落ちる!
まどろみの中、誰かに囁かれたのに辛うじて気付いた。
世界には怨恨の淵など幾らでもある。どこかで呪いの言葉が編み出されたとは噂話に聞いていた。
今日中にターゲットを選び、そいつの耳に伝染さぬ限り、眠れば二度と醒めないらしい。
黙って引き受ける積もりもないが、さりとて誰かをつけ狙う気もしない。憎悪とはそんなものではないはずだ。
コンビニエンスストアでコーヒーのボトルとガムを一掴み、それに煙草ワンカートンとライターも買っておく。
夕焼けの残映に白い月が沈むのを待ち、コーヒーを飲んで煙草に火を点す。
虫すだく星空の下、いつまでもやみくもに意識を張り巡らせていると、ズン、かすかに浮き上がる。
そうではない。世界全体がわずかに落ちたのだ。
最後の一滴を苦み切った口に含む。両腕を天に伸ばして垂直に立ち、つま先で軽く跳ねてみる。
天秤の片方になって地球の重みを量っている。地の熱は冷め、露が吸い殻を湿らせ、
風がさらさらと草を鳴らし、東に暁闇の青が訪れる。
極限まで張りつめ、未知のフェイズへとダイブする。意を決し、心の梁を噛み砕いた。
経験したことのない睡魔が押し寄せ、星空と野の音は回転して遥か後ろに遠のいてゆく。