしぬけに「ドンッ」と音がして、3人はそのほうを見た。 カーテンのかかった壁から聞こえたのは机をたたく音のようで、未沙がカーテンを開けると、窓かと思ったところには大鏡がはまっていた。 いや、鏡と見えたのはマジックミラーで、パソコン画面で見た少女が、覆面をかぶった作業着姿の男に尋問を受けているのだった。 テレビの刑事ドラマで見るように、2人のあいだには机が置かれていた。 取り調べを受ける片桐明奈は、白のタンクトップから肩や襟元を露出していたが、下は机に隠れて見えなかった。 87年生まれなら16歳だが、その愛らしい顔もいまは緊張と不安で張りつめていた。 未沙がコントローラーの音量調節を回して、取り調べのやりとりが聞こえてきた。 「最後まで口を割らないつもりか」 「何度訊かれても身に覚えのないことには、はいそうですと答えるわけにはいきません」 大人びてはきはきとした口調で、きっぱりと言い切った。 口頭による尋問は最終段階をむかえたようだった。 作業服の取調官は居丈高な尋問を繰り返した。また「ドンッ」と机を叩いて椅子から立ち上がると片手で少女の顎をつかみ、もう片方の手をこぶしにして振り上げた。 「きゃっ」と目をつぶる少女。 見上げる高さからなおもしつこく尋ねる目出し帽。 気丈に目を見開き、少女は否定の首を振り、言葉でも「ちがいます」「知りません」「関係ないんです」と突っぱねつづけた。 「口でいっても分からぬようだな」 目出し帽がこちらを振り向いていった。 「あとは別室で待っておられる方たちに代わってもらおうか」そういってまた少女に面と向かい、 「お隣りさんでは、この部屋でのような生やさしい扱いとはいかないぞ。特別な道具もいろいろそろっておるしな。痛い目をみるまえに何もかも吐いてしまわないか」 取調官は、かなり熱心にさとした。縄張り根性の点数稼ぎに、なんとしても自分が自白させたいと張りきっているのだ。 「……………」 少女にそれ以上語る口はなく、彼女も身を乗り出してこちら目線になった。きょとんとした顔で、だがそれがただの鏡でないことをさとった目でじっと見つめてくるのだった。 利発な娘だ。マルガリテは直感した。 「あなた、タイプでしょ?」 マルガリテが未沙にふった。 「細いわね」 タンクトップからでた肩や襟元の肌の瑞々しさに目をほそめた。 「あれなら腿も細いわね」 早速その手に薄いゴム手袋を装着、ドクターハンドの右手を拳にして手のひらに打ちつけた。 向こうでは、あと一時「吐け」「知りません」の応酬がつづいて、いよいよ取調官が業を煮やした。サジを投げた。 「くるぞ」 ウイルソンが2人分の覆面を女たちに渡したが、その一瞬間にもう片方の手で、すばやく覆面姿になっていた。 「立て」 「乱暴にしないで」と、これは隣室のやりとりだった。 その2人の姿が消えて、覆面姿になった黒のボンデージルックがカーテンを引いた時、すぐ横のドアがたたかれた。 未沙がドアを開けてむかえた。 看守が1人、その看守に手を引かれ、別の看守に背中を押されて白のタンクトップと濃紺のパンティをはいた片桐明奈が現われた。 「わーお!」 未沙がおおげさに感嘆してみせた。 だが感嘆するだけのことはある。予想したとおり、パンティの裾から伸びた脚は痛々しいほどに細く、それがよけい加虐者の琴線にはひびくのだ。 「オーケー、あとはこっちで」 ウイルソンが部下を下がらせ、明奈を引き取った。 スリッパ足がぺたぺたと2、3歩踏み出すあいだに、パタンとドアを閉める音。外から鍵をかける音も加わり、手術室は囚われの少女にとって完全密閉の伏魔殿と化した。 不安とおどろきの表情。いかめしい造りの医療寝台を見、小物台車を見、そこにある道具立てのまがまがしさに慄然とした。 それから周りにも目を向けた。 壁、タイルの床、そして隣りの浴室につうずる磨りガラスの戸を見た。 「やあ、可愛い子チャン!」 ウイルソンが少女の顎をつかんで自分のほうに向かせた。タンクトップからこぼれた艶やかな肌の襟元、産毛で光る肩や二の腕に覆面の目は猟奇にぬめって光った。 鳥肌だつ脚が内股となって本能的に股間を閉じようと努めている。 ウイルソンが医療台車を脇にどかせ、ついでモニターを載せたユニットワゴンをもどかそうとしたが、そのまえに画面をスクロールさせて明奈の調査データを確認した。 容疑事実(空欄) 尋問事項 比嘉ミチルとの関係(空欄) 過激派諸組織との関係(空欄) …………… プロフィール欄の、ある部分から下はほとんど空欄だった。その空欄を埋めるべく、過酷な尋問がこれからはじまろうとしている。 明奈は首を振った。 服の上からでも同性と知り、「同性なら」との一縷の希望。それが白衣なら医者ということで錯覚もする。結果、マルガリテの目をじっとみつめ、とりすがり、「ちがいます」、「知りません」と、自分の無実を必死の形相でくりかえした。 「ほんとうに過激派組織には関与してないの?」 マルガリテも、まっすぐ明奈に向き合って確かめた。 「過激派組織って、なんのことです? ミチルさんがそんなグループと関係あるなんて信じられません」 あくまで突っぱねた。と、 「おい、ネエちゃん」 ウイルソンがその顔を自分の方へ向きなおらせた。 「むこうで話したことを、ここでもくりかえせばいいと思ってるんだろうが、ここはそんなに甘いところではないんだぞ」 流暢な日本語での脅し文句。覆面の下の白人顔を見たらおどろくだろう。 「からだに聞いてやる」 たくましい体躯をした作業服の覆面顔が、ヤクザ映画の定番のおどし文句。そうして片桐明奈は、“まな板の鯉”ならぬ医療寝台のいけにえとなったのである。 |
| 明奈が寝台に寝かされた。 タンクトップの胸は発育がよく、寝ていても十分な隆起だ。また紺のビキニショーツからは細脚がすんなり伸び、土手高に盛りあがった股間からは陰毛がはみ出すかに見えた。 「この子、モリマンね」 未沙が笑いを含んだ声でつぶやいた。 「痩せてるな」 と、ウイルソンは不満そうな口ぶりだ。 うっかり皮肉をいいかけたところ、 「痩せてる子は味も感度もいいというわよ」 マルガリテは、自分がいいかけたことを未沙から先にいわれて苦笑するところだった。 「さ、脱がせるわよ」 もちろん、ここは日本語で伝え、マルガリテが起こしてやる。タンクトップに片手をかけ、別の手が少女の細腕をかたほうずつはずさせ、腰から上の衣類を剥ぎ取った。 濃紺のパンティ一枚きりにして、ぴちぴちの生き人形をふたたび横たえた。 形のいい豊かな稜線のいただきに、幼女のそれのようなピンクの突端。そして乳房を露出された明奈の羞恥は、それこそ処女のように唇をぶるぶるとわななかせた。 そのあとは未沙もてつだって、明奈は頭と腰の上と下で手足を開き加減に、その手首と足首に革紐を巻かれ、締めつけられ、しっかりと寝台の四隅に縛りつけられた。 つぶらな瞳が涙目になって、きらきらと光った。 「こわいのね」 眉にかかった前髪を指で梳いたり、なでたりした。 その指がつぎにはコードの付いたクリップをつまみ、また別の手が恐怖しきった乳首をつまみ、明奈は小さな痛みに顔をしかめた。乳首に1本ずつコードがつながった。 「や……」 と、いいかけた唇をマルガリテは手で蓋をした。 「おねがいごとはいわないこと。最初から聞く気はないのだから。 それから『痛い』だの『やめて』だのも禁止。大げさな悲鳴も癇にさわるわ。いいつけにさからい、怒らせたらどうなるか。 いい? あなたが言葉にできることは一種類だけなのよ」 しかと厳命した。 「一種類」とは、もちろんマルガリテらがほしがる情報の自白のみ。それ以外、こんご明奈は哀願を言葉にするにも、苦痛を言葉にするにも、それを罰としてさらに過酷なしっぺ返しを覚悟しなければならなくなった。 涙目に絶望の憂いが濃くなった。 さあ、反応を愉しませてもらうわよ。 カチッ、とスイッチを入れた瞬間、「うっ」という呻きが洩れたような。だが、まだ明奈の身体に電気は流れていないはずだ。スライダックは「0」位置のままなのだから。 ダイヤルをわずか回した。 「うっ」 と、こんどはたしかに声を聞いた。 美乳が苦しそうに息づいた。手が握りしめられ、左右に伸びた細脚がつーんとさらに伸びきり、痩せて長さをもった足指をぴーんと突っ張らせた。それがぷるぷるふるえた。 ダイヤルは「10」を差していた。 マルガリテはゆっくり電圧を上げていく。 顔をしかめる少女の苦悶。その苦悶が強まった。 「あう!」 目を見開いたまま、前垂れ髪のすきまの眉間にシワをきざんだ。そのシワを、ぐうっと深くした。悲鳴が叫ばれそうになった。が、それを必死で耐えている。 可愛いい。健気だ。だが、もっと苦しめ。 「くっ、ひっ……!」 首がのけぞった。背中が浮かされ、華奢な上体でアーチを描いた。女体のアーチが、美乳の下にあばらをくっきりと見せながら、右に左に失禁をこらえるようにむずがった。 「痛いでしょう? つらいわよねえ」 また髪をなでた。 「でもね……」 そしてまた電圧を上げた。 グギッ、と顎が鳴った気がした。それくらいきつい苦悶の形相であった。決死の行で歯をくいしばり、肚に力を込めていることは腹部の異様なしまり具合で分かった。 「なにもかも話してくれなければ、こんなムゴイことでもやめるわけにはいかないのよ」 そうして尋問を始めるのだった。 「比嘉ミチルとはどんな関係? ただの友だちではないでしょ。組織のこと、組織が行なおうとする破壊活動のこと、ミチルからなにか話されたでしょう? それをいいなさい」 「わたしはなにも……」 「その強情がいつまでつづくと思うの!?」 突然豹変した、そう思えるだけのマルガリテの形相と恫喝だった。即座に、 「きゃ、ぎゃあああーっ!!」 耳をつんざく絶叫に、拷問しているマルガリテのほうがびっくりしたくらいだ。それでもようしゃはしなかった。電圧を維持したまま悲鳴を叫ばせつづけた。 首を振り、のたうち回りながら泣き叫びつづけるほとんど全裸の全身。細脚、細腕が折れるほどに、可能な限り暴れつづけた。 「いえ! 比嘉ミチルのバックは誰だ!」 「ぎゃああーああーっ!」 くしゃくしゃにゆがめた顔がまっすぐマルガリテを見ている。必死の形相で首を振りつづけている。それにさらなる電流を加えた。 またダイヤルを回した。 「ぎえっ!!」 一瞬、ケダモノじみた異様な叫び、それから血を吐くような絶叫が密室の壁に大反響をもたらせた。常人なら、耳をふさぎ、目を覆いたい場面だろう。 だが、ここでは違う。 ここにいる2人は人間ではないようだった。すくなくとも常人ではない。鬼人か悪魔。人を人と思わぬ冷血の徒だった。 20、21、22、23…… 絶叫はつづく。 25ボルトで昇圧を止めた。これでも電気責め初体験では耐えがたい苦痛だ。愛用のスライダックで、マルガリテがこれほどの電圧を使ったことはない。プレイでは15ボルトを切ることはなかった。 マルガリテが白衣のポケットからストップウォッチをだしてスタートを切った。 ……5秒、10秒、針が時をきざむ。 その背景にかぶって明奈の苦悶がある。 愛らしい顔をみにくく変貌させ、苦痛と絶望でぐしゃぐしゃだった。のけぞり、身をよじり、髪を振り乱して精一杯の自由のなかであばれ狂っていた。 「ぎゃあああーああーあー……!!」 断末魔の叫びが長く尾をひいて絶望的に、陰惨にひびきわたった。 「手ぬるい」 ウイルソンの一言にマルガリテは「むっ」となった。 「この情況をみていってるの? 明奈が演技で泣き叫んでいるというの?」 「それなら、なんだこの数字は」 「コンマ以下のアンペアと違うのよ。1アンペアで最高電圧の130ボルトをだしたらどうなると思ってるの? それとも、あなた、この子を殺したいとでもいうの?」 そう食い下がったらぐうの音もでなかった。 それが目的で、今回、愛用のスライダックをもちだしたのだった。それを知ってか知らずか、横の未沙の覆面のなかの2つの目が笑っていた。マルガリテにはそれがわかった。 しかし、と思う。 明奈の“残虐のエロス”はマルガリテの嗜虐心を煽らないではおかなかった。 「ぎゃあああああーあああー……!!」 絶叫。悶絶。 2分が、3分、4分になっても拷問はつづけられた。 「さあ、白状しなさい。比嘉ミチルとはどういう関係なの? あなたもミチルにさそわれ、組織の一員となったんでしょ?」 尋問はつづいたが(そしてどうせ無駄な茶番だが)、こっちの思惑などつゆ知らず明奈は拷問電流からすこしでも逃れるべく、苦痛を耐え忍ぶことで自分の無実を押しとおした。 タイマー数字が「7:00」(7分)を切ったところで電圧は降圧に転じられた。 25ボルトを差していたダイヤルが徐々に徐々に下の数値に向けて回された。 その間、「ぎゃああっ」という絶叫が「ああっ」という悲鳴に変わり、それも弱まると「ううっ」という呻きに転調していった。 そして…… はあ、はあ、はあ、と明奈の激しい喘ぎ。 ストップウォッチを使うまえとあとと、25ボルト電流を明奈はその乳首と身体に15分間以上も流されていたことになる。 |
| 寝台の四隅に向けて縛りつけられた四肢。ぴちぴちの若鮎のようだったほとんど全裸の肢体は、30分にも満たない電気責めで精根尽き果てたかのようにぐったりとしていた。 18歳の、いまや憔悴しきった裸体の隠れた部分は腰にぴったり密着した下着のみ。濃紺の地が、みずみずしいばかりの生肌の中心にあってより秘めやかさをきわだてた。 早く開いて見たい。 そしてずたずたにしたい欲求もある。 「しらべて」 未沙に目くばせするマルガリテの声には、はっきりと興奮のふるえが感じられた。 ウイルソンの目が嗜虐と猟奇にぬめった。淫虐のまなこは、本能の所為をもってかんじん要のその部分を見つめている。 未沙の手がパンティをめくった。陰毛が濃紺の布地に貼り付いたように引っ張られた。静電気を帯びている。まだ、電気責めの余韻が身体に残っている証拠だ。 じらすようにゆっくりとパンティが腿の中途まで脱がされた。 あられもなくさらされた股間、陰毛のデルタの中心をなす割れ目は、ピンクの肉唇となって隠微な陰影をくっきりさせている。 「さ、診察よ」 マルガリテが明奈にささやきかけた。 診察とはなんだ、と怪訝な面持ちの明奈。 その不安を愉しみながら、未沙が握った拳から中指だけだし、割れ目に挿入した。一すくいしてえぐった時、明奈の口から「ひっ」と悲鳴が洩れてのけぞった。 抜き出された指はかわいていた。 もう一度、こんどは人差し指を加えた2本にして奥まで挿入した。 また明奈がのどをそらせた。 「うっ、くっ」と、2度そっくりかえった。が、いま口にしたのは苦痛ではない別の反応だった。 未沙の覆面の目がこんども笑っていた。処女ではない、である以上、存分にいろいろな反応が期待できるという、延々たる秘所蹂躙への飽くなき満足の目表情であった。 2、3分遊んだ末、抜き出された未沙の2本の指は、こんどは濡れていた。 「ごくり」と明奈の口から生唾を呑む音が聞えた。 マルガリテが、明奈の乳首の電極クリップを2本ともはずした。 それをどこに付けるのか。ウイルソンの覆面の目はいまか、そこかと固唾をのんで見守ったが、その期待に肩すかしをくらわす妙案を思いついた。 意外やといったウイルソンの唖然。マルガリテはコードの付いた電極クリップを、両足とも中指にはさみつけた。 はっとする明奈。思わず顔を上げてそのほうを見た。 クリップはそれ用のもので、はさみ付け部分には2箇所の丸みが付けられ、その一つが足指に合わせたものだった。乳首にくらべてバネはきつくなるがつらいものではない。 足が緊急避難の本能から指をにぎにぎしたり、こすり合わせたり、だがしょせんは無駄な抵抗とあきらめた。 またマルガリテが話しかけた。 「電気があなたの身体を一巡し、そのあとは延々と駆けめぐりつづけるのよ」 「い、や、あ……あ……あ……」 また涙目になった。弱々しく首を振り、目が、表情が、顔いっぱいに哀願をあらわした。 スイッチがひねられた。 瞬間、すらりと伸びきった全身が電気を受けたようにひくついたが、明奈の錯覚だ。実際電気はまだ流れていなかった。電圧ダイヤルの指針は「0」位置のままだった。 それからゆっくり指針を回していく。 「見ていて」 マルガリテが未沙の注意をうながした。 いわれるまでもない。未沙もウイルソンも固唾を呑んで見守っている。 と両足の、クリップにはさまれた足指からはじまって爪先、足の甲とひきつれが生じ、ふくらはぎには筋がくっきりと浮き立った。それがぴくぴく痙攣しだした。 明奈が電気に反応して声を荒げた。 「うう……うああっ……あああっ……」 悲鳴は尻上がりに高くなった。 10……15……20…… ダイヤルはどんどん回され、乳首に流した時とはちがって大胆に電圧を上げていく。 長さを感じる方形指が、てんでに空を掻いている。ぶるぶるふるえながら、奇妙に曲げたり、ひきつらせたり。悲鳴とあいまって、倒錯的な足指ダンスをくりかえした。 電圧が40ボルトを越した時、明奈が頓狂な呻きをあげた。 半脱ぎパンティの下半身は、ガクガクガクと不規則痙攣をくりかえしはじめた。全身に電流を駆け巡らせるつもりが、勝手がちがった感じだ。 とはいえ、その様は凄惨そのものだった。 50ボルトを越した数値のまま、不規則痙攣を下半身にきたした明奈の苦悶はいよいよ切羽詰まったものになった。 歯を食いしばり、顔をしかめ、その顔はやがて汗ばみ、脂汗でぬらぬらと光り、上気した赤みをさしているのである。 「ひ、ひいいっ! あ、あわわわわ……」 ほっそり伸びた下肢が痛々しいほどに筋張って、ギシギシときしみ音をたてるほどにひきつった。電撃による負荷圧が関節にくわわり、むごいダメージをあたえているのだ。 「どう? どんなぐあい? 情報以外のことをしゃべる自由を与えるわ。どんなつらさか正直にいいなさい」 「ほ、骨が……」 「骨がどうしたの?」 「骨が痛いです。はずれそう! いやっ。助けてっ!」 「だったらいいなさい」 非情の尋問がくり返された。 それに対し明奈は首を振り、「知りません」、「関係ないんです」をくりかえすばかりだった。正直をつらぬけばどんなにつらくともそう答えるしかなかった。 「これくらいで折れたりはしないわ」 マルガリテが、嗜虐の本能に命じられるままダイヤルを回した。 「ウギャアアアアーアアアーアー!!」 すさまじい絶叫と同時に、細く長くのびた下半身が、途中で止まったままの濃紺のパンティといっしょにはげしい痙攣をくりかえした。痙攣は腹部から上体にもおよんだ。 電圧は80ボルトに達しようとしていた。 スイッチが切られた。 がっくりと弾みをうしなって寝台に沈み込む全身。 美乳の白い胸が明奈の「はあはあ」、「ぜいぜい」という喘ぎといっしょに、おそろしげに大きな息づきをくりかえした。 マルガリテが未沙に向けて顎をしゃくった。 そばに脱ぎ捨ててある明奈のタンクトップ。それを丸めると、親指と中指を明奈の頬に食い込ませ、無理矢理口を開かせると猿ぐつわにするためぐいぐい押し込んだ。 明奈の見開かれた目が、マルガリテの手の動きに戦慄する。 〈ああ、あの電圧のままで止まってる。その状態でスイッチ・オンされたら……〉 ぞっとする恐怖に縛られ、口をふさがれたまま首を振った。 「むあぁ……」 言葉にならない言葉を発しかけた時だ。 ガクンッ、と一瞬その身体が跳ね上がった、かに見えた。 つぎの反応のはげしい痙攣と悲鳴は錯覚でもなんでもなかった。耳をつんざくとはこういうことをいうのだろう。 通電を維持したまま、マルガリテがストップウォッチを押した。 1、2、3…… 痙攣しながら足指がくわあーっと宙を掻き、左右に伸ばされた細脚に筋がぴぃーんと突っ張った。その筋が下半身全体の痙攣とはべつにぴくぴく震えている。 「むあああっ! あわわわわっ!!」 目を見開き、ボロを詰め込まれた口をふがふがさせて絶叫をあげつづけた。 10秒でスイッチを切った。 ドオッ、と崩れる全身。 「過激派組織の一員であると認め、自分の役割、ミチルの担当、組織がこれからやろうとしている破壊工作を知っているかぎり話せ」 そういってスイッチに手をかける。 「ひぎゃああーあっ」 通電まえに叫んだ。 スイッチを入れるまえにマルガリテが約束事を提示した。 「認める気になったら握っている手を開きなさい。それ以外は握りしめていること。ただ、苦し紛れに開いたのなら、そのあとの罰はむごいわよ」 それだけ言いふくめると、無情に、事務的にスイッチを押した。 突入電圧80ボルトが明奈の下半身を蹂躙した。 「ギエエエーッ!!」とケダモノじみた叫び。 「吐け。手を開け」 「いやああああああああ……!!」 目を見開いた絶叫顔に怒りを燃えたたせた。 またスイッチを切り、またスイッチを入れて通電。若鮎がぴちぴちと跳ねまわる光景が展開され、寝台がガタガタと音をたてた。 ……10、11、12…… こんどは10秒過ぎても止めなかった。 「(折れるぅーぅー……!)」 硬直の筋を浮き立たせた下半身がぴーんと左右に突っ張ったまま、小刻みな痙攣もつづけていた。明奈にとっては地獄の時間がおそろしくゆっくりと過ぎていってるはずだった。 「ギャアアアアア……………」 目を見開いて叫びつづけた。 全身汗でローションを塗ったようにかがやいた。 マルガリテの手が、スイッチではなくようやくダイヤルを下げていった。それにともなって悲鳴も全身の突っ張りも、足指のひきつれも鎮まっていった。 ストップウォッチの針が一巡するあいだに悲鳴は止んでいた。ただ、電流が止められても、全身の不規則不随意痙攣はしばらくはつづいたままだった。 |
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| 気がついたとき、明奈は素っ裸のままボンデージ服の女に抱かれていた。長時間の拷問に精も根もつき果て、がっくりもたれた頭が女の量感のある乳房を感じていた。 つぎなる拷問準備が、第三者に支えられた両脚の向こうでなされている。 寝台の一部がはずされた。 産婦人科で見る診察台の脚乗せ部分が、残る寝台の両端にちょこんと組まれた。 横では手乗せ部分が、リクライニング部の横から広がるかっこうで付けられた。 それら作業を他の2覆面、白衣の女と作業服の男が分担する間、ボンデージ服は、両脚を抱える一方、別の手が性器をぐちゃぐちゃともてあそんでいるのだった。 「年のわりに使いこんでやがる」 伝法な口調で、たっぷり指なぶりした成果をぴちゃぴちゃという音にして、その音に満足しているふうでもあった。 「男かい? 女だとしたら、ひょっとして比嘉ミチルだったりしてね」 そのセリフに明奈は「ぎょっ」となって頬を熱くした。それを見透かされたかと思って肝を冷やした。 「さあ、用意ができたよ」 向こうとこっちで準備していた年上の白衣が声をかけた。 ごろんと寝かされ、3分の1ほど短くなった寝台の縁から落ちかけた脚を取られ、左右に突き出た脚乗せ部分に乗せられた。 手も左右に開かれた。 3人がかりで両膝の上と下、両方の手首と順にベルトが締めついた。 最後に腰と、胸の2か所にも巻かれ、寝台ごとしっかり固定された。 「こんどは別の部分をしびれさせてやるよ」 ベルトとベルトの隙間からぷっくり顔をだす乳房の中心の乳首を、ボンデージ女がつまんだ。だが、何も感じなかった。はげしい電気ショック拷問により、乳首は激痛をとおりこして無感覚になったようだ。 別の部分だって!? いつ手が伸び、乱暴に指が入り込み、あれら禍々しい凶器の数々が用いられ、挿し込まれ、惨たらしく、しつこく責めさいなまれるのかと、その不安に戦慄した時―― 足音が遠のいた。 カチッと音がして明かりが消された。 ドアが閉められ、しーんと静まりかえった。 「え?」 明奈は呆っ気にとられた。 肩すかしをくらった気分。 いや、こんなかっこうにして、そのままはあり得ない。すぐに取って返すのだ。あいつらでないとしても、べつの代わりの者が。 そいつらはもっと残酷な奴だろうか。 ひょっとして、あの3人よりも上の者、しかも凶悪で残忍な最高権力者によって、こんどこそ逃れられない窮地に追い込まれ、もっと残虐な運命が待っているのかも知れない。 だが…… 10分。20分経ってもその気配はなかった。 暗いなかで明奈だけが取り残された。 一人になって、明奈はようやく冷静に考えることができた。 あらためて思うのは、ここはどこなのかということだった。 そして自分はなぜ、こんな目に遭わなければならないのか。 拉致され、囚われたその日いっぱいかかって折檻されてわかったことは、ひょんなことから知り合い、親しくなった芸能界のアイドル、比嘉ミチルが政治的な関連を疑われているということだ。 「ミチルになにを吹き込まれた?」 「ミチルが所属する組織に、おまえも入れられたのだろう?」 「組織が行なおうとしているテロ計画の内容を聞いてないか!」 「組織の構成メンバーを知っていたらいえ!」 「リーダーは誰だ!」 矢継ぎ早に尋問され、「ミチル」や「組織」や「リーダー」という言葉がひっきりなしに反響し、訊かれるたびに頭のなかのミチルのイメージが千変万化し、挙げ句なにがなんだか、誰を信じていいか分からなくなる。 びくっ、とした。 いまのは何だ、悲鳴ではなかったのか。 そう思って明奈が耳をすました。 たしかに聞こえた。白壁をとおし、あるいはタイルの底のそのまた底からか、「いやぁー」か「ひえぇー」か、とにかく絶望的な叫びが長く尾をひいて聞こえてきていた。男か女かまではさだかでないが、明奈は自身の運命とダブらせて血が凍った。 それは夢でもなかった。現にいま、明奈ははっきりした意識のなか、開脚寝台に恥ずかしい部分を含む肉体のすべてをさらされ、しかもこうして自由を奪われているのだった。 十字架磔にされた上体。 開脚ご開帳で局部をさらされた下半身。 手首は横に開いた手乗せ台に、膝の上と下はちょこんと左右にでた脚乗せ部分にベルトで巻いて締めつけ、ほかに乳房と腰もベルト拘束されていた。 また悲鳴。そのすぐあとに、 「ぎゃあああーっ……………」 こんどの絶叫はかなりはっきり聞こえた。 自分とおなじ、拉致され、拷問されている人がほかにもいるんだ。 組織ってなんだ。テロ計画ってなんだ。ここはほんとうに日本なんだろうか。 アメリカに追随して、アメリカが攻撃をしかけてはじまったイラク戦争に参戦はしたものの、小泉首相は後方支援といっている。 それに対しイスラム原理主義組織アルカイダから東京攻撃宣言は受けたものの、それの関連ならこんなまわりくどい報復のしかたはないだろう。だいいち、わたしのような名もない女子学生を誘拐するなんて。 〈でも、海外では関係国の旅行者などが誘拐され、首を切られたりしているじゃない〉 そういう一環だろうかとも思った。 〈ミチルといえば明日……! いや、今日だろうか〉 明奈は混乱のなかで忘れていたこと、それをいま思い出した。ただ、あまりに異常なことの連続で時間感覚がなくなり、今日なのか明日なのか、いや、いまが昼なのか夜なのか、これが現実なのか白昼夢なのかさえ分からぬ中で煩悶するばかりだった。 |
| よく晴れた土曜日の午後―― マルガリテは、ウイルソンと日比谷公園内野外大音楽堂の聴衆のなかにいた。 〈比嘉ミチルはいないのか……〉 そればかり考えていた。 その日、2003年9月13日の東京は晴れてはいても、この季節としては最高気温34度3分、平均湿度66パーセントと蒸し暑く、ときおり風速20メートルの南西風が吹く荒れ模様の天気だった。 中央ステージにTシャツにジーンズといったラフな服装の女性。ほぼ満員の聴衆をまえに屹然と顔を上げ、風にブロンドの長い髪をライオンのたてがみのようになびかせて、レベッカ・ソルニットがマイクを握った。 「ミナサン、コンニチワ」 手をあげて、最初は片言の日本語であいさつして聴衆から拍手を浴びた。 それからあとは英語になった。 集会参加者はあらかじめ渡されたレジュメのなかの翻訳に目を通しながら、レベッカの英語スピーチを聞くことになった。 レベッカは、4日前の9月9日、サンフランシスコ湾岸地域で行われたデモに参加した心境を、“月見”という日本人の詩心に託してこのように語るのだった。 「……美しい夕べでした。 産業都市リッチモンドの、広い、広い空の下で、2時間近くも静かに座っていると、ここにやって来たのは、何を言うためだったのかを感受できるようになりました。 それはなにかというと、『すべて、繋がっている』という感覚だったのです。 シェブロンが地域住民に加える汚染被害は、同社が世界で犯しているもっと大きな侵害行為と犯罪に繋がり、それがまた、イラクにおける戦争へと繋がっているのです。 そして、その戦争とは帝国建設と石油確保のための謀略であり、このことはブレア内閣の前閣僚で環境大臣だったマイケル・ミーチャーでさえも9月6日付け英国紙ガーディアンで認めているくらいです。 彼はいっているのです。『この分析を総括すれば、“対テロ世界戦争”はまったく別の政策――つまりアメリカの国家目標である世界覇権の達成と、戦略全体を推進するために必要な石油供給の軍事力による支配権確保の実現に向かう道筋を整えるために宣伝される政治的神話であると、烙印を押さざるをえない』と彼は記しているのです」 マイクをとおしたスピーチが、9月の風に乗って人々の耳にも心にも届いているはずだ。 ウイルソンが訊かれもしないことに応えた。 「どうだい。反グローバリズム運動の闘士にして、いまは反イラク戦争の論客でもある、レベッカ・ソルニット女史だよ」 「左翼お得意の“アメリカの良心”とやらね」 皮肉で返した。 その日のマルガリテは、ジーンズにタンクトップ。色といいラフさといいレベッカ女史と似合いのかっこうだ。3000に余る人の海にまぎれるにはこれが適している。 そして首からは双眼鏡もぶら下げていた。 ところで、この野外大音楽堂は「野音」の名称でも親しまれ、立地条件からいっても都内ナンバーワンの格をもつ。 会場は中央ステージから見てA席、B席、C席まで2664席。通路をはさんで扇形に広がり、立ち見の450席を入れた合計は3114席。マルガリテのいたB席前側から振り返れば、後ろの席は一望に見わたせた。 「ありゃ公安だな」 と、ウイルソンが目を向けたところ、オペラグラスをかまえたり、8ミリビデオを回す者もいた。 「みな考えはおなじね。こそこそやるより派手に振る舞えば、おのぼりさんに見られて誰も私服の刑事などと思わないってこと?」 それにしても沖縄の基地問題を考え、イラク反戦を呼びかける統一集会だというのに、この統一されてない雰囲気はなんなんだ。 人を埋めた向こうに「沖縄に米軍基地はいらない!」「日米地位協定粉砕!」「アメリカは日本から出て行け!」などと激越なスローガンの横断幕を広げた年配者組。彼らの多くは胸にゼッケンを着けていた。 かたや10代、20代の若者組は、その表情からも緊張感にとぼしく、友だちと私語をささやき合ったり、よそ見をしたり。 「あれじゃ、ただの案山子だね」 ウイルソンが嘲笑とともに吐き捨てた。 「40代、50代の年長組は沖縄からきた反基地闘争の活動家と在京支援者たちでしょ。でも1000人も集まりゃ御の字じゃない。あとの3分の2の若者は夜の部のコンサートのファンたちじゃない? ミチルの呼びかけに応えたノンポリで、政治的には無色よ」 マルガリテの分析である。 「だけど沖縄の連中にとって、本土でイラク反戦が盛りあがることはつごう悪いわよね。案山子でかえってほっとしてるんじゃない」 「どうして」 「だって、1995年の少女暴行事件では8万人の県民が立ち上がって気勢を上げたというのに、イラク戦争反対の集会に集まったのは5500人だったというじゃない。それで本土がどうとか文句はいえないでしょ」 「まあオキナワも本土も、しょせん日本人のアイデンティティーなんてそんなもんだよ」 と、こんどは2人して笑い合った。 そんな雰囲気が講演者に伝わらないわけはなく、壇上のレベッカ・ソルニットの喋りには悲壮味が感じられるようになった。 女史の話を背中で聞き流しながら、マルガリテはある女性参加者に目を留めた。 「でも、真剣に聞く大人もいるようよ」 遅れて着いたためか、C席もうしろのほうで、こちらからはだいぶ距離がある。 「どこかで見たような……」 そう思いだしたら最後、矢も盾もたまらずたしかめに立った。 彼女には同性の同伴者がいて、会話が聞ければ素性がつかめるかも。あたりをうかがったら、隙見できる位置に席が空いていた。 さっそくそこへ向かった。 その間、会場内に響くレベッカ女史のスピーチは、力の入るものになった。 「戦争は単に遠い土地にあるものではありません。つい最近、リッチモンドでも、9・11テロ後の人種憎悪犯罪と思われる殺人で、2名のシーク教徒のタクシー運転手たちが犠牲になりました。サンフランシスコ通勤高速鉄道駅で降りてきたわたしたちも、生活のためにタクシーを運転する以外にないシーク教徒たちを大勢見かけたのですが……。 イラクからの石油は何か月も前からサンフランシスコ湾岸地域に来ています。自家用車のバンパーに反戦ステッカーを貼っている地域住民たちの多くにしても、その車を戦利品で満タンにしていることでしょう……」 マルガリテは通路を抜け、立ち見席のうしろを回り込んで目当ての席のある通路に入り込み、彼女たちの斜めうしろの空いている席に座った。反対側の席は空いてないので目当てのほうがこちら側でつごう良かった。 そうして耳をすませた。 見覚えがあると思う女性は24、5、連れはそれより2つ3つ年上で、なにかと気を遣っているふうに見受けられた。 ちらっと伴を見て声をかけた。 「だいじょうぶ? 疲れたりしてない?」 「心配しないで。わたし、比嘉ミチルのライブを一度見たいと思っていたんだもの」 「だったら夜の部だけにすれば良かったのよ」 「ううん。沖縄の問題もイラクも気になるし」 「みすずちゃんそういって無理するから……」 と、名前がでてきた。 「ミスズ」と頭のなかで音でつぶやき、マルガリテは日本語学習機能を総動員して「みすず」「みすヾ」「美鈴」と思い浮かべていき、「美鈴」に覚えがあるように感じた。 はて、その美鈴をどこで話に聞いたのか、写真を見たのかと懸命に思い出そうとしていた時、会場内が「わーっ!」「きゃーっ!」という歓声と黄色い声に湧きたち、マルガリテの目も中央ホールに釘付けとなった。 ジーンズに半袖サファリシャツ、頭にキャスハンチングをかぶった比嘉ミチルが登壇、レベッカ女史とならんで手を握り合っているのだ。会場はやんやの喝采だった。 レベッカ・ソルニットが手をあげた。マイクを握り、こんどのスピーチは短いが最高に力を込めていた。最後の「ノーモア」からはじまるフレーズは会場の誰にも理解できた。 3つ目の「ノーモア」を呼びかけ終え、それまで横でうなずきながら聞いていた比嘉ミチルにマイクが渡された。 聴衆に向かうミチル。 歓声が飛ぶ。黄色い声が跳ねる。 それも静まって満場水を打ったようにシーンとなった時、 「レベッカ・ソルニットさんの言葉を伝えます。 沖縄も、本土も、イラクも、皆んな皆んなつながっています。みんながつないだ心で戦争に反対し、米英のイラク占領、イラク統治に反対し、世界の圧制と闘いましょう。 ノーモア・イラク! ノーモア・ヒロシマ、ナガサキ! そしてノーモア・オキナワ!」 レベッカの呼びかけを通訳する形で伝え、そのあと2人で、集会参加者全員で一丸となって「ノーモア・イラク!」「ノーモア・ヒロシマ、ナガサキ!」「ノーモア・オキナワ!」を唱和したとき、イラク反戦イメージソング、比嘉ミチル作曲の『この広い世界のどこかで』のイントロが流れだした。 「あれが比嘉ミチルか……!」 マルガリテがはじめて目をみはった。 その瞬間、野外大音楽堂を舞台とした反戦集会場の光景が一変した。 それまではステージ横手の関係者席にあたる部分に主催者や、レベッカにつづくそれなり有名な論者もいたのだが、その存在もかすむほどレベッカのスピーチが、というより会場全体に陰鬱なムードが立ちこめていた。 それが…… 1年前、彗星のごとく現われ、環境問題や反戦、平和に対し独自の主張をつらぬき、それまでタレント、芸能人といったら見てくれだけで没個性、思想もなにもない人形の集まりでしかなかった日本の芸能界にあって、際だつ存在感でめきめき頭角を現わした若手。 彼女も今日の集会のメインゲストの一人だったのだ。 そのミチル登場により3000余の人を呑み込んだ会場の雰囲気ががらりと変わった。年長組と若者組という集会参加者間の垣根がはずされ、パネラーと参加者との意見の応酬では、発言者に対する拍手と声援が差別なく双方から起こった。 さらに、同盟国アメリカへの配慮から出席が危ぶまれていた与野党政治家の顔ぶれも続々到着。それら情況変化の背景にあるものがミチル効果だとすれば、それこそ「恐るべし比嘉ミチル」というべきだろう。 その熱気は夜の部へと受け継がれ、ただしファンの年代差から客層は一部入れ替わったもののコンサートは超満員の盛況だった。 そこではステージ衣裳にみちがえったスター比嘉ミチルが、七色のスポットライトを浴び、露出度満点のドレスからこぼれ、ミニから伸びるぴちぴちの肢体を舞台狭しと跳ねまわらせて歌い、踊り、語りかけた。 問題はミチルの背景の暗幕だった。 暗幕は照明効果をそこねないための二重構造で、その下がスクリーンだということは、開演前の舞台組みを見た誰もが知ってることで、マルガリテも「映像効果を狙った演出」と見当つけた。 ただ、それがどういう映像なのか。 その詮索を思案している時、ウイルソンが会場の熱気と興奮にあてられ、感心まじりにこんな感想を洩らしたのだ。 「いまや比嘉ミチルはオキナワの星だね」 その言葉のあとで、ステージに舞うミチルを指してこういったのだ。 「彼女が、もし明日にでも失踪したとしたら、それが基地問題と連動したことなら……」 ウイルソンの言葉が冗談としか聞こえなかったくらい、マルガリテにも、当のウイルソン自身にも分からなかったことがやがて明らかにされる。 今回のコンサートの目玉は、10月に発売される比嘉ミチル作詞作曲『鎮魂の海 マリンとともに』の新曲発表だった。それがショーの最期をかざるのを、ファンは固唾を呑んで待っていた。 フィナーレを予感させるカラオケ演奏。 これが最後か、だが、いつもトリで歌う曲がまだ流れていない。そのことに不審をもって見守っていたファンも多かったろう。 だが…… オープニングが終わり、しんとなってミチルがマイクを握った。 その口から聞いた言葉は意外なものだった。 「みなさんにお詫びすることができました」 ミチルは確かにそう言った。これが二昔半もまえならキャンディーズの解散宣言を連想してブーイングの嵐となるところだろうが、それを匂わすようなファン向け情報は何もなかったはずだ。 ああ、新曲は間に合わなかったんだ、事前に発表したものの、完全主義が信条の比嘉ミチルが、発表直前になって変更箇所、手なおし部分でも見つけたことによる仕儀だろう。マルガリテもそう思った。 ところが…… 「じつは、さる方面から、新曲『鎮魂の海 マリンとともに』の内容に関してクレームがつけられました。もちろん表現の自由は日本国憲法第21条によって保障されてますが、人それぞれの立場によって……」 マルガリテはあとの言葉を聞いてなかった。ただ、むらむらと怒りがこみ上げ、〈バカっ! なんて愚かなことを!〉と肚のなかで思い切りざま見えない相手を罵っていた。 新曲発表の記事がでたとき、一部週刊誌、たとえば週刊新潮や文春などは、曲がイメージしているのは沖縄の海であり、ミチルの過去の“舌禍事件”やテレビでの“過激発言”を引きあいに、歌詞が反米的だと憶測するネガティブキャンペーンを繰り広げた。 これにホワイトハウスが刺激され、ニューヨークタイムスを皮切りに、直接ミチルを攻撃することなく、婉曲に日本国内の反米感情を取り上げ、日米同盟維持のため応分の理解と貢献をときびしく指摘したのだった。 いずれミチルと事務所に圧力がかかるという情報はウイルソンもさる筋から得ていた。それが差別語問題かなにかのように自主規制と称して新曲を引っ込め、それによってファンの反米感情を喚起しようという政治的作戦なのではないか。 ラストをかざる曲『この広い世界のどこかに』のイントロが流れ、するすると暗幕が開いてライトに照らされた白いスクリーンに映像が映りだした。 この広い世界のどこかで 子どもたちが泣いている 夢をなくし 未来を絶たれ…… それは強烈なプロパガンダだった。 もともとミチルの歌には、それほどインパクトがあるわけでも、独創的なわけでもなかった。しかし、ミチルというスターの個性と主張でイメージが増幅され、単調な曲にも歌詞にも比嘉カラーが色づきされて一人歩きをはじめるのだ。それが今宵は強烈すぎた。 スクリーンには平和なころのバグダッドの市場。 子供たちの笑顔。それが一転。 M1A2エイブラムス戦車の驀進する映像になぎ倒され…… M2A2デザートブラッドレー歩兵戦闘車…… ミサイルが発射され、アパッチヘリが飛来する。 自動車爆弾が破裂し、米兵の自動小銃が連射される。 この広い世界のどこかで 家族をへだてる戦争がある お父さんを撃たないで お母さんを殺さないで…… スクリーンには、病院のベッド、劣化ウラン弾の後遺症に苦しむ子供たち。 髪の毛が1本もなくなった少女。 子供の死体に取りすがるフセイン髭の父親。 子供の被害があまりに多い。それも無理はない。イラクの人口の半分は15歳以下の子供なのだ。イラクは子供の国なのだ そのころから、客席内のあちこちからすすり泣きの声が洩れた。 間奏のあいだ、おそらくアメリカを罵る意味からだろう、怒気をはらんだブーイングが乱れ飛んだ。 「負けるなミチル!」 「僕達がついてるぞ!」 その声を聞きながらマルガリテは不思議な興奮につつまれた。この思いにはたしかに覚えがある、そう思って振り返ったら、あのニューヨーク9・11の際の崩壊するツインタワーの映像がまざまざと脳裡によみがえった。 |
| ぎえええぇぇぇーーー…………… いつ止むともなしに聞こえていた陰惨で不吉で凄絶とした悲鳴。 それがもう10分もつづいたら、それこそ気が変になりそうだ、そう思っていた矢先。悲鳴が突然ぴたりと止んで、あとは静寂。 〈死んだ……!?〉 そう思ったとたんドキドキした。心臓の鼓動の激しさに、突発病にでも罹ったのかと錯覚するくらい、明奈は胸苦しさに囚われた。 またシーンと静まりかえった。 チッ、チッ、チッ、チッ…… 沈みこんだ世界のなかで時計の音だけがやたらはっきりと聞こえた。 突然ドアノブを回す音がして、明奈は「ぎょっ」となって身がまえた。といって開脚寝台に縛りつけられた身だから、いたずらに手首や脚の戒めをきつくするばかりだった。 ドアが開いて、ドアが閉まる。と同時にカチッ、ぱっと明かるくなり、それまで暗闇に慣れていた反動のまぶしさに目がくらんだ。 〈でもどうして?〉 外から悲鳴が聞こえた割には、連中の足音がしなかったのはなぜだろう。 いや、いまはたった1人の来訪者だ。 とうぜんというべきか、こんども黒覆面で顔をかくし、それが白衣だったからハスキーボイスの年上らしいほうと勘違いした。 しかも着ている白衣のところどころ血のシミ、それがいま浴びてきたように、ぬらぬらとかがやいて見えた。 つかつかと近づいてささやきかけた。 「さみしかったかい?」 声も感じも若かった。だから、 〈ちがう!〉 こいつはまぎれもなく、ボンデージルックを着たほうだ。 「待たせたね。さびしくしてたかい? でもこれからぼくがたっぷりと相手してやろう」 なぜだか芝居じみたセリフで、男みたいな口調で子供をあやすようにして頭をなで、手ぐしで髪を梳いたりしたあと、おもむろに、片方ずつ、薄いゴム手袋を装着した。 わずか半日の安らぎに過ぎず、それからが明奈にとって耐えがたい長さと地獄の責め苦の時間となるのだった。 がらがらがらと音をたてて、それまで隅に追いやられていた医療ワゴンが開脚寝台のすぐ横に運ばれた。 とうぜん明奈の目がそこへ向く。 張り型、淫具の類はかたづけられ、金属製のかがやきを放つ医療器具の、しかも細くて長い挿入医具ばかりだった。先が湾曲したものもあり、狭い箇所に入れたらむごくこすれるのは歴然だった。 あの円筒形の鉄の固まりはなく、代わりに四角い箱状の装置が発電器か。コードが枝分かれして床に垂れてるからそうだろう。 1つきりの椅子をまえに置いて座り、 「バージンならもっと愉しめたのに……」 これだけは不満そうにつぶやいた。 ドクターハンドの指が陰毛を掻き分け、性器をまさぐる。割れ目を剥いて口を開けさせ、銀色に光る筒型アヒル口を挿入した。 「むうっ」と、明奈は顔をしかめた。 使われた内視鏡は16歳の性器には大きすぎた。華奢な身体にはむごすぎ、その苦痛の挿入行為を歯牙にもかけないどころか、女の黒覆面の目は笑っていた。 無影灯の明かりの下、内視鏡でぱっくり開いた性器の奥、柔肉の洞道に2本、それぞれテープごと束ねた棒状器具が挿入された。 「や、やめて!」 思わず禁止されている言葉を口走った。 開かれた細腰の中心の陰毛の股間。全開された膣を通るときは難なく、しかし先が微妙に湾曲した器具が子宮口から入り込んで奥まで通過するときは鈍い痛みに苛まれた。 ぬらぬらとした瞳がじっと観察している。 スイッチがひねられた。 ゆっくりとダイヤルが回された。 トン、トン、トン…… と、腹の中から雨粒みたいに叩く小さな痛みが、その痛さもサイクルも大きく速くなり、異様な鈍痛に腹部全体が蹂躙されると痛さというより恐怖に支配される。 身体が逃げようとした。母体を守る本能とでもいうべきものだろうか。そこが女の命を宿す器官という意識からか、無意識下の防衛モードで身をよじり、 「ひいっ!!」 とはげしくわめいて背中をそらす。 すると電流を発する凶器の先端がむごくこすれ、あるいは子宮粘膜を傷つけるのか、身体の芯はより苦痛な電気を感じて、防御機能は抵抗をやめ、静止モードに固まった。 電圧はさらに上げられた。 「うぐぐぅ……むひぃーっ!」 目を見開き、しかしじっとしたまま全身が拷問電圧を耐えてはげしく力んだ。きのう足指を支点に電気ショックを受けた時のように、こんどは脚も手も腰も腹も胸も身体全体が総毛立ち、力み返って筋だつようだった。 ドドドドドドッ…………… という内臓を突き上げる電気ショックに、熱が加わった。ショックの律動リズムも速くなった。点としてのショックの間隔がせばまり、ショックが線になった時、下半身に受けたようなひきつれが全身にきた。 「うわわぁぁぁー、わわっ!」 全身の関節という関節に負荷圧が加わり、手足の指は突っ張り、四肢の先はぴーんとなって筋だった。 女がダイヤルをさらに上げた。 「ひええーっ、助けてっ!」 関節がきしみ、骨が折れるかと思った。それ以上に内臓をかけめぐる電流波の衝撃。熱をともなった鈍痛。女の本能は破壊される母性の恐怖におののき、狂うばかりだ。 全身の関節が外れる寸前にスイッチが切られ、どおっと身体が開脚寝台に沈んだ。 だが、すぐまた「0」からの開始だった。 開かれた両脚の腿のあいだから、猫背になって秘奥部をのぞき込む女の覆面顔が見える。その目はぎらぎらと嗜虐にかがやいていた。じっとしているようでいて、コントローラーを微妙に操作していることは、明奈の身体を通して直接感じられる被虐だった。 また、すごいことになるのか。 と、女の肩が怒った。ぐいっと動いた瞬間、 「ぎゃっ、ぎゃああっ!」 と明奈が悶絶苦悶に身をのけぞらせた。 女の深奥部を電撃刺激がえぐっている。刺激の先端――挿入器具2本はテープで断線、発電部だけ微妙にずらしてショートを避けているわけだが、そうした細工の結果の電撃刺激が子宮内を前後しているのだ。 「うわっ、やめてっ、助けてっ、こわいっ」 もう、こすれる、傷つくの段ではなかった。それでなくともえぐられ、ひねくり回されるのである。どうせ傷つくならと、苦しまぎれの反転、のけぞり、のたうち回った。 悲鳴。絶叫。 いつしか失神する明奈。しかし、サディストの冷血は安息をゆるさず、注射で気つけたり、カンフル剤で気力を保たせたり、常に意識の回復に努め、電気を流しつづけた。 翌日も、その翌日も飽くなき拷問、凌虐は果てしなくつづけられた。 |
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| マルガリテはブルーバードシルフィを運転しながら、ダッシュボードの中身に手ごたえがなかったことに軽く舌打ちした。 夕方の時間帯は太陽の斜光がまぶしく、サングラスを忘れてきたのは迂闊だった。 おのずと運転は慎重になる。 それでも、また、あの秘密アジトに向かっている。そう思うだけで気持ちがさわぐ。猟奇の蟲(むし)がうずくのだ。 明奈という娘。あの娘もだが、いま、この一時にも浮かぶ未沙の蠱惑(こわく)の表情、アノ時の顔と肢体、陰毛の性器……。 だが、今日という日は、それらの妄想も別の憂鬱によって吹き消された。 〈ちょっと熱くなりすぎてたかな〉 前夜のキルビーとの議論を後悔した。 その場には若い部下も何人かいたのだ。まったく大人げないところを見せたものだと、いま思い出しても赤面してしまう。 常軌を逸していた。 椅子を蹴って立ち上がったのだ。 会議机をまえに、振りあおいで見るキルビーを見下していた。白衣を着た時の定番ポーズで左手をサマージャケットのポケットに入れた挑発的ポーズでにらみ返したのだ。 激論の元はといえば、比嘉ミチルの日比谷野外大音楽堂コンサートでのハプニングだ。ホワイトハウスがかけた圧力で、ミチル側が新曲発表をとりやめた件についてだ。 なぜあんなことをしたのか。ミチルの反米的態度など、タレントイメージを強調するための見せかけ。そんな火の粉にすぎないものに油を注いで大火事にするのか、と。 ふだん強面で、意見はおろか、ろくに口も利いたことのない上司のキルビーに真っ向から楯突いたのだ。あの男が唖然としたまましばらく貝になっていたのも当然だ。 今朝、チェックアウトするとき、あのウイルソンが「謝ったほうがいいぞ」と忠告したが、それを尻目にプリンスホテルから車を発進、靖国通りを一直線に走っている。 5月のブッシュの“戦争終結宣言”などクソだ。今後、イラク戦争の泥沼化は必至で、そんなさなかに同盟間の結束はだいじで、軍事面はともかく、いち早く戦争に賛意を表明した精神的支柱である日本を軽んずることは愚か以外のなにものでもない。 そう思っての突っ張りだったが、 〈そもそもわたしは、日米同盟の安定などと本気で思って言ったことだろうか……〉 自分で自分の気持ちが分からなくなった。 母とは縁薄いあいだがらだが、母であるからには、なにかにつけて気になる。 そしてまた10月1日が近づく。 その日はマルガリテの生みの母がアメリカからは国益の名の下、抹殺宣告を受け、日本からはアメリカとの同盟をおもんぱかるあまり国籍から抹消された宿怨の日、であるからには米日両国は母にとって仇の国なのだ。 その数奇な運命に心するとき、ハンドルを握る手にも力が入る。 車は市谷本村町を過ぎて間もなく市谷見附の交差点に差しかかり、それが新宿区との境で市ヶ谷橋をわたると千代田区である。その間右折し、左折し、靖国通りはまだつづく。 やがて道路がにわかに混みはじめた。 どうやら事故のようだ。 歩道の人だかりと警官の姿。車道に子供用自転車がぐしゃぐしゃになって転がり、そのまえに張られたテープを横切って、ゆっくりと車を走行させた。 街路樹が植わる一角に、朽ち果てた枝が散乱していた。それだけが事故っぽく、それ以外は血も落ちておらず、なんの形跡もない。 それにしても比嘉ミチルコンサートだが、あのおりのウイルソンの言葉を振り返った。 「彼女が、もし明日にでも失踪したとしたら、それが基地問題と連動したことなら……」 彼の言葉の延長には、じつに漫画チックな発想があった。 反米と親米に分かれて日本が真っ二つになる。右翼と左翼に分かれて血で血を洗う内戦となる。30年前、母の運命を巻き込んだ彼(か)の国のように。これからそうなるだろうイラクのように同胞同士憎み合い殺し合う日本。 そうしてアメリカはレジスタンスに手を焼くイラクにくわえて、いままた日本を頭痛のタネにきりきり舞いすることになるのだ。 両方がずたずたになるサマを、マルガリテは表向きホワイトハウスに尽くす顔をしながら、その実どこ吹く風と嘲笑い、いい気味だと快哉を博して高見の見物を決め込む。 もちろん、そんな絵図など漫画以外のなにものでもない。とはいえ、妄想にしても、これ以上壮大な見せものはないではないか。 いやいや、そんなことより、あの二人…… 集会とコンサートの合間、日比谷公園のベンチにならんで、持参した手作り弁当をひろげてくつろぐ2人がまだ気になる。 「24、5歳のほうが“ミスズ”。年上のほうはたしか“リョウちゃん”といった……」 車窓を走る景色に、ほか弁の旗が風になびいて見えたような。 集会のあと、気になってあとをつけたのだ。マルガリテも離れたところのベンチに落ち着いた。すると、いっしょにいたウイルソンが空腹に耐えかね、こう言ったものだ。 「夜まで間があるんだぜ。あんなのほっといて飯でも食おうよ。たしか近くに日比谷グリーンサロンとかいう店があるはずだが」 「もう、動きたくない。出たところにコンビニか何かあるでしょ。買ってきてよ」 「サンドイッチでいいのか?」 「そんなんじゃ保たない。“ゴハン”ものがいいわ。“ホカベン”かなんかない?」 「すっかり“ニホン党”だね。でも、コンビニ弁当でいいのか、健康に気にする向きが」 「マック(マクドナルド)よりはマシよ」 と、そんな会話まで思い出した。 とにかくその時はミスズを知りたい一心だった。たしかにミスズには見憶えがあった。その時は未沙までは頭が回らず、リョウとの会話からなにか聞き出せると思ったのだ。 だが、無駄だった。 風向きが逆なこともあって、会話を聞き取るのは、そこからでは無理だった。 それでも、2人の関係は良く分かった。夕景になり、横にならんで見交わす影がシルエットになっても、そこには互いをいたわる心象が感じられた。 ただ、それは決してべたべたしたものではなかった。 たまたまそこへ、親からはぐれた幼子がちょろちょろと来かかって目のまえで転んだ。その直後である、ミスズ、リョウがぴょんと立って駆け寄り、手をのべて抱き起こし、子どもは泣き出す間もなく衣服のほこりを払われ、もとのとおり立ち直ったのだ。 母親がやってきた。 子供を引き取り、礼を述べて母子そろって去って行く。 それを見送るミスズとリョウ。 それだけの光景がなんとも清々しく微笑ましく、そこに配置するミスズといっしょにリョウという女にも興味が湧いたのだった。 それをマルガリテは思い出しながら運転していたが、車は須田町交差点を過ぎると岩本町交差点に差しかかり、交差する昭和通りの上を首都高1号、上野線が走っている。 そして岩本町を過ぎてわずかで浅草橋交差点となり、靖国通りはここで終わる。左折して江戸通りを、マルガリテの愛車ブルーバードシルフィはひたすら浅草に向かって走った。 |
| 雷門通りを寿司屋横丁のアーケードに曲がって歩くと、なるほど寿司屋の暖簾(のれん)が何軒か目に入り、それにまじって手打ちうどんの実演販売をやるそば屋もある。 ただ、それもわずかの区間だった。 みじかいアーケードが切れた両側にショッピングビルの新旧ROXがでんと建ち、昔のなごりをとどめる浅草演芸ホールと、昔のなごりは片鱗も感じさせない電気館ビルをこれまた左右に見ながら、昔と今が混在するショッピングモールとなる。 細長くのびた一帯が浅草六区通りで、交番まえにはストリップ劇場ロック座が、いまも健在している。 その先の右手は場外馬券売り場のウィンズ浅草だが、おなじくらいの範囲の左手は古い映画館が4軒。その4軒の手前、ななめ向こうの交番からも見える位置に鬼面館がある。 鬼面館。浅草では唯一のSMクラブだが、実態はそんなものではすまない。 「人を隠すなら人の海に」、「木の葉を隠すなら森の中へ」の教えは人間心理の裏をかく隠密戦略だが、おどろくべきことに、この鬼面館こそが明奈を閉じこめてもいる米軍特殊機関の秘密施設でもあるのだった。 そこへマルガリテは昼間から、というよりは昼間なればこそ、臆することなく堂々と入って行くのだった。 事務所の、開いている小窓から顔をのぞかせ「おはようございまーす」と店のSM嬢よろしく声かけ、ちょうど目のまえを通りかかったキャミソール姿の店の子に「おはようございますマルさん」とあいさつされた。 「理恵ちゃん、風邪治った?」 「一日寝たらぴんぴん」 元気そうに答え、「また、電気で責めてください。わたし、もうアレに病みつき!」 これは、こっそりと耳打ちした。 「いいわよ。でも、わるいわね。しばらくは時間取れそうにないのよ」 そう答えたら、理恵ちゃん哀れなほどがっかりした。 そんな飛び入りでぐずぐずしていたおかげで店のオーナーに捕まった。事務所からでてきた彼は人目をはばかり、片掌を頬にあて、ひそひそ声。 「今日は堂々のご来場なのね」 「昼間なら表からのほうが自然じゃない?」 「なるほど」と納得。 「そりゃそうと凄いわね、未沙ちゃん!」 オカマ言葉で切りだすがマルガリテにはなんのことか分からない。 「あら、マルさんにも内証のことだったの? いやだ、知らないわよ、ヤバイことになっちゃっても。あたしの責任じゃないわよ」 古いアメリカ映画にでてくるような、手をひろげ、背中をすくめたポーズでブルった。 「案内するわよ。ついてきて」 ポケットに手を突っ込み、いつでも鍵束が出せるようがちゃがちゃいわせながら先を歩いた。 プレイルームにしている部屋のまえの廊下を過ぎ、角を曲がって廊下はだんだん奥まって狭く、暗くなっていく。 突き当たりの扉を開けると、地下へ通ずる格子式の外階段。 どこから射すのか、薄明かりがぼんやりと足下を照らすだけの狭い階段を手すりにつかまって降りていくと、暗く沈んだ底から音楽のようなものが聞こえ、だんだん近くなる。 階段わきに狭い空間ができていて、下まで降りると、それが重低音のビートを利かせたエロチック音楽だと分かった。 「今日はセレブ客が何人もいるので……」 「だったら、うかつな会話は禁物ね」 あとの言葉をマルガリテが引き取った。 ドアを開ける。 ボロ隠しのついたて横をすり抜けると、ぱっと世界が拓けた。 はじけきった音楽、悩ましい喘ぎと苦悶とよがり声。ときおり悲鳴……そこが上客、秘密会員だけに許される暗黒ゾーンだった。 オーナーに寄り添う。変な気じゃなく、耳打ちするためで、 「今日は拷問ショーじゃないようね」 「もっと凄いわよ」 「まさか!?」 未沙がどうとかいう最前の言葉を思いだし、にわかに胸騒ぎをおぼえた。 広い地下室の真ん中になにか置かれ、それを囲んで男たちが見物していた。 はやる気持ちで近づいた。 置き台に重ね、ガラス張りショーケースようのボックス内では、黒人と白人がまじった女同士の“まな板ショー”が演じられ、かぶり付きを占領して見物する5、6人。 反対側には大型モニターが置かれ、モニター画面と中とを交互に見る5、6人。 なんの所為か脚立も立てかけてある。 その理由も分かった。ガラスケースのてっぺんに上がり、スパイダーマンか乱歩の『屋根裏の散歩者』よろしく、猟奇の目をぎらつかせて真上から見る元気者もいたのだ。 それは一見、巨大な虫篭を思わせた。 そう、これは人間の虫篭で、さらに近づいたらシートを敷いた上にハダカ虫が1匹、2匹、3匹、4匹。まな板ショーといったが、そんな生やさしいものではなかった。 三角仮面をつけた未沙。 その相手は全裸だが、未沙はビキニルック。後ろ手縛りの、横向きの背中も見当つく。 揉みしだかれる乳房。のけぞる目隠しの顔は確かに明奈。が、また未沙につかまれ客のほうに向かされた。一瞬見せた涙顔の口にはボールギャグ。悶絶苦悶に悲鳴をあげた。 〈冗談じゃないわ! いくらしゃべれないようしたからといっても……!〉 血相変えてガラスを叩いた。 未沙がこっちを見た。気がついたものの、客への媚びでマルガリテは無視。ひたすら明奈の乳房を乱暴に揉みしだき、そしてエロチックな音楽が最高潮に達した。 明奈を攻めている2人目、3人目の両ビキニ女。 その三角仮面を見きわめるべく、マルガリテは横から、うしろから回り込み、かぶりつきの客を押しのけ、強引にまえへとでた。 攻める者、攻められる者の歴然たる肌色のコントラストの差異に目をみはった。 白い肌の下肢を割り開いて、少女の陰毛の性器と、菊皺の肛門を露出させて責めさいなむのは、黒曜石と赤玉石のブロンズを思わせるグラマラスボディーの美女2人である。 ボーイッシュな髪をカールした純血ブラックが明奈の片脚を肩にかついで、肩まで黒髪を垂らした横にいる相方、混血ブラウンの凌辱をたすけるのだった。 この混血がなかなかの美人で、どことなくナオミ・キャンベルに似て、その美形と美貌で嗜虐に憑かれて隠微に微笑み過激な行為におよぶ、これ以上の見せものはない。 いや、拷問ショーといえるかも知れない。 陰毛の性器に赤銅色の指がズブリと突き刺さり、「ひいっ」と、ちいさな悲鳴。 黒曜石のブロンズの肩にかつがれた生白い長い素足がくなくなとあばれた。 なおも割れ目を割って2本、3本と入りかかる褐色の指が。苦悶に悲鳴はきわだつ。とうとう親指をのぞく全部の指が入りきった。そうして膣を揉みほぐしにかかった。 くちゃくちゃ、ぬちゃぬちゃと膣が淫らな水音をたてている。包皮をめくられ、びんびんに勃起したパールピンクのクリトリス。 「ああ……うう……」 甘美さのまじった喘ぎ。あの明奈が快感を感じるまでになったというのか。こちらから見る目隠しの顔、ボールギャグでふさがれた口から絶え間なく垂らすよだれ。 その顔がのけぞった時。さらに、 「ぎひいっ!」 くぐもった叫びをあげた時、残りの親指が全開された割れ目のなかに吸い込まれ、手首の太さにすぼまっていく陰毛の性器。 淫らなサーモンピンクが食わえた褐色の手首が精力的なピストン運動を開始し、5回に1回はゆっくり抜かれ、拳が出かかって性器を全開しにかかる。その際の明奈の悲痛。 「うぐうーっ……つつ!」 呻きといっしょに横になった上体が反り返り、 「ぐがああーっ!」 と最大に全開される苦痛をケダモノじみた悶声にしてあらわした。 マルガリテがそっちに移動した。 横抱きにされて背中からまわされた両手のなかで揉まれる美乳がみにくく形を変える。目隠し、猿ぐつわの顔は苦痛と羞恥で脂汗をにじませ、ぎとぎとに輝いていた。 大型モニターは、かぶりつきを占領された客たちのための配慮だが、強烈苦悶の顔のそばに置かれた局部アップの画像は、これまたじかで見るとは別のなかなかの迫力もの。 「ひぎゃああっ!」 明奈が絶叫した時、画面には拳を食わえた性器といっしょに、極太張り型を無理矢理押し込まれつつある肛門がドアップとなった。 拳になったり手首だけになったりする褐色の手と、ペニスを模した大型張り型を握る黒曜色の手。攻める手が2組になった。 また、マルガリテがかぶりつきにもどった。 男たちを押しのけた。 むっとなる者、つっかかる者、だがマルガリテの美貌と迫力に気圧され、自分から場所をゆずってうしろに回る。女は得である。 「ぎゃああっ!」 という悲鳴。顔を映すモニターはないのか、マルガリテがきょろきょろした時、ちらっとまな板の端にちょこんと隠しカメラ。これでとらえた映像がモニターに映る仕掛けか。 陰毛の性器を全開させて拳が抜き出されると、悲鳴はため息に変わり、明奈の苦悶は息をひそめた。が、攻守交代。 ブラウンとブラックが入れ替わって、褐色が明奈の腰を押さえ、クロが蜜汁を吹き出してぬらぬらしている陰毛の割れ目に、拳にした黒い手をとがらせ、割れ目に押し込んだ。 「うん、う、うあああーっ!」 尻上がりに高まる悲鳴。 拳が割れ目を広げていく。 「むんあーあーあー……!」 ボールギャグでふさがれた口から精一杯の苦悶をうったえ、絶叫が響き上げる。 「ぎええええーっ、があああーっ……!!」 性器が全開した。拳のいちばん太いところが抜けて、まるで別の生き物のような陰毛の口に食わえこまれ、呑み込まれ、それから手首だけになった。 残虐凄惨なフィストファック。 泣き叫ぶ明奈。 嗜虐に嬉々として口元をゆがめるクロと褐色の三角仮面。 未沙の乳房なぶりはその時は影をひそめ、明奈の顔を取って、悶絶苦悶する表情を見てもらうべく客たちのほうに向けて、これまた三角仮面の目を嗜虐に輝かせているのだった。 絶叫と狂気の拷問フィストがしばらくつづけられた。 そして突然、照明が消された。鼻をつままれても分からない闇の中、客たちのざわめき。そして、「きゃっ」という客の叫び。男が女のような悲鳴をあげた。 それからふたたび照明が点いて明るくなった。 ガラスケースの舞台は明奈と、黒人2人と3人になっていた。 黒いほうの膝に上体をうつ伏せて、暗闇のあいだに後ろ手縛りは前縛りに早変わり、そして膝をついてちょこんとだした尻に、絶叫と連動して、太さ6、7センチはあろうかという張り型がずずっ、ずるっ、ずず、ずるずるっと肛門をひろげて入っていくところだ。 おおっ、という歓声。 客たちはいっせいにそのほうに固まり、台形ショーケースの片側はガラスの仕切り面に貼り付いて、異物挿入による強制拡張で全開される肛門を凝視する目、目、目…… いまマルガリテのそばにはビキニルックから、3日前の明奈拷問の際のボンデージルックに着替えて見ちがえた未沙が立っていた。これも真っ暗になった中での早業だった。 「出る時うっかり、お客の股をくぐってしまって……」 それで誰かが悲鳴をあげたのだ。 だが、マルガリテにすればそれどころではなかった。 「あのねえ……」 「まあ、ここじゃなんだから」 相手の怒りをはぐらかす調子で制すと、外へ誘った。さっきの逆で部屋の隅へ、それからボロ隠しのついたてを抜けてドアの外へ。 ただ、それからあとがちがった。 外階段の裏に別の通用口があった。 ドアを開けたところが狭い廊下となり、2つならんだ部屋の一つに入った。 殺風景な部屋に机と椅子。マジックミラーから見た隣りの取調室だった。先に入った未沙が、マルガリテを迎えてドアを閉めた。 「あなた、ねえ……」 と、マルガリテがさっそく小言に入ったが未沙は歯牙にもかけない。 「だいじょうぶよ。身体の隅から隅まで舐めるように観察して、どこにも目立った特徴のないことを確認したから。まったく、シミひとつない身体というのはあの子のことね」 と、かえって感心して見せる始末だった。 「それにしたって……」 「だーいじょうぶだって。日本通のマーゴさんがコトワザとやら教えてくれたでしょ。木を隠すには森がいい、人を隠すには人の中がいいって。拉致され、失踪した女の子がSMショーに出てたなんて誰が想像する?」 「だけど……」 もう、怒るのはやめて別のことを話すことにした。 手足の細い明奈にフィストファックしたら痛々しくて見ものだといった未沙。それが、留守の2日間のあいだにここまでに仕込むとは。しかも、フィストまではいかないものの、直径6センチの張り型をアヌスにまで貫通、 「可哀想に。あの子にとって、お尻の穴の調教はこたえたでしょうに」 浣腸され、腹の中をきれいにされたあと、細い棒状器具からはじまって、徐々に徐々に太くされ、たっぷりと時間をかけて調教されるさまが、マルガリテの脳裏にありありと想像され、それだけで興奮ものだった。 「ごめんなさいね、お先にいただいて」 ちゃっかりと先回りして謝るところが小面憎かった。 「それより、コンサートはどうだったの?」 未沙はその報告を聞きたがった。 「まあ、それがね。そのことはあとで詳しく話すとして。ちょっと集会とコンサートとの合間に、気になる子を見かけたのよ」 「気になる子?」 「そう、写真か、ビデオか何かでか、どこかで見たはずなんだけど、それがなんだったかどうしても思い出せないの」 ビデオといわれて、未沙の直感アンテナがぴーんと立った。そして、その言葉で連想するものは、いかな冷血鬼畜な未沙でも背筋を寒くするような禍々しいものだった。 「どうしたの?」 マルガリテがあえてそう訊かざるを得ないほど、その時の未沙の顔はどんよりと暗いものをたたえていた。 「あなた、たしか最近まで池袋のSMクラブに勤めていたんだったわね。そこで、もしやミスズという名の……」 ミスズという名を聞いた瞬間、未沙の顔が電気に打たれたようになった。が、その瞬間、ハッとしたのはマルガリテもおなじだった。未沙とミスズが直結したその時、マルガリテの口からでたのは、未沙とは別の名だった。 「ミーシャ……! あなた、もしや本名はミーシャというんじゃない……!?」 そうだ。いつだったか、クラブ勤めを告白したとき、未沙はうっかり別の名を口走ったのだった。その時はすぐに未沙と言い換え、マルガリテにもなんのことだかわからないまま、いつか忘れ去ってしまったが、ミスズという名と連動してそれがよみがえったのだ。 「そうよ。わたしの本名はミーシャよ。やはり、あの時のこと憶えていたのね」 未沙ことミーシャはあっさりと告白した。 そして、 「ついでに面白いこと告白しようかな」 いつもの未沙らしくない捨て鉢な態度でなにかを訴えようとしていた。 「え? 面白いことって……? え?」 未沙の口元が震えている。頬もぴくぴくと痙攣しているような。そのうち貧乏ゆすりをはじめた。なにを怖がっているんだ。なにを見たというんだ。そこにはマルガリテがこれまで見たこともない未沙が、まるで雨に打たれた捨て猫のように震えているのだった。 |
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| ふたたび手術室の開脚寝台にくくりつけられた明奈。目隠しの身に分かろうはずはないが、今日はマルガリテと未沙、2人の白衣にはさまれ、餌食にされようとしていた。 全裸の明奈。 両手は左右に十字架磔状態、両脚はお産ポーズで大開脚拘束という恥ずかしい姿。目隠しされた顔は不安と恐怖で真っ青だ。痩せた肩や、きわだつ鎖骨の襟元をふるわせ、熱病患者のように「はあ、はあ」とはげしい喘ぎ。それを見ているマルガリテ。 たしかにシミ一つない身体だ。 ただ、美乳の乳首に電気責めによるヤケドのような電流班があるが、これはミーシャ、いや、未沙が横についてる時はひっきりなしに乳房を揉みしだく行為で隠しおおせた。 そして、未沙が離れたあとも―― 突っ伏すポーズで前は見せず、突き出した尻だけセレブ客、秘密会員に見せ、黒人女2人は異物レイプ、肛門いじめによって、ぐちゃぐちゃに掻きまわしたのだった。 「ミーシャ」 マルガリテが本名で呼んだ。 「なあに」 未沙を名乗っていたミーシャが自然体で応えた。この瞬間マルガリテは一計を案じ、母国のチリ言語スペイン語を使うのだった。 「電気棒を取って」 「……!?」 一瞬にはいぶかる表情。が、いつものマルガリテで何かしら意味をもたせたものと察し、片言のスペイン語で精一杯応じた。 「はい。電気、棒……」 螺旋にえぐれた、太さ5センチほどの禍々しい兇具からでたコードの凹ピンに、スライダックの凸ピンを差すと電圧を最高の130ボルトにセットした。 ミーシャが目をおどろかせた。 「そうよ。最高電圧よ。この子、卒倒するわよ。舌を噛みきらないよう、ボールギャグを口にはめさせて」 そういうあいだ、マルガリテは目隠しされた明奈の顔をじっと見ていた。恐怖と不安でぶるぶるしている以外には変化はなかった。その安心を大胆な会話につなげ、 「フェイクじゃないの? よく見たの?」 「え??」 「あれよ、あれ、あれ……」 大胆に仕掛けかけたものの、まだ油断はならないという慎重が仕掛けをひるませ、もどかしいリアクションを招いただけだった。 拷問ショーが繰り広げられる横でミーシャは、たしかに“生体解剖”といったのだ。 客たちには聞こえない距離にいて、「なにを怖がってるの?」としつこく追求するマルガリテに、「生体解剖のビデオを見たのよ!」と、吐き出すようにいった一言――。 まずはその点を確認したいが、話をしながらマルガリテは電気棒の先を、左右に開いた明奈のか細い手の上を這わしていった。が、プラ・マイの一方だけで電気は生じない。 「はあ、はあ……」という喘ぎ。 目隠しされ、ボールギャグでふさがれた口を苦しそうに、よだれを垂らし、寝ていても量感がある美乳の胸をおおきく息づかせた。 「あれがフェイクとちがうのかというのよ」 明奈に聞かせるべく、すこし声を荒げたら、それが自分に向けられたと勘違いしてミーシャがムキになった。 「フェイクじゃないわ。見れば分かるよ!」 電気棒が二の腕から脇の下に落ちた。その時、とがってすぼまった先端部と、えぐれのはじまりとが触れた時、 「ふがっ、がわわああっ!」 ものすごい絶叫をあげて明奈の十字架磔の上体が激しくのけぞった。背骨が折れるかと思うほど背中が反り返り、リクライニング部の寝台をガタガタといわせた。 それも一瞬。 また、先だけで肩、襟、胸の中心と、心臓に近い部分なだけに、こんどはしっかりと垂直に立てて慎重に這わせていった。 「あええ、あええ、うあ、あい……」 日本語に堪能な者なら「やめてください」と、しっかり理解したかも知れない。その点マルガリテは、やはり日本語には慣れてなかった。苦しまぎれの所為の滑稽と受け取り、ミーシャと2人笑い合うだけだった。 また仕掛けた。 「フェイクじゃないってさ、明奈ちゃん。わたしも見たかったなあ、そのビデオ。明奈ちゃんは見たくない? そうね。なんなら、明奈ちゃんを実験台にして生体解剖しよう。こんな綺麗な身体をメスできざんだことないし、明奈ちゃんみたいな若い子もはじめてだもん」 もちろんスペイン語で話している。 ミーシャは呆然としている。〈なにをいってるんだ〉〈正気か〉と、その表情はありありと意外さを表わしている。 一方、明奈は――。たとえスペイン語が通じなくとも、固有名詞の「アキナ」だけは音で解ってどんな気持ちだろう。 電気棒が形のいい臍の近くで寝かかった。 ミーシャが目を丸くした。〈やはり、本気なのか!?〉そんな顔だった。 目隠しの明奈にはなにも解らず、 「ぎゃわぅぅぅーっ!!」 また、飛び跳ねた。 こんどは、立てたり寝かしたりを微妙な時間かげんでくり返した。 「ぎゃっ!……う、うぎゃっ!……うう……うぎゃあ……わわっ、わあっわあっ……!」 のけぞり、身をくねらせ、左右に開いた脚を筋立てて力み、その足先も手の先もにぎりしめ、のたうちまわった。 ひとしきり責めたあと、また直立させた。 やっとボールギャグをはずしてやった。目隠しの顔が一つため息をつき、それから深呼吸。そして死ぬかと思うほどの喘鳴音。 「サア、アキナチャン……」 “ダメ押し”の仕掛け。ここからは日本語で、 「明奈ちゃん、可哀想ね。さっき、わたしたちが決めたこと教えてあげましょうか」 「………」 「あなたは死ぬの。殺されなければならないのよ。そうなることに決まったの」 目隠しの顔がきょとんとした。 「うそ……うそでしょ」 「うそじゃないわよ。一昨昨日(さきおとつい)から今日まで、ムゴイこと経験させちゃったでしょ。そんなあなたを、このまま返せるわけないでしょ。あなたみたいな利発な子は、きっといろんなこと憶えていて、今日までのいろいろのなかからきっとヒントになること頭にきざんでいて、警察になにもかも話すにきまってる。それでわたしたちが捕まるのは困るから、殺すことに……」 諄々と引導をわたすマルガリテの一言一言を聞きながら明奈が血相変えた。 「なにも知らないです。目隠しされて解るはずないです。警察だってそんな……!」 話の途中に割り込んだが、マルガリテの話は、その間も中断なくつづいた。 「せっかく殺されるにあたって、最期にわたしの願いを聞いて欲しいの。ううん、ダメといっても無理なんだけど、明奈ちゃんの綺麗な身体をわたしの手で手術したいのよ」 「しゅ、手術って、そんな……!」 「そのときは、やはりこんなかっこうにしてメスをあてることになるわね。時間をかけてお腹を切り開いて、卵巣を取り出したり子宮を切り刻んだり、最期は性器をえぐり取って標本にしたいけど、この細くて白い手足も標本にするにはふさわしいかも……」 「うそ、うそうそうそっ……そんなひどいこと冗談でしょ。人のやることじゃないっ!」 話の途中に明奈の割り込み、だがマルガリテの話は延々とつづき、両者の語りと突っ込みが間断なく立体交差してつづいた。 「……麻酔はかけたくないけど、かけないと悲鳴がうるさすぎるわね。極(ごく)局部麻酔で意識のあるまま、天井に大鏡をとりつけ、明奈ちゃんに見せながら切り刻むというのはどう? うん。それはおもしろいかも」 ひとりで納得したりもする。 「……やめて、やめてください。冗談だといってください。わたしはなにもしゃべらないし、しゃべることなどありませんし、あなたがたのことなどなにも知りませんし……」 やりとりをつづけながらもマルガリテは相棒の顔へもちらちらと視線を飛ばしていた。するとミーシャは、明奈へしかけた言葉の一つ一つから忌まわしい場面をよみがえらすようで、みるみる顔を曇らせていった。 「明奈ちゃん……明奈ちゃん、ってば」 パンパン、と2つ3つ頬を軽く張って黙らせた。 「そんなにイヤなら考えてもいいわよ。だったら、またオモチャになっててくれなさい。わたしの気に入る反応をしてくれれば、いつまでもオモチャで生きてられるわよ」 交換条件を出しながら、スライダックの電圧を130ボルトから20ボルトにまで落とすと電気棒を握りなおした。 「わたしは苦痛を耐える表情や声が好きなのよ。やたらに騒ぐ奴隷は拷問する価値もないから、それならと殺したくなるのよ」 そういっておいて、左手で性器を開いた。陰毛のなかからラビアをめくりあげて赤肉をのぞかせ、膣孔を露出させた。 そこへ電気棒の先を触れさせる。 「ひっ」 「だいじょうぶだいじょうぶ。こんどはさっきとはちがうわ。だからボールギャグもはずさせたでしょ。舌を噛む心配はないからよ」 「あ、わわ……わ……」 「さあ、はいるわよ」と、ゆっくり棒の先が入り込み、膣孔が押し開かれ、螺旋部分がずるっとこすれた瞬間、 「ひいっ! ううっ、うううー……!」 一瞬卒倒するかに見せた上体が寝台に貼り付いたようになり、つぎに全身力んで必死に苦しみに耐えているさまになった。20ボルトでも性器にはつらいはずだ。 電気に反応して陰毛が逆立っている。 電気棒をじらすように押し込み、螺旋のえぐれを膣襞にこすらせながら、刺激しながらゆっくりゆっくり体内に挿入していった。 「ああ、うっ……」 それから、電圧をすこし上げた。 「ううううーっ!」 またすこし上げた。 「あ、ひいっ!」 「そう。それくらいはいいわ。それ以上はだめよ。さあ、電気で犯してあげるからね」 「ひい……ひい……あ、ああ、あひいっ!」 電気棒を前後にピストンしながらマルガリテはミーシャに向かった。 「これでわかった、この子にスペイン語は通じない。だから、さあ、なにもかも言って。生体解剖って誰が誰をどこで手術したの?」 スペイン語にもどって短兵急に質問した。 そのせっかちにミーシャはとんがった。 「そんなの知らないわよ。ビデオよ、ビデオを見たに過ぎないのよ。しかも、持ち主には内証で勝手に見たんだから訊きようもなにも……」そう言いかけたが、 「あいつがいたのかも知れない!」 不意に遠くを見る目になった。 「あいつって?」 「イングリッド・パーカーとかいう……」 「えっ!?」 ミーシャが皆までいうまえにマルガリテが驚愕し、その時には電気棒を動かす手も止まっていた。遠くを見る目になるのは、こんどはマルガリテの方だった。 「エドが……!」 そう一言つぶやいて唇を噛んだ。 こんどはミーシャが呆然となった。イングリッドの夫の名のエドモンド・パーカーとはいってもいないのに、それを略称で呼ぶとはという畏怖に似た感情だった。 明奈の責めを中断し、膣から電気棒を抜くとワゴン上に置き、ミーシャをうながし部屋の隅に。会話はミーシャにも話しやすい英語に変えた。 「エド・パーカー、“マッド・エド(気違いエド)”の異名をもつ米軍内での鼻つまみ者――わたしは2、3度、行動を共にし、あいつの鬼畜ぶりはしかとこの目で見てるのよ」 マルガリテが早口で語った。 「で、そいつが日本にきてたわけ? 10年前なら金沢の自衛隊小松基地で、なにか良からぬことしてたって噂だけど……」 「……………」 ミーシャは呆っ気にとられるばかりだ。 「どうしたの?」 「いえ。なんだか、マーゴさん凄い人なんじゃないかと思って。わたしはイングリッドという人も、エドという人も……」 「エドモンドよ、エドモンド・パーカー」 「その人も知らないのよ。わたしが見たのは日本人の少女が手術台に乗せられ、チェーンソーで手足を切断されて殺されていくようすをビデオで見たんだけど、あまりのことで最初はホラー映画の一場面かと思って……」 「でも、なんでそれがエドと結びつくの?」 マルガリテは話の先を急いだ。 ミーシャから聞いてるのは、池袋にある某SMクラブをアメリカ帰りの川村みどりと組んで乗っ取りを画策したものの、先にいた従業員の結束で返り討ち。その後、落ちのびた先の新興暴力団、番ヶ瀬組では、拷問殺人を余興にするスナッフバーティーで警察の手入れをくらい、命からがら逃げ延びたという。 「その話も怪しいと思ってたけど……でも、こうして気違いエドの名前が出た以上、スナッフパーティーも生体解剖も信じるしかないわね。で、川村みどりは……?」 ミーシャは呆れたが、マルガリテに抱いた畏怖の念はいささかも薄れることなく、気違いエドとやらの素性や“良からぬ行為”も知りたく気持ちよく答えた。 「番ヶ瀬組を仕切っていた若頭の酒井は逮捕、みどりは途中までは行なわれたスナッフパーティーの2月14日から姿を消し、いまになっても逮捕もされず行方不明のまま……」 「組はどうなったの?」 「解散ですよ。そんなになったんだもの」 「エドが米軍から離脱したということは聞いてないので、いまも現役としたら日本の警察に捕まるということはあり得ないわね。とするとビデオは彼の手元の可能性が高いわね」 「それですよ、それ。だから、こうなればマーゴさんの線から入手できるんじゃない?」 ミーシャの期待もそこにあった。 こんどはミーシャの調子良さにマルガリテが呆れる番だった。 また、明奈のもとへもどった。 スライダックとは別に電気ショック装置が持ち出された。 「さあ、明奈ちゃん、解剖ゲームよ」 もちろん日本語である。目隠しの明奈がうろたえた。ミーシャもおどろいた。冗談なのか本気なのか。マルガリテはほんとに疲れる。 コントローラーからコードが1本引き出された。それをつまんで、マルガリテが明奈の股間のまえにかがんだ。尻を持ち上げ、コードの先を肛門の中に挿入した。 もう1本のコードの極はクリップにしてドライバーに結びつけた。 扇形の目盛りの10000まである電圧の(もちろんアンペア数はコンマ00いくつといった割合だが)7000〜8000ボルトの中間で設定して、ドライバーを握った。 マルガリテが目くばせする。 ミーシャが、またボールギャグを明奈の口に押し込んでベルトを締めた。 「さあ、また覚悟しなさいね」 そう言ったかと思うやいなや、ドライバーの先が乳房の上を引っ掻いた。 「ぎゃああっ!」 絶叫、十字架磔の上体が跳ねた。 その瞬間、マルガリテの脳裏には裂かれた乳房から鮮血が噴出する光景が浮かんだ。 「ぎゃあっ、うぎゃぎゃぎゃっ!」 ドライバーは乳首、脇腹、また腕や肩や頬にも触れていった。そのたびに凄まじい悲鳴と絶叫をあげさせた。 マルガリテはスペイン語の昔語りをつづけた。 「エルサルバドルにも、コロンビアにも行ったわ。コロンビアでは、コカ・コーラが雇った殺し屋に労組の活動家が何人も暗殺されたわ。またエルサルバドルでも、ゲリラに内通したインディオが秘密警察によって虐殺……」 ドライバーが明奈の性器に突っ込まれた。 「ぎえええーっ!」 出しては入れ、出しては入れをくり返した。 その間、憑かれたように話はつづく。 「農夫を戸板に大の字に寝かせ、手と足に釘を打ちつけて動けなくするのよ。そうしておいて、妻を尋問するの。なにも言わないと、指を1本ずつ切断していき、最期は鹿の皮でも剥ぐように、胸から腹まで一気に……!」 「うそっ!」 「うそじゃないわ。夫のつぎは子供。一人一人なぶり殺しにしていき、最期は妻を何人もで強姦し、拷問し、これも……」 明奈を電気責めにかけながら、マルガリテの話はいつ終わるとも知れずつづいた。 |
| これが“モチ肌”というだろうか。 艶やかだがしっとりとして、その吸いつくような肌の明奈の腹部に手をあてて、マルガリテは診察した。 「今日、何を食べさせた?」 「まだ、なにも」 マルガリテは耳をうたがった。もう、夜にもなろうというのにどういうことだ、と。 「ウイルソンに聞いてないの? キルビーの指示で、とうぶんはなにも食べさせるなと」 「拷問の一環なの?」 「さあ」 ミーシャに訊いても要領を得なかった。 マルガリテは部屋の隅から仕事で持ち歩くバスケットを持ってきた。そこには夜食にするサンドイッチが入っていて、それを出すと明奈の口に持っていった。 目隠しされてはいるものの、ニオイでそれと嗅ぎとった明奈は欠食児童のように首をのばし、差し出すサンドをむさぼり食った。 「水は?」 「水だけは、ある程度は与えていいということで……」 「可哀想に、この子ときた日にはとんだ悪運を背負い込んだもんだわ」 皮肉でもなんでもなく正直に同情した。 その明奈はサンドイッチ3つを平らげ、ようやく人心地ついたようすだった。 いよいよ始めるか。と股間部を見つめた。 開脚寝台の縁は性器や肛門から吐き出されたものがかからぬよう切り込まれ、そのあと下から出た簀の子部分が受け止め、裏側のホースを通って床のポリバケツに収納される。 そういえば、と思い出した。 「明奈ちゃん。すこしお腹にオシッコが溜まっているようね」 「いえ……」 「だめよ。検査の途中、粗相をするようだと困るから、お腹のなかを空っぽにしなきゃ」 「検査って……」 サンドイッチで腹を満たし、情けをかけられた気で安心しきった目隠しの顔に、あらたな動揺と不安がよぎった。 それを横目にマルガリテの右手はゴム管をつまんで、左手は性器を剥きあげた。 「あ、それは……!」 何度目かの導尿である。が、こんどのは太い。直系4、5ミリもある導尿カテーテルを明奈の尿道に無理矢理入れにかかった。 「あ、痛い。とても痛いんですけど……」 「だいじょうぶだいじょうぶ。女性の尿道は男性よりは太いし、細いのは脇から洩れて十分にオシッコをだしてくれないのよ。やる以上はスッキリしたほうがいいでしょ」 ごちゃごちゃいうのをもっともな理屈でねじ伏せてしまった。 ただ、痛そうなのも入りにくいのも事実で、あとの実験を考えれば傷つけるのが本意ではない。そう思ってたらミーシャがローション瓶を差しだし、それで陰部も管もぬるぬるにして再度入れにかかった。 「あ、むうーん……は、はあ、あ……」 と、明奈の反応。こんどはそれほど痛がらず、管もスムーズに入って行き、奥まで入ったと思うや、 「あ、はあっ!」 明奈の目隠しの顔に衝撃とおどろきの声。しかし、その声には喜悦の響きまでが感じられて、 「ほおら、気持ちいいでしょーぉー?」 子供を褒めるような、あやすような言葉。 と、ミーシャと2人見ているまえで、尿道孔からはみ出た管の先からちょろちょろ、じょろじょろ、やがてびしゃびしゃと勢いよく黄色い飛沫が簀の子の上に流れ落ちた。 あたりにたちこめるアンモニア臭。 ミーシャがガーゼで明奈の陰部をていねいに拭き取った。 マルガリテが見る。明奈の目隠しの顔は排泄快感にうっとりとして、前垂れ髪のすき間にのぞく額に浮かぶ玉の汗のエロス。 「はじめるわよ」 と、ふたたびスペイン語になった。 性器に目を落とした。 陰毛のデルタが形良く密生している。淫肉はわずかに黒ずんだピンク色しており、それが16歳という歳よりも大人を感じさせた。 色白では色素の沈着作用でこんなものだろう。むしろ、このほうが淫猥感があって絵になるように思えた。 ワゴン上から、また兇具をつかんだ。さっき、ミーシャとの話で中断した電気棒レイプを、これから本格的に続行するためだった。 ミーシャが上体に移動し、明奈の上からおおいかぶさった。手袋もなにも付けてないのは、直接電気を感じるためだ。 マルガリテの左手が性器を開いた。電圧をあまり高くない設定に。そして淫肉の中心に目を凝らす。そこに螺旋にえぐれた棒器具の先を、敏感の急所を狙い定めた。 「いやっ、いやああっ!」 「だぁいじょうぶ、だいじょうぶ」 電気棒を突いた。 「ひええっ!」 悲鳴。悲鳴に対し、なだめるミーシャ。美乳を揉みながら、言葉をかけながら、マルガリテの責めと連動して、素手が電気を感じていればこそのリアクションだった。 たっぷり挿入してから電圧を上げていく。 内診台の若鮎の女体が、金網の上で火に炙られたスルメのように、それが反転、こんどは背中を浮かせた。のけぞった。 電圧の上昇につれて尻上がりに大きく叫ばれる悲鳴。電気を流しながら、太さのある凶器ではげしくピストン責めをくり返した。 20ボルト……30ボルト…… 悲鳴はとめどなく大きくなる。 「や、やめてっ。耐えられない!」 「まだまだ、だぁいじょうぶ」 ミーシャは乳房をねぶったりキスの雨を降らせたり。 これは拷問ではないのか。そう、尋問は必要ないのだ。「ここ数日の拷問など、どうせ茶番」「拉致した明奈に、できるだけの恐怖を与えるのが目的」その役目を利用して、別の目論見に燃えているマルガリテだった。 まだ、その時ではない。 もうすこし弱らせてから、まだまだ、と。 ふわぁー……と陰毛が逆立っている。まるで、そこだけ別の生き物のように、そよそよと一方になびいているではないか。 「いやあーあ……」 と上昇する電圧に恐怖と苦痛の反応。 羽を広げたように開脚台に伸ばされた華奢な下肢が痙攣を見せはじめた。腿やふくらはぎにぴくつく筋がくっきり浮き立つと開脚台を揺らせて音をたてるほどになった。 悲鳴をあげさせて出し入れされる螺旋の電気棒が、やがてぬめりを帯びてかがやきはじめた。こんな凄惨な場面においても、過激な電撃に最初は苦痛だったのが、時間を経て鈍磨され快感になるということか。 ピストン運動をだんだん速くした。 「ひっ、きゃっ、わあっ……」 と、悲鳴がピストンに連動した。 3回に1回は力をこめて子宮を小突き上げ、明奈に素っ頓狂な呻き声をあげさせた。 無影灯の明かりに映えて、出し入れされる電気棒にぬめりのほか、白っぽい、粘度のつよい体液までが付いてくるようになった。 時計を見ながらしばらくつづけた。 明奈の苦悶にバリエーションが感じられなくなった時、それは感覚が鈍磨した証拠だった。30〜40ボルトの電圧を、いまいちばん感じてるのはミーシャかも知れない。 そのミーシャはあいかわらず明奈の美乳を揉みしだき、扇情的な言葉で相手の興奮を助長すべく躍起となっているのだった。 30分も経過したころ、そろそろ目論見を実行すべき時とマルガリテが判断し、明奈の膣からヨーグルト状の粘液でべっとりさせた電気棒がようやく抜かれた。 ずぼっと抜かれたあとにため息。それから大の字開脚の全裸の全身がぐったりした。 また付け替え作業だ。 電気棒の凹ピンから抜いたスライダックの凸ピンはそのままに、電気棒の凹ピンから抜いたスライダックの凸ピンは、つぎに使う電極クリップのコードの凹ピンに差した。 ミーシャの手が伸びた。 両手を使って陰唇を開く。内側粘膜の赤身のなかに膣口と尿道口。じっと目を凝らす。鼻を利かす。わずかに饐えたようなにおいがしたものの、もうオシッコ臭さはなかった。 指が性器を開いた。開口器のようにむごく開いて、無影灯の明かりに照らされ、ぽっかり空いた中がぬめぬめと光っていた。 「ううっ」という呻き。 目隠しの顔を苦痛にゆがませ、寝ていてもボリュームを感じるほどの乳房を揺らす。 マルガリテがあやした。 「だいじょうぶよ。痛いのは最初のうちだけだから、ね。いい子でいてね」 泣きじゃくる明奈。その泣きじゃくりが高じてしゃっくりのようになった。 マルガリテがいったんスライダックの電圧を10ボルトにセットしたが、思いなおして3ボルトほど低く設定しなおした。 ミーシャの手で開かれた性器。そのうち指がいたずらを開始した。 ぐちゃぐちゃと掻き回す淫らがましい光景を椅子からながめ、ボルタックを使ってこれを思い立ったころのことを振り返り、それをまたスペイン語でミーシャに聞かせた。 「あの時にもエドがいたのよ」 「え!?」 泣きじゃくる明奈をぐちゃぐちゃと責め苛みながらミーシャが興味津々となった。 あれはコロンビアの反政府勢力を掃討した時のことだった。米軍特殊部隊と共同でミッションを行使した秘密警察に同行、激しい戦闘のあとで敵の生き残りを探索していた。 網にかかったのは皆若かった。 何人かの成人男子が傷を負って捕らわれ、その中に1人、17歳の少年戦士がたいした怪我もなく混じっていた。エドモンド・パーカーは犬に餌でも放るように、 「好きに料理してみろ」 そう言ったのだった。 全裸にして机に大の字に縛りつけた。その時に使ったのがボルタックだった。形状はスライダックと変わりなく、ただ、大きさが一回り小さく軽いのが便利だった。 1アンペア、130ボルトまでは変わりなく、最初、最高電圧を使って、絶叫をあげて卒倒する姿にマルガリテのほうがおどろいた。 情報を聞き出せとの命令ではなかったので、微弱電圧で“蛇の生殺し”を試みた。 その時、試した手法が、ペニスの根本近くをリング状の電極で締めつけ、先端を電極を結んだドライバーの先で突つくことだ。 20ボルトで泣き叫んで、ずいぶん意気地のない奴だと思ったが、近接した感覚の鋭敏な部分ではさもあろうという判断に落ちつき、結果10ボルト内外という適正値を得た。 10時間責めた。 なんと、最初の1時間で少年は女のようによがり、女のような声をあげながら、亀頭から愛液を垂らしながら快感を訴えるようになったのだった。 「それでガキはどうなったの?」 「ふん。慰み者にしたのではないかな」 「え!?」 「それが気違いエドの気違いたる所以よ。あいつは13歳から14、15、16、17歳のティーンを女のようにもてあそぶのも好きな両刀使いだったからね」 最大限の侮蔑を込めてマルガリテが吐き捨てた。 そういえば少女のような顔だったこと、骨格も肌の色も少年というより中性のフェロモンを発散した少年だったことを思い出し、それと虐殺少女の面影とをダブらせた。 沙樹か早紀か、沙紀あるいは咲一字だったかどうかも忘れたが、10年まえの美鈴という子の写真とならんで「サキ」なる少女の写真はたしかに見せられた記憶があった。 それがエドがからんだことなら……。 十分ありうると、ミーシャが見たというビデオの真実性を、いまは確信していた。 ぴちゃぴちゃと音を立てて、開き、えぐり、明奈の膣を掻き回すミーシャの指。反対に明奈から見れば、深海魚の口かなにか別の生き物がミーシャの指を食わえてぐしょぐしょに濡れそぼち、よだれを垂らしているようだ。 「う、うーん」 明奈が顔をゆがませていやいやをくり返す。だが、そのいやいやは弱々しく、口を突いてでる喘ぎは甘美さをただよわせていた。 異物姦で犯される屈辱と恥辱と快感混じりの苦痛に身をよじり、背中をそらせ、ひたすら快楽のうめきをあげつづける。 ミーシャが洪水モードの蜜壺から指を抜き出し、白衣の裾にぬぐった。 マルガリテが局部に目を落とした。 女の大陰唇は男の陰嚢にあたり、これは用がない。あの時、少年は10ボルトでも痛がるばかりで快感どころでなかった。 しかしペニスの根元付近が電極片側だった以上、これを尿道旁管(相似器官)にあてはめれば小陰唇となり、あとは亀頭の相似器官がクリトリスであることは世の常識だ。 こうして迷わずクリップは小陰唇に付けることになり、その際、電気の通り道として血管を選んだのはこれまでの実験結果による。 ミーシャが助手をすべく横にきた。 指が陰唇を開いたち。そこで手を止め、いっぱいにさらされた生殖器部。 「どう? どこだと思う?」 「血管がここだから、ここじゃない?」 「うん。おなじ意見だわ」 ミーシャに押さえさせておいて、指が、陰核包皮をめくってピンクパールの陰核を剥きだし、それにクリップをはさみ付けた。 「あ、痛い!」 「少しよ。すぐ慣れるわ」 明奈に解るよう、これは日本語だ。また、なだめたのも、けっしておためごかしではない。クリップバネはそう酷くないはずだ。 「すぐよ。5分か7分か9分。10分までは辛くないはずよ」 そういって、いよいよ本格的な快楽電気責めの開始だった。 マルガリテの左手に交代、ミーシャの手は秘部を離れ、片方は開脚台に開かれた腿を愛撫、もう片方は美乳をやわやわと揉みだした。 そして、ピンがクリトリスを突いた。 「ひいっ!」 のけぞる上体。 陰核を突いた電極ピンは、軽く触れたり強く押したり、そのたびに悲鳴が変化した。強く押したときは響きあげ、軽く離れかけた時には悲鳴はかすれたように小さくなり、その微妙な響きかげんが加虐者の興奮を煽った。 「うーっ、うううーっ、いやっ」 強く押しつけたまま苦悶を愉しんだ。 「いやっ、痛いっ。いやだあーっ!」 ぽたぽたと目隠しの目に涙がにじんだ。 そのままつづけた。 「ぎゃああ……」 という多少オーバーとも思える悲鳴。約束違反だが許そう。もっとおもしろい結果が期待できるのだから、と。 壁掛け時計の時を刻む音を耳を澄ませて聞きながら、マルガリテは刻一刻と頭のなかで時をかぞえた。30秒が1分になり、1分が2分、3分……5分と経っていった。 そして、マルガリテが宣告した9分へと近づいた時だ。 「ああ、あーあ……」 声が快感にちかづいた。 すーっ、と膣孔から愛液が垂れた。にじみでるように、尿道孔からもあふれるものが見えていた。だが、その刹那に、 「おかあさん……おかあ……」 泣きじゃくる明奈の口からおもいがけぬ言葉が飛び出し、マルガリテは絶句し、呆っ気にとられた。感動すらした。がしかし、そのあとには「こいつら日本人めが!」とはげしい憤りを感じた。 それはまったく予期しない感情で、「マザー」ではなく「おかあさん」に反応するところがマルガリテのマルガリテたる所以だった。そうして仇の国の民の子としての復讐の念から明奈に恨みの矛先を向けるのだった。 |
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| 明奈は空腹の極にあった。 お腹が空いてお腹が空いて死にそうなくらいだった。 どうせ来る日も来る日もひどい目に遭わされるなら、いっそこのまま死んだほうが楽なのに、ぐったりと気力がないまま、それでも空腹感だけがつのって食べものを求め、無意識にせよ生への回帰本能に取り憑かれてる。 しかし…… ろくに食べものも食べられず、自分はどうなったのだろうと思うことがある。 〈ずいぶん痩せたろうなぁ……〉 それを確かめるべく自分で自分の身体をさすろうにも、そうすることができない状態にされているのだ。 きょうも着衣はゆるされず、終始まる裸のままだった。 開脚寝台の脚乗せ部分がしまわれ、長くした寝台に、両脚を開き加減の大の字拘束で寝かされ、手だけは手乗せ部分が出された上にまっすぐ伸ばされ縛りつけられていた。 十字架磔の状態でオモチャにされた。 それで仰向けならいつものことだか、いまはうつぶせで、さっきからひっきりなしに性器をオモチャにされている。1人が責めに興じ、他は見物しているだけのようだ。 中指2本が下からすくい上げて性器を責めたて、時々親指が気まぐれに肛門をこじる。性器をなぶられる恥辱の痛みと合わさって、その苦痛がたまらない。 男の太い指が乱暴にはいってきて、ぐちゃぐちゃと掻き回された。途中から、なにかぬるぬるの液を使われたかして、乱暴な所作にもかかわらずこんどは難なく入って、指は自由自在に暴れ狂って刺激しまくった。 必死に声を殺していた。 すると男は頭や顔をひっぱたいて「泣け」だの「歌え」だのをくり返し、どうにかして声をあげさせようとする。とうぜん性器を責めている指も連動してさらに狼藉におよぶので、感じているようにウソ声をだした。 やがて本格的に肛門に指を入れてきた。 これがいちばんキツかった。 痛いうえに屈辱感は性器より強く、ここを犯される不快感も性器以上だ。指だけでなく棒を入れられたり、無理矢理太いなにかを入れにかかる。その時の痛さといったら、思わず叫び声をあげて涙がでたほどだった。 やがてもっとも怖れていたことが…… 足を縛ったベルトがはずされ、〈つぎは〉と待っていると、その〈つぎ〉はなく、膝を着かされ、お尻を突き出され、それだけで何事か察して明奈は恐怖にすくみあがった。神にでも祈る思いで声をかぎりに叫んだ。 「助けて! ヘルプ、ミーッ! おねがい、やめてっ!」 必死に懇願したが無駄だった。 そして男の固くなった一物が…… それが性器にではなかった。これまで同様、この日も、なんの所為か意図かレイプは最初から肛門に行なわれた。その身体的苦痛はいうにおよばず、ただ、怖れていたレイプが性器でなかったのはせめてもの幸いだった。 しかし、それからが地獄の時間だった。 女たちによって異物挿入によるアナル・レイプは行なわれたが、その際の異物もむごたらしい太さをもったものだったが、人間の、男のペニスが挿入され、激しく犯される恐怖と苦痛は異物レイプの比ではなかった。 口汚いスラングを連発され、女の尊厳を掻きむしられ、無残に肛門を拡張され、引き裂かれる痛みは耐えがたいものだった。そして、その時に何人の男によって犯され、拷問されたかが、レイプの数で見当がついた。 野獣どもは、その野獣性に見合った体臭を発散し、わきがと汗と体液のいり混じった悪臭で吐き気をもよおすほどだった。それを無理に香水でごまかし、その香水のニオイの違いが一人一人の個性でもあった。 アヌスをほじられ、アヌスを突かれ、痛々しい血を流しながらも明奈は一人、また一人と鼻を利かせて香水を嗅ぎ分け暴漢の数を数えた。6人目で最初の体臭にもどり、卑劣なレイプ犯は最低でも5人いたことが判った。 そして2順し、また最初にもどって11度目の肛門レイプを受けているとき、のちに明奈が虫酸が走るほど忌み嫌い、蛇蝎のごとく呪う存在となる“あの男”が入ってきた。 男は最初からいた連中の上司らしく、部下の不行跡にひどく腹をたてていた。 その逆鱗を受けて、たぶん男の部下らしいレイプ犯たちは、すごすごと明奈から離れると、また元のあおむけにもどされた。それから足音がぞろぞろと遠のき、出ていってドアがパタンと閉まり、しーんとなった。 また、一人放置された。 しかし、これで一時といえど苦痛の責めからは解放される。 とにもかくにも、やっと安息の時がおとずれた。空腹のままなのはつらいが、それにくわえて拷問、レイプを受けるのはなおつらかった。絶望のなかに、わずかでも希望を見いだし生きられるだけ生きようと思った。 だが、しかし、また…… 救いようのない絶望感はいたしかたなく、 「おかあさん……」 うっかり口をついて出た。 暖かい家族の団欒。妹はどうしてるだろう。そんな思いが去来して涙が込みあげた。熱い涙が頬をつたって落ちた。幾筋も幾筋もとどまるところを知らず流れてはぽたぽたと音をたて、そして別の面影も去来した。 「みっ……」 その名前を言いかけた時―― 「ふ……ふふふふ……………」 と声がして、明奈はぎょっとした。その瞬間心臓が止まるかと思い、背筋を氷のような戦慄がつらぬいた。 まだ、いたのだ。 しかも、最後に入ってきたあの男が、部下たちを下がらせたあとで、自分だけは居残って息をひそめていたのだ。その不気味、底知れぬ悪意、残虐の意志。それがすぐに実行されることになった。 「いやっ、やめて!」 指が性器を押し開いた。陰唇を開いてもっとも敏感な部分を露出したまま、そこで指を止めて見つめているようだった。そして、また気持ち悪い含み笑いをした。 「ふっふふ、ふっふふふふ……………」 1分………2分……… 心なしか熱気が感じられるのは、ライトが当てられているのかも知れない、無影灯があるというのに。それとも、なにか恐ろしい拷問の準備が進行中の熱気なのだろうか。 指が入れられた。さっきとは違う、もっと繊細な責めたてかただ。女を悦ばす時の前戯のようなデリケートさで、不覚にも明奈は感じはじめていた。ぴちゃぴちゃという音は、そのうちおびただしい水音になった。 突き入り、引き抜きをくり返していた指がするっとそれてアヌスへ。肛門をえぐって、またもとの性器にもどる。3、4回指ファックをくり返し、つぎには肛門に。これをくり返して肛門を愛液でぬるぬるにした。 それから指は抜かれ、冷んやり感。固い棒状の異物が入ってきたが、太さはそれほどではなく、これは2、3回くぐらせたという感じで、それから肛門に入れかけた。 「うあっ。やっ、いやあっ!」 金属製棒具が、愛液の滑りに助けられてアヌスの穴を押し開き、どんどん入れられる。異様な圧迫感と不快感。突如、錐で揉まれるような痛み。 「いたいーっ!」 泣いても叫んでも容赦はない。 その時、殺意を感じた。殺す気はなくとも壊してもかまわないという意志が感じられる容赦のなさ。肛門の奥に激痛。気が遠くなるかと思った刹那、ずるっとすっぽ抜けた。 それからあとはどこまでも侵入してくる。その通過感、ふたたび不快感。 そして、 「げっ!」 腸がねじられた。 「ひげっ、ぎゃあっ!」 あおむけ十字の上体をのけぞらせて悶絶した。やはり、壊す気だ、そんな恐怖感を与えて余りある小腸小突き、内臓えぐり。異様な苦痛と圧迫に左右に伸びた脚をひきつらせた。 「げふっ、殺さないでっ!」 身も世もあらで叫んだ時、すでに兇具の侵入は止まっていた。というより、それ以上は小腸を突き破らねば入らないところまで無理矢理押し込まれていたのだ。 また、性器に冷んやり感。2本目を先の濡れた膣にくぐらせてくる。冗談じゃないわ。アヌスに2本も入れる気? と、恐怖の感情に苛まれていると、それは違って、そのままどんどんどんどん入ってきた。 ドスンと子宮にぶっつかった。 「げっ!」 異様な呻きを叫ばせた。 なおも、入ってくる。ぐいっ、ぐぐぐぅーっ、と。子宮が小突き上げられた。そこでやっと止まった。 それからだ。 「あ、それ、いやああっ!」 電気がきた。ビリビリビリという独特の刺激が子宮から膣にかけて、小腸から直腸にかけて、うわーん、と広がって、ビリビリがだんだん激しくなり、バチバチッという衝撃に変わる時、腰から腹から痙攣が走った。 「フフフフフ……………」 男は電気を流しながら満足そうに笑った。 電撃刺激は、女2人にかけられたものとは感じがちがって、なにか非常にイヤな不快感をともなった衝撃だった。それは単に空腹に由来するのか、絶望感の所為か。 いまにして思えば不思議なことだが、女から電気責めを受けている時は「破壊される」という恐怖はそれほどでなかったのに、いまこの男から受ける責めでは残虐鬼畜の果ての死をともなった意志が感じられた。 「やめてください。わたしはなにも……」 許し乞いしながらハッとした。 そういえば女2人から男たちに変わって、尋問はいっさいなくなっていた。「仲間は」「組織は」という自白強要もなく、ただ一方的に責めるだけなのだ。通訳がいない? そんなバカなことがあるだろうか。 そう思ったら、今回の拉致の目的そのものが疑わしく感じられた。わたしは、ただ責められるためだけに誘拐されたのではないかと。 電圧が上げられた。 「ぎゃああっ!」 膣から腹から肛門から感じる拷問電流の貫通衝撃。明奈の身体の一部が電気回路と化した戦慄すべき異常事態。これで正常にすむはずがない。わたしはどうなるのだろう。果たしてふたたび家族のもとに還れるのだろうか。 陰湿に執拗に、偏執狂的な電撃性拷問が果てしなくつづけられた。 |
| 「この近くにアルファインがあるそうね」 ぼんやりとした目をして、ミーシャが本名の未沙がぽつりといった。 「行ってみたいのか?」 ウイルソンが豊満な美乳を揉みしだきながら、本音まじりに冷やかした。 アルファインは知る人ぞ知る、石造りの外観、中世の牢獄を彷彿させる日本で唯一のSMホテルで、それが位置する港区東麻布2丁目はロシア大使館の裏にもあたる。 「そうじゃないよ、近くに故国(くに)の大使館があるからよ」 とっさの否定は照れ隠しだった。 無意識にせよSMホテルの発想になったのは、頭から離れぬ明奈の苦悶――あの時の顔は苦悶というより快楽に支配された煩悶、惑乱の相というべきだろう。 「せっかくの休日、集中して愉しもうぜ」 そういってウイルソンの手が乳房から降りて欲望の草叢をめざした。 数秒のちにはウイルソンの鼻先にピンクの淫猥な秘唇、それを覆ってひろがる黒々とした陰毛のしげみに劣情は掻きたてられた。 ざらっと舌が敏感なラビアをめくった。 「ひっ」 電気を受けたように、しなやかにのびた下肢が声とともにひくついた。 ウイルソンの舌戯はあくまでも慎重に、どこまでも繊細に、女の快楽のツボをとらえてねばり強く時間をかけた。巧みな舌使いが未沙の性感を容赦なく掻き乱した。 左右に開かれた脚のそこここにみられる硬直の筋、爪先がつづら折れて空を掻き、踏ん張る踵がシーツの乱れをおおきくする。 「あっ」 という悲鳴じみた歓喜が、 「はうっ、ああううーう……」 と悩ましく、けだるく、狂おしそうに、その顔を茫乎とさせたりもする。ふだんでさえマルガリテの心をとらえるほどに、未沙のその時の貌(かお)は表情豊かだった。 ウイルソンの目の中で、しっとりと汗ばむ淡紅色の陰唇が、朝露を受けて開花する花びらのようだ。「ああっ」と高まった声で、下に伸びた手がシーツを握りしめる。 舌に愛液がからみつく。汲めども尽きず、あふれる快楽の愛蜜でむせるばかりだ。 それからやおら未沙の両膝を立て、左右に大きく割って、そこへ男のたくましい腰をあてがった。裸の尻を一振り、隆々と勃起した猛根を秘唇の中心に突き込んだ。 「おおっ!」 未沙が白眼を剥いてのけぞった。 ウイルソンが腰を動かす。 欲望に膨張しきった男の分身は、女の中心にくわえ込まれ、締めつけによってなおも怒張し、突撃敢行、欲望のエンジンをフル稼働させてピストン運動が開始された。 未沙のなかで熱く固い物が激しく前後する。 「あっ、おおっ!」 のけぞり、身悶え、突いたりひねったり、汗で光るオスとメスの肉弾バトル。 ベッドが音をたてる。 上になって犯すオスのケダモノの咆哮、下になって身をくねらすメスのあられもない喜悦のよがり、その2つの共鳴に、寝台をきしませて揺れる音がくわわる。 そして爆射。 未沙を抱いたままベッドに沈み込むウイルソン。生殖としての欲望は吐き出したものの劣情としての欲望はいまだおとろえず、むしゃぶりつき、頬ずり、ディープキス、その手は豊乳を揉みしだき…… ふたたび分身としてのオスが盛り返した。未沙のなかで回復し、固くなって怒張し、ふたたび突撃敢行を期す。 こんどはうしろから、と押しのけて体位の変更を試みるが、それをするりと交わして未沙が上になった。騎乗位になって、下の口に欲望の猛根をくわえたまま、女豹が腰を動かした。 律動。躍動。こんどはオスが吠えた。 「おおおーおおー、いいよ、いいよ……」 未沙の下の口は猛根を締めつけたまま、激しい腰使いによってビストン運動をつづけ、ウイルソンもまた下になって腰を使い、ベッドは激しく揺れた。2匹のケダモノの咆哮。 また果てた。 だらんとした分身をしごきにかける未沙。手でしごき、口に頬張ってしごき、毛むくじゃらの陰茎は脈打ち、怒張し、間もなく恐ろしいほどの固さと長さと大きさに変貌した。 ウイルソンの上体を起こした未沙が、それとは逆にごろんと背中を倒した。また正常位になってと、未沙がいざなう。ウイルソンが入れにかかる。そして始まった。 結局、未沙は後背位はさせなかった。 すべてが終わった時、はじめてうつぶせになって横にならんだ。まるで新婚の妻のように甘えた顔で、甘えた目で一汗も二汗も掻いて、風呂上がりのような顔になっているウイルソンを満足そうにながめた。 「良かったかい?」 と、そっと背中に手をまわした。 「ごめんね。うしろ、したかったんでしょ」 未沙が天使になってあやまった。そしてしげしげと男の顔を見つめた。 「なんだ、なにか付いてるか?」 「不思議だなあと思って」 「なにが」 「拷問の時は怖い顔なのに、セックスの時や、こうしてみるとほんとにいい男なんだもの」 「ケビン・コスナーみたいだってか?」 調子に乗って気取ってみせたら、 「それって褒めすぎ。わたし、ファンなの。せめてリチャード・ギアぐらいになさい」 こっぴどく憎まれ口叩かれた。 「それよりまえから訊こうと思ってたこと」 「なんだい」 ケビン・コスナーにもどって向きなおった。 「マルさんのこと知りたいの。拷問しててもソレ用の顔というより、なにか裡に秘めたようなものあるような怖さが顔にでることが。そのわけを知ってたら教えて欲しいと」 虐殺ビデオのことはマルガリテ以外話す気はなく、そうであればとうぜん、このあいだ聞いたエドの話も伏せて訊くと、ウイルソンの顔からまたケビン顔が消えた。 不意にベッドを降りると、裸の上にガウンをひっかけ、ベランダに出た。 暗いなかに、六本木ヒルズのタワービルがライトアップされて建っていた。昼間はそうでもないが、夜には照明効果でそこだけ際だち、異界の塔がそびえているかのようだ。 「きてみろよ」 ミーシャを誘い、ガウン姿がまたひとつ。 「なんでこんなとこにしたのよ。ホテルならほかにいくらでもあるっていうのに……」 車から見上げた時は近すぎてわからなかったが、はじめて真正面から見る威容はさすがなものだと、未沙は正直おどろいた。 「バブルの時代にさんざ懲りてるくせに、景気の悪いこの時期にバブル以上の大規模再開発だなんて。作った人の気が知れないわ」 そういって未沙が感想を求めたが、ウイルソンはどこ吹く風で、 「俺はそれより、あそこに航空機が突っ込むところを想像するね」 物騒なことをいいだす始末だ。そして「2機目はどこかな」と、まじめな顔でつづけた。 「まあ! 東京で9・11の再現?」 未沙が単純に呆れてみせた。 マルガリテなら「あなた、そんなマンガチックな想像しかできないの」とやっつけるところだが、そこは未沙だ、しかたない。 だが、ここぞとばかりにウイルソンが突っ込みを入れた。 「おっと、それをいうなら2年前のニューヨークでの9・11といって欲しいね」 「だから、こんどは東京が引き受けてもらわなきゃ、そういいたいんでしょ?」 未沙はあくまでその線の話と思ってた。 「そうじゃないよ。君のベッドでの質問に答えようというんだよ。マーゴなら、俺がいったとおなじ感想をもつだろうということさ」 「………?」 未沙がぽかんとした。ウイルソンが「チリ・クーデターのことだよ」とつづけたが、未沙にはチリ・クーデターは分かっても、それが「9・11」と結びつかないのだ。 「えっ!? 30年前のチリ・クーデターも9月11日の火曜日だったの!?」 はじめてその偶然を聞かされ目を丸くした。 「マーゴの母親はその時、日本からチリに旅行に行ってクーデターに巻き込まれたんだ」 「ええっ!?」 と、こんどこそは心底からおどろいた。 「それじゃマルさんは日本人の女性との混血? どうりで日本人そっくりなわけだ。きっと女性のほうの血が強かったのね」 いまのは、〈気性もその母のを受け継いでいるのではないか〉という思いを込めてのものだが、あとにつづくウイルソンの話は未沙の想像をはるかに超えるものだった。 「1973年9月11日火曜日…… クーデター勃発と同時にチリ全土に戒厳令が布かれ、時の大統領アジェンデと人民連合に与する者はかたっぱしから軍の手で逮捕され、その多くが国立スタジアムに収容された。抵抗した者はその場で射殺された。 巨大なスタジアムは、その密閉性と機密性により、収容所としては恰好の施設だった。この拘束方と弾圧法を指導したのはナチの生き残りと米軍特殊顧問だった。 収容所は逮捕された者の地獄と化した……」 「……………!」 未沙は衝撃と興奮のなかに固唾を呑んで聴き入った。 「ロッカー室が拷問場になった。 男も女も裸にされ、性器に電線を結ばれて電気ショックを受けた。男はクソまで食わされた。女はヴァギナに毒虫を入れられ、妊婦は腹を銃床で激しく小突かれ、堕胎させられた。発狂した者はその場で射殺された。 そして拷問が終わると、素っ裸のまま外に連れ出され小銃で処刑された。 収容者は9月の寒天の下(チリの8月、9月は冬である)、スタンド席に押し込まれて処刑を見物させられるのだからたまらない。寒さのほかに『つぎは自分だろうか』と、死の恐怖に震え上がっていたにちがいない。 そうして最終的に何万もの左翼はじめ、旅行者や一般市民までが詰め込まれた。 フォーク歌手ヴィクトル・ハラは、皆を勇気づけようと人民連合の象徴歌『ベンセレーモス』を歌って軍隊の上官ににらまれた。両手をつぶされ、ギターを渡され、歌えと命令され、歌いだしたところを機銃掃射された。 そのようにして、政変数日で3000とも4000ともいわれる人々が殺された」 「そこに、マルさんの……?」 未沙が待ちきれず、というより話される内容の酷さと息苦しさにたまりかねて一言発した。話の腰を折られたウイルソンは、それを不快と思わぬどころか良い潮とばかり、 「そう、マーゴの母親もおおぜいの外国人旅行者にまじってここに連れてこられた。軍事政権は樹立当初より、外国勢力、なかでも共産圏の国や支援者の介入を怖れ、徹底的にこれら異端分子を抹殺しようとしたからね」 「マルさんも拷問されたの?」 「なにいってんだよ。マーゴの母親だろ」 未沙はうっかり見せた自分の頓珍漢さに自分で呆れて舌をだした。 「でも彼女がなんの罪で……?」 「テロリスト一味との関係を疑われたんだ。というのも、アジェンデ派のアメリカ人が政変前から不良米人――というより政権転覆を画策してチリに入り込んだ要人だが、その排撃運動のかたわら酒場を経営、そこのアルバイトをしていたんだよ、ジュンコは……」 と、ウイルソンの口からはじめてその名が出た。 未沙が目をかがやかせた。 「それじゃ、ジュンコというのね、マルさんのお母さんの名は! で、姓のほうは?」 勢い込んで訊いたが、 「そこまでは判らない。 それより、アメリカ人が経営していた店の名だが、なんだと思う?」 教える側のウイルソンが興奮して浮き足だって、「そんなの判るはずないでしょ」と未沙から仏頂面されるはめになった。 「マルガリータだよ、酒場マルガリータ……」 「ええっ!? それじゃマルさんのマルガリテと綴りはおんなじじゃない。で、そのアメリカ人ってのは、なんて名なの?」 2人そろって興奮し、まるで芸能人ネタにむらがるミーハー族よろしく話は一気に核心に進んだ、かに見えたが、 「酒場を経営してたアメリカ人はジェームス・リッチ。ベトナム戦争英雄とまで謳われた、もとは海兵隊の軍人だったが、ベトナム戦争に反対、アメリカの体制にもついて行けずチリに移住、そこで骨を埋めるつもりが…… 彼には、マルガリータの店員として長く居ついたブランカという女性との噂があったが、当のブランカはクーデターのさなかの戦闘に巻き込まれて死んでるので、マーゴの父親がリッチなのは、ほぼ間違いないだろう」 「ということはリッチがジュンコの彼で、マルさんのお父さんということになるけど、うーん!」 と突然、未沙がうなった。 「そのジェームスも気になるけど、マルさん、じゃない、マルさんのお母さんはどうなったの? それを聞かないのじゃ、安心して先へ行けないよ」ともっともな反応。 「ジュンコももちろん、ロッカールームでの拷問を受けた。特にひどかったらしい。 しかも、そこでキンバリーという米軍女准将の虐殺を見ており、クーデターへの関与と、これら目を覆う悪行の露見を怖れたアメリカからは抹殺の方針、同盟国である日本もアメリカの意向に逆らえず殺害を許可……」 「ええーっ!?」 未沙が卒倒するくらいにおどろいた。が、ウイルソンに制された。 「そんなことはザラだよ。現にチャールス・ホーマンという、現地に住み着いたアメリカ人青年がおなじ罪状から軍事政権に殺され、それにもアメリカは許可を与えてるんだ」 そういわれてはグーの音もでない。 「で、ジュンコだが、競技場を出されたあとも、ロンドレス38、ホセ・ドミンゴ・カナス、ベンダ・セクシー、ビリャ・グリマルディ、クアトロ・アラモスなど、チリ国内に作られた秘密警察の秘密収容所を転々……」 「その間も拷問を……?」 「うん。だから彼女はてっきり死んだものと考えられたが……」 「でも、子供がいるんじゃ……」 「数年後、隣国パタゴニアで、ジェームス・リッチとならんで写るジュンコの写真が見つかり、ジュンコの手には子供が抱かれていた。それがマーゴと思われたんだ。まあ、その発見までにはさまざま経緯があるが……」 「じゃあ、噂の2人はそろって生きてた」 「ジェームス・リッチは、セント・ドミンゴ特命隊を名乗る反米組織の中心メンバーとして当局にマークされつづけたが、ジュンコのほうはその後杳として行方が知れず、1986年になってふたたび姿が確認された」 「えっ」 「その年、9月7日、クーデターで民主政権を倒して以来、13年の長きにわたって権力の座に居座ってきた独裁者、大統領ピノチェトが、25人のゲリラ兵士に待ち伏せされ、襲われるという未曾有の事件が起きた」 「そんなことが……!?」 「その襲撃ではバズーカ砲、手投げ弾が使われ、機銃掃射は約10分間つづき、護衛車両はすべて破壊、ピノチェト護衛の5人が死亡し、11人が重軽傷を負ったが、厳重な装甲で守られた戦車のようなピノチェト専用車は襲撃を持ちこたえ、脱出に成功した。 この衝撃的事件を支援したグループにジュンコの介在が認められたんだ」 「じゃあ、ジュンコは武装活動にも参加していたということ?」 「そこが謎なんだ。 パタゴニアで結成されたセント・ドミンゴは、本国では当局により壊滅的打撃を受け、チリ・クーデターによって軸足をチリに移したのだが、その初期からの女性闘士というのは、マリア・ロハスというチリ人だった。 その名が途中から消えてジュンコになったので、ジュンコと見られたのは実はマリアだったかも知れない。なんとなれば、マリアはチリではメスティソと呼ばれる混血で、膚の色も顔だちも日本人に似ているからね」 話が長くなった。 じっとしていると秋風はたしかに10月半ばのもので、心地よいというより冷んやりするくらいだ。 「そろそろ入ろう」 そういってウイルソンから部屋にもどった。 未沙は不思議な面持ちだった。クーデターという政治的大事件に巻き込まれ、酷い拷問を受け、身体ばかりか心まで切り刻まれた1人の女性。その腹から生まれたマルガリテ。 それが、いまは体制の側にいて、体制に反逆する者、反逆しようとする者を酷く、陰湿に、執拗に責め苛む側にいる事実。それを運命の皮肉、復讐の逆転とは口が裂けてもいえない共通事情が未沙の側にもあった。 しかし…… 「おい、なにをしている。早く入ってこいよ、いつまでも開けていたら寒いじゃないか」 ウイルソンに呼ばれてもどった。 その未沙が、ウイルソンに面と向かった。目がなにか訴えかけている。さっきの行為のとは別の激情の火種が、闇の中に光る埋み火のように妖しくかがやいた。 「どうした……?」 真意を測りかねた。 と、両手をそろえて出した未沙が、 「わたしを縛って」 ウイルソンが我と我が耳と目をうたがった。目のまえにいる未沙は、さっきもいまもれっきとした未沙。それが「縛れ」という。 「なぜそんなことをいう」 「明奈の気分になってみたいだけよ」 どんな心境の変化か半分自棄で応じた。ウイルソンはそう見たが、未沙の言葉の半分は真実だった。マルガリテの電気責めにさえ濡れた明奈、女の性感の神秘を身をもって知ることができるかと考えたからだ。 「あいにくここには道具はないぜ」 「あなたの流儀でいいわよ」 それを聞いてニタリと口元をゆがめた。ノーマル向けのケビン・コスナーが、ひさしぶりに変態趣味の悪鬼じみた顔にもどった。 |
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あれから1か月以上が経った。
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本作品はすべてフィクションである。 ・レベッカ・ソルニットのスピーチは[(グローバル化時代の)月見』(TUPへの投稿 2003年9月11日 翻訳・井上利男)]を引用させていただいき、ほかに、 |