|
|
|
![]() |
|
|
| もう何度も読み返した手紙だが、それにしても、いつポストに入っていたのか憶えがなかった。 〈住所を知ってるならなぜ直にこないの!〉 いままで気づかなかった自分の迂闊や不注意を恥じるより、相手の要領の悪さをこそ責め、そのあとには疑心が渦巻いた。 〈なにをお高くとまってんの?〉 〈わたしとあなたの間には外聞をはばかるほど距離ができてしまったの?〉 〈わたしはあなたにとって、もう、その程度の存在でしかなくなったのかしら?〉 結子はそう自問して哀しくなった。 時候の挨拶にはじまり、近況報告をくだくだと並べ立てて、最後にかんじんの用件として「結衣ネエに直接会って確かめたいことがあり、池袋の“いつもの店”で待ち合わせたいと思います」と書いている。 強調カッコのハート型がかわいく、“結衣ネエ”と呼ばれるのもひさしぶりで、事務的につづった便箋1枚半ほどの長たらしい導入部とちがって、そこだけあの子の自分に対する仄かな愛情が感じられた。 〈もう、そろそろ……〉 そわそわしながら腕時計を見たら5時。 決心つけて座卓脇の姿見のまえに立った。 きょうは特に気を遣った外出着で、ベージュのダッフルコートにタータンチェックのスカート、ミニの裾から伸びた細足は紫のタイツで、ボタンを外したコートの胸や、まくった袖口にのぞくシャツも同系色を選んだ。 そこに少年のような顔がある。そのショートヘアーの頭をブラシで撫でつけた。 「これでよし!」 玄関を出ると、あいにく雨もよいの空。だが気分は高揚していた。あれだけなじった相手なのに、それがもうすぐ会えると思うと嬉しく、早くも有頂天になっていた。 尾行を意識しないわけではなかった。それどころかもっと危険な場面も想像されたが、デートへの期待感が不安に勝った。 そうして東池袋のバー、「止まり木」へ着いたのは6時過ぎだった。 「こんばんわー」 カウンターに着くとマスターの芳野が一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに仕事の顔にもどり「やぁ!」と軽く手を挙げ、他の客には分からないようウインクまでした。 暗い店内に今夜もピアノの曲が、耳を澄ますとレッド・ガーランドの『ホワット・アイ・セイ・ディア?』だった。 「なんにする?」 器用な手つきでカクテルをひとつ出し終えた。 「なにか変わったのが飲みたいわね」 「甘いの辛いのどっちにする?」 「そうね。じゃ、辛いの」 「あいよ」と剽軽に答えて新しいグラスを取り出し、アイスピックで氷を砕いた。 きょうは11月6日、日曜日。 この店に結子が来るのは片岡遼治の月命日の10日にかぎり、前回来たのは一月近くまえ、恒例なら次は4日後だから今夜来たことを芳野はどう思ってるだろう。 髪は結子に似たショートヘアーで決めて、他の店員同様白いワイシャツに黒のベストを着ていた。ただ芳野にかぎってはベストの襟に真っ赤なタイを覗かせ、男装ながら顔も体型もふくよかな美貌の女性だった。実年齢も40を超してるはずだが、じつは結子はこの芳野とも2、3度ベッドを共にした仲でもあった。 「さ、どうぞ召し上がれ」 出てきたカクテルは、赤ワインよりはすこし薄目の紅色ワインだった。 「なんての?」 「キール・ロワイヤル」 「あ、これがキール・ロワイヤルかぁ?」 そう言って目を細める結子に、マスターは耳打ちした。 「アレのあとには最高のワインなのよ!」 ウソかほんとかそんなことまで言う。 「今夜はご機嫌ね。何かいいことあるみたい」そう目星をつけられ舌を出した。 結子は彼のまえではなんでも開けっぴろげだ。芳野の気さくな性格と志向で自然そうなる。それゆえさばさばと竹を割ったような関係を持てたともいえるのだ。 芳醇な味わいをコクコクと時間をかけて味わい、またお代わりをしようかどうか迷ってた矢先、カタンと音がして扉が開いた。 冷たい風といっしょに地味なコートに身を包んだ黒い影が、ベレー帽を目深にかぶった華奢体型。変装用の眼鏡のせいか別人に見えたが結子にはすぐ判った。 どうやら芳野も気づいたようだ。そればかりか彼の直感アンテナは、彼女が結子と向き合った際の一瞬のようすから、緊急性を嗅ぎ取ってすばやく気を利かせた。 「奥に適当な席が。あ、かおる君……」 往年の男装演歌手相良直美似の店員に観葉植物の置物の向こうを指して案内させた。 2人が席に着くと、そっと耳打ちした。 「石嶺レイ子さんですよね?」 「えっ!」 「分かった?」 結子とレイ子が立てつづけにおどろいて見せた。 「マスターも感づいてます。だいじょうぶ、まかせて、客には気づかせないわ」 この店員とも客と従業員の関係を超えた懇意だった。 「ではごゆっくり」 相良直美似が仕事の顔になって恭しく頭を下げ、辞去した。 それから2人はあらためて向かい合った。 「結衣ネエ、やっと会えて……!」 「ほんとね、ひさしぶりだわね!」 3年ぶりに見るレイ子は潤沢な髪と狐目眼鏡で別人のようだ、というより結子にはどことなく鏡を見ているようだ。この子と自分はそんなに似てたかしらと意外だった。 しかし、面と向き合って何か言おうとしたとたん、むらむらっと沸き上がる感情があった。 「なんで今ごろ! もっと早くに来てくれるものとずっと心待ちしてたのに……!」 気がついたら恨みがましい非難を感情のおもむくままぶつけていた。が、しかし、 「ごめん。それを言うなら五分と五分、わたしが一方的に責める資格はなかったわ」 結子は年上らしく素直にあやまった。 レイ子は「いいのよ、怒るの当然だわ」と責めなかったが弁解もした。 「でも知ってたらとっくに連絡してたわ。それなのにあいつ、いくら訊いても教えないのよ。で、やっとこさ訊き出したのは1週間ほどまえ。そうなると矢も盾もたまらなくなってすぐに訪ねようと思ったけど……」 「あのボロ家ではね」 結子が自嘲して目を伏せた。 「そうじゃないのよ! 危険を感じてなかなか接触することができなかったのよ」 「花岡さん、ほんとに知らなかったって?」 「八方手を尽くして調べたそうよ。もちろん、あたしに訊かれたためじゃないよ」 「うん。それは知ってる」 こんどはバツの悪さに目を伏せた。 氷室なる男から人身売買契約の斡旋を頼まれるまえかあとかは知らないが、その交渉に花岡が栄荘をはじめて訪ねたのが8月22日、そう教えてくれたのが戌井や亜紀だった。結局、その話を飲むことになり、それをレイ子からいつ非難されるかと、結子は内心びくびくして話を聞いていた。 「で、ある人から、あいつが結衣ネエの居場所を知ってるはずだからと教えられたの。それからはガンガン追究したわよ」 果然とその後の経過を話したが、話の中の「ある人」がどの人か結子は気になった。 「だから最後の手段で迫ったというわけ」 「最後の手段、って?」 結子がぽかんとした。 当然知ってるものと思ってたレイ子は、結子のリアクションに唖然とした。わけを話したものかどうか迷ったが、 「まあ、いいわよ。ちょっと脅しを入れたということよ」 そう言って誤魔化したが、じつは“ちょっと”どころの騒ぎではなかった。 「ところでわたしの顔、バレてないよね?」 急にそわそわして周囲を見回した。 「だいじょうぶよ、この暗さだもの。それよりベレー帽がかえって目立つかもよ」 「え! そーお?」と頭に手を伸ばしかけた。そして大事なことを思い出したのだ。 「それより結衣ネエ、あいつに“鬼畜な所業”やらされようとしてるんだって?」 あたりをはばかり、声をひそめているものの、“鬼畜な所業”の一言に結子はどきっとした。 「あ、やっぱりそうなんだ」 「何よ。いったいあなた何言ってんの!?」 結子は表向き平静をよそおいつつ、その実内心は必死の抗弁を用意しようとした。 なぜそんなこと知ってるのか。世界中でただ一人、この子にだけは知られたくない秘事なのに、いったいどこまで知ってるのだろうと戦々恐々たる思いに愕然とした。 |
|
|
| ネット画像とはいえ、その無惨さは目をおおうばかりだった。 ただ、死骸の凄惨さにもかかわらず、それから受ける印象に奇妙な違和感をおぼえるのだ。 両手は肘の上から、両脚は膝の上からと四肢を切断、絨毯にあおむけに寝かされている片岡遼治の表情は、血がきれいに洗い流されていることもあって不思議なほどやすらかに感じられる。顔だけアップにしたら笑ってるように見えないこともなかった。 〈麻薬を打たれたあとの忘我の境地で殺害された死後切断ということだろうか〉 せめてそう解釈することで片岡の死を悼みたかった。それでなくとも彼は切断以外惨たらしい目に遭わされている痕跡が、この不鮮明な画像でも注意して見れば分かる。 精悍な彼の、やや色浅黒い感じの胴体の乳首にも、非勃起状態でも立派で、不謹慎ながら画像を一瞥した戌井を瞠目させたペニスにも、電気拷問による電流斑がケロイド痕となってみにくく確認されるからだ。 これを恋人の山花亜紀から見せられたのは9月の終わりごろだった。以来、戌井もネットで「kataoka検索」にトライ、知人に翻訳を依頼したり、亜紀らが掻き集めた分と合わせて資料集にまとめたりし、それらプリント類にパソコン机の一隅を占領されることにもなったが、飛び飛びの情報のなかでもいくつかの謎が散見された。 片岡遼治は早稲田大学の出だった。 郷里は山形県新庄市。父親は木材加工会社に勤め、母は小学校教員という共稼ぎ家庭だったから、遼治の兄姉を合わせた5人家族でも暮らし向きは裕福なほうだった。 小学、中学、高校と地元の学校に通ったが、幼いときから勝ち気で多感で、中学ごろには左翼思想にふれて社会の矛盾や不正に怒り、高校では授業料値上げと非民主的な校則反対運動の先頭に立って、学校やPTAから眉をしかめられる存在となった。 ところが、そんな彼が早稲田ではなんの波風もたてず、どこにでもいる大学生として目立たず、「あいつも人の子、順風満帆学業を終えて出世コースを歩み、それなりの伴侶を得て、そこそこ幸せな家庭を築くのだろう」と片岡を知る誰もがそう思った。 だが、大学を出たとたん環境問題に取り組み、各地の反原発集会や反公害集会で過激に発言、さまざまな闘争においてみるみる頭角を現わし、マスコミが「反公害の旗手」、「脱原発の先鋒」と報ずれば誰もが片岡遼治を思い浮かべるほどだった。 その片岡が忽然と日本から姿を消したのが2001年6月。そして半年後の12月、南米にひょっこり姿を見せたということだが、戌井は資料のその部分を目にするや、それが2001年にあたることにピンときた。 「片岡が日本からいなくなって3か月経って9・11同時多発テロが起き、その3か月後にまた片岡の消息が知れた」ということに不思議な暗合を感じたのだ。 おそらくは「単なる偶然」でしかないこの事実を一部の人々は「示唆的で不気味な出来事」ととらえ、あまつさえ片岡に良からぬ感情を抱く人々が巧妙な作為によって陰謀を策したとしても不思議ではない。 10月11日、ニューヨークタイムスの紙面に[環境運動のヒーロー・カタオカ、アルカイダと接触か!?]とセンセーショナルな文字が躍り、おなじ日の夜、こんどはCNNがテロ問題の特番を組み、片岡の演説動画や、公害反対闘争で旗竿を振って車の通行を妨害する片岡の写真をまじえ、出席したコメンテーターに「穏健派が過激派に衣替えか」、「環境運動のカタオカ、武装闘争に転じるか」と穿った憶測を解説させた。 アメリカのメディアがそこまでカタオカにこだわるには根拠がある、とする説があった。 その根拠とは片岡が朝日新聞の論壇に寄せた手記だ。『アメリカは“環境破壊のリムジン”に乗って』と題し、「世界全体で日量約8500万バレルの原油消費量を各国別にみると、人口3億人のアメリカは日量にして約2050万バレル、人口13・3億人の中国は約780万バレル、人口11・5億人のインドは約290万バレルである。」として、アメリカがいかに世界の富を独占しているかを、「イラク戦争」はもとより、「ベトナム戦争」や「朝鮮戦争」の昔までさかのぼり痛烈に批判しているからである。 しかし、そんなことは誰でも知ってることで、ニューヨークタイムスやCNNが、“カタオカ論文”に対しアメリカ国民の多くにみられた反カタオカ感情に依拠してネガティブ・キャンペーンを張ったところで、「また一国中心主義のアメリカが勝手に喚いてる」程度で笑われるだけのことだった。 ところが、これを別の記事と照らし合わせて見ると印象はまったくちがってくる。 米メディアのカタオカ・バッシングと前後して中南米の2つの新聞が、ややもすると見過ごすくらい小さな記事を載せていた。 まず9月30日、アルゼンチンの日刊紙クラリンが、『アルカイダを追って』と題して、インターポール事務総長ロナルド・ノーブルの談話を載せたのだった。 ノーブルは「国際武装組織アルカイダと、その関連グループは今も世界の治安にとって脅威だが、彼らの過激思想に呼応して参加した義勇軍の中に、最近まで環境運動に熱心だった日本人もいるようだ」と語り、暗に片岡遼治その人を指しているのだった。 ニューヨークタイムスとCNNがガセネタを発信した翌日10月12日、チリの国境の街アリカの地方紙が、『対立を超えて』と題した短いエッセー記事を載せた。 筆者は「もうひとつの9・11」を生きたマリア・ロハスという女流作家である。 中南米で「9・11」といえば日付も曜日もおなじ1973年9月11日、ピノチェト将軍を実行者とし、アメリカがCIAをつかってアジェンデ政権を転覆させたチリ・クーデターそのものを指すが、その時代を生きたマリアが「ニューヨークの9・11」後にくる世界の混乱を憂え、人々に「寛容を! 赦しを!」と訴えたものだ。 マリアは一人のアジア人青年の生き方に触れて、こう点描していた。 [……その青年がこの地にきたのはいつごろだったのだろう。 気がついたら何度も顔を合わせていた。やがて、すぐ近くの人ということもわかった。しかし何か悩みを抱えているらしく、深くは立ち入り難い雰囲気を感じて、はじめはなかなか打ち解ける機会すらなかった。 それがある日、彼は自分から「名前はリョウです。これからはリョウと呼んでください」と、それだけは語ったのである。 リョウという名から想像できるのは日本人か中国人だ。外見上も両者は見分けがつきにくいが、わたしには国籍などはどうでもよかった。やや浅黒い感じながら鍛えられた精悍な体躯の彼には魅力すら感じ、「セニョール・リョウ」、あるいは日本人が日本人に親しみをこめてするように「リョウチャン」と呼ぶまでになった。 彼はわたしが呼ぶ「リョウチャン」がことのほか心に響くようで、その時だけは茫洋と遠くを見る目になっていた。その瞳のはるか彼方にあるのは中国か日本か、そこには果たしてこの人の帰りを待つ良き人がいるのかと、そんな懐かしさが感じられる目だった。……] 恋人の亜紀が検索「ryoji」から、欧文カッコにあたる「 ”」の誤変換により偶然「ryo」がヒットして、忌まわしい片岡遼治の四肢切断写真をゲットできたのは前回ネット検索の収穫だったが、今回は「ryo−chan」そのものがヒットしたのである。 戌井にはなぜか『対立を超えて』に出てくる「謎の東洋の若者」が遼治に思え、すると彼はチリにも逃げていたことになる。 そして、おなじチリの別の地方紙の埋め草的記事に、「“爆弾”を抱えて中南米を彷徨するアジアの若者」の一文があるのに気づいた。よく読むと「爆弾」は破壊兵器としての爆弾ではなく、何か「重大な証拠」を表す比喩のようでもあり、しかも「一国の存亡に関わる重大秘密」ということだから読み捨てにできない。 それが小話風に書かれ、最後はエキセントリックな一人の若者の妄想譚で締めくくられた。推測するに、心に秘密を抱えた若者が弱気の蟲からつい秘密の片鱗なりと語ったものの与太話ととられ、結果「狼少年の話」に矮小化されたとみるのは、戌井の「穿ちすぎ」だろうか。 この人物も片岡遼治と仮定したのだ。 腕組みしてかんがえこんでいるところへ電話が鳴って、出ると亜紀からだった。 「なあに? 何かあった?」 [あの花岡さんから電話がかかってきたのよね、『なかじま結衣から何か連絡がはいってないか』と。だけど、戌井さんならともかく、わたしになんて変でしょ?] 亜紀からの電話を息抜き代わりに、 「そんなことないさ。俺と君と3人、面突き合わせて話し合った時から結子さんは君にとってもただの知り合いじゃないんだし。奴さん俺には聞きづらくて君に訊いたんだろうな」 [そうでしょう? やっぱりそうじゃない] 「そういうことになるか?」 亜紀にすれば、ダシにされたのでは? と訊いてきたのに、それにかけたことばがすこしも相手への気休めになってないことを悟って苦笑した。 パソコンと並んで乍ら見用の小型テレビが置いてあるが、なにげなく点けて見て「あっ!」と声に出した。 [何。どうしたの?] 画面に「石嶺レイ子」の文字が出ていて、場合が場合だけにびっくりしたのだった。 「テレビだよ。なんとなく点けたらフジが特番やってたよ。芸能レポーターと称するヤカラが何人も集まってテキトーなことしゃべり合ってるよ」 教えながらボリュームを上げると、画面には「新進女優石嶺レイ子とプロダクション徹底対立」、「『移籍』ほのめかす石嶺レイ子に花岡社長激怒!」のキャッチ文字が躍り、それにナレーションがかぶさった。 今回の特番は、新作映画の発表記者会見を石嶺レイ子がすっぽかしたことに端を発し、フジテレビが独自のルートからプロダクションと女優の対立の事実を掴み、放送に踏み切ったとのことで、スタジオにはゴシップ専門記者が何人か出て勝手な憶測を語り合うだけのバカ番組だった。 「キャッツアイ・プロといったら、3年前はなかじま結衣の騒動がありましたよね」 「ああ、思い出しました。あの時も花岡さんは事態の収拾に苦労したんですよねえ」 「おなじところでおなじことが起きるのはプロダクションの管理が甘いんだね。花岡氏は『甘えの極地』と女優に対し手厳しいが、裏を返せば会社に『甘やかしの構造』が連綿とつづいてきたということでしょう」 「全面対決となれば、石嶺レイ子さんは他のプロダクションへ移籍するんですかね?」 「他の会社だってそんな女優は困るでしょう。気に入らないならやめる、他の会社に移る、なんて前例を認めてしまったら、雇い入れた会社としては、いつ女優につむじを曲げられるかと戦々恐々じゃないですか」 「やっぱり石嶺レイ子としては元の鞘におさまる道しかないということですかね」 なんのことはない、レイ子が花岡に反旗をひるがえした理由には触れず、一方的にレイ子を責め立て、レイ子が詫びを入れるしかないと結論づけてるだけのことだった。 [何、これ? ひどい内容] 受話器をとおして亜紀の憤慨が伝わった。 「奴さん、こんな手を使うとはな」 [えっ! これってリークなの?] 「花岡は産経にコネ持ってるから、フジテレビでキャッツアイ関連の番組とくりゃ彼が動いてるとみてまちがいない。表向きプロダクション批判のようだが、番組の主眼はあくまでも花岡擁護。石嶺レイ子のネガティブ・イメージを植え付け、どのプロダクションも彼女を受け入れさせぬよう仕向ける、彼独特の猿知恵だよ」 亜紀のため息。それに対してまた答えた。 「負けん気の石嶺レイ子がどう出るか。今夜中にもう一アクションなければいいが」 この予見じみた一言が、やがて間もなくとんでもない事態に発展するのだった。 |
|
|
| レイ子の口からでた“鬼畜な所業”が何をあらわしているのか結子はひどく気になった。 「何よ? その、わたし自身の問題って……」 尋ねられたほうも言いにくそうに答えた。 「自分をね、たいせつに思って欲しい、ということよ。結衣ネエほどの人がさ、お金なんかで、自分を棄てちゃうなんて、と……」 だが、彼女は一転明るい調子で、 「お金のことならね、わたしがなんとでもするから……ね。わたしにまかせて!」 どーんと胸を叩いた。 「わたしが、何をすると思ったって? まちがってたとしても笑わないから、正直に、はっきりと言ってくんない?」 相手の真意を見極めるべくまじまじと見つめられ、レイ子の自信はぐらついた。 「ば、い、しゅ、ん……じゃないの?」 言いにくそうに言われて結子が唖然とした。鸚鵡返しに「売春?」とつぶやいて、それを打ち消すべく笑った。 「え、ちがうの?」 「金で身を売る」といえば、そう思うのがふつうだった。だが結子の場合、売春どころかスナッフ・パーティーで命まで売ろうとしたのである。その金が払い込まれ、おととい入金も確認したばかりだった。 金。売春。自分を棄てる…… それをいえばすでに、三千花夫人に性遊戯の相手として1年以上にわたり買われてきた事実があり、その延長で真宮寺京香や未沙なる女からも、SM以上の肉体虐待契約で報酬を得た事実もある。 大きな嘘を隠すためには、ここは小さな嘘をつきとおすのが得策とかんがえた。 「そうよ。レイちゃんの言うとおり。わたし、どうかしてたのね。話はなかったことにする。明日かあさって、きっと断るから安心して」 そう答えたものの事は簡単ではなかった。氷室は「今さら変更は困る」の一点張りで、「金を返す」と言っても頑として相手は聞かないのだ。 そんな事情も露知るはずもなく、レイ子がさばさばしたような顔になった。 「わたしたち、おたがいにおたがいを誤解してたのね。結衣ネエはわたしと社長との仲を、わたしは結衣ネエと片岡さんの仲を」 「嘘っこの恋人同士だったんだ」と自得した瞬間、別の用件を思い出した。 突然、貧乏揺すりをはじめ、結子は「さては」と唖然とした。案の定、 「トイレに行く。で、そのまま帰らないから、5分おいて結衣ネエも来て!」 「何、それ……?」 「いいからいいから、とにかく来てね!」 四の五の言わせない強引さで席を立った。 「なんなのかしら?」 同意を求めるべく顔を向けたが芳野は例の相良直美似と隅のほうで何やら話し込んでいた。 時間がやけに長く感じられ、その間、時計を何度見なおしたか分からない。 〈まさか……!〉と、レイ子の真意を早とちりした。思えば双方誤解し合ったまま3年のご無沙汰だったわけで、すると無意識に股間に手を当てている自分に気づいてハッとなった。 きっちり5分で結子は席を立った。 ひっそり閑としたトイレに足音をさせて入ったら、奥のほうで戸が開いて手招きされた。 何かを期待する自分がいた。 ドキドキしながら、狭苦しい空間に割り込むや奥から手が伸びてバタンと戸を閉じた。それから向き合い、「あ!」とおどろいた。 「その顔は……!!」 結子は驚愕のあまりに絶句した。 「どう? 5分でメイクしたお手並みは」 カツラを取った頭は自分とおなじショートヘアーで、朝、鏡で見たとおなじ顔がそこにあった。レイ子と自分がこんなにも似ていたとは!? さらに信じがたいことばがささやかれた。 「みんなを騙してやろう。これから結衣ネエとわたしバージョン『乞食王子』の実演よ。さあ、着ているもの脱いで」 そう言って自分から脱ぎにかかった。 「じつは3年前、結衣ネエが片岡さんとのことで突然役を降りた時、わたしが機転を利かせて代役を演じようと、おなじことをしたのよ」 「ええっ!? それほんとっ!」 「声、おおきい、よぉ」 あわてて口をつぐんだものの驚愕の表情はそのままだった。 「でも芝居が下手ですぐ却下されたけどね」 無邪気に「あはは」と笑ったりもした。 「その後は色仕掛けから何から手を尽くしてスターになるべく頑張ったの。で、とうとうアクション路線から起用する気になったのがこないだの映画というわけよ」 「あなた、体育だけは得意だったからね」 つい口がすべった。 「んもー、“だけ”はよけいでしょ! 自分でも分かって、あえて外して言ったのに……」 ことば半ばで足音がして、結子は深い意味を理解しないままレイ子の着てきたものに着替えた。 さっきの足音の主だろうトイレ使用者が水洗を使い、その音にまぎれて会話が再開された。 レイ子の手にA4の事務用封筒―― 「結衣ネエ、テレビは見てないの?」 「なんで?」 「ほんとはもっとおどろくことしでかしたんだけど、それよりこれ。わたしが書いた結衣ネエと共演の、『乞食王子』風、女2人が探偵コンビを組んで大活躍するアクションのシナリオ」 「ええっ!!」 「これで結衣ネエを芸能界に復帰させるのよ。花岡なんかに抱かれたのもそれが目的」 騙しで結んだ関係など女優のホンバン演技とおなじとばかり、まったく悪びれることなく毅然と言い放ったレイ子に清々しさすら感じた。結子はただ呆然と話を聞くだけだった。 また、足音。ドアが開いて閉まる音を合図に、2人はこんどこそトイレを出た。 席にもどるまでの途中、レイ子が尋ねた。 「ねえ、お金が必要なわけって何? いったいいくら要るの? 聞かせてくれない?」 結子はことばに詰まった。うまく言い逃れる嘘はないかと必死でかんがえあぐねた。 だが、その時、バー「止まり木」にも2人にも危険が迫っていた。結子とレイ子の身は風前の灯火となっていたのであった。 |
|
|
| ここ2日間、真琴は夢のようだった。 いつもどおり栄荘近くの喫茶店に張り付いて、スター時代のなかじま結衣こと、本名中嶋結子の動向を探っていた時だった。いきなりメガネをかけた若い女性がことわりもなく相席し、それがアイドル石嶺レイ子と知った時のおどろきを何にたとえたらいいだろう。 狐目メガネを下げた時、一目で分かった。 「えっ!? い、石……!」 「しーっ」 レイ子は人差し指を立てて口止めした。 「戌井さんに聞いてきました。結衣ネエのことで知ってること全部教えてください!」 「ゆ、結衣ネエ……??」 思わずドモってしまったが、そこは芸能通、それだけで〈ははあ、そんな関係だったのか〉と見当がついた。 翌る日は一人住まいの自宅で、天下の大スターと水入らずで、息がかかるほど間近でパソコン検索にいそしむことになった。 「実は結子さん、お金のため“とんでもないこと”引き受けたフシがあるんですよ」 「うそっ。それがほんとなら助けてください。彼女のためなら、わたしなんでもします!」 あえてことばを選んだものの、「とんでもないこと」をレイ子も真琴同様「売春」にあてはめて結子の危急を憂えていたのだ。 その日のうちにまた結衣フリークをキャッチ、結子が足立区北千住に出没、ファンの一人に全盲少女がいたことまで判明した。 「凄い。パソコン1台でそこまで分かっちゃうんですか。まるでスパイ映画ですよ!」 あこがれの石嶺レイ子にそうまで言われ、真琴はすっかり有頂天になってしまった。 そして3日目のきょう、レイ子と別れた真琴は北千住はサンロード商店街そばのアパート2階を見上げ、ひたすら白杖をついた少女が通りかかるのを待ちわびていた。 日が暮れて、杖をつく音のまじった盲人特有の足音がして、真由には連れがいた。 女同士の会話に思わず身を隠すが、そこは人通りが絶えた辺りで、その安心も手伝ってか年上のほうは無警戒に話しかけた。 「それにしても500万なんて大金よねえ」 「お母さん、声おおきいわよ!」 なんと、連れは母親だった。 「結子さんて、いつか家を訪ねてきた人?」 ストレートにめあての名前まで出た。 「ほら、あのなかじま結衣よ。ある日、下校途中でたまたま親切を受けたの。声からすぐに彼女と分かって、何か悩んでるようなので励ましただけのことを……ねえ。そんなにまでしてくれることなの?」 「よほど落ち込んでた日には千金に値する励ましがあるものよ。あの人にとって真由は特別なファンとして深く印象づけられたのね」 全神経を集中して会話を聞いていたが、 〈それにしても500万とは……売春の報酬額としてはケタ外れ過ぎないか??〉 真琴の予想は根底から怪しくなった。すると500万もの金はいったいなんの代償か。 真由は白杖をついている以外は盲人とは思えぬ達者な足つきで階段を上り、そのあとを母親が、そして真琴が細心の注意で尾行した。 鍵がこじられる音、つづいて玄関の戸が開く音まで聞き分けられた。 結子の身を案じた真由が、関連した事件でも起きてないかと点けたラジオだろうか、7時の時報が鳴ってニュースが始まった。 母親はまだ何かしているらしく、彼女の声と真由の声、それに男のアナウンサーの声が加わり、つづいて女の声でヘッドラインが報じられた。 「芸名を役名にした映画『石嶺レイ子の危険な冒険』で彗星のようなデビューを果たしたアイドル女優の石嶺レイ子さんが、新作映画の発表を目前に失踪しました……」 「ええっ!」 叫ぶと同時に真琴は立場も忘れて駆け寄った。そこに、開け放たれた玄関ドアの向こうに煌々とテレビが点いていて、画面には石嶺レイ子の静止画写真がアップで映し出されていた。 バー止まり木では、結子とレイ子がトイレから席にもどる途中に異変を感じ取った。 カウンターには別の店員が入り、マスターの芳野は、隅っこで相良直美似の店員と深刻そうに顔を見合わせていたが、結子とレイ子がもどったのに気づいて声をかけた。 「ちょっと厄介なことが起こりまして……」 そう言って紙片を渡した。ダッフルコートとタータンチェックのミニになったレイ子は完璧に結子とまちがわれていた。 暗い中に紙片の走り書きが躍っていた。 中島結子という女が入って行ったはずだ 警察にはだまって、結子をこちらに渡せ 拒否すれば仲間と押しかけ、店をつぶす 一月前の「紫苑事件」を憶えているよな 中嶋の「嶋」を「島」と略した違いなんかより、レイ子も結子もいよいよ進退窮まったと覚った。 芳野は相変わらず、ショートヘアーのレイ子を結子と思い込んできっぱり約束した。 「もちろん、あなたを奴らに渡すなんてことはぜったいしません。ただ警察に届け出るにしても、お断りしてからと帰りを待ってましたので……」 「すみません」 本物の結子が恐縮して横から頭を下げた。 レイ子も、ここは冷静な頭で判断した。 「警察にいっても直接の被害がなければ動かないでしょう。それを承知で脅してんですよ。 この“紫苑”、ってのは?」 芸能人であれば何かと世事には疎く、加えて売れっ子のレイ子であれば無理はない。ところがテレビなど見ない、新聞も取ってない結子だが週刊誌好きな同僚から聞いて知っていた。 「紫苑っていうゲイ・バーが、過激なレイシスト集団に襲われた事件よ。おおぜいの怪我人まで出した騒ぎなのに、けっきょくは誰も裁かれず、罪らしい罪にもならず、最後は10万円かそこらの示談という形で決着したんですよね」 芳野は「そうですそうです」と何度も頭を下げてうなずいた。 「ほんとうに囲まれてるんですか?」 またレイ子の格好の結子が尋ねた。 「店の子がゴミ出しに出て気づいたんです。うろんな男たちが4、5人。どうやら新文芸座のあたりにも何人かいるみたいですよ」 「じゃ、ほんとに……!?」 思い過ごしであればと念じた結子は、芳野や店員の表情から希望を断たれ、すっかり打ちひしがれた。 「いったいどういうことなの?」 レイ子が事態を飲み込めず結子を凝視した。 「ことわる前にお金、振り込まれたのよ。おとといよ。で、返すと言ったのに今さら変更はできないと突っぱね、どうしてもやらせる、と」 芳野と店員はぽかんとしたまま聞いているしかなかった。 「秘密を知られたから生かしておかないというわけね。そんなのいまどき安手のアクション映画ですらかんがえつかない話よ」 芳野がたまりかねて、 「何かよほどの事情がおありのような……」 その一方でレイ子は、 「よし、こうなったらわたしの出番よ!」 ガッツポーズで張り切った。 「これでも女優よ。こんどこそ結衣ネエの代役させてもらうわ。切羽詰まった時だから四の五のいわないでね。みなさんも……」 レイ子は店の2人には丁重に頭を下げた。 さっきから聞いているとセリフがあべこべのような、そう思ってあらためて両人の顔を見くらべた芳野も店員も「あっ!」とおどろき2人の入れ替わりに気づいた。 「わたしが出て行ったらすぐ警察に電話してください。向こうは巧妙な手をつかって網にかけようとするだろうから、こちらから仕掛けて騒ぎに、警察沙汰に仕向けます」 「なるほど」と芳野がおおきくうなずいた。 そして店員もすっかりやる気になった。 「結子さんはわたしたちで逃がします。隣りのビルの社長とは懇意で、屋上は双方行き来できるようにもなってますから」 そんな仕組みならますます心強かった。 「じゃあ、お頼みします」 そう言ってきびすを返しかけた時だ。 「だめ! そうじゃないのよ」 思わず結子が声をあらげたが周囲の目をはばかり、ふたたび声をひそめて、 「売春なんかじゃないのよ。まったくバカな話で、じつはスナッフ・パーティーの生け贄として500万の報酬を受け取ったのよ。目の不自由な16歳の少女の目の手術代にするためにね………」 消え入りそうに告白し、3人が3人とも凝然とした。 だが止まり木に危害をあたえず警察に介入させて脱出するには、レイ子の機転に頼る以外に手がなかった。その自信がレイ子にはあった。体育会系の彼女の運動神経は、ここにいる結子自身良く知る事実だった。 「だめ。行かせない!」 結子は必死に止めた。それを振り切って、 「だいじょうぶだって。わたしを信じて!」 背中をひるがえして皆のまえから遠ざかり、さっそうと外へ飛び出していったのだ。 |
|
|
| またパソコン脇の電話が鳴った。 そそっかしい亜紀が、さっきの電話で何か言い忘れてかけなおしたものだろう、電車がまだあるなら呼びつけようか、そんな軽い気持ちだったが、 [あの、戌井先生の、お宅でしょうか……] ひどく遠慮がちに、女性の声で、一瞬には小説の読者かと思ったが、聞き覚えがあるようでもあり、すると頭の片隅を占めていたある顔が浮かんで、 「もしや君……」 [はい。中嶋結子です] その返答に「おおっ」と歓声すらあげていた。 「やあ、どうしたの? だいじょうぶ? わたしの友だちの、ほら、あの騒ぎの時わたしといた彼女が心配して何回か訪ねたらしいけど、ここ数日いなかったとか。いったいどこに?」 大人げもなく興奮して一方的にしゃべりまくったが、 [先生助けて! わたしとんでもないことを。それでレイちゃんが……殺されるっ!] 「なんだって!?」 こんどは戌井が動顛した。 「もしもし!」、「いったいどうしたんですか?」と呼びかけても返事がない。泣いてるようだが、そうこうするうち別の声に変わった。 [すみません。代わりました。 東池袋のバーの店員で遊佐かおるです。結子さんはお客さんですが、じつはのっぴきならない事情で彼女の友人でもある、あの石嶺レイ子さんが暴力組織に拉致される事態に……] 「なんですって!? それって、もしや肉体売買契約にからんでのことですか?」 一刻を争うようなので単刀直入に訊ねた。 [よくご存じで……その中身ですが、スナッフ・パーティーとのこともご存じですか?] 「えっ!?」 まさかそんな!? 麻薬戦争のメキシコやマフィアの処刑じゃあるまいし、日本でそんな凄惨な行為がなされるなどとは信じられない。 「ほんとなんですか?」 [500万円が実際に払い込まれたそうです] 「………!」 それだけ聞けば十分だった。 「分かりました。警察は信用できないのね? おそらくその件も含め上層部とは別に独自のチームをひきいて捜査している女刑事を知ってます。池袋とは好都合だ。大塚に僕の女友達がいますので、先に彼女に行かせましょうか? あなたたちとはどこで会えますか?」 [じゃあ、JR池袋駅の改札口で待ってます] 「了解しました。では携帯の番号言いますね」 戌井は亜紀と自分の番号を教え、相手からも聞いて「またのちほど」といったん切った。 それからあとはてんてこ舞いだった。 電話をすると、亜紀も呼ばれると思ったのだろう。最初はうきうきとした調子で、それが「レイ子拉致」の急報で仰天、その彼女に戌井は高嶋裕美警部への電話を頼むと車に飛び乗って池袋をめざした。 約30分後には待ち合わせの改札口で合流した亜紀、結子、遊佐を池袋駅東口で拾った。 「はじめまして」と頭を下げた遊佐を、戌井はしっかりした大人の貫禄をもつ女性と見た。 つづいて結子が「先生、このたびは」とあいさつしかけて、戌井から「先生はかんべんしてよ」と軽くさえぎられる一幕もあったが、3人は示し合わせていたように、亜紀が結子を支えて後部座席に、遊佐も迷わず助手席に乗った。 車を走り出させてすぐ戌井が頭をうしろに振って訊いた。 「高嶋警部とは連絡とれた?」 「最初は留守だったので山岡さんという人に言づけて、そのあと待ち合わせの改札に着いてすぐくらいに裕美さんから電話がきて……」 そのつづきを亜紀は遊佐に託した。 「はい。高嶋さんにはわたしからお伝えし、毎熊さんという刑事と戌井さん宅に直行する、先に着いたら外で待ってるからとのことでした」 電話のあわてぶりから案じていたのだが、いまは落ち着いた感じの結子に安心した。ただ、なにか一心不乱に考えごとしてるようで、戌井は遠慮した。 「レイ子さんが拉致されたということですが……」 「ええ。そのことですが、結子さんは一つでも多く警察への情報が与えられるよう、頭をいっぱいにして……」 「なるほど、そういうことでしたか」 「わたしが代わりにお答えします」 それから遊佐は結子が止まり木に訪れ、レイ子と会い、なにがなんでもスナッフ・パーティーを挙行すべく、「結子を渡せ」と脅して男たちが店を包囲するところまで順を追って話した。 「結子さんにその意志がなくなったのに?」 「お金は返すと言ってるのにです。そこでレイ子さんは警察沙汰にすべく出て行きました。アクションをしかけながら、人混みをもとめて駅のほうに走ったのですが……」 かおるは異様な修羅場を回想のなかに語り始めた。 その時は渡り廊下でつながる隣りのビルづたいに結子を逃がすことで頭はいっぱいだった。 「結子さん、早く早く!」 かおるは勇躍飛び出したレイ子とは別に、暴漢どもがいつ襲ってくるか気が気でなかった。結子を救えなければレイ子の勇気が無になる。 3階までの階段を駆け足で上がった。 廊下の奥にまた階段。見当をつけてそこを上ると、頭が着きそうになったところにハッチ状の扉。それを押して出て結子をいざなった。 がらんとした屋上の四隅はフェンスが張られ、その一角がぽつんと抜けていた。 「あそこに渡り廊下があるみたいよ」 かおるもはじめてだが、渡り廊下があるとすればそこしかなく、それに向かった。 案の定、渡り廊下を抜けておなじ3階建てビルの隣りの屋上へと出られた。 下から怒声が聞こえた。 それまでは逃げるに精一杯だったが、ここまで来られた安心から、つい足がそのほうに向いた。このビルは編目のフェンスでない鉄柵なので、柵の隙間から下は見えるのだ。 雨上がりの路面がきらきらしていた。 新文芸座の手前、ストリップ劇場のあるあたりが一変していた。一般の通行人が全部わきにそれて、通りの一角を占めてようすが変なのだ。1人を取り囲んで喧嘩の布陣だった。 その1人というのがベージュのダッフルコートの―― 「レイちゃん!」 結子が指さして思わず叫んでいた。 「そんな! なんで!?」 レイ子なら店を出てすぐ、人通りの多い駅をめざしてパルコの方角に走ったはずだ。 かおるは携帯で同僚の一人を呼び出した。 「あ、わたし。こっちは結子さんと無事隣りのビルまで来たんだけど、なあに? いま、屋上から下見てんだけど……レイ子さん駅に向けて走ったのに、なんであんなとこにいるのよ」 [奴らやり方が上手くて……酔っ払いや恋人連れをよそおい、レイ子さんにからむふりして囲い込みながらあそこまで押し戻したんですよ] 「あっ、今……!」 同時に携帯からも叫び声が聞こえた。下で、通行人の誰かが仲介しようとして殴られるというアクシデントが突発したのだ。 かおるが再度呼びかけた。 「警察は呼んだんでしょうね」 [もちろんですよ。もうすぐ駆けつけるはずです。それだけを期待してんです……] いったん電話を切った。 「聞こえたでしょ?」 「ええ。でも……」 結子の不安は、「警察が来る」といわれても消えそうもなかった。その表情からは生半可な救いなど期待も信じもしない、よほどの経験に裏打ちされた絶望があるように感じられた。 殴られた善意の男は地面にうずくまった。 これに懲りてさらなる加勢はないだろう。 10人くらいの包囲がせばまり、そのうちの2、3人に捕捉されたら、いかに運動神経抜群といえどしょせんは女、たちどころに自由を奪われ、当て身でも食らわされた日には、酔っ払いの介抱と見せかけ連れ去られかねなかった。 「レイちゃん!」 結子が鉄柵を握りしめて歯ぎしりした。柵に扉でも付いていたら、たまりかねて扉を開けて下まで飛んで行くほどの悔しがりようだった。 その時、遠くでパトカーのサイレンが聞こえ、地獄に仏を見た思いがした。 「かおるさん!」 「結衣ちゃん、良かったね。助かったわ」 かおるは結子と肩を抱き合って喜んだ。結子もこんどばかりは希望を信じたようだった。 パトカーのサイレンがどんどん近づいた。ふだんは忌まわしいもの、いささかでも犯罪のイメージを抱かせて緊張を強いられる独特の響きが、いまは救世軍のラッパのように聞こえた。 それがパルコの角を曲がって白と黒の、あの独特のツートンカラーの車体を現わし、うろんな男たちの囲みを割って、気丈に身構えてやっと立っているような結子のそばに滑り込んだ。 後部座席のドアが開いて、制服ではない私服の刑事が2人まで降り立った。つかつかつかと歩み寄り、一人がレイ子のうしろにまわり、背後から抱きかかえるように押さえて羽交い締めしにかかった。 「えっ!?」 「なんなのよ!」 かおると結子が、ほとんど同時に怪訝を口にした。 そのあと、信じられないことが起きた。 面と向かった刑事が背広の内ポケットからA4サイズの紙を出して両手で持ってレイ子のまえに提示し、こう言ったのだ。 「中嶋結子、共謀罪とテロ容疑で逮捕する」 片手でレイ子の手を取り、もう片方の手で手錠を架けた。レイ子は茫然自失として刑事2人にはさまれ、引っ立てられ、引きずられるようにパトカーに乗せられた。 あっという間の出来事だった。 パトカーを見送る10人近くの暴漢の中にはカップルをよそおった若い女もいて、その連中の落ちつきぶりたるや、道の両側の見物人たちの驚きとは好対象だった。 それがかおると結子が見た一部始終だった。 結子に付き添う亜紀も、車を運転する戌井も、一時沈痛な表情で押し黙った。 10秒ほどの静寂のなかで亜紀が「あ!」と声をあげた。 「どうした」 「レイ子さん、そういえば失踪してたんだよね」 亜紀のそのことばにより、結子は身も世もあらではの顔になった。 「わたしのせいで!」、「わたしがバカなことを!」そう言って涙ながらに取り乱すのを亜紀は懸命になだめるしかなかった。 やがて車は春日通りと江戸通りの交差点にさしかかり、戌井の住む賃貸マンション11階が斜め左に迫った。 駐車場に停めるべく、春日通りをそのまま厩橋方向に直進して信号を通り越した。 路地を一つ越えて左折すると、そこにミニクーパーが停まって見覚えの若い男が立っていた。戌井はそれが毎熊だと確認し、その彼がこっちに気がつくと同時くらいにドアが開いて、黒のパンタロンスーツをすっきり着こなした裕美が降り立った。 戌井も車を停めて亜紀、結子と車から降りて2人と対面した。 「えらいことになりましたねえ」 戌井が頭を掻いて渋面になった。 日曜ということもあって、このあたりは通行人もなく、人が出る場所でもなく、大声さえ出さねばどんな秘密の会話もさしさわりなくできた。 その安心から裕美が大胆な推測を語った。 「米軍の上のほうがからんでるんでしょうね」 裕美の自信は捜査過程にもとづいており、また戌井はここへ来るまでの間、結子から米軍勤務をひけらかすテレサ伊東との接触の事実を聞かされており、そんなこんなから裕美の推測を否定すべくもなかった。 「いったいどうすれば……!」 結子は泣き顔のまま頭をかかえ、そのままくずれそうになるのを亜紀が遮二無二支えた。 亜紀の口からさっき出た「失踪」の2文字が公に報道された客観的事実と相まって、結子とレイ子に関わる人々の心にこれ以上ないほど重くのしかかることになった。拉致されたレイ子が死ぬも生きるも、いまや闇の向こうの見えざる敵の思うままだった。 一時止んでた雨が、また強く降りだした。 |
|
|
| 車から降ろされてすぐ扉の開く音がした。 〈ああ、ここが監禁場所か〉と思った。 それから角を曲がって、すこし歩かされた。 両脇から支えられた時、そこが階段の降り口だった。ということは、地下室…… 2階分も降りた感じがした。 ギギィ……鉄扉の軋むような音。ますます秘密めかした部屋にきて、そこではじめて目隠しが引っぺがされたのだった。 照明の淡さで目がくらむことはなく、がらんと異様に横長な部屋や、その片側に据えられた二人掛け肘付ソファーが広い空間に向けて位置することなど、一瞬に見て取れた。 男2人が、ソファーのリクライニングを倒して平らに……それを呆然と見ていると、 「おい」 いきなり肩をつかまれ、振り向かされた。 「裸になってそこに寝ろ」 躊躇していると別の男たちがけしかけた。 「さっさと脱げ」 「もう一汗掻くつもりか?」 「こんどこそはぼこぼこにするぞ」 だが、そんな仲間を制する者もいて、 「待てよ。家主は汚されたくないからだろうが、ボスも血を見ることはやめろって……」 その彼の弱気を吐き捨てる紅一点がいて、 「けっ。何をびくびく……あんな奴、無視すりゃいいのさ。汗掻いたのはわたしたちよ。その余録にありつくのは当然じゃん」 こいつは恋人連れをよそおい絡んできた奴だが、よく見るとウエスタンブーツと短パンジーンスが似合うなかなかのものだ。そのルックスで意気がり、ナイフで脅しつけた。 「さっさと言うとおりにしろよ。それとも獣の皮剥ぎみたいにズタズタにしてやろうか」 「おおきなお世話よ。自分のツラでも剥げ!」 レイ子も負けずに言い返し、その手を振りほどくと毅然と服を脱ぎはじめた。 ダッフルコートとタータンチェックのミニはまたたく間に脱いだが、紫のタイツは細足にもかかわらずフィットしすぎて手間取った。 「手伝ってあげようか?」 しなを作って媚びた茶々に男たちが吹いた。 そのあとのことは覚えていない。気がついたら全裸で衆人環視のなかにあった。 平らにしたソファーに膝から上がって横たわるが、はみ出た脚をしかたなく曲げ、ソファーの肘と肘の間で居心地悪くしていた。 「誰かこのクソアマをしっかり押さえて!」 「ほんとにやるのかよ」 「できればあんたらに犯させて白黒ショーといきたいんだけどね、あのテレサが……」 「いいさ。じゃ、俺が手伝うぜ」 どうやらレイプされることはなさそうだが、それ以外、たちまち手と足を取られて観音開きにされ、そのまえへ女が膝を着いた。 「見て。これが石嶺レイ子のオマンコよ」 そう言ってうしろの2人を振り返った。 羞恥に反応して抵抗したが手も脚も屈強な男2人に押さえられてびくともせず、ただ亀のように首だけ藻掻かせるしかなかった。 大開脚股間の中心に指が挿し入れられた。 「うっ」 陰唇を剥き上げ、ひねくりまわした。 「アイドルのくせして使いこんでやがらぁ」 嘲りながら各々指を2本ずつ、それが医具でもあるかのようにして開口したりもする。 「すこし痛いわよ」 そのセリフのあと、セリフのニュアンス以上の痛みが顔をしかめるほどに酷く襲った。 「すげえ」 「こんなに開くんだ」 「けっ、もう濡れてるじゃねえか」 嘲りに嘲りの追い討ちをかけた。 指なぶりは執拗をきわめ、同性だからこそ判る適度のバイヴレーションで、陰核だの尿道孔だのに耐えがたい戦慄的快感を与えた。 「う、くっ……!」 「感じてるなら素直に泣いてもいいんだよ」 度重なる恥辱にレイ子は歯を食いしばった。〈感じるもんか〉、〈濡れるもんか〉と声を殺して、二の腕を押さえつける男の股ぐらをとおして見る光景に心を集中した。 いったいここはどこのどんな場所だろう。 スペースだけ見れば「無駄に広いだけ」との印象だったこの部屋も、壁も天井もダークブラウンで統一した中、床だけ白線でチェス盤格子にするなど全体に格調が感じられた。 そういえば奥の隅に縦長スピーカーが縦置きに鎮座ましまし、花岡と売り込みに歩く途中どこかの金持ちの家で見たことが、と、 〈あ、ここはホームシアターなんだ! スピーカーをまえにした壁が一部黒く見えるのは、そこがスクリーンを架ける取付部だからよ〉 そこまでは気を逸らせられた。が、それ以上は無理だった。なぶられる秘所はとうとう愛液が洪水となり快感絶頂の決壊寸前だった。 「あ、あーあ……う、くぅぅーっ!!」 首を振り、喉をのけぞらせて恍惚となった。 「おい、アリサ。もう、びしゃびしゃだぜ」 女はアリサというのか…… 「アイドル、スターといえどこのザマだ」 「こいつが男とヒーヒーやるとこが見たいぜ」 いまや暴漢どものどんな嘲りも辱めのことばもレイ子の耳には届かなかった。もう、どうにでもなれと開き直って声をあげていた。 その時にあの女米兵が入ってきたのである。 指なぶりの手が止まって、それで快感がストップされて気づいた。男たちは畏怖してお出迎え姿勢になり、陰では名指しで悪口垂れてたアリサまでしゅんとして見る影もなかった。 迷彩をほどこした暗緑色の将校服を着た白人女――。 束の間解放されたことで赤く腫れた脚をさすったり、青痣の肩を揉んだりしていたが、女兵士は東池袋の路上で自分を襲った、残り4人に、ドアの対角線すれすれに傾けて通るほどのマットレスを重ばせてしたがえた。 その女が間近にきた。歳は30代にも40代にも見え、プラチナブロンドの髪の美しい白人女だが、どことなく酷薄さが感じられた。 「なぜおまえがこの顔になってるの?」 そんな詰問口調だったが、セリフの中身より何より、明らかな外人顔から発せられた日本語の流暢さぶりにおどろかされた。 「テレサ伊東よ」 「………?」 名乗られた意味が分からずきょとんとしていると、相手は「ふん」と鼻を鳴らした。 「何も聞いてないようね」 流暢なまま謎めいたセリフを吐いて立った。 手下のなかでいちばん年長の、リーダー格が「拷問にかけるんですね」と訊いた。 「そう、今すぐにね。さあ、この石嶺レイ子をそのマットの上に大の字磔にして」 それから4人がかりで四肢を取られて抱え上げられ、マットの上に落とされた。 手首と足首に革紐が締めついて四隅に備わるフックに結ばれた。拘束は呆っ気なく完成されたが、フックとフックの間が身の丈に合わず、えらく折れ曲がった大の字になった。 せっかくオーダーしたテレサは不満顔だ。 「やはり結子とは身長差が……あんたたち、こんなんで騙されたの? バカじゃないの」 「あっちは踵の高いヒール履いてたんだよ」 アリサがむきになって弁明し、憤然とした。 その顔を一瞬にはぎろりとにらんだが、憤懣の矛先は結子にはね返った。 「どういうこと? その顔といい髪といい、こうなることを予期してたってわけ? この子たちが襲うことを誰かから聞いてたの?」 思わぬ勘違いにレイ子は面食らった。 こうなったのは偶然に過ぎない。プロダクションの花岡に反旗をひるがえし、結衣ネエを芸能界復帰させるべくデモンストレーションにはこうする必要があった。その密議の再会をおまえらが邪魔したんじゃないか、と。 「さあ、吐け」 「何を?」 「情報を洩らしたのは誰なのか。結子は誰のところに匿われてるのか。潜伏先と手引きした者、協力者の名をあらいざらい白状しろ」 「………」 結子は答えに窮した。密告者など答えようもないし、潜伏先を教えれば戌井や真琴君に危害がおよぶ。警察や公安とつるんだ連中がそんなこと知れば、秘密を知った結衣ネエはおろか戌井も真琴も無事ですむはずがない。 「どう? しゃべる? しゃべらない?」 レイ子は覚悟を決めた。どうせ助からないなら堂々と振る舞おう、恥ずかしくない舞台を演じよう、それが女優というものだ、と。 固く決心した時、レイ子は不適な笑いを浮かべて毅然とテレサを見返していた。 「良い覚悟ね。それじゃアレを使おうかしら」 手下のリーダー格に耳打ちし、太さ2、3センチ、長さ3、40センチで、グリップ以外の金属部に刺激的突起を見せて禍々しい鋼鉄棒を取ってこさせ、それを手に持った。 「特別あつらえのスタンバトンよ」 スタンバトン? スタンガンじゃないの? それが今、レイ子の胸を狙ってじわじわと迫り、無防備の裸身へと鎌首をもたげ、兇悪の牙をもって襲いかかってきたのである。 「ぎゃっ!」 強烈な電撃が乳房を見舞った。 間髪入れず次、また次! と触れまわり、乳房のあちこち、その途中には乳首も撫で、それだけでも激しい電撃に逃げまどう上体は美乳をぷるぷる揺らして暴れまくった。 「ぎゃあーっ! ひいいーっ!」 ショートヘアーの首を振り、美乳の胸を揺すってのけぞりまくった。 バトンは胸だけにとどまらず、胸元にも腹にも降りてレイ子は上体をくねらせ、へっぴり腰に腹を凹ませたり、反対に背中を浮かせたり、するとその背中にも笞は襲った。 「ひゃっ! ひぎゃっ! ぎゃあああっ!!」 バトンが肌に触れるたび、強烈な電撃に襲われて凄まじい悲鳴を発して身をよじった。 「おもしれぇ!」 「踊れ踊れ、もっと踊れ!」 男たちははやし立てた。テレサの突き出す棒器具から逃げまどう姿が、黒マットレスをキャンバスにしてダンスを踊ってるようだ。 「ほら、もっと早く逃げまわらないと敏感な乳首に当たっちゃうよ、ほら、ここよ」 「ぎゃああーっ!!」 早くもマット上の踊る全裸の全身はローションを塗ったように照り輝き、汗ですべりを良くして逃げまわる動きも早くなった。 だが、責められるレイ子にすればたまらない。腹、胸、背中、ところ嫌わず狙われ、強烈な電撃に失神するほどで、3回に1回の割で当てられる乳首の痛みはつらすぎた。 「ぎゃっ! ぎゃっ! ウギャアッ!!」 苦痛の度合いに合わせて悲鳴も変化した。 「さあ、どうだ。結子はどこにいる? おまえが結子に化けたのはどういう魂胆だ」 その質問には首を振るしかなかった。ひたすら〈結衣ネエを守るんだ!〉という気概から拒否し、悲鳴をあげて苦悶しつづけた。 「ひえええーっ! ぎゃあああーっ!!」 卒倒し、のたうち回る被虐のアイドル。 すでに8人の男たちと若いアリサの目はさっきから注がれているのだったが、テレサの興味もいよいよそこに向くことになった。 電撃を浴びて逃げまわる上半身とは別に、膝を15〜30度ほど曲げた下半身はほぼ一定を保っていた。左脚は拘束のため開かれているものの、反対に右脚は寸足らずの余裕で秘部を隠せていた。その所作がかえって目立つのだ。 「上だけじゃ不公平だってか」 「おい、オマンちゃんが刺激を求めてじんじんしてんじゃないのか?」 アリサと男の一人が遠回しに攻撃者を煽った。テレサもそのつもりだった。そして、レイ子の得意なアクション映画をなぞるような展開に、被虐のヒロインはリアルに怯えた。 「いやっ、やめて!」 「ならば中嶋結子に化けたわけを吐くのね」 「あなたがたの襲撃とかち合ったのは単なる偶然よ。事実は花岡社長に一泡吹かし、結子さんを芸能界復帰させる映画の企画が『乞食王子』で、そのための扮装としての……」 返答途中、股間にバトンが突っ込まれた。 「ギャッ!!」 背中をのけぞらせ、左脚も内向きにして必死に股間をかばうが、硬い鋼鉄製の棒器具の先は股間の中心をとらえたままだった。 「ギャッ、ギャッ、ギャッ、ウギャアアッ!!」 壮絶な絶叫をあげて全身が跳ねまわった。 「作り話もいい加減にしなさい!」と、また突っ込んだ。 「ギャッ!! ギャアアアッ!!」 ひときわ甲高い絶叫――それが際立ちすぎて、テレサは引っ込めた電撃棒のスイッチを切った。その先のぬめりに、愛液に滲んで微かに血が混じっているのをしかと確認した。 「床を汚さない」という家主との約束もあるが、スナッフ・パーティーにレイ子を使うなら商品価値を下げるわけにいかない。そう判断して趣向を変えることにしたのだ。 いったん、バトンを床に置いた。 「どうしました?」 「時間はたっぷりあるんだもの。そうあわてず、時間をかけて責めることにするわ」 そう言って暑そうに迷彩服の上着を脱ぐと、同系色の暗緑色のシャツ姿になった。 そしてまたショックバトンを持った。 「すぐに殺すなんてもったいないからね」 これは映画なんかじゃない。相手はほんものの軍人、そして電気ショック道具……まさに『石嶺レイ子の危険な冒険』のリアル再現ではないかと、「拷問」の2文字が実感を伴った恐怖としてひしひしと身に迫った。 「怖い?」 手を伸ばして乳房に触れた。 「これが女優の肌ね。すべすべしてるわ」 目顔でうながされ、我も我もと暴漢どもも近寄って腹だの胸だの腿だのを撫でまわした。 バトンの発電部をひねり、3、40センチ長から2、30センチ長に調整しなおした。 「離れて。電気が通じるわよ」 注意をあたえ、スイッチを入れたところ、男たちが見物姿勢になった。 観察者の手が実験動物をいたぶるようにレイ子の股間を撫で、目が膣を凝視した。 バトンを持つ右手が、親指と人差し指で膣を開いて傷口を確認、左手の指で傷をガードしながら、右手で持つバトンの先を指と膣の間に生じた隙間を縫って押し込んだ。 「うっ。つぅーっ……う……」 突起がこすれながら異物が傷口以外の膣を通過、どんどん挿入されていく。いちばん奥まで挿入して、なお小突き上げてきた。 「うっ。ああっ。痛たっ! あうーっ……」 「ふふふ……まだよ。まだまだ奥があるわ」 グリップをひねって力を込めたりもする。 「ひっ! ううっ!」 必死に顔をしかめて耐えた。 責める側のテレサも力んで顔をゆがめた。 子宮は無理すれば指1本くらいは入るといわれている。テレサの持つバトンは握り以外は2センチ径ほどで、先にいくほど細くなり、先端はそれこそ女の小指ほどもなかった。 それが穴をとらえたようだ。 「くうっ!」 くぐもった呻きをあげ、レイ子は異物の挿入を膣の深奥部にむごく感じた。 テレサが口元をゆがめた。右手に力を込めた。「うーっっ……」という呻きとともに、バトンがさらに数センチ入っていった。 アリサが未練がましく腹だの腿だのを撫でまわしてレイ子への執着をあらわにしている。 「ほら、電気が通じるってば」 注意されて若い同性の部下は不満を、いや、異を唱えた。 「いきなりそれはないよ。舌でも噛んだらどうすんの?」 「そうね。たしかに……気が変わったわ」 アリサの助言に応じてグリップつまみを逆回転させ、微弱電流設定でスイッチ・オン! チクッと身体の深奥部を痛みが刺した。 やがてビリビリビリという特有の刺激が襲い、必死に歯を食いしばっても声は漏れた。 「う、うっ、うっ……!」 3センチ径の握りといえばいくらもない。そのわずかの操作部が、傍目からもはっきり見えるほどこんどは一気に回転させられ、 「ぎゃっ! ウギャアアアアーアーッ!!」 凄まじい絶叫。全開した股間から開かれた下肢にかけて激しい痙攣が走り、しなやかに伸びた脚の爪先がみにくくひきつれた。ふくらはぎや太腿に硬直の筋が浮き立った。 「ギャアアー、ギャッ、ギャアアアーッ!!」 強烈な衝撃がレイ子の身体の内部を貫通して大の字の先に走り抜けていった。子宮は弾け飛ぶかと思うほどの電撃に襲われていた。 よく引き締まった腹部にも筋肉が浮き立ち、電撃に反応して痙攣を繰り返した。 「ギャアアアアアー………ッッ!!」 泣き叫ぶ顔もぶるぶる震えている。汗で光り、痙攣しながら筋立つ上下肢の凄惨。その光景に見入り、猟奇に憑かれ、残虐に驚喜する見物者たちの目は爛々と輝いた。 「凄い!」 「最高だぜ!」 スポーツ中継の熱狂よろしく、耳をつんざく絶叫に負けないよう声を張り上げた。 「これでもまだ最高電圧の半分もないのよ!」 テレサも説明に声をいっぱい張り上げた。 10秒……20秒…… まだ中断されない。その間、悲痛な絶叫も止むことがない。レイ子にとっては性器が壊れるような、恐怖と驚愕と衝撃の時だった。 1分が過ぎたころスイッチが切られた。 力んで突っ張っていた全身がどっと音を立てて黒マットレスの拷問台に沈んだ。白目を剥いて死んだようになった。 強烈な拷問電流のあとの束の間―― 「舌を噛まないよう、誰か猿ぐつわを!」 いまごろになって……! 冷酷に、非情に安堵のため息をつく間も与えない。テレサの指図を受け、手下の一人がタオルを丸めてレイ子の口に突っ込んだ。 「やめ……うぐぅっ!」 拒否することばもふさがれた。 「ぎ、ギャアアッ!!」 横に手脚を伸ばさせられた全裸の全身が一瞬跳ね上がったかと思った。 「ギャアアアーーーッ………!!」 またきた。絶叫とともに痙攣した。 耳をつんざく絶叫が痙攣といっしょにつづいた。こんどは10秒……20秒…… 1分経っても止めてもらえなかった。 1分30秒を経てやっと電気が中断された。 「はあ、はあ、はあ……」 呼吸器か心臓の病気をわずらう患者の発作のあとのように、苦しそうな息づかいを見せておおきく波打たせているレイ子の上体も、大の字に伸びた四肢も汗でびっしょりだ。 「殺してっ!」 ふりしぼるようにレイ子が叫んだ。 バトンが抜かれた。ぐっしょり愛液に濡れたショックバトンをレイ子の脇に置いてテレサが近づいた。ショートヘアーのうなじを取って自分と対面させた顔に語りかけた。 「いいことを教えてあげよう。結子はわたしがたっぷりと可愛いがってやったよ。 といって、彼女を最初に見たのは警察の取調室なんだけどね。別室から覗き窓を通して見たんだけど、その時あの子は好き者の女刑事2人になぶられ、拳をヴァギナに突っ込まれ、電気責めで焼かれ、それこそ大変な目に遭ってるとこを見せてもらったわ」 「……………!!」 その時のレイ子のショックのおおきさは表情からも一目瞭然だった。 「わたしは彼女に興味をもち、公安とは別に調べ、バー・止まり木に結子が常連として通ってることを突き止め、近づいたわ。彼女、そうとうな好き者よね。だって、わたしの誘いに手もなく乗ってきたんだから。もう、初対面のその晩にわたしに抱かれてめろめろ」 「ふ、面白可笑しく話をつくって……」 レイ子は嘲笑った。虚勢ではなく、その時はほんとにハッタリだと思ってせせら笑ったのだ。そしてうっかり隙を見せてしまった。 「おや。わたしの話がでたらめだって?」 テレサはなおも挑発した。 「スターなかじま結衣の、3年前の失脚原因である環境運動リーダー片岡遼治とのスキャンダル、男と女の関係は見せかけだったんでしょ? 花岡社長をあざむくための……」 「………!」 レイ子の驚きはほんものになった。 また、テレサはその先も調べ尽くし、知り尽くしていたが、敢えてそこまでは触れなかった。代わりに決定的な話をした。 「あの子、耳たぶ舐められるのが好きなのよね。肛門のそばに目立つほくろがあるし……スター時代は盲腸の傷を隠すのが苦労だったとか、そんなことまで教えてくれたわ」 レイ子の完全なる敗北だった。どんな手管にからめ取られたか知らないが、自分にしか教えないといったことを、よりにもよってこんな女に教えていただなんて、と。 パン、パンッ…… 柏手を2つ打つと、こんどはそこにアタッシュケースようの装置が運ばれた。 レイ子がこれを見るのは初めてだが、鞄を開けるとダイヤルがいくつか、扇形メーターが1つと、コードがごっそり仕舞われていることからおおかたの想像はついた。 「こんどはさっきとは違う辛さがあるわよ」 ケースに手を入れ、赤、黒2本のコードを抜いて、コードの先端、テスターで見るリード棒という器具をテレサは左手に持った。 「押さえて」 同性の若い部下に命じた。 アリサは勇躍レイ子の横に来ると、指が割れ目を開いた。 つまみ部分以外はコードとおなじ赤、黒2層の先細りキャップで、1層目のキャップを外すと太さ1ミリほどの金属棒で、それを性器に近づけた。 「しっかりと押さえてね」 テレサのことばのあと、レイ子はアリサの体重を腰と腹に受けて「うっ」と呻いた。 その直後、クリトリスに激痛を感じた。 「ぎゃああっ!」 焼けるような電撃痛に卒倒した。 太さ1ミリほどの電極棒は陰核をはさみ、陰核のつぎは尿道孔、そこでも凄まじい悲鳴をあげさせた。 レイ子は耐えがたい苦痛に上体を暴れさせて泣き叫んだ。 「さあ、言いなさい。おまえと中嶋結子の関係をあらいざらい!」 そんなことならいくらでも答えてやる、と、レイ子は苦痛のあまりすっかり開き直った。 「恋人よ。女が女を愛してはいけないの!」 男たちが顔を見合わせて吹きまくったが、先刻お見通しのテレサは落ち着いたもので、脇で手伝うアリサも変わりなかった。 テレサの追及はさらにつづいて、 「じゃ、愛し合うにはどうするの? 性器を刺激するにはどんな方法を使うのかしら」 「え? そ、そんなこと……!」 とたんに答えに詰まった。するとこんどはリード棒の先を尿道の中に突っ込んだ。その苦痛たるや、クリトリスの比ではなかった。 「ひっ、ヒギャアアーッ!」 激痛にのけぞった。が、四肢の先を革紐できつく拘束されている身には、背中を浮かすか首を振って足掻くくらいがせいぜいだった。 「さあ、言いなさい。言わないと……」 リード棒が強く突き動かされた。 「ぎゃあっ!」 電流がさらに高まり熱さも強まった感じだ。 「ぎゃあああーっ!」 「かわいいプッシーが焼けただれるのよ!」 脅しではなくほんとに焼かれるのではないかと肝が冷えた。 「ゆ、指で……」 「指でどこを? 分かりやすく説明しなさい」 怒らせたら本気で性器を、クリトリスから何から焼き潰しかねないのではと怖れた。 「舌よっ! 舌でクリトリスを愛撫して、感じさせて、濡れたところで指を使うのよ。割れ目を開いて、挿し入れて、念入りに……」 あからさまに具体的に白状するや、「よぉーし。よぉーく分かったわ」 スイッチが切られ、テレサが立ち上がった。 |
|
|
| また柏手を2つ叩いて呼びかけた。 「誰か、ラジオ持ってたわね」 手下の男からラジオを渡されたテレサが、NHKに周波数を合わせた時、ちょうど1時の時報が鳴った。 関心は失踪した石嶺レイ子の後追い、というより自分たちが中嶋結子とまちがえて拉致、誘拐したこの事件がその後どう報道されたかという、その一点だった。 だが米軍の報道管制の成果もあろう、ニュースでは石嶺レイ子の「い」の字もなく、きのう午後報道された彼女の失踪事件は、一時芸能雀の耳目を集めはしても、いつものパターンですぐに飽きられ忘れ去られるだろう。 拷問に一段落つけ、その気のゆるみに冷気がぶり返したか、テレサはまた軍服の上着を着込んだ。 〈あとはどう処置するかだが……〉 男のように腕を組んで、一時思案した。 漫然と聞き飛ばしていたラジオニュースのいくつ目かにテレサの耳が反応した。 [……首都圏をさわがす連続猟奇誘拐、残虐事件で、先々月、東池袋のアパートの一室で発見された女性が意識不明のまま、今夜入院中の東京の病院で呼吸器不全を併発して亡くなりました。23歳でした。………] 年齢を強調するニュース草稿で、その部分を語るアナウンサーの声は湿りを帯び、心ある人が聴けば涙をも誘う部分であろうが、それをテレサは悪魔の笑いを浮かべて聴いた。 「何もいわず死んだのね」 無感動にぽつりとつぶやいたが、その瞬間レイ子の運命も決したのであった。 さっと振り向いて生贄を見やる冷たい視線。 全身を汗で光らせ、緊張に喘いでいる、失踪中のアイドル……残虐な妄想に重ねてながめていたが、やにわにポケットから携帯を取り出し、電話した。女に代わって、やや間があって憮然たる男の声が応じた。 [なんだい、こんな時間に……] が、そんな相手の迷惑など歯牙にもかけなかった。 「用がなきゃ電話なんかしないわよ」 ぞんざいに言い捨てて、さっそくに用件を伝えた。 「きょう中にリーサルウェポンを5、6匹……場所が地方になるから午後には届けて」 たったそれだけの間にも、相手は[ご挨拶だね]との皮肉、[ふざけてんのか!]という激怒、さらには[冗談は顔だけにしろよ]との突っ込みを入れ、寝込みを襲われた憤懣をぶちまけたが、 「大きな口叩いて……さっき出たのは奥さんでしょ? ふん! 学習院出の貞淑な妻か何か知らないけど、オフィス北野の系列芸能事務所の社長が、じつはペドフィリアだって話をその筋に洩らしたらどうなると思ってんの?」 たちどころに電話がどもりまくった。 [ま、ま、ま、待ってくれ! そんなつもりじゃないんだ。寝入りばな起こされ虫の居所が悪かっただけで、あんたにそんな……] 〈あのバカが〉と、テレサがほくそ笑んで溜飲を下げた。周章狼狽、脂汗を浮かべ、頭を掻き掻き受話器に向かって平身低頭している小男の姿がありありと浮かんだ。 [分かりました。お引き受けしますよ。昼過ぎ、2時までに威勢のいいのを届けます] 満足の答えだったが、 「あ、ことばは分からないほうが好都合なのと、できるだけ飢えさせておいて欲しいの」 そう付け足すと、相手は怪訝をあらわしながらも、 [分かりました。しかと了解しました。 しかし……そんなのばっか集めてどうしようってんですか? なんだか面白そうですね!] また調子に乗って餌に食らいついた。いらざる詮索に「ペドには用のないことでしょっ!」と冷たく突き離すつもりだったが、 「55年前、小倉の夜の再現を、と思ってね」 それだけは答えてやった。 相手はちんぷんかんぷん、なんのことやら理解し得ないまま電話を切った。 テレサがふたたびレイ子に顔を向けた。 小休止を終え、またはじまってた。観音開きされた細脚のあちこちに硬直の筋をぴくぴくさせ、ぐしょぐしょに濡れそぼつ性器に女の手首がめまぐるしく出し入れされていた。 〈ふ。アリサは手がちいさいから……〉 せっかくのフィストが迫力に乏しかった。 それよりその白い腹にメスを走らせ、傷口から血汐を噴き出させる光景を思い浮かべた。絶叫に目を見開く断末魔を空耳で聴いた。 石嶺レイ子。そのうら若き、はつらつとした肢体。それが鋭利な刃物で切り刻まれ、無残な骸(むくろ)として血の海に横たわる。もちろん、それを手がけるのがテレサである。 「よーし。それじゃ徹底的に愉しもうか」 この瞬間、“結子の代役としての死”がテレサの胸三寸で決定づけられ、レイ子の地獄はいよいよこれからが本番なのであった。 |
|
|
| 床にUCCコーヒーやらコカ・コーラの空き缶が雑多に置かれていた。あのクソ連中どもだ。15分ほどの休憩時間に、廊下の自動販売機から買って飲んだものだった。 「もう一汗掻いてもらうわよ」 テレサが「じろっ」と見たあと、喉の乾きを潤した手下どもへは、あらためての指図。 黒マットの枷からは解放されたものの、こんどは後ろ手に縛られ転がされていた。それをまたベッド代わりのソファーに乗せられた。 そして……こんども、あのアリサだ。 観音開きの下肢を2人の男に抱えさせ、それ以外の6人とテレサには見物させ、また厭らしく、惨たらしくいたぶらるんだわ! それもテレサの胸三寸――惨い話と百も承知で、しかし訊かずにはいられなかった。 「こんどは何をっ!?」 「まだ使い物になるかどうか検査するのよ」 試すまでもないことをいけしゃあしゃあと言って、アリサには感想を求めた。 「天下のアイドル石嶺レイ子を、たっぷり好き放題できる気持ちはどんなかしら?」 「でもメイクから髪型から別人だしぃ……」 軽薄な「しぃ」ことばで、それが股間に顔を埋めてきたとたん「ストップ!」 「えっ?」 「結子とのプレイをあんたが再現してどうするのよ。舌なんか使われちゃこっちが見えないから、指を使いなさい指を!」 「そうだそうだ」と周りも同調、それを受けて「なあんだ」とのアリサの安堵顔に、 「おや? たいした自信ね。指だけなのよ」 「さっき姦ったんでツボはちゃーんと呑み込めたわ。こんどは5分で行かせたげるわよ」 大見得切って手を陰毛の土手にかけた。 また姦られるんだわ、とレイ子が観念した。 陰唇がめくられ、膣が口を開けさせられてクリトリスと尿道孔が露出された。そうしておいて指が陰唇をデリケートに愛撫した。 レイ子が「う。ひっ!」と上体をひくつかせ、白い喉が精一杯のけぞった。 もう、それだけで開いた膣が微かに震えを帯びて愛液を滲ませていた。愛撫する指はほとんど動いてはおらず、目に見えないバイヴレーション効果で感じさせたのだ。なにより潤沢な愛液の浸潤がその証拠だった。 「あ……!!」 10秒、20秒がえらく長く感じられ、レイ子の性感はじわじわと刺激され、ただそれはじれったいほどで、気持ちはご馳走のお預けを食らった欠食児童のようなものだった。 さっきは強情を張ったが、強烈な子宮への電気ショックでレイ子の理性は壊れかけていた。そのうえ「結衣ネエがあんな白人女の手管にとろかされるなんて!」との反発…… 開き直った心で〈早く行かせて!〉、〈もっと攻めて!〉と刺激を欲していた。 その間、テレサが秒針の一回りを確認した。 男のたくましい腕で観音開きに拘束された細脚の、ふくらはぎも太腿も筋立ち、硬直の筋が電気を受けたようにぴくぴくしていた。 「あっ、うーっ!」 淫らがましく開いた膣孔から淫水がだらしなくしたたった。それを見届けるやアリサの指は移動を開始した。5秒、10秒後にはクリトリスを、尿道孔を巧みに愛撫していた。 「あ、むうっ!」 一瞬のよがり声。その刹那、また〈結衣ネエの面影が……〉よぎった。が、しかし…… 快楽には勝てなかった。本能が愛液を発散させた。2分経ってしたたる淫水の濃度が増した。透明だった液がわずか白濁していた。 「くくっ、ひいっ!」 歯を食いしばって耐えるレイ子の顔が、襲いくる快感と闘って切なそうに首を振った。子供がむずがるようにいやいやをした。 2分30秒。性液は白濁を濃くした。 クリトリスは倍以上にも勃起し、身体中の性感がすべてそこに集中したかのようだ。 3分。愛液のしたたりの頻度が増して、あたりには濃厚な性臭がただよった。固唾を呑んで見守る男たちの、その沈黙を破って、 「ひっ、いやああーっ!」 だが拒否ではない。その表情は薄目を開けて恍惚とし、茫乎とし、額も頬もうっすらと汗ばんで凄艶たる様相を呈しはじめた。 アリサがなだめた。子供をあやすように、 「いいのよ。恥ずかしがることないのよ。ここまできたら正直に気持ちを表さなきゃ。さあ、思い切り泣きなさい。濡れなさい」 呼びかけが呪文となり、麻薬となってレイ子はアリサの性戯の虜となっていった。 4分過ぎた。後ろ手縛りの上体を蛇のようにのたくらせた。そして敏感な核と小孔を攻める指の動きが大胆さと貪欲さを増した。 40秒……45秒……絶頂は近い! 全身を快感の嵐が吹き荒れた。背中をひと筋、氷のような戦慄が貫いた瞬間、しなやかな裸身のところどころに硬直の筋を浮かべ、電気を受けたようにぶるぶるっと痙攣した。 全身から力が抜けていく。がっくりと首をうなだれたレイ子の膣孔から白濁状の愛液がしたたり、一時引きも切らずにつづいた。 男たちはやんやの喝采だった。 「6分、か」 苦笑し、しかし、その性技には舌を巻いた。 〈この子も!〉と、妄想をたくましくするほどいじめてみたくもなった。 「ほら、しっかり押さえて!」 アリサが仲間に催促を飛ばした。レイ子の愛液まみれの性器に拳が突っ込まれ、その片方の手首と性器の隙間に、もう片方の先を手刀にしてねじ込もうとしているのだ。 「ぎゃああーっ!」 強烈な痛みに引き裂かれてレイ子が絶叫、後ろ手拘束の上体をのたうちまわらせた。 しかしなかなか入らない。 「痛いっ。痛いーっ!」 手こずるようすに、それはそれで面白がって沸く周囲から、さらなる野次が飛んだ。 「映画じゃずっぽり入ってたぞ」 「あれも、結局フェイクだったってこった」 嘲笑混じりの冷やかしをさんざん浴びせられ、汗まみれで苦悶するレイ子がいた。 そこへタオルを投げたのはテレサだった。 「いくらあなたのだって、ダブルフィストはこの子にはまだ無理よ。プッシーはわたしにまかせなさい。それよりあなたは……」とテレサが耳打ちした。 2人のやりとりを見ながら、レイ子がいい知れぬ不安に怯えきった。 「オーケーオーケー」 アリサが指で丸を描いて返すと張り切った。 腕まくりするのさえまどろっこしいとばかりに、ブラウスを脱いで豊かな胸のブラジャーの半裸になって、左手を拳にしたら、 「あれ? 利き腕は右じゃなかったか?」 「バカねえ。お尻に入れるならすこしでも小さい方でなきゃダメじゃん。だからよ」 仲間の愚問をコケにして屁でもなかった。 「いや、お願いっ! それだけはやめてっ! どんな拷問にでも甘んじるけど、うしろは、お尻だけは勘弁して! 許してぇ……」 身も世もあらではの泣き顔で抗い、その反応のあまりにアリサは何事かさとったようだった。それで「手袋をしたほうが」とのテレサの助言をあっさりと振り切ったのだった。 ああ! やっぱり、この女には……! その絶望をよそに頭が下に、反対に腰から下が持ち上がった。脚を持つ係が、肛門責めを容易にするよう尻を高くしたのだった。 「待って。ヴァギナに集中するよう……」 テレサがさっき猿ぐつわに使ったタオルをていねいに伸ばし、それで性器を隠した。 「いやあーっ!」 必死の抵抗も無駄だった。2人の屈強な男たちに両膝を抱え上げられ、押さえ込まれたうえ、腰の下にも何か突っ込まれた。 広口瓶が出され、アリサは手刀にした左手の先を遠慮がちに漬けた。そうして中指1本が易々と挿入され、つづけて人差し指も楽に入って入り口をほぐしにかかった。 「いや。いやぁ……」 「イヤだと言ってこんだけ入ってるじゃんよ」 からかわれ、ぐちょぐちょ責めたてられ、レイ子は弱々しく首を振った。 指2本が肛門括約筋をほぐしにほぐし、いったん指を出すと、あらためて親指を中心に5本の指を1か所に集中、円錐形に尖らせた。 ここでテレサは、おのが日本通を流暢な日本語だけでないことを見せつけた。 「手で作る影絵の……」と思い当たった。 「そう! キツネ。ただしこうすれば、ね」 円錐にした5指から、小指と親指を立てて「コンコン!」とお道化て見せ、それをまた耳無しキツネに戻し、右手で添え木するようにして小尻の谷間の割れ目近くの小孔に―― 「ううっ! あっ、はっ……!」 人の字の頭をおおきくのけぞらせた。 肛門を押して痛みがゆっくり拡大していき、 「いやっ、いやだぁーっ!!」 ショートヘアーの頭を振って叫んだ。 器用に尖らせた手の先が、わずかばかりのローションの滑りに助けられ、まずはずぶずぶっと3センチほど挿入された。 「おおっ!」 「拡がる拡がる!」 痛みが強まった。さらに痛くなり、耐えがたい苦痛! と、それがすっぽ抜けた。 「ああっ、やだっ!」 体内に入った異物の狼藉を感じて叫んだ。 ピストン運動が開始された。耳無しキツネが、出てくるときには拳になって、拳のいちばん太いところで肛門を痛々しく拡張した。 「大きいっ!」 「これなら俺のが2本は入りそうだぜ!」 「いやっ。むううーっ!」 泣き顔、涙声で、羞恥に横にそむけた顔をぶるぶる震わせた。肛門愛液にまみれて出し入れされるアリサの手首と拳の残酷さ、卑猥さにテレサは息を呑んでことばもなかった。 他方アリサは、粛々とアナルフィストを遂行し、規則的な出し入れに、レイ子の肛穴は開いたりすぼまったりを繰り返していた。 膝を抱え、腰を支える男たち以外は、アリサの横に屈んで手首を生えさせたアヌスを凝視して観察に集中、生唾を呑んでいた。 「こいつ、やっぱ、ド変態女だぜ!」 「さすが、鬼畜SMに出るだけあるな!」 「なにがポリティカル社会派ムービーだよ!」 「つぎは変態アナル探偵かな!?」 そう言ってドラム缶を転がしたようにけたたましく癇性な笑い声を飛ばしまくった。 レイ子は、嘲りと屈辱と苦痛に必死に耐えた。直腸深く出し入れされる異物レイプの恥辱、汚辱、いつ終わるとも知れぬ絶望…… 突然ピストン運動が止まった。 「どうしたの?」 テレサの疑問に、「いい」とも「ダメ」とも答えかねる、といった風だ。ただ、その間にも器用に尖らせた手の先は強引に硬い秘部の通過を目指し、レイ子を苦しめつづける。 「あ、うーっ! いやっ!!」 錐で刺されるような痛みがつづいていた。 「やだっ。痛いーっ!」 嗜虐に口元をゆがませ、つぎには表情までも強ばらせ、アリサはなおも力を込めた。テレサとておなじだ。みんな垂涎の思いだった。 また手が暴れた。レイ子の奥で、刺すような痛みが拡がった感じがした。 「痛いっ。痛いぃーっ……」 頭を振り振り、背中を浮かせたり、身をよじったり、苦しまぎれののたうちまわりが、またダンスを踊っているように見えた。 アリサが添え木の右手に渾身の力を込めた。強引に突いてレイ子に悲鳴をあげさせ、それを見てテレサが嬉々とした。愉悦しながら、 「S字なのよ。あなた、さっき見た感じでは拳のいちばん太いところは5センチ、いや、それ以上はあったわね。だいじょうぶ?」 エスジって何よ!? と、レイ子はあらたな不安に怯えた。そしてその瞬間にはそれまでで最大級の痛みに直腸の奥がつらぬかれた。 「ああっ、やめてっ! ぬ、抜いてっ!」 局所を襲う激痛は耐えがたいほどだった。 「うっ。うぐうっ!」 歯を食いしばって、口をへの字にした。 すこしずつすこしずつその部分をおおきく押し拡げられた。円錐形になった片手1本、他方、苦痛といっしょに呑み込もうとしている身体の一部。そこがまた開いた。 「うーっ、ああっ。ひいっ!……」 苦痛のあまり額に脂汗を滲ませている。その凄艶。残虐…… たまりかねたテレサにショートの髪をつままれ、引っ張られた。 「ふかーく息を吸って、それから吐いて。それで肛門が開くこともあるから、S字だっておなじよ。さあ、やってみなさい」 「いやっ。これ以上奥に入れられるなんて!」 アドバイスを拒否した。 「バカっ。身体を痛めるのがいいっての?」 「えっ!?」 身体がどうといわれ、とたんに焦った。 男たちがまた沸いたが、そんなものは耳に入らなかった。 また結衣ネエに会いたい。結衣ネエと生きてくため、すこしでも傷つかないよう、すこしでも無事でいて、このド変態行為を終わらせたい。たとえ、明日切り刻まれて殺される運命だとしても、きょうだけは…… すーっ、と息を吐いた時、開くのが分かった。同時にアリサがにやりとした。つぎの瞬間、アリサの腕がずるっと深く挿入―― 「おおっ!」 「抜けた抜けたっ!」 男たちが歓声をあげた。 「あ、あぁぁぁぁーーっ………」 3オクターブも上がったかという悲鳴が、しかし弱々しく聞こえて肘が、その肘もアヌスの穴をとおって体内に没していった。 「いやぁーぁぁ……! ああっ! あっ!」 悲痛に、切ない声をひびかせて後ろ手拘束の上体をよじった。背中を浮かせて暴れた。蛇のようにのたくりまくった。 その腕を引く。 と、S字をとおる苦痛。 それが引いて、つぎにはまた押してS字を突き抜ける苦痛。 押して、引いての繰り返しでピストン運動が、拳が体内を行き来した。 「あ、つぅーっ!」 あんなに痛かったS字貫通の苦痛が2回目より3回目、3回目より4回目、そして4回目は最初の時よりずいぶん楽に、というようにだんだん馴れていった。 そしてそれを見物する男ども―― 性器はタオルで隠され、手首を生やしたアヌスフィストなどに新味はなかったが、それが手首どころか、肘を、二の腕も没して肩まで届かんとすれば興奮もひとしおで、 「もっとやれっ!」 「ぐいぐい突いてぶっ込めっ!」 「クソアマのハラワタなどぶっ潰せっ!」 男たちはボクシング観戦でもするように、しかもいまや超人気アイドル石嶺レイ子を生贄としたアナルディープフィストファック生板ショーに発狂、驚喜しまくった。 「いやっ、やだ!」 S字を突き抜ける際のおぞましさ―― 「誰か、たすけて……」 腹の中を往復する擦過感―― 「怖いっ! やめてっ!」 さらにお腹の深奥部を突き上げての鈍痛。 何かが捩り合わされ、無理矢理突き上げられる異物感で嘔吐をもよおすようだった。 と、その時、周りがひときわ沸き立った。 「ひゃはーっ! 見ろよ、おい!」 「うん。マン毛の上に拳の形が浮き出てるな」 「すげー! すげー!」 男たちのはやし立てにレイ子はがっくりと肩を落とした。 「やめて、やめて……」と、お腹の奥深く、女の細腕で串刺しにされながらうわごとのように哀願を繰り返していた。 茫乎とした目にテレサの姿が――。 軍服の上着を脱いだ。 暗緑色の軍服の下は同系色のシャツで、ボタンをはずした袖を両腕ともおおきくまくった。そして両手に手術用ゴム手袋をはめた。 アリサの手は今も二の腕まで体内深く入ったままで、いびつな姿勢のまま右に寄り、空いたところにテレサがきて腰を深く屈めた。 何がおこなわれるかは想像ついた。 嗜虐に憑かれた目と、笑った口元がそのことをあらわし、レイ子は弱々しく首を振った。 「やめて、非道いことはしないでっ!」 「あら。コレをすることはあなたのためなんだから」 おためごかしに何をふざけた口上をのたまうのかと思った。大柄な白人女が男のような大きな拳を、出産経験もない二十歳そこそこの女の膣に突っ込むどこが「ため」なのか。 分かってるのかどうか、男どもはクスクス笑ってるがアリサは笑わなかった。怪訝がその顔にありありと出ていた。 手袋の指が突っ込まれた。 「痛いーっ!」 レイ子が痛さに叫んだ。 片手で2本ずつ、合計4本の指で性器が強引に拡張された。がばっと、指と指の間に空洞ができるほど陰唇を開けさせられた。 男の一人がペンライトで照らした。 我も我もと寄ってきて、一人と一人の間に別の一人がというように折り重なって開かれた中を、ライトで照らされた膣奥を凝視した。 「これもすごいや」 「ここにあの社長のチンボコ食わえたのか」 「どうりでイヤらしい口してるわ」 「それだけじゃないよ」と、アリサが窮屈な姿勢に耐えて突っ込みを入れた。 「結子とのプレイでは何を入れて遊んだやら……すくなくとも拳ではないようだけど」 テレサがこう付け足した。 「それも今夜までよ。今夜あなたはわたしによって、フィストファックどころかフスファックやスカルファックまでできる身体に改造されるかもよ。フフ、フフフ……」 不気味な笑い声を聞かせた時、手下が広口瓶をかたむけ、ひんやり、ぬるぬるした液がテレサの手にもレイ子の開かれた性器にも降りかかった。 「イヤアァァーッ!」 目を見開き、声をかぎりに叫んだ。 片手で押さえたまま、片手が手刀になって先を入れてきた。が、指3本までで、それが第一関節のところで引っかかって、それ以上先には進めなかった。 「ううっ、ヒイッ!!」 痛さにのけぞった。後ろ手拘束の上体を蛇のようにのたうちまわらせた。 「きつい! きつすぎて、まるで10歳かそこらの子供のようだよ」 「ボスの手が大きすぎるんですよぉ」 アリサがレイ子の弁護のような、テレサへの冷やかしのような、そのどっちにも取れる茶々を入れて可笑しがった。 「いやっ、やめてよっ、だめーっ!」 上体ばかりか腰から下も、不自由は不自由なりに暴れさせたところ、戒めがゆるんで知らずに蹴りを入れていた。 「きゃっ」、「わっ」と、思わぬところで悲鳴があがって、テレサの逆鱗に触れた。 「しっかり押さえて!」 「すんません」 「こいつ、ボスになんてことを……!」 「バカ。あんたがしっかり押さえないからよ」 テレサは手下のほうをこそ叱った。 といって、アリサにつづいて額を蹴られた意趣をちゃらにするつもりもなかった。 「さっきの威勢をプッシーで発揮しなよ」 アリサの気の利いたセリフにほだされ、アリサのアヌス貫通にならって、テレサは自分でも手を“耳無しキツネ”にしてみた。その尖った先を割れ目に押し込んだ。 「うあっ、痛いーっ!」 下からアリサが助言した。 「ほら。さっきの要領でやってみな。深呼吸するんだよ、おおきく息を吸って、吐いて」 そうだ、と思い出した。 割れ目を無理矢理開かれる痛みのなかで、懸命にさっきのコツを思い出そうと努めた。おおきく息を吸い込み、精一杯吸い込んだ息をつぎにはゆっくりと吐いて深呼吸した時、痛みが開いていく感じがした。 「ああっ、いっ、あ……うっくうっ!」 またのけぞった。 「ほら、深呼吸……」 アリサの声が痛みのむこうでかすんで聞こえた。 尖らせたテレサの拳が――大の男顔負けの拳のいちばん太いところがレイ子の性器を全開させて押し入り、悲鳴が頂点に達した。 破壊的な激痛に見舞われ、男の腕で高々と掲げられた両脚がばたばたと空を蹴り、爪先が力んで宙を掻いた。 「ギャアアアーアーアアアッ!!」 性器はいっぱいに開ききったまま、激痛も弱まるどころか頂点をきわめたままだった。ぱんぱんに張り切った陰唇に阻まれ、テレサの拳はいちばん太いところで止まったままだ。 「抜いてっ! 壊さないでっ!」 「吸って、吐いて……」アリサはさっきから、まだそれを繰り返していたのだった。 レイ子が我に返った。 気持ちを集中して深呼吸に努めた。 〈結衣ネエ……!〉 愛しい人の顔を思い浮かべて頑張った。 激痛が鋭さを増した。きりきりと引き裂かれる痛み。あと1ミリ拡がったら確実に裂けて血を噴き出すかも知れない! その恐怖感にとらわれた時、身体が金縛りに遭った。 いや、肩と腰も押さえられ、身動きのかなわない状態で亀のように頭だけ振って泣き叫んでいたのだった。 不意に痛みが遠のいた。 「おおっ!」 「すごい、入った入った!」 その沸き立ちを聞いた時、痛みの遠のきのあとに意識までが遠のくのだった。 拳が激しく突かれ、サンドバッグのように打ち叩かれ、子宮もそれ以外の内臓も突き上げられて泣き叫び、涙を散らし、薄れゆく意識のなかで「結衣ネエ」「結衣ネエ」と何度もその名を呼んでいたのだった。 目の前に虫の息のレイ子が横たわり、ブラジャーだけのアリサの上半身、裸の肩近くまでがぐっしょりだった。 「便もなく、きれいなものねえ。インテシティナルジュース(腸液)だけだなんて……」 「でしょう? そういうことですよ」 アリサが意味ありげな笑いを浮かべたが、男たちにはその意味が分からかった。 「愛しい結子に会うのに家で浣腸して、お腹をすっかり綺麗にしてきてたってことよ」 「げっ!」 「ということは……!?」 その素っ頓狂なリアクションにこそレイ子と結子のプレイの実態が秘められており、テレサはそれを残虐ショーの暁光ととらえた。 「どんな変態プレイなのかしぼりあげて訊きただす恰好の拷問ネタができたってわけよ」 そうほくそ笑んだ彼女は、日ごろ持ち歩く小外科ケースを開いて注射器を取り出した。 「いつもの麻薬じゃなくてわるいけど、あなたはパーティーの生贄となる大事な身体。開宴までに英気をやしなってもらわなくちゃ」 そう言って血管を浮き出させ、適量の鎮静剤を打つのに5秒とかからなかった。 「これで午後までぐっすりよ。お休みなさい」 「わ、た……」 レイ子が何か言いかけたがことばにならず、うつろな目になり、その目も静かに閉じて2分と経たず、やがてすやすやと寝息をたてはじめた。 |
|
|
| レイ子の運命を狂わせた夜がしらじらと明け染めて…… 「さあ、行くわよ」 テレサが合図を送った。 運転手以外は先に帰され、レイ子は残りの男2人に運ばれ、荷物同然にダンボール詰めされ、4WDの荷台に積み込まれ、アリサに付き添われた。 車のもう1台が、テレサお気に入りのトヨタ社製ランドクルーザーだった。 「運転が上手なのはどっち?」 手を上げたほうを手招きした。 「わたしと乗って先導して。で、どのぐらいで着けるかしら?」 運転手は道路地図を開いて一時にらめっこした。 「はじまるのは夜ですよね? どんなに混んでたって昼には着けます。まかせてください」 運転には熟練らしく太鼓判を押した。そして後続車の相棒と示し合わせた。 「日光街道だぞ。ほかのコースは取らない」 相方がうなずいたのを確認、4WDのアリサに目顔を送ると、テレサは勇躍ランドクルーザーの助手席に乗り込んだ。 「あなたたちには別の獲物を用意するから」 また柄にもなく美味しいセリフを吐いたものの、きょうは結子関連で女だけだった、とあとのことばがつづかず――否、ひとつだけ特別な余興を飛び入りさせたんだった。ただ、それも、下っ端連中には関係ないことだが…… 「じゃ、行きますよ」 運転手の確認に、テレサは黙ってうなずき、そして…… V型8気筒のエンジン音を吹かし、ランドクルーザーは北に向けて走りだした。 空は晴れていたが後続車の荷台に眠る石嶺レイ子の命運は巨大な暗雲のなかにあり、凄惨な死を前提として風の中に揺らめくはかない灯火でしかなかった。 |
| ●本作品はすべてフィクションである。 ●実在の人物、実在の企業、実在の団体名などが登場したとしても、それは事実とは関係ない。 |