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第二章 飛翔篇






第7話 処 刑


 華奢なロリータボディが照明といっしょに、めまぐるしく暴れた。その手がびしっ、ばしっと男の逞しい手によって鋲のように床に打ちつけられた。顔が苦悶に大きくのけぞる。
「いやっ、助けてっ」
 泣き叫ぶ頬に一発、二発、火の出るような平手打ちが炸裂した。
 ブラウスがちぎられ、ブラジャーがボロ布と化した。あばらを浮かべた胸の、痩せてるわりにはボリューム感のある乳房が躍りに躍る。
 必死に閉じようとする脚からGパンが下着ごと下ろされ、黒々としたデルタの陰部をさらし、腿を覗かせながら細脚がズックごと剥ぎ取られると、たちまち全裸にされた。
 痛々しいほどの細脚が足掻くが、これも男の手で床に押しつけられた。脇から別の手が伸びた。内向きに踏ん張っている膝を取って観音開きにした。
 恥辱の極みのカエルの解剖ポーズを照らしてスポットライトが一定、煌々として陰毛の性器をさらされた。
 そこへマニキュアの指が強引に押し入り、陰毛といっしょに割れ目のご開帳である。
「ひええーっ!」
 ばくっと口を開けさせられ、ぎとぎとに濡れた膣粘膜が明かりに際だった。
「や、やめてっ」
「逃げようとした罰よ。レイプくらいじゃ済まないわよ」
 そう言って、冷酷で容赦ない力を込めて、蛍の女の急所を痛めつけた。
「拷問のまえに、たっぷりと可愛いがって、あ・げ・る」
「ひっ、ギャアアアーッ!」
 絶叫が響いた時、拳がぶち込まれた。ピンクの陰唇が手首を突き立てた。それがめまぐるしく出し入れされ、騒々しい悲鳴をあげさせて残酷フィストが開始した。


 一方、朱美もいる監禁エリアの6人部屋では美紀と千彰が今日も泣きの涙だった。
 小渕組賓客である極悪三羽烏に酌を要求され、偶然見せつけられたテレビのワイドショー画面、そこに美紀の母が、千彰の父や香奈の両親も出演していた!
「死んだことになってただなんて……」
 失踪から5か月、ネットで釣って3人娘をたぶらかした男は1人だけで、男は3人を道連れに自殺したと世間では結論付けられていた。それもこれも鬼畜の小渕の差し金だ。
「香奈は知ってるんだろうか」
 千彰がぽつんと気にした。
 その隅っこではタイ人少女2人が仲良く日本語会話の勉強をし、朱美が相手してやっていた。
「ねえ、みんな」
 と陽子が呼びかけ、同室仲間の耳目が集中した。
「わたしがひどい目に遭わされた極悪シンのマインドコントロールだけど……」
 言いかけたとたん、朱美に反発された。
「また蛍のこと? あんたを裏切った奴のことなんかかばうことないよ。根性良すぎだよ」
「ううん、そうじゃないのよ」
 蛍のことは、された自分しか解らぬこと、その確信に基づき弁護の余地ありだが、その時の陽子が目的とした主張は別にあった。
「あの時、マインドコントロールが利かない子もいたわよね。たとえばみんなはどう?」
 陽子の意外に積極的な姿に唖然とすると同時に、質問の意味が分からず皆きょとんとした。
「実はこんな体験があるのよ。大学の合宿で何人かの仲間と一緒に、心理学の講師から催眠術かけられたことあるの。でもわたしだけかからなかった。そういう体験はないかと思って」
 朱美がさっきの反発などウソのように、得意顔で語った。
「わたしなんか実際のマジックショーで友だちから強引に勧められて飛び入りさせられたんだから。でも、いくらかけようとしても最後までマインドコントロールにかけることができず、結局プロの人に恥かかせたくらいなのよ」
 千彰が大笑いした。
「そんなことってあるの? ねえ……」
 とその時は単に友の同意を求めるべく向けた顔を、ハッと気づいてまた引っ込めることになった。
 だが、陽子は敢えて答をうながした。確かめたかった自分の直感とは正にそのことだったからだ。
 美紀が一時窮した。表情を曇らせ、固く唇を噛み締め、それから訥々と話し始めた。
「確かにわたしも、シンから、催眠術かけられそうになった。でも、わたしには利かなかった。それでシンは頭にきて、チャイをけしかけて、チャイが、チンパンジーのペイを……」
 途切れ途切れにそれだけ言うと、あとは肩を震わせて泣きじゃくった。
「もういいよ。分かったよ」
 朱美がその肩をやさしく抱いた。
 陽子も美紀の顔を両手に取って自分の顔に重ねた。
「ごめんね。イヤなこと話させて。でも、これで見当ついた。三羽烏とグルになって少女たちをいいように操ろうという小渕の本心が」
 香奈と人間水槽に沈められ、命懸けのサバイバルを競わされた千彰は死線を超えて一回り逞しくなった。いってみれば、その千彰とて小渕らが御しがたい存在だった。
 やがて美紀が、美紀本来の明るさを取り戻して思い当たった別の事実――。
「そういえばミャンマーにいた時、彼らが現地語を喋るのを見たことないわ。ねえ、2人共どうだった? そうじゃなかった?」
 タイ人少女も話の輪に引き入れた。
 2人は一心に耳を傾けていたらしく、質問の意味をしっかり呑み込んでいた。
「はい。あの人たちが、わたしたちに話しかけてきたことはありません」
「あの人たちが話す中国語のほかは、日本語しかきいたことありません」
 そうして美紀も千彰も陽子も、ある得心に至ることになった。おなじ部屋に、三羽烏のマインドコントロールが利かないか利きにくい者が6人いるということだ。
 美紀、朱美が顔を見合わせた。
「もしかして、わたしたち自由になれるかも」
「なれるかもじゃなく、必ず自由になるのよ」
 朱美の強い口調に励まされ、千彰、陽子、そして2人のタイ人少女を含む6人全員の顔が希望に輝いた。


 このビル全体が伏魔殿のようなものだった。大都会の中にあって人知れず存在する魔界。蛍の囚われている部屋も、その厚い壁の中のほんの一角に過ぎなかった。
「あわわ、あ、いや。いやいや……」
 目を見開いて首を振った時、平皿を伏せたような微乳が掴まれた。ピンクの乳頭をひねり出して突端の乳首にクリップがはさまれた。
「いーっ!」
「痛いのね? でも、電気が流されたら飛び上がるわよ」
 この電極クリップからは2本のコードが繋がって、それがすぐ合わさって1本になって垂れた。1個目をはめ終えるとすぐ、もう片方の乳首にも同様のクリップがはさみ付けられた。
「なぜ逃げようとしたの? 誰かにそそのかされたの? 陽子ね。陽子だと白状なさい」
 蛍は即座に首を振った。「違います」「絶対に陽子さんじゃない」と言い張って首を振った。
「ほら、これは今までの、左右の乳首一対ではなく、乳首一つに対して両極の電流が貫通するよう作られてるからね。それがどんなにムゴイ苦痛か、もうすぐ分かるわ」
「あわあわあわ……」
 蛍が恐怖に目を見開いた。
 スイッチ音がして絶叫が響いた。
「ギャアアアーッ!」
 大の字に伸ばされた全裸の全身がぴーんと突っ張って痙攣した。痙攣の激しさでカタカタカタとベッドが音をたてた。
 スイッチが切られて、激しい喘ぎが喘鳴音となって続いた。
「どう? 電気拷問の味は」
「ち、ちぎれるぅー……」
 顎をがくがくさせて、やっとのことに答えた。
「さあ、言うか? シラを切るか?」
 今度は返答を待たずスイッチを入れた。
「ギエエエーッ!」
 全身が飛び上がったように見えた。
「グギャアアアアーッ!」
 のけぞり、身悶え、のたうち回った。
 それを隣室の覗き窓から見ている目があった。
「響子姉御はこのごろ欲求不満じゃねえのか」
 小渕のダチ公、別の組の若頭新発田が拷問の凄さに舌を巻きながら論評した。
「ボスにかまってもらえないんだそうです」
「あの香奈とかいうガキか」
 それに答えて小渕の手下が何か言ったが、さらに激しい絶叫によって掻き消されてしまった。
「グギャアアアーッ!!」
 響子は嬉々としてコントローラーを操作した。のたうち回る若鮎のような少女の肢体は、音をたてて揺れるベッドの上で汗を噴き出し、ローションを塗ったように輝いていくのだった。
 スイッチが切られた。
 喘鳴をあげながらぼろぼろ涙を流した。
「いやあーっ、痛いよーっ!」
 首を振って泣き喚いた。
「陽子がそそのかしたのね。おまえに逃げろと教えたのね。言ったら止めてやるのに」
 響子の問いかけに頑として首を振った。
 またスイッチが入れられた。
「ひぎゃああーっ、ひぎゃっ、ひぎゃっ、うぎゃあああーっ!!」
 凄まじい絶叫地獄が繰り返された。
 今日に限って一人という気楽さ、開放感が仮借ない責めを容易にさせた。脱走が言いがかりなら、陽子の関与もでっち上げだった。ただ、拷問したいから責める、責めるからには拷問する、それだけのゲーム感覚でしかなかった。
「さあ、乳首がバカにならないうちに喋りな」
 また、カチッとスイッチ音。
 血を吐くような壮絶な絶叫が響きわたった。
 何度目かの中断のあと、蛍が感極まって訴えた。
「ウソだと思うならあの中国人にマインドコントロールかけさせてよ! それでわたしの言ってることがほんとうだと分かるはずでしょ!」
 捨て鉢の訴えだった。
 それを響子は冷然として聞き流した。
 口ごたえの後の制裁は熾烈さをもきわだてた。
「ギャヒイイイィーッ!! グギャアアーッ!!」
 目の玉が飛び出るほどの形相で泣き叫び、ベッドが物凄い音を立てて揺れた。華奢な全身が関節をぎしぎしいわせ、手足や腹部も含めた筋という筋が浮き立ってびくびくと痙攣した。


 ここも一時期、拷問室だったが、元々は映画館の真上に位置するレストラン喫茶で、映画のついでの客を迎えて繁盛したという。
 それが物置と化し、荷物を置いた一角になぜか十数体の少女マネキンが見られた。非常灯だけの半暗がりに、ぱっちり目のマネキンがぽっと浮かんだ光景は大の男でも不気味だった。
「寒いなー、兄貴」
「しっ!」
 相棒のぼやきに、即、叱責が飛んだ。
「ここは開かずの間ということになってるんだぜ。誰かに見られたらどうする」
 そう言ってひそひそ声に徹した。
「それも奴らのせいじゃないか。何で俺たちがシンの使いっ走りなんかせにゃならんのか。いったい奴ら、ボスの何だっていうんだ?」
「新発田の兄貴の繋がりじゃ仕方あんめえ」
「それにしたって大工仕事とは何の冗談だよ。そんなこたぁ山崎さんに頼めばいいんだよ。あの人なら芸能界のコネで何でも手に入るだろ」
「うるさいな。早く見つけて帰ればいいんだ」
 相棒の不満に苛つきながらも、懐中電灯の明かりで棚のあちこち見ていたが、
「おい、何か聞こえるぞ。女の声だ」
「まさか……」
「静かに。ほら、あの奥の方から聞こえてる」
 指差す荷物の陰に仄かな明かり、そして確かに女の声と、唸るような男の声がしていた。
「あれは禁煙席を改造した部屋じゃないか」
「ああ、空間をボードで仕切って、外からの覗き窓も付けた拷問室にしたはずだ」
 身をかがめて近づいた時、小窓が見えた。明かりが射したカーテンが見え、目を凝らすと閉じ切れてない隙間から少女の顔が垣間見えた。
「あれは確か……」
「いや、香奈なら車椅子だから、あの高さで顔が見えるはずがない。人違いだろう」
 少女が誰かの詮索は後回しに、とにもかくにも2人はスケベ心を発揮して耳をそばだてた。
 香奈に似た少女が語る。
「こんなことをされて気持ちいいの?」
 語りかける顔は前後に揺れているようだった。
「最高だよ。おまえの手なら大き過ぎず、小さすぎず……ああ、ほんとにいい気持ちだ。もっと強く、もっと速く、奥まで突いてくれー」
「でも、奴らはわたしをどうかしたがってるんでしょ。そしておじさんもその方が都合いい」
「な、何を言うんだ!」
「知ってるわ。わたし以外にもおじさんとこうなった子が最後どうなったかを。そう、この部屋にある10いくつかのマネキンさんが知ってるわね」
 男の――いや、小渕の狼狽がきわだった。
「何をバカな! 誰がそんなことを!」
 そのうろたえようが見えるようだった。
 それにしても、あの香奈の剛胆をどう解釈すれば良いのか。知ってはならないことを知ったと自分から言っているのだ。それが自殺行為だということを知らないバカではないはずだ。
「兄貴ぃー」
「俺たちも長くないかもな」
 驚愕のあまり目を見開いて震えた。聞いてはならぬことを聞き、見てはならぬものを見た恐怖できびすを返し、這々(ほうほう)の体で外まで出ると、あとは風をくらって一目散に逃げ去った。


 暗がりにすすり泣くような喘ぎが――。
 顔の位置は暗くて分かりにくいが、局部には間接照明が当てられ、そこだけ晒し者にされた姿は理科実験の標本観察のようだった。
「ガキのくせに毛深いわね」
 八重子が指に力を込めた。
 陰毛が左右に分かれ、その中心に位置する艶やかな淡紅色の陰唇がぬうーっと口を開けた。
「ガキとは思えないイヤらしい形だわね」
 手はもう一組あって、その手の主も満悦した。
「責め甲斐がある」
 その響子は明かりの中にビデオカメラをセットした三脚を立てて、これ以上ないほど淫靡さをきわめて見せつける局部に向けた。
 スイッチの音がして、もう一箇所ぽっと明るくなり、涙目の少女の顔が捉えられた。
「この方がずっとムードがあるわ」
 部屋の隅の大型モニターを見た。
 両サイドの明かりの延長の中に、陰部と顔の中間の微乳を含む少女の瑞々しい小麦色の肌の胴体が、首を付けた生身のトルソーとして妖美なエロスをただよわせて浮かび上がった。
 眉毛を隠して垂らした前髪の下の小さな顔が怯えてすすり泣いている。
「ねえ蛍ちゃん。何されるんだっけぇー?」
「お、お願いですからそれだけは……」
「それってなあに? はっきり言わなきゃ分かんないじゃない!」
 先端に電極クリップを付けたコードをぶらぶら揺らしながら、淫らなぶりにかけるべく響子の口調や顔が、たちまち怒気を帯びていった。
「電気ですぅ、電気だけは……」
「それをどこに流されるんだっけ? ゆうべ予告したとおりのことをおっしゃい!」
 いきなり癇癪を起こして幼い乳房をむんずと鷲掴みした。ひねり出した乳首の先を人差し指の爪で引っ掻きながらなおも迫った。
「ひえーっ。性器ですぅ、性器に電気を流されるんですぅー。でも、それだけは……」
 泣きじゃくる蛍の恐怖心など無視して、淫肉をつまんで引き伸ばし、電極クリップの一方を結び付けると性器からコードが垂れ下がった。
「ねえ、八重子」
「なあに」
「組の若いのが言ったでしょ?
 鞭打ち、蝋燭責めといえば道具建てやら責めやらで、その度合いは別としても被虐者の苦痛に感情移入して見られるものの、電気責めでギャアギャア泣き喚いたってヴィジュアル面で何も変化が無ければ面白味ないだろうって」
「生意気な奴だよ、あいつは」
「そういうことじゃなく、あれが大方の見方ということよ。でも、それって電気責めをきちんと表現してないからだと思わない?」
 あっ、と八重子が今にして思い当たった。
「それがこのビデオ撮影なのね?」
「ストレートに解らせるにはこれが一番」
 言い終わった時には準備万端ととのい、2人の、というより響子の真意が読めない蛍はなぶられるに任せておどおどするばかりだった。
 股間側の照明を強くした時、左右に開かれた観音開きの美脚がより鮮明に照らされた。
 コードを付けたドライバーの先が縄で組まれた片脚の突端につんつんと触れて「ぴくん」と爪先が動いたような。だがこの距離で、感覚の鋭敏でない足程度で酷い刺激はないはずだ。
 しかしそれが徐々に移動を開始した。
 内を向いた足の甲を突き、ぷくんと膨れたふくらはぎを突き、太腿と呼ぶには華奢すぎる腿をも突つきながら迂回した。そうして腹部に至った。
「あ、ああ……あ……」
 蛍の目が恐怖に見開かれていく。
 形良く切れた臍の横を左折して陰毛のデルタに、茂みに入りかけた、
「ゆゆゆ、ゆるしてぇー……」
 上体が悶えてのけ反り壁の影も揺れた。それさえ視覚効果としては十分だがモニターは獲物の到着を待つ身の、八重子の指で開かれ膣肉を覗かせる性器を捉えたままだった。
 電極ドライバーが敏感の谷間に降りてくる。
 少女の繊毛を薙いで秘肉に触れた。
「ひ、ひいーっ!」
 響子の空いている手が陰唇に、入れ代わりに八重子が離れた。のけ反り、背ける蛍の顔を掴んでカメラに向けさせ、カメラは性器のアップとその延長に苦悶する蛍の顔まで捉えた。
 金属棒が割れ目に沿って寝かされた。
「わっ、あああーっ!」
 悲鳴が高まった。観音開きの両脚が苦悶に筋を浮き立てた。のけ反る背中。身をよじる上体。
「どう? どんななの?」
「い、痛いですぅー。やめて、やめ……」
 八重子は片手で蛍の顔を押さえ、片手は幼い乳房を掴み、ひねり、力を込めて揉みしだいた。
 その一方で響子の電極ドライバーによる性器責め、陰核虐めは、尿道孔を巻き込んで執拗をきわめた。
 陰唇の片側がぺろっとめくられた。
「ひっ」
 尖った金属棒の十字の先が膣粘膜をこすった。
「あうあーっ」
 そのまま移動し、陰核に触れた。
「いやっ、痛いーっ」
「どんななの? 痛さの種類は?」
 尋問しながら陰核の上を行ったり来たり、一時それが繰り返され、悲鳴も続いた。答えるどころではなかった。
「これならどう?」
 と金属部分が寝かされ、敏感な局部に触れる部分が長くなっていくと悲鳴が高まった。
 尖った先が尿道孔に触れた。
「うわっ。いやあーっ!」
 蛍が顔と背中をのけ反らせると、八重子は乳虐めに専念、蛍の乳房は両方共に揉みくちゃにしだかれた。
 下では徹底した性器責めが継続された。
 陰毛の中に覗くピンクの姫貝。押し当てられる電流ドライバーと蛍の悲鳴。悲鳴の響き方から震えているようにも見えた。
「さあ、行くわよー」
「いや。これ以上はイヤッ!」
 ドライバーの先が尿道孔を捉えたまま、ぴくりとも動かなくなった。そうしておいて、響子は腕時計の秒針を数えた。
 1、2、3、4……
 10秒経った。
 30秒経って、1分経って、2分、3分経った。それまでは少女の肉体の片鱗であり、解剖学上性器のそのまた一部に過ぎない小陰唇が、しっとりと汗ばみ、艶やかさを見せはじめると、ひときわ淫靡な光彩を放った。
 悲鳴も弱まり、
「うわああーん。あ、あーん……」
 と甘美な響きをともない、ピンクの肉唇は明らかに濡れて見え、ぬらぬらとした輝きに満ち満ちてきたのである。
「感じてきたようね」
 響子がドライバーを持つ手に、あるかないかの微細な力を込めた。
「いやっ」と拒否したすぐ後に、「うっ、あはぁー」と、何かに取り憑かれたような、うっすら開いた目が茫乎とした。
 八重子は両手で乳房なぶりを続けながらも、顔はモニターに向かって、じっと見とれていた。
 片手の指で器用に開かれた陰唇に覗く、深海魚の口を思わす膣口が心なしか自分から口を開けかけたようにも見え、いや、それよりも愛液が露となって滲み出てきたのである。
 そして尿道孔からも!
 小さな口から滲み出る液は露になり、玉になり、ドライバーの先を伝って金属部分に沿ってゆっくりと流れ落ちていった。
「あ、あーあ。ん。う、うぅん……」
 子どもがむずがるようなよがり声。
 後ろ手縛りの上体が焦れるように、居心地が悪くて姿勢をずらすように身をよじり始めた。
「あーあ! うああぁぁぁぁ……」
 哀悦喜悦の悶え声。


 それから、また数日が経った。

 元は映画館だったという地下の大ホール、少女たちは今は仲間内だけの気安さから、ひそひそ声で話し合っていた。
〈点呼でもない時間に何の集会?〉
 千彰も小渕の奴隷には違いないが、なぜかこれまで陵辱とは縁遠く、お茶汲み、酒席の接待といった一般コンパニオン並待遇でこられた。だから、こんな時でも軽い気分でいられた。
 そこへ足音がして小渕と、その情婦響子とディド企画オーナーの八重子、そして面妖な風体の中国から来た極悪三羽烏が現われた。
「なに? あの格好……」
 千彰も美紀もきょとんとした。
 それは最後に入った小渕のダチ公、新発田が押す香奈で、白衣(びゃくえ)に白袴で、まるで巫女か神主の姿で車椅子に収まっていた。
 香奈のことでは別部屋の子が言っていた。山崎に連れられて入った社長室で、車椅子を停めた奥から事に及ぶ際のよがり声がしていたと。
「下半身機能を喪った脊髄損傷者がなぜ?」
「オッパイ触りだけでウハウハするほどヤらしい子だったということよ。けけけ……」
 せっかくの反論が嘲り笑いでおとしめられる結果となった。
 そんな経緯から、香奈の冗談じみた格好も小渕の意を受けての余興くらいに考えた。
 その思いを増幅させたのが極悪三羽烏の派手な登場で、金、銀、珊瑚の宝飾品を付けた中華服で、まずシンがしゃしゃり出た。
 最前列の蛍を指差し、響子にも一瞥をくれた。
「3日前、脱走を図ったな。本来なら脱走は組織への裏切り、死をもって処すべき大罪」
 凛とした声で当のボス小渕を差し置いて縷々述べ立てた。
「聞けば一と月ほど前にも脱走騒ぎあったとか。その示しも付けぬからこの有り様。小渕さん、いっしょにビジネスするのに、これじゃ困るよ。代わってわたし処置する。よろしいね!」
 強引に仕切って、ビシッと指差した。
「スズキ・カナ。おまえを前回の脱走の罪で処刑するよ。何か言うことあるか? ないな。そんな役立たずじゃ生きてても仕方ないからな。死刑はせめてもの情け。安楽死いうことよ」
 いつもの鷹揚とした顔を氷の鉄仮面にして、薄笑いすら浮かべて宣告した。
「ウソでしょう!?」
「何かのジョークよねえ!?」
 美紀も千彰も慌てふためいたが、こいつらの低級ギャグは今に始まったことではないとも思った。
 しかしチャイ、リュウによって仕置き台が運ばれると情況は一変、仕切り役のシンが小渕と新発田以下女2人を少女列まで下がらせた。
 ビニールシートが敷き延べられる中「あれあれあれ……」と千彰が呆け面して指差した。
 そこに置かれた高さ1メートル弱の小卓。縁からちょこんと出た半円形のくり抜き部分。それが何か思い至る間もなかった。
「無想正宗をこれへ!」
 すでに段取りはできていて響子が前へ、細長い袱紗包みをおごそかに差し出す。坊主頭のリュウが受け取った袱紗の中身は小渕自慢の日本刀で、それをたばさみ、次には腰に差した。
「おい、助手をしろ。おまえだってこうなる身だったのだぞ」
「ひえーっ、お助けをーっ」
 怖れおののき、後ずさる蛍を無理矢理引っ立てた。その時には香奈はターバン頭のチャイに介添えされて処刑台の前まで進まされた。
 スキンヘッドが歌舞伎役者みたく見栄を切って抜刀、無想正宗が館内照明にぎらりと輝いた。
 突然、衣を裂く悲鳴。
 満場注視のただ中に凝然とたたずむ美紀――。
「香奈は、香奈は違うんですぅーっ!」
 精一杯の勇気を奮って少女たちの最後列から叫んだが、その懇請を、なんと香奈自身が止めたのである。
「美紀ちゃんいいのよ。もういいの」
「何がいいのよ! あなた役に立たないどころか、まだまだ役に立つわよ。ボスだってそれを知ってるから、夜毎日毎……」
 美紀の言葉をシンの鋭い目が聞き咎めた。
 その一方で香奈は意志を伝えてきた。必死の涙目、微かな口の動きを命の瀬戸際で――その時、香奈は唄を口ずさんでいた。

 だいじょうぶだよ いつだって
 あなたのすぐそばにいるよ……

「あれは!」
 千彰、美紀が愕然とした。
 いつも大人しやかで、いつも控え目で目立たぬ存在の香奈が、好きな歌を唄う時だけは別人になったことを思い出した。
「ほら、わたしの口元を見て、こうよ」
 そう言って昼休みの教室で、放課後の校庭で2人をリードしたのが、キャラクター・ボーカル初音ミクの『だいじょうぶだよ』だった。
 そうと分かった瞬間、千彰、美紀には香奈の真意も読み取れた気がした。
「香奈ぁーっ!」
 2人抱き合って友の名を叫び合い、友の悲哀を思って涙を流し合った。
 どうせ生き長らえても、またなぶり責めの毎日。そこへ見せしめ処刑の話がきた。ならば儀式を粛々と演じよう。その代わり千彰と美紀の助命をと願って聞き入れさせた。といって、どうせ悪党共の口約束。当てにはならぬ。だが一縷の望みを託した。それを伝えてのこの歌だったのではないか。

 ……不安なときは 名前を呼んで
   わたしは歌って こたえるから

 そこまでの歌詞を口ずさんで、香奈が晴れ晴れとして向き直った。
「美紀ちゃんありがとう、千彰ちゃんありがとう。わたしのために泣いてくれて。テレビでだけど、お母さんにも会えたから香奈は本望よ。短い間だけど仲良くしてくれてありがとう」
 最期にそう言ってにっこりと微笑んだ。
 断頭台に首を差し出す香奈。と突然、
「何、うろたえるか!」
 シンの叱責、恫喝は香奈へではなかった。
「バカ! こっちだ、こっちへ来い!」
 叱り飛ばされ、蹴り飛ばされ、押されて蛍が車椅子の上で前のめり姿勢になった香奈の向こう側に移動させられた。
「しっかり肩を押さえてろ」
 指図したシンが自分では後ろに下がった。
 車椅子のアームレスト(肘掛)をしっかりと握り締め、前のめり姿勢の上体を支えて断頭台に首を乗せた香奈。その肩をぶるぶる震えながら押さえる蛍。後ろで車椅子を支えるターバン頭のチャイ。
 スキンヘッドのリュウが太刀を振り上げた。
「うそよーっ!」と誰かが叫んだ刹那、一閃、風を切って振り下ろされた正宗の切っ先が香奈の首を刎ねた。
「ひええーっ!」と、どこからか叫ばれた喚声。
 首を無くした切断面から噴水のように血を撒き散らす微動だにしない香奈の胴体。噴き出す血はびしゃびしゃとビニールシートを叩いた。
 驚愕、棒立ちの美紀と千彰と朱美。陽子とタイ人少女2人は合掌して祈りを唱え続けた。
 突然、激しい号泣が広いホール中を震わせた。
「香奈ぁー、ゆるしてくれ香奈ぁ。迷わず成仏してくれぇーっ……!」
 あの鬼の小渕が床にへたり込んで男泣きに泣き、それを冷然と見下すシンがいた。
 そして床に転がった香奈の生首。シートをはみ出て床まで拡がる血だまりの中に転がり、全ての苦しみから解き放たれて薄目を開けたその顔が心なしか笑っているようにも見えた。




*ラストに引用した歌詞は、UPNUSY作詞・作曲・編曲、キャラクター・ボーカル初音ミクの歌『だいじょうぶだよ』からの4行


「8.亡 霊」へつづく

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