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(事実をもとにしたフィクションですが
 画像は全てイメージによる加工です)

出逢い
 夏のある暑い日、私は重い荷物を持って炎天下、焼けたアスファルトの上をてくてくと歩いていた。竜子に会うためである。彼女は、数少ない電流責め拷問タイプ志願者だった。
 待ち合わせした場所は都内の高層ホテルの一室。
 ノックして出て来たのは、二十歳前後に見える若い娘だった。シャワーでも浴びていたのだろうか、ホテル用のガウンをきている。
 はだけた胸元から垣間見える乳房は異常に大きく、いわゆる巨乳というやつだ。目はクリッと大きく鼻は小さい。髪はショートカットでボーイッシュな容姿、身長は160センチ位だろうか。
 部屋は12畳ほどの広さで、ベッド、ライティングテーブル、小さい机、椅子が2脚置いてある。若い娘が一人で泊まるには賛沢な部屋だ。
 昼にスパゲイーでも食べたのだろう、ルームサービスのワゴンに汚れた皿、フォーク、タバスコが置いてある。ベッドの上には汗で湿ったTシャツ、靴下が脱ぎ捨ててある。さらに、テレビの上にはルームキーが投げ出され、部屋の中は、お引っ越し準備中のようだ。無頓着でだらしない性格がうかがい知れる。
「こんにちは、今日は暑いわね」
 相手の緊張を和らげるため、いつものように世間話から始める。
「やー」
 ベッドの上であぐらをかいて、コーラのペットボトルをラッパ飲みしながら答える。何だ、この挨拶は。だが竜子は、追い打ちをかけるようにさらに続けた。
「早く始めようよ、おばさん」
(なぬー、おばさんとぬかすか!)
 若いときなら激怒して帰ったと思うが、私も40過ぎ、心が広くなったものだ。
 せっかく炎天下歩いて来たのだ、少し遊んで帰るとするか。どうせこんな奴、すぐ音を上げるに決まってる(このときの私の予想は、あとで見事に裏切られることになるのだが……)。
「喉が渇いたわ。なにか飲み物くださいます?」
 竜子はようやくベッドから立ち上がり、冷蔵庫から缶ビール500ミリリットルを取り出し、私の目の前に、にゅーっとさし出した。
「ほれ」
 コップも出さずに「ほれ」とは何だ。「これでよろしいでしょうか」ぐらい言えんのか。
 まあいい、後でたっぷりお仕置きしてやる(この時の竜子の行いがいかに大きな過ちであったか、竜子は後で思い知らされることとなるのだ)。
「ゴクゴク……うーん、うまい」

検 診
「あなた、経験はある?」
「ねーよ」
「心臓、呼吸器、肝臓、腎臓は大丈夫ね。アレルギーはないわね。それから、昨日はちゃんと寝たわね」
「何でそんなこと訊くのよ、関係ねーじゃん」
「みんな関係あるのよ。
 私のETMは体に電流を流し、感電状態を作り出すの。だから、あなたが長時間、感電状態にさらされても大丈夫かどうか、よく調べなければいけないのよ。ETMが作り出す拷問ワールドは、あなたには、まったく未曾有(みぞう)の体験になると思うけど、それでもいい? いやなら、今のうちにやめておいた方がいいわよ」
 竜子はきょとんとしたきり、「ETMって、なによ」と、相変わらずぶっきらぼうに訊いてきた。
「Electric Torture Machine “電流拷問機”の略で、世界にひとつしかない特注品よ。私は“パンドラBOX”という名前をつけて可愛がってるわ」
「……………」
「じゃ、オーケーね。つぎ行くよ」
「ふん」
 竜子はベッドに、私は椅子に座って向かい合う。
「手首を出して」
 人差し指と中指で竜子の脈を見る。ドクドクと一定のリズムを感じる。不整脈はないな。
 次に私は、聴診器を取り出し竜子の胸にあてるが、実は、これにはあまり意味がない。正常な心音から雑音を聞き分けるのは、経験を積んだ医者でなければできないことだ。私がこれをするのは一つの通過儀礼であって情報を得るためではない。
 このような行為をすることによって相手が本当に拷問体験を欲しているのか、それともただの興味だけなのか判断することができる。興味だけのヤカラは、この段階で逃げ出すのがほとんどだ。有力な情報はつぎの血圧測定で得ることができる。
「では血圧を測ります」
 竜子はベッドの上に立ち上がり、ガウンをめくりあげ、白いお尻をペロンとだしてプリプリ振って見せた。
「なにしてるの?」
「だってケツ圧でしょ、ギャハハハハハっ!」
 ガクッと大きな音をたてて、私の首は前へうなだれた。
 今日ここへ来たのは一生の不覚だったかもしれない。こんな能天気お気楽娘だとは思わなかった。うなだれた私の首が正常な位置へ復帰するのに数十秒を要したと思う。
 竜子を座り直させ、血圧測定した。110−70、正常値だ。
「まったく問題ないわ。
 お待たせたせしました。では、始めましょうか」
 そう言いつつ、椅子から立ち上がろうとしたとき強い視線を感じた。竜子がこちらに向かって視線を投げかけている。いわゆる「“がん”をとばす」という行為だ(そしてこれが二人の壮絶なバトルの開始合図となるとは、このときには思いもよらなかった)。

拷問準備
 拷問準備のため、部屋をみわたす。ルームサービスに使われたワゴンの上にETMを置く。傍らに椅子を置き、私はそこに座る。ホテルに備え付けの小さな机を拷問台にする。小柄な竜子にはちょうどいいサイズだ。
「では、裸になって、ここに来て」
 竜子はガウンのひもをほどき、すらりとそれを脱いだ。豊満な乳房がその全容を現した。「パンティーは脱がなくていいわよ。性器は責めないから」
 拷問台に竜子を仰向けに寝かせ、万歳の姿勢をとらせる。用意して来たゴムベルトをバストの上から腋の下に通し、拷問台の下で固定する。さらに、へその下からゴムベルトを台の下に回し固定、膝を90度に曲げ両足首を机の足にロープでしっかり縛り付ける。最後に両手首に革製の手枷をつけ、それを台の下でしっかり縛る。これで、竜子は後ろ手で机に固定された状態になる。
 次に電極を竜子の体に装着する。私が使用する電極はあらかじめ伝導性のジェルが塗られており、裏面のシールを剥がせぱ皮膚に接着できるようになっている。両乳首に一個づつ、腹部(へその両わき)、太ももの内側に計6個の電極を張り付けた。それらの電極から伸びている3本のケーブルをパンドラBOXにつなぐ。電極に送り出す電気は部位も強さもパンドラBOX本体で自由にコントロール出来るようになっている。さらにパンドラBOXには本体以外に2つのスイッチが接続されている。1つは足で踏むフットスイッチ、もう1つは自動的に電流が流れるタイマースイッチだ。竜子はこれらのスイッチが後で、自分を恐怖のどん底におとしいれる、悪魔のアイテムであることにまだ気がついていない。
「これから、あなたが電流刺激に対してどれくらいの感受性があるか検査します。すこしずつレベルを上げていくから、あなたが感じる感覚を正直に答えてちょうだい」
 パンドラBOXの出力レベルを0・3A/8Vに設定し、スイッチを押す。
「どう、なにか感じる?」
「べつに」
 竜子の表情を見ながら少しずつ電圧を上げる。12V、14V、16V……
「今16Vよ、感じはどう?」
「すこしピリピリする。おばさん、拷問はいつ始まるの? 竜子、た・い・く・つ」
 またしてもおばさんか。なんどもおばさんと呼ばれ、慇懃無礼な振る舞いをし、しかも「退屈」とぬかしやがる。心の広い私でも、ここまでくると半ギレ状態になってきた。
「感受性検査終了。あなた一般的な感受性ね。十分楽しめるわよ、あなたも私もね。フフフフ………」
 このときの私の含み笑いが、どういう意味があるのか、竜子にはまだ知る由もなかった。

拷問鬼始動
 さて、ようやくお楽しみの時間がやってきた。
「これから始めるけど、始めたら最後、途中でやめないわよ。泣いてもわめいても責め続けるからね。それからリタイアはなしよ。続行可能かどうかは、あなたの反応をみて私が判断するわ、いいわね」
「リタイアするのはおばさんのほうじゃないの」
 この竜子の暴言がただのハッタリでないことを、私は後で思い知らされることになる。
「い・た・い・わ・よー。特にあなたのようなグラマーさんは、特に効くわよ」
 ここで私が言ったことは脅しではない。一般的に、男性よりも女性の方が電流刺激に対する感受性が高いと思われる。それは脂肪層の厚さの違いに由来する。
 パンドラBOXの出力切り替えスイッチを0・5A/12Vに切り替える。乳首、腹、太もも全てスイッチをONにして、本体の通電スイッチを押す。千本の針で突つかれたような痛みが竜子を襲う。
「い、い、いたーい」
 10秒程スイッチを押したまま我慢させる。
「どう? 感受件検査のときとずいぶんちがうでしょ」
 適当にスイッチを押したり離したりして、もてあそぶ。
「いたい、いたいよー。やめろよー、おばさん!」
 額にうっすら汗をうかべ、叫ぶ竜子。
「なに言ってるの。いま始めたばかりじゃない。今のはトレーニングレベルよ。次は躾レベル」
 躾レベルは20Vである。この電圧になると皮膚表面から筋肉にいたる電流刺激を感じるようになる。被験者はかなりの苦痛を感じると同時に、電流の波に体が襲われているという異常事態に切迫した緊張感をいだくようになる。
 さあ、いよいよだ。今まで受けた数々の侮辱を、ノシをつけて返してやる。
 スイッチを切り替え、太もものみに電流が流れるようにする。電圧を20Vに設定。あとはスイッチを押すだけで竜子の太ももに激痛を与える事が出来るのだ。
 今、電子の軍団は我が手の内にあり、いでよ私のかわいい兵士たちよ、生意気な小娘に天誅を下したまえぇぇぇぇー!
「ムフフフ、グハハァ……ガハッハハ、グワハハハ」
 これから始まる快楽の時を想像し、一人バカ笑いする私。まるで、時代劇の悪代官のようだ。
「スイッチ・オン。ファイヤー!」
 パンドラBOXの赤い通電スイッチを押す。パイロットランプが点灯し、クーリングファンが回り出す。と、同時に聞こえる竜子のうめき声。
「うーん」
 スイッチを押したまま、腹部のスイッチも入れる。またもや聞こえる竜子のうめき声。
「う、うーん」
 さらに、乳首の通電スイッチを入れ、追い打ちをかける。
「う、う、うーん!」
 そのまま10秒程スイッチを押し続ける。この時、竜子は、下半身から上半身にえたいの知れない何かがジワジワはい上がってくるのを感じとっていた。
 オカルト映画で、足元からオバケがはい上がってくるシーンを想像してもらいたい。今、竜子が感じている精神的恐怖はそれに匹敵する。竜子は電流というオバケによって、徐々に体を犯されているのである。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 竜子の呼吸が荒くなり、豊満な乳房の谷間に汗が滲み出てくる。
 スイッチを離して話しかける。
「面白いわね。最初が『うーん』で、次が、『う、うーん』、最後が『う、う、うーん』なのね。おもしろいお返事だわ。でも年上の人に対して『うん』はダメね。今度は、ちゃんとしたお返事聞かせてね」
 いったん腹部、太もものスイッチを切り、今度は、逆に乳首から電流を流す。
「ぐ、ううううううううん」
「だめね、やっぱり『うん』じゃない。お返事は、『はい』でしょう。じゃ、やりなおしね。今度、『はい』って言えたら、トレーニングレベルにもどしてあげるわ」
 いったんスイッチを切り、数を数える。1、2、3……
「スイッチ・オン」
「ハ、うーーんァ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「『うーーんァ、ハァ、ハァ』って、なにそれ?」
 竜子は反抗して返事をしないのではない。20Vという電圧を通電されている状態では、言葉を発することができないのだ。通電中は歯を食いしばり、耐えるので精一杯だ。そんなときに、まともな返事などできる訳がない。
 それでも、なんとかこの窮状から抜け出すために、必死で声を出そうとするのだ。私は、もちろんそのことを承知のうえで、返答を要求している。このような理不尽な行いが、私のS欲を満たすのだ。
 しかし、その時私は、この理不尽行為が竜子の反抗心をむき出しにするきっかけになるとは予想し得なかった。
「ちゃんとしたお返事ができるようになるまで、つづけるよ」
 5秒間隔で2、3回通電する。
「う、う、う、う……」
 そのつど、うなり声をあげる竜子。
「そっか、話せないのね。話せるようになるまで、しばらく待ってあげるわ」
 初めからわかりきったことを、今気がついたように話す意地悪な私。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「ゆっくり深呼吸しなさい」
 竜子に命じた後、しばらく、状態を観察する。竜子にとっては、しばらくの休息時間だ。このようなハードな電流責めを行うときは、ときどき被験者のバイタルサインを確認する必要がある。
 私は、竜子の状態をもっとよく観察するため、椅子から立ち上がり、頭部に近づく。
 顔色は悪くない。
 さらに、肩口から、指で竜子の体を軽くタッピングしながら、腹部、太ももから膝まで下がって行く。
 乳房、腋窩、二の腕、腹部、太ももに汗が滲み出ている。黒いパンティーの恥部が、コップで水をこぼしたように、濡れている。
 この子、感じているんだわ。
「ここが濡れているけど何かしら?」
 指で濡れた恥部をつんつんつつきながら、尋問する。
「汗、おしっこ、それともなんとかジュースかしら? もし、おしっこなら、お漏らしした悪い子はおしおきしないといけないわね。どっちなの?」
「汗に決まってるだろう! ババア!」
 ヒステリーのように竜子は叫んだ。
 ババア? なんと、私はおばさんからババアに降格してしまったのだ。一瞬、私の髪の毛が、静電気を帯びたように逆立つのを感じた。怒髪天を突くとは正にこのこと。
 私はすかさず、パンドラBOXの電圧を22V(おしおきレベル)に切り替えた。
「おしおきいいいいいいいいい!」
と、ひときわ大きい声で叫びながら、通電スイッチを押した。
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
 ひときわ大きい声で竜子は叫んだ。
「もう一度、おしおきいいいい」
「あああああああーーーー!」
「さらに、もういちどおしおきーーー」
 こんどは長めにスイッチを押す。30秒か40秒そのまま我慢させる。
 スイッチを離し、おしおき3連発を終了させる。このとき、竜子は再び、未曾脊の体験をすることになる。
 スイッチを離し、電流が遮断された瞬間、ドンという衝撃と共に、筋肉が震えるのを感じたのだ。EMSなどを使った筋肉運動とは全く違う感覚だ。
「少しはこたえたかな?」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 今、竜子の体には電流が流れていない。
 しかし、つい今まで加えられた筋肉内に深く浸透する強烈な痛み、さらに最後に襲いかかった未曾有の衝撃の余韻がいつまでも残り、呼吸の乱れを正すことができない。
 竜子の体は、オイルセラピーでも受けたように、脂汗でニュラニュラ淫靡な光沢を放っている。
「驚いたでしょう。最後にドンってくるのは、私のかわいい兵士たちが、あなたの体を抜けて私の元に戻ってくる瞬間なのよ。
 おかえり、みんな」
といいながら、パンドラBOXをなで回す、私。
「ハァ、ハァ、ハァ……ウグ、ゴクン」
 喉元に溜まった唾液を飲み込み、竜子は言った。
「もうやめる、ほどけ」
 私は耳を疑った。かつて今まで、これほどわがままな奴に遭遇したことがない。最初は早く始めろと言い、今度はやめるだ。
「おしおきっ!」
 またはじまった。こんどは、20秒づつ4回つづけた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「もうわかったでしょう。私のおしおきは、だんだん回数が増えるのよ。あなた、何連発までいくかしら。10? 20? それとも100連発かしら?」
 竜子はまだハァハァと息を切らしている。
 体から滲み出てくる脂汗は、さらにその量を増し、腋の下からは汗が1滴、2滴としたたり落ち、さらにその汗はゴムベルトに伝わり、そのベルトは異様な黒光りを呈している。

拷問電流
 私は、フットスイッチを足で手繰り寄せ、竜子のもとによる。両手を台の端につき、竜子の顔をのぞきこむ。その距離10センチ。
 もっと見たい。竜子の苦しむ顔をもっと近くで、もっと見たい。サディストの血がさわぎだす。
「ハァ、ハァ、ハァ、ウーーン」
 竜子は荒い呼吸とうめき声を交互にあげている。
「目を開けて、こっちを見なさい」
 堅く閉じていた、竜子のまぶたがゆっくり開き、私と視線を合わす。
 その目は、涙でうるうる状態。そしてわずかに充血している。
 ただのつっぱりじゃないな。このような状況において、私の顔を直視できるものはほとんどいない。目を堅く閉じ、顔を交互に振り、いやいやをする者がほとんどだ。
 しかし、私の場合はすなおに目を開けたほうが賢明だ。なぜなら、もし目を開けなければ、閉じることが出来ないように瞼を縫い付けるのだから。
 竜子は瞼縫い付けの刑は免れたようだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
 ようやく、竜子の呼吸が落ち着いて来た。
 今、私は、ある悪巧みをしている。
 竜子はフットスイッチの存在に気がついていない。したがって、私がパンドラBOXから離れているこの状態では、電流刺激はないと思い安心している。
 そこで、私がフットスイッチを踏めば、予告なしの突然の衝撃が竜子を襲うことになる。充血した目を見開き、口を一文字にし、恐怖に脅える竜子の顔を至近距離で見られるのだ。私にとって最高のショーだ。
「竜子ちゃん」
 優しく呼びかけ、顔を近づける。8センチ、7センチ――今だ! おもいっきりフットスイッチを踏む。
「うぐぃーーーーん」
 今までとは違う悲鳴と同時に、かわいい竜子の顔が獣の様に変形する様が見えた。
「やったー!」
と思った次の瞬間、ゴンという音と共に私の額に衝撃が走った。そのまま、2、3歩後ずさりし、パンドラBOXのケーブルにつまずき、倒れ込んでしまった。
 私には、なにが起こったのか分からなかったが、まず気になったのは、今踏んづけたケーブルの事だった。私のかわいいパンドラちゃんの触手が……。
「ごめんね、痛かった?」
 ポタッ、ポタッと赤い液体がケーブルの上に落ちる。
「なにこれ?……え、血……」
 ようやく、何が起きたのか理解できた。
 突然の電流刺激に驚いた竜子は、体全体のパワーを首の筋肉に集中し、一気に頭を持ち上げたのだ。それにより、竜子の額と私の額が正面衝突、額が切れてしまったのだ。
 急いでバスルームに駆け込み、鏡で観察。傷は浅い。洗面タオルを切り裂き、額に鉢巻きをして応急処置をする。まるでスタローンの映画『ランボー』のようだ。
 バスルームにて、しばし考える。
 完全に私のミスだ。S欲に身をまかせるまま、顔を近づけ過ぎたのが間違いだ。
 いずれにせよ、今日は続行不可能だ。部屋に戻り、刑の執行終了を宣言しよう。竜子も今までの刑で、かなりの体力と気力を消耗しているはずだ。少しはおとなしくなってるだろう。
 竜子はポカンと天井を見上げている。ゆっくり首を回し、少し赤くなった額をこっちに向ける口元に薄ら笑いが浮かんでいる。
「あら、おばさんどうしたの? おでこが真っ赤よ。おでこが生理かしら。リタイアしてもいいわよ、ゆるして・あ・げ・る」
 こ、こ、こんなバカな事が、ある訳がない。刑執行官の私が額から流血し、受刑者が涼しい顔をしている。しかも、竜子が言った通り、私がリタイアになってしまったのだ。私も年をとったものだ。もう引退したほうがいいのかもしれない。
 私は、ふらふらっと窓際に歩いて行った。カーテンごしに見る外の景色はきれいだ。
 おきにいりのボーグスリムに火をつけ、しばらく窓の外を眺める。
 竜子は拷問台の上で拘束されたまま、ニタニタ笑っているのだろう。
 少し落ち着いてくると、ある疑惑を感じて来た。ひょっとして、さっきのおでこ衝突は彼女が仕組んだのではないのかしら、と。
 窓越しに外を見たまま竜子に尋ねた。
「あなたわざとやったの?」
「それはどうかなーー。自分で考えな、クソババ」
 この一言が私の闘魂に火をつけた。ゆるさん、絶対ゆるさん。
「1、2、3ダァーー」
 私は窓からクルリと180度回転し、竜子に向って腕を真っすぐ伸ばし、人差し指を突き出し宣言した。
「私は必ずあなたを落とす! 落とせなかったら、引退する。引退をかけて勝負だ!」
 これは、私にとってリスクを伴う発言だった。しかし、これくらいの事をしなければ、落とせない程、電子の壁は厚いと感じたのだった。
 しようがない、これを使うか。あまり、これは使いたくないが。
 ここでいう「これ」とは24V、パンドラBOXの最高出力のことである。私が、そのとき、これを使いたくなかったのには、2つ理由がある。
 第1に、それ以上の電圧がないので、これで落とせなかったら、次に打つ手がない。
 第2に、この電圧になると被験者の精神状態に変調をきたす恐れがあるからだ。一番困るのが呼吸困難を訴えた場合だ。ただし、そのときの呼吸困難は気管支や横隔膜が痙攣して呼吸できないとか、そのような深刻なものではない。これ位の電圧になると、被験者は手を握り締め、全身に力を入れて、痛みに耐えることになる。その状況は妊婦が出産の時に息む状態に相似する。すなわち、被験者が本人の意志で呼吸を止めているのだが、電流の為に息ができないと錯覚するのである。
「では、第2ラウンド開始ね。今度は死ぬほど痛いわよ。死んだ方がましなくらい、と言った方がいいかな」
 パンドラBOXの出力を24Vに設定する。
「あ、そうそう。いい忘れていたけど、電流が流れている間は、息ができないから、タイミングよく深く息を吸い込んでね。はい、息を吸って、止めて、いきますよ」
 まるでレントゲン技師のようだ。
 スイッチを押す。
「うっ………………………」
 もはや「あーー」も「うぐーー」もでない。
 竜子は両手にげんこつを作り、腕をブルブル震わせ、全身の筋肉を硬直させ痛みに耐えている。10秒程我慢させ、スイッチを離す。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
「はい、息を吸って、止めて」
 スイッチを押す。
 2回目、20秒。
「うっ………………………」
 3回目、30秒。
「うっ………………………
 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 竜子の全身から再び汗が吹き出す。
「どうかしら。え、どうかしら」
 竜子に問いながら、さりげなく、全身を観察する。
 バイタルチェックだ。手指の状態が、バイタルをよく表す。両手のげんこつは強く握り締めたまま、まだ小刻みに腕を震わせている。げんこつの時は心配ない、もっと責められる。
 ついでに、電極の状態もチェックする。電極が乾いているとジュール熱が発生し、火傷を起こすことになる。電極を剥がすと、皮膚は赤くなっているが、火傷はない。
「大丈夫ね、もー度頑張るね」
 ペタ……
「あれー、くっつかないぞ」
 電極の粘着力が弱まって、皮膚に付かなくなってしまった。
「縫っちゃおうかなー」
 私はわざと意地悪く竜子に聞こえるように、言った。ハァハァの息がようやく落ち着いた竜子は、しばらく沈黙だった。おそらく、私の言ったことが理解できなかったのだろう。何を何処に縫うのかわからなかったのだ。
 しばらくして、気が付いたようだ。
「いや! 縫わないで」
「だめ! 縫うわ」
といいながら、お道具カバンに向かう私。
「やめてー、お願い、やめてー」
 竜子から、はじめてお願いという言葉が出た。大変な成果だ。24Vの威力は絶大だ。
 しかし、それはただのはったりであった。私は、女子に対してはそこまではしない。だから今日は針の類はもって来ていないのだ。
 私は、お道具カバンを覗きながら言った。
「あーら残念、忘れちゃったみたい、よかったね。でも、そのかわり、これで押さえといてあげるわ」と言いながら、布テープを取り出す。
 そのとき、偶然、ある物が私の目に映った。
 タバスコ、ビールの空き缶、コーラのぺットボトルである。これを使えば、もっとおもしろいことができる。私は気が付いた。私の心に再び加虐の炎が燃え始めたことを。
EP1_Part.II

――作者のサイト“SM 竜の部屋”へ行く――