短歌入門部屋
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【短歌の基本8】

【枕詞(まくらことば)】
枕詞とは和歌にみられる修辞用語のひとつで、一定の語の上にかかってある種の情緒的な色彩を添えたり、句調を整えたりするのに用いられます。
ただ、主題とは直接に意味的な関連はまったくありません。

簡単に言うなら、「あしびきの」とくればその下は「山」、「ひさかたの」とくればその下には「空」や「光」などがくるわけです。

ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ (紀 友則)

たとえばこの歌の場合は、「ひさかたの」が「光」にかかって(光を引き出して)いる枕詞です。

先の「詠むと読む」のところなどでも述べましたが、万葉集の時代には和歌(短歌)は文字に書いて見せるものではなく、声に出して詠み、詠うものでした。
枕詞が生まれた背景にはそのことが深く係わっています。

たとえば…詠み手が「あし〜ひき〜のぉ〜〜〜」と詠んでいる間に読み手は、「ああ、これから山の歌を詠むのだな」と想像し、心構えが出来たのです。
詠み手はそれを利用して、読み手の期待通りの素敵な山の歌を詠んだり、または技巧を凝らし予想外の山の歌を披露することで人々の喝采を得たりしたわけですね。

このように枕詞は、口誦時代には一定の語句を引き出す役目をしていましたが、ただ、現代では短歌は文字に書いて発表されることがほとんどのために、このような効力は失われつつあります。

それでも、枕詞の多くの語句が五音から出来ているため、現代短歌の世界においても韻律をととのえるうえで非常に有効であることは確かです。
枕詞は、後に述べる「序詞」や「掛詞」などよりは気軽に使いやすい技法でもあるので、積極的に取り入れてみたいものですね。

一応、以下に枕詞とその枕詞が引き出す語句の例を挙げておきます。

枕詞 被修飾語
あかねさす 日・昼・紫・照る・君
あしひきの 山・峰(を)
あづさゆみ 引く・張る・春・本・末・弦・音・かへる
あらたまの 年・月・日・夜・春・
あをによし 奈良・国内(くぬち)
いさなとり 海・浜・灘(なだ)
いはばしる 滝・垂水(たるみ)・淡海(あふみ)・近江(あふみ)
うつせみの 命・人・世・妹
くさまくら 旅・結ぶ・結ふ(ゆふ)・仮・露・たご
しきたへの 枕・衣・袖(そで)・床・家・袂
しろたへの 衣・帯・たすき・たもと・ひも・ひれ・雲・雪
そら(に)みつ 大和(やまと)
たまきはる 命・うつつ・世・わ・うち
たまくしげ 明く・開く・二(ふた)・三(み)・奥
たまづさの 使(つかひ)・妹(いも)
たまほこの 道・里
たらちねの 母・親
ちはやぶる 神・宇治
ぬばたまの 黒・髪・夜・夢・夕・暗き・今宵・寝る
ひさかたの 天(あめ)・雨・月・光・日・昼・雪・雲・霞・星・夜・桂・都・鏡
ももしきの 大宮・内
わかくさの つま(夫・妻)・新(にひ)・脚(あゆひ)・若し・思ひつく






【序詞(じょことば)】
「序詞」は「枕詞」に似ていますが、枕詞のように「どの言葉にどの詞がかかる」というような決まりがありません。
どの詞をどの言葉に掛けるかは、作者自身の工夫にかかっています。

また、序詞は枕詞よりも長く5文字以上のものが普通で、慣用的にもちいる枕詞に対して一回的、創作的でもあります。

あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む  (柿本 人麻呂)

たとえば百人一首でも有名なこの人麻呂の歌では、三句目「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の」までが、「ながながし夜」を引き出す序詞になっています。
(この歌は初句で「あしひきの」と「山」を引き出す枕詞も同時に使っている)

序詞はよく「○○の○○、それではないが、それによく似て」と、よく訳されます。
この歌の場合ならば「山鳥の長く垂れ下がった長い長い尾、それではないが、それによく似て長い長い夜を一人で眠ることであろうかなあ」といった感じの意味になります。

皆さんは「山鳥の尾のしだり尾」と言われるとどのようなものを想像するでしょうか?
現代人でははっきりとイメージが浮ばないかもしれませんが、それでもなんだか長い鳥の尾を想像するのではないでしょうか。

人麻呂のこの歌は「あし〜ひき〜のぉ〜〜」と詠んで「山」を想像させたあと、すこし意外な「山鳥」を出してきてなおかつ「山鳥の〜尾のぉ〜〜しだり〜尾のぉ〜〜」と、長いものを想像させて「ながながし夜」を引き出してくるという非常に凝った技法が使われているわけです。

枕詞と比べて、序詞は作者自身が工夫し作り出さなければいけないために、うまく使いこなすのがすこし難しいかもしれませんね。

砂時計買い来つ砂の落ちざまのいさぎよき友飲みあかさんよ  (佐佐木 幸綱)

それでもこの佐佐木幸綱さんの短歌のように、うまく序詞を使っている現代短歌もあります。
この歌の場合「買い来た砂時計の砂の落ちざま(のいさぎよさ)」が次の「いさぎよき」を引き出しているわけです。

序詞はなかなか簡単に取り入れるというわけにはいかないかもしれませんが、これもひとつの技法として挑戦してみたいものですね。


短歌の基本9 「掛詞と本歌取り」について
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