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第二章 飛翔篇






第2話 淫 画


 ベッドに大の字に寝かされた香奈は手首足首を縛られ、スリップ1枚の姿だった。それも股間の陰毛がうっすらと翳って見えるほどのスケスケ下着――。
 その薄衣の肩紐が外され、胸元がはだけて少女の微乳がぽろっとこぼれた。白い肌の緩やかな稜線の頂きにピンクの突起。乳首の付け根には先に受けた拷問痕が痛々しく赤く残っていた。
「かわいいオッパイ!」
 響子と八重子が、しかし、あの、目も醒める原色のレオタードは、安手の収容所モノSMビデオで見る無国籍なカーキ色の軍服に変わっていた。
「どうやら身体に訊くしかないわね」
 小型のアタッシュケース大の装置を抱え持って近づく八重子オーナーも、すっかり映画かAVの女兵士になりきっていた。
「な、なんの真似よ!」
 とっさに身を浮かしかけたが、きついベルト拘束でどうにもならなかった。

「いったいこれは……?」
 新発田ですら事情を知らないようだ。
 さっきまでの天井の高いガレージだか倉庫だか分からぬ場所が、今はベッドが一つあるだけの密室の向こう側と、マジックミラーを備えた覗き部屋のこちら側とに変わっていた。
「ビデオを撮っているんじゃよ。ほれ、このシーンの前に当たる場面がこれじゃ」
 やにわにリモコンスイッチを押す小渕。すると鏡のそばの大型テレビに映像が映った。

 いきなりスカートを大きく捲りあげられ、ピンク色の陰唇が剥き出される場面が飛び出した。
「やだっ……こんなのひどい!」と、香奈の叫び顔。
 だが、怯えれば怯えるほど男の暴力は、そのボルテージを最大限に増していき、歯止めのつかない責めが香奈の未経験な体を容赦なく責めたてる。
 男の〈がさつ〉で、ざらざらした指先の動きが敏感になっている大陰唇を掴むと、ひっぱるように広げる。
「うっ!……やっ!」
 全身に走る痙攣が、意志に反して体中の細胞をたたき起こして反応しているかのようだ。
 バタつかせようとする香奈を押さえ込む30歳代の女の顔。それとは別に微妙なカメラアングルで顔は見せぬが、ゴツゴツした2人分の両手がうごめき、指を秘裂に潜り込ませると、ぬめりをたたえた陰唇をめくり上げた。
「やああーっ!」
 悲鳴と共に画面が静止画になった。

「こ、これは!?」
 新発田が絶句した。
「そうさ。わしとあんたと死んだ渡辺、そして顔まで映っていた玲奈とで、あのガキをいたぶった時のビデオさ、知らなかっただろう」
 新発田が感服するやら、たじたじとなるやらしたが、「それなら」とばかりに訊いた。
「鳥姦モノの凄い処刑があったとか」
「ああ、あれか。あれはミウというディド企画専属の女戯作者の発案でな。だが、船上セレブパーティーだったから写しとらん」
 憮然と答えたら新発田が痛く落胆した。
「それにしても、こんなヤバイ代物……」
「むろん日本以外の話じゃよ。外国にはこんなのを“喉から手”で欲しがる奴がいくらでもおるでな」

 響子の手が香奈の乳房を掴み、微乳の先を押し出し、それを受けて響子がつんと突出したピンクの乳首に、装置から引っ張った2本のコードの先のピンジャックを当てた。
「きゃあっ!」
 香奈が目を見開いて卒倒した。
 ジャックの先ではさみ付けられた自分の乳首を見ながら、苦痛の叫びを上げ続けた。
「痛いっ、痛い痛いーっ!」
 顔をしかめて暴れ狂う。
「痛いだけ? 熱くはないの?」
「熱いです。痛くて熱いーっ! 堪忍して。やめてください。助けてっ!」
 響子に乳首責めを独占させ、八重子は香奈の腰にまわった。
 手術用手袋の指が2本まで挿入され、それを呑み込むように、押し返すように複雑にうねる淫靡なピンクの肉ザヤ。
「ううーっ!」
 香奈が顔をしかめて身悶えした。
 ゆっくりと抜き出された八重子の指が、破瓜の血でぬめぬめと光った。
「まだ、ネンネだったのねぇー」
 スリップの裾を大きくめくり、繊毛の中心に息づくピンクの秘貝を剥き上げた。
 摘んだり広げたりという下方のイタズラに香奈はまったく気づかぬようすで、ただ乳首の痛さに、しかめた顔を振って呻き立てていた。
 八重子の性器虐めはますます大胆になった。
「ち、千彰は。千彰ちゃんはどこに?」
 サディスト女たちは香奈の反応など無視して芝居に専念した。
「麗羅。あなたなら、どう責める?」
「拷問といえばあれしかないでしょ、環」
 役名を名乗り、決められたセリフを喋った。
 だが、段取りを無視した香奈のセリフはどうなるのか。

 覗き部屋の大型モニターには、若い女性器が大アップとなっていた。ライブ映像としての香奈の局部が、ぬちゃぬちゃ、ぴちゃ、と淫らな水音をたてていた。
「さっきのガキのセリフはまずいだろ?」
 新発田が突っ込みを入れたが、
「バカ、吹き替えればすむことじゃないか。毛唐向けビデオと言っただろ。要は苦しがるようすや声がライブで伝わればいいんじゃ」
 相手の頭の悪さをたしなめて一喝した。
「少し黙ってろ!」
 新発田のバカのお陰で、香奈を助けたい一心でなにか言いかけた千彰までもが口を塞がれた。

 響子が香奈の上に覆いかぶさった。
 はだけたスリップの胸元を掴み、ビリビリっ、チリチリチリっと女とは思えぬ力で一気に引き裂き、破り、左右に払った。
「ひっ、やっ……」
 無意識に身体を縮めた時、ぎりぎりっと手首と足首に革紐が食い込んだ。
「こんなことしたくないのよね」
「でも、これが掟よ」
 芝居用のセリフが呟かれ、一つ、また一つとコードの先のクリップをピンクの秘唇にはさみつけた。セリフは芝居でも拷問はリアルだった。
 スイッチの音。
 香奈が喉と頬をぴくっとさせた。
 響子の手がダイヤルを回し、
「うわぁーん……あ、ああ……いやあー……」
 消防サイレンの鳴り始めを思わせる悲鳴の上がり方――電圧の上昇によって徐々に徐々に大きくなっていくそれを響子が愉快がった。
「くっくくく……」
 嬉々として電圧の上げ下げを繰り返した。
「ううー!……あ、ふうー……」
 声ばかりではない。電圧の低下で硬直し、突っ張っていた大の字の全身がだらりと力を失い、逆に上昇によって苦痛も息を吹き返す。
 また、ダイヤルを上げる。と、
「あ、ああ……うああー……!」
 苦悶の上昇につれて左右に広げた四肢も腰も上体も、スルメが火で炙られた瞬間のように上向けて反り返るのである。
「どう? 感じるでしょ? オマンコに電気を通される感じはどんな?」
「ああっ、やめてっ。やめてくださいっ!」
 ひたすら顔をしかめて首を振った。
「ダメよー、白状しないんじゃ」
「は、白状って……! ぐっ!」
 一瞬、香奈が棒を飲んだ表情になったが、響子の手は大きくひねられていて、
「ギャアアアーッ!!」
 股間を中心に小刻みに激しく痙攣し、今度の香奈の絶叫は惨たらしく数秒間続けられた。

「香奈を助けて!」と叫んだ千彰はたちまち張り飛ばされた。
「二度はいわん。わしの邪魔をすればおまえとて容赦せん。その際は楽に死ねると思うなよ」
 さっきまでのやさしげな顔とはうって変わった鬼のような顔と声だった。
「しっかりと押さえて今後は一言も喋らすな」
 新発田に注意し、床に置かれたカセットコーダーのスイッチを入れた時、あらかじめ録音されたであろう小渕の声が流れた。
「どうだ、親友が責められる姿を見るのは。こんなことされながら見物するのは……」
 その小渕のセリフのあとには淫らなよがり声。
「あ……ああ、あーあ……」
 誰かに吹き込ませた擬似声を向こうの部屋に届かせた。
「ほら、もう、こんなに濡れている。おまえも、もうすっかり大人の女だな」
「ああ……あ、ああ……」
 千彰は愕然となった。まやかしの録音をじっと耳にする香奈の目から失望と憤怒の涙が落ちるのをはっきりと確かめて……。

 香奈が目を見開き、わなわなと口を震わせた。装置のスイッチは切られ、代わりにダイヤルをどんどん回している。いったい何ボルトまで上げたのかは知らないが、手が止まった時、
 カチッ。
 スイッチの音、同時に――
「ギェェェエエーッ!」
 痙攣と絶叫。が、一瞬だけのことで、またガクッと身体がベッドに沈んだ。
 そしてすぐまた、カチッ。
「ヒイイーッ!」
 空気を裂く悲鳴。股間を中心に痙攣。
 太腿、ふくらはぎの筋がぴぃーんと突っ張り、それがブチぎれるかと思った時にスイッチが切られた。ベッドがドッと音をたてた。
 ぜいぜい、はあはあ……激しい喘鳴音。
「や、やめて。助けて……」
 香奈が息も絶え絶えに哀願した。が、こんどは友の名は呼ばなかった。マジックミラーと覚ったはずの鏡の方にも向かなかった。
 響子が顎をしゃくり、部下を演じる八重子が「はっ」とかしこまって、香奈の口に猿ぐつわにするボロ切れを詰め込んだ。
 カチッ、カチカチっと、こんどはめまぐるしくスイッチが操作された。
「ムガアッ!」
「グゴアアアーッ!」
 ほんの1秒か長くて2秒程度だが、凄い形相と断末魔の絶叫じみた呻き声を発し、大の字の全身を精一杯のけぞらせ、のたうち回らせて苦悶した。
 その間、スイッチ操作する響子はもちろん、じっと佇んで見物する八重子の目も異様に血走り、口元には恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ヒッ」
「ケエエーッ!!」
 固く握りしめた手や硬直して丸まった爪先も汗でつやつや光りだした。額にも首筋にも汗が浮き出し、それは電撃による拷問地獄の凄惨さをなおいっそう際だてる視覚効果ともなった。
「グエエエエーッ……!」
 背中を弓なりに反らせた香奈の目が、また涙を溢れさせた。こんどは長いが、変圧ダイヤルは2秒を超える直前で逆にひねられ、それと連動して痙攣も悲鳴も弱まった。
「ううっうー……!」
 ホッと安堵したような香奈の表情を確かめた八重子が猿ぐつわを解いた。
「痛い? 辛い?」
「ひいっ、えーん、うっうっうっ……」
 答の代わりに子どものような泣き声――。
「さあ、まだまだ続くわよ」
「うう……うううーっ! ひいっ、くふー!」
 微妙にダイヤルがひねられ、悲鳴と苦悶に強弱が見られた。だが、どんなに暴れても悶えても、性器にはさみ付けられた電極が外れることはなかった。
 スイッチを切り、また電圧を上げた。
「行く? 行かない?」
 響子がスイッチに手を触れる、触れないのジェスチャーを仕掛けての謎かけだった。
「や、やめ……やめ……ギャアアアッ!」
「可愛いそうねえ。今度はどう? どう?」
「い、い、いや、ギエエーッ!」
 気まぐれなスイッチ操作。悲鳴の瞬間、ぶるっと振った額から髪から汗が飛び散った。
 ぴーんと突っ張ってブルブルブルブル震える脚も腿も腰もびっしりと脂汗を浮かべていた。
「そろそろ“電気解剖”に行かない?」
 それまで見物に徹していた八重子の口から怖ろしげな言葉が飛び出し、響子が頷いた。
 ベッドの四隅に回ってベルトを解く八重子。響子はアタッシュケースよう装置の収納部からドライバーを数種取り出し、金属部分にコードの先の電極をはさみ付けていった。
 八重子を手伝い、汗びっしょりでぐったりした香奈を起こし、ボロ布と化した下着を取り払うと小柄な全裸肢体を後ろ手に縛った。
「性器を電流で解剖するのよ」
 後ろ手に縛っておいてずるずる引きずり、腰がベッドの縁にきた位置で止めた。膝を曲げて観音開きし、協力し合ってベルト拘束した。
 八重子が性器の左右に両手をかけ、指先に力を込めてピンクの赤貝を開いた。
「怖いっ」
「痛いのは最初だけよ」
「いや、やー……!」
 悲鳴のあいだアヌスに1本、複雑にうねってぬめりを湛える膣孔に1本、余った1本は下に置いて、極細身の2本を両手にかまえた。
「あ、あ、あ……ひいいいーっ!」
 器具の先が陰核を摘んだ。
「ぎやああ……っ」
 くくくっと笑いながらひねった。次に力を加え、悲鳴が「ぎゃっ」と甲高く響いた。
 八重子の手指が器用に陰唇を開き、クリトリスと尿道孔がより露わとなった。
「ひやっ、ああうーっ!」
 後ろ手に縛られた上体がヘビのようにくねり、羽を広げた観音開きの両下肢もガクガク震えた。獲物に食いつく2匹の女獣。香奈の性器をはさんで電流でいたぶる響子と八重子。
「ひいーっ!」
「まだよ、もう少しよ」
 1本はクリトリスを捉えたまま、残る1本の先が移動し、尿道孔に触れた。
 狂ったように首が振られ、
「キヒイーッ!」
 強烈な悲鳴は強烈な苦痛が香奈を襲った証明でもある。観音開きの下半身が暴れ、ベルトがきつく食い込んだ。手も必死に握り締められた。
 十字の先が慎重に秘孔への侵入を図る。
「ひええーっ! ひゃああーっ!」
「我慢しなさいねー」
 八重子は電圧の微調整に余念がなく、響子のドライバー責めは慎重を極めた。
 2分……3分……香奈の反応にも微妙な変化が見られた。
 悲鳴が弱くなり、声に甘美さが加わった。
 ドライバーの先を食わえた秘孔から、じんわりと秘液が染み出した。赤貝の中心からも粘度のある愛液。八重子がすっかり面白がった。性器をぱくぱくさせた時、愛液が糸を引いた。
「イヤらしいニオイさせてる」
「身体はネンネでも発散するものは一人前ね」
 響子がクリトリスに当てたドライバーに力を込めた。
「ひいっ!」
 目を剥いてのけぞる香奈。
 その時に、たらたらっと尿道孔から淫液がドライバーを濡らして滴った。
「うああっ!」と後ろ手縛りの上体をよじった時、淫液のしたたりが勢いを増した。
「馴れてないから反応が激しいこと」
「しっかり押さえて」
 八重子が身体ごとのしかかり、響子の持つドライバーの先が尿道へかなり入り込んだ。
「ひえーっ!」
 香奈の上体が大きく揺れた。
 その瞬間、尿道に入り込んだドライバーの金属部分を伝って秘液が勢いを込めて滴った。
「あーあーあー……ううーん……」
 悲鳴がよがり声となって反響した。

 小渕がニヤリと口元をゆがめた。
「小娘め、電気の味を覚えおったわ」
 横の千彰に一瞥をくれた。
〈まさか!〉
 千彰は頑強に否定した。だが……
 固く握り締めた観音開きの爪先が奇妙にひきつれ、不揃いな格好に突っ張った。
「ああっ……うーん!」
 魔か、妖か、さっきまでの少女の苦悶の顔が娼婦のように恍惚とし、その口元は陶然と笑いかけているようでもあった。

――香奈、狂ったの!?

 千彰でさえ、その時そう思ったほどだった。



*     *     *



 小渕が千彰と新発田を交互に見た。
「この続き、どうなると思う?……わしは賭けてもいいぞ。この娘はわしだ。あっちの娘は死んだ渡辺だ。おまえが言ってた通りならわしはおまえに撃たれてやろう」
 自信たっぷりな物言い。
 千彰が“ピーン”ときた。
 ここまでの回りくどい責め折檻は、結局千彰、香奈2人を試し、友情よりは我が身(小渕にとってはビジネス)という結果を見せつけ、自身の潔白にたとえようとの算段だったのだ。
〈そうは問屋がおろすか!〉
 千彰は意地になった。が〈それならなぜタネを明かすの?〉と訝ってもみた。
〈わたしや香奈が心に武装するじゃん。闘志を燃やし……え? あ、そうか!〉
 やっと合点がいった。香奈に渡辺暗殺の話や、小渕、新発田の確執を教えたのは小渕側の人間ではあり得ない。とすると組織の内部に小渕を好ましく思わない者がいるということだ。
〈だったら――!〉
 千彰の心に一筋の光明が見えた時――
「よーし、次のシーンに移るぞ」
 小渕が威勢良く立ち上がった。
 2人は別々の部屋から引っ立てられ、元の広い場所に連れて行かれた。

 悪徳芸能プロ、ディド企画社員と思しき12、3人のスタッフ。ある者は三脚カメラのポジションを調整し、別の者は器材を運ぶ。
 覗き部屋にあった大型テレビも運ばれた。
 カラフルな水着の女性ダイバーが2人、泳ぎ回るには狭い水槽内を窮屈そうに遊泳していた。
「どうだ、ウチではナンバーワンのモデルだ」
 小渕がそんなことも自慢した。
 新発田は鼻の下を長くして水着からはみ出たぴちぴちの肢体を眺め、千彰は倉庫かガレージか分からぬそこの高い天井を仰ぎ見た。
 クレーンは相変わらずデンと横に構えていたが、人間水槽は天井部分がなくなっていた。
 床にコの字の拘束台。それに香奈が寝かされた。コの字の空いた方に足首が、その反対側に手首がベルト拘束され、手足は×の字を描いて鉄製拘束台にしっかりと固定された。
〈何が始まるんだろう……〉
 得体の知れぬ不安が千彰の胸を締め付けた。
 ウイーン……
 上から器械音が聞こえ、クレーンが動いた。
 ウインチから大きなフックが降りた。撮影助手が数人、香奈を拘束した台を立たせると、コの字の繋がった部分にフックが掛けられた。
「いいぞ、引っ張れ」
「よーし」
 下と上とで声を掛け合った。
 スイッチ操作でクレーンが香奈を吊り上げ、×の字の全裸全身は水槽の高さまで引き上げられ、次には横移動で中心に運ばれた。香奈と千彰の運命を弄んだ円筒空間があった位置だ。
「香奈……!」
 たまりかねて千彰が声をかけた。だが聞こえているはずの香奈はついに振り向かなかった。
〈……!〉
 がっくりと首を垂れた千彰を、小渕が引っ張った。人間水槽のまえの特等席にソファーを据えさせ、そこへ深々と座ると千彰を引き寄せた。

 いよいよ始まる。だが、なにが――?
 香奈の足が沈み、脚、腰、腹と沈んで、微乳が没しかけたところで止められた。
 水中に脚を広げた香奈の裸身をビデオカメラが捉えた。
 その時、大型テレビにも映像が――しかも性器のアップだが、その鮮明さからカメラは水中固定と思われた。陰毛が水に揺らいでいる。
 女性ドライバー2人が華麗な泳ぎっぷりで近づいた。手はチェーンの端を握っており、その先の留め具をコの字の端に繋いだ。
「いいぞー」
 また掛け声の応酬。チェーンが左右に引っ張られ、それまで不安定だったコの字拘束台はフック固定と、チェーン固定により安定したものとなった。
 その場の誰にもただならぬ予感はあった。
 人間水槽の上から首を出した香奈にも、刻々と恐怖の時が忍び寄った。それをはねのけて気丈に睨みつけた。
「いったい何を始めようってのよっ!」
 真っ直ぐ小渕の顔だけを見て叫んだ。
 小渕がマイクを握った。
「これからおまえの処女膜開通式を行なう。しかも、とっておきの趣向によってじゃ」
 そう言うと合図の手を挙げた。
 まず、カラフルな2体の人魚が水から出た。
 入れ替わりに撮影助手の一人が、両手に一抱えもあるゴム袋を持って梯子を駈け上った。袋は黒くて何が入っているかは分からない。
 千彰の目が、響子、八重子の目が、そして2人の女性ダイバーから撮影スタッフから、その場の全員の目が袋を抱えた男を追った。
 大の字拘束された香奈の目も、胸から上を水から出して梯子を上がってくる男を迎えた。
 水槽の縁を横歩きして香奈のそばまで行くと、チャックを開けて袋を傾けた。
 一瞬見えたものに「あっ」と小声が上がる。だが、その者以外はまだ誰も気づかなかった。
 さらに袋が傾けられ、ザアーッと溢れた大量の水と共にニョロリと飛び出したもの――。
 一瞬、皆の目が点になった。
 そして「おおっ!」という喚声。
 香奈の目だけは恐怖とおぞましさに飛び出るくらい大きく見開かれた。
「いやあーっ……!!」
 悲鳴が長く尾を引いた。
 2メートルはありそうな長い生き物はぽちゃんと水に落ちると、黒と白のストライプを際だたせた身体をくねらせて勢い良く泳ぎだした。
「いやだー、こんなのいやあーっ!」
 水面から見ても泳ぎまわる生き物の正体は香奈にも分かり、ガチャガチャと激しく拘束具を騒がせ、あらん限り暴れ狂った。
「ギャアーッ!」
 凄まじい絶叫に驚き、ウミヘビは開いた足下から遠ざかると、そこで動きを止めた。
 10秒……20秒。そのままではなにも起きそうもなかった。この人間水槽の、水責め以外の恐るべき効果を発揮するのはこのあとだった。
「やれ」と小渕が目配せ――。
 助手が水槽の下部の黒い装置部分にコードを差し込み、リモコン操作を開始した。
 バチッ、バチバチッ……
 水中のそこかしこに青色の火花が飛び散り、ヘビは驚いて飛び退き、たちまち不規則な泳ぎ方になった。方向感覚が定まらないようすで、時折、香奈の脚に絡みついたりもした。
「きゃあーっ! 行って、行ってよっ!」
 悲鳴。鳥肌だつ全裸の全身。手足を握り締め、力み返った四肢にはぴくぴくぴくと硬直の筋が浮き立った。
 リモコンがさらに操作された。
 バチバチバチッという炸裂音に、ジジジジジッという電子音が加わった。
 水槽を見つめる女たちが狂喜乱舞した。
「なんなの?」
「ヘビの嫌いな電波を発しているのだわ」
「どうするかしら」
 思い思いの感想を述べ合ったりもした。
 小渕があらかじめ用意しておいた講釈をマイクを通して響かせた。
「落語の“どじょう地獄”じゃよ。
 豆腐と生きた泥鰌を一緒の鍋に入れて煮る。すると『あっちっち!』と驚いた泥鰌が、まだ冷たい豆腐の中に頭から潜り込み、それで豆腐と泥鰌が一緒の美味い鍋が出来るあれじゃよ」
 女たちは手を叩いて湧き立った。これは台本というよりリアルな興奮だった。
 当の香奈はきょとんとしたままだった。
 それもほんの一時、やがてみるみるうちに表情がひきつっていった。
「やっと分かったか。泥鰌がそのヘビで、おまえのマンコが豆腐というわけじゃ」
 小渕は得意気に続けてカラカラと笑った。
「そ、そんな……ヘビなんて、イヤッ!」
 ぶるぶる震えながら滅茶苦茶に首を振った。
「イヤアーッ!!」
 また火花が散った。無気味な電子音は激しさを増した。
 香奈の脚に絡みついた生き物は苦しそうに身をよじっている。チョロチョロと舌を出しつつ、ヘビの眼は香奈の股間を狙い澄ましていた。
 千彰が泣きそうな顔になった。
「心配するな。このウミヘビは噛んだりしないし毒もない。それにあのぬめぬめした身体だ、ペニスよりは貫通の度合いも優しかろうて」
 小渕がまるで説得力を持たない説明で答えた。
「あの短波とか音波とかは……」
「なーに、人体には影響せん」
 歯牙にもかけず一笑に付した。
 見れば、左右に開かれた香奈の脚に絡んだヘビは、舌をちょろちょろ出しながらゆっくりと股ぐら目がけてにじり寄った。
「わあーっ!」と、喚声は下から湧き起こった。
「イヤアアーッ、ギャアアーッ!」という凄まじい絶叫は上から降ってきた。
 苦しまぎれに半狂乱となってガチャガチャと拘束具の音を立てさせて足掻きに足掻いた。
 陰毛の割れ目からピンクの糸が――先に指で犯された傷のこびりついた血が、水に馴染んで溶け出したのだった。
 血のにおいにヘビが反応した。逃げ込むべき場所への警戒心に逡巡していたこの生き物は、芳しいニオイと桜色の水の花によって、すっかりそこを避難場所と決めたようだった。
 シャアアーッ!
(錯覚ではなく、誰もがその音を耳にした、そして)物凄い勢いで股間に襲いかかったウミヘビの頭部が性器の割れ目にもぐり込んだ。
 卒倒する香奈。
「ギャアッ、ウギャアアーッ!」
 のけぞり、絶叫をあげてのたうち回った。
 香奈の足掻きように、膣まで力み返って押しまくったのか、ヘビが頭を引っ込め、いったん膣からはみ出した。
 カッ、と怒ったヘビが口を開けた。
「わあっ」と見物衆の喚声。
 誰もがヘビが性器に噛みかかると思い込んだ。
 だが、ヘビはなにがなんでも潜り込みたいらしく、また突入を敢行した。
 そしてほぼ全員が大型テレビに目を移した。
 ヘビの口が隠れ、眼の部分も見えなくなり、頭部がすっかり割れ目に入り込んで、そのあとどんどん突き入った。
「ヒエーッ! ヒギャアアーッ!!」
「顔をそらすな!」
 ヘビを運んだ男が袋を投げ捨て、髪を振り乱して泣き叫ぶ香奈の顔をしっかりと押さえつけた。
「ほら見ろ。おまえのオマンコが何を食わえているかを」
「いやあーっ」
 固く瞑る香奈の目を無理にこじ開けた。必死で閉じようとする目を下のテレビに向けさせた。
「ギャッ、ヒヤッ、ヒギャギャー!」
 キチガイじみて喚きまくった時、ヘビに突き入られた割れ目からサアーっと血が噴き出した。鮮やかな赤は水に溶けてたちまち深紅の花を咲かせ、次には桜色に散った。
 小渕がマイクの声を響かせた。
「ほーれ、破れた破れた。見ろ、おまえの処女膜から流れた血の色をよく見るがよいぞ」
 千彰が叫んだ。
「やめて、やめさせて!」
 泣きじゃくり、泣き叫んで懇願した。
 その肩を強引に抱きすくめ、バスローブの胸にむんずと手を差し入れた。小渕の節くれだった手が千彰の乳房を乱暴に揉みしだいた。
「おまえはあいつとは違う。可愛いがってやるぞ。それ、どうだ、気持ち良かろうが」
 千彰は必死の体で抗った。
「イヤ! キチガイ! 悪魔っ! おまえなんか大嫌いだ! 死ね、地獄に落ちろっ!」
 あらん限りの悪態をついて抵抗した。
「香奈ー、しっかり! あきらめちゃダメっ!」
「千彰、助けてっ! いやああーっ!」
 水から出した首を振り立て、四肢をよじったり、突っ張ったり、筋を浮き立てたりしながら泣き喚き、叫び狂った。
 ヘビを呑み込んだ性器は絶え間なく血を流し続けた。膣肉を食い破られた出血のように――いや、実際そうなのかも知れなかった。
 ウミヘビは激しくのたくりながら突き入った。白と黒の際だつストライプに破瓜の血を浴びながら、さらなる女の秘洞へと突き進んだ。
 泣き叫ぶ香奈――。
 その香奈を見ながら焦りに焦る千彰――。
 千彰と香奈の自由と解放に向けての戦いが、今、この場から始まったのである。


「3.転 落」へつづく

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